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■オープニング本文 お前は、抜け出せない。 永遠に。 お前を助ける者もいない。 事実は歪曲され、本当のことを知る者がいないからだ。 ● アル=カマル、バドル村。 「この地に、古代遺跡の迷宮があるのはご存じだよね。なんと、その迷宮の地図を、今ならタダであげるよ」 ローブを纏った商人らしき男は、そう言いながら行き交う人々に地図を配布していた。 それを聞いた旅人や住人達が広場に集まり、地図を貰っていた。 タダと言っても、地図には限りがある。我こそはと地図を手に取る者もいた。 「これは何の騒ぎだ!」 村の長ファイロがやってきた頃には、商人らしき男はいつの間にか姿を消していた。 「ファイロ様、大岩地帯の遺跡に秘宝があるって、本当ですか?」 「それは言い伝えだ。本当かどうか、まだ確かめた者がいないからな」 ファイロがそう言うと、こっそりと村を抜け出す男性たちがいた。 (伝説の秘宝を手に入れて、それから‥) 男性たちは、それぞれの想いを胸に、村長には内緒で迷宮へと向かっていた。 翌日。 息子が戻ってこないという母親や父親たちが、村長宅へと急ぎ足で駆け込んできた。 「昨日、広場で地図を配っていた男の仕業だよ。ファイロ様、どうか息子たちを助けて下さい」 懇願する住人たちに、ファイロは即答した。 「もちろん、そのつもりだ。迷宮の秘宝より、そこまで辿り着くまでが危険だ。ギルドに報告して、依頼を出してみよう」 その頃、吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、すでに古代遺跡の入口にいた。 ● 「ケートさん? ケートさんですよね。お久しぶりです」 ロマラが遺跡の入口にいた少女に声をかけると、彼女が振り返った。 「あー、えっと、久しぶりだね」 巫女のケートは、何やら様子がぎこちない。 天真爛漫な少女という印象があったのだが、どこか愁いに満ちていた。 「どうかしましたか? 元気がないようですが‥」 ロマラがそう言うと、ケートは顔を背けた。 「そんなことないよ。アタイ、急いでるから」 そう言って、遺跡の中へと入ろうとするケート。とっさにロマラが彼女の腕を掴む。 「一人で行くのは危ないですよ。もう少し開拓者が集まってから、中に入りましょう」 だが、ケートは必死だった。 「早く行かないと、他の人達が秘宝に触れてしまう。急がないと」 「お気持ちは分からないでもないですが、こういうのは‥」 ロマラはケートが涙を浮かべているのを見て、驚いた。 「ど、どうしたんですか? 何か、訳でもあるんですか?」 気を取り直して、穏やかに話しかけるロマラ。 しばらく沈黙が続いたが、やがてケートがこう告げた。 「‥‥迷宮の秘宝は、災いをもたらす者の末裔だけが触れることを許されている。他の人が秘宝に触ったら、大変なことになってしまう。アタイは、それだけは、なんとしてでも止めたい」 「‥その話、誰に聞いたのですか?」 ロマラの問いに、ケートは震えながら答えた。 「‥‥イリドお兄ちゃん‥‥アタイの一族がアヤカシに襲われた時、助けてくれた。だけど、生き残ったのは、アタイだけ」 「ケートさん‥‥まさか‥‥?」 「なんでアタイ、生き残ったんだろう? アタイのせいで、イリドお兄ちゃんは犠牲になって‥‥」 そう言いながら、ケートの頬に涙が伝う。 「アタイ、生きてても、良いのかな? だって、アタイは‥」 「それ以上、言わなくても良いんですよ。大丈夫です」 ロマラは優しく微笑みながら、ケートの頭を撫でた。 「イリドお兄ちゃんも‥似たようなこと、言ってくれた。だけど、アタイは‥自分で、自分が許せない」 「‥‥今は、自分を許すのは難しいかもしれませんが、私はケートさんのこと、信じていますよ」 そう言って、ロマラはケートの肩に手をかけた。 「‥‥アタイ、なにがなんでも、秘宝を見つける。そんで、災いなんか、消してやるんだ」 「その意気ですよ。いつもの調子のケートさんの方が、とても素敵です」 ロマラの言葉に、ケートは照れ笑いを浮かべた。 「そんなこと言ったって、なにもでないよーっだ」 そう言いつつも、ケートは過去の記憶を思い出すと、胸が苦しくなった。 |
■参加者一覧
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫 |
■リプレイ本文 なんで生き残ったかって理由を探すんじゃなくて、 理由を言えるように生きてみりゃいいんだよ。 そう告げたのは、笹倉 靖(ib6125)と名乗る者。 ケートは、初めて思い知った。 自分がどれだけ、周囲のことが見えていなかったことを。 だが、靖の言葉が、彼女の心に風が吹き抜けるように届いた。 それは、ケートにとって、かけがえのない言葉になっていた。 ● アル=カマル。 月の建造物と呼ばれる古代遺跡に辿り着いた開拓者たちは、入口の柱に荒縄を結び付けている少年たちと出会った。 「何をしているの?」 フェンリエッタ(ib0018)が声をかけると、少年の一人が答えた。 「村で地図をもらってさ。面白そうだったから、弟たちと来てみたんだ」 「その地図、見せてもらっても良いか?」 靖が訪ねると、少年は地図を見せてくれた。 「迷宮の道順は同じだが、バジリスクとホワイトミノタウロスのことは書かれてねぇ。タダより怖いもんはねぇってこったな」 それを聞いて、少年たちは震えあがった。 「俺達、帰る。そんな強いアヤカシがいるなら、ぜってー無理だ」 少年たちは逃げるように村へと戻っていった。Kyrie(ib5916)は、ふとギルドから借りた地図を見た。 「私たちが持っている地図は、ギルドから正式に依頼を受けたものですから、間違いはないでしょう。おそらく村で地図を配っていた商人は、偽の地図を使って、ジンを持つ者たちを迷宮に誘き寄せて、秘宝を狙っている恐れがあります」 「そうだな。俺も話で聞いた時、地図を配っていた男は信用できねぇ気がした。案外、秘宝の近くに潜んでいる可能性もあるな」 靖がそう言うと、琥龍 蒼羅(ib0214)は顔色一つ変えずに告げた。 「俺も男の正体や目的が気になってはいたが、その可能性があるなら、早急に秘宝のある部屋まで行くのが先決だな」 「そうね。すでに迷宮へ入っている青年たちもいるらしいし、偽の地図とは知らずにアヤカシに襲われている危険もあるわね。彼らのことも助けたいし、秘宝はケートさん以外の者が触れたら罠が作動すると村長さんから聞いたから、尚更、放っておけないわ」 フェンリエッタも遺跡探索には興味があったが、だからこそ、その魅力で人が狂ってしまうことを危惧していた。 「ホワイトミノタウロスがいるなら倒さないとね。なんと言っても女性の敵だし」 星風 珠光(ia2391)の言う通り、白タウロスは女性を生贄にすることもあり、万が一、ケートが狙われたら大変なことになるだろう。 「地図の指示通りに進めば、秘宝まで辿り着くことができるはずだ。青年たちを救出するためにも気を引き締めねばな」 凛々しい表情で、ロック・J・グリフィス(ib0293)が言った。 事前に調査したことを話し合った後、開拓者たちはロマラ・ホープ(iz0302)とケートを連れて遺跡の中へと入った。 「ケート嬢、この遺跡には言い伝えの通り、ラファの鏡があるのだな?」 ロックの問いに、ケートが頷く。 「秘宝はラファの鏡で、元々はアタイの故郷にあったものなんだ」 「ならば尚更のこと、見つけ出さねばな」 優しい眼差しのロックに、ケートは安堵の笑みを浮かべた。 ● 前衛では蒼羅が銀の手鏡を持ち、ふと天井に鏡を向けると、バジリスクの姿が写る。後衛にいたキリエが美しき者の鏡を掲げると、バジリスクは警戒したのか、さらに奥へと走り去った。だが、まだ射程距離内だと悟ったキリエは『黄泉より這い出る者』で姿のない何かを召喚すると、バジリスクは血を吐きながら苦しみ、瘴気となって消え去った。 「鏡を持っているせいか、バジリスクも接近してきませんね」 「そのようだな。おかげで秘宝までは行けそうだ」 蒼羅はそう言いつつも鏡を持ち、警戒を怠らないように気を配っていた。 珠光も死神の鎌を持ち、周囲の様子を伺っていた。仲間の意思を尊重して、いざとなれば皆が動きやすいように援護するつもりでいた。 「そろそろ、迷宮の中心辺りかな」 ふと、珠光が呟く。 「なんだか、騒がしい声が聴こえてきます」 ロマラはフェンリエッタに頼まれて『超越聴覚』を使っていた。 「用心しないとね」 フェンリエッタは『瘴索結界』を使ったが、アヤカシの気配はしなかった。 「アヤカシではないとしたら」 念の為、『心眼「集」』を使ってみるが、やはりアヤカシの反応はなく、フェンリエッタは怪訝に感じた。 「ロマラさんが聞いた声は、青年たちかも」 「だとしたら、まずは説得してみよう」 ロックは女性たちを庇うように先へと進む。 「‥‥これは‥‥?」 見ると、楽しげに笑っている者、武器を投げ捨てている者、酒を飲んで壁にむかって話している者がいた。 「どうやら、混乱状態のようですね」 ロマラがリュートで『再生されし平穏』を奏でると、一人ずつ意識を取り戻した。 「毒で動けないヤツもいるな」 靖が『解毒』の術を施すと、その男は壁にもたれながら礼を言った。ロックが『士道』による真摯な説得をすると、迷宮から出る者もいたが、やはり秘宝見たさに奥へ進むと言い出す者たちがいた。 「仕方がないわね。その代わり、安全のためにも指示には従って頂戴。自分勝手な行動でどうなるか、それくらいは理解できるわよね」 フェンリエッタが釘を刺すように言うが、青年たちは何故かうれしそうだった。 (もしかしたら、この中に‥) キリエは同行者の中に商人がいるのではと思っていたが、しばらく様子を見ることにした。それは靖も同じだった。ケートが狙われていることを察して、彼女の動向にも注意していた。 ● 大広間の壁に、棍棒を打ち付けている音が響く。 暇を持て余して、ホワイトミノタウロスは壁を叩いていたようだ。 開拓者が入ってきたことが分かると、ニンマリと獲物を狙う目になった。 とっさに間合いを取り『精霊壁』を使うキリエ。 「まずは倒してからですね」 フードを被った男たちは、大広間の入口付近で待機していたが、靖は彼らの存在に気づいていた。 この中に、例の男がいる恐れがある。 「ケートさん、気を付けて」 フェンリエッタは彼女を後ろに下がらせ、ロックが純白の盾を構え、防御態勢に入る。 「この俺がいる限り、レディ達には指一本触れさせん‥ロック・J・グリフィス、参る!」 白タウロスが棍棒を振りかざすと、ロックの盾が『スィエーヴィル・シルト』によってオーラの障壁を作り、ダメージを無効化することができた。すかさず珠光が死神の鎌を振ると『毒蟲』の術により、無数の蝶が舞い、白タウロスの身体に襲いかかる。毒が効いてきたのか、動きが鈍くなるが、それでもケートに狙いを定めて肉迫する白タウロス。 「無駄な足掻きだな」 迅速の刃が煌めく。蒼羅は『秋水』の技で敵の腕を斬り捨て、斬竜刀「天墜」が『白蓮華抄』によって白い燐光を纏い、その一撃により、白タウロスの瘴気が蒼白い炎となる。攻撃の合間、珠光とキリエは『瘴気回収』を唱え、自身の練力を回復させた。次の攻撃に備え、珠光は『瘴気吸収』で自らの知覚を上昇させた。 大広間の所々に呪詛侵蝕の罠が施されていたが、全員が術に打ち勝ち、状態異常になる者はいなかった。 キリエは後方から『黄泉より這い出る者』を召喚していたのか、白タウロスはのたうち廻っていた。フェンリエッタが『雷鳴剣』を放ち、ロックの『聖堂騎士剣』が止めとなった。キリエが持っていた水晶髑髏「黒」の歯が微かに鳴り、白タウロスは塩と化して、ゆっくりと消滅した。 「アヤカシは倒せたな。この奥に秘宝が‥」 そうロックが言いかけると、フードを被った男たち三人が手を叩きながら近づいてきた。 「さすがです。お見事です。お強いですね。ささ、次は秘宝を見てみましょう」 「‥‥待て」 靖は威嚇するかのように『白霊弾』を放った。 「いきなり、何を?!」 「アンタらの狙いは分かってるんだよ」 靖がそう言い放ち、キリエが穏やかな表情で告げた。 「秘宝を奪うつもりですね。そのために偽の地図を人々に配り、誰かがアヤカシを倒した隙に秘宝を手に入れる‥ですが、秘宝に触れたらどうなるのか知っているのですか?」 「はっ、知るか。秘宝さえ手に入れば良いんだよ」 フードを被った男は秘宝に近づこうとするが、またもや靖の『白霊弾』が飛んでくる。それでも構わず、男は秘宝のある部屋へと入ってしまった。 と、次の瞬間、男は突然、大声で笑いだした。 「はははははは、金だ、宝石だ、こんなにたくさん!」 その様子に他の男たちは驚き、悲鳴をあげて逃げ去っていく。 開拓者が部屋に入ってみるが、それらしきものは見当たらなかった。台座の上に、鏡が置かれているのが見えた。 「アヤカシの気配がするわ」 フェンリエッタは『瘴索結界』を使い、気配のする方向を見た。 「バジリスクが2匹」 キリエと蒼羅はとっさに鏡を掲げると、バジリスクは床にへばり付き、警戒していた。その隙に珠光が鎌を振り上げ『毒蟲』で蝶の式を召喚し、バジリスクを攻撃。術の猛毒によりバジリスクの四肢は痺れ、ついには動かなくなった。 「毒を持つアヤカシが毒で動かなくなこともあるんだね」 「皮肉なものね」 フェンリエッタの『雷鳴剣』が炸裂し、蒼羅が斬竜刀で斬り付けると、バジリスクは瘴気となって消え去った。しばらくすると、秘宝を狙っていた男は我に返っていた。 「なんだ、大量の金と宝石がない?!」 「あのな、アンタは混乱してたんだよ」 靖はやれやれと溜息をついた。ケートはすでに台座にあった鏡を手に取っていた。 「これが秘宝‥ラファの鏡だよ」 「ここに来る前、調べてみたんだが、三日月の夜、その鏡をラファの集落にあるオアシスに投げ込むと、災いが消えるらしい」 靖は秘宝が『月』と関わりがあるのではと推測し、出発前に調査していたようだ。 「アタイ、故郷に戻って、この鏡で災いを消してみる」 「無事にケートが秘宝を手に入れて、その後、どうすれば良いのかも分かったが、あの男‥どうするか?」 靖が涼しげな眼で男を見ると、キリエは少し思案した後、こう告げた。 「秘宝を狙っていたのが事実なら、置き去りにするより、ギルドに連行していきましょう」 「この商人が秘宝を奪うつもりでいたのは、さっきの態度で分かったしね」 フェンリエッタも商人のことは怪しいと思っていたのだ。 「黒幕は、人間の男だったとはな」 蒼羅がそう呟く。本当に恐ろしいのは、宝に目が眩んで奪うために手段を選ばない男の心だったのかもしれない。 開拓者たちは男を連れて、遺跡から出ることにした。 途中、石化していた者もいたが、キリエが地図に場所を書き込み、ケートが『解術の法』で治癒する。 入口に辿り着いた頃には、助け出した者は8人。全員、救出することもできた。 「ケートさん、貴方がいてくれて良かった‥ありがとう」 フェンリエッタの言葉は、ケートにとって意外であったのか戸惑っていた。 「お礼を言うのはアタイの方だよ。皆さん、本当にありがとう」 そう言いながら、ケートはフェンリエッタに抱き付き、泣きじゃくった。 うれしくて、うれしくて。 人はうれしくても涙がでることを、改めて実感した。 |