【五行】涼秋の月見酒
マスター名:乃木秋一
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 17人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/09 20:02



■オープニング本文

 ようこそ 青龍寮へ!
 今宵はまったり、月でも見ませんか?
 詳細は月見実行委員の久芽 周まで!         ――青龍寮 近辺の掲示板


●ことの始まり
「おい、なんだこれは」
 青龍寮の自室にて、寮長の震上きよは苦笑いした。目の前には樽、樽、樽の山。これはすべて酒である。
「いやー、もらったんですよ、町内会のくじ引きで!!」
 きよの前でそう笑うのは狐顔の男、久芽 周。
「いいもんもらいましたよ。これは五行東部の山奥で生産されている秘蔵酒なんです。そこの跡継ぎさんが最近ご結婚されたそうで!」
 久芽はパッと笑顔で樽をなでる。
「せっかくですから、秋の夜長に月見酒と洒落込みませんか」
「‥‥まあ、悪くないけど‥‥でも、寮生だけじゃ飲みきれないだろう、こんなにたくさん」
「もちろん」
 久芽がぽろんとリュートを鳴らす。
「ご近所さんにも来てもらいましょう。祝いの酒は、全部飲まなきゃ!」
「‥‥わかった。じゃあ、任せるよ」
「了解! ありがとうございます寮長! こうしちゃいられない!」
 颯爽と狐男は消え去った。
「‥‥ったく、あいかわらずだな」
 きよはふっと笑みをこぼし、目の前のルーチンワークに精を出す。


 数日後、青龍寮の周辺に貼り紙が並んだ。
『ようこそ 青龍寮へ!』


■参加者一覧
/ 薙塚 冬馬(ia0398) / カンタータ(ia0489) / 胡蝶(ia1199) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 玲瓏(ia2735) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 宿奈 芳純(ia9695) / マリア・ファウスト(ib0060) / マテーリャ・オスキュラ(ib0070) / 无(ib1198) / 羊飼い(ib1762) / 成田 光紀(ib1846) / 晴雨萌楽(ib1999) / フレデリカ(ib2105


■リプレイ本文

●風に混じる秋の香り
 魔術師であるマテーリャ・オスキュラ(ib0070)が青龍寮にやってきたのは、午後の3時ごろだった。
「天儀の陰陽術には以前から興味があったんですよね‥‥」
 大き目の鍋を持ち、どこに行けばときょろきょろしている。
「いらっしゃい!」
 そこに月見幹事の久芽 周がやってきた。マテーリャの持っている鍋を見て、一瞬頭にハテナ? の字が浮かぶ。
「あ、これおでんです。あと、玉子焼きも。やっぱり手土産がいるかなって‥‥」
 マテーリャがふっと笑みをこぼす。
(これがおでん!?)
 鍋に浮かぶ驚愕の品々に冷や汗しながら「差し入れはこっちへ!」と、マテーリャを調理場へ案内する久芽。ちなみにその後こっそりそのおでんをつまみ食いをして、あまりの美味さに再び久芽が驚愕したことは内緒である。
 さて。
 寮生の胡蝶(ia1199)とモユラ(ib1999)が酒樽の山を見上げ、カンタータ(ia0489)が仕込みの荷物を右へ左へ。鈴木 透子(ia5664)がぼうっと火の番をし、フレデリカ(ib2105)の実家からきたワインの樽が酒樽の横に並び、近所に住む子供たちや町人がわいわいと青龍寮に集まってくる。ときは夕刻。茜色に染まる空。


●月見当日
「まずは温かいスープをどうぞー」
 町人や子供たちに南瓜や人参のポタージュクレームを配るカンタータ。ポタージュクレームとはとろみのあるポタージュのことだ。地元の人々にはカンタータの料理が珍しかったらしく、ずいぶんと人だかりができていた。
「これすげー形してるぜ!」
「うまいっっ」
 今回は甘く仕立てたヴァレーヌィクィが子供たちに大人気であった。
「たくさんありますから、ゆっくりどうぞー」
 そのほかにも、美味しい料理が並んでいる。土産片手に青龍寮を訪れた薙塚 冬馬(ia0398)が、その集まりの多さに眉根を上げた。はて、尋ね人は見つかるだろうか。
「あ、冬馬だ!」
 しばらくうろうろしていた冬馬の後ろから、樹咲 未久(ia5571)が抱きついた。頭を背中にぐりぐり押し付けている。
「もう、結構酔ってるみたいだな」
 冬馬はされるがまま、「差し入れがあるんだが、先輩方はどこだ?」と未久に尋ねる。二人は連れ立って寮生の輪に加わった。
「先輩方、いつも未久がお世話になっています」
 冬馬の手には、菊菜の胡麻和え、小芋と蓮根の炊き合わせ、南瓜のキッシュなどの酒の肴がもりだくさん。未久は女性の髪飾りをほめながら、お酒を注いでいた。
「お福分けの品ですから、良いことがあるといいですねー」

 ところ変わって。

「ここが青龍寮‥‥もゆえもんの仕事場ですねぇ? 疑惑の施設に潜入ですぅ」
 茂みの中から顔を出したのは羊飼い(ib1762)。友人がいると聞きつけてやってきたのだ。
「お! あれがうわさに聞く白生ですねぇ?」
 白い子犬が目の前で実に気持ちよくだらだらしている。羊飼いは一気に距離をつめて白生を捕獲した。いや、一瞬の差で逃げられた。白生のクローが羊飼いに炸裂する。しかし、羊飼いは不敵に笑った。
「ふふ、これくらい慣れていますよぅ。うちの牧場ではたらきませんか? 三食羊つきですよ!」
「ワゥ!?」
 どたばたと羊飼いから逃げる白生。
「こらこら」
 たまたま通りがかった狸顔の弓島 豪大が割って入り、白生をむんずと捕まえた。ちょっちぼろぼろになった羊飼いが笑顔で豪大を見上げている。
「あ、どもーお邪魔してますぅ」
(アレ?)
 そんな様子がちらりと視界に入り、羊飼いの友人モユラは首をかしげた。
(何か、寮生以外のお友達がいたような?)
 丸い満月が、その蒼い光を強め始めた。

「ふむ」
 成田 光紀(ib1846)は杯を傾けた。中庭のにぎわいからは少し離れて、柳の下で空を見上げる。結構、実に結構な事だ。月は見てこそ、ともに飲みこそ。アレもまた、この宴の客なのだ。団子も良いが、やはり花は格別だな‥‥と。
「あれ? これ、なんだ?」
「ん?」
 光紀のそばに二人の子供がやってきた。光紀が浮かせていた【夜光虫】に興味をひかれている様子。光紀は二人をからかうように、ふわふわとそれを飛ばし、そしてぱっと消した。二人が歓声を上げる。光紀は笑みをこぼした。
(そういえば‥‥)
 懐から笛を取り出す。
(入寮式のときにいたあの異様に勘のいい女はいるまいな)
 悠久の時を思わせる音色が、中庭に満ちていく。
 同じ頃。
 狐男からリュートを借りて、胡蝶がゆっくりと弾いていた。狐男がヒュウと口笛を吹く。ジルベリアの音色が笛の音色に混じって跳ねる。
「すごいな。どこで習ったんだ?」
 演奏の合間。一杯の水を胡蝶に差し出し、狐男が隣に座る。
「どうでもいいでしょ、そんなこと」
 そっけない態度で胡蝶が狐男にリュートを返す。狐男はポロンとリュートを奏で始めた。胡蝶のそれと比べると、大味な音。
「三味線ならともかく、まだこっちじゃ少ない楽器でしょうに」
「拾いもんさ」
 胡蝶はぐっと水を飲み干す。よく弾けてるけど、まだ出回ってる曲は少ないのねと思いながら。
「では秋の夜長が良きものであり、来たる秋霜が穏やかである事を願いまして」
 ばさばさーと宿奈 芳純(ia9695)の手から白い小鳥が空を目指して飛んでいく。
「すげー!」
 芳純をとりまく子供たちの声。彼らの手には芳純からもらったもふら飴。「もう一回やって!」とせがむ声も聞こえてくる。
「もう一回‥‥? そうか、よし」
 再び小鳥を空へと飛ばす。その度にはしゃぐ子供たちの様子が愛らしく、芳純はつい何度も【人魂】を飛ばした。時折、鳥でないものも飛ばしてしまうのはご愛嬌である。
「さすがににぎやかだね」
 そんな様子を楽しみながらマリア・ファウスト(ib0060)とフレデリカが会場を練り歩いていた。『セルフでどうぞ』と看板の出ている大鍋からボルシチを器にもらう。具沢山で美味しそうだ。ふとフレデリカが中庭の隅にある小さなテーブルを指差した。
「いいワインがあるのよ」
 にぎやかな会場から、静かな場所へ。テーブルの上の蝋燭に、そっとマリアが火をつける。フレデリカがワインのボトルをあけて、二人で乾杯した。
「久しぶりよね、こうして二人で飲むの」
 テーブルに食べ物を並べる。しばらく歓談し、美味しく料理をいただきながら時間が進む。よく食べるマリアに、そんな生活でスタイルいいなんて不公平だとフレデリカが言いながら。一息ついて。
「ねぇフリッカ、きみは今は楽しいかい?」
 ワインを傾けながら、マリアが尋ねた。
「楽しいわよ、とっても。あなたも陰陽師になって入寮してみたら?」
「‥‥考えておくよ」
 マリアはよせてきた料理を一口食べた。フレデリカはくすくすと笑う。マリアが陰陽師になった様子を想像しているらしい。
(きみがこっちに来た理由が理由なだけに気になっていたんだ。でも、大丈夫ならそれでいい)
「よし、料理をとりにいこう」
 食べ物もなくなった。二人は再び、にぎやかな中へと戻っていく。


●美味しいものいろいろ
「よっ」
 透子は炭を放り込む。金網の下で赤くなっている炎たち。地元のおじ様方が頻繁に透子に差し入れをしたせいか、透子のまわりには食べ物がたくさん並んでいた。
「うふふ、透子さん、ちょっとお借りしますね。うふふふ」
 ぬうと現れた露草(ia1350)が金網の上にどさどさと乾き物を並べ始める。
「あれ? これお魚ですか」
 乾き物に混じって、御樹青嵐(ia1669)がさばいたらしい刺身も金網の上で踊っている。
「ふふ、青嵐さんには内緒ですよ」
 魚の焼けるいいにおいが立ちのぼる。ちなみに透子のすぐ隣に青嵐が立っているのだが、彼は「まあいいか」と露草の様子を楽しんでいた。
「まま、透子さんもおひとつ」
「あ、どうも」
 露草がこねこねした芋団子をもらい、「え、おいも、ですか?」と透子が首をかしげる。
「女の子は甘味でお酒が飲めますッ!」
 露草はくわっと微笑み、
「というわけでゼタルさんの所に甘味をいただきに行きましょう!」
 と強引に透子を連れて行こうとしたところに、ちょうどゼタル・マグスレード(ia9253)が現れた。
「あれ? みんなおそろいだね」
 甘い甘〜いお汁粉の鍋を持っている。
「ッッ!! いただきます!!」
 早速、露草がお汁粉に飛びついた。芋団子と交換してあげましょうと、ゼタルに芋団子を押しつける。
「あ、そういえば」
 透子がそのあたりから桶を引っ張り出した。水が張ってある。桶には蒼い月が映し出された。
「お師匠様がお月見ではこうするって言ってました」
「風流だね」
 モユラがひょっこり加わった。自分の酒盃に月を映してひと飲みする。
「えーと、これで『月を呑む』ってコトになんだっけ?」
「そうらしいですね」
 青嵐が焼いた秋刀魚を差し入れる。青嵐とモユラの目が合った。この二人、青龍寮の酒豪である。一度飲み比べをした仲だ。だが。
「いただきます!」
 モユラは秋刀魚を受け取った。今日は休戦。まったり行きましょうと二人は無言でうなずきあうのであった。
「おや?」
 そこに无(ib1198)がやってきた。酒を注いでまわっているらしい。
「どうやら今日は休戦ですね」
 青嵐とモユラがまったりしている様子を見て得心したらしく、「まま、どうぞ」と青嵐に酒を注いだ。平目の煮物に舌鼓を打つ。
「最高に美味しいですね、これ。どなたが?」
「あ、それ、私が‥‥」
 青嵐が微笑む。
「美味いですよ、これ」
 无はかなり気にいったらしく、平目をもくもく。
「あ! 私まだそれ食べてません」
 お汁粉を平らげた露草が、无の持っていた皿を強奪していく。あっけにとられている无の盃に、ゼタルがそっと酌をした。
「无さん、あの依頼では世話になりました」
 ちょうどここには露草、モユラもいる。少し前に一緒に受けた、天儀人形にかかわる依頼の話だ。話は積もる。
「焼きチーズ美味しいです!」
 いや、露草だけはちょうど通りがかった白生をとっ捕まえて、焼いたチーズを食べさせていた。
「犬って、チーズ食べるんでしょうか」
 透子の素朴な呟きが、宴会のにぎやかさに消えていく。

「大丈夫ですよ」
 青龍寮の中庭に敷かれた大きな花ござに、まったり飲みを楽しむ面々が集まっていた。青龍寮の寮長、震上きよもその一人。マテーリャからもらったおわんの中身を見て、少しだけ眉をひそめたところだった。
「あれ? 美味いな」
 せっかくの客人が出してくれたものだからと意を決して食べたのだが、意外な美味さに笑みがこぼれる。
「マテーリャ殿は魔術師なのですな」
 青龍寮三年の豪大がマテーリャに酒を注ぐ。魔術と陰陽術は似て非なるもの。いや、非なるものだが似ているものか。魔術師と陰陽師がこの話題で盛り上がるのは無理もない話だった。
 カンタータが作った秋刀魚の香草焼きが、議論を華やかなものに変えている。
「一杯どう?」
 ぶらりと立ち寄った胡蝶が、カンタータに酒を勧めた。花ござに座ってスープを飲んでいたカンタータが、「それじゃあ少しだけ」と酒をいただく。
「月見っていうのは、夜空の月を見るのはもちろんだけど」
 胡蝶は今度は震上に注ぎ
「貴族なんかの間じゃ、杯のお酒に映って揺れる月の方を」
 弓島豪大に注ぎ
「見て楽しんだり、歌を詠んだりするそうね」
 マテーリャに注いで眉根を上げた。
「これ、暑くない?」
 ずいぶんあちこちまわっていたらしい胡蝶が、赤いほほをぱたぱた扇ぎ、マテーリャのフードに手を伸ばす。
「あ」
 カンタータが小さく声を上げた。ずそそそそと後ずさり、マテーリャがフードのふちをしっかりと握っている。
「ふうん? そういうこと」
 面白いじゃないと胡蝶がすっくと立ち上がる。
「あ、ボクはやめといたほうがいいかとー」
 青龍寮のど真ん中に、【ストーンウォール】の壁ができた。いったんついた火を消すのは難しい。マテーリャのフードを取るべく、しばらくの間騒ぎが起きた。が、マテーリャはそれをうまくやり過ごす。
「なんだかすごいことになってるな」
 花ござで无から酒をもらい、美味そうに飲み干す光紀。紫煙がゆっくり風にゆれ、空へとすうと消えていく。
「これが宴だ」
 酒も飯も肥えて溢れ、人が乱れ、混じる。光紀は空を見上げた。一緒に无も天をあおぐ。涼しい風に焚き火の熱気が混じる。
「まあ、飲みましょう」
 二人は酒を酌み交わす。程よい酒が、今宵の月には心地良い。


●夜も更けて
「三五 十五で嫁に行き♪ 四五 二十歳で子ができて♪」
 火が明るく照らす中庭で、透子が子供に手毬歌を教えている。
「そろそろ帰るわよー」
 母親らしき女性の声が子供たちを呼んだ。
「はーい!」
 今度一緒におじさんのところ行こうね! と子供たちは透子に手を振って母親のもとへかけていく。青龍寮の近くには手品好きなおじ様方がいるのだが、透子がそれを教えたのだ。
「本当に今度教えてくれる?」
「もちろん!」
 そのすぐそば。子供たちにお汁粉を配っていたゼタルに、小さな女の子が尋ねている。ゼタルが作ったお汁粉の、作り方を聞いているのだ。
「だけど、今日はもう帰ったほうがいいかな」
 子供たちはそろそろおねむの時間である。
「うん。じゃあ、また寮に来るから! ばいばい!」
 お汁粉の最後の一杯を大事そうに抱えて、女の子は去っていった。その背中を見送るゼタル。
「ああ、ナイ! ここにいたんだな」
 子供たちと遊んでいた尾無狐のナイを見つけて、无が駆け寄る。ぴょーんと飛び上がって、ナイは无の肩に乗った。
「じゃあね! マイケル!!」
「ばいばい! 元気でねマイケル!」
 少年たちがナイに手を振って去っていく。口々にマイケルマイケルと‥‥。
「‥‥妙なあだ名がついたな、ナイ」
 尾無狐はさびしそうに、小さく鳴いた。

「よっ、と」
 子供たちが帰り、残りはおそらく朝まで起きている大人たちだけ。透子は少し片付けようかなと調理場へと戻った。調理場では、羊飼いが寮生たちと歓談していた。
「どもー、はじめましてぇ。羊飼いと申します。ええ名前です羊飼い。いやぁお酒はやりませんのでぇ未成年ですからっ」
 独特な口調とテンポが面白いらしく、羊飼いのまわりには結構な数の寮生たちが集まっていた。ときおり行き過ぎた発言も見え隠れするものの、寮生たちは概ねそれを受け入れていた。まあ、一部の頑固な先輩を除いて。
(うー、もゆえもん、フォローよろしく‥‥あれえ?)
 一緒の席にいるモユラは、ぼんやり月を眺めていた。
(いつも地べたァ歩きまわって草花ばっか見てるし、たまにゃ空を見上げてみるのも悪くないよネ)
 羊飼いはなんとなく放っておかれたような気がして。
「いいもん、べ、別に心細くなんかっ」
 羊飼いはぐんと立ち上がりたまたま見つけた白生を追って、「いくぞ白生、2らうんど開始っ」と去っていく。
「あ」
 と、その背中を見送るモユラであった。

「まあ、どうぞ」
 花ござにて。きよと狐男、狸男が寮生たちと飲んでいた。芳純が酒をすすめる。狐男は幹事なのに眠っていた。
「ありがとう」
 きよが酒をもらう。月夜は静かに深まっていた。ゼタルが、露草をつれて花ござにやってくる。露草は鯛に芋団子を詰め込んだリアルたい焼きをもふもふ食べていた。
「今日はずいぶん頑張ったね」
 ゼタルが露草を花ござに寝かせた。すぐ隣で冬馬が未久に手ずから胡麻団子を食わせていた。未久はご満悦な様子。ちなみに、胡麻には悪酔い防止の効能があるんだとか。
「お預け!」
 青嵐の声が聞こえてくる。青嵐は秋刀魚をエサに、白生のしつけをしていた。
「お預け! お預け! よしよしお預け!」
 狐男ががばりと起き上がった。
「なんなならなおれもなぜてください!」
 そんなことを言って狐男はござに沈んだ。わけがわからない。どうやら、「なんなら俺も混ぜてください」と言ったらしいが、真偽も真意も不明である。
「いや、すまん。気にしないでくれ」
 と狸男が狐男を連れてどこかに消える。
「ま、飲みましょう」
 ときよが芳純に酒を注ぐ。
「宿奈くんは、やはりお面をしているのだな」
 ついさっきまでははずしていたお面を付けなおした芳純が、「感情がすぐ顔に出ますので」とつぶやいた。
「修練を積み、これがなくても泰然自若となれるのが目標です」
 それが本当なのかどうかは本人にしかわからないが、きよは微笑んで「はやくそうなるといいな」と自分の杯に酒を。
「いや寮長、ここは僕が」
 手酌はさせまいと、ぐいとゼタルが酒を注ぐ。
「差し入れですよー」
 調理場にあったものをどっさり持って、透子がやってきた。
「まだまだにぎやかだな。私がいたところとは大違いだよ」
 マリアとフレデリカも一緒である。それから寮生たちは、卒業した寮生の話やアヤカシについて話して盛り上がったという。聞き耳を立てていた冬馬は、長兄は卒業したらどんな風になるのだろうかと、ぼんやりと考えていた。


●夜が明けて
 雀が朝を告げた。
 もうすっかり月も沈み、かわりに太陽が顔をのぞかせる。ほぼ夜通し行われた秋の月見は、そろそろ終わりを迎えようとしてた。
「わう‥‥」
 白生がごそごそと青嵐の懐から抜け出して、ぶるると毛を振るわせる。ちらりと青嵐のほうを見て、まだ眠っているのを確認してから、残り物の秋刀魚を食べようと――
「お預け!」
 ――したところで、びくりと背筋を伸ばして硬くなった。
「わ、わう‥‥?」
 白生は首をかしげる。昨晩お預けの訓練をしていた青嵐はまだ眠っている。いまの声は?
「うそうそ。食べていいよ、白生」
 それは透子だった。
「鈴木さん、そろそろ皆さんを起こしましょうか?」
 冬馬の背中に抱きついて幸せそうにしている未久、結局ほんのちょっとだけ飲み比べもしたモユラと青嵐、それに混じった羊飼い、幹事のはずの狐男。彼らにかけられた布団をはがして集めながら、无が笑った。
「さ、後片付けの時間ですよ!」
 青龍寮の宴の朝は、こうして平和に訪れる。尾無狐が、ぴょんと无に飛びついた。


 了