ミデンの伝承
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/22 04:59



■オープニング本文

 アル=カマル、レド集落。
 昼間、日除けに天幕を張り、市場から人々の声が響く。
 見習い巫女のケートは、広場で子供たちに一冊の書物を読み聞かせていた。
 ラファ伝記。
 その話には続きがあったのだ。

「ミデンは、ラファと子供のために、そしてレドのために、大きな建物を作りました。
もし、誰かが伝承を知りたいと願った時、その建物が後世に残るように。
故郷を守るため、ミデンは『鏡』をオアシスに沈めて、建物を地下に封印しました。
それから数百年経ち、ラファの鏡が発見されました。
三日月の夜、巫女ラファの血を引く者が鏡をオアシスに投げ込むと、封印が解けて、
古代遺跡が地上に現れました。
その遺跡こそ、ミデンが残した遺産だったのです」

 ケートはそこまで読むと、本を閉じた。
「今日はここまで。続きは、まだ内緒だよ」
「そう言われると気になるな。教えてよ」
 子供たちが周囲に集まり、ケートの服を軽く引っ張ったが、彼女は微笑んでいた。
「だって、その遺跡はまだ調査中だからね。今まさに、現在進行形ってやつ」
「えー、マジかよ。その遺跡、どこにあるの?」
 男の子が尋ねると、ケートは少し躊躇いがちに応えた。
「‥‥ラファ集落だよ」
「ホント?! ラファって、レドのお姉さんだよね。それじゃ、ケートお姉ちゃんと俺達、遠い親戚みたいなもんかな」
「え? そういうことになるのかな?」
 ケートは驚いた。子供たちの意外な反応に。
「そうだよ。わたし達はレドの一族で、ケートお姉ちゃんはラファの一族でしょ。だから、親戚!」
 十歳前後の少女が、無邪気に言う。
 その言葉に、ケートはうれしくて涙ぐんでいた。
「ありがとう。アタイたち、親戚‥で、良いんだね」
「良いに決まってるだろ! 俺達は親戚で友人だ!」
 男の子が得意げに胸を張る。
 それを聞いて、女の子がケートに言った。
「えと、ケートお姉ちゃん、大人になったら、エセル族長と結婚するの?」
「えぇぇぇぇぇっ?! いきなり何、言ってるの! そんな訳、ないよー」
 ケートは慌てているが、子供たちは興味津々だ。
「だってさ、最近、ケートお姉ちゃんとエセル族長って仲が良いな〜っと思ってさ。この間だって、一緒に買い物、行ってたじゃん」
「アタイは居候だから、手伝いくらいするよ。考え過ぎだよ!」
 そう告げるケートに、女の子が腕を組みながら断言した。
「恋って言うのは、考えるんじゃなくて、感じることだよ」
「おおおっ、なるほど。そういうことか」
 他の子供たちが感心したように互いに顔を見合わせていた。
「もう、遺跡の話してたのに、なんで、こんな展開に‥‥」
 ケートは困ったような顔をしながらも、まんざらでもないようだった。



 ラファ集落にある『ミデンの塔』には、調査団が百人近く集まり、ベドウィンたちが周辺を警護していた。
 調査員のほとんどは一般人で、ジンを持つ者もいるが探索専門が数名いる程度だ。
 古代遺跡は、いつのまにやら愛称で呼ばれるようになっていたが、正式な名前は不明だ。
 だが、ミデンの墓付近に古代遺跡が現れたこともあり、調査対象として『ミデンの塔』という名前が付けられたようだ。
 団長はレヒトという魔術師で、先月から遺跡の奥で籠りっきりになっていた。
「ようやく見つけたぞ」
 奥の間に描かれていた壁画を隅から隅まで調べて、ある仮説に辿り着いた。
「月が消えている間、髪飾りを『印』に付けよ」
 レヒトは壁画の人物像が『髪飾り』を『印』らしきものに捧げていることに気付いた。
「髪飾りは、ケート嬢が持っている『ティアロの髪飾り』である可能性は高い。『印』はミデンの紋章かもしれぬな。さて、月が消えている間‥というのは、いろんな解釈ができるのう。とは言え、こういうのは意外とシンプルな意味であることも‥となると、一日で月が消えている間というのは『朝から夕方まで』とも考えられるの。そうじゃ、まずは何事も試してみるのが一番じゃ!」
 レヒトの長い独り言は、いつしか調査員たちの耳にも入った。
 それが噂になり、吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)はケートがアヤカシに狙われないように『ティアロの髪飾り』は自分が持つと言い出した。
「レヒトさん、まずは私が髪飾りを『印』に捧げてみます。ラファ族でなくても、できるかどうか、やってみましょう」
「そうじゃのう。ケート嬢でなくても隠し扉が開くなら、その方が有難いしのう」
 レヒトはそう言いながら、ロマラを奥の間の西側に描かれている『印』の所まで案内していく。
「‥‥捧げる‥‥付ける‥ですか」
 ロマラはレヒトから聞いた仮説を頼りに、『印』の辺りに『ティアロの髪飾り』を直接、付けてみた。
 髪飾りが『印』に直に触れた途端、鍵が開く音がして、人が通れるほどの通路が開いた。
 それを見て、レヒトが歓喜の声をあげる。
「まさしく、隠し扉が開く瞬間を見たぞ! さて、この先の通路はどこへ繋がっているのか、調べてみたいもんじゃのう」
 と言いつつも、すでに通路に入るレヒト。ロマラは髪飾りを持ったまま、後に続く。
 遺跡全体の壁は宝珠で出来ており、常に淡い光が輝いていた。
 一時間ほど歩くと、部屋のような場所に出た。
 蓋の開いた棺が二つあり、その中には眠ったような表情の人形が入っていた。
 右は少女、左は少年の姿だ。
「からくり?」
 ロマラは何か違和感を覚えた。
 確かに古代遺跡には『からくり』が発見されることも稀にあるが、二体もあるのはどことなく疑問に思えた。
「双子のようにも見えるのう。からくりだとしたら、ギルドに報告した方が良いじゃろう」
 レヒトが棺に近づこうとした時、人形の目が開き、正体不明の攻撃に襲われ、体内から破壊される感触がした。
「ぬぅっ‥」
 攻撃を受けたレヒトは、ようやく気が付いた。
「人形兵じゃ。他にもいるかもしれぬ」
「レヒトさん、しっかり! まずは態勢を整えましょう」
 ロマラはレヒトを庇うように部屋から出ると、通路にも蜘蛛の姿をした人形兵がいることに気付き、まずはこの場から逃げることを優先した。怪我をしたレヒトは闘うことができない。
 ロマラはレヒトを抱えて、通路を駆け抜けると、奥の間に辿り着いた。人形兵たちが出てこられないように、『印』に髪飾りを掲げると隠し扉が閉じられた。
「まさか、‥‥男性に御姫さま抱っこされるとはのう」
 レヒトは胸の痛みを堪えながら、立ち上がった。
「それくらい冗談が言えるなら大丈夫ですね」
 ロマラが安堵したのも束の間、レヒトは倒れてしまった。
「レヒトさん!」
「‥‥ワシは、もう‥‥」
 そう言って、レヒトは眠りに落ちた。連日の調査で疲れもあったのだろう。
 怪我はしていたものの、疲労で倒れたらしい。
 調査員たちがレヒトを外にある天幕へと運び、しばらく看病することになった。
 そして、ロマラはギルドに依頼を出すことにした。
 古代遺跡の奥にある『真実』を知るために‥‥。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
无(ib1198
18歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
星芒(ib9755
17歳・女・武


■リプレイ本文

 アル=カマル、ラファ集落。
 古代遺跡『ミデンの塔』に隠された謎を明らかにするため、開拓者たちが集まった。
「あのね、ロマラさん。ケートちゃんのことだけど、連れて来ちゃった」
 星芒(ib9755)が微笑みながら言うと、ケートはロマラ・ホープ(iz0302)に突っかかった。
「アタイだって、役に立つと思うよ」
「ですが、ケートさんに何かあったらと思うと‥」
 ロマラがそう言いかけると、クロウ・カルガギラ(ib6817)がケートを宥めるように間に入った。
「まあまあ、ロマラさんはケートさんのことが心配だっただけさ。でもさ、ラファ族の末裔であるケートさんが『印』を捧げたら、違うことが起きるかもしれない。隠し扉は開け閉めできるのは良いけど、人形兵に攻撃されたっていうのも気になるしな」
 クロウの言うことも一理ある。ロマラが考え込んでいると、星芒が顔を覗かせた。
「遺跡の奥にあった部屋で、ケートちゃんがティアロの髪飾りを付けたら、ラファ族の末裔が来たってことが証明されて、もしかしたら何か分かるかもしれないよ☆」
「確かに、その可能性はありますね」
 ロマラはそう言いつつも、まだ迷っているようだ。
「無理を承知で申し訳ありませんが、遺跡に入る前に『ラファ伝記』や今までの調査結果について知りたいのですが、よろしいでしょうか?」
 伝承に興味がある无(ib1198)が声をかけると、ケートが駆け寄ってきた。
「ラファ伝記なら持ってるから、期間中は貸出できるよ。依頼が終わったらアタイが持って帰るから」
「ケート、良いのか?」
 笹倉 靖(ib6125)は普段と変わらず笑みを見せる。
「良いって、何が?」
 ケートが首を傾げると、靖がこう告げた。
「遺跡の奥には少年と少女の姿をした人形がいたらしいぜ。ラファとミデンを模した恋人とか言われているようだが‥‥んー、なんだか、ここの主とは気ぃ合いそうだ」
「え? どういう意味?」
 ケートが尋ねても、靖は話を逸らすような物言いだった。
「人形に見惚れ過ぎるなよ、ケイウス」
 靖の言葉に、ケイウス=アルカーム(ib7387)が言い返す。
「まだ実物は見てないし、油断もしないから大丈夫だよ!」
「ホントかねぇ」
 靖が楽しげに笑うと、ケイウスは少しムキになっていた。
「だから大丈夫だってば!」
 二人がそんな遣り取りをしている間、无はケートから借りたラファ伝記を読み耽っていた。
 ミデンは何を残したのか‥羅喉丸(ia0347)もそのことが知りたくて、調査員たちに聞き込みをしていた。
「遺跡の壁は宝珠で作られているから灯は必要ないのか。だとしたら、宝珠を持ち出すのはご法度だな」
 遺跡の宝珠を持ち出すことは禁止になっていることが判明した。
「ここまでの作りをしているのなら、ミデンにとって大切なものが数百年も眠っているんだろうな」
 過去に居た人を思い、羅喉丸は『ミデンの塔』を見上げた。



「ラファ伝記には『遺跡に番人を残した』という記述がありましたが、人形兵のことでしょうね。隠し扉は『印』さえあれば誰でも開け閉めができる構造らしいです」
 无は調べたことを仲間に告げた。
「他に気になる箇所がありました。『本物は子孫のみ、見つけることができる』‥ミデン関連の遺跡では、重要な品がある場合は子孫がいるか否かで発見できるものが違う可能性もあります」
 そう言いながら、无は書物を閉じるとケートに手渡した。
「あたしとクロウさんの読みが当っているなら、奥の部屋にある『本物の品』はケートちゃんがいれば見つかるとも考えられるよね」
 星芒は遺跡探索ができることを楽しみにしていたのだ。
「とは言え、このままだと調査も進まなくなる恐れもあるから、調査員たちが危険な目に遭う前に人形兵は全て排除した方が良いよな」
 クロウが言うと、羅喉丸が心強く頷く。
「団長のレヒトさんはラバーズと対峙した瞬間、何かに攻撃された感触があったらしい。物理攻撃ではないようだから、武具や術で抵抗を上げた方が良いだろうな」
「それなら任せてよ。俺は皆の援護に徹するからね」
 ケイウスの言葉に、ロマラは頼もしさを感じた。
「私は隠し扉の出入り口で待機しています」
 星芒の頼みもあり、ロマラはケートと一緒に隠し扉の前で待つことにした。
「ケートちゃんが中へ入るのは、人形兵を全部倒してからにするね」
 万が一、人形兵が外へ飛び出そうとしたらロマラが扉を閉めることになった。
「ありがとう。みんな、気を付けて」
 ケートが仲間たちを見送る。隠し扉が開くと、開拓者たちは慎重に中へと入った。



 20分ほど通路を進むと、『超越聴覚』を使っていたケイウスが立ち止った。
「壁と天井から微かに歩く音が聴こえるよ」
「おいでなすったな」
 靖は接近戦に備えてナイフ「リッパー」を装備していたが、ケイウスと連携して支援優先で戦闘体勢に入った。その途端、クナイが飛んできたが、靖はとっさに回避する。天井に張り付いた蜘蛛人形たちは、鎖分銅で靖とケイウスを拘束しようとするが、靖は軽やかに避け、ケイウスも敵の動きを読んでいたように回避に成功‥二人は互いに顔を見合わせ、中衛の位置へと下がる。
 そのおかげで敵の位置を確認できた羅喉丸は、『気功波』を放ち『瞬脚』で一気にスパイダーに駆け寄ると、魔剣「レーヴァテイン」で切り裂いていく。粉々になった蜘蛛人形は天井から落下‥逃走しようとする蜘蛛人形もいたが、无は『十六夜』を唱え、魔刀「エペタム」を蜘蛛の関節部分に投げつけた。
「やはり脆いようですね」
 蜘蛛人形の脚が引き千切られたが、他にも外へと逃げ去ろうとする蜘蛛がいた。
「外へ出られないようにしてやる」
 クロウが宝珠銃「ネルガル」で注意を引きつけるように『ウィマラサース』を発動させて狙い撃つ。蜘蛛人形は身体を撃ち抜かれて動きが遅くなるが、さらに外へと出ようとする蜘蛛を見つけて、星芒が攻撃を仕掛ける。
 事前に隠し扉は閉められており、蜘蛛は扉の前で不規則に動き回っていた。
「袋の鼠‥じゃなかった蜘蛛だね!」
 星芒は『宝蔵院』を駆使して巧みに打ち込み、蜘蛛の脚が飛び散ったかと思うと、衝撃で身体も砕けていた。
 見れば、扉の前にいた蜘蛛人形の破片だけが残っていた。
 无は『瘴気回収』を使って練力を回復してみたが、遺跡内部の瘴気は一般的な生活空間と、それほど変わらないことが分かった。
「アヤカシではなく、人形兵が番人なのは、瘴気が思ったより少ないからでしょうねぇ」
「まだ部屋の奥に人形兵がいるはずだから、扉は閉めたままで行くか」
 靖がそう言うと、皆はさらに通路を奥へと進むことにした。



 奥の部屋に辿り着くと、二つの棺が並んでいたが、その中には人形の姿はなかった。
 警戒していたケイウスは『天鵞絨の逢引』の曲を詩聖の竪琴で弾き、仲間たちの知覚と抵抗を上昇させた。
 棺の後ろに設置されていた石碑の陰から、少年と少女の姿をした人形兵‥ラバーズが現れた。
 恋人とも呼ばれている人形兵が二体‥無表情に開拓者を見るだけで、何故か攻撃をしかけてこない。
 クロウは話が通じるかどうか確かめるため、話しかけてみた。
「ラファの子孫なら、連れて来た。まだ遺跡の外にいるが、会いたいなら会わせるぞ?」
 沈黙が続く。
 ‥‥人形兵たちは何も言わない。
 皆が様子を伺っている間、人形兵は正体不明の攻撃をしかけていたのだが、抵抗を上昇させていた開拓者たちは軽い痛みを感じたり、体内が少しチリチリとした感覚を受けただけで、ダメージはほとんどなかったのだ。
 星芒も『雨絲煙柳』を唱えていたこともあり、怪我はしていなかった。
「これって侵入者を試すのが目的なのかも。ミデンは試練を与えて、それを超えることができれば、次のステップへと繋がる何かがあるとか?」
「試練か‥ならば、俺は人形兵を一体、完全に破壊できるかどうか、やってみる」
 羅喉丸は少女人形と目が合うが、外見に惑わされることもなく、落ち着いた物腰で『瞬脚』で接近すると、すかさず『真武両儀拳』を繰り出した。命中した部分に気が流れ込み、人形兵は内部から破壊され、原型も分からないほど砕け散った。それでも少年人形は顔色一つ変えない。
「私たちなら無事でも、一般人たちが攻撃されたら一大事ですね‥残りの人形兵はできるだけ破壊せずに、戦闘不能にしてみましょう」
 无は『十六夜』を発動させ、非物理攻撃で人形兵に狙いを定めた。腹部に命中して、少年の人形兵が倒れ込む。両肩が外れ、右脚が間接部分から割れてしまったが、ほぼ原形をとどめたまま、少年人形は動かなくなってしまった。
 棺の横に蓋があることに気付いた星芒は、蓋の裏側に描かれている絵を発見した。
「みんな、見て。人形を棺に入れて蓋をしている絵があるよ。この通りにやってみよう」
「そうだな。要は人形兵そのものだったのかもなぁ」
 靖が少女人形の残骸を棺に入れて、ケイウスが少年人形を抱えて左側の棺に入れた。
「それにしても綺麗だなぁ‥少年の顔は破壊されてないし、眠っているだけにしか見えないよ」
「よし、蓋をしてみよう☆」
 星芒が右側の棺に蓋を置き、羅喉丸が左側の棺に蓋を置いた。しばらくすると、壁際の石碑が左へと動いた。
 その箇所を見ると、地下室へと繋がる階段があった。



 翌日。
 開拓者たちはケートとロマラを連れて、遺跡の奥にある地下室へと入った。
「ケートちゃん、やってみて」
 星芒に促されて、ケートが部屋の中央で『ティアロの髪飾り』を付けた。淡い光に包まれ、徐々にケートの周囲が七色の光を発するようになった。
「何か音がしましたね」
 无が辺りを見渡すと、西側の壁に台座があり、その上に書物と古ぼけた杖が置かれていた。
「これが本物なら、ケートさんが持った方が良いよね」
 クロウの指摘に、ケートは恐る恐る書物と杖を手に持った。その瞬間、台座が崩れるように壊れていく。
「なんだろう? 間違ってたのかな?」
 ケートが不安そうに言うと、无の『複目符』により小動物の姿をした式が出現して、地下室を隅から隅まで調べていた。
 式が消えた頃、无が確信したように告げた。
「ケートを、ここに連れてきたのは正解でしたね。本物の品は『ミデンの手記』と『アガロの杖』です。崩れた台座の下には文字が書かれていましたが、ミデンからラファへのメッセージ‥所謂、恋文の類でしたよ」
 人の想いが時を超えて伝わっていく‥それを間近で見た无は歴史の奥深さと共に、浪漫さえも感じていた。
「ケートもミデンを見習って、エセルに恋文でも送ってみたらいかがでしょう」
 いたずらっぽい笑みを浮かべて无が言うと、ケートは慌てていた。
「そ、そんな恥ずかしいこと、できないよー」
「だったら、直接、言っちまえよ」
 そう告げたのは靖だ。ケートは赤面してジタバタ走り回りながらも、しっかりと書物と杖を抱えていた。
 靖もまた、自分の予想が遺跡に入る手掛かりだと分かり、安堵していた。
「やっぱり思った通り、ラファの子孫だけがお宝に触れる仕組みだった訳か。もし、知らずにケート以外の者が触れたら罠が作動していたかもしれねぇな。ラファ族とレド族との間にあった確執を無くそうと、ミデンは書物と杖を残したのかもな」
「アガロの杖があるってことは、ミデンは弟アガロのことも大切に思っていたんだね。それを知ったら、ソルも喜ぶだろうな」
 ケイウスは、アガロの子孫であるソルのことを思い出して、今頃、彼はどこにいるのだろうかと目を細めた。
「それにしても、この地下室、地上だとどの辺りかな?」
 星芒は調査して目に入ったものを全て手帳に綴っていた。
 ロマラは上を見上げて、驚いた。
「天井にミデンの紋章が描かれています。しかもティアロという文字も‥もしかしたら、ティアロ遺跡に近い場所かもしれません」
「ティアロ遺跡は、髪飾りがあった場所だったよな。ミデンの子供に対する想いに溢れているな」
 羅喉丸は思った。ミデンは妻のラファはもちろん、兄弟や子供も大切にしていたに違いないと。
「人は古の時代から誰かを愛して、やがて子供が生まれて、命が育まれていく‥そうやって、俺も生きてきたのかもしれない」
 一人ではない。羅喉丸が『今』生きているのも、様々な人達と関わりがあったからだ。
「この場にいられるのが奇跡のようだ。俺をここまで導いてくれたのは、家族たちのおかげだ。ミデンもきっと、当時は俺と似たような想いを持っていたのかもな‥」
 クロウは育ててくれた家族たちに感謝し、その気持ちで満たされていくのを実感した。


  帰り際、ケイウスは地下室にあった石碑を眺めていた。
「‥‥棺は静かに眠らせておけ、か」
 そう呟くと、人形兵たちをそっとしておいた方が良いと思ったケイウスは、棺の蓋は閉めたままにして、仲間たちと一緒に遺跡から出ることにした。
 発見された書物と杖は、ケートが持つことになり、調査した結果はギルドに報告することになった。