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■オープニング本文 アル=カマル、トレス村。 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、村の外れにある魔術師レヒトの家に滞在していた。 先日、『ラファ伝記』が発見されて、レヒトに解読の協力を頼みに来ていたのだ。 見習い巫女のケートは、ロマラが『レドとラファ伝説』を調べていると聞き、それ以来、一緒に同行していた。 「秘宝『ラファの鏡』も無事に手に入ったけど、まだ資料が足りないみたいなんだ」 ケートが言うと、レヒトは『ラファ伝記』の表紙に手を触れて『フィフロス』を唱えた。 「ふむ、鏡を持つ男の名は書物では、見つかりにくいな。だが、手掛かりは見つけたぞ。『鏡の裏側に名が記されている』とな」 「え? そうなの?!」 ケートは『ラファの鏡』を裏側にしてみた。何やら文字が書かれていたが、読めなかった。 「どれどれ、見せてみろ」 レヒトはそう言いつつ、鏡の裏側に刻まれている文字を凝視した。 「‥‥『愛しいラファに捧げる。ミデンより。愛をこめて』‥‥おそらく、鏡を持った部族の長は『ミデン』という名前かもしれないのう」 レヒトの答えに、ロマラは丁寧に会釈した。 「ありがとうございます。ミデンという名が分かれば、それに関連する資料も見つかるかもしれません」 「なになに、そこまでかしこまらずとも良い。俺も伝承を調査するのは好きでな」 しばらくすると、一人の男性がレヒトの家に駆け込んできた。 「レヒト殿、大変なことが起こった!」 入ってきたのは、村長であった。 「村長が自ら来るとは、まさか、とんでもないことでも起こったか?」 レヒトは落ち着き払っていたが、村長は困ったような表情で告げた。 「クイーンと名乗る吸血鬼が、この村にやってきて、しかもドラゴンゾンビまで!!」 「とりあえず、アヤカシがいる場所まで案内してくれ」 慌てることもなく言うレヒトに対して、村長は頭を抱えて座り込んでしまった。 「すまない。一般人の私では、手におえない。外に出れば、すぐに見つかるはずだ」 「分かりました。この件は、ギルドにも報告しましょう」 ロマラはそう言うと、レヒトとケートを連れて、外へと走り出した。 ● 妖艶な美女‥吸血鬼が高笑いしていた。 上空にはドラゴンゾンビが2匹、村を取り囲むように飛んでいた。 住人たちは逃げ出そうとしたが、ドラゴンゾンビと吸血鬼に邪魔されて、逃げ出すこともできなかった。 「我が名は、クイーン」 村の中心部にある広場にて、逃げ惑う住人たちに告げる。 「明日までに、人間の若い男を5人、連れてくるのだ。この私が可愛がってやる。連れてこなければ、この村の住人を一人ずつグールにしてやる。良いか? うれしかろう。私の仲間になるのだ。喜べ」 楽しそうに笑うクイーン。 その様子を見て、レヒトは気が付いた。 「あの美女は、ノーライフキングの女性体だな。男の姿は見たことがあるが、女性体は初めて見たぞ」 「‥‥まいりましたね」 ロマラは少し困惑していた。それを見たケートは小声で言った。 「アタイだって、3年経てば、あれくらいの美女に‥」 「ケートさん、何か言いましたか?」 ロマラには聴こえなかったのか、ふとケートの方へと振り返った。 「なんでもないよー。それよりも、ここにいるアヤカシ、なんとか退治しないと」 「そうですね。クイーンもドラゴンゾンビも飛行できますから、今回も相棒さんのお力を借りたいですね」 上空を飛ぶ竜を見て、ロマラが言うと、ケートは住人たちの様子に注意していた。 「ほとんどの人が、自宅に閉じこもっちゃったよ。女性や子供もいるし、助けてあげたいね」 「まったく、アヤカシが来たせいで、解読も進まないではないか」 レヒトにとっては、伝承解読の方が最優先であった。 「レヒトさん、解読するためにも、アヤカシ退治の依頼を出しましょうよ」 ロマラの言葉に、レヒトはあっけらかんとした顔つきだ。 「それじゃ、お前さんが依頼人だ。俺は解読に専念するからな」 果たして、どうなることやら‥‥。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 出発前。 ギルドにて依頼を受けた開拓者たちは、休憩処で打ち合わせをしていた。 店内は他にも客がおり、賑やかな声が聴こえてくる。 「俺はドラゴンゾンビと戦うつもりだ。できれば村の外まで誘き寄せたい。なるべく村には被害を出したくないからな」 羅喉丸(ia0347)がそう言うと、からす(ia6525)が小さく頷く。 「村の外で撃退するためにも、私は弓で牽制して、ドラゴンゾンビを誘導する」 「では、お互いに協力しよう。ドラゴンゾンビは二匹いるようだし、一対一で戦うこともできるはずだ」 義に厚い羅喉丸の言葉に、からすは冷静に答えた。 「今回は相棒の彩姫もいる。空中戦でも対処可能だ」 「二人が竜の相手をするなら、俺はノーライフクイーンとの対戦を優先する」 琥龍 蒼羅(ib0214)の表情は、なかなか読み取れないが、的確に行動する姿勢は見て取れた。 「俺も蜜鈴のねえちゃんと連携して、クイーンと戦うぜ」 そう告げたのは、ルオウ(ia2445)。 「るおう、頼りにしておるぞ」 椿鬼 蜜鈴(ib6311)は形見の煙管を懐に入れると、椅子から立ち上がった。 「村人たちを要求するとは、姑息なことをするのう」 「ああ、絶対に許せねえな」 ルオウは拳を固く握りしめた。 ● 翌日。 アル=カマル、トレス村。 住人たちは自宅に籠り、村は静まりかえっていた。 ノーライフクイーンは、村の中心にある広場にて、人質の肩に手を置いた。 「自ら志願するとは、良い心がけだな」 「そう褒められると照れるねぇ」 喪越(ia1670)は相棒の羽妖精、癒羅と共にすでに村に居た。 「褒められてる訳じゃないってのに、アンタってば‥」 癒羅は溜息交じりに言うが、喪越は気にしていなかった。 何故なら、美女が目の前にある。たとえ相手がアヤカシであっても。 そんなことは喪越には関係なかった。 「人質は俺一人だが、村の連中はどうする気だ?」 「一般人より、開拓者の血の方が美味いからの。お前一人で十分だ」 二コリと微笑むクイーン。 「オゥチィっ。モテ期、ついに到来かー」 喪越は内心『うひょー』と雄叫びをあげていた。結果的にクイーンの狙いが村人から喪越となっていた。 世の中、何が起こるか分からないものだ。 「待て! 俺はサムライのルオウ。クイーンに聞きたいことがある」 ルオウの声が響く。主を追うように相棒の輝鷹ヴァイス・シュベールトが飛んでいた。 クイーンは喪越を抱き寄せながら、ルオウの方へと目を向けた。 「ふむ、他にも開拓者がいるが、何の用だ?」 蒼羅は相棒の迅鷹、飄霖を連れていた。 「随分と余裕だな」 そう言いながらも、蒼羅はクイーンの動向に注意を払っていた。 「わらわとも少しばかり遊んではくれぬかのう?」 蜜鈴はそう告げた後、相棒の空龍、天禄に命じた。 「お行き、天禄。地に堕ちるは許さぬぞ」 天禄は上昇するとドラゴンゾンビに『ソニックブーム』を放った。上空にいたのは天禄だけではない。羅喉丸の相棒、皇龍の頑鉄。からすの相棒、鷲獅鳥の彩姫の姿もあった。さすがに三体が相手では勝てないと思ったのだろう。ドラゴンゾンビたちは西と東へと分れて飛び去っていく。 羅喉丸もクイーンに聞きたいことがあったが、ドラゴンゾンビを先に倒すため、相棒の背に乗り、上空へと舞い上がった。 皇龍の頑鉄は東へ、鷲獅鳥の彩姫は主のからすを乗せて西へと飛翔していった。天禄は蜜鈴の上空で、地上の様子を窺っていた。 飛び去っていくドラゴンゾンビの姿を見て、蜜鈴は憐れむように言った。 「朽ち果てた身体で、言いなりとはのう」 「何が言いたい? アレは私の下僕だ。言いなりになるのは当然だろう」 クイーンには、蜜鈴の感情が理解できなかった。 「‥‥おんしのような『モノ』には分かるまいて。命を宿す者の意味がな」 「命など、私の餌に過ぎぬ。特にラファとミデンの子孫の血は美味であったぞ」 クイーンがそう告げると、ルオウはふと気が付いた。 「ラファ集落を滅ぼしたのは、まさか‥‥」 「全滅させたと思ったのだが、噂で生き残りがいるらしいではないか。あの味が忘れられなくてな」 それを聞いて、怒りを顕にするルオウ。 「ラファ集落の人々だけでなく、この村の住人まで狙うつもりなら、容赦しないぜ!」 ルオウが殲刀「秋水清光」を構えるが、クイーンは微笑むだけだった。 「村人には興味はない。目の前に、開拓者がいるからな。これほど最高のディナーはあるまい」 クイーンがそう告げた時、密着していた喪越が至近距離から『錆壊符』を放った。強酸性の泥濘がクイーンに取りつくが、大量の蝙蝠が発生した。 「ぬぅっ、美女の姿が消えたぁー」 クイーンは蝙蝠と化して、上昇していく。その背後からルオウが『天歌流星斬』を繰り出し、蝙蝠が一匹消滅したが、本体は西へと飛び去っていった。 「逃げられると思ったら、大間違いだぜ!」 ルオウはヴァイスと同化し『大空の翼』で風が巻き起こり、背中に光の翼が生えた。飛行して、村の外までクイーンを追跡していく。蜜鈴は天禄の背に乗り、後を追った。蒼羅は『早駆』を発動させて、地上から素早く移動していく。 「待ってくれぇー」 喪越はクイーンを求めて、自力で走っていた。 「アンタ、しっかりしなさいよ!」 癒羅は浮遊しながら、主に檄をとばす。 「俺は諦めねぇぜ。美女のチョメチョメを見る日までっ!」 懸命にクイーンを追い続ける喪越。彼の未来は、どっちだ? 「相変わらず、自分の気持ちに正直なヤツね」 呆れつつも、癒羅は喪越と一緒にいることにした。目を離すと何をするか分からないからだ。 ● 一方、その頃。 皇龍の頑鉄は『スタンピード』で東へと飛び、ドラゴンゾンビに追いつく。 「俺が相手だ。これ以上、村には近づくな!」 頑鉄に騎乗していた羅喉丸は、魔剣「レーヴァテイン」でドラゴンゾンビの翼を切り裂いた。その衝撃で翼が飛び散り、ドラゴンゾンビが地上に落下する。 翼のないドラゴンゾンビは、尚も瘴気ブレスで攻撃をしかけてくるが、羅喉丸は回避しつつ地上に降り立つと、攻撃の体勢に入った。 「玄武よ、俺に力を。砕け散れ!」 羅喉丸の究極奥義『真武両儀拳(M)』が解き放たれた。三回攻撃による拳の技は、内部から砕く破壊力があった。ドラゴンゾンビは瞬く間に粉々になり、砂漠の中へと消えていった。 「これほどの技とは‥」 羅喉丸は自らの力に武者震いをした。この力を、人々のために使いたい。そう思う気持ちが募るのであった。 そして、西へと向かった鷲獅鳥の彩姫は、主のからすの命により近接せず一定の距離を保ちつつ、ドラゴンゾンビと対峙していた。からすは『安息流騎射術』により、騎乗したまま呪弓「流逆」で攻撃を繰り出していた。『響鳴弓』が甲高い音で周囲に響き渡り、ドラゴンゾンビの翼に命中する。 「彩姫、好きにして良いぞ」 主の命令で、彩姫は『獅子咆哮』を使い、さらに『鷲返撃』で加速しドラゴンゾンビに攻撃をしかけた。追い打ちをかけるように、からすが『月影』の矢を放った。と同時に、ドラゴンゾンビは吠えながら、空中で瘴気となり、消え去っていった。 これほどまでの技量があるからすにとっては、ドラゴンゾンビを倒すことは造作ないことであった。 「思ったより、早く片付いたな。残りはクイーンか」 前方を見ると、大量の蝙蝠が接近していた。 ● クイーンとの闘いは、いよいよ最終決戦となった。 からすが『響鳴弓』で攻撃をしかけると、蝙蝠と化していたクイーンは少しずつ下降していく。蒼羅の足に『疾風の翼』で飄霖が同化し、蝙蝠の群れを回避した。 砂が舞う中、ルオウは殲刀を最上段に掲げ、間合いを取り、万が一に備え、自動命中の術を回避できるように『神風』でヴァイスと同化した。ルオウは『咆哮』をあげて敵の気を引くが、何を思ったのかクイーンは攻撃をしかけてこなかった。おそらくルオウの動きに警戒していたのだろう。 「るおう、下がるが良いぞ」 合図を送る蜜鈴。 とっさにルオウは後方へと下がり、隙を狙って蜜鈴が『メテオストライク』を唱え、大量の蝙蝠が火炎の爆発に巻き込まれる。逃亡しながら、大再生で生命力を回復させていたクイーンは、狂気に満ちた形相になっていた。 攻撃を受ける度に、クイーンは砂の下に隠れていた生物を鷲掴みにして、大吸血で生命力を回復させていた。このままでは、周辺に生息する動物たちの命も、クイーンによって喰い尽されてしまう可能性があった。 緊張が走ったかと思うと、クイーンは霧化し、幻覚の霧を周囲に広げていく。術の抵抗に打ち勝った蒼羅は、『竜巻の刃』で飄霖を同化させた斬竜刀「天墜」で命中力と攻撃力を上昇させ、『白蓮華抄』を繰り出した。 「霧化しても知覚攻撃ならばダメージを与えられるのは経験済みだ」 クイーンは蒼白い炎に包まれて悲鳴をあげるが、本体は消えず、霧が残っていた。その場にいた全員が幻覚に呑みこまれることはなかったが、クイーンは人型に戻ると傍に居た砂漠の生物に這うように食らいつき、大吸血で生命力を回復させる。怪しく微笑すると再び霧化した。 「まだ霧が残っておるのう」 蜜鈴は呪歌のごとく詠唱すると『ララド=メ・デリタ』による灰色の光球が発生し、霧化したクイーンにダメージを与えることに成功した。クイーンの生命力は残り僅かとなった。 ようやく戦場に辿り着いた喪越は火炎獣では届かないと判断すると、『黄泉より這い出る者』を召喚させ、クイーンに狙いを定めて術を放った。姿と声もない『何か』がクイーンを苦しめ、ようやく霧は消え去り、跡には何も残らず、風が吹き抜けた。 「‥美女はいなくなっちまったな。さて‥‥次の美女を探すか」 あっさりと告げる喪越に、癒羅は深い溜息をついた。 「アンタとは割と一緒にいることが多いけど、いまだに考えてることがよく分からないわよ」 だからこそ、癒羅は喪越から離れることができなかったのだ。 蜜鈴はルオウの腕に掠り傷があることに気付き、『レ・リカル』を施した。 「たいした傷ではないようじゃが、念の為、治癒しておくかのう」 「サンキュー」 ルオウは傷がなくなったことを確認すると、腕を回した。 「そんじゃ、ロマラに報告するか」 アヤカシを倒すと、飄霖が元の姿に戻り、主である蒼羅の肩に乗った。 「飄霖、今回は力を貸してくれて感謝する」 蒼羅は改めて、相棒の有難さを感じていた。 ● トレス村の外れに、魔術師レヒトの屋敷があり、そこでロマラ・ホープ(iz0302)は開拓者たちを出迎えた。 「皆さん、お疲れ様です」 そう言って、皆を客室へと案内する。別室では、ケートとレヒトが『ラファ伝記』の解読を進めていた。 「そうでしたか。クイーンが、そのようなことを‥‥」 ロマラは客室でルオウから事の成り行きを聞くと、納得したような表情をしていた。 「ケートに本当のこと、話すかどうか迷っててさ」 ルオウはケートの気持ちを考えると、なかなか事実を直接、言うことができなかった。それを察して、ロマラが穏やかに告げた。 「ケートさんに事実を話すのは、まだ早いかもしれませんね。いずれ、私の方から話しておきます」 「その方が良いかもな。クイーンの狙いがラファ集落の生き残りと知ったら、ケートも自分を責める恐れがあるからな」 ルオウとロマラの会話を聞いて、羅喉丸が話しかけてきた。 「彼女が生き残ったのは、ラファとミデンが守ってくれたからかもしれない。俺はそう信じたい」 「‥‥そうだな。きっと」 ルオウが笑みを浮かべると、羅喉丸は思いやるように微笑んでいた。 庭では頑鉄が寛ぎ、その背にはヴァイス・シュベールトが身体を丸めて休んでいた。少し離れた場所に天禄がいたが、主の蜜鈴が頬を撫でながら語りかけていた。 「天禄、ようやったのう‥怪我は無いかえ?」 澄んだ瞳で蜜鈴を見る天禄。うれしそうに咽喉を鳴らしていた。 「怪我はないようじゃのう」 蜜鈴は大切な相棒を優しく抱き締めた。 上空では、からすが鷲獅鳥に乗り、地上の様子を眺めていた。 「村に活気が戻ったようだな。これも彩姫のおかげだ」 主に褒められて、彩姫は気丈な顔付きで飛び回っていた。 それはまるで、威風堂々とした光のようでもあった。 砂漠では、人々の暮らしが躍動していた。 それは、命を紡いでいく生きた証なのだろう。 どこまでも広がる大地に、日が昇り、やがては沈む。 その繰り返しで、日々を生きてゆく。 夜には月や星が輝き、自然の大いなる畏怖を感じることもあるだろう。 どんなことにも、表裏一体が隠されている。 果たして、開拓者たちは今後、どう生きていくのか。 それを知る術は、皆の心の中に存在する。 |