ノスタルジアの黒い夢
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/23 04:22



■オープニング本文

 オアシスから、歌声が聴こえてくる。
 それは、とても魅力的で‥。
 魂が揺さぶられるほどに‥。

 ケートという少女は、故郷にあるオアシスに3人の乙女がいることに気が付いた。

『ふふ、いらっしゃい』
『こっちは楽しいわよ』
『とても、とても素敵な所よ』

 ようやく故郷に戻れた安心感。
 生き残ったのは、自分だけかと思っていた。
 水の乙女たちは、もしかしたら、故郷の者たち‥?

「待ってて、すぐ、そこへ行くからね」
 ケートは導かれるように、オアシスへと入っていった。

 そして‥‥。



 アル=カマル、ラファ集落。
「ケートさん、どこへ行ったんでしょうか?」
 廃墟と化した集落に、吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)の姿があった。
 開拓者たちの協力もあって、『ティアロの髪飾り』を発見することができた。
 その髪飾りは、ラファとミデンの子孫が身に付けると、七色に輝くという言い伝えがあった。
 それは事実となり、今はケートが大切に持っていた。
 ケートの故郷であるラファ集落に辿り着いてから、一時間が経った頃であろうか。
 いつのまにか、ケートがいなくなっていたのだ。
「ケートさん、どこですかー?」
 ロマラは心当たりの場所を探し回っていた。
 オアシスの近くにラファとミデンの墓があったが、そこに着くとケートが水の中に引きずり込まれているのが見えた。
「ケートさん?!」
 ロマラはとっさにリュートで『再生されし平穏』を奏でた。
「‥‥?! なに、こいつら、妖精じゃなくてアヤカシ?!」
 ケートは我に返り、自力で水の中から這い上がった。
「ルサルカというアヤカシです。妖精の姿で人を惑わし、狙った対象を混乱させると水の中へと引きずり込んで‥」
 ロマラはそこまで言うと、さらに攻撃体勢に入った。それに気が付いたルサルカたちは、すぐさま逃げ出してしまった。
「はあ、助かった‥まさか、このアタイが‥」
 ケートは地面に寝転んで、大きく息を吸った。
「ケートさん、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
 心配そうに言うロマラに、ケートは照れ笑いを浮かべた。
「ロマラお兄ちゃん、ごめんねー。アタイ以外にも、生き残りがいたのかと思って、ついうれしくなって‥‥だけど、アタイが見てたものはアヤカシの仕業だったんだね。怪我はしてないから安心して」
 ラファ集落は、一年三か月前にアヤカシの集団に襲撃され、滅ぼされてしまった。
 生き残ったのは、ケートだけ。
 彼女が助かったのは、イリドという開拓者が助けてくれたおかげであった。
 だが、イリドは多勢のアヤカシに集中攻撃を受けて、亡くなってしまったのだ。
 そんな過去を、ケートは未だに忘れることができなかった。
「そうだ‥イリドお兄ちゃんには弟がいるって聞いたことがあるんだけど」
 ケートはそう言いながら、どこか辛そうな表情をしていた。
「‥‥エセル君のことですね。今はレド集落の族長になりました」
 ロマラはいずれ話さなければと思っていた。
 今が、その時かもしれない。
「エセルかー。イリドお兄ちゃんに似て、かっこいいのかな?」
 ケートがふと微笑んでいた。
「そうですね。どちらかと言うと、正反対な感じで、真面目な少年ですよ」
 ロマラがそう言った途端、ケートは起き上がった。
「真面目? 少年? 年はいくつ?」
「13才だったと思います」
「アタイより、一つ下かー。じゃあ、かわいい感じなのかなぁ」
 ケートはまだ会ったこともない少年の顔を想像していた。
「‥‥ケートさん」
「なに?」
「‥‥できるだけ、日の当たる場所に居ながら、この場から離れましょう」
 ロマラが突然、そう告げた。ケートは首を傾げた。
「どういうこと?」
「他にもアヤカシがいるかもしれませんから」
 ロマラはそう言いながら、周囲を警戒しつつ、ケートを連れて集落の入口まで移動することにした。
 物陰から刃のようなものが飛んできたが、なんとか回避しながらも、無事に入口まで辿り着くことができた。
「姿は見えなかったけど、やっぱりいるみたいだね」
 ケートの問いかけに、ロマラは胸騒ぎを覚えた。
「‥‥なんだか嫌な予感がします。気を付けてください」
 人は夢を見る。
 希望だと思っていたことが、絶望に変わることもある。
 夢は夢でしかないのか。
 それとも、夢は現実の延長線にあるものなのか。
 それを知ることは、正しいことなのか。
 否、それすら、叶わないことなのかもしれない。

 少しずつ、夢が近づいてくる。
 ゆっくりと、ゆっくりと、忍び寄ってくる‥‥。

 さあ、楽しい夢を見ましょう‥。

 空耳だろうか?

 ロマラが振り返った時、ケートの姿は消えていた。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
无(ib1198
18歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
星芒(ib9755
17歳・女・武


■リプレイ本文

 アル=カマル、ラファ集落。
 アヤカシに襲撃され廃墟と化し、以前のような活気はなく、静けさが漂っていた。
 聴こえてくるのは風の音だけだ。
「ケートちゃん、あたし達が絶対、見つけ出してあげるからね!」
 星芒(ib9755)は片手を握り、力説する。
「ラファ集落のどこかにいる可能性は高いと思うが、万が一のことも考えて、南西2キロ辺りにある小さな村も調査しておきたいな」
 羅喉丸(ia0347)の着目点は、意外な形で新たな情報へと繋がることになった。
 ロマラ・ホープ(iz0302)が懐から手紙を取り出す。
「南西の村には、ミデンの弟デリクの子孫である長老が住んでいます。あの方なら、何か知っているかもしれません」
 そう言って、ロマラは羅喉丸に手紙を渡した。それを見て、无(ib1198)が眼鏡を取る。何か閃くと、その癖がでるのだ。
「情報をできるだけ多く得るためにも、二手に分かれて調査してみましょう」
「そうだね。ここ以外にも捜査範囲を広げてみよう☆」
 星芒が言うと、フェンリエッタ(ib0018)が歩み出た。
「私も気になることがあるから、村で聞き込みがしてみたいわ」
「んー、じゃあ俺はラファ集落に残るな。ラファとミデンの思い出の地とか気になるしな」
 笹倉 靖(ib6125)がそう告げると、无とロマラも『ラファ伝記』の内容を再確認するため、集落で調査することにした。
「ロマラさん、村に行く前に確認したいことがあるんだ。ケートちゃんがルサルカに襲われそうになった後、ロマラさんは日の当たる場所を移動しながら集落の入口まで辿りついたんだよね。その後、ケートちゃんが消えちゃったのかな? ラファ伝記にもヒントになるようなことが書かれていたとか?」
 星芒の質問に、ロマラは思案顔で答えた。
「この地方では、水の乙女と出会ったら影のモノに気をつけよ。虜になったら影に呑みこまれる‥という言い伝えがあります。ケートさんがルサルカを『水の乙女』と呼んでいた時、もし言い伝え通りなら、影のモノが出てくるのではと思ったんです」
「それで集落からすぐに離れようとして、やっと入口に着いたと思ったら、一瞬の隙にケートちゃんが消えたってことは、他にもアヤカシがいるってことは確かだよね」
 星芒の言うことは、もっともなことだ。
「村の長老さんから話を聞けば、もう少し詳しいことが分かるかもしれないわ」
 フェンリエッタは長老がデリクの子孫であるならば、自分の疑問にも応えてくれるのではと考えていた。



 羅喉丸はフェンリエッタ、星芒と共に村外れにある長老の屋敷を訪ねた。
「はじめまして、長老さん。ロマラさんから手紙を渡すように言われて来ました」
 丁寧に言う羅喉丸。フェンリエッタと星芒が自己紹介すると、長老は羅喉丸から受け取った手紙を読み、三人を客室へと案内した。
 長老は落ち着いた様子にも見えたが、どこか心配そうな瞳をしていた。
「ケートちゃんが行方不明になって、あたし達、何か手がかりがないか調査しているんです」
 目上には敬語を使う星芒であったが、いつもの明るい笑みを浮かべる。
「ケートちゃんはラファの鏡とティアロの髪飾りを持っていたそうです。鏡を沈めて災いを封じたラファが影のモノに復讐されたという伝承は残っているのでしょうか?」
「その言い伝えは事実とは異なるが残っておる。鏡の部族の長ミデンを逆恨みした男が事実を歪めて、言い伝えとして今でもこの地方では伝承として人々に知られ、本当のことを知る者は少ないのじゃ」
 長老の言葉に、星芒は驚いた。
「元凶はアヤカシではなくて、ミデンを逆恨みした男の企みだったんですね?!」
 無言で頷く長老。対してフェンリエッタは物怖じしない凛々しい礼を払う。
「ラファ集落のどこかに、地下へと続く場所はありますか?」
「ふむ、確かにあるぞ。ミデンの墓の近くに地下遺跡へと続く階段がある。じゃが、そこは真夜中にならないと扉が開かないようになっておる。ケート嬢ちゃんは、そこへ連れ去られた恐れがある。一刻も早く見つけ出さねば、彼女の命は‥」
 長老はそこまで言うと、羅喉丸に目を向けた。
「よくぞ我が村に気が付いた。ケート嬢ちゃんはラファ集落が滅ぼされた後、しばらくワシの屋敷に滞在しておったのじゃ」
 懸命に頭を下げる長老に、羅喉丸が応えた。
「ケートさんを見つけ出して、長老さんの御自宅まで連れてきます。ですから安心してください」
「ケートちゃんの居場所さえ分かれば、大丈夫です」
 朗らかに微笑む星芒。フェンリエッタもふと温和な笑みを見せる。
「教えてくださってありがとうございます。長老さんのおかけで、夜なら地下へ行けることも分かりましたし、この御好意は無駄にはしません」
「日が昇る頃には地下の扉も閉じる。その前に、ぜひとも嬢ちゃんを見つけてくれ。いつでも戻ってきても良いように、ワシは待っておるぞ」
 長老は三人と固い握手をすると、集落へと向かう開拓者たちを見送った。
 後日、分かったことであったが、長老は他の村人には自分がミデンの弟デリクの子孫であることを隠して、ひっそりと暮らしていたそうだ。ロマラがその事実を知ったのは一ヶ月前のことであった。



 一方、その頃。
 靖はロマラから借りた地図を見ながら、話を聞いた。
「ケートが見た幻は、他にも生き残りがいると思って、その方向へ歩いていったらオアシスだったってことか」
 壊れかけた屋敷を見て、靖は複雑な心境になっていた。
 ここは、ケートの実家‥この二階にラファ伝記があったのだ。
 言い伝えに書かれていた思い出の地に、ケートの両親が屋敷を建てたらしい。
「郷愁の想いを利用されて、アヤカシの獲物になってしまったのでしょうね。災い‥すなわち、アヤカシに好まれる要因をケートは持っているとかね」
 无は望遠鏡で周囲を確認していた。ケートの実家である屋敷から北の方角を見遣ると墓が見えたが、他一帯は残骸が散らばり、ほぼ壊滅。屋敷に来るまでにルサルカたちと遭遇したが、靖の『白霊弾』と无の『白面式鬼』の術により瘴気と化し、残りは瞬間移動で逃げ去っていった。
 その後、三人はケートの屋敷跡にやってきていた。ロマラはラファ伝記を捲り、話し始めた。
「ルサルカよりも、影のモノの方が危険です。ミデンの墓付近に地下へと続く階段があるらしいのですが、開ける方法はラファ伝記にも書かれていません。書物の解読は9割ほど進みました」
「影のモノってのが、黒の幽鬼だったら面倒なアヤカシに好かれちまったもんだな」
 靖がそう言うと、无は地に手を当て『瘴気回収』を唱えた。練力の回復具合により、アヤカシが生じるのに十分な空間であることが分かった。
「かなり練力が回復しました。この地がアヤカシにとっては居心地が良いのでしょう」
 それを聞いて、ロマラが溜息交じりに言った。
「この地に住む人々がラファの一族は災いをもたらす者と信じている限り、アヤカシはそうした思念を利用しているだけに過ぎないのかもしれません」
 そうか‥と呟く靖のゆるやかな髪が微かに靡く。
「ケートがラファとミデンの子孫だと分かったのは最近だし、民には知る由もないよな。おそらくラファの血族が滅んだことで、さらに言い伝えには信憑性があると思った者もいるだろうからな」
 靖の言葉を聞いて、无は「確かに」と頷いた。
「ラファ伝記は開拓者しか閲覧していませんからね。この地方に住む者達が、ラファ集落の生き残りがいると知ったら大騒ぎになる可能性もあるでしょう。最悪の事態を避けるためにも、ケートを見つけ出して、今後どうするかも視野に入れた方が良いでしょう」
 无はロマラから旅での出来事を聞いてみたが、この地方の村や集落では未だにラファは災いをもたらすと信じている者が多く、ケートの生い立ちは伏せて旅をしていたと言う。




 夕方、ラファ集落で合流した開拓者たちは、互いの情報を話し合い、真夜中になったら地下へと続く遺跡に行くことにした。
 羅喉丸が用意した天幕を二つ地下扉の近くに張り、夜になるまで待機することになった。
 ロマラが調理器具セットを持っており、鍋に飲み水を入れ松明の火で温めていた。
「地下への扉は真夜中に開くそうよ。日が昇ると閉じる仕組みらしいわ」
 フェンリエッタがロングコート「Bell」を羽織ると、无が湯で溶かした珈琲テュルク・カフヴェスィを眠気覚ましにと皆に一杯ずつカップに入れて手渡していた。无は緑茶を飲んでいた。
「无さん、ありがとう」
 星芒は温かい珈琲を飲み、ホッとしていた。
 天幕の入口に提灯を吊るし、靖はマフラー「オーロラウェーブ」を巻いていた。
「冷え込んできたが、これからもっと寒くなりそうだな」
 夜空に星が輝く頃にはかなり気温が下がっていた。无は天幕に入ると防寒胴衣を重ね着した。
「扉が開いたら、すぐに中へ入ってみよう」
 羅喉丸は翻りのローブを纏い、準備運動。星芒はフリルリボンオーバーを装備していたが、予想以上の寒さで震えていた。それに気付いてロマラがフード付きマントを星芒に手渡した。
「どうぞ着て下さい。そのマントは防寒服の代わりにもなりますから」
「ありがとう、ロマラさん」
 しばらくマントを纏っていると体温の影響か身体が暖かくなってきた。とは言え、辺りは冷たい。だが、動くには十分であった。月が輝き、天空に星が散らばると、まるで吸い込まれそうになる。
 ズズ‥と音がしたかと思うと、地下への扉が開いていた。
「今のうちよ」
 フェンリエッタが暗い地下へと降りると、星芒と无が松明を持ち、羅喉丸と靖は周囲を警戒しながら後を追う。ロマラは星芒に頼まれて、入口付近で『夜の子守唄』を奏でていた。ルサルカが二体、近づいてきたが術にかかり眠りに落ちた。
 靖たちが辿り着いた場所は、宝珠の壁で作られた地下室であった。宝珠の光で辺りは月明かりのように輝いていたが、ケートの無事を確認するまでは松明は消さないことにした。いつアヤカシが襲ってくるのか分からないからだ。
 地下室の片隅で、ケートは虚ろな目をしながら倒れていた。
「ケートちゃん!」
 星芒が何度も名を呼ぶが、ケートは別世界にいるような表情をしていた。
「待ってろ。必ず戻してやる」
 靖が『解術の法』を何度か唱えると、ケートはようやく意識を取り戻した。だが、顔色が少し悪い。
「毒ですね」
 言って、无が『解毒符』を二回使った。ケートの顔も赤みを帯び、毒が消えた。
 ケートの状態は戻ったが、気力が残りわずかだ。靖がケートに声をかけようとした時、通路の先から刃のようなものが飛んできた。
(思念の刃か‥ならば黒の幽鬼‥)
 羅喉丸は前もって『背拳』を常に使って警戒していたこともあり、刃を回避して『泰練気法・壱』で命中率を上げ『気功波』を放った。
「当たったか?!」
「通路にいた気配が一瞬で消えたわ」
 フェンリエッタが『心眼「集」』を使い、アヤカシの動向を探っていた。
「まずはケートをこの場から救出しましょう」
 无の的確な判断に、羅喉丸が言う。
「アヤカシは後でも倒せる。まずはケートさん救出を優先しよう」
「その通りだわ。急ぎましょう」
 フェンリエッタはケートを庇うように抱え、階段を駆けていく。星芒は松明を持ちながら、先へと走り出す。
 開拓者たちが階段を駆け上る間、様々な所から刃が飛んできたが、脱出に専念。朝日が昇ると同時に扉が閉まった。皆は脱出できたが、怪我をしていた者もいた。靖が『閃癒』を唱え、全員の怪我を回復させた。
 フェンリエッタは外で待機していたロマラにケートを託すと、近くにいたルサルカの手首を刀で切り裂いた。その衝撃で敵が消滅していく。无は『白面式鬼』を唱え、式が敵の喉を攻撃し、もう一体のルサルカが息絶えた。
 ロマラはケートの身を案じて、その場から連れて離れた。
 墓の影から突如、黒の幽鬼が姿を現す。 
「朝から出てくるとはねぇ」
 皮肉も込めて言う靖であったが、朝から幽鬼が出るのは珍しい。ついに外での戦闘となった。
 星芒は『戒心発』を唱え、敵の攻撃に備えた。
 黒の幽鬼は周辺に強力呪詛を施し、フェンリエッタを絶望に落とし入れようとしたが、彼女は気力を費やし、敵の術を打ち払った。
「誰にでも救いはあるわ。絶望を希望に変える力を‥」
 フェンリエッタの願いは、それほど強かったのだ。他の者も呪詛の抵抗に成功し、無事だった。
 当初はルサルカの目撃数は三体であったが、オアシスから十体ほどのルサルカが出現した。
「逃しはしない」
 羅喉丸の身体が『泰練気法・壱』で赤く染まり、片手で荒縄を振り回して敵の腕を絡み取ると、『気功波』を放った。射程距離内にいたルサルカはダメージを受け、次々と撃ち落とされる。靖が『白霊弾』で援護攻撃に加わり、三体が撃ち抜かれた。
 さらに无の『白面式鬼』が、敵に一度攻撃するとルサルカが消滅。すさかず无は魔刀「エペタム」を投げて応戦する。攻撃が当たると、魔刀が手元に戻ってきた。
 その場にいたルサルカは全て消え去り、残りは黒の幽鬼のみ。 
 フェンリエッタは『精霊壁』を唱え、黒の幽鬼に狙いを定めると、殲刀「秋水清光」で『白梅香』を繰り出した。見事に命中して首を斬り裂き、胴体にも攻撃が当たる。幽鬼の瘴気がかなり浄化され、姿が薄くなっていく。
「やっぱ、この術かな☆」
 星芒が霊刀「数珠丸」を掲げ『護法鬼童』を召喚。幽鬼は炎の幻影に攻撃され、消滅していった。
 アヤカシとの対戦はすぐに終わった。
 強者揃いの開拓者たちにとっては、慎重に対処すれば勝ち目のある相手に過ぎなかった。
 だが、ケートを捕らえた者が誰なのか、謎が深まるばかりだ。



 それから‥‥。
 ケートはロマラから経緯を聞いて、茫然としていた。
 フェンリエッタが優しくケートを抱きしめる。
「もう大丈夫よ。長老さんが貴女のこと、待ってるわ」
「じっちゃんが‥アタイのことを‥?」
「夢見は大変だったようだな。長老と一緒に家族や友人のこと、祈ってやりなよ」
 靖はケートが無事だと分かり、安堵した。无が古びた首飾りをケートに渡す。
 思い出の品になればと。
「屋敷で見つけたものです」
「これは母さんの物だ‥ありがとう」
 ケートは大切に握り締めると、顔を上げて笑みを浮かべた。
「良かったね、ケートちゃん!」
 星芒が思わずケートに抱きつく。皆の様子を、羅喉丸は微笑ましく見ていた。
 その後、開拓者たちはケートを長老の自宅まで送り、別れた。


 夢は夢。星は星。ただ、それだけのことだろう。
 それでも、この世界で生きていくのだ。
 絶望を知る者は、希望を産み出すこともできるのだ。