【五行】天儀人形と塵
マスター名:乃木秋一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/16 07:01



■オープニング本文

「おい」
 結陣、青龍寮寮棟。
「お前らの中で天儀人形を持っている奴はいるか?」
 唐突にその質問をした男は、青龍寮の講師である。そろそろと手を挙げた人を指で数え、「意外にすくねぇな」と残念そうな顔で言う。名前を義山(ギザン)という。義山は寝不足気味な顔で1年生に向かって話を始める。
「今日から実際にみんなで天儀人形をつくろうと思う。天儀人形は青龍寮でもつくられてるんだが、知ってるか?」
 全員、事前に義山が配ったクジを持っていた。
「それじゃ、クジを開いてくれ」
 あなたが開いたクジには【塵】とだけ書かれていた。
 ここからは、【塵のクジ】をひいた人の物語。


●ある手紙
 【塵】組は人形部分の制作に追われていた。
 【骨】組が人形の中に入れるものを森から持ち帰る。【塵】組が用意した人形にそれを入れて、今回の天儀人形は完成だ。【骨】組が取りに行っているのは首のない地蔵である。特別ないわれがあるらしい。既に【骨】組が出発して2日。そろそろ地蔵のある森に到着した頃である。
「ちょっと」
 青龍寮の1室を借りて人形制作を行っていた【塵】組のもとに震上きよが現れたのは、ちょうどそんな頃だった。義山が震上と話し、険しい顔で【塵】組に告げる。
「悪いな、みんな。人形制作は一時中断だ」

 事の成り行きは一通の手紙が発端となる。
 それはある種、苦情の手紙であった。最近、青龍寮の寮生が街で次々と人を斬っているので、やめてもらいたいのだという。実にショッキングな内容だが、詳しく読み込むとどうやらそういう『噂』があるからそうに違いない、けしからんということであり、具体的にそういう事件の被害者がいるわけではないようだ。この手紙一通だけでは通常、相手にもしない震上だが――。
「残念ながら、苦情にもいろいろあってな」
 ほら、と両手に抱えるくらい、どさりとみなの前にそれを山積みする。
「そろそろなんとかせんといかんと思ってな」
 などと笑う震上に、一同は微妙な笑顔で応えるのだった。


■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
玲瓏(ia2735
18歳・女・陰
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰


■リプレイ本文

 風の季節。
 おぼろ月夜にススキが揺れる。
「ようやく見つけたぞ。貴様、あの日飛行船を降りていたんだな!?」
 少ない人影が武器を手に、たった一人の青年を襲う。言葉は無い。彼らは次々に青年の手によってこの世を去った。
「意外ですね黒山さん‥‥まだこんな奴らを雇う金があったなんて。青龍寮の彼らに、私財のすべてを支払ったと思っていましたが?」
 夜はため息を深めて黒く染まる。


●青龍寮をめぐる噂
 問題は手紙の量だった。全部読んでいては日が暮れてしまう。震上から依頼を受けた寮生たちは右へ左へ、次々と手紙を分類していった。
「まったく‥‥国営機関に喧嘩を売るっていう意味がまだわかってないんですかねー」
 むすっとしたカンタータ(ia0489)の横で、宿奈 芳純(ia9695)が肩をすくめる。ここは青龍寮の教室である。
「本当、自分の所属を名乗って泥棒する馬鹿がどこに居るのよ」
 胡蝶(ia1199)が呆れつつ、手紙の山をわしづかむ。
「最終的には、一人ずつ遡ってみるしかないと思いますけど‥‥」
 鈴木 透子(ia5664)が眉を寄せつつ、まとめて手紙をばさばさと『対応不要箱』に放り込んだ。
「講談物なんかではなにか目的があって噂を流したりするんですが、さて‥‥」
 脇に置いた自分の天儀人形を眺めつつ、各務原 義視(ia4917)が扇子をあおぐ。そこに、狸男がやってきた。
「ああ、カンタータさんから依頼されていたものだが、こんなものでよかったかな」
 狸男が取り出したのは寮生名簿であった。本当は寮生全員がどのような術を使うのか面談などして把握したかったが、そのあたりは陰陽師にとって極めてデリケートな問題であり、さすがに難しいと許可は下りなかった。代わりに、三年生の代表である狸男が手伝ってくれることになったのだが――。
「え!?」
 名簿を見て、カンタータは苦笑いを浮かべた。そこにはまるでかえるが跳びまわったかのような字の羅列が並んでいたからだ。
「‥‥すまん、公式な寮生名簿は公開されていないんだ‥‥これは、俺がつくっていた個人的な名簿なんだが、役に立つかな」
 少し考えて、カンタータは言った。
「一緒にお風呂屋さん行ってくれます?」

 ○

 手紙の分類を終えた一行は情報収集のために街へと向かった。とりあえず優先度の高そうな人斬り事件とひったくり事件に焦点を当て、二手に分かれる。人斬り事件は透子、カンタータ、義視が対応し、ひったくり事件は胡蝶と芳純が担当することになった。狸男は白生探しである。

 ○

 透子の眉がぴくりと動いた。目の前には結陣の開拓者ギルド職員。青龍寮近辺に詳しい人物ということで、透子ら人斬り事件担当者は紹介を受けてここまでやって来た。青龍寮の人間が人斬りを行ったと苦情を出してきた、近所のおじ様も一緒である。あ、本当におじ様いらっしゃったんですねーとカンタータは密かに思っていた。
「‥‥いや、じいさんには申し訳ないんだけど、そういう話は聞かないなぁ」
 書類の山を抱えながら、職員は苦い顔をする。
「なんじゃと!?」
 おじ様は顔を真っ赤にして立ち上がった。杖を手にぷるぷる震えている。まあまあと透子が冷や汗をかきながらおじ様をなだめている。
「あの、似たような事件もありませんか」
 義視が少し踏み込んだ。
「少なくとも俺のところにはまわってきてないね。あ、最近窃盗事件がよく起きてて、そっちについてはもちろん噂でもちきりなんだが、殺しになるとあんまりね‥‥あぶなっ!」
 おじ様が振るった杖が、ぶうんと男の顔のまん前を通り過ぎていく。
「話にならんわい! ええと、透子さんじゃったかな? どうするんじゃこれ!」
 おじ様がジロリと透子を睨む。
(どうするんじゃと言われましても‥‥)
 少し眉を寄せて、透子はおじ様を見つめる。
「やっぱり、被害はないってことなんじゃないですかねー‥‥」
 義視がメモから顔を上げる。
「えっと、あの、おじ様‥‥青龍寮の者が人を斬ったってお話をされている方って、他にいらっしゃいませんか? あ、いえ、もし普段、町のことについて情報交換されている方々がいらっしゃるなら、その方々のお話もおうかがいしなくちゃと思いまして‥‥」
(噂って真っ向から否定すると、かえってもりあがってしまうんですよね‥‥)
 風評被害に屈することなく、かといってむやみに否定せず。透子の様子を見て、おじ様はテクテクと歩き始めた。
「透子さん、あんたわしの『さろん』に連れて行っちゃるわい!」
 と、一瞬だけ振り返ってずんずん進んでいく。透子はカンタータ、義視と目を合わせて、「行きましょー」というカンタータの目配せにうなずいた。
「こちらは任せてください」
 まだ職員に話を聞きたい義視が、カンタータと透子を見送った。

 人斬り事件担当がギルド職員と話をしている最中、ひったくり事件班は街で聞き込みを行っていた。胡蝶の手には結陣の地図。点々と赤い印が並んでいる。これは、引ったくりが起きた場所を示すマークである。
「‥‥なんていうか、律儀なひったくりね‥‥」
 さっと胡蝶が一枚の手ぬぐいを取り出す。群青色のその手ぬぐいは、ひったくり犯がいつも身につけているものだという。鞄をひったくられたおばさんの証言である。同様の証言が街の青年団からも得られたため、恐らくこの情報は間違いないのであろう。この手ぬぐいをかぶっている者が、ひったくり犯である。メモ帳を手に、芳純もコクリとうなずいた。聞き込みした結果によれば、犯人が現れるのはおおよそ夕刻から日が落ちるまでといった時間帯だ。ただ場所の特定は難しく、地図上から割り出すことはできなかった。
「まあ、足で稼げる情報はこれくらいでしょうね。あとは夕刻から日が落ちる時間帯に、しっかりと見回りをすること‥‥青年団の方々とは連絡を密にとること‥‥でしょうか」
「そうね。どうせゴロツキの類でしょうけど、思惑は聞き出さないとね」
 ひと通り聞き込みを終えてから、二人は一旦青龍寮に戻った。
「おー、おかえり」
 青龍寮では、白生と狸男が待っていた。
「ようやく見つけたよ! 本当にすばしっこいやつだな、こいつは」
 狸男が白生におやつをあげている。
「‥‥そうね、この犬の問題もあったものね」
 胡蝶が白生の頭をぺたぺた撫でる。
「ただいま戻りました‥‥」
 そこに、義視たち人斬り事件担当が戻ってきた。
「さて、では情報をまとめましょうか」
 各自がとってきた情報を集め、今回の事件の全貌を洗い出す。


●寮生たちの推理
「ここからは私たちの考えをまとめていくわ!」
 胡蝶が壇上から寮生たちに言う。
「胡蝶さん、張りきってますね」
 義視が芳純に耳打ちする。
「ええ、コケにされたって、けっこう気にしていたみたいですから‥‥」
「話してもいい?」
 義視と芳純が背筋を伸ばし、胡蝶がビッと地図を教卓後ろの壁に広げる。
「まずはひったくり犯の情報からまとめるわ! ひったくり犯はこれをかぶって、だいたい夕刻から日が落ちるまで活動しているようね」
 胡蝶の手には群青色の手ぬぐいが握られている。
「さらに、青年団の方々からもらった情報によれば、犯人は壁を駆け上がり、目にもとまらぬ速度で街を走り抜けるということです」
 芳純が付け加えた。颯爽と現れて鞄をひったくり、壁を駆け上がって風のように消える‥‥。
「まるでシノビですね」
 透子が呟いた。
「そう。きっと犯人はなんらかの目的で青龍寮をおとしめようとしているに違いないわ。やり口は全部一緒で1日あたりの発生件数もたかが知れてるから、単独か少数の共犯でほぼ確定ね」
 芳純が言葉を継いだ。
「ただ出没場所についてはかなりばらばらなので、青年団の方と連携が鍵になると思われます」
 ひったくり犯については以上ですと締めくくり、続いて人斬り事件の情報整理に移った。

「人斬りについては、陳情者の思い過ごしだというのが私たちの見解です」
 義視が手元のメモを見ながら状況を説明していく。透子とカンタータがうなずいた。
「まず人斬りが実際にあったかどうかですが、これはありません。ギルドの方に直にお聞きしましたが、そういった類の事件は最近起きていないそうです。鈴木さんとカンタータさん、実際にお話を聞いたときのことを教えてください」
「はい」
 透子が姿勢を正した。
「おじ様方の憩いの場‥‥さろんに実際行ってみまして、いろいろとお話を伺ってきました」
 透子とカンタータが顔を見合わせる。
「なんと言いますか‥‥」
 表現に困る透子を、カンタータがフォローした。
「実にユニークな人たちでしたねー」
 カンタータがハイと胡蝶に花をさしだす。首を傾げつつ花を受け取ると、その花はポンと破裂して紅白の小さな紙片となって宙に舞った。驚いた胡蝶が目を丸くする。
「ちょっと迷惑な話ですけど、最近青龍寮生を名乗ってひったくりしている方がいらっしゃるでしょう。それを聞いて、それだけで終わるはずがないと思った方がいらっしゃったんです。ひったくりの次はなにか?」
「人斬りに違いない! そうに違いない! って、盛り上がっちゃったんですってー」
 おじ様方はどうやら人柄は悪くないらしく、ユニークな道具をつくったり、作り話で二人をもてなしたのだそうだ。最終的には仲良くなり、なにかあったら二人に伝えるということで話は終わった。
「‥‥ということで、この話はこれで終了。解決です」
 パタン、と義視がメモを閉じた。なんだか釈然としないわね、と胡蝶が紅白の紙片をゴミ箱に捨てる。
「となると‥‥あとは風呂屋とひったくりか」
 白生が逃げないように、狸男が奮闘している。
「‥‥風呂屋、行ってみましょうか。ひったくりのほうは私たちだけではなんともできないでしょうし」
 芳純の言葉に、一同はコクリとうなずいた。
「白生、きみも一緒に行くんだよー?」
 カンタータの問いかけに、白生は元気よくワンと吼えた。


●風呂屋にて
「それじゃあ、行ってこようか、白生?」
「わん!」
 狸男が白犬を連れて風呂屋を訪ねる。太陽は沈みかけ、街は真っ赤に染まっていた。風呂屋の周辺に、青龍寮生たちがぞろりと揃う。狸男が、暖簾をくぐった。
「なんですかあれ?」
 風呂屋の屋根の上にいた透子が目を細めた。街の屋根の上をゆく怪しい人影。顔にはほっかむりをかぶっている。
「あっ、あれ、ひったくり?!」
 透子の近くを小さな金色の蝶がひらひら舞う。
「ひったくり犯!?」
 蝶の主はカンタータだ。ばたばたと胡蝶、義視、芳純に合図を送る。
「二人はお風呂屋さんに残ってください。あとはひったくりを捕まえます!」
 透子と義視が風呂屋に残り、残りの三人が犯人を追う。
「‥‥今度のエモノはあいつにしようかな」
 群青色のほっかむりをした影は、街をいく軽薄そうな男に狙いを定めた。
「〜〜♪ 今日の魚はなかなか上質だな」
 軽薄男の正体は狐顔の久芽 周である。はやく寮に帰って、一年生たちと秋刀魚を食べようとニコニコ顔だ。‥‥と、その瞬間唐突につんのめりその場に倒れた。影が足払いを仕掛けたのである。
「へーぇ! サンマじゃないか。この俺様、青龍寮生がこの魚、頂戴するぜ!」
 甲高い少年の声だった。
「ま、まて!」
 狐男の声もむなしく、少年が俊足でその場から消えようとする。
「!!?」
 その目の前に、白い壁が現れた。芳純の【結界呪符「白」】だ。
「なんだこれ?」
 影が躊躇した瞬間がチャンスだった。胡蝶の【毒蟲】が影にまとわりつく。
「ぐわっ!」
「白状なさい! 誰の差し金で動いているの!?」
 胡蝶がカッツバルゲルを影の喉もとにつきつけた。
「ま、まいった! わかった! 白状するから!!」
 影は情けない声を出す。カンタータが呼んだ青年団と一緒に駆けつけた。影は大人しく、青龍寮へと連行される。


●エピローグ
「どこの誰だかわからないですって!?」
 胡蝶の声が青龍寮に響き渡った。ひったくりをしていた犯人は志体持ちの少年であった。元々はシノビとして仕事をしていたが、自由を求めて氏族を抜け出し、ぶらぶらと生活していたのだという。芳純がじろりと睨みをきかせる。
「正直に答えてください。誰の差し金です?」
「本当に知らないんだ! まあ、盗みとかは昔からちょこちょこしていたんだけどさ。ただ、『青龍寮生を名乗ってくれ』って書かれた手紙が届くようになって、しかも金が包んであってさ。いや、食うに困っちゃってたから仕方なくね」
「ただいま戻りました」
 カンタータたちが犯人の部屋を捜索し、バッグともふらを見つけてきた。
「他にも、たくさんありましたよ。盗品ばっかり」
 義視が風呂敷に包んだ荷物をどさりと置く。
「黒山さんの情報が手に入るかと思いましたけど、ダメでしたねー‥‥」
 と、カンタータは残念そうだ。
「ただいま‥‥」
 げっそりした顔をして、狸男と白生、透子が帰ってきた。
「あ、ひったくり犯捕まったんですね? よかった」
 縄で縛られた少年の姿を見て、透子がほんのり笑う。
「お風呂屋さんのほうはどうでしたか?」
 芳純の問いに、白生がくぅんと声をあげる。狸男と透子が目を合わせた。
「まさか‥‥」
 胡蝶が立ち上がった。
「あ、も、もう『め!』ってしましたからっ。ね、白生!」
 透子がごしごしと白生の頭を撫でる。
「くぅうん」
 珍しく、白生はしょぼんとしていた。
「ったく‥‥」
 呆れた様子で、胡蝶はため息をついた。
「まあ、とにかくこいつは寮長に突き出しましょう。青龍寮を陥れようとしたことに違いはないし、まだなにか知っているかもしれないですしね」
 義視が微笑みながら、少年の前にしゃがみこむ。
「あるいは本人は意識してなくても、何かの前触れかもしれません。詳しく状況を教えてもらいますよ?」
 怒りのこもった微笑みに、さすがに身の危険を感じるひったくり少年であった。

 なお、犯人を捕まえた功労で青龍寮の評判はおおむね元に戻った。いや、むしろ丁寧な対応が好評価だったようで一部ではなにかあれば青龍寮に聞いてみようという雰囲気が出来たようだ。今回の動きは好感をもって寮内でも知られることとなる。

 一方で明確に青龍寮への悪意を示した人物が誰だったのかは結局わからないまま、一旦事件は闇へと消えた。


 雲編 2部 了