【四月】☆王位☆争奪戦
マスター名:乃木秋一
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/14 21:21



■オープニング本文

 ある晴れた日。
 天儀の首都『結陣』にそびえる超高層ビルの最上階。
 窓際、ガラス越しに街を見下ろしながら、幼い顔の少年は思案していた。
「爺や、この国には、刺激が足りないと思わない?」
「‥‥むう、どうでしょうな」
 きちっとタキシードに身を包んだ老人が、ほくほくと微笑んでいる。
「そうだ、こんなアイディアはどうかな? 王位を誰かにあげちゃおう。ゲームに勝った人が、この世界を好きにできるんだよっ」
「貴方がそうお決めになるなら、それに従うまでですよ。 架茂(かも)王様」
「そっか!」
 少年はぱっと笑顔になった。

 彼の名は、架茂王‥‥その昔存在したと言われる王と、同じ名である。
 現在、14歳。

「よし、じゃあ僕決めた! 王やめる!!」

 時は天儀暦20××年。
 王国『五行』が天儀すべての国を支配するようになってから、およそ1000年後の世界。
 各地に配備された陰陽師軍団に守られ、人々は安定した日々を送っていた。

「どんなゲームがいいかなぁ〜‥‥そうだ!」

 ぽむ、と両手を合わせる。
 晴れやかな表情で、彼は指示書を書き始めた。

(またきっと、もの凄く細かいのでしょうなぁ‥‥)

 指示書の内容を想像しつつ、爺やは春の日差しを楽しむのだった。



●大 ☆ 開 ☆ 戦
「さあいよいよ始まります、天儀王位争奪戦!! いったい、誰が王位を獲得するのでしょうか!?」
 赤いスーツを着た司会役の赤守 ゆわた(芸名)が、フロアに集まった人々に向かって叫んでいる。
 その声はマイクで拡張され、激しいビートのBGMと一緒に、スピーカーからガンガン響いている。
「ルールは簡単!! この塔を、ただ上っていくだけ!!」
 ゆわたが上空に向かってひとさし指を突き上げた。
 フロアの人々がいっせいに上を見る。
 塔は円形の吹き抜けになっており、その内壁には頂上までぐるぐるっと階段が続いている。
 米粒くらいの小さな空が、塔の頂点で青く光っていた。それ以外、特に何もない。
「ルールは無用! スキルも使い放題! 自分の特技を最大限に生かしてください! ひとつしかない『王』の座を巡り、血で血を洗う戦いが繰り広げられるのか!? それとも!? なお、この塔は大変頑丈なので、好きに暴れて結構ですよ!」
 この塔は、このためだけに、税金のなんと6割が使われ建造されたのだ。世界最高峰の頑丈さを誇っている。
 熱気で包まれた会場を、テレビカメラ搭載の駿龍が飛び回る。
 真っ白な塔の内壁・外壁に、参加者の表情が映し出されていく‥‥。
「とにかく!」
 ゆわたがスーツの内ポケットから、ひとつの小さな箱を取り出した。
 こざっぱりとした外見ながら、小さな宝石がさりげなくあしらわれた、品の良い箱。
 かぱっと開けると、中から一枚の『符』がふわふわと浮き上がる。

 ぽん!

 それはもふらの姿に変わった。
 天使の翼を背に、黄色いわっかを頭につけたもふらが、ゆわたの前でぱたぱたホバリングし――。

「もふぅぅっ!!」

 そのままぎゅうんと急加速で上昇し、塔の頂上へと消えていった。
「いまのは現国王が作成した『しるし』、エンゼル・もふらです。あれを手にした人が、次の『天儀王』ですよ!!」
 ゆわたがこぶしをつくる。
「さあ、決戦のゴングはいま打ち鳴らされる!! 最初にして最後、おそらく二度と開催されぬ奇祭! 準備はいいか、始まるぞァ!!」


 一瞬の静けさが、ゴングを待つ――。




※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


■参加者一覧
/ 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 輝夜(ia1150) / 懺龍(ia2621) / 蒼零(ia3027) / 風瀬 都騎(ia3068) / 幻斗(ia3320) / 赤マント(ia3521) / 仇湖・魚慈(ia4810) / 平野 譲治(ia5226) / ペケ(ia5365) / 設楽 万理(ia5443) / 鈴木 透子(ia5664) / バロン(ia6062) / 藍 舞(ia6207) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / トーマス・アルバート(ia8246) / ルーティア(ia8760) / 和奏(ia8807) / 緋宇美・桜(ia9271) / 不破 颯(ib0495


■リプレイ本文

●午前9時。春眠、暁を‥‥
 ここは結陣某所、礼野 真夢紀(ia1144)が住む豪邸。
「お嬢様! お嬢様!! 学校が始まりますよ!! お嬢様ってば!!」
 暖かな日の光が、レースのカーテン越しに真夢紀の部屋に射し込んでくる。がちゃがちゃとドアノブをまわそうとする音だけが、部屋に響いている。鍵がかかっている。真夢紀専属のメイドが扉を壊そうと、シュッと一枚の符を取り出す。その頃‥‥。
「〜〜〜〜♪」
 その部屋の主、真夢紀は鼻歌まじりに電車の改札をくぐっていた。
「いやー、まさか学校がお休みになるなんて、王様に感謝しないといけませんね」
 午前9時。真夢紀はこの歴史的イベントの会場に向かうべく、学校をサボっていた。一応イベント中も授業はあるのだが、彼女的には学校は休みになっているらしい。
 長いトンネルを、電車が抜けた。
「あら!! あの建物が、うわさに聞く建物なのですね」
 真夢紀が窓ガラスの向こうに建つ、イベント会場の塔に目を輝かせた。
「たくさんありますわね、『出店』が!!」
 王位ではなく、美味しいものを想像してわくわくしている真夢紀の近くで、輝夜(ia1150)がすっと目を細めた。
「‥‥まったく、馬鹿げたこと考える王じゃな。世を乱しおって」
 彼女の足元には巨大な双戟槍が、白い布でぐるぐる巻きにされて置かれている。
(‥‥聞けば、長丁場が予想されるとのこと。我は拙速よりも巧緻を、じゃの)
 歴戦をくぐり抜けてきた彼女にとって、戦い自体は問題ではない。勝つためには、戦うだけではダメだ。長丁場になれば、食事や睡眠にも気をつけなければならない。
(‥‥不思議と、少し楽しみじゃな。王になったら、どうしようか)
 なんて、それぞれに想いを描く彼女たち。
 彼女らを乗せた電車が、会場に到着した。


●午前11時。間もなく開場
「おい都騎ぽん、世界を猫一色にできるイベントというのは、ここで間違いないんだなっ‥‥わ、おい、テレビカメラがあるぞ!!」
 こっちに来るかな? と妙に高いテンションで、蒼零(ia3027)がバシバシと都騎(ia3068)の背中を叩く。
「いたっ! 痛ぇよ蒼たん! ちょっと、落ち着いて!」
 王位自体はどうでもよくても、彼らのように興味本位で集まっている人も多い。間もなく開場ということで、塔の周りは人でごった返していた。
「なあ、蒼たん、それにしても幻斗はどこ行ったんだ?」
 興奮冷めやらぬ蒼零を、どうどうと抑えつつ、都騎は首をかしげた。今日は蒼零と自分、そして幻斗(ia3320)の三人で会場入りしたはずだったが?
「あっ!!」
 蒼零が塔の側面を指差した。テレビ駿龍の映す映像が、真っ白な塔の側面に大きく映し出される。そこには青みがかった長い銀髪、隻眼の見覚えのある人物がいた。
「こんなところで迷子かぃ!」
 都騎がくわっと牙をむく。そのつっこみが聞こえたのか‥‥いや、恐らくただ単純にテレビカメラに気がついてちょっと嬉しかったのだろう、幻斗がにっこり、カメラに手を振った。
「兄さん! 都騎殿! 見えてますか〜〜!!」
 スピーカーから大音量で聞こえてくる、幻斗の声。やっぱり、ちょっと嬉しそうだ。
「おおい、迷子になったことに気がついてないな、幻斗」
 さぁーっと、都騎の顔が青ざめる。
「待ってろよ! 必ず猫一色に染めてみせる!」
 ぎゅっ! と握りこぶしをつくって、決意を口にする蒼零であった。

 開場後、戦いに参加する者たちによって、どどどど‥‥とポジション取りが行われた。

「準備はいいか、始まるぞァ!!」
 赤守 ゆわた(iz0096)の声が、会場に響き渡った。間もなく正午。
「どこじゃ、ルーティアッ」
 バロン(ia6062)は一緒に来ていたはずのルーティア(ia8760)を捜していた。入り口までは一緒に来ていたのに、入場の人波にのまれ、いつの間にか離れ離れになっていた。
「親父‥‥必ず見つけるぞ」
 別の場所。
 ルーティアは二本の短刀を早くも握り締めていた。自分のすぐ近くに、鬼型アヤカシが控えているのだ。まだ静かにしているが、開始のゴングが鳴れば、どうなるかわかったものではない。
 階段近く。
 何の縁か、もふらラブな人が多く集まっていた。
「それでは皆さん、みんなで羽根付きもふらさまを捕まえましょう!!」
 和奏(ia8807)の掛け声に応じて、えいえいおー! と拳を突き上げる一同。なぜか一緒に、楽しそうに拳を突き上げるアヤカシ・アイスゴーレム。
 間髪いれずゴング――和奏は容赦なく、アイスゴーレムに切りかかった。
(アヤカシは斬っても良いですよね!)
「和奏さん、お先に!!」
 つい先ほど一緒に拳を上げていた少年が、アイスゴーレムの脇の下を通って先に行く。
「あっ、待ってください! 自分も! もふらさまに!」
 アイスゴーレムとの戦闘はそこそこに、和奏は一心不乱で駆け出した。目指すは『羽根付き』。エンゼルもふら。戦いの火蓋は、切って落とされた。
「始まった‥‥なんてことじゃ! ルーティア! 必ずッ!!」
 バロンは怒涛のように駆けていく前方の集団に、【バーストアロー】を撃ち放った。真っ直ぐになぎ倒される、人々の森。
「折角じゃ、大暴れしてやるわい!!」
 バロンの声が、会場に響いた。

「ほう?」
 会場の隅っこで茶席をつくっていたからす(ia6525)が、目を丸くした。塔内部のモニターに、でかでかとバロンが映し出されていたのだ。見知った顔である。スピーカーから、彼の声が響いてきた。
(バロン殿‥‥ご無事でな)
 普段とは違う黒地に彼岸桜の振袖を着こなし、既に茶席に集まっていた人々をもてなしていく。
「‥‥あの、ここ、いいですか?」
 一般人らしい女の子が、とことこと寄ってきた。
「ああ、どうぞ。お茶はいかがかな?」
「ありがとうございますっ」
 からすよりも幾分幼い少女が、にっこりとお礼を言う。
「いやあ、こいつは誰が優勝してもおかしくないねぇ」
 からすが用意していた大量のお酒を飲みまくっていたお客が言った。妙齢のお姉さんだ。モニターを見てからからと笑う。からすは腰をおろすと、「王は、架茂王かな」と言った。
「へえ、参加してるのかい? あの子?」
 お姉さんはヴォトカをくぃ、と一口で飲み干すと、ばたりとその場で眠り始めた。
「もふもふ‥‥」
 先ほどやってきた少女が、そんなことを口にしながらお茶を飲む。ちょっと残念そうだ。
「ふふ、触りたかったのかな? もふらが上で待っているとは限らないよ?」
 酔いつぶれたお姉さんに毛布をかけながら、からすはにっこり微笑んだ。

「っく! ボクが出遅れるなんて!!」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)は入場の際、不運にも階段からずいぶん遠い位置に押し込まれてしまっていた。いま、先頭集団を目指して急いでいるところだ。
 同じように、猛ダッシュで先頭を目指す人々の、足音で会場は満たされている。そんな中、ゆっくりペースな人もいて。
「ルーティアさん! バロンさんは先に行きましたよ!!」
 階段のふもとで、設楽 万理(ia5443)はルーティアに手を振った。万理は、後ろから攻め立てる心積もりだ。
「ありがとう!!」
 そう言い残し、猛ダッシュでルーティアが階段を上って行く。それを追うように、2mほどの鬼型アヤカシが現れた。人をなぎ倒しながら、階段を上っていく。
「うわっ」
 鬼型アヤカシのまわりには、小さな蜘蛛のアヤカシがたくさんついてきていた。それらは階段には興味を示さず、むしろ万理のほうに向かってくる。
「上等よ!」
 ぎゅうう、と引き絞った弓「朏」から放つ【乱射】。
「うぎゃ〜〜〜〜っ!!」
 それは一般人をも巻き込み、階段下は大混乱に見舞われた。

「500人の人間が階段をダッシュ‥‥すさまじいですね」
 そんな階下の様子を見ながら、鈴木 透子(ia5664)は階段のゴミ拾いを行っていた。
「がんばってくださいね!」
 なんて、通り過ぎていく人にエールを送りながら、器用に火ばさみを繰る。

 コンコン
 コンコン

 と、床やら壁やらを火ばさみで叩きながら、ちょこっとずつ進んでいく。なにか探しているようだ。
「ぐるっと見た様子、なさそうですけど。どこかにはあると思うんですよね。エレベーター‥‥」
 ない‥‥どこでしょうか‥‥と、ゴミを拾いつつ探していくと、あっというまにゴミ袋がいっぱいになった。みな、ぽいぽいゴミを放り投げていくのである。
「え? 本当に無いんですか? 行って帰って48時間ですよ? 20××年だっていうのに!!」
 透子はいっぱいになったゴミ袋を持ち上げると、「ファーーーーー!!」と言って、ストレスと一緒にゴミ袋を小窓から放り投げた。


●午後5時
 塔1Fのステージ上、赤守ゆわたが現在の状況を伝えている。
「現在、参加者は階段の3合目付近に到達しています。参加者のおよそ半数が階下へ蹴落とされ、ずいぶん人も減りました」
 これはヘッドショットを撃ちながら追い上げてくる、女弓術師・万理の存在が大きかった。一般人など、背後から迫る脅威に恐れをなして、自ら階段から飛び降りる者も出る始末。
「1Fは安全仕様になっているから大丈夫なのです‥‥おっと、中継がつながっています。上空の颯さん?」
「はーい! こちら颯で〜す」
 不破 颯(ib0495)が空中に設けられた特設放送席で、赤守の呼びかけにこたえた。彼の笑顔が、塔の内壁にばっちり映っている。彼の弁舌が光った。
「ただいま、先頭グループが順調に距離を稼いでいます。あれは開拓者のチームみたいですね。うわー! 見てくださいあのアヤカシ、すごい足の数ですよ! 壁を垂直に登っています! 近くにいる人たちは気をつけてくださいね!」
 巨大な百足型のアヤカシが、階段を上っている人たちを襲った。ばらばらと何人か落下していく。
「さすがアヤカシ! 無差別になぎ倒してますよぉ。参加している開拓者がどう出るかが注目されますねぇ。それでは、また8合目あたりでお会いしましょう!!」
 中継は、一旦そこで終了した。

「やっと会えましたね!」
 幻斗が、ようやく蒼零と都騎に合流した。すぐそばに、百足アヤカシが迫ってきている。
 蒼零が二刀を構えた。
「三段階の攻撃、受け切れるか?」
 都騎が幻斗に視線を送る。
(都騎殿、あれをやるのですね?)
 幻斗がこくりとうなづいた。それを受けて都騎が吼える。
「俺達の連携攻撃、避けられるものなら避けてみろっ!」
「我ら、猫好志士参人衆!!」
 都騎と幻斗が百足アヤカシに向かって駆け出した。
「邪魔者は切ります、退いて下さい! 猫の為に!!」
 幻斗の鬼神ノ小柄がうなり、都騎の刀が百足の眉間に叩き込まれる。そして、最後の蒼零の一撃で――百足アヤカシはぐらりと体勢を崩した。
「あっ」
 幻斗の服に、爪を引っ掛けて‥‥。
「「か、幻斗――!!」」
 蒼零と都騎の叫びをよそに、幻斗は百足と一緒に落下していった。

(‥‥なんとか、難は逃れたようやね‥‥)
 そんな猫好志士参人衆を横目で見つつ、藍 舞(ia6207)はこっそりと階段を上がっていた。普段着ている黄色い服は、目立つので今はしまってある。
 その近くでは、懺龍(ia2621)が一般人にまぎれて階段を上っている。二人とも目立たないように、目立たないようにの移動である。
「ふっふっふ、このタイミングを!」
 突如、彼女らの前方にいた男が振り返った。手には賊刀、下品な男である。
((あっ‥‥))
 二人はぴたりと足を止めた。
「いや、私はただ、散歩をしているだけなの。気にしないで。ね?」
 真っ先に懺龍がそう嘯いた。
(お、うちも便乗しよか)
 と、舞もそ知らぬ顔をした。
「ぬあっはっは! この高さまで来てそれはなかろう。俺様の、刀の錆にしてくれる!」
 男はどうやらサムライらしく、このクソ狭い足場のなか【猿叫】を使って切りかかってきた。狙うは一番手頃そうな、懺龍――。
(ああ、もう)
 懺龍は【猿叫】をするりと聞き流しつつも、賊刀だけ防御が間に合わず、命中した。
(っ! このっ)
 懺龍の【力の歪み】が、男の体を捻じ曲げる。
「くっ! ちょこざいな!!」
 騒ぎが大きくなってきた。一般人にまぎれる作戦を選んだ二人にとって、あまり好ましくない状況‥‥上のほうから、仇湖・魚慈(ia4810)がやってきた。
「てぇい!!」
 ずどん、と男の背後から一撃を加える。
(漁夫の利をねらっとったけど!!)
 舞が【水遁】で男の足元をすくった。
「おーのーれー‥‥」
 残念そうな声を出し、男は階段から落ちていった。
「あれ? 舞じゃないですか。がんばりましょうね! はっはっは、それじゃあ!」
 もともと自分で応募したわけではない魚慈だったが、ひどく楽しげに颯爽とその場をあとにする。
「まったく‥‥」
 なんとも複雑な気分の舞であった。


●午後9時
 意外にも塔内に光源は無く、天井の穴から射し込む月明かりだけが、塔内部を照らしていた。蒼暗い階段を、かちゃかちゃと音を鳴らしながら進む緋宇美・桜(ia9271)の姿が。彼女の背中には、『弁当・お茶あり枡』と書かれた旗がはためいている。
「疲れの取れる甘い物はいかがっすかー。塔登りのお供にお弁当、お茶もありますよー」
「あのぉ、懐中電灯ありますか?」
 階段に腰掛けて休んでいた青年が、彼女に声をかけた。
「ごめんなさい、懐中電灯は売り切れちゃいました。あ、寒くないですか? あったまる、お酒はいかがです?」
 きりっとした営業スマイル。
 青年は一瞬息をのんで、顔を赤らめながら「じゃ、じゃあください」とお酒を購入した。
「まいどっ! ありがとうございました!!」
 桜はきっちりお金をいただくと、天井を見上げる。
「まだ、だいぶ遠いですねー」
 月明かりを背負って、エンゼルもふらが飛んでいた。

 既に夜。
 眠りにつく者も多い中、眠らぬ者も。

「ははっ、最高だぜ。夜まで楽しませてくれるって? 上等じゃねぇか!!」
 トーマス・アルバート(ia8246)は夜の間も突き進んでいた。目の前に現れた虫型アヤカシに【強射「朔月」】を撃ち込んで、休んでいる人の間を縫って突き進む。小細工はしない。ただただ、一直線に頂上まで踏破する。
「すさまじい胆力です! すいません、なにか一言!」
 インタビュアの颯が、彼にマイクを向けた。トーマスは「王になったら答えてやるよ!」と言い残し、その場を去っていった。
「いやー、すごいなぁ」
 真夢紀はさくらアイスを食べながら、塔の外壁モニターでその様子を見ていた。既に半分くらいの屋台は制覇している。すぐ近くのわたあめ屋台の親父が「きみはやらないのかい?」と訊ねた。
「王様は責任ばかり強くて、忙しすぎてゲームやったり本読んだり、文章を執筆する時間なんて夢又夢じゃないですか〜。あたしが王になっても、開催した王様に即刻全権限返還しますわよ」
「なぁるほど! 勉強になるなぁ。わしゃ、王位を狙うこと以外、考えつかんかったよ」
 わたあめ親父は感心した様子で、手を叩いた。わたあめ、ひとつ15文。
「ひ‥‥いえ、ふたつもらうわ」
「まいど!」
 右手にさくらアイス、左手にわたあめ二つ。真夢紀の屋台全制覇は、ほぼ確実だろう。お財布が心配だ。

 階段中腹。
 最後尾付近にて。
「あ、ありがとうございますっ」
 この場から逃げようと階段を下りていたリタイア組は、突如鬼型アヤカシに襲われた。
「気にしないでください!!」
 魚慈が鬼型アヤカシの拳を受け止めながら、苦笑いをする。その腹部には、血がにじんでいた。
「うにっ、むにっ、ぬいー!」
 階下から、平野 譲治(ia5226)の声が響いてきた。
「おっ」
 彼の【治癒符】が、魚慈の腹部を癒していく。
「おおおお!」
 魚慈に力が戻ってきた。アヤカシの拳を押し戻していく。
「が、がんばって!!」
 リタイア組から応援が飛ぶ。
「むにっ! 負けないのだ! 悪いアヤカシなら、倒すのだ!!」
 譲治の【火輪】が鬼を焦がす。
「ギャイイイイイ!!」
 鬼はそのまま魚慈に押し返されて、落下していった。
「これで、大丈夫なのだ‥‥!?」
 嫌な気配を感じて、譲治は暗い階段を見下ろした。

 ずるり、ずるり‥‥

「なにか近づいてくるのだ!? 一緒に闘うのだ!!」
「任せてください! あなたたちは、私達の背後に!!」
 リタイア組を守る形で、二人は暗がりから迫る敵に対峙した。彼らもまた、王の座を目指している。
(ぎゃるの下着をもらうんです!)
(男は全員、白褌装着なのだ!)
 なんとなく、似た者同士の二人なのだった。

●早朝・間もなく日の出
「皆さん起きてください! とんでもないことになってきました!!」
 颯の声が、眠りについていた会場内を叩き起こした。
「ご覧ください! 先頭グループから、一気に飛び出した! か、彼女は!」
 彼女は、水鏡 絵梨乃。深夜も階段を上り続け、ついに先頭に躍り出た。
「さすがに疲労の色が隠せません! だが、頂上はもう少しだ!」
 絵梨乃を追って、開拓者たちが階段を駆け上がっている。

「負けてはおれん! 急ぐんじゃ!」
「はい!」
 バロンと和奏が、共闘しているのか、ともに階段を駆け上がっている。その前方には、トーマスがひとり駆けていた。
「くっ、しつこい連中だ! 仕方ない、相手してやる!!」
 ぐんと速度を上げ、距離を稼いでからトーマスはくるりと振り返った。
「むっ!?」
 危険を察知したバロンが、急に止まった。トーマスの手には、理穴弓が握られている。
「圧倒的力で、度胸で! 押しまくってやるぜ!」
 【強射「朔月」】が、和奏を穿つ。
(皆でわいわいやった方が、楽しいとっ)
 和奏の優しさが、彼に一歩踏み込ませない。
 彼の横を駆けて前に出た、バロンの【バーストアロー】がトーマスを襲った。トーマスの近くにいた開拓者もろとも、まとめて吹き飛ばす。
「待たせたな親父!」
 ルーティアが、バロンに合流した。彼女はバロンが【バーストアロー】で崩した人々を、次々に襲っていく。
(くっ! サティスファクションキングダムに、栄光あれ!!)
 新しい国名を心で叫び、トーマスは階下へと姿を消した。
「ルーティア!」
「戦争なんて下らねえ! 肉食え肉!!」
 無類の肉好きである彼女が王になれば、国民はまったり焼肉三昧な毎日であろう。
「行くぜ!」
「うむ!」
 バロンとルーティアは、先頭をひた走る絵梨乃と、ほか数名の開拓者に追いつくため、さらに速度を上げていく。
 その後方、雲母(ia6295)を先頭に、開拓者たちが追い上げている。
「全ては我が野望の為、覇道の為、何があろうとも覇王になる!!」
 振り返りざま、雲母が焙烙玉をばら撒いて足止めをはかる‥‥が、さすがに相手は開拓者。なかなか吹き飛んではくれない。
「シノビの地位向上のため! ペケ、頑張ります!!」
 一般人に紛れていたペケ(ia5365)が、その爆発の中で生き残っていた。懐に超限定品のプレミア渦巻きキャンディを忍ばせ、ひたすら追い上げる。【早駆】で一気に距離を稼ぎ、雲母を追い抜いて集団の先頭に出た。

「「「「「!!」」」」」

 その光景を、誰も忘れることはできないだろう。
 観戦していたからすが、すぐそばの少女の目をふさぐ。
 ペケのすぐ後ろにいた男性陣が、まっかな鼻血を噴いた。
 テレビモニターに、「しばらくお待ちください」の文字。

 ペケはゆるゆるとほどけてきた自分の褌に躓いて、思い切りぶっ転んでいた。


●決着
 その間、絵梨乃が頂上に到達していた。
「ごめんね。ボク、次期天儀王の座には興味ないんだ」
 誘うように目の前を飛んでいるエンゼルもふらを尻目に、階段下に視線を移す。
 駆け上がってきているのは、輝夜、バロン、ルーティア。まだ少し時間があるかな、と絵梨乃は階段に腰掛けると、くい、と古酒を口にした。朝日が昇ってくる。この大きな塔から見る朝日は、格別だった。
「こういう戦いは!」
 輝夜が【隼人】を使い、一気に距離を詰めてきた。双戟槍を構えた彼女の前髪から、紫色の瞳がちらつく。絵梨乃の【気功波】を食らいながらも、それをものともせず進んでいく。輝夜の体力は万全だ。そうそう、負けはしない。
「面白い‥‥だけど、そう簡単には通さないぞ!」
 絵梨乃が構えた。
「なんじゃあれは!!」
 二人の戦いが始まったまさにそのとき、バロンの声が響いた。
 階下から、急上昇してくる飛行型アヤカシ。黒光りする蛇のようなシルエット、わずかに羽ばたく小さな翼‥‥アヤカシには違いないが‥‥? それは、一気に頂上に躍り出ると、エンゼルもふらに牙を剥いた。その体長、およそ7m。
「決着!! 試合終了――!!」
 翼蛇がエンゼルもふらを食った。
 同時に、試合終了のゴング。
 いま、次期天儀王が決まったのだ。

 かなりショックを受けた様子で、颯がマイクに叫ぶ。
「信じられません! 次期天儀王は、このアヤカシ‥‥? ですか? えっ、それで、いいんですか? いや、待って! ちょっとカメラ、寄って寄って!!」

 翼蛇の陰から、ごそごそと少女が這い出してくる。エンゼルもふらを右手に、びっ! と空に突き上げて、にっこりと微笑む、彼女の名は――。

「赤マント! 赤マントさんが優勝です!!」
 赤マント(ia3521)の名が呼ばれると同時に大きな花火が打ち上げられた。颯が、優勝者に突撃インタビュー!
「なにか一言!!」
「雲母! おはぎの約束、忘れてないよね!?」
「よくやった!!」
 雲母の声が、階下から聞こえてきた。
 赤マントは、事前に交わした約束とおり、雲母に王の座を譲ったという。その対価は、赤マントに毎日、おはぎを支給するというもの。


●エピローグ
 その後、新しい天儀王である雲母から全国民に向けて演説が行われた。これはテレビ、ラジオ、インターネットなどを通して全世界に伝えられ、ひとびとの心に深く刻み込まれたという。ここに、その歴史的演説の全文を引用する。

「最初に言っておこう、私はこの国の悪だ。しかし、普通の悪ではない。例えば問題が起きたとしよう‥‥私が原因だ。文句は私に言え。飢饉が起きれば原因は私だ。責任を取ろう。賊をするぐらいなら私を殴れ。他人に何かを押し付けるなら私に押し付けろ。私はそういう悪だ。天儀の民に告ぐ‥‥私、雲母は覇王として永劫なる平穏を約束しよう」

 新しい王による統治は、それからずいぶん長く、続いたという。



 ミ☆ ミ☆ ミ☆ ミ☆ ミ☆

  【四月】☆王位☆争奪戦

 ☆ミ ☆ミ ☆ミ ☆ミ ☆ミ

 参加者☆一覧(非戦闘参加者・あいうえお順)


 <もてなし☆王>
 からす

 <投棄☆王>
 鈴木 透子

 <ビジネス☆王>
 緋宇美・桜

 <実況☆王>
 不破 颯

 <屋台☆王>
 礼野 真夢紀


 参加者☆一覧(戦闘参加者・1Fの階段から遠かった順)


 <猫耳☆王>
 懺龍

 <忍☆王>
 藍 舞

 <妨害☆王>
 水鏡 絵梨乃

 <猫志士三人衆☆壱号>
 蒼零

 <猫志士三人衆☆弐号>
 都騎

 <ペケ☆王>
 ペケ

 <☆天儀王☆>
 雲母

 <下着☆王>
 仇湖・魚慈

 <猫志士三人衆☆参号>
 幻斗

 <焼肉☆王>
 ルーティア

 <背後☆王>
 設楽 万理

 <白褌☆王>
 平野 譲治

 <天儀天☆皇>
 輝夜

 <親父☆王>
 バロン

 <もふら☆王>
 和奏

 <ノースリーブ☆眼鏡王>
 トーマス・アルバート

 <おはぎ☆王>
 赤マント


「はい! それではみなさん、笑顔ですよ! 笑顔!!」
 赤守ゆわたの掛け声で、参加者520余名が一堂に集められた。
「じゃ、行きますよ! ハイ、チーズ!!」

 戦いはこれで終わる。

 朝日を浴びた巨大な塔が、国の行く末を見守っていた。


 〜FIN〜