ファラオとカスル
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/20 01:26



■オープニング本文

 昔々、レドとラファという姉妹がいた。
 姉妹はとても仲が良かったが、年頃になると、恋をした。
 2人が恋した男は、同じであった。その者の名はバドル。
 三角関係になり、結局は妹のレドがバドルと恋仲になった。
 姉のラファは、哀しみのあまり、地に落ちたと言う。

 その彼女を救ったのは、鏡を持つ者であった。
 ラファは、その男性と結ばれ、地上に舞い戻った。



 アル=カマル。砂漠の地に、太陽の光が降り注ぐ。
 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、巫女のケートと共にラファの集落に辿り着いた。
「ようやく到着しましたね」
 ロマラが固唾を飲む。廃墟と化した集落には、まだアヤカシが住み着いていたのだ。
 一年ほど前、ラファの集落はアヤカシの集団に襲われ、生き残ったのはケートという少女だけだった。
 先日、開拓者の協力もあり、秘宝『ラファの鏡』を手に入れることができたケートは、そびえ立つ巨大な城のようなアヤカシ‥カスルゴーレムを見上げた。
「こいつを倒さないと、ファラオの所まで辿りつけないよ」
「このゴーレムも割と強いアヤカシですが、よりにもよってファラオが住み着くとは‥‥」
 ロマラは亡くなった友人を思い出し、いつになく真剣になっていた。
「ファラオがここにいる限り、アタイの故郷はずっと廃墟のままだ」
「現在、この集落に居るのはカスルゴーレムとファラオだけとは言え、私たちにとってはかなりの強敵です。危険を承知の上、ギルドで開拓者たちを募ってみましょう」
 ロマラがそう言うと、ケートは頷いた。
「だったら相棒さんにも協力してもらえると、助かるかもね」
「そうですね。ファラオの装備劣化は抵抗に失敗すると、必ず破壊されてしまいますが、神器系の類なら、破壊されないとも聞いたことがあります」
 そう告げるロマラに、ケートは首を傾げた。
「神器系の類じゃなくても、活性化にアイテムが必要がないスキルもあるよね」
「確かにありましたね。装備をするか否かは、開拓者の皆さんにお任せしましょう」
 さて、今回のアヤカシ退治。どう対処するのか。
 それは、開拓者たちの選択と行動で成否が決まることになるだろう。
 活性化にアイテムが必要がないとしても、スキルを発動する時、武器や盾で術を使うものもある。
 強い武器ならば攻撃力も上がるが、ファラオに装備を破壊される恐れもある。
 カスルゴーレムの巨大な拳による一撃も、経験を積んだ開拓者でさえ、油断をすれば戦闘不能にしてしまうほどの破壊力があるとも言われている。
 ならば、装備が破壊されても良いように対処して、攻撃する手もあるだろう。
 

 果たして、開拓者たちは、何を選ぶのだろうか‥‥。



■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
无(ib1198
18歳・男・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
ナザム・ティークリー(ic0378
12歳・男・砂


■リプレイ本文

「‥ここは‥?」
 无(ib1198)が目を覚ますと、リィムナ・ピサレット(ib5201)の声が聴こえてきた。
「ラファ集落の西に位置する村だよ。ここの宿屋で一旦、休憩することになったんだ」
「‥そうか」
 ふと気がつくと、无は包帯塗れでベッドに横たわっていた。
「今回はご足労ありがとうございます」
 そう告げたのは、ロマラ・ホープ(iz0302)であった。无はゆっくりと起き上がった。
「レドとラファ伝説‥‥言い伝えではラファのことは災いをもたらす者という扱いになっていることが多いようですが‥ラファの主観的な伝記が残っている可能性があればと‥」
 そう呟く无に、ロマラが静かに応えた。
「私もそれが知りたくて、ケートさんと一緒にラファ集落に行くつもりだったんですよ」
「なるほど、いずれにしろ、アヤカシを倒さないと調査もできない‥ということですかね?」
 无がそう言うと、ロマラが頷いた。
「お察しの通りです。出発は明日にしましょう」
 无は負傷していたが、援護や集落の調査はできそうであった。
 別室では、ルオウ(ia2445)とエルディン・バウアー(ib0066)が話し合っていた。
「ギルドで聞いた話だと、相棒が武器に同化した状態で破壊された場合、その時点で効果が切れて、相棒は弾きだされるだけで、問題ないみたいだ。武器だけが破壊されるらしいぜ」
 ルオウは相棒のことが気にかかり、エルディンにも相談することにしたのだ。
「そうでしたか。ご助言ありがとうございます。予備の防具は持ってきましたが、本人自身にも同化できるスキルもありますから、臨機応変に対処する手段もありますね。私は聖職者として、ファラオの魂が無事に成仏できるように見届けたいと思っています」
「俺はレドとラファ伝説を調べているロマラに話が聞いてみたくてさ」
 そう言いながら、ルオウは紙を取り出して、グライダーの形に折っていた。
「それは?」
 エルディンの問いに、明るい笑みを浮かべるルオウ。
「名付けて、紙グライダー。ファラオ戦に備えて、霧の範囲がどのくらいまであるのか、これを飛ばして確認するぜ」
 ルオウの傍らでは、相棒の輝鷹ヴァイス・シュベールトが羽を休めて眠っていた。
「それは良いアイデアですね。劣化の霧は紙を風化させるようですからね」
 エルディンの相棒、迅鷹のケルブは主人に寄り添って頬擦りしていた。
 一方、巫女のケートはナザム・ティークリー(ic0378)、戸隠 菫(ib9794)と一緒に食堂で珈琲を飲みながら、一息ついていた。
「ケートの故郷は必ず取り戻してやる。心配するな」
 そう告げたのはナザム。
「ありがとう。だけど、今回のアヤカシは手強いよ」
 ケートはラファ集落の生き残りだ。懐には秘宝『ラファの鏡』があった。
「武器や防具は破壊されても良い。故郷はかけがえのないものだからな」
 ナザムの優しさに、ケートはうれしそうに微笑んでいた。
「本当にありがとう。開拓者さんたちが来てくれて、とても心強かったよ」
「そう? お礼を言うのはまだ早いかも。情報では、カスルゴーレムとファラオがいるらしいよね」
 菫は珈琲を飲み干すと、卓の上で頬杖しながらケートに話しかけた。
「‥‥カスルゴーレムは、門番みたいなもの。集落のどこかにファラオがいるらしいのは分かってるんだけど、まだ中まで入ったことはないんだ」
「そっか。カスルゴーレムが行く手を阻んでいるって訳ね」
 菫がそう言うと、ケートは無言で頷いた。




 翌日。
 開拓者たちは相棒を連れて、ラファ集落へと向かった。
 无は相棒の空龍、風天の背に乗り、上空から集落を見ていた。
「入口付近にカスルゴーレムがいるなぁ‥ここからでは、霧も見えませんね」
「霧は無色無臭ですから、やはりゴーレムを倒して集落の中に入って場所を特定する必要がありそうですね」
 エルディンはふと思い立ち、ロマラに声をかけた。
「ファラオは地下にいるのですよね? 劣化の霧の抜け穴を作りたいのですが、よろしいでしょうか? もしかしたら、屋敷が破損してしまうかもしれませんが、倒壊しないように気を付けます」
「‥‥穴を開ける前に、屋敷の二階にある部屋へ行きたいのですが、『ラファ伝記』が見つかってからならば、良いですよ」
 ロマラがそう答えると、ルオウが駆け寄ってきた。
「そうか。ロマラの目的はそれだったのか」
 それを聞いて、无は確信した。
「つまり、『ラファ伝記』に、彼女の想いが書かれている訳ですね?」
「そうです。それを見つけるのが、私の目的‥そして、友人の願いでもあります」
 ロマラはどこか哀しげであった。ケートも、どことなく寂しそうだった。
「元に戻らないなら、前に進むしかないよね」
 そう言った後、ケートは決意に満ちた顔つきになった。それを見て、ナザムはなんとしてでも、彼女の故郷を取り戻してやりたい気持ちが強くなった。霊騎ジャザウ・カスワーウに騎乗し、ナザムは魔槍砲「神門」を掲げた。
「前進、あるのみ!」
 そう叫び、ナザムは『戦陣「槍撃」』を発動させると、霊騎を走らせ突撃を開始した。
 龍の背に乗っていた无は『白面式鬼』を使い、ゴーレムに攻撃をしかけた。巨大な一撃で式は消滅したが、それが隙となり、『隼人』を使ったルオウが棍棒「石の王」でゴーレムの右脚を叩き割った。
 さらに菫がゴーレムの左脚の付け根を狙って焙烙玉を投げつける。爆発と同時に、菫の相棒からくり穂高 桐が『光輝刃』を放つ。
「主の命により、ただ撃つのみ」
 桐は俊敏な動きで、次々と『光輝刃』でゴーレムに攻撃をしかけていく。ナザムの魔槍砲「神門」が吠えるように鳴り響き、両足が崩れていくと、見る見るうちに再生していこうとするが、リィムナが放った『黄泉より這い出る者』により、両足が粉々になった。術を発動させる前に『隷役』を使っていたこともあり、かなりのダメージを与えることができた。
「練力2倍だからね♪」
 ゴーレムの上半身が倒れ、バラバラになった下半身が少しずつ形を取り戻そうとしていた。その時、ゴーレムの額に宝石のようなものが淡く光っていた。
「もしかしたら、あれがコアかもしれませんね」
 エルディンが『ホーリーアロー』を放つと、宝石のようなコアに命中し、ゴーレムの下半身は中途半端な状態で再生が止まっていた。无は『爆式拳』を施した手裏剣「八握剣」をコアに投げつけ、風天が『竜巻撃』を放って援護していた。
「そんじゃ遠慮なくいくぜ!」
 ルオウの足に光となったヴァイスが『疾風の翼』で同化し、倒れて動けないゴーレムの額に狙いを定めて、棍棒を叩き付ける。コアに亀裂が走るが、ゴーレムの回復は一時的に止まってしまったようだ。
「もういっちょ、やるよ♪」
 リィムナは『隷役』を唱え、さらに『黄泉より這い出る者』を召喚してコアを攻撃。ゴーレムの頭は砕け散ったが、コアの破片はまだ残っていた。それに気付いたエルディンが『ララド=メ・デリタ』でコアを完全に消滅させた。それと同時に、ゴーレムの身体も消え去っていった。
「これで第一関門、突破ですね」
「ファラオを倒す前に『ラファ伝記』を見つけるか‥」
 无は空龍の背に乗ったまま、上空から集落の様子を窺っていた。



「ここか」
 无は集落の東側にある寂びれた屋敷を見上げた。
「確か二階だったな」
「そうです」
 ロマラは无と一緒に二階へと上がった。2人が書物を見つけるまで、他の開拓者たちはファラオ戦に備えて準備していた。
 リィムナは『瘴気回収』で練力を回復させ、霧対策として、まずは胸に褌を5枚重ね巻き付け、一番内側に予備の土符、水符と手に持ってない分の雷公を収納した。こうすれば、霧は内側まで入ってこないと思ったのだ。
 手持ちの物が傷んでも、取り出せば良いように工夫して巻き、残りの褌は服の上から何重にも体に巻き付け、狩衣や羽衣が霧に触れるのを防ぐように配慮。それだけでなく、体の動きや装填の邪魔にならない様に軽装して、アクセサリは服の内側に入れた。
「なんだかミイラみたいになっちゃったな」
 相棒の迅鷹サジタリオは興味深そうに主の姿を見ていた。
「サジ太、地下室は暗いかもしれないから、松明も持っていこう」
 それに答えるように、サジタリオが小さく鳴いた。
 ルオウは地下まで続く階段を見つけて、入口から紙グライダーを飛ばしてみた。ふわりと地下室の扉まで落ちるが、風化する様子はなかった。
「外までは霧は漏れてないようだな」
「扉を開けたら、霧が流れだすこともあり得ますから、書物が見つかるまで待ちますか」
 エルディンはそう言いながら、神に祈りを捧げた。
 およそ一時間後、无たちは『ラファ伝記』を発見することができた。
「内容を確認するのは、ファラオを倒してからだな」
「私はこれを持って、オアシスの近くで待機しています。お気をつけて」
 ロマラがそう言うと、无は地下室へと向うことにした。



「書物は見つかった。残りはファラオ‥地下室は墓ではないが、ラファと鏡の男の墓は、オアシスの近くにあるようです」
 无は仲間たちと合流すると、そう告げた。
「ラファは‥鏡を持った男と結ばれて、実際はどうなったのか、気になるな」
 ルオウがそう言うと、エルディンが地下室の扉を開けた。念の為、ルオウは扉の隙間から紙グライダーを飛ばした。扉の前にも紙グライダーを置いてみたが、少しずつ風化していく。
「霧が外に出てるな。屋敷の外に置いてあった紙グライダーは無事かどうか、確認してくるぜ。地下室に入るのは、それからだ」
 そう言ってルオウは階段を駆け上り、屋敷の周辺を見渡した。菫の相棒である桐は、主の命令で周辺の警護をしていたが、桐には特に変わった様子はなかった。
(外の紙は風化してないな。てことは、霧の範囲内は限られてるってことか。これなら天井に穴を開けても、なんとか大丈夫か)
 ルオウは地下室の前へと戻り、仲間達に報告した。
「お気遣い、ありがとうございます。天井に穴を開けることができれば光も入りますし、視界も見えやすくなると良いですね」
 エルディンは『金剛の鎧』でケルブと同化し、菫は『戒己説破』を唱えてから先に中へと入った。
 地下室は静まり返り、暗い空間であった。
 リィムナはエルディンが術を唱えられるように松明を灯す。部屋の中央付近までは見えるようになったが、肝心のファラオの姿は見えない。サジタリオは嘴で松明をくわえて、リィムナの横で周囲の様子を警戒していた。
 エルディンは松明の灯を頼りに、『ララド=メ・デリタ』を唱えた。灰色の光球が発生し、少しずつ天井が朽ち果てていく。再度、術を唱えると、天井に人が通れるほどの穴が開き、外からの光が差し込んできた。
「奥にいるのは‥?!」
 エルディンが見たものは、玉座に座っているファラオであった。天井から光が差し込んだせいか、ファラオはようやく開拓者の気配に気付き、徐に立ち上がった。とっさに銀の手鏡を向けるエルディン。
 ファラオにはそれが秘宝に見えたのか、クイックレジストで銀の手鏡を破壊した。
 すぐさまエルディンは後方に下がり、体勢を立て直す。ルオウは『竜巻の刃』でヴァイスを同化させた太刀「鬼神大王」を構え、間合いを取った。ファラオがクイックレジストを唱えた瞬間、ルオウの『タイ捨剣』が炸裂。敵の脇腹に蹴りを放ち、鋭い刃が袈裟懸けのごとく迸る。
「おっしゃ、決まったぜ!」
 太刀は破壊されたが、ヴァイスは元の姿に戻り、ルオウの背後で羽ばたいていた。すかさず刀「出海兼定」を取り出すルオウ。
「一気に片づけるわよ」
 菫は『修羅道』を発動させて、接近戦に持ち込み、見習いの独鈷杵で敵に殴り掛かった。武器は徐々に劣化し、玄武錫杖に持ち替え、さらに『修羅道』を唱えて攻撃を繰り出していた。
 无は『爆式拳』を発動させ、苦無「天津狐」で援護攻撃に徹する。
 二人の攻撃は当たっているが、ファラオはある程度ダメージを受けると、自身を回復させ、強力呪詛を部屋中に放った。そして、さらに頭蓋骨風の幻影が浮かび上がり、菫に襲い掛かった。
「?!」
 菫は直撃を受け、その場に転がり、身動きが取れなくなった。无が菫を部屋の入口まで連れていく間に、菫は懸命に『解呪』を唱え、无が無事だと分かると気を失った。地下室の入口に横たわる菫を発見して、相棒の桐が急ぎ足でやってきた。
「機能が停止したのか?」
「気を失っているだけです。後はよろしく」
 无は菫の意思を無駄にしないためにも、地下室の中へと戻っていく。桐は何度も主の名を呼び続けていた。
 ファラオとの対戦は終わってはいない。
 ナザムが『戦陣「槍撃」』を使い、魔槍砲「神門」で砲撃する。二発目を撃った後、武器は粉々に砕け散った。
「破壊されるのは覚悟の上だ」
「気合で負けてたら、ここにはいないぜ!」
 ルオウの『タイ捨剣』が閃き、その一撃が唸る。无の『白面式鬼』がファラオに突撃し、敵の術攻撃で式が消滅するが、その隙に手裏剣「八握剣」を放つ。
 エルディンの『ホーリーアロー』はファラオに命中するが、なかなか倒れる様子はない。ファラオに命中すると苦しみだしたが、無痛覚だったためダメージを受けても、何事もなかったかのように立ち尽くしていた。なんということだろう。ファラオは生命力が残りわずかだというのに回復し、邪視を放つ姿は凄まじかった。距離を取っていたリィムナに体内から裂くような痛みが走り、彼女は痛みに思わず動きを止めてしまう。動けないほどではないが、それでもエルディンが『レ・リカル』を施してくれた。おかげでリィムナは何とか体内を苛む痛みから解放される。
「助かったよ、ありがとう‥ファラオの攻撃、かなり効いたけどね」
 自身の身を振り返れば、劣化の霧は、身体に巻きつけていた褌は外側だけでなく、内側にまで侵入していき、徐々に劣化している。が、リィムナ自身は無事な事に、エルディンは「ご無事で何よりです」と、安堵の笑みを浮かべていた。
 再生能力を駆使するファラオとの対戦はさらに続く。装備していた物が朽ち果て、開拓者たちは疲労していたが、尚も攻撃を繰り返し徐々にファラオを追い詰めていた。
「長引かせるわけにはいかないね♪ 行くよ!」
 更に再生しようとするファラオへ、リィムナは『隷役』を使いながら『黄泉より這い出る者』を召喚する。リィムナの攻撃を4回連続で喰らい、ファラオの身体は再生する暇も与えられず、ようやく崩れ落ちるのだった。
「ファラオより、劣化の霧の方がやっかいだったね♪」
 元気な声で言うリィムナ。走り廻る彼女に、相棒のサジタリオも一緒になって飛び回っていた。
「この地に‥縛られし者‥‥ファラオよ‥‥安らかに‥‥」
 息を切らしながらエルディンが言うと、ファラオは解き放たれように、粉々になって消え去っていく。それと同時に、劣化の霧も消滅‥‥開拓者たちの装備や携帯品はほとんど破壊されたり消滅した。残っているものもあったが、純然たる運が理由のようだ。主を心配したのか、相棒のケルブがぱたぱたと側へすり寄ってきた。
「ケルブ、私なら平気ですよ。だから‥‥って、うわぁっ」
 エルディンの肩に乗ったケルブが彼の耳元で息を吹きかけていた。主の無事を確認すると、うれしそうに鳴いていた。
「無事を確認するのに、それをやりますか」
 と言いつつも、安心したように微笑むエルディン。
「お陰様で、ファラオも成仏できたようですね」
 そう言って、エルディンは玉座の前で祈りを捧げた。


 菫が目を開けると、桐の顔が見えた。
「桐、あたし‥どうなったのかな?」
「良かった、無事で」
 桐は主が目覚めるまで、ずっと傍にいたのだ。
「心配かけちゃったかな。桐、ありがとう」
 ふと気がつくと、菫は天幕の中にいた。
「ロマラという者が、ここまで運んでくれた」
「无さんに解呪を使ったところまでは覚えてるんだけど‥」
「その者が、地下室の入口まで連れてきてくれた」
 桐がそう告げると、菫は起き上がろうとした。
「どうする気だ?」
「二人にお礼が言いたくてね」
「そうなのか? それが望みなら、わたしが代わりに言っておく」
 桐はそう告げると、天幕の外へと出た。菫は疲れが残っていたのか、また眠りについた。


 集落のオアシス周辺に、ラファと男の墓があった。
「ラファを助けた男というのは、王だったのか?」
 无の問いに、ロマラが答えた。 
「この地域を治めていた族長だったようです。当時はバドル族より、鏡を持つ部族の方が権力があったらしいです。鏡を持っていた男の名は、まだ不明ですけどね」
「ロマラ、『ラファ伝記』に物語の真実が書かれているのか?」
 ルオウがそう言うと、ロマラは書物を片手に想いを馳せた。
「真実かどうか分かりませんが、この書物に書かれていることもまた、ラファにとっては真実なのかもしれません。解読するのに時間がかかりますが、いずれ失われた伝記も後世に残すことができるでしょう」
「これで、物語は終わりって訳じゃないんだな」
 空を見上げ、ルオウが言った。ヴァイスが主人の上で旋回していた。
「俺たちの人生もまた、誰かが書いた物語になったりしてな」
 ルオウの何気ない言葉に、ロマラは味わいのあるものを感じていた。
「そうかもしれませんね」
「だとしたら、私たちの記録もギルドに残って、数年後、数百年後には言い伝えとして残ることもあるのか」
 風天に寄り添いながら、无が呟く。歴史という悠久の流れを追うことは、伝承に興味を持つ者として、見逃せない事実でもあった。



 霊騎に乗り、オアシスに向う者がいた。
 ナザムは騎乗したまま、集落の様子を見渡した。
(考えてみれば、ケートはラファ集落の生き残り‥しかも一人だったな)
 その後、ケートがどうなるのか、ナザムは彼女の行く末を案じていた。
 アヤカシは倒せたが、ケートにとっては新たな出発になるのだろう。

 数日後、ケートはロマラと一緒に旅をすることになった。
 秘宝『ラファの鏡』の謎が、まだ明らかになっていないからだ。
 ロマラは『ラファ伝記』を解読するため、ケートを連れて、各地を放浪していた。