オレラワ盗賊団
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/26 01:35



■オープニング本文

 アル=カマル、レド集落。
 アガロの子孫が捕えられて、族長の屋敷で監視されるようになってから、住人たちは別の不安を抱えていた。
「族長、いつまでアガロの子孫をレド集落においておくつもりだ? 先日、ラファ集落で遺跡が地上に現れたらしいが、それが本当ならラファはこの地方を守っていた巫女で、しかもレドの姉なんだろう? ケートが居候しているのは分かるが、ソルとかいう男まで庇うつもりか?」
 住人の代表としてやってきた男性が、族長のエセルに対して睨むように告げた。
 エセルは族長と言っても13才で、住人たちから見れば正直、まだ頼りないと思われているようだ。
 族長宅で毎日のように話し合いが行われていたが、平行線だった。
「確かにソルさんはアガロの子孫だけど、ご本人も、自分がやったことは許されることじゃないって言ってたじゃないか」
 エセルがそう言っても、男性は納得していない。
「ソルってヤツが反省しているのは分かるし、吸血鬼に脅されてやったことも同情はできるが、だからと言って、アガロの子孫まで保護する必要はないと思うがな。族長だって知ってるだろう。住人たちは『ソルは裏切り者』だと不安に思っているんだ。ソルを追放してくれ」
 そう言われたが、エセルは自分の意見をはっきりと述べた。
「それはできない。ソルさんこそ、僕らが守るべき人だ。我が祖先レドが現状を知ったら、絶対にソルさんを守ろうとするはずだ」
「族長の考えも分かるが、ソルがいたらどうなるか‥」
 男性がそこまで言いかけた時、外から豪快な男の笑い声が響き、何やら騒ぎが起こっていた。
「ここにアガロの子孫がいることは分かってんだ! さっさと出せ!」
 大型の剣を持った巨漢が、20人の手下を引き連れて、集落の市場を荒らし回っていた。
 彼らはオレラワ盗賊団と自称して、ここ最近になって出没するようになっていた。
 すぐさま勇士たちが駆け付け、住人たちを避難誘導しながら、盗賊たちと対決していたが、ほぼ互角で、なかなか決着がつかなかった。
「あんたたち、なんでアガロの子孫のこと知ってんのよ!」
 見習い巫女のケートが駆け付けると、巨漢はお構いなしに剣を振りかざす。
「アガロの子孫は裏切り者なんだろう? この俺様が正義の鉄槌をお見舞いしてやろうってんだ。感謝しな」
「ふざけないでよ! そんなことさせないからね!」
 ケートが立ち塞がり、そう言い放つ。巨漢は盗賊団のボスだった。
「なかなか威勢の良い嬢ちゃんじゃないか。お前‥もしかして、ケートか?」
 ボスにそう言われて、ケートは驚く。
「なんで、アタイのこと、知ってるの?」
 突然、名を聞かれて、ケートはつい応えてしまった。盗賊の手下たちが腹を抱えて笑っていた。
「引っかかってやんのー。ギャハハハハハ!」
「このぉ、笑うな!」
 ケートが憤慨して叫ぶと、心配で駆け付けたエセルが彼女を制する。
「ケートさん、落ち着いて。感情にまかせたら、盗賊たちの思う壺だ」
「エセル君の言う通りですよ。まずは、話し合いましょう」
 吟遊詩人のロマラ・ホープ(iz0302)もまた、エセルと一緒にやってきていた。
「あんな奴らと話し合ったって、どうにもならないよ!」
 ケートは何故、盗賊たちがアガロの子孫について知っていたのかと、少し戸惑っていた。
「エセル君、私が盗賊の頭と話してみます。その隙にケートさんを連れて、自宅に戻ってください」
 ロマラがそう言うとケートは「無駄だって〜」と騒いでいたが、エセルは素直に頷き、この場をロマラに任せて、自宅へと戻ることにした。ケートはエセルに腕を掴まれても、相変わらず「無駄だって〜」と言っていたが、今の自分では何もできないと思ったのか、エセルと一緒に族長宅へと向っていった。
「そこの兄ちゃん、話ってのはアガロの子孫のことだろう」
 盗賊の頭であるボスが剣を収めると、手下たちがロマラを取り囲んだ。
「あなたの狙いは分かっています。ソルさんとケートさんを連れていくつもりなのでしょう?」
「ほぉ、だったら話は早いな。2人を俺らに渡してくれりゃいいのさ。そうすりゃ、全て解決するだろう?」
 したり顔のボスに、ロマラはふと気がついた。
 盗賊たちは顔は笑ってはいるが、何かを恐れている。
「ソルさんも、何かに怯えていましたね‥‥もしかして、この中に吸血鬼がいたりして」
 ロマラとしては、単なるはったりで言っただけだが、盗賊たちの動きが止まる。
 沈黙の後、盗賊のボスが言った。
「2日後の昼、レド集落の広場で待っている。それまでに準備をしておけ」
 去り際、盗賊の誰かが手紙を落としていった。
 ロマラは拾い上げ、その内容を読んだ。

『ノーライフタイラントが、俺らの誰かに変身して紛れ込んでいる。
 下手に動くと、身内が危ない。
 誰が変身しているのか、誰にも分からないから、困っている。
 本当に倒したいのは、ノーライフタイラントだ。
 ソルとケートを狙っているのは、敵の目を欺くためだ。
 もし、この話を信じてくれるなら、助けてくれ』

 それは、盗賊たちからの依頼だった。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
无(ib1198
18歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟


■リプレイ本文

 アル=カマル、レド集落。
「盗賊達が広場に来るのは2日目の昼‥事前調査できるのは初日だけだが、吸血鬼について何か調べる方法があれば助かるな」
 羅喉丸(ia0347)の問いに、无(ib1198)が族長宅へ行くことを提案した。
「ラファ伝記に何か手掛かりがあるかもしれませんし、エセル族長たちからも話を聞いてみたいので、まずは彼らに会ってみましょう」
 笹倉 靖(ib6125)は扇をヒラヒラさせながら言った。
「吸血鬼がラファ集落にいたヤツと同一のモンなら、ケートはヤツに顔を知られている恐れもあるからなぁ。ソルの言動も気になるし、前もって打ち合わせもできるから良いかもな」
 それを聞いて、ケイウス=アルカーム(ib7387)が頷く。
「ケートとソルには人質の振りをお願いするんだから、連れていく前に話しておかないとね」
 少し皮肉交じりに微笑するのは、北條 黯羽(ia0072)だ。
「かと言って、吸血鬼に人質とか言う手を使えばなンとかなると思われるのも癪なンで、ソルとケート、ついでに盗賊団のヤツ等も救い出すってのも悪かねェか」
「引き渡す時間帯が昼間で、場所は集落の広場‥随分と余裕に思えるな」
 リューリャ・ドラッケン(ia8037)は、盗賊団が時間と場所を指定してきたのが気になっていた。
「まあ、そのおかげで作戦を練る時間もありますから、こちらも冷静に行きましょう」
 无はそう告げた後、仲間と共に族長の自宅へと入った。
 出迎えたエセルは、開拓者たちを客室に招き入れて、皆が席に座ると話し始めた。
「ケートさんとソルさんは、できれば人質にはしたくないけど、皆さんはどうお考えですか?」
 エセルの問いに、无は先日の詫びを言ってから本題に入った。
「引渡場所にはケートとソルを連れていきますが、引き渡すつもりはありません」
「要するに、時間稼ぎってコトさね。俺はケートとソルの護衛をするぜ」
 黯羽がそう言うと、前の席にいたケートが手を挙げた。
「ご指名とあれば囮役になるよー。護衛してくれるなら心強いしね。アタイは囮役に専念するから、味方をサポートする術を使う余裕はないけど、その代わり引き付け役くらいはできると思うよ」
「そうか。術を使うことに関しては無理強いするつもりはない。囮役は危険だが、協力に感謝する」
 リューリャの心遣いに、ケートが笑みを見せる。ケイウスは、先程から大人しいソルに声をかけた。
「ソルさん、無茶なことお願いしてごめんね。絶対にソルさんたちのことは守るから」
 躊躇いがちな表情のソル。
「人質は俺一人だけでも良いと思っていたが‥裏切り者と呼ばれている俺を助けてくれるのか?」
「ソルはソルだよ。もちろん助けるからね」
 安心させるように微笑むケイウス。
「祖先の罪はソルのせいじゃねぇだろう。盗賊のボスは『正義の鉄槌』とかナントカとか言ってたようだが、祖先の罪まで血筋に残る訳じゃないってのにな」
 靖が言った矢先、ソルは涙ぐんだ。
「お頭は‥俺の仲間なんだ。だから吸血鬼に狙われているんだ。お頭は俺を助けるために、ギルドに依頼を出したんだと思う」
「なーんだ。そういうことかい。だったら、何がなンでも吸血鬼は退治しようぜ」
 黯羽は事の真相を聞いて、ケートとソル、そして盗賊団の連中を助けることは、何かの突破口になるのではという思いに駆られた。
「盗賊団がソルの仲間なら、思いっきり芝居もできそうだな」
 靖の何気ない一言に、ソルは楽しそうに小さく笑う。
「芝居か。お頭が喜びそうだな」
「あ、やっと笑ったね」
 ケイウスに指摘されて、ソルは自分が笑っていることに気付いた。
「どうやら、ケートもソルも囮役に賛成してくれたようだな。何故、吸血鬼が2人に執着するのか分からんが、相手が吸血鬼ならそれだけで十分な理由だ」
 リューリャがそう告げた。
 皆の様子に、エセルもようやく同意する。
「分かりました。ケートさんとソルさんのこと、よろしくお願いします」
「エセル、相手の指定場所は集落の広場なんだ。できれば今日中に住民たちを別の場所へ避難するように指示してもらえるかな」
 ケイウスの懸念に、エセルは依頼が出た時点で住民たちは全員、別の村に避難していると答えた。
 リューリャはそれを聞いた安堵した。ソルは住民たちから裏切り者扱いされているため、誰もソルの指示には従わないからだ。
 ケイウスは、なるべく建物は壊さないようにすると決めていた。



 族長の書斎。
 羅喉丸はロマラ・ホープ(iz0302)から借りた資料を読み漁っていた。
 吸血鬼を倒すために、何か有効な方法はないかと慎重に調べていた。
「確実に倒せる方法はないようだな。霧化すれば物理攻撃は効果はないし、ダメージを確実に与えられるのは知覚攻撃‥かと言って、敵は飛行できるから攻撃射程から外れれば、ダメージを与えることはできない。退治できたケースもあるが、それぞれ状況も吸血鬼の性格も違うから、臨機応変に対処するしかないか」
 一息ついて、羅喉丸はさらに思案していた。
 今回の吸血鬼は、変身して盗賊団に紛れ込んでいる。まずは吸血鬼が誰に変身しているのか特定する必要がある。そのためには、皆と協力して追い込み、先手を打つようにしてみようと思いついた。
「案ずるより産むがやすし、状況を想定して俺なりにやるしかないな」
 初心に返る羅喉丸。この依頼に参加したのも、助けを求めている者たちを見過ごすことができなかったからだ。
 だからこそ、実践あるのみ。
 一人で戦う訳ではない。他の仲間もいる。そうだ。仲間を信じて、闘うのみ。
 羅喉丸はそう、心に刻み込んだ。
「どうやら結論は出たようですね」
 書斎では、无も資料を読んでいた。エセルから許可してもらい、ラファ伝記を調べていたのだ。
「言い伝えには吸血鬼のことは全く書かれていないことが分かりました。ソルからも話を聞いてみましたが、ラファが災いをもたらすという記述をしたのはアガロだったそうです。ラファには、ミデンという夫がいたのですが、アガロはミデンを言い伝えから抹消して、『アガロこそ水を守護する長』と強調したかったらしいです。実際は、ミデンの方が実力があったらしく、それに嫉妬したアガロが伝承を歪めたようですねぇ」
 无はそう言いながらも、ソルとケートを祖先の呪縛から解放してやりたいと思っていた。
「言い伝えに吸血鬼のことが記載されていないのは、どういうことだろうな」
 羅喉丸の疑問に、无が応える。
「ロマラが言うには、吸血鬼は言い伝えによる住民たちの集団心理を利用している可能性があって、実際、吸血鬼は言い伝えとは全く関係なく、人間を襲っているだけに過ぎないそうです。つまり、言い伝えと吸血鬼の行動原理に因果関係はなく、知能が高い吸血鬼は言い伝えを恐れる住民たちの心理を扇動して、好き勝手に行動しているだけとも推測できます」
「だったら、尚のこと、吸血鬼は退治しないとな」
 羅喉丸がそう告げた後、无と一緒に仲間たちのいる客室に戻り、作戦を練り直していた。




 2日目の昼。
 リューリャは相棒の輝鷹コウと『大空の翼』で同化し、広場近くにある家の屋根まで舞い上がり、盗賊たちの動向を探っていた。
 見たところ、ボスを筆頭に盗賊15人が中衛辺り、弓術士5人は後衛で付かず離れずの距離で歩いていた。
「特に変わった様子はないな。そう簡単に見破れないということか」
 だが、リューリャは少しでも異変があれば、次の手を打つつもりでいた。
 広場に盗賊団が全員集まり、開拓者たちはケートとソルを連れて来ていた。
 黯羽は、ロマラから借りたアル=カマルの民族衣装を纏い、ケートの付き人として彼女の傍にいた。黯羽の相棒、人妖の刃那は『瘴索結界』の光が漏れないように主の懐に隠れていたが、アヤカシの気配はなかった。吸血鬼がいたとしても瘴気封印の能力があるため、感知は難しかった。
 最初に話し始めたのは、盗賊のボスだった。
「ケートとソルはいるようだな。偽物じゃねぇよな?」
「案外と疑り深いねぇ。偽物だったら、どうする気だ? ところで、正義の鉄槌ってのはどういう意味だ?」
 靖が挑発的に言うが、ボスは豪快に笑いだした。
「決まってんだろ。悪の所業をぶっつぶすってことだ」
「悪ね、さて、どっちが悪なんだろうねぇ」
 凄味のある顔で靖が言う。仲間たちの前方に立ち『術視「参」』を使い、逆光で瞳の色を隠す。
(吸血鬼に魅了されている者は2人か。この中に吸血鬼がいるのは確かだが、誰に変身しているのやら)
 靖はそれとなく左手を後ろに回し、ケイウスに合図を送る。
(よし、やってみるね)
 ケイウスは靖の後ろで詩聖の竪琴を隠しつつ『怪の遠吠え』を響かせた。この曲はアヤカシのみ聴こえる音だった。
 赤毛の男が周囲を見渡していた。
「ボス、さっきからしつこく遠吠えが聴こえんだけど、やばくねぇか?」
「遠吠え? 俺様には全く聴こえねぇぞ。おい、ニック。お前にそんな能力があったっけか?」
 ボスが不審そうに赤毛の男ニックを見た。
「え? あれ? 空耳かな? へへへへへ」
 ニックが苦笑いを浮かべた。
 その様子に、リューリャはニックに近づき、相棒と同化して『鷹睨』で盗賊達を睨み据えた。
 視界にいた盗賊団は全員、恐慌状態となり、リューリャを見ると怯えたように震えていた。
「目星は付きましたから、逃がしませんよ」
 无は『瘴気の檻』でニックを封じ込めることに成功した。だが、瘴気の壁は紫色のせいか、内部にいる男の姿までは良く見えなかった。他の盗賊たちは何も言えず、怯えるだけだ。助ける余裕もない。
 玉狐天ナイは主の无から少し離れて、『瘴気感知』を使いながら盗賊たちを警戒するように瘴気の流れを追う。恐慌状態になった盗賊たちからは瘴気は全く感知できなかった。
「今回の吸血鬼は瘴気封印が使えるようですね。私の作った結界が壊れて、ニックという男が正体を現せば、戦闘開始です。皆さん、よろしくお願いします」
 无が言うと、開拓者たちは体勢を整えた。
「結界が解けた途端、ケートとソルを襲う恐れもあるから、俺はまず防衛からいくぜィ」
 黯羽は『結界呪符「黒」』で地面から黒い壁を出現させ、ケートとソルを守るように壁を配置していく。
 ふと見遣ると、瘴気の檻が壊れかかっていた。
 羅喉丸はとっさに相棒の皇龍、頑鉄を呼び寄せ、ケートとソルの腕を取った。
「頑鉄の近くにいてくれ。ある程度の攻撃は頑鉄が守ってくれる」
 頑鉄は広場に降り立つと大きく翼を広げた。ケートとソルが両側に立つと『金城鉄壁』により頑鉄の周囲に防御障壁が張り廻った。
 その刹那、瘴気の檻が壊れたかと思うと、多量の蝙蝠が上空へと飛び立った。
「今回は逃がさないぜ」
 靖はナイフ「リッパー」を投げつけ口火を切ると、相棒である轟龍の赤紅が主の命令で『急襲』で一気に接近し『鬼腕』を発動させて『鬼龍炎斬』を繰り出した。爆発に巻き込まれた蝙蝠は消滅したが、相変わらず数が多く、残りは逃げ出そうとした。
 その前を立ち塞がる様に飛んできたのは、ケイウスの相棒、空龍のヴァーユだ。翼を羽ばたかせて『竜巻撃』を発生させ、その衝撃で数匹の蝙蝠が消え去ったが、弾かれるように落ちていく蝙蝠の群れもいた。
「意外と地道な作業になるとはねェ。蝙蝠を一匹ずつ倒せば、そのうち本体にも当たるさね」
 黯羽が援護に加わり、『斬撃符』で蝙蝠を切り裂いていく。无は吸血鬼が霧化する時に備えて『瘴気回収』で練力を回復させた。元々は人々が暮らす生活空間ということもあり、一度に回復できる練力は限られていた。
「蝙蝠の方、お願いします」
 主に言われて、ナイは『狐の嫁入り』を使い、自身の周囲に雨を降らせた。射程内にいた蝙蝠は奇声を発しながら消えていく。
 靖はケートとソルが頑鉄から離れないように気を配りつつ、2人に敵の術にかかっていないか『術視「参」』で確認した。
「どうやら無事だな。盗賊の中に魅了にかかっていたヤツもいたんだが、さすがに戦闘前に術を解除する隙はなかった‥敵も必死だったみてぇだな」
「お頭は無事かい?!」
 ソルが靖に詰め寄る。
「ボスは魅了されてなかったぜ。恐慌状態は自然と回復するから心配すんな」
「そうか。それなら良かった」
 一安心したのか、ソルは穏やかな表情になっていた。
「安心するのは、確実に吸血鬼を倒してからだ。油断するな」
 靖に言われて、ソルは真顔になった。
「そうだな。俺が動いたら、それこそ敵に狙ってくれっと言ってるようなものだしな」
「ま、そういうこった。ケートも大人しくしてろよ」
 靖が釘を刺すと、ケートは「はぁ〜い」と空返事だ。
 一方、羅喉丸はソルたちに近づこうとする蝙蝠の群れに『瞬脚』で踏み込むと『真武両儀拳』で叩き潰していく。
「なかなか霧化しないな。手間はかかるが、蝙蝠ならば確実に仕留められる」
 皆の協力もあり、蝙蝠の数も次第に減っていく。上昇して逃げようとしても、赤紅とヴァーユが空中で行く手を遮り、さらにケイウスが『魂よ原初に還れ』の曲を奏で、範囲内にいる蝙蝠を全て消し去った。
 蝙蝠が3匹残っていたが、黯羽は纏めて抱きしめると『天姿国色』の奥義を発動‥吸血鬼は少年になり、本来の姿‥ノーライフタイラントになった。
「本当に美少年だねェ。凄ェ惜しいが、せめて良い夢でも見ながら冥土に行かせてやるさね」
 吸血鬼は黯羽に抱き締められたまま、ダメージを受けても歓喜の表情で悲鳴をあげていた。やがて霧となり、黯羽の両腕からすり抜けていった。
「霧になっても、まだ打つ手はある」
 リューリャの奥義『斬神』による刃が、霧となった吸血鬼を切り裂く。
「形無きものさえ斬る我が剣から逃れる術はない」
 四方に広がるように霧が分散されていく。ほんのわずかだが、霧が残っていることに気が付いた无は『十六夜』の奥義を放った。
「念には念を入れておきましょう」
 この気を逃せば、吸血鬼に逃亡される恐れもあった。
「話す機会はありませんでしたが、ここで倒さなければさらに被害が広がる可能性がありますからね」
 无の攻撃で霧は完全に消え去り、吸血鬼の姿も跡形もなく無くなっていた。
 こうして、皆の連携により、少年吸血鬼を退治することができた。
 攻撃側が戦闘に専念できたのも、ケートとソルを守るために防衛してくれた仲間たちがいてくれたからだ。
 羅喉丸は改めて実感した。
 攻撃側と防御側の連携があったからこそ、吸血鬼を倒すことができたのだ。




 一時的に恐慌状態になっていた盗賊たちは広場の隅に隠れていたが、戦闘が終わると、それぞれがゆっくりと立ち上がった。
「‥‥倒せたのか?」
 正気に戻った盗賊のボスは周囲を見渡し、呟く。他の盗賊たちも元の状態を取り戻したが、戦況が分からず仕舞いだった。
「吸血鬼は倒せたよ。怪我している人はいないかな?」
 ケイウスはソルを連れて、盗賊たちが居る所まで歩み寄る。
「そうか、倒せて良かったぜ。ギルドに依頼して正解だったな。軽い怪我をしているヤツらは、後ろにいるぜ」
 ボスはソルと目が合うと、うれしそうに笑っていた。
「戦闘中に蝙蝠の群れが飛び交ってたから、それで怪我したのかもなぁ。俺が治癒してやる」
 靖が『閃癒』を施すと、周囲にいた盗賊たちの怪我は直に回復した。
「おお、ありがてぇ」
 怪我が治ると、盗賊たちはそれぞれ感謝の意を述べていた。
「ンで、ソルはこれからどうする気だ? 盗賊団はソルの仲間だって聞いたぜ」
 黯羽の疑問に、盗賊のボスが言った。
「俺様としては、ソルを仲間に入れたいと思ってんだけどよ。伝承を歪めたアガロの子孫ってことで、ソルは裏切り者扱いだ。ここにいるより、ソル、俺様と一緒に来い!」
「でも、お頭たちにも迷惑かけたくないし」
 ソルはまだ決めかねていた。ケイウスが心配そうに告げる。
「ここの住民たち、やたらと『子孫』に拘ってて、そうした思いが吸血鬼に付け込まれる隙になったんじゃないかな。ソルが来る前は、ケートがラファの子孫というだけで、警戒していた住人もいたそうだよ」
 靖はケートの様子を気にしながら言った。
「先日、ラファ集落のオアシスに、ラファとミデンに関する遺跡が現れてから、ケートに対する住民の態度も良くなってきてはいるが、事実が分かったことで、今度はソルに対する態度も変わったんだぜ。伝承に振り回されているようにも思えてならねぇ」
 その話を聞いて、无は思いついた。
「ソルとケートが囮役になってくれたおかげで、吸血鬼を退治できたと住民たちに知らせてみましょう。伝承を鵜呑みにするなら、私たちの話を信じる者たちも出てくるでしょうからねぇ。新たな伝承が生まれれば、過去の呪縛からも解放できるはずです。吸血鬼をレド集落で退治したのは事実ですしね」
「无が今回のことを伝承として纏めてくれるなら、エセルもきっと喜ぶね。依頼期間は残り四日間‥その間に物語を作ることも可能だね」
 ケイウスがそう言うと、无は静かに頷いた。



 最終日。
 新たな伝承を書き上げた无は、族長宅にいるエセルと面会した。
「これは私が書いた新しい伝承です。もしよければ、今後もレド集落で、語り継いで頂けると不要な過去の呪縛も少しずつ無くなっていくはずです」
 そう言って手渡し、エセルが受け取る。
「无さん、ありがとう。今回、吸血鬼退治に参加してくれた皆さんにも感謝します。この伝承によって、救われる部族も少しずつ増えていくと思います。過去に因縁があった子孫たちが開拓者たちと協力してアヤカシを退治したという物語は、事実として大切に残していきます」
 エセルは何度も礼を告げた。
 その後、ソルは无が書いた伝承を読むと、ようやく決意した。
「俺は、お頭に付いていくことにする。あなたたちの活躍を見ていたら、俺にでも何かできることがあるんじゃないかと思ってさ」
「行くのか。仲間が見つかって良かったな」
 リューリャが何事もなかったかのように告げた。
「ありがとう」
 ソルは何か思い出したのか、楽しげに笑っていた。
「ソル、元気でね」
 ケイウスが人懐こい笑みを見せた。
「ケイウスこそ、元気でいてくれよ」
 ソルは別れを惜しむように微笑んでいた。黯羽が、ひょっこり現れた。
「盗賊たちが広場で待っているようだぜ。住人たちが戻ってくる前に出発するらしいさね」
 どうやら黯羽は、ボスから伝言をあずかっていたようだ。
「そうか。教えてくれてありがとう。今回は本当に世話になった」
 ソルはそう言った後、開拓者たちと別れを告げて、盗賊たちが待つ広場へと向かった。
「ところでケートさん、これからもここにいるのか?」
 羅喉丸に声をかけられ、ケートが顔を上げた。
「もうしばらく、エセルの所で居候するつもりだよ。集落の子供たちに、无さんが作ってくれた物語を読み聞かせてあげたいんだ」
「そりゃ、良い考えだな。ケートも成長したもんだねぇ」
 靖の言葉に、ケートは喜びを隠しきれず、はしゃいでいた。
 そんな様子に、无も小さく微笑していた。