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■オープニング本文 砂漠の地、アル=カマル。 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、レビンという男性から手紙を受け取り、ニイ村を訪れていた。 「お久し振りです。レビンさん、今回はどういったご用件でしょうか?」 手紙には『直接会って話がしたい』と書かれていたが、どうにも急ぎの様子だと思い、ロマラはレビンの自宅にやってきたのだ。 「急に呼び出して申し訳ない。先日、娘のミリィと家の中を掃除していたら、地図が出てきたんだ」 レビンはそう言いながら、卓の上に地図を広げた。 「この地図に心当たりは?」 ロマラの問いに、レビンは躊躇いがちに言った。 「この地図は、イリドという開拓者が置いていったものなんだが‥‥彼がどうなったのかは、知り合いから聞いている。それで、この地図をどうすれば良いのかと」 「それは‥恐れ入ります。イリドさんのことは私も聞いています。おそらく、この地図は『ラファ』に関するものでしょう。イリドさんは生前、『ラファ伝記』を探していましたからね」 そう言って、ロマラは懐から書物を取りだした。 「幸いにも、開拓者さんのご協力のおかげで『ラファ伝記』は見つかりました。解読も、ある程度‥進みました。一つお聞きしたいのですが、『ミデン』という名前に心当たりはありませんか?」 ロマラがそう言うと、レビンは考え込んでいた。 「うーぬ‥‥そういや、イリドさんが『ミデンは、どこかの土地の名前なのか?』と地図を見ながら言っていたような気がするな」 「ということは、この地図は『ミデン』に関わる物かもしれませんね。ミデンというのは、言い伝えでは、鏡を持った部族の長の名前らしいです。その地図、お預かりしてもよろしいですか? お願いします」 ロマラは知的好奇心を隠せなかったのか、レビンに対して必死に頭を下げた。 「最初から、そのつもりだったよ。できればイリドさんに渡したかったんだが、ロマラさんがイリドさんの友人と聞いてな。それで、呼び出したんだ。大事な物かもしれんから、アンタに直接、渡したかったんだ」 そう告げて、ロマラに地図を手渡した。 「ありがとうございます。これで調査も進みそうです」 「いやなに、一般人の俺では遺跡に入ることさえできないからな。よろしく頼む」 会釈するレビンに、ロマラも御辞儀した。 「はい。『ラファとミデン』の調査は、イリドさんの願いでもありますから」 こうして、ロマラはミデンに所縁のある遺跡へと向うことにした。 ● ニイ村から、およそ北へ3キロ辺りに風化しかけた古代遺跡があった。 ティアロの集い。 書物『ラファ伝記』には、そう記されていた。 レビンから貰った地図は、遺跡周辺と内部の地図だった。 ロマラは見習い巫女のケートを連れて、遺跡のすぐ西側にあるオアシスで休むことにした。 「綺麗な水だねー。まさに水は天の恵みだよ」 ケートは、はしゃぎながら水際に立った。 その時である。 水面が揺れたかと思うと、半獣のようなアヤカシが姿を現した。 上半身は人間だが、身体は馬のようであった。 両腕は地面につくほど長く、皮膚がないせいか、脈打つ黒い血管が不気味に見えた。 「ケートさん、逃げて下さい! ナックラヴィーです!」 ロマラは荷物を抱えながらケートの手を引き、その場から離れた。 「ナックラヴィーって、確か瘴気の毒煙を使うアヤカシだよね」 ケートが岩陰に隠れると、ロマラは警戒しながら物陰からオアシスを見ていた。 「瘴気の毒煙は、瘴気感染しますからね。うかつには近づけません。しかもナックラヴィーは水中戦を得意としていますが、陸上でも戦えるアヤカシです。あれを倒さないと、遺跡の中には入れませんね」 「またまた強いアヤカシかー。アタイたち二人じゃ、無理だよね」 ケートが呟くように言うと、ロマラは即答した。 「まったく、その通りです。否定もできません。ギルドにも報告しましょう。アヤカシを倒して、遺跡を調査してくれる開拓者さんを募集してみます」 「アタイはともかく、ロマラお兄ちゃんは、それなりに強いでしょう?」 ケートが心配そうに言うと、ロマラは真剣な顔で答えた。彼は冗談が言える性格ではなかった。 「私は吟遊詩人です。サポートくらいはできますが、前衛で戦うのには向いていません」 「そういうことなら、アタイも後衛タイプかなー」 ケートは巫女としては見習いではあるが、秘宝『ラファの鏡』を持っていた。 彼女は、ラファ集落の生き残りであった。 故郷の言い伝えを調査して、後世に残したい。 そういう願いもあり、ケートはロマラと一緒に遺跡探索に来ていたのだ。 だが、入口付近やオアシスにはナックラヴィーが住み着き、近付くと瘴気感染で汚染される恐れもある。 今のところ、瘴気感染を治癒するスキルはない。 万が一、瘴気に感染したらギルドで治癒してもらうことは可能だ。 またやも、やっかいな依頼だが、遺跡の奥には『ティアロの髪飾り』があるらしい。 それを発見すれば、『ティアロ』の意味も分かるかもしれない。 「‥‥ナックラヴィーを倒せたとしても、遺跡内部には罠があるらしいです。奥まで辿りつけるかどうか‥」 ロマラは、ただ祈りばかりであった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
露草(ia1350)
17歳・女・陰
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
星芒(ib9755)
17歳・女・武
ウルイバッツァ(ic0233)
25歳・男・騎 |
■リプレイ本文 アル=カマル、ニイ村。 準備も兼ねて、村の宿屋で一泊することになった。 柊沢 霞澄(ia0067)の相棒からくり麗霞は、主が日差しに弱いことが気掛かりで、日除けになるものがないか探していた。 「さすがに傘はありませんね」 「麗霞さん、気にかけてくれて、ありがとうございます‥」 二人の様子を見て、 ロマラ・ホープ(iz0302)がそれとなく近づいてきた。 「もしよかったら、日除け代わりにフード付きのマントをお貸ししますよ。アル=カマルの民族衣装ですけど、この地に住む者でも、砂漠の暑さは大変ですからね」 そう言って、ロマラは霞澄に民族衣装を手渡した。 「お気遣い、ありがとうございます‥。日差しは少し苦手だったので、助かります‥」 霞澄は遠慮がちに言うが、異国アル=カマルにはどこか神秘的な魅力を感じたこともあり、思い切って依頼に参加したのだろうか。 ティアロの髪飾りがどのようなものか、霞澄は気になっていた。 「今回も必ずお守りします。それが私の使命であり、生き甲斐でもあります」 淡々と告げる麗霞であったが、霞澄はどこか儚げに微笑んでいた。 ロマラは露草(ia1350)が村に辿り着くまでの間、日差しで目眩を起こしていたことに気付いた。 「露草さん、予備のフード付きマント、お貸しますよ」 今は宿屋の中にいるため、露草は落ち着いていたが、やはり太陽の光は気になる。 「遺跡探索のお手伝いができればと来てみましたが、遺跡やオアシス周辺にアヤカシがいるらしいですね」 露草がそう言うと、相棒の天妖、衣通姫が主の肩に乗り、目を輝かせる。 衣通姫に強請られて、露草は寸法合わせに民族衣装のフード付きマントを羽織ってみた。 「ぴったりー、すてきなのー」 うれしそうに、拍手する衣通姫。 喜ぶ衣通姫を見て、露草は依頼中だけ民族衣装を借りることにした。 「さてと、次は地図の確認ですね」 ロマラはテーブルに地図を広げると、緑の瞳が印象的なウルイバッツァ(ic0233)が顔を覗かせた。 「これが遺跡内部の地図か。周辺に『ラファ』関連の集落や村とか、あるのかな?」 「ティアロ遺跡から、およそ東へ5キロ辺りにラファ集落がありましたが、アヤカシの集団に襲撃されて、今は廃墟になっています。ですが‥‥」 ロマラはそこまで言うと、黙り込んでしまった。隣にいるケートの心情を考えると、言い出せなかったのだ。 ケートの懸命な姿に心を動かされて、フェンリエッタ(ib0018)はそっと彼女の肩に触れた。 「言い伝えでは、ラファは災いをもたらす者と呼ばれているようだけど、それは物語の一面に過ぎない‥様々な角度から光を照らして、ラファという人物を見つめ直すことができれば、物語にも温もりの心が満ちてくると思うわ。言い伝えをそのまま鵜呑みにするのではなく、いろんな視点から調査しようとするロマラさんたちのお手伝いがしたいと思って、ここに来たの」 「フェンリエッタさん、そう言って頂けると本当にうれしいです」 ロマラはうれしさのあまり、目頭が熱くなっていた。 そんな彼の姿が気になったのか、フェンリエッタの相棒である羽妖精のラズワルドが、主の耳元で囁いた。 「ロマラってヒト、泣いてるのかな?」 「心配しなくても大丈夫よ。ロマラさんは感受性が豊かな人なのかもしれないわ」 「そうなんだ。フェンリエッタも感性が空みたいに広いと思うけどね」 フェンリエッタはティアロの髪飾りを見つけ出し、謎を解明したいと思っていた。 羅喉丸(ia0347)も真実の行く末を知りたくて、ケートたちに協力したいと考えていた。 「ティアロの髪飾りは、ケートさんが身に付けることで何か起こる可能性もあるな。かと言って、罠の危険もあるし、慎重に探索していこう」 「確かラファ伝記には『ティアロの集い』と書かれていた箇所があったらしいけど、祭事場や舞台だとしたら、巫女か吟遊詩人の持ち物かもしれないわね」 フェンリエッタがそう告げると、星芒(ib9755)は何か閃いたのか、皆の傍まで駆け寄ってきた。 「そっか。そうかもしれない。ケートは巫女だったよね。だとしたら、巫女が使っていた髪飾りかもしれないね☆」 そう言いながら、星芒はロマラに目を向けた。 「ラファ伝記にも、ラファは巫女だったと記載されています」 皆の話を聞いて、両腕を組みつつウルイバッツァが相槌を打つ。 「もしかしたら髪飾りは遺跡の中央にあるかもしれないな。『集い』というからには、大勢の人々が集まれるような大きな集会所っぽい大広間とかさ」 「ウルイバッツァさんの推測通り、書物にも髪飾りは遺跡の中心部にあると書かれています」 ロマラがそう言うと、フェンリエッタが応えた。 「遺跡の罠は、忍眼で対処できると思うけど、問題は遺跡周辺とオアシス辺りにいるナックラヴィーね」 「瘴気感染の抵抗力を上げる術はありますけど、限りがありますから、できるだけ接近せずに退治できれば良いのですが‥」 霞澄の言うことは理に叶っていた。 「ナックラヴィーの動きを封じるために、罠を設置するつもり。上手くいけば、ナックラヴィーを捕まえることができるかも」 星芒は相棒の提灯南瓜、七無禍を連れて来ていた。 禍を七つ無にするとの願掛けも込めて、南瓜の花「ななんか」が名前の由来らしい。星芒の相棒に対する愛情が伝わってくる良い響きの名だ。 「星芒ちゃん、僕も協力するよ。アーマーで追い込んで、ナックラヴィーを仕留めてやるさ」 ウルイバッツァの言葉に、羅喉丸も同意するように頷く。 「皆で力を合わせれば、ナックラヴィーは倒せるはずだ」 「妾はしばし、静観する。弟子の力量がいかほどのものか、気になるのじゃ」 羅喉丸の肩には、天妖の蓮華が座っていた。羅喉丸の相棒なのだが、蓮華は自称『羅喉丸の師匠』でもあった。 ● 翌日。 オアシスに近づくと、ナックラヴィーの巨体が見えた。 敵の周囲には『瘴気の毒煙』が漂っていた。 ティアロ遺跡に辿り着いた開拓者たちは、霞澄を中心に円を描くように相棒と共に並ぶ。 「皆に精霊の加護がありますように‥」 霞澄が祈りを捧げると、『冥護の法(M)』による光が集まり、周囲にいる者たちも光に包まれていく。 仲間を守りたいと願う霞澄。その光は、彼女の心を映し出すように美麗な輝きがあった。 「行くぞ、スメヤッツァ!」 主の声に応えるようにウルイバッツァのアーマーケースから「人狼」改スメヤッツァが出現した。 ウルイバッツァは全長3Mのスメヤッツァに搭乗すると『迅速起動』でスタンバイに入る。 ナックラヴィーは砂漠にアーマーの姿があることに警戒したのか、『瘴毒弾』を放ち、着弾した周辺に瘴気の毒を撒き散らしていた。数分ほど漂うため、接近するのは難しい。 「フェンリエッタ、遺跡の入口付近だけじゃなくて、オアシスの南側にも瘴気の毒が漂ってるよ」 ラズワルドは『妖精の唄』で援護し、周囲の状況を主に知らせていた。 「ラズ、気を付けてね」 フェンリエッタは敵の『瘴毒弾』を回避しつつ、確実に射程距離内に入るまで意識を集中しながら移動していた。 (自動命中スキルでも、練力の消費は激しいから無駄にはできないわね) 術を使うにしても、『瘴毒弾』の効果範囲は思っていたよりも広がっていた。 フェンリエッタは気力を振り絞り、瘴気の毒が充満する中へと入った。抵抗に打ち勝ち、『黄泉より這い出る者』を一回召喚することができた。姿無き高位式神の「何か」がナックラヴィーに食らい付き、敵は口から血を吐いて苦しみだした。 万が一を考えて、フェンリエッタはその場から離れた。長時間、同じ場所にいたら瘴気感染で汚染される危険がある。麗霞は主の霞澄を守るため、相棒銃「テンペスト」で敵を狙い撃つ。その途端、ナックラヴィーは遺跡の方へと走り出した。チャンスとばかりにスメヤッツァが『オーラダッシュ』で追跡。『効率稼動』により消費練力を抑えながら、ウルイバッツァはアーマーを操縦する。 「よし、もう少しだ」 ウルイバッツァがそう告げた時、オアシスと遺跡の中間付近に巨大な南瓜が姿を現す。 「ジャジャーン☆ やったねー」 星芒は『心覆』を使って岩陰に隠れていたが、敵が罠にかかるとVサイン。七無禍の『南瓜檻』が発動して、ナックラヴィーは巨大な檻に閉じ込められてしまった。 フェンリエッタの術で生命力が少なくなっていたせいか、ナックラヴィーは檻を壊すほどの余力はなかった。 ウルイバッツァの意思に同調するようにスメヤッツァが『ヴォルフストラーク』を使い、豪剣「リベンジゴッド」が唸りをあげ、横斜めに切り裂く。檻がスライスされ、敵の右腕が飛び散った。ふと、一つ目が檻の中から見えた。 様子を伺っていた露草は、敵の一つ目の動向が気になり、『眼突鴉』を召喚させた。敵の目に飛び込み、眼球部分を集中的に攻撃する術である。 羅喉丸は露草を庇うように前衛に立った。 瘴気感染を防ぐため羅喉丸は気力を使い、さらに『真武両儀拳(M)』を繰り出した。命中する度にその一点に気が吸いこまれていき、敵は内部から破壊されて、粉々に砕け散った。 「これで瘴気感染の心配はなくなったな」 破片が飛び散ると、砂に溶け込むようにナックラヴィーが消えていく。 「少しでも瘴気が残ってたら、後が大変だからねー」 散らばっていた破片は、星芒が『護法鬼童』で消滅させた。 ● ナックラヴィーを倒せたことで、遺跡の中に入れるようになった。 「やっぱ暗いみたいだねー。七無禍、灯を頼むね」 星芒が声をかけると、七無禍の周囲が『闇への誘い』で明るくなり、灯のように輝いていた。 開拓者たちは、ロマラとケートを連れて遺跡内部へと進んでいく。 羅喉丸と霞澄は手分けして、灯を頼りに白墨を使い、壁に描かれている紋章の横に印を付けていた。 「この紋章はティアロと関わりのあるものでしょうか?」 霞澄の問いに、ロマラが地図と見比べながら言った。 「これは鏡を持った部族の長『ミデン』の紋章のようです」 「ティアロ遺跡に『ミデン』の紋章か‥やはりラファとも関連があるかもしれないな」 壁に印を付けながら、羅喉丸はロマラが持っている地図を見ながら位置を確認していた。 一時間ほど進むと、行く手を遮るように無数の鋼線が張り巡らされていた。 「‥‥罠よ。皆、用意は良いかしら?」 鋼線を発見したフェンリエッタは『忍眼』を発動させ、周囲を警戒していた。 「鋼線に絡まると、しばらく動けなくなるか、ダメージを受けることもあるわ。気を付けて」 フェンリエッタが殲刀「秋水清光」を構えて前へ出ると、もう一度『忍眼』を使い、他にも罠がないか確認していた。ウルイバッツァは太陽針を持ち、いつでも攻撃できるようにしていた。「人狼」改は遺跡に入る前にアーマーケースに収納していた。 「何かがでてきそうな予感」 ウルイバッツァの言葉に、露草は身構え、衣通姫は主の背中にしがみついていた。 「うしろは、なにもみえないのー」 「いつきちゃん、誰かが怪我したら治癒してあげてね」 「わかったなのー」 そう言いつつも、衣通姫は緊張気味だった。 ‥‥カサカサ。 微かに音が聴こえてきた。 人形兵は暗がりから『鋼線全開』でさらに道を塞いでいく。星芒は『戒己説破』を唱え、錫杖「ゴールデングローリー」で罠がないか確かめながら、鋼線を切ってみたが、徐々に復活して、前には進めなくなった。 「まずは鋼線のヌシを見つけないとね〜」 七無禍は『置物』になり、身動き一つせず、時折、瞳だけ光っていた。ロマラとケートは松明を一本ずつ持ち、周囲を照らして、仲間の様子を見守っていた。 「長期戦だけは避けたいところだな。蓮華、呪声で援護を頼む」 そう告げる羅喉丸に、肩に乗っていた蓮華は弟子の襟元を掴んだ。 「うむ、任せるのじゃ」 羅喉丸は火炎弓「煉獄」に持ち替え、敵の動向に注意を払った。 麗霞は獣盾で防御態勢を取り、霞澄を守るため前方を睨み据えた。 「手加減無用です」 「来た!」 星芒は山刀「猿渡」を投げつけ、鋼線を切り裂く。その瞬間、ストリングスの姿が見えたが、鋼線が復活して、敵の姿は見えなくなった。 フェンリエッタは殲刀で鋼線を切り裂き、敵の姿を見つけると駆け寄り、射程距離から『呪声』を一回放った。ストリングスの脳内に呪声が響き渡り、かなりのダメージを与えることができた。消える気配はないが、敵の生命力がわずかなのは確かだ。 「鋼線が復活する前に、術か弓で攻撃すれば、なんとかなりそうよ」 フェンリエッタに促されて、ラズワルドが『妖精剣技・舞』で周囲を切り裂いていく。 「いまのうちに!」 「ほんじゃま、いくよ☆」 星芒は『護法鬼童』を呼び出し、ストリングスに攻撃をしかけると、ガラス玉のような瞳が輝くことはなく、動きが鈍くなった。 「ここからなら、狙えるな」 ウルイバッツァは皆を援護するため、射程内に入ると太陽針を投げつけた。 さらに露草が『錆壊符』を放つと、ストリングスに強酸性の泥濘が取り付き、それが止めになったのか、粉々になって落ちていく。 「錆壊符は装備を劣化させる術ですけど、少しはダメージを与えることができたようですね」 露草は術に多少なりともダメージ効果があったことに気がついた。仲間たちが前もって攻撃してくれたおかげだと露草は感謝していた。だが、敵はまだ残っている。 「通路の先に鋼線が残っています‥」 霞澄がそう言うと、麗霞が獣剣「スニュルティル」で鋼線を斬り裂いた。その隙間から霞澄が手裏剣「無銘」を投げつけ、敵の頭部に命中。その隙を狙って蓮華が『呪声』を放ち、羅喉丸は『泰練気法・壱』を発動させ、身体が赤く染まったかと思うと矢を放った。残りのストリングスも、矢の攻撃により、床に落下して残骸だけが残っていた。 露草は『瘴気回収』を唱え、練力を回復させたが、アヤカシの気配はなく、遺跡内部にいたのは人形兵だったこともあり、完全に練力を回復させるほどではなかった。 気が付けば、通路を塞いでいた鋼線は全て消滅していた。 ● さらに奥へと進むと、宝珠の壁で作られた大広間に辿り着いた。 「ここが、ティアロの集い?」 ウルイバッツァの予想通り、遺跡の中心部に『集い』と呼ばれる大広間があった。 壁は宝珠で淡い光を放っており、ここでは灯の必要はなかった。ロマラは松明の火を消して、地図を確認した。 「明らかに人の手で作られた場所ですね」 「北側の壁に壁画があります」 露草は何か手がかりがないか、衣通姫を連れて壁画に近づいた。 「巫女の衣装を纏った女性と、その左側に鏡を持った男性が描かれています。それと、二人の間に笑っている子供の姿も描かれています」 「集いの場所に壁画が描かれているということは書物にも載っていましたが、このような絵だったとは‥‥書物には『私と夫の絵が描かれている』という記載はありますが、子供の絵については何も書かれていませんでしたよ」 ロマラはそう言いつつ、気になることがあると愛用の手帳に書く習慣があった。 「二人の間にいる子供さん、とても幸せそうに見えるわ」 フェンリエッタは壁画を見て、もしかしたらラファはミデンと出会って、本当に幸せだったのではと思うようになっていた。 それは壁画に描かれている子供の楽しそうな笑顔だ。 子供を見る女性の絵姿は、優しい眼差しであった。 「ラファもきっと‥ようやく最愛の人と巡り合うことができたのかもしれないわね」 フェンリエッタの呟きに、霞澄が頷く。 「ティアロの髪飾り、見つかると良いですね」 その言葉を聞いて、羅喉丸がロマラに問う。 「ラファ伝記に、ティアロの髪飾りについて、他にも気になる箇所があったら教えてくれないか」 「そう言えば、『小箱に入れて、祭壇に置いた』との記載がありましたよ」 ロマラが答えると、フェンリエッタは周囲を見渡した。 「祭壇ね。台座の上に小箱があったら、その中にあるかもしれないけど、罠が設置されている恐れもあるから、見つけても小箱には触れないようにね」 「そうだな。宝珠の壁で辺りも明るいし、見つけやすいな」 羅喉丸がそう言うと、他の開拓者たちも相棒と一緒に祭壇を見つけることにした。ウルイバッツァはスメヤッツァの練力消耗を避けるため、アーマーケースに収納したまま、大広間を探し回っていた。 「結構、広い場所だな。台座はどこだーっと」 「遺跡探索って、ワクワクするね〜☆」 星芒がそう言った矢先、七無禍は東側の壁に何度も体当たりしていた。 「七無禍、なにしてるの?」 相棒の様子が気になり、近づいてみると、台座のようなものがあった。 「やった! 見つけたよ! 七無禍、でかした!」 台座の上には、銀色の小箱が置かれていた。 星芒の声に気付き、皆が集まってきた。まずはフェンリエッタが『忍眼』で小箱を様々な角度から確認。 「小箱の周囲全体に罠がかかっているようね。気になったのは、蓋の窪み‥ここに何か設置すると、もしかしたら蓋が開く仕掛けになっているのかも」 それを聞いて、ケートは父から聞いた言葉を思い出した。 「そうだ‥父さんが言ってた。『小箱の蓋に、鏡を垂直に置け』って‥あの時は、なんのことだが分からなかったけど」 ケートは深呼吸すると、持っていた秘宝『ラファの鏡』を、小箱の窪みに設置してみた。 カチャリと音が鳴り、ケートはそっと鏡を持ち上げて、蓋を開けた。 「これが‥ティアロの髪飾り?」 ケートがどうしようか迷っていると、星芒はすかさず小箱から髪飾りを取り出し、ケートの頭に付けてみた。 「ほいほい、これで良いのかな〜」 「え? 罠は? 罠は大丈夫?!」 ケートは焦っていたが、星芒は特に変わった様子はなく、いつもの調子だ。 「悩むより、まずは行動ってことだね☆」 「運が良かったようね」 フェンリエッタは蓋が開いた時に『忍眼』を使って髪飾り自体に罠がないか確認してみたが、特に異状はなかった。 「ティアロの髪飾りが輝いています‥」 霞澄がそう言うと、麗霞はすかさず盾を構えた。何が起こるか分からないからだ。 初めは白く輝いていたが、やがて七色の光に変わり、しばらくすると髪飾りの光が消えた。 「ぴかぴかして、きれいだったのー」 衣通姫が満悦の笑みを浮かべると、露草も思わず微笑していた。 「ここまで来た甲斐がありましたね」 「どういうことだ?」 ウルイバッツァが不思議そうに言った。一安心したように答えるロマラ。 「ラファとミデンの子孫が『ティアロの髪飾り』を身に付けると、七色に輝くと聞いたことがあります」 「そうか。ケートさんは、ラファとミデンの子孫ということになるのか」 羅喉丸は、その事実を見届けることができて、ケートに優しく微笑んだ。 「アタイが‥ラファとミデンの子孫? てっきりアタイの一族はラファの血を引く者だと思ってた」 「ケートさんは、あの壁画に描かれている子供さんの子孫ということになるわね」 フェンリエッタがそう告げると、ラズワルドは浮遊しながら言った。 「フェンリエッタの言うことに間違いはないよ」 「‥‥ラファは、ミデンのこと‥どう思っていたのかな?」 ケートがポツリと言うと、ロマラが書物の一節を読み上げた。 『私は幸せです。妹にも幸せになってほしい。そして、私たちの子供にも幸せになってほしい』 それを聞いて、ケートは父と母を思い出すように、壁画を見上げた。 「アタイ‥幸せになっても良いんだね」 「当たり前なのじゃ。幸せというものは目には見えぬが、いつも傍にあるものなのじゃ。それに気が付くか否かで、人生観も変わるというものじゃ」 蓮華の言葉を聞いて、羅喉丸は感心していた。 「さすが蓮華、言うことが一味違うな」 「妾を何者だと思っておるのじゃ」 蓮華はそう言いつつも、どこか照れたような素振りだった。 |