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■オープニング本文 アル=カマル、ラファ集落。 数年前にアヤカシの集団に襲撃され、廃墟となった土地に、人々が訪れるようになった。 集落のオアシスに、古代遺跡が浮上したという噂が広まり、地元の有志たちが調査団を募り、気が付けば百人近く集まっていた。 団長を務めているのは、魔術師のレヒトという男性だった。 レヒトは吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)の友人だが、調査に夢中になると周りが見えなくなることも度々あった。 「ふむふむ、やはりミデンは巫女ラファと子孫たちを守るために、自らの『鏡』をオアシスに投げ込み、この遺跡を地下に封印したということかのう‥」 レヒトは水中に浮かぶように建つ塔の形をした古代遺跡の中に入り、気になる箇所を見つけては、手帳に書き記していた。 「団長、大変です!」 調査員の一人が、レヒトの元に駆け寄ってきた。 「少し黙っておれ。いま、大事なところなんじゃ。‥ラファの鏡をオアシスに投げ込んだら、遺跡が浮上したらしいが、塔は遺跡の入口のようじゃのう。さらに奥へと進む通路があるようじゃ」 レヒトは壁に手を当てて、凝視していた。 「だから、こっちも一大事なんです! イウサール・ジャウハラが接近中です!」 調査員が叫ぶが、レヒトは気にも留めず、調査を続けていた。 「この遺跡を調査するのも大事なことじゃ!」 「ですが、このままだとイウサール・ジャウハラに巻き込まれて、この遺跡も吹き飛ぶかもしれませんよ!」 調査員がそう告げた途端、レヒトは目を見張り、振り返った。 「何故、そのことを早く言わんのじゃ! 遺跡がバラバラにでもなったら、どうする気だ!」 「そのために、団長にも『一大事』と言ったじゃないですか!」 困り果てる調査員。 緊急事態だというのに遺跡内部から出てこないレヒトたちを心配して、ロマラがやってきた。 「レヒトさん、やはりここでしたか。調査は一時中断です。まずは集落の外にいるアヤカシを退治しないと」 「アヤカシだと?!」 レヒトは眉間に皺をよせた。 「イウサール・ジャウハラは4つ、汗血鬼が一体、接近しています」 ロマラが言うと、レヒトは唇を噛みしめた。 「この大事な時に、またアヤカシが邪魔しおってからにぃ。汗血鬼はともかく、砂嵐の影響でイウサール・ジャウハラが4つも発生したとは、まさに一大事じゃのう」 イウサール・ジャウハラとは、アル=カマルのアヤカシで竜巻宝玉とも呼ばれている。その名のごとく、竜巻で周囲を切り裂き、中心部には輝く宝石がある。 汗血鬼は大岩地帯の洞窟付近を縄張りにしていたようだが、集落に人々が集まっていることに気付き、獲物を求めて姿を現したようだ。 「北にはイウサール・ジャウハラ、東からは汗血鬼が接近しているようです。調査員はほとんど一般人ですし、ジンを持つ者は数えるほどしかいません。ですから‥」 ロマラがそう言いかけると、レヒトは「ワシは調査を続ける」と告げて、遺跡の中へと入っていった。 「レヒトさんは調査が最優先ですし、やはり開拓者さんたちにお願いしてみましょう」 遺跡を守ることも大切ではあるが、一般人の調査員たちを守ることも重要だ。 ロマラはギルドで開拓者を募集することにした。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
星芒(ib9755)
17歳・女・武
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志 |
■リプレイ本文 アル=カマルには、ここ最近、発見されたばかりの古代遺跡があった。 廃墟となったラファ集落には『ミデンの墓』と呼ばれる場所があり、その付近にあるオアシスの中心部に遺跡が現れたのだ。 だが、多くの人々が亡くなった土地には、未だに瘴気が満ちている箇所がいくつかあった。 まだまだ人々が暮らせるような状態ではなかったが、古代遺跡を調査するため、多くの人々が集まっていた。 「調査団は、集落の巡回を徹底した方が良いだろう。この地はアヤカシを引き付けるものがあるらしいからな」 リューリャ・ドラッケン(ia8037)は、己の意思を信じる固い眼差しで、北の方角を見た。 砂嵐に紛れ込んで、イウサール・ジャウハラと呼ばれる竜巻宝玉が付かず離れずの距離で4つ、渦を巻いていた。 「集落からでも、砂嵐は見えるな」 「遺跡の調査状況も気になるが、まずは竜巻宝玉を倒すことが先決だ」 他者を思いやる義の持ち主‥羅喉丸(ia0347)はアメトリンの望遠鏡を使い、竜巻宝玉の動きを警戒していた。 「宝玉は竜巻の中心部にあるらしい。宝玉を破壊すれば消滅するらしいが、核を守るように竜巻が真空刃を撒き散らしているようだ」 集落には調査員たちの移動手段として数匹のラクダがいたが、竜巻宝玉が接近中ということもあり、恐がるように嘶き、思うように動かすことができなかった。 「ラクダたちはどうやら怖がっているようだな。無理に接近したら大変なことになりそうだ」 ラクダ達の様子を見て借りることができず、羅喉丸は仲間と協力して竜巻宝玉を倒すことに決めた。 「こんな状況でも、調査に専念している人もいるのね。危なっかしいけど、心強いかも」 可憐でありながら芯の強い花のごとく微笑しながら、フェンリエッタ(ib0018)が言う。 「遺跡が破壊されたら、ケートちゃんが困るかもしれないよね。絶対に阻止するんだから!」 いつもは明朗活発な星芒(ib9755)も、知り合いの重要な手掛かりが壊される恐れがあると知って、気合が入っていた。 ケートというのは、ラファ集落の生き残りで、ミデンとラファの血を引く少女だ。ケートは現在、レド集落のエセル族長宅で居候していた。ロマラ・ホープ(iz0302)が今回、ケートを連れてこなかったのは、またアヤカシに狙われる危険があったからだ。 「ロマラさん、緊急連絡用に狼煙銃を渡しておくわ」 フェンリエッタはそう言いながら、ロマラに手渡した。 「ありがとうごさいます。いざとなったら、使わせてもらいますね」 「そだ、ロマラさん。あたしたち、竜巻宝玉の退治に行くんだ。同行、お願いしても良いかな?」 星芒が言うと、ロマラは後方支援で連絡係を務めることにした。 「私は皆さんのサポートになりますが、よろしくお願いします」 アヤカシは、開拓者たちの力がなければ倒せない。 一般人ばかりの調査員たちは、フェンリエッタとリューリャの指示で、古代遺跡の警備を厳重にして待機することになった。 団長は、こんな時でも遺跡の中で調査に夢中だ。 「アヤカシは、集落に入る前に食い止めるわ。団長さんが気が付かないうちにね」 フェンリエッタの言葉に、緊張していた調査員たちの場が和む。 「開拓者の皆さん、ありがとう。遺跡は我ら地元民にとっては宝でもある。この遺跡を調査することによって、ミデンの本当の姿が分かるかもしれない」 調査員の一人が、遺跡に想いを馳せて、そう告げた。 「あたしも遺跡探索がしてみたいから、アヤカシは絶対に倒すからね☆」 励ますように言う星芒。 「東からは汗血鬼が接近しているようじゃの。二手に分かれた方が手っ取り早い気もするが‥さて、わらわは汗血鬼の始末に向かうが、星芒たちとは別行動になるかのう」 椿鬼 蜜鈴(ib6311)は龍の獣人であったが、艶やかな異国風な姿が目を引く。鬼と聞いて、愛刀を持ち駆け寄ってきたのは、 物見遊山で訪れた佐藤 仁八(ic0168)だ。伊達な恰好が、これまた目立つ。狐の尾は本物で、どうやら半神威人だった。 「ここでも鬼退治ができるたぁ、ありがてえこった。手を貸すぜ」 仁八が名乗り出ると、蜜鈴は愛嬌のある笑みを浮かべた。かと思いきや、少しずつ毅然とした表情になる。 「ならば主戦は仁八に任せようて。わらわは氷罠を仕掛けようかの。斯様な状況なれど、人の命をアヤカシに触れさせる義理はなかろうて」 「鬼の動きを封じることができれば、狙いは確実ってえやつだな」 仁八は望遠鏡で東の方角を確認しながら、蜜鈴と共に汗血鬼退治に向かった。 ● 昼間、太陽の日差しが厳しい影響なのか、色焼けした岩肌が所々に点在していた。 日に焼けた石は、明らかに砂の色とは異なるものもあり、目印になりそうな場所もあった。 「ふむ、この場所に設置してみるかの」 日に焼けた岩の近くで、蜜鈴が『フロストマイン』を唱えると、小さな吹雪が地面に吸い込まれていき、氷の罠として封印された。 罠の周辺に、片手で持てる程度の石を重ねて置き、仁八が岩の縁や隙間に念入りと撒菱を撒き散らしていく。 自然の岩ならば、罠を設置していても鬼に怪しまれることはないだろう。 「おやおや、こっちの動きに気付いて、真っ赤な鬼が近づいてきたぜ。随分とまあ、あたしに負けず劣らずの派手な肌色をしてやがるじゃねえか」 仁八は両手を大きく叩くと、呼子笛を鳴らして挑発する。 「鬼さんこちらっ、とくらあ」 声に反応して、汗血鬼は仁八に狙いを定めて『汗血斬』を放った。鬼の全身が漲り、真赤な衝撃波が迸る。仁八は抵抗しつつも、額や両腕から血が流れ落ちた。 「おう、上等じゃねえか! 遠慮はいらねえってのは、まさにこのことかい」 仁八は撒菱を投げつけると、長巻直し「松家興重」の大太刀を構えた。汗血鬼は罠とは知らず、走り込んできた。仁八の手前で猛烈な吹雪が発生し、汗血鬼は身動きが取れなくなった。 「間一髪じゃったの。どれ、治癒してやろうて」 蜜鈴が何度か『レ・リカル』を施すと、仁八の怪我が完全に治った。 「ありがとよ。これで、鬼の首も取れるぜ」 仁八は『平突』で攻撃をしかけると、『紅椿』で汗血鬼の首を断ち切った。それは一瞬の出来事であった。 鬼の首が飛び、砂の上に転がり込む。 「ほれ言わんこっちゃねえ、鬼の首を取ってやったぜ」 仁八は鬼の頭を拾い上げて、高く掲げた。鬼の身体は罠に嵌ったままだ。 「このまま放置するのもなんじゃの。わらわの慈悲に感謝しつつ逝くが良いぞ」 蜜鈴が『アイシスケイラル』を唱えると、氷の刃が鬼の腕から脚まで貫通するように身体に突き刺さり、汗血鬼は反撃する余裕もなく、瘴気と化して消えていった。 「ん? 首も消えちまったなあ。他の連中にも証拠として見せたかったが、仕方ねえか」 仁八はケラケラと笑う。 「わらわがしかと見取った。消えるもまた、華よの」 消え去った汗血鬼に、冷めた微笑を浮かべる蜜鈴であった。 ● 一方、竜巻宝玉を倒すために北へと向かった開拓者たちは、徒歩で2キロ地点の辺りで砂嵐と遭遇していた。 当初の目撃地点は3キロ付近であったが、やはり集落に少しずつ接近していたようだ。 星芒は『天狗駆』を使っていたこともあり、先頭に立ち、竜巻宝玉を見上げた。 「宝石を叩き割るにしても、竜巻をどうにかしないとね」 「これまで積み上げてきたものを信じて、挑むしかない。俺は間近の竜巻宝玉を狙ってみる」 羅喉丸は魔槍砲「ヴォータン」で砲撃すると、攻撃が当たった衝撃で竜巻の動きが鈍くなった箇所があり、その点を目掛けて『瞬脚』で踏み込み、すぐさま奥義『真武両儀拳』で中心の宝石に叩き付けた。核は気の流れで内側から破壊され、と同時に竜巻宝玉一つが消滅‥残りは後3つだ。 「左側は俺が潰す」 リューリャは巨大な敵に臆することもなく、神槍「グングニル」を構え、竜巻に吸い込まれていく‥否、吸引力を逆手に取って、飲み込まれながらも、『カミエテッドチャージ』で中心部の宝石に強烈な一撃を叩きこんだ。核が破壊されると、竜巻宝玉が一つ消え去った。落下すると思いきや、リューリャは『フォルセティ・オフコルト』の盾で敵の攻撃を受けても、ほとんどダメージはなく、後方へと移動していた。 「有言実行だ。油断は禁物だな」 自身に言い聞かせるようにリューリャはそう言うと、他の竜巻宝玉にも注意を払う。 「フェンリエッタさん、よろしくね!」 星芒は合図を送ると手袋「浄化」にて『祓魔霊盾』を浮かび上がらせ、真空刃の攻撃を防いでいた。さらに『仁王如山』を唱え、その場に固定するように星芒は動かなくなった。 「進路を逸らすことができるか、やってみるわ」 フェンリエッタが『早駆』で西へと移動すると、彼女の動きが目に止まったのか、竜巻宝玉2つがフェンリエッタに接近してきた。 「まずは前方の竜巻宝玉からね」 そう言いながらフェンリエッタは巨大化した『風魔閃光手裏剣』を投げつけ、焙烙玉で牽制する。前方に位置する竜巻宝玉の動きが遅くなったが、後方の竜巻宝玉が接近してきた。 「負けるもんか〜!」 星芒は懸命に抵抗して、その場から動かないように両足に力を込める。前もって発動していた『仁王如山』の効果もあり、地面と均衡状態になった。 その間に立ったのは、竜巻の攻撃を防ぐため、タワーシールド「アイスロック」を構えた羅喉丸だった。 「星芒さん、大丈夫か?!」 「大丈夫だよ。おかげで助かった☆」 羅喉丸の援護により、星芒は次の攻撃に備えることができた。 「無事で良かったわ。もう一度、こちらから攻撃をしかけてみるわね」 フェンリエッタは番天印の大きさのまま『風魔閃光手裏剣』を投げつけ、竜巻の動きが鈍くなった部分から『白狐』を召喚して侵入させた。大型な九尾の白狐は宝石を見つけると、爪と牙を使って瘴気を送り込み、内部から崩壊していく。サラサラと破片が落ちて消えていくと、前方の竜巻宝玉も消滅。残りは後一つだ。 フェンリエッタと星芒、羅喉丸はゴーグルを装備していたこともあり、砂が目に入ることはなかったが、竜巻宝玉は開拓者を狙って凄まじい吸引力で引きずり込もうとする。リューリャは流れに委ねて、竜巻の中へと引きずり込まれていった。 「リューリャさん!」 星芒が名を呼んだ時、リューリャは魔槍砲「赤刃」を真上に向けて『ブラストショット』を放った。核には当たらなかったが、竜巻の速度が弱まった。 「今だ、撃て!」 リューリャは渦に飲み込まれながらも、叫んだ。 星芒は仲間のためにも、必死に如意金箍棒を伸ばして地上近くに浮いている宝石を砕いた。割れた瞬間、竜巻宝玉も消滅し、徐々に砂嵐も消え去っていった。 ● ロマラが星芒の後方から狼煙銃を放った。 竜巻宝玉を全て倒したことを、集落にいる者たちに知らせるためだ。 音が響くと、集落で警護をしていた調査員たちが歓声をあげた。 「どうやら、竜巻宝玉は全て退治できたようじゃの」 蜜鈴は、万が一のことを考えて、アヤカシを迎え撃つことができるように集落に戻っていた。 「汗血鬼も集落に入る前に倒せたから、一件落着ってえこったな。これで心置きなく、遺跡の調査をしてきねえ」 仁八がそう言うと、調査員たちは「その前に歓迎の宴を!」と騒ぎ出し、急ぎ足で何やら準備していた。 羅喉丸たちが戻ってきた頃には、宴の食事や酒が天幕の前に並んでいた。 「一日目だけでアヤカシを全て倒すなど、さすがですね!」 調査員たちは開拓者たちの手を引き、宴を始めた。 「ここの酒も、なかなか喉越しが良くて美味じゃの」 蜜鈴は勧められるままに酒を飲み干す。その飲みっぷりに調査員たちが次々と酒を注いでいく。 気が付けば、仁八もほろ酔い気味に酒を飲んでいた。 「ほう、調査の続きは明日からかい。それじゃ遠慮なく楽しませてもらうぜ」 「遺跡の中に入れるのは、二日目からだから、最終日までは調査の手伝いもできそうだね☆」 星芒は甘味の菓子を食べていた。 「どこまで調査が進んでいるのか聞きたかったが、直接、団長とも話す機会ができそうだな」 羅喉丸はそう言いながら、オアシスの中央に立つ遺跡を眺めていた。 「それにしても、今回のアヤカシはやたらと目立つヤツばかりだったな」 リューリャの言うことも分かる気がする。 「そうね。ロマラさんも竜巻宝玉が四つも同時に発生するのは稀だと言っていたわ」 フェンリエッタはそう言いつつも、楽しそうに騒いでいる調査員たちの姿を見て安堵していた。 遺跡の調査が進むことによって、未来へと繋がるように‥そう願っていた。 翌日から調査が再開され、最終日には奥の間が発見された。 壁画に描かれていたのは、当時の暮らしと月の絵だった。 それを見た星芒は、ふと閃いた。 「鏡を沈めて遺跡が浮上した時みたいに、儀式をするのに良い月の形の時とかがあるのかも」 「それじゃ!!」 団長の大声に、思わず「何が?」と突っ込む星芒。 「月の形、時と場所じゃ! それさえ分かれば、先に進めるぞ」 団長が興奮気味に言うと、羅喉丸は「そうか」と頷く。 「つまり、奥の間から別の部屋へと続く扉があるのかもしれないな」 これもまた運命なのか。 星芒のヒントにより、遺跡調査はさらに続行することになった。 果たして、遺跡の奥には何があるのか。 ラファとミデンの伝承は、我々をどこへと導こうとしているのか。 それを知るには、次の報告まで、待つことになるだろう。 |