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■オープニング本文 ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 ※後継者の登場(不可) このシナリオではPCの子孫やその他縁者を登場させることはできません。 ●もふらがたり とある資料室――一人の青年が、過去の報告書を整理していた。 足元には暖房器具の中で宝珠が熱を発し、もふらが丸まって暖を取っている。 彼は眠そうな瞳をこすりながら紙資料の山をめくり、中に少しずつ目を通していく。 そこに記されているのは、遠い昔の出来事だ。 それはまだ嵐の壁が存在していて、儀と儀、地上と天空が隔てられていた時代の物語。アヤカシが暴れ狂い、神が世界をその手にしていた時代の終焉。神話時代が終わって訪れた、英雄時代の叙事詩。 開拓者――その名は廃されて久しく、彼らは既に創作世界の住人であった。 「何を調べてるもふ?」 膝の上へ顔を出してもふらが訊ねる。 彼が資料の内容を簡単に読み上げると、もふらはそれを知っているという。 「なにせぼくは、当時その場にいたもふ!」 そんな馬鹿なと彼は笑ったが、もふらはふふんと得意満面な笑みを浮かべ、彼の膝上へとよじ登る。 「いいもふか? 今から話すのはぼくとおまえだけの秘密もふ。実は……」 全ては物語となって過ぎ去っていく。 最後に今一度彼らのその後を紡ぎ、この物語を終わりとしよう。 ● 五年の月日が流れ、また一つの史実が生まれる‥。 アル=カマルの古代遺跡巡りをしていた吟遊詩人のロマラ・ホープ(iz0302)は、アガロの子孫ソルと再会することができた。 「ソルさん、五年振りですね。お会いできて、うれしいです」 ロマラが笑みを浮かべると、ソルは優しい顔付きになった。 「よく、この場所が分かったな。ここら辺は、特に遺跡とかはないぜ」 ソルは五年前、仲間たちと同行してしばらく旅をしていたが、二年前から辺境の村で一人暮らしをしていた。 「ケートさんから頼まれて、ソルさんに渡したいものがあったんですよ」 ロマラはそう言いながら、古惚けた杖をソルに手渡した。 「なんだ? これは‥‥?!」 ソルが杖を握り締めると、先端に付いていた蒼い宝石が淡い光に包まれた。 「まさか、これは‥アガロの杖か?!」 ソルは半信半疑であった。ロマラはうれしそうに言った。 「その杖は、ミデンの塔と呼ばれている古代遺跡で発見されたものです。開拓者さんのご協力もあって、五年前には見つかっていたのですが、どうしてソルさんに渡したくて、ここまで来てしまいました」 「そのためにずっと旅をしてきたのか?」 ソルの問いに、ロマラが微笑む。 「砂漠のガイドはずっと続けていますし、ケートさんからの頼みとあれば何年かかっても、ソルさんを見つけるつもりでいました。実はケートさん‥エセル君と三年前に婚約したんですよ。その報告もしたかったですし」 「ケートとエセルが婚約?! もうそんな年頃になったのか。それで結婚式はいつだ?」 「今年中には結婚すると聞きましたが、一緒にレド集落まで行きますか?」 ロマラがそう尋ねると、ソルは迷うことなく告げた。 「もちろん行くぜ。ケートたちには直接、伝えたいことがあるからな」 「それを聞いて安心しました。出発は‥」 そうロマラが言いかけると、ソルは部屋の中で荷物を纏め始めていた。 「明日だ。少しでも早く、ケート達に会いたいからな」 「分かりました。そうしましょう」 ロマラはソルが積極的になったことを心底、喜んでいた。 ● レド集落。 昼下がり、ケートは族長の部屋に珈琲と菓子を持って、姿を現した。 今は少女ではなく、すっかり大人の女性だ。 「エセル、少しは休憩してちょうだい」 「いつもすまない、ケートさん」 エセルは手帳に雑務内容を書いていたが、ペンを卓の上に置いて、顔をあげた。 いつしか少年は、精悍な青年になっていた。 「ふう、美味しいね」 珈琲を一口飲むと、エセルは満悦の笑みを浮かべる。 その微笑みは、まだ少年を思わせるものがあったが、ケートから見れば可愛い表情であった。 それがうれしくて、ケートも釣られて笑い返す。 「ふふ、いつになったら呼び捨て、してくれるのかなー」 「そ、それは‥えと‥まあ、いずれ」 戸惑うエセルに、ケートはとびっきりの笑みを見せた。 「気長に待つよ。これからは、ずっと一緒だしね」 ケートの直球な言葉に、エセルは何も言い返すことができなかった。 ● ラファ集落。 魔術師レヒトを団長に、調査員が百人ほど『ミデンの塔』の発掘作業をしていた。 年々、瘴気が減ってきたのか、集落にアヤカシが出没することも減り、最近は巨大サソリが出る程度だった。 警護のベドウィンたちでも、勝てる相手ばかりで、時折、乱闘もあるが、それも日が経つにつれ、減ってきていた。 そんなある日のこと。 一般人の調査員たちでは持ち上がらない岩盤が出現した。 ベドウィンたちも術を使ってみたが、なかなか壊れない。よほどの強度なのだろう。 岩盤を破壊するため、レヒトはジンを持つ者たちを募集することにした。 「我こそはと思う者は、ぜひ参加してほしい。それから『ミデンの手記』の解読にも協力してくれ」 五年前に発見された書物は、ほぼ解読されていたが、あと二つ、解読できていない箇所があった。 岩盤を壊すことができれば、さらに通路が見つかるかもしれない。 それを信じて、調査団は来る日も来る日も発掘に明け暮れていた。 とは言え、腹が減っては調査も進まない。 朝、昼はレド集落から定期便の行商隊がやってきて、調査員たちに食材や日常品を売っていた。 行商隊には、夫婦で参加している者たちもいるのか、休憩時間になると、オアシスの前で中央に浮かぶミデンの塔を見上げて、何かを祈ることもあった。 さて、その願いとは‥‥? 貴方なら、何を願うだろうか。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
无(ib1198)
18歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
星芒(ib9755)
17歳・女・武 |
■リプレイ本文 天儀歴1020年、新たな未開の儀が発見された頃‥。 アル=カマルのラファ集落にて、古代遺跡『ミデンの塔』では発掘作業が続いていた。 この五年間、定期的に調査に参加していた无(ib1198)は、調査団のメンバーたちとは馴染みになっていた。 団長のレヒトは、无には頼ることが多かった。 「ミデンの手記も、残すところ未解読が二つ‥ミデンとラファ、アガロに関わるものは発見されましたが、レドとバドル関連のものが、なかなか見つかりませんね」 ミデンの居た地に、アガロの杖があったならば、レドとバドルに関するものがあっても不思議ではない。 「ここ最近は掘れば掘るほど、岩盤が固くなってきましたねぇ」 軽く岩盤を叩きながら无が言うと、レヒトが待ってましたと言わんばかりの顔をしていた。 「そう思って、ジンを持つ者を募集してみた。そろそろ来る頃じゃろう」 昼過ぎ‥姿を現したのは、天河 ふしぎ(ia1037)、羅喉丸(ia0347)、笹倉 靖(ib6125)だった。 天河は空賊の指導者として冒険の日々を送っていたが、今回はレドの壺が気にかかり、一人でラファ集落を訪れ、他の開拓者と合流した。 「昔、レドの壺を発見したことがあるんだけど、ラファの夫がミデンと聞いて気になってさ」 「レドの壺か。見つけた後、どうなったんだ?」 羅喉丸の問いに、天河は考え込むように両腕を組んだ。 「えーっと、確か‥エセルという少年がレド族の長になれるか否かの試練で、一つ発見に成功したけど、もう一つあったような?」 「二つ目の壺は、まだどこかにあるってことか?」 靖は天儀に定着しながら、開拓者として岩盤を壊す作業の手伝いに来ていた。 无が言う。 「新たな通路が見つかれば、何か判明するかもしれません」 「そうだな。まずは岩盤、壊しちまおうぜ。物理でも知覚攻撃でも、どっちでも援護できる術、あるからな」 靖の言葉に、羅喉丸が皆に告げた。 「俺は詩経黄天麟という技を使って奥義で壊してみるな。かなりの負荷が体にかかるから使った後は気絶してしまうが、心配しないでくれ」 「んじゃ、俺が術で援護するぜ」 周囲が見守る中、靖は『神楽舞「武」』を力強く舞った。攻撃体勢に入った羅喉丸は『破軍』を使い『詩経黄天麟』を発動させ、周辺から衝撃波が迸り、奥義『真武両儀拳』を繰り出した。 凄まじい音と共に岩盤が砕け散り、破片は砂のように崩れ落ちていく。 刹那、羅喉丸は全ての力を出し切って倒れ込んだ。すぐさま調査員たちが駆け寄り、羅喉丸を四人で抱えながら天幕へと運んでいく。 岩盤は破壊されて新たな通路ができたが、少し進むと行き止まりになった。 「これもさっき見た岩盤と似たような固さだな」 靖が軽く拳で叩くと、甲高い音が響く。周辺の壁は宝珠で作られていたこともあり淡く輝いていたが、岩盤には輝きはなく、漆黒のような色合いをしていた。 「この調子だと、いろんな岩盤が出てきそうだね」 天河はそう言った後、『超越聴覚』を使い、奥の音に気がついた。 「風が吹く音が微かに聴こえるよ。砂漠の地下に空洞でもあるのかな」 「それは興味深いですね。ですが、今いる通路は狭いですから、大技を使うと天井まで破壊される恐れもありますね」 无は今まで見つかった通路を地図に書き残していた。 「岩盤だけ狙ってみるか」 靖は『神楽舞「心」』を舞い、『精霊砲』を岩盤に向って放った。黒い石が飛び散り、前方の岩盤が破壊されると、その先に洞窟があった。 「結構、広い場所だな」 靖にも風が吹く音が聴こえてきたが、外部の隙間から風と共に砂も舞い上がっている箇所があった。 「ここなら、大技も使えそうだね」 天河は少年のように目を輝かせながら、探索に夢中であった。 先に何があるのか‥こういう瞬間が、天河にとっては大切な『刻』だった。 「そうですね。おおよその見立てでは、高さ30メートルといったところでしょうか」 无は『複目符』で小動物の式を呼び出し、調査に没頭していた。 ● その頃。 少し遅れて、星芒(ib9755)がラファ集落に到着した。 ここに来る前、レド集落に寄り、事情を話してケートとエセルを連れて来ていたのだ。 道中、 ロマラ・ホープ(iz0302)とソルとも出会い、気がつけば、クロウ・カルガギラ(ib6817)の姿もあった。 「ロマラさん、みんな、久し振りだね。五年振りになるのかな」 クロウとの再会に、一同は喜びを隠せなかった。 「本当に、またお会いできるとは光栄です」 ロマラがクロウの手を握り締める。 「元気そうで良かったよ。ケートさんとエセルさんは婚約したんだってね。おめでとう」 「あ、ありがとう‥改めて言われると照れるね」 ケートが恥ずかしそうに言うと、エセルが御辞儀する。 「クロウさんのことは、ケートさんやロマラさんから話を聞いてました。いろいろと助けて下さって、ありがとうございます」 出会ったばかりの頃は少年であったが、エセルは今や青年となっていた。 「エセルさん、立派になったね。俺の相方はジルべリア人だから、普段はそっちに居ることが多いけど、相変わらず開拓者は続けているよ」 「僕はようやく正式にレド集落の族長になったけど、一つやり残していたことがあるんです」 エセルがそう言うと、星芒がクロウとソルに事情を話し始めた。 「レド族の正式な儀式として二つ目の『レドの壺』が必要なんだって。それで、そこまで辿りつくには、ソルさんが持っている『アガロの杖』も重要な気がしてね。もしかしたら、最後の鍵は『アガロの杖』かも」 家族や子孫の幸せを願っていたラファとミデン。 星芒は、ラファたちの願いを叶えてあげたいと思い、この地にやってきたのだ。 「そういうことなら、もちろん俺も協力するさ。星芒さんの推測通りなら、確かにエセルさんとソルさんの協力も大事だよな」 クロウもまた、古代の伝承を知ることに興味があった。 古の時代だけでなく、クロウたちが開拓者として生きた時代は後世、どのように子孫たちに伝えられていくのだろう。 今後、アル=カマルの地や人々の暮らしも少しずつ変化していくに違いない。 それはうれしいことでもあるが、どこか一抹の寂しさも内包しているような気がした。 それでも、クロウが愛した世界は、後世に残るはずだ。ならば、これほど喜ばしいことはない。 ● 翌日の朝方。 天幕の中で休んでいた羅喉丸は、毛布を被ったまま横になっていた。 自分にとって『武』とは何か。 上級アヤカシに対抗するために身に付けた技の数々。 少し前までは敵を粉砕するだけの力が、今では別の手段で他人の役に立つことができることを身をもって知った羅喉丸は、うれしさで心が満たされていた。 武を以て侠をなす事。 力が諸刃の剣でもあることを羅喉丸は知っていた。 自分の進むべき道は、自らが積み上げてきた力を、他人のために役立てること。 困っている者がいたら助けるのは彼の生き様でもあったが、それにはやはり『巡り会い』があったからだろう。 昼食の後、一休みしてから作業は再開された。 羅喉丸は睡眠を取ったことで気力も回復して起き上がれるようになり、仲間の護衛に加わることになった。 「みんな、久し振り〜☆」 星芒はケートやクロウたちと一緒に来ていた。 「ん? もしかして、ケートか?」 靖は一瞬、目の前に来た女性が誰かと思っていたが、よく見るとケートだった。 ケートは静々と歩いてきて、挨拶する。 「皆さん、お久し振りです」 「おう、随分とまあ‥なんつーか‥」 思うように言葉が見つからない靖は、ケートの予想以上の成長に少し驚いていた。 星芒は『ミデンの手記』を持っていた无に、自分の憶測を話すことにした。 「五年前、本物の品を見つけるのに、ケートちゃんが付けたティアロの髪飾りが必要だったよね。もしかしたら、レドの壺がある場所まで辿り着くのに、ソルさんが持っているアガロの杖が必要なんだと思う。エセル君はレドの壺を集落に持ち返るのが使命で、それで連れてきたんだ」 「そうでしたか。これで繋がるかもしれませんね。岩盤は壊せても、肝心の人物がいなければ、本物まで辿り着けない訳ですよ」 无は昨日の調査で『月の印』を見つけていたが、それはレドの紋章だったのだ。 印が『レドの紋章』だと分かったのは、天河が数年前の依頼で見たことがあったからだ。 「あの時に参加した依頼が、今回も役に立つなんて、偶然というより必然という感じだね」 冒険好きな天河は『これぞまさに運命』というものを実感していた。 「それで、まだ岩盤が邪魔してるとか?」 クロウが言うと、靖が気を取り直して応えた。 「ああ、岩盤を壊して少し進むと、また別の岩盤が出てきてな」 「そっか。なら、辿り着くまで、俺達が岩盤を壊して進めば良いだけだよな」 クロウの前向きな言葉に、同行していたケートが「そうだね」と元気な笑みを浮かべた。 彼女の表情を見て、靖は大切な想いが沸き起こった。 どんなに善人であろうと、瞳に躍動力が無ければ手を貸す気にはなれないが、 どれほど屑と呼ばれようとも、向上心のある者には手を差し伸べる‥。 出会ったばかりの頃、ケートは消えそうな顔をしていたが、どこか『生きたい』という瞳をしていた。 靖には、そういう姿勢こそが重要な試金石でもあったのだ。 あの頃、周囲の者たちに軽蔑されていても、ケートは必死に生きようとしていた。 無理に笑いながらも、祭りでは共に舞をしたケート‥そんな彼女が歪んだ伝承にも負けず、生きようとしていた。 そして、ついには仲間たちの協力もあって、伝承の真実も少しずつ明らかになった。 今回の発掘で、レドの壺が見つかれば、エセルもさらに自信を持つことになるだろう。 そんなことを思いつつも、靖は何事もなかったかのように笑う。 「さてっと、やることやったら、レド集落にも顔出しするかねえ」 「洞窟には隠し扉はなかったけど、高さ30メートル前後の岩盤があってさ。これを壊してみたら、先へ進めたりして」 天河は洞窟に辿り着くと、武器を構えた。 「砕けろぉぉぉぉーっ!」 叫びながら、『天歌流星斬』を繰り出す天河。岩盤は直線に飛翔した天河の技で、粉砕され、砂埃が舞った。 辺りが見え始めると、破壊された岩盤の先に新たな通路が見つかった。 「まだ洞窟内部か‥通路もかなり広いな」 クロウを先頭に先へと進むと、また岩盤が行く手を阻む。 「広い空間だけど、念の為、俺から離れてて」 仲間たちが後衛へと下がると、クロウは魔槍砲「アールレイ」に『ヒートバレット』を施して攻撃力を増加させると、岩盤に突き刺して『セフル・ザイール』を放った。 接触した部分から熱気が帯びたかと思うと、轟音と共に岩盤が粉々に砕け散った。 「通路が狭くなってきたな。ここから先、また岩盤があったら知覚攻撃の方が良いかもな」 クロウは魔槍砲を持ったまま進むことはできたが、予備の曲刀も携帯することにした。 ● 二時間ほど進むと、蒼い岩盤に突き当たった。 「ここは私が‥」 无の奥義『十六夜』が発動すると、岩盤が砂のように崩れ去り、跡形もなくなっていた。 万が一に備え、星芒は『雨絲煙柳』を唱えて、先へと進む。 「人の手で作られたような地下室だね。レドの紋章も壁に描かれてる」 星芒が言うと、天河は思い出したように答えた。 「ここ、見覚えがある。もう少し進むと台座があって、その上にレドの壺があったはず」 天河に促されて、開拓者たちはついに台座まで辿りついた。 「これです。一つ目の壺と似ています」 エセルが壺に触れるが、固定されているのか動かすことができない。 それを見て、ソルがアガロの杖を台座の窪みに入れる。 「言い伝え通りなら、これで動かせるはずだ」 緊張気味にソルが言うと、エセルはゆっくりとレドの壺を持ち上げることができた。 「良かった‥皆さんのおかげで、壺を持ち帰ることができます」 エセルが涙ぐむと、ケートがそっと壺に触れる。 「これがレドの壺なのね」 そう言った途端、壺が七色に輝き、共鳴するようにアガロの杖も輝きはじめた。 「まさか‥ミデンは‥」 ソルは身体を震わせていた。 「どうかしましたか?」 无が声をかけると、ソルは恐る恐る告げた。 「‥ミデンは‥弟アガロを‥許していた‥その証拠に、杖も輝いている‥」 「ようやくミデンの想いがアガロに伝わったんだね。これって、子孫たちが互いに協力しないと取り出せない仕掛けだよね」 星芒がうれしそうに微笑む。 時間はかかったが、ようやくラファとミデンの願いが現実となったのだ。 この瞬間に立ち会えて、星芒は秘められていた謎というのは、とても温もりがあるように感じていた。 遺跡の外に出た頃には、夕方になっていた。 オアシスの前では、祈りを捧げている人々がいた。 天河は仲間への土産話になればと発掘に協力していたが、ミデンの塔を見上げ、こう願った。 (これからも大切な仲間達と一緒に、新しい世界を‥不思議の先にある物を見つけたい!) その想いは、やがて叶うであろう。何故なら、天河は願いを実現するだけの行動力があるからだ。 他にも、祈りを捧げていた者がいた。 无だ。 (この地の歴史が解かれ、子孫の呪縛とならぬように‥) その願いは、すでに叶えられていた。 レドの壺が見つかり、エセルが持ち帰ることになったからだ。 ● 最終日。 開拓者たちはレド集落へと向い、族長宅でケートとエセルの婚約祝いをすることにした。 「2人とも、おめでとうございます」 无は外套留めの龍花に触れながら、ケート、エセル、ソルの姿に、伝承に登場する人々を重ね合わせていた。 数百年前の人々の想いは、今でも続いている。 クロウも、和気藹藹するケートたちを見て、安堵していた。 「ソルさんも、笑うようになったな」 「俺は過去のソルさんは知らないが、確かに良い笑顔だな」 羅喉丸は互いに協力して、ここに居ることに感謝していた。 「まあ、ソルもいろいろあったからなあ」 靖はそう言いながらも、ケートは心も強くなったなと心底うれしそうに笑っていた。 「ケートちゃんたちのこと、ラファとミデンが見たら喜びそうだね☆」 星芒はそう言って、ケートたちと一緒に料理を食べ始めた。 天河とロマラも呼ばれ、皆と楽しい宴を繰り広げていた。 エセルは隣にいる靖に、小声で言われた。 「‥言わなくても伝わるが、言われた方がうれしいのは男も女も一緒だぞ」 「え?!」 図星だったのか、エセルは慌てていた。 ● とある文献の後記に、无が記したものがあった。 『砂漠の吟遊詩人は唄う。 未知と既知は循環する。 無から有が産み出されるように、すべては輪のように巡る。 歴史はどこから始まり、どこへと向うのか。 それこそ、未来への智と想いの循環である』 |