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■オープニング本文 「いやー、今日も大漁だったっぺよ」 「んだなぁ。やっぱりこのあたりは最高のスポットだべ」 五行南部、大きな岩がごろごろしている海岸線。 釣り人達が満足げに微笑む隣で、開拓者達はぶすっとしていた。 大漁間違いなしと、もっぱらの噂のこのスポット。ちょっとした休暇を利用した観光で、わざわざ神楽の都から足を伸ばしてやってきたというのに、朝から一匹も釣れていない。 「ん? あんだだちも釣れてないっぺか?」 若い女の釣り人が、開拓者達に声をかけてきた。苦笑いをしつつ、頭をかく。 「わだしも釣れてないっぺよ‥‥仲間さみんな大漁なんだけどもな。わだしは全然‥‥」 ふう、と彼女はため息をつく。彼女は美鈴と名乗った。仲間はもう宿に帰ったのだという。 「なあ、もしよかっだら、一緒にちょっと海さ出ねぇか? このまんまじゃ仲間に恥ずかしくってなぁ」 美鈴が指差す先に、『船、貸します』の看板を掲げた小さな店があった。 店主は気さくなおっちゃんであった。 とりあえず話だけということで店を訪れた開拓者達だったが、海でのおっちゃんの武勇伝をいろいろと聞くうち、船を借りてもいいかという気分になってきた。 ざん ざざーん ざん ざざーん そんなわけで、いま開拓者と釣り人の美鈴は海に出ている。 「釣れるッ。釣れるっぺ!!」 海に出たとたん、はっきり言って状況は真逆に変わった。 釣り糸を垂らしたとたん、食いつくわ食いつくわ。 笑いが止まらないほどで、あっという間に魚篭の中は魚でいっぱいになった。 「お?」 そんな中、美鈴がかなり大きな手ごたえを感じた様子。 「んんん!!」 開拓者達も手伝って、何とかそれを引き上げた!! 「大物だべ!!」 それは、人間の姿をした、屍人のアヤカシだった。 |
■参加者一覧
葛葉・アキラ(ia0255)
18歳・女・陰
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
氏池 鳩子(ia0641)
19歳・女・泰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
汐未(ia5357)
28歳・男・弓
支岐(ia7112)
19歳・女・シ
白霧 はるか(ia9751)
26歳・女・弓
ライオーネ・ハイアット(ib0245)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 漢なら、波の音で燃えないわけがない。 と、話は全然関係ないが、開拓者たちは五行南部の海岸線にやってきていた。 ゴツゴツした岩に腰掛け、思い思いに釣り糸を垂らす。 「‥‥‥‥」 珍しく静かな喪越(ia1670)の真横で、次々に魚を釣り上げる地元の釣り人たち。 「いやー、今日も大量だったっぺよ」 「んだなぁ。やっぱりこのあたりは最高のスポットだべ」 そんなことを言いながら、重たそうな魚篭を持ち、その場を去っていく。 漢だって釣れないときもある。慌てちゃダメだぜセニョリータ。 「とうッ!」 手ごたえを感じ、喪越が一気に釣り上げた糸の先に、ぶら〜んと巨大な木の枝がひっかかっていた。 「NO!! 食糧ゲットと転売で大儲けの予定が!!」 木の枝にぐるぐると絡みついた釣り糸。 むきー! と目を吊り上げる喪越の、気持ちはわかるぞと思いながら、汐未(ia5357)は自分の釣り糸の心配をする。 「‥‥っ」 支岐(ia7112)が首をかしげる。どれだけ待っても、ウキはぴくりとも動かない。ちょぼ、と一旦竿を揚げてみると、えさをとられた釣り針がぶら下がっているだけ。だんだん悲しくなってきたのか、支岐を残念そうなオーラが取り巻く。 「折角の休暇なんですけど‥‥なかなか釣れませんねぇ」 と、ライオーネ・ハイアット(ib0245)が自分の魚篭をのぞきながらつぶやく。魚篭は小さな貝殻が入っている以外、空っぽだ。 「‥‥お魚、久しぶりに食べられると思ったのであるが‥‥」 困ったように眉を寄せる支岐の肩をライオーネは軽く叩いた。 「まあまあ、もう少し待ってみましょう? ね?」 ライオーネの金色の髪が、ふわりと揺れた。 「‥‥(うなずき)」 自身も女性なのだが、綺麗な女性に優しくされてなんとなく気恥ずかしい、支岐‥‥と。 「あんだだちも釣れてないっぺか?」 若い女の釣り人が、開拓者たちに声をかけてきた。 釣り人、美鈴である。 そうして開拓者たちは、貸し船屋へ赴くのだった。 ●いざ、大漁 船は開拓者たちを乗せて、貸し船屋近くを出発した。 「何や岩が多いみたいやけど、大丈夫なんかいな?」 葛葉・アキラ(ia0255)がひょいと海を覗き込む。まあ、このあたりは大丈夫そうだ。透明度の高い水の底に、魚の影がするすると動き回っている。 「氏池さん、いつでも言うてね。うち、ばっちり準備万端やさかい」 「あぁ」 藤村纏(ia0456)の後ろで、氏池 鳩子(ia0641)が櫂を握っている。ぽかぽか陽気が、船に降りそそぐ。ふにー‥‥と、まったりした顔でぎこぎこ、ぎこぎこと鳩子は漕いでいく。今度こそ、お手製の竹竿が真価を発揮するはず。今日は絶好の釣り日。大漁ウハウハが、鳩子らを待つ‥‥。 「このあたりか?」 鳩子は手を休めた。陸地から500mほど離れた海域。 「この辺なら安心して大漁や! ゆーとったな、あのおっちゃん。よっしゃ! いっちょ、やったろ!」 葛葉がビュッと竿を振った。 その瞬間――。 「あら〜」 白霧 はるか(ia9751)が目を丸くする。 葛葉の釣り針が海に入る前に、魚が海から飛び上がり、ばくりとえさに食いついたのだ。 「っっっっわ!!」 ギュンと引く魚の手ごたえに、葛葉の心は躍った。 「これは――た・い・りょ・うッ――の予感やでーーッ!!」 一気に釣り上げた魚を、美鈴が手網で受け止める。 「すんげーっぺよ、アキラさん!」 美鈴のテンションも一気に跳ね上がった。 「こーれは負げでられねーな!」 小一時間ほどして。 「はぁーっはっは!! Hey! YO! こいつはいい土産ができたぜアミーゴ!」 船は魚で一杯になっていた。 (これだけあれば、転売して、転売して、また転売して‥‥おいおい、こら大儲けだ! そして、美鈴セニョリータと‥‥ふっ、ふふっ) 美鈴が気になるらしい喪越の隣で、「まあ〜」と両手を合わせて、にっこり笑顔の白霧 はるか。 「わあ〜。これはすごいですね〜」 「ああ。今夜は魚尽くしできまりだな」 汐未が満足げにうなづいている。 「お魚‥‥!」 ようやく再会した恋人を見るように、支岐は魚の山を見つめる。 「な・な・な・ななななな!」 船に美鈴の叫びが響いた。 「なんだっぺこれは!!」 美鈴が、屍人アヤカシを釣り上げた。 ●陸地まで、およそ500m 「ちょっとお休みで来たのに〜大変なことになってしまいましたね〜」 白霧 はるかが、すっと美鈴の盾になった。 アヤカシに引っ張られた釣竿が跳ね上がり、海に消える。勢いで美鈴が落ちないように、白霧 はるかが彼女を支える。 「んぐっ!? こんなところでアヤカシやなんて〜。美鈴さん、白霧さん、ちょっとどいてなぁ」 和菓子をもぐもぐしていた藤村纏が動く。立ち上がりつつの【座敷払】で、船に上ろうとしている屍人アヤカシをこそぎ落とす。 「アウウァ!?」 屍人アヤカシは見た目はアレだが大した力はないらしく、あっけなく海に沈んでいった。 「‥‥一匹だけって事は‥‥」 バシャバシャ、バシャバシャ 激しく泳ぐ屍人アヤカシたちが、船を取り囲んでいる。 「やっぱりないんだろうなぁ」 汐未は弓に矢をつがえた。屍人アヤカシの連中、えさを見つけたつもりでいるのだろう。すこぶる楽しそうだ。スパーーンと矢を突き立てて、汐未が接近を防ぐ。 「ブーーー!!」 鳩子は飲んでいた岩清水を噴き出した。危ない。一番後ろでなければ、誰かにひっかかっていた。 「な、なんだこれは!?」 鳩子は魚を釣り上げていた。やたらと歯と顎が発達した魚‥‥貪魚と呼ばれる類の、魚型アヤカシである。貪魚は釣り糸を軽々と噛み千切ると、鳩子に向かって飛びついてきた。 「舐めないことだ!」 飛びついてくる貪魚の顎を、鳩子は器用に打ち上げた。貪魚は海に吹き飛ばされる。着水した瞬間、海に潜んでいた黒い群れがむわっと反応した。船底めがけて、突撃してくる。 ガンガンガンガンッ 足元から突撃の騒音が聞こえてくる。 「おいおい、どうなってるんだ海の中ァ‥‥」 喪越の魚型【人魂】が、海に突撃した。 こぽこぽこぽこぽこ‥‥。 「んんん? なんだかもやもやしてよく見えねぇな」 海中は太陽の光が射し込んで明るかったが、視界は顔面を水桶につけたみたいに揺らいでいた。それでも、船底に集まっている黒い小さな群れくらいは見える。また、それ以外にも図体のでかいものが海底から急速に接近しているのがわかった。 「YO!?」 喪越がわたわたと鳩子に目線を送った。なんとなく事情を察した鳩子は、こくりとうなづいて船を出発させる。 「HEY! YO! 来るぞ! 衝撃に備えなアミーゴ!!」 船。 そのすぐ近くの水がずずずと持ち上がり、ぐんぐんと高くなり――。 「お魚は渡しませぬ!!」 支岐が鎌鼬を構え――海面から、首のない青色の大男が現れた。 「おおお? これは、陸まで行ったほうがいいな?」 みな、鳩子と同じ気持ちだった。鳩子が櫂を思い切り漕ぐ。 「この稲妻で足止めになれば――」 ライオーネが放った【サンダー】が首無しに炸裂する。筋骨隆々なその男は、少し動じたものの、のっしのっしと海面を歩いて船を追う。 「HEY! そういえば、水の上を突っ走るビックリ生物って知ってるか。足が沈む前に、もう一方の足を踏み出すんだぜ」 喪越の滑らかなトーク。目の前の大男はゆっくり歩いて近づいてくる。 「見たところあいつはなんか違う気がするが、少しの距離なら、俺でもできるかも‥‥」 「晩飯を失ってたまるか!」 汐未の矢が炸裂する。喪越はしゃべりつつ【霊魂砲】を放った。大男を足止めする。 「なぁ、ここでなんかあったのか?」 続けざまに矢を打ち込んでいた汐未が一呼吸置いてまわりを見渡した。貪魚に、屍人に、青い首無し男。それに――。 ぺかーと後光を背負いながら、美しい女性が海面から浮上してきた。赤色の首無し男の肩に乗っている。遊女のようなあでやかな着物。扇子で口元を隠している。 「何であんなアヤカシまで海にいるんだ?」 彼女はどこかすましたような顔つきで、汐未に流し眼を使った。 「!!」 汐未はふいに妙な感じを覚えた。その流し眼は普通の流し眼ではない。数多くの男たちをとりこにしてきた【魅了】の瞳だ。彼女は海に住み、船の男たちを海の藻屑に変えてきた、恐ろしいアヤカシなのだ。 「まぁ邪魔だな」 だが汐未はあっけなく矢を彼女に打ち込んだ。彼の精神は、彼女の力など寄せ付けない。 「くっ! 動かない!?」 船の速度が急に落ちた。 鳩子が櫂を漕ごうと力を入れるが、なぜか重過ぎて動かない。 大男と屍人アヤカシが近づいてくる。 「おいおい、どうしてこうなった。早い所、ここからスタコラサッサとおさらばしようってのに」 鳩子はさらに、腕に力をこめる。 一方、一般人の美鈴は船のヘリにつかまって、ぶるぶる震えていた。 「おっかぁ、あだしここで死んじまうだかぁなぁ?」 「大丈夫ですよ〜」 白霧 はるかが、美鈴をきゅっと抱きしめる。 船の進行方向にひとつ、水柱が立ち上がった。 それは、今度は黄色の首無しだった。 「これはこれで〜大漁旗が必要かもしれませんね〜」 白霧 はるかは動じず、にこにこ微笑む。 腕の中では、美鈴が不安げに泣いている。 「大丈夫。帰ったら皆さんで一緒にお魚食べましょうね〜」 白霧 はるかは、よしよしと美鈴の頭を撫でた。 「頼りにしでるよぉ」 涙目ながらも、美鈴はこくりとうなづいた。 大男は船に腕を伸ばして近づいてくる。 「邪魔せんといてやッ! お魚はうちらのモンやでッ☆」 葛葉が【斬撃符】をお見舞いする。 「氏池さん、代わるで! うちもやってみる!」 藤村纏が櫂を引き受けた。 「うん、なんだかすごく重いんだ。なにか、ひっかかってるのか?」 そう言いつつ、【気功波】で鳩子は首無しをぶつ。 「屍人といい、大男といい、アヤカシも食用であるとお聞き致し申したが‥‥」 ぎゅるるる‥‥と鳴るお腹をさすさすしながら、風魔手裏剣を大男にブン投げる支岐。 「そうそう、好き嫌いはダメだってママンがな‥‥って、そんなことあるかぃ!」 喪越が、【霊魂砲】を放つ。 「あかん、やっぱ動かへん」 藤村纏が眉を寄せた。 陸地はもう、ずいぶん近い。 進行方向と背後には、アヤカシたちが迫っている。 「では、人員を捨てましょう‥‥いえ、冗談です。船を少しでも軽くする為に、釣った魚は捨てましょうか?」 出来れば避けたいですが、とライオーネは付け加える。 「そやなぁ。アヤカシさん、お食べぇゆーてな‥‥でもなんかちゃうねん」 藤村纏は櫂から手を離した。海上から覗き込む。櫂に屍人アヤカシがむわあああっと何体もしがみついていた。 「ほあ〜、これがお魚さんだったら〜すごく嬉しいんですけどね〜」 美鈴を守りつつ、弓で応戦していた白霧 はるかが船のヘリにしがみついた屍人アヤカシを蹴り落とした。 「もう目の前、なんだどもなぁ。なぁんか、せんとぉ」 独特なイントネーションで悩む美鈴。 そうだYO、と喪越が懐から焙烙玉を取り出した。悪魔の微笑み。 「ええっ、喪越さん。そいづぁあぶねーんでねーか? 櫂もふきとんじまうよぉ?」 「ふっ。こんなこともあるやろと!」 藤村纏が、予備の櫂を取り出した。 「YO! がっちん漁って知ってるかぃ?」 焙烙玉に火が点いた。 ●到着、浜辺 「右前方に岩が御座います。速度はそのまま、左の方へ!」 支岐の指示のもと、船は貸し船屋に向かっている。間もなく到着。藤村纏に代わり、鳩子が櫂を漕いでいる。 「ファイト! あと少し、もうひと息ですよっ」 ライオーネが両こぶしを、胸の前でぐっとつくる。その手には、シーマンズナイフ。 「もうあと少しやな? 絶対近づかせたあかんで。大丈夫、痛いのはうちが治したる」 後方に迫るアヤカシ群を迎撃している開拓者らに声をかけつつ、葛葉が【治癒符】で回復役を務める。 そして――。 開拓者らは、陸に到着した。 アヤカシの多くは開拓者らに討ち取られ、また残ったものたちもどうやら陸に上がっては来れないらしく、残念そうにその場を去っていった。 浜辺にて。 焚き火をつくり、開拓者らは思い思いに過ごしている。 すっかり夕暮れ時だ。 「おーい! ご飯、もうすぐやでぇ!! こんだけ苦労して持ってきた魚やさかいな! 美味しく食べな、バチ当たるワ!」 葛葉が、鞠を手でアタックして枠の中に入れるという新しい遊びをしていたライオーネたちを呼んだ。スキル全開の真剣勝負であったので、枠などあってないようなものだったが。 「急ぐんやで〜〜!」 焚き火に網が備え付けられ、塩焼き・醤油焼きがジュワジュワといい匂いを漂わせている。 「あかん、もうお腹すいたわ。支岐ちゃん、もう食べていい?」 「もう少し、で御座いますよ」 ぎゅるるるーと、魚を焼いていた支岐のお腹が鳴る。 自分のかと思った葛葉は、はっと自分のお腹に手を当てた。 支岐がぽっと赤くなる。 「あ、いまのは私のでありますのだっ」 「あ」 葛葉もちょっと赤くなる。 「おまたせぇ」 藤村纏が貸し船屋の厨房を借り、魚料理を作ってきた。量が多いので、美鈴や貸し船屋のおっちゃんまで、一緒にご飯だ。 「お刺身、煮付け、あら汁もあるで〜。あんまり上手にできひんかったけど、どーぞ♪」 と、照れ笑う藤村纏。 「待ってました!」 誰から始まったのか、拍手喝采が夕暮れに響く。 「これ! これうまっ!」 焼き魚をばくばく食べながら、喪越は屍人アヤカシがなんで海にいたのか、と口にした。汐未がニヤリと笑う。 「ママンの言いつけが守れなくて残念か? アヤカシは、死んだら消えるからな」 生け造りなら食えるかもしれないぞ? というネタのために、懐に忍ばせていた貪魚のことを汐未は思い出した。懐にはもう無い。先ほどの浜辺遊戯で、どさくさの間に霧散したのか。 「色々ありましたけど〜これはこれで楽しかったですね〜」 「そうだな。思えば、結構大変な目にあったが、まずは無事に帰還できたことを、よかったと思うことにしよう」 ほんわかした白霧 はるかの一言。 それに応じる鳩子。 いい休暇だったな。 鳩子はふと、笑みをこぼした。 開拓者らの休暇は、間もなく終わる。 |