無慈悲のラファ
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/17 23:15



■オープニング本文

 アル=シャムス大陸。
 果てしなく広がる砂漠には、人々を潤すオアシスが点在していた。

 そこに、名もなき遺跡があった。
 風化した壁の所々に月の彫刻があり、この地の歴史を物語る。

 とある吟遊詩人は、謳う‥。

『満月の夜、時が満ちた時、それは現れる』
『古の音は、伝え続ける。脈々と浸透しせり』

 その遺跡を発見した旅人たちは、次々と食屍鬼となる。
 奥には、ヴァンパイアが住み着いていた。
 美しき姿は、常に血を求めていた。

 さあ、おいで。
 勇敢な者たちよ。
 私の餌になりたまえ。

 古い遺跡から、不死の者が見つめている。

 さあ、ごらんなさい。
 素敵な集いが始まろうとしている。
 どんなことが待っているのか、来てみなさい。

 少女の姿をしたアヤカシは、ふと冷笑していた。

 自分の‥生きる‥証明。
 それは無意味だ。

 ただ、永遠に、放浪する。
 
 自分に、恐いものなどない。
 何故なら、恐怖を与える側だからだ。

 人間の‥恐怖に満ちた顔は、自分には関係ない。
 ただ、己の『今』しかないのだから‥‥。


■参加者一覧
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
破軍(ib8103
19歳・男・サ
イデア・シュウ(ib9551
20歳・女・騎
アズラク(ic0736
13歳・男・砂


■リプレイ本文

 砂漠の名もなき遺跡。
 ギルドからの依頼を引き受けた開拓者たちは、ガイドに案内されて、遺跡の入り口まで辿り着いた。
「どうやら、中は真っ暗のようだな」
 アルバルク(ib6635)は腰にシャッター付カンテラを取り付けると、松明を持って先へと進んだ。
 続いて、雪切・透夜(ib0135)は久し振りの遺跡探索ということもあり、マッピングの準備も整えていた。
「まだ生存者がいる可能性もあります。できれば救出してあげたいですが、まずは探索に集中しましょう」
「アヤカシもいるみたいだから、気を付けないといけませんね」
 イデア・シュウ(ib9551)が力説する。破軍(ib8103)は遺跡の壁に彫られていた月の模様を見て、気が高ぶっていたが、表向きは無表情だった。
「‥‥情報では吸血鬼が居るらしいが、そこまで辿り着くまでにも罠だけじゃねェな、雑魚もいるだろうよ」
 すると、アズラク(ic0736)は緊張気味に歩いていた。修行のため、今回の依頼に参加したのだ。
「俺も地図作成に協力します」
 彼の申し出に、透夜が穏やかな笑みを浮かべた。
「それは助かります。手分けして、遺跡内部の地図を作りましょう」
「よろしくお願いします」
 アズラクは丁寧に会釈する。普段は乱雑な口調であるが、依頼中は礼儀正しく振舞っていた。
「それでは、冒険の始まり、始まり〜♪」
  門・銀姫(ib0465)は平家琵琶を持ち、イデアの後ろに付いていた。
「自分はアヤカシ退治に専念しますね。探索中にいきなり襲撃される恐れもありますから」
「それは頼もしいね〜♪ ボクもいざって時は助太刀するよ〜♪」
 松明が三本ほど消費した頃だろうか。
 辺りが淡い光を発していた。
「これは‥‥?」
 破軍が剣で壁に印を付けようとしたが、宝珠である可能性も考え、鞘に納めた。
「遺跡には、淡い光を放つ宝珠があると聞いたことがありますが、もしかしたら‥‥」
 透夜は野外用の遺跡内部で印を付けることができる白墨を使い、アズラクが筆記用具で地図を書いていた。
 内部が明るくなったおかげで、ここから先は松明は必要がなくなった。
「遺跡には変わったものがあるんですね」
 アズラクがふと言うと、破軍が呟くように応じた。
「遺跡には稀に宝珠でできた壁があるらしいが、勝手に持ち出すのは禁止だったはずだ。おそらくその類かもしれねェな」
 破軍の指摘は、別の意味で役に立っていた。
「なんだか面白くなってきやがったな」
 アルバルクが言うや否や、通路に並んでいた古ぼけた壺が襲いかかってきた。
 とっさにアズラクが短銃「ワトワート」で牽制すると、破軍は素手で叩き割り、イデアが騎士剣「グラム」で斬り付けた。そして、アルバルクがシャムシール「アル・カマル」で軽く攻撃すると、あっけなく壺は闇に溶け込むように消滅した。
「壺が襲ってくるとはな。これも罠か?」
「古い道具にアヤカシが宿ることがあるらしいですが、きっと『器の番人』の一種でしょうね」
 透夜の言葉を聞いて、アズラクは「なるほど」と言った顔つきをしていた。
「ここに来て、学ぶことがまた増えました」
「勉強熱心だね〜♪」
 銀姫が感心したように頷いていた。



 隙間から毒矢が飛んで来たり、槍が通路の横から飛び出してきたり、予想される罠を通り抜けながら、一同はさらに奥へと進んだ。その間も、通路の壁は淡い光を放っていたが、アヤカシが住み着いたのは、特別な理由はなかったのかもしれない。
 星灯のような光に包まれた大広間に辿り着くと、グールが6体、迫ってくるのが見えた。
「行くぜ!」
 アルバルクの『戦陣』が合図となり、皆が陣形を取り始める。アズラクは『戦術攻』を使い、銀姫が前もって『超越聴覚』を奏で、ヴァンパイアの位置を確認していた。
「まずはグールを倒さないと、奥にいる吸血鬼の所までは辿りつけないみたいだね〜♪」
「所詮は雑魚だ。一気に叩き潰す!」
 前衛にいた破軍が霊剣「迦具土」でグールを確実に斬り付いていく。
「雑魚に用はねェッ!」
 まるで獲物を狩るかのごとく、破軍の剣技は凄まじかった。
 宝珠銃「レリックバスター」で援護射撃をしていたのはアルバルク。
「こいつを倒したら、親玉とのご対面だ」
「大切な遺跡をこれ以上、好き勝手にはさせません」
 透夜はバトルアックスを構え『ハーフムーンスマッシュ』でグールの群れを薙ぎ払っていく。
「まだまだこれからですよ」
 体力を温存していたイデアは、銀姫が教えてくれた隣の部屋へと入っていく。
 そこには、少女の姿をしたヴァンパイアが二体、並ぶように立っていた。
 それを見て、イデアが『挑発』する。
「ここに隠れていたんですね。そんな所にいないで出てきなさい! って、言っても出てこれないでしょうね。自分達の方が強いですからね!」
 一匹のヴァンパイアは怒りを顕にして飛び出してきたが、もう一匹のヴァンパイアは冷笑しながら部屋の中で立ち尽くしていた。跳躍して部屋から出た吸血鬼は大広間へと疾走していく。
「ようやく出てきやがったな。手前ェの逝く場所は俺が教えてやるぜッ!」
 大広間に姿を現したヴァンパイア目がけて、破軍は『回転切り』を繰り出す。敵の攻撃を回避すると、アルバルクは『閃光練弾』を放つ。その隙に、破軍が剣で止めを刺した。その瞬間、破軍の脳裏に過去の記憶が蘇ったが、気力を振り絞り、体勢を整えた。
 一方、部屋の中にいたヴァンパイアはイデアの『バッシュブレイク』で押し倒され、しばらく身動きができなかった。
「見た目は人でも、自分は騙されないですから!」
 だが、イデアは少女のヴァンパイアと目が合い、魅了に取りつかれてしまった。
 少女にそっと頬を撫でられて、イデアはうっとりとした表情をしていた。
 その様子に気付き、透夜は吸血鬼少女の背後に回り、『聖堂騎士剣』を繰り出す。斬り付けた背中から塩と化した瘴気が拡散すると、イデアの正気が戻る。
「覚悟しなさい!」
 魅了から解き放たれたイデアは、間合いを取りつつ『流し斬り』で吸血鬼を斬り付ける。部屋での乱戦となり、透夜は『スィエーヴィル・シルト』で敵からの襲撃からイデアを守りつつ、一旦、部屋から出ることにした。
 見計らって、銀姫が部屋内部の空間に『重力の爆音』を放った。吸血鬼は押しつぶされたように倒れ込み、うっすらと微笑しながら絶え果てた。
「なんとか間に合ったようだね、良かった〜♪」
「自分達にかかれば、ざっとこんなものでしょう」
 イデアは魅了されていた時ことはほとんど覚えていなかったが、頬に何かの感触が残っているのが少し気になっていた。
「お疲れ様だね、この豆、皆にあげるよ〜♪ これを食べると練力が回復するんだ〜♪」
 戦闘が終わると、銀姫は携帯していた豆を一つずつ手渡した。それぞれが回復薬で手当てをしつつ、しばらく休憩を取ることにした。


 改めて、大広間の探索をすることになった。
 中心部には台座の上に『天を見上げる乙女』の彫刻があったが、透夜は得意の絵で、スケッチしていた。
「それはどうするんですか?」
 アズラクの問いに、透夜は一旦、描く手を止めた。
「現物は持ち出せませんから、スケッチを描いてギルドに報告するつもりです」
「そういう手もあるんですね。俺は大広間の構図を地図にして書いておきます」
 地図を描き始めるアズラクを見遣ると、隣にいた透夜はスケッチを描き進めた。
 しばらくすると、イデアが駆け寄ってきた。
「北側の壁画を見ていたら、床下に穴があったんです」
「落とし穴かもしれませんね」
 透夜たちは穴へと向かった。
「お、来たか。下に誰かいるみてぇなんだけどよ」
 アルバルクが落とし穴を覗き込んでいたが、見ると、下半身が砂に埋もれたまま倒れている少年がいた。
 穴の中も、ほんのりと輝いていた。
「まだ生きているかもしれません。助けにいきます。申し訳ありませんが、縄の先を持っていてくれませんか?」
 透夜が携帯していた荒縄を取り出した。アルバルクはおどけたような表情だ。
「別に構わねぇさ。人助けも依頼料に入ってるしな」
 アルバルクが荒縄を持つと、透夜は縄を手に取り、穴の中へと入っていく。
 その間、破軍とイデアが周囲を警戒していた。グールがいる可能性もあるからだ。
「‥‥」
 透夜は下に辿り着くと、破軍と同じように思ったのか、しばらく少年の様子を伺っていた。
(襲ってくる気配はありませんね)
 そっと少年に近づき、彼の顔を見てみた。生気が失われているのは明らかだった。見れば怪我もしていた。
 透夜は竹筒に入った符水を少年に飲ませた。
「‥‥ここは‥‥?」
 しばらくすると少年はゆっくりと目を開き、呟く。透夜は安心させるように微笑んだ。
「遺跡の中です。生き残っている人がいるかと思い、探していたんです」
 そう言った後、透夜は少年を抱き起した。止血剤で少年の腕を手当てすると、まずは助けるのが先決だと思い、少年の腰に縄を付けた。それを確認すると、アルバルクが縄を引っ張る。
 透夜と少年が穴から出ると、銀姫は少年に水を飲ませた。
「無事で本当に良かったよ〜♪」
 明るい調子に、少年の心もようやく落ち着きが戻ったのか、安堵の溜息をしていた。


 アルバルクは助けた少年に薬草を使い、彼の腕に包帯を巻いた。
「ありがとうございます。僕はエセルと言います」
 エセルと名乗った少年が御辞儀すると、アルバルクが言った。
「なに、礼を言われるようなことはしてねぇよ。これも仕事のうちだからな」
 これだけ回復すれば、一緒に遺跡から出られると考え、一同は少年を連れて入り口へと戻った。

 その後、ギルドに赴き、今回の遺跡探索についての資料として内部地図と彫刻のスケッチを受付に手渡した。
 地図とスケッチは、ギルドの貴重な資料として保管されることになった。

 一つ、破軍は気掛かりなことがあった。
(‥‥月か‥気になるが、結局、分からず仕舞いか)
 遺跡には、『月』の彫刻が多かったが、それが何を意味するのか?
 今回の探索では、その手がかりが得られなかった。

 遺跡には、まだまだ未知の領域があった。
 本格的な探索は、これから始まろうとしていた。