【五行】青龍寮入寮試験
マスター名:乃木秋一
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 不明
参加人数: 23人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/15 20:59



■オープニング本文

●架茂王
 場所は五行の首都、結陣。
 久しぶりに小窓を開けて、五行の王 架茂 天禅(iz0021)は目を細めた。朝の光が差し込む。天儀も既に6月である。夏が近づいていた。
「そういえば、あれの時期だな」
 五行の陰陽四寮ではこの時期、入寮試験が行われる。
 真っ白な紙を前に、天禅は四角い墨を手にした。水を差した硯の海で墨を磨る。じわりと黒く染まる水を見つめながら、天禅は最近提出されたアヤカシに関する新たな文献のことを思い返していた。巷で騒がれている遺跡や新大陸に興味がないわけではないが、彼にとってはアヤカシの研究こそが最優先。未だ進展の見られない案件も数多い。
「こんなものだろう」
 磨り終わった墨を脇に置き、黒く艶やかに光る硯の海に筆を沈め、天禅はまたしばらく考えた。なにを書こう。

 陰陽四寮は国営の教育施設である。陰陽四寮出身の陰陽師で名を馳せた者はかなり多い。天禅も陰陽四寮の出身である。一方で厳しい規律と入寮試験、高額な学費などから、通える者は限られていた。
 寮は四つ。

 火行を司る、四神が朱雀を奉る寮。朱雀寮。
 水行を司る、四神が玄武を奉る寮。玄武寮。
 金行を司る、四神が白虎を奉る寮。白虎寮。
 木行を司る、四神が青龍を奉る寮。青龍寮。

 ちなみに天禅は玄武寮の出身であるが、現在玄武寮と白虎寮の二寮は老朽化のため建て直している最中だった。玄武・白虎寮の寮生は、残る二つの寮が預かるかたちで通っている。玄武寮と白虎寮の建て直しは存外時間がかかると報告があがっており、二寮の入寮試験は今年、見送りになるとのこと。
「‥‥よし」
 朱雀寮と青龍寮の寮長宛に書をしたためると、天禅は早速側近を呼びつけた。

 それぞれの寮長に架茂王からの書簡が届いたのは、その日の昼頃であったという。


●青龍寮 入寮試験
「おおおっ、お待ちしていました。きよ寮長!」
 青龍寮近くに拠点を構える地元問屋『梅や』の大広間。現在ここでは青龍寮の入寮試験について話し合いが行われていた。入り口の襖を開けて入ってきた着物姿の女性に向かって、一同は立ち上がって頭を下げる。
「すまない。仕入れで少しもめた。今日はよろしく頼む」
 きよも軽く頭を下げて皆に着座を促し、一番奥の座布団にしゃんと正座した。三十路間近の彼女だが、10代を思わせるはつらつとした表情が愛らしい。
「架茂王から書簡が届いていた。今年は青龍と朱雀のみで入寮試験を実施してもらいたいのだそうだ」
 落ち着きのある声の響き。きよはその手紙を懐から取り出した。
「入寮試験について、意見のある者は述べてくれ」
 きよの言葉をきっかけに、その場にいた何名かが入寮試験について簡単に意見を述べる。『梅や』の副番頭である震上 きよ(しんじょう きよ)は、青龍寮の寮長を兼任していた。この場には青龍寮の寮生が集まっている。
「最も重要なのは、面接試験と実技試験、学科試験の評価比率でございましょう」
 と、ある者から重要な意見が出た。きよはじっとみなの様子を伺っていた。この議題について意見のある者は多い雰囲気。‥‥が、青龍寮に通う者は個性が強い。独特なこだわりや考え方を持ち、一つにまとまるということがあまりない寮だ。お互いにそれがわかっているせいか、みな口を開こうとしない。無理に衝突するのを避けているのだろう。
「ねえ、おきよさん。おきよさんが決めてよ」
 だから女性陣の中からそんな言葉が出てくるのも、無理のない話だった。少女のくだけた投げかけに、「馴れ馴れしいぞ」と男たちから文句が出る。
「おきよさんとはなんだ。きよ寮長は青龍寮の寮長なんだぞ」
「なによ偉そうに。なんだかよそよそしいじゃない。『おきよさん』がいいわよ。ね?」
「「「ねー」」」
 女性陣の声が重なる。きよは最近、寮長になったばかりだった。現寮生の間でも、彼女との距離のとり方にはずいぶん個人差がある。
「なんだと?」
 議題とは関係のないところで口論が始まった。お互いに相手を挑発し、自分の意見を述べていく。時に辛らつに。時に皮肉げに。お互いがまったく別の方向を向いている青龍寮では時にこういう光景がみられる。火がつくまでに時間はかかるが、いったん燃え始めればみな好き勝手なことを言い合うのだった。最終的にひとつの意見にまとまることはあまり無いが、一種の情報交換として議論自体を楽しむ寮生が多かった。

「よし、そこまで」
 一通りみなの意見が出尽くしたらしい頃合いに、きよはぽんとひざを叩いた。一同はすぐに静かになり、きよの言葉を待つ。
「このままでは意見がまとまりそうもないが、どうやらみな話をするのは好きらしい。ならば、青龍寮の入寮試験は面接重視だ。自分が将来どうなりたいのか、どんな目標があるのか、その人の人柄をそのまま出してもらおうじゃないか」
 もちろん相応のやる気は問うし、言いっぱなしにさせるつもりはない。と、きよは最後に付け加える。

 こういう成り行きがあり、この日青龍寮入寮試験の概要が以下のようにまとめられた。



『陰陽四寮 青龍の入寮試験案内』
 入寮資格 陰陽師であり、かつ以下の試験に合格した者を、青龍寮の寮生として迎えるものとする。

◇入寮試験内容◇

・面接試験
 1.『自分の長所』について述べよ。(80字以内)
 2.『将来の目標』について述べよ。(80字以内)

 担当は寮長ほか、数名の現寮生。
 目標や長所は陰陽師に関係の無いことでもよい。

・学科試験
 以下の問いに答えよ。
 1.陰陽四寮の所在地は次のうちどれか。
 ( 結陣 闇陣 神楽の都 陽天 )

 2.『天儀人形』の万商店店頭販売価格はいくらか。(自分が買い手の場合)

・実技試験
 面接時に、実技試験を行う。
 二つの力(スキル)を準備しておくこと。
 なにを使うかは自由とする。

 以上。


■参加者一覧
/ 葛葉・アキラ(ia0255) / 葛城 深墨(ia0422) / カンタータ(ia0489) / 出水 真由良(ia0990) / 胡蝶(ia1199) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 四方山 連徳(ia1719) / 玲瓏(ia2735) / 各務原 義視(ia4917) / 柊 真樹(ia5023) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / 秋月 紅夜(ia8314) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 宿奈 芳純(ia9695) / 无(ib1198) / 成田 光紀(ib1846) / 晴雨萌楽(ib1999) / フレデリカ(ib2105) / 櫻井 八雲(ib2949) / 臥竜 鳳雛(ib2962) / 雷神剣士(ib2966


■リプレイ本文

(なんかねぇ。うーん)
 考え事をしながら无(ib1198)は開拓者ギルドの入り口をくぐった。普段、彼は図書館で働きながら勉強して己の知識を広げ、研鑽を重ねているのだが‥‥。
(図書館もいいんだけど、もうちょっとねぇ)
 図書館だけの経験では、彼には物足りなかった。
「ん? へー」
 彼の目に、『陰陽四寮 青龍寮 入寮生募集』の張り紙が飛び込む。
「そうか‥‥これも方法だよねぇ」
 張り紙と一緒に置かれた受験要綱に手を伸ばす。ケモノのナイが大きな目をぱちくりさせた。


●青龍寮 入寮試験当日
「此処が青龍寮‥‥」
 入寮試験と書かれた控えめな立て看板。断続的に門をくぐっていく受験生らしき人々。葛葉・アキラ(ia0255)は広げていた扇子をパシンと閉じて、豪快に笑った。ここは青龍寮の門前である。
「試験云々関係なく、楽しんでいかな損、やな!」
 今日は陰陽四寮が一、青龍寮の入寮試験の日である。

「‥‥」
 受験者控え室では、既にたくさんの人々が試験開始を待っていた。各務原 義視(ia4917)がゆったりと読書を楽しみ、ゼタル・マグスレード(ia9253)が周囲の受験者たちを観察している。
(意外と多いのね‥‥)
 控え室の隅のほうで、胡蝶(ia1199)は考え事をしていた。出発前に十分支度してきたけれど、髪型は大丈夫かしら‥‥と、そこへアキラがやってきた。
「あら?」
「あーー! やっぱり胡蝶ちゃんも此処の試験受けたんやね!」
 駆け寄ってきたアキラにハグされつつ、胡蝶は目をぱちくりさせた。
「また変な場所で会うわね」
「一緒に受かるとエエな!」
「なんだか普段どおりで安心するわ」
 お互いの健闘を祈りあう、二人であった。

 試験が始まった。最初は筆記試験。陰陽四寮の所在地と、天儀人形の価格を問うものだ。四方山 連徳(ia1719)は解答用紙を前に、ふむむ? とひとり、にやり顔。
「人形でござるかー。盗めば0文でござるな」
 実にだーくひーろーらしい解答である。
「借りれば無料から定価以下で有料。暁殿と深〜い仲であればゴニョゴニョ‥‥」
 いろいろ考えた末、一応一般的な価格を書き記す。暁と深い仲になればどうなるのだろう。気になるところである。
 この二問、正解は『結陣』と『1万4千文』である。ほとんどの受験者が正答を記していた。

 そして、いよいよ面接試験が始まる。
「それではみなさん、順にお呼びしますのでしばらくお待ちください」
 試験官の一人が控え室にいる面々にそう告げる。この試験はいろは順で番号が割り振られていた。一番は出水 真由良(ia0990)である。

「どうぞ」
 落ち着いた女性の声に呼ばれ、真由良は面接室に入った。白い石造りの部屋だった。天井が高く、明りとり用の小さな窓がいくつも壁に開けられている。初夏の風が吹き込み、真由良の青い髪をゆらりとなびかせる。頑丈そうな部屋だった。
(あら‥‥あれがおきよさんですね)
 面接官らしき人物が三名、真由良を迎えた。中央にいる和装の女性が、震上なのだろう。にこやかに真由良に着座をすすめる。真由良は中央のいすに腰掛けた。
「出水 真由良と申します。よろしくお願いいたします」
 ふかぶか〜と真由良は頭を下げた。面接官がそれに応じ、真由良から見て右側の若い男がさっそく一つ目の質問を投げかけた。狐のような痩せた男である。
「出水さんの長所を教えてください」
 どことなくほほを染めている彼など気にもとめず、「はい」と返事をして真由良は話し始めた。
「長所は、悲観的にならず、常に物事が良くなる方へ向いていられることですね」
 震上はすっと目を細めた。真由良が言葉を続ける。
「楽観的ということになりますが、悪くなると思いながら振るう力で、物事を好転はできないかと」
「なるほど」
 狐男がうんうんとうなずいた。
「では、将来の目標は‥‥?」
 今度は左側の男が尋ねた。ずんぐりとした体格で、狐男よりも年齢は上だろう。狸のような男である。
「目標は‥‥」
 真由良が一呼吸おいて、言葉を続ける。
「志体を持つ人々以外・社会に、式を扱うことがごく普通のこととして広まること、でしょうか。ひいては、固定化された式を構築する技術の確立、ともなりますが」
 狸男は目を丸くした。
「それはすばらしい!」
 勢い立ち上がる狸男を制止して、術を使ってくれるよう真由良に震上は頼んだ。首輪をつけた蛇神が、真由良によって呼び寄せられた。的が無いようなので蛇神を見せて終わろうとした真由良に、震上は「どうぞ」と言って狸男を前に差し出す。
「ええと?」
 やってよいものかどうか迷いながらも、真由良は思い切り狸男に蛇神を向かわせた。

「次の方どうぞー」
 真由良のあとに十数人の受験者が面接室に出入りしたのち、義視の番がやってきた。義視が本をぱたりと閉じて面接室に入ると、包帯で顔をぐるぐる巻きにした狸のような男と、無傷の狐男、そして和装の女性が義視を迎えた。
「では」
 義視に着座してもらうと、さっそく狐男は義視の長所を尋ねた。
「そうですね‥‥」
 少し思案したのち、義視は言葉をつむぐ。
「歴史学、兵法、薬学、といった分野についての知識を活用できる事や、学問的アプローチによる分析が可能である事です」
 さらに「また自分の欠点、理論の方によりがちな事を解っている事」と付け加えると、義視は面接官たちを端々見渡す。
「なるほど、それでは」
 と、傷を負った狸男が将来の目標を尋ねた。
「一言で表すと『克復魔森』。魔の森出現のメカニズムを陰陽術の側から解明する事。また、五行氏族間の連携により魔の森を滅す事。以て民に安寧をもたらす」
 狸男がうなり声をあげた。感服している様子。
「勇ましいな。だが――」
 震上がつぶやいた。
「それくらいでなければ、と思う」
 その言葉に、義視は軽く一礼する。
「では」
 と、実技試験に入った。包帯を巻いた狸男が立ち上がる。両手を広げているところを見ると、的、ということか。包帯を巻いているとはいえ、屈強そうな体である。
「では遠慮なく‥‥急々如律令!」
 斬撃符が狸男を切り裂いた。
「んぐっ」
 狸男はなんとか持ちこたえた。次の一撃に備えている。
「‥‥ご安心を。もう一つは守りの術です」
 義視は九字を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 結界呪符「白」によって、ずうんと真っ白な壁が出現した。にっこりと震上が微笑む。
「すばらしい!」

 義視と入れ違いに、葛城 深墨(ia0422)が面接室へ入っていった。面接官は包帯を巻いた狸男、和装の女性、狐顔の男という3人である。
(いよいよ面接試験だなー‥‥おっ、この人が寮長か)
 三人の真ん中にいる和装の女性、震上の美しさが目をひく。
(でも、黒絵のほうが美人かな)
 五行の生まれである深墨にとって、陰陽四寮は憧れの一つであった。今回の応募も、彼にとってはある意味自然な流れである。
「では、さっそくだが」
 簡単な自己紹介が終わり、狸男が深墨に長所を尋ねた。
「自分の興味に邁進するところ、ですねえ」
 おそらく自分より年上だろう震上に向けて、深墨は敬語を使って言った。続けて狐男から問われた将来の目標について‥‥。
「目下の目標は、使役している式を人間大の人妖にすること。すなわち、自身の手で人間大の人妖を作り出すこと」
 と、かねてから目標としていたことを言った。
「例えば」
 懐から取り出した符を小さな妖精に変えた。小さいが、銀髪銀眼、蝙蝠の羽をもつ美女の姿。黒絵である。黒絵は狐風の男に飛びつくと、その腕にまとわりついた。
「うわわあわあ」
 狐男は目を丸くしていすから転げ落ちた。その様子を静観するほかの二人。
(このままもう一つ見せればいいのか?)
 今度は吸心符として黒絵を呼び出した。160cmの黒絵は狐顔の男にすっと近づくとかぷりとその耳を甘噛みした。
「くうう――」
 狐男から奪った精を深墨に届けると、黒絵はそのまま消えてしまった。
「黒絵‥‥」
 ほんのつかの間。深墨は目を伏せる。震上は手元の用紙に筆を走らせて、「ありがとう。面接と実技はこれで終了だ」と言った。

 深墨の次は洋紅色のローブを纏った女性だった。名をカンタータ(ia0489)という。彼女は普段どおりローブのまま、面接室に入った。面接官は二人。
「ん?」
 いや、三人だった。一人が冷やした手ぬぐいを顔に当てて横になっている。が、カンタータが部屋に入るとすぐに起き上がって席に着いた。
「ローブをはずせない事情があるの‥‥?」
 少し聞きづらそうに、中央の和装の女性、震上が言った。
「んー、問題なければこのままがいいんですけどー」
 口元に愛らしい笑みを浮かべて、カンタータはそう答えた。震上とほか二人は顔を見合わせつつも、「申し訳ないけど、少しの間だけ取ってもらえないかしら?」と重ねた。
「んー‥‥」
 カンタータはどうしようかと迷いつつ、少しだけフードをまくり上げた。金色の髪と白い肌。震上ははっと目を見開いた。口の動きから「きれい‥‥」とつぶやいたのがわかる。カンタータはフードを戻した。同時に、簡単な自己紹介をする。
「無理を言ってごめんなさいね。ありがとう」
 震上は面接官らしい表情に戻っていた。
「さっそく質問なんだけど、長所を教えてもらえる?」
 カンタータがうなずく。
「ボクの長所は多数意見に呑まれず良い手を探ろうとする心構えだと思います。皆が同じ様に感じ、同じ様に考える事象を別の角度から見ることで得られるモノもあると考えています」
 震上はなるほどといった様子でうなずき、今度は目標について尋ねた。
「調理を通して今より一層皆さんに喜んで貰うことです。甘いものの摂取は閃きの助けにもなり、生きるためには大切なのです」
「然り」
 向かって震上の左に座り、黙っていた狸のような体躯の男がうなずいた。続いて実技試験。カンタータは霊魂砲で狸男を吹き飛ばし、両手の中に光を放つ蝶をとどめ、一気に宙に解き放った。
「おみごと」
 実に頑丈な狸男は、その美しさに手を叩いて喜んだ。

 そのまま次の受験者の番になる。
「おおっ!? 拙者の番でござるね?」
 次は四方山 連徳であった。
「はっはっは! 失礼するでござるよー」
 実に普段どおり、連徳はゆる〜っとした雰囲気で面接室に入った。
「では、面接を始めます」
 面接官は狸っぽい男、和装の女性、狐目の男の三人であった。
「さて、四方山さんの長所はなにかしら?」
 和装の女、震上がそう尋ねた。
「清く正しく美しく‥‥が信条でござるよー」
 くわっ‥‥と連徳は黒く笑った。これらすべて『連徳的に』そうである、という含みがある。さらに闇討ちも厭わない。彼女はだーくひーろーなのである。
「なるほど。それでは、目標は?」
 狸っぽい丸々とした男が続いて質問した。
「もちろん、夢はでっかく毎日三食でござるよ。‥‥いや、二食でも良いでござる」
 くきゅるるる〜となんだか頼りない音が響いた。それからすぐに実技試験が始まった。
「面接官殿をブチのめせば良いでござるかね?」
 ガードを構えて連徳は立ち上がった。かちこちに固まった蛸をさながら剣のように構え、「いくでござるいくでござるよー」と狐目の男に振り下ろした。
「ふがやっ」
 狐目の男はあっけなく床に伏した。さらに男の身体にぴたりとくっついていた吸心符が連徳のもとへと帰っていく。
「ありゃ?」
 狐目の男は精根尽き果てたようで、そのまま動かなかった。

 それからしばらく数名の受験者が面接室に出入りしたのち、露草(ia1350)の番がやってきた。静かに読書していた露草が、「いよいよですか‥‥」と立ち上がる。面接室。露草はこそっと戸を半分だけ開いて中を見た。面接官は二人だった。狸のような男と和装の女性。
「どうぞ?」
「あっ、はい」
 女性にすすめられるまま、露草は中央のいすに着座する。太陽の光があまり得意でない露草にとって、その部屋はちょうどいいくらいの薄暗さであった。
「では」
 簡単な自己紹介のあと、さっそく狸男は露草に長所を問うた。
「対する相手によって柔軟に戦法を変えられるところでしょうか。ただ腕力はありませんので霊青打使用時には他の術と併せてこちらを術師と見る相手の虚を突く形をとります」
「まったくだ」
 狸男はうんうんとうなずいた。露草はほっと胸をなでおろす。ちゃんと言えた。続いて和装の女性、震上が目標を聞いた。
「開拓者としてはより多くの人を護れる人間に。そして陰陽師としては式の大きな力に溺れない、力に呑まれない心の強い人間に」
 そう答えたあと、ちょっと余裕が出てきたのか、露草は微笑んで「それと‥‥人妖の形成を」と付け足した。
「わかる!」
 狸男がうんうんとうなずく。そういうキャラだったか?
 露草は実技に斬撃符と治癒符を選んだ。かわいらしいうさぎ姿の式が、狸男の傷を癒す。
「ごめんなさい。巫女さんほどではないですけれど」
 心配そうにつぶやく露草に、狸男の心は奪われたという。

 露草の次は无であった。
(いってくるよ、ナイ)
 普段一緒にいる狐のナイは別室待機である。无は一人で面接室の戸を開けた。元気そうな狸っぽい男と、和装の女性が待っていた。和装の女性は「寮長の震上だ」と簡単に述べると、无に中央の席をすすめる。すすめられるまま、无は座った。
「それでは」
 と、震上は長所を尋ねた。
「直感が鋭いことですねぇ。物事を直感的に把握出来たり、何となくケモノや動物の心を理解し、私の心を伝えることが出来るんです」
 ふむふむと震上がうなづく。
「一緒に来ていたケモノは?」
「ああ、ナイとは一緒に生活をしているんで、つい連れてきちゃいました」
 无は小さく苦笑いした。
「まあ、さほど大きな問題はないだろう。さて、次の質問だ」
 今度は将来の目標について。
「アヤカシだけでなく世界を識りたい。特に友達のナイを識るためケモノや動物達を識り、彼らとより意思疎通出来るようになりたいんだ」
 少し、熱のこもった言葉。狸っぽい男が感心したように聞き入っている。そしてそのまま、実技試験に入った。狸っぽい男に斬撃符を放ち、その後治癒符で癒す。
「大丈夫?」
 治癒符で狸男を回復させながら、心配そうに无は尋ねた。

(ようやく俺の番か?)
 无の次は成田 光紀(ib1846)である。
「失礼する」
 光紀は部屋に入った。面接官は三人であった。狸っぽい男と和装の女性、それにずいぶん顔色の悪い狐目の男の順で、左から並んでいる。
「どうぞ」
 と、狸っぽい男は光紀に着座をすすめた。中央のいすに光紀は腰をおろす。
(実技試験からじゃねぇのか‥‥?)
 袖の中で、光紀は符を用意した。すぐに使えるようにしておくか。
「では」
 中央の女、震上きよが長所について聞いてきた。
「長所は『知らないという事』だろうな。知らないならば、これからいくらでも物を知ることが出来る。俺は知らないと言う事を自覚している。だから知る努力が出来る」
 これからいくらでもな、と光紀は付け加えた。
「なるほど」
 震上はうむうむとうなづいている。続いて目標について。
 光紀は震上を見据えた。
「長所から繋がるが、目標は知る事だ。生きている限り、何もかもを知りたい。面白い事、楽しい事、恐ろしい事、世の中の何もかもをいつか知り、楽しんでみたいものだ」
 そう言いつつ、光紀は袖の符を小蝿に変えた。
(そろそろじゃねぇか? 実技試験)
「なるほど、ありがとう」
 狸っぽい男がずんと立ち上がった。
「では、実技試験にはい――」
 る、と言い終わる前に、光紀は鋭い針を持つ蜂を狸男に飛ばしていた。が、蜂は狸男に当たる前に霧散した。光紀の感覚は人魂のほうが優先されており、人魂と同時に戦闘行為を行うのは困難だった。
「あ、あんた弓島っていうのか?」
 小蝿が狸男の手元の書類にぴたりとくっつく。
「ああ、俺は弓島豪大だ」
 狸男らしい、丈夫そうな名前だった。

「おっ! ついにうちの番やね!」
 葛葉・アキラが呼ばれた。
「アキラ、がんばって」
 胡蝶の応援に笑顔で応えると、アキラは面接室へと向かう。
「よろしくお願いするわー!」
 アキラの面接は元気よく始まった。狸顔の男と狐目の男、そして和装の震上がアキラを囲む。最初の質問は長所について。
「明るく元気、いつでも陽気なことやねぇ。誰とでも打ち解けられるし、扇子を使った舞が出来ることも長所やと思うでぇ」
 なんなら踊ってみよか? と微笑むアキラだったが、時間の都合上残念ながら今回は遠慮したいと、震上は言った。続いて、目標について。
「そやねェ〜、皆を笑顔にしてみたいんや。飛びっきりの笑顔の見れる世界にしたいなぁ」
 彼女の笑顔が輝いているのは、きっと相応の経験があるからだろうと震上は思った。他の人の笑顔を大切にできる人は、強い。
 そのまま実技試験が始まった。
「わ‥‥」
 震上は息を呑んだ。震上の顔をした岩首が、狸顔の男の上に落下したのである。
「なんだか、恥ずかしいわね」
 と震上は苦笑いする。
「行くでぇ!」
 続いて鳩の白い翼が、面接室の小窓へ飛ぶ。

 フレデリカ(ib2105)の番がやってきた。
(がんばってみるか)
 と、銀色の美しい髪を揺らしながら面接室へ行く。
「どうぞ」
 という声に従って、フレデリカは中に入った。いすをすすめられる。フレデリカは座るとすぐに「私の名はフレデリカ・フォン・エーデルシュタイン。ジルベリア出身よ」と、素に近い口調で自己紹介した。面接官三人が会釈する。中央の和装女性が、震上きよである。
「さっそくだが、長所を教えてもらえるかな?」
 フレデリカはうなづいた。
「長所は柔軟性があるところかしら。例えば、自分の意見に固執しないで他の人の話も聞いて答えを出すようにしてるわ。妥協できない点も少しあるけれど」
「いい答えね」
 震上が微笑んだ。そのまま目標について尋ねる。フレデリカは少し困ったように眉を寄せた。
「正直、明確な目標は無いわ。選択肢は多いからこそしっかり考えないといけないと思うの。そして何をするにも力があって困る事は無い。力を蓄えるのが今の目標ね」
 震上はちらりと横目で狐目の男を見た。聞いてる? あんたもこの子見習いなさいよ、と言いたげな目。狐目の男は少し座位を正した。
「ありがとう。それじゃあ実技を見せてもらえるかしら?」
 震上の言葉に従い、フレデリカは黒いカードを取り出した。独特な形状だが、これが彼女の符である。
「斬撃符!」
 黒いカードが狐眼の男を切り裂いた。さらに黒い触手がまとわりつく。
「降参! 降参〜〜!」
 情けない声で、狐男はそう叫んだ。

「さて、次は私の番ね」
 胡蝶は面接室の前にやってきている。髪型は大丈夫だ。何度も確認したし。
「失礼するわ」
 ノックのあと、胡蝶は部屋に入った。狸っぽい男と和装女性が、胡蝶を迎えた。
(ふうん、あれが寮長ね)
 胡蝶は震上を見て、特に反応も示さず中央のいすに座った。
「では、面接を始めます」
 お互いに軽く自己紹介したあと、すぐに最初の質問に入った。長所はなに? 胡蝶は目を細めた。
「言いたいことは相手が誰であれ、臆せず言うよう心がけてるわ。例えば陰陽四寮、あの学費に見合うだけの場所か否か、見極めたいと思っている‥‥とかね」
 狸男は眉を寄せたが、震上はくすりと笑った。
「その気持ち、よくわかるわ。安いものよ? 得がたいものを得られるわ」
 と言い切る。胡蝶は眉根をあげた。
「じゃあ、次の質問だけど、目標を教えてもらえる?」
 一瞬考えた後、胡蝶はこう答えた。
「まだ定まっていないけど‥‥今は強い力を身に付けたい、と。この先、何かをなしたいと願う日が来たとしても、力が無ければ叶わないこともあるでしょうから」
 ジルベリアから天儀に渡ってきた彼女の心中に、なにがよぎるのか‥‥。それからすぐに実技試験が始まった。狸男が的役らしく、ずんと立ち上がる。しかし、胡蝶はそれを制止した。
「自分でやるわ」
 結界呪符「白」で白い壁を呼び寄せる。
「始めるわ‥‥これが今、私に出来る最大限‥‥!」
 その壁に向けて、紫色の巨大な蛇を突撃させた。普段よりも胴体が太く力強いのは、胡蝶の気力を食らっているからである。二つの術はぶつかりあい、そしてそのまま消えた。

 秋月 紅夜(ia8314)の順番がまわってきた。赤眼鏡が特徴的な女性である。
「失礼するよ」
 紅夜は面接室の戸をくぐった。面接官は二人。狸っぽい男と震上きよ。すすめられるまま、中央のいすについた。
(故郷の奴らをどうにかする為にも、自らが成長しなくては‥‥)
 ふと、故郷が思い起こされた。志体持ちに理解のない人々‥‥。
「さて、秋月さん」
 面接が始まった。震上が長所を尋ねる。
「好奇心旺盛で、陰陽師への関係の有無を問わず気になったモノは一通り調べないと気が済みません。分析の為に手帳と筆記用具を常備し、必ずメモをとっています」
 開いてこそいないが、彼女の手には手帳が。いつでも書けるようにしてある。
「なるほど‥‥では、目標を教えてもらえんか」
 狸っぽい男がそう尋ねた。紅夜は面接官を見つめ、率直に答える。
「力をつけて故郷の者達に志体を持つ者を排斥する愚かさを教えてやることです。人の心を動かす為には単純な力だけでは足りません。心技体全ての面で成長したいです」
 故郷の者という言葉を聞いて、震上はうっすらと目を細めた。彼女も故郷から出てきたクチである。
「答えづらいかもしれないが‥‥」
 と前置きして、震上はそれから二・三、故郷について尋ねた。答えられる範囲で、紅夜が答える。
「ありがとう」
 震上は納得した様子でうなづいた。
「では、実技試験に入ります」
 紅夜は呪縛符と地縛霊の二つを選んでいた。この二つは、状況に応じて臨機応変に使い分けることができるのだという。
「すまない、出してもらえないか?」
 震上が苦笑いしつつ、紅夜に頼んだ。狸男が地縛霊に捕らえられている。一応まだ、試験があるのでと、震上は付け加えた。

「樹咲さん、樹咲 未久さん」
 樹咲 未久(ia5571)が呼ばれた。試験係の寮生に連れられて、未久は廊下を行く。優しい顔立ちだが、こう見えても義理の弟たちがいる。
「失礼します」
 未久は戸を叩いた。「どうぞ」という女性の声に導かれるまま、未久は部屋へと入る。石造りのひんやりとした部屋に、和装の女性と狸っぽい男が待っていた。
(書物から学ぶのには限界がありますからねぇ、頑張りましょう)
 よし、と気持ちを引き締めて、未久は中央のいすへと進んだ。
「さて、ではお尋ねします」
 面接試験が始まった。長所を教えてください、と狸男が言う。
「そうですねぇ。一つの事に集中すればそれに熱中できる点でしょうか?」
 ニコニコ笑いながら、未久は頭をかく。
「昔から本を読み始めると寝食も忘れて部屋に籠りっきりだったので、あの人に叱られてばかりでした」
 一つ間違えば短所とも言えるが、ここは陰陽四寮である。未久のような性質は、かえって歓迎された。満足そうに狸顔の男も微笑んでいる。続けざま、今度は目標を聞かれた。
「私にはずっと追いかけている背中があります。いつか追いついきたいとも思っています。
目標は、弟達の手助けができる力を手に入れて、あの人に追いついて共に歩く事です」
「あの人?」
 震上の眉が困ったように寄せられる。未久からは、明快な答えを聞き出せなかった。
「実技試験に入る」
 狸っぽい男がのっしと立ち上がった。未久は粘菌状の式を呼び出すと、陰陽符でそれらに形を与えた。網のように広がった粘菌が狸男に飛び掛り、燕のような形の粘菌が、狸男を切り裂く。
「うぬうっ」
 狸男はひざをついた。

 御樹青嵐(ia1669)は静かに順番を待っていた。昨晩、知人と練習した模擬面接のことを思い出す。緊張することはない。冷静に、丁寧に質問に答えればよい。
「先輩、そろそろですね‥‥がんばってください!」
 露草が青嵐のそばにやってきた。微笑み、青嵐はこくりとうなづく。
「御樹青嵐さん、順番ですよ」
 青嵐が呼ばれた。露草に送り出され、青嵐は面接室へと向かう。
「さ、どうぞそこのいすに」
 面接室では和装の女性が待っていた。ほかにも面接官がいたらしいが、彼女の両脇は空席になっている。彼女が寮長だ。
「さっそくですが」
 と切り出して、震上きよは長所を尋ねた。それの答えは用意してある。青嵐は流れる水のごとくその問いに答えた。
「私の長所は冷静さです。単に冷静というだけでなくそれを裏打ちする情熱も兼ね備えております。情熱的に問題に取り組み冷静にそれを解決する。それができるのが私ですね」
 震上はなるほどとうなずくと、今度は目標について尋ねた。
「まずは己を高めることとなりますね。絶えず研鑽を積んでより高みにいる自分を思い、それになるべく努力を重ねている最中です。それが私の将来の目標になります」
 努めて冷静な語り口だったが、端々に熱が見て取れた。見た目以上に、なにか熱いものを持っている人なのかもしれない‥‥。
「ありがとう。それでは実技試験にうつろう。二つ術を使ってくれ。私を対象としてくれて構わんよ」
「え?」
 青嵐は一瞬ためらった。試験とはいえ、相手は女性である。どうしたものか‥‥。
「わかりました」
 入寮を果たしてみせる。青嵐は呪殺符を構えた。斬撃符ののち、治癒符で震上の傷を癒す。
「大丈夫ですか?」
 震上は少しはにかんだ。
「受験者に心配されるってのは、少し恥ずかしいな」

 柊 真樹(ia5023)は考えていた。
「うーん‥‥」
 考えても考えても、ぐるぐる同じ場所に戻ってくる。
(どうしよう、勢いで応募しちゃったけど、入寮費払えないわ‥‥)
 真樹は最近、新しい相棒を得たばかりである。安い買い物ではなかった。
(みんなで受かりたいのに‥‥そうだ。特待生制度ってないかしら? そ、それがだめでも、寮関連のバイトとか‥‥)
 いつの世も、金子の問題は悩ましい。
「次の方〜。柊 真樹さん〜」
 名前が呼ばれた。
「はい! いま行きます!」
 真樹は面接室に行く途中、入試係の寮生に特待生制度について尋ねたが、彼は聞いたことがないと答えた。
「そう、ありがと」
 残念そうに肩を落としつつ、気を取り直して面接室の戸を叩く。
「どうぞ」
 中から女性の声が真樹を引き入れた。ごく普通の自己紹介のやり取りが行われ、震上きよは真樹の長所を尋ねた。
「はい」
 一呼吸おいて、真樹は話し始めた。
「好奇心旺盛で、『とりあえずやってみる』が座右の銘です。最近実践の大切さと世界の広さに気付き、開拓者ギルドの依頼も受け始めているところで‥‥土偶ゴーレムの新しい相棒ができたんです。これも一つの成果だと思っています」
 興味深そうに震上は真樹の話を聞いている。次は目標について。
「はい、知能の解明ですね。式の自律化を含む術体系の確立を手掛かりに、アヤカシの、しいては人の在り方を問うつもり。争いなんて非効率なことを少しでも減らすことに繋げたいです」
 なかなかに大きな目標だった。しかし、一方で頼もしさも感じる。震上はにこやかに「ありがとう」と言うと、実技試験にうつった。
 しばらくして、真樹は面接室から出てきた。
「びっくりしたわ。まさか寮長相手に斬撃符を打つことになるなんて」
 斬撃符のあとに治癒符を使い、その傷を回復したのもなんだか不思議な気分だった。
「ああ‥‥それにしても、やっぱりないのね。特待生制度‥‥」
 合格していたらどうしようと、変な心配をする真樹であった。

「えー、次は、モユラさんお願いします」
 と、入試係が言ったとき、二人の女子が立ち上がった。
「「あ」」
 お互いの姿を見て、「久しぶり!」と手を振り合う。玲瓏(ia2735)とモユラ(ib1999)だ。二人は同じ呼び名なのである。
「なんだか不思議な縁ですね」
 と玲瓏が言い、
「一緒に受かりましょうね!」
 とモユラが応じる。
「ええと、玲瓏さんが先ですので、どうぞ」
 入試係は玲瓏に声をかけた。
「あ、はい!」
 玲瓏が返事をする。
「いってらっしゃーい!」
 元気よく手を振るモユラに、にこりと微笑んで玲瓏は応じた。そして入試係に連れられて廊下を進み、玲瓏は面接室へと到着した。
「どうぞ」
 中から女性の声がする。玲瓏は物怖じせず、ひょいっと面接室に入った。中には和装の女性がいた。すすめられるまま、玲瓏は中央のいすに座る。
「それじゃあ、長所から教えてもらえる?」
 面接官は震上きよだ。玲瓏はにこりと微笑んで話を始めた。
「信念を貫く精神と観察眼。私が無事開拓者となれたのも、反対する親族との関係を崩さぬよう、相手の出方や感情を汲み取り、根気よく説得したことによります」
 自信に満ちた言葉だった。震上も納得したようで、話を聞きながらうなづいている。次は目標について。
「私は世の不思議を、またすてきなものを後世に遺していきたいです。アヤカシはまた人とは違うものを見、感じているかと。その知識と智恵を得、いつか人の琴線に触れるような作品を作りたいですね」
 陰陽師とはこういうものかもしれない。と、震上はふと思った。己が納得するまで尽きることのない興味、関心‥‥。
「では」
 面接が終わり、実技試験に入った。的はないので狙うなら私を、と言われ、玲瓏はちょっと困ったような顔をしたあと、霊魂砲を震上のすぐ近くの壁に放った。もう一つの術は人魂である。情報収集のための、もう一つの目と耳。震上が傷を負うことなく、無事に実技試験は終わった。

「次はモユラちゃんの番よ。頑張って!」
 廊下で、モユラは玲瓏とすれ違った。怜悧な雰囲気のある玲瓏のちょっとした陽気なしぐさに勇気付けられ、モユラは笑顔でそれに応えた。
 面接室の戸を叩く。
「どうぞ」
 女性の呼びかけを受けて、モユラは面接室へと入った。
「失礼しまーす!」
 面接室は石造りの質素な部屋だった。和装の女性が一人、いすに座っている。彼女はモユラに、向かいのいすをすすめた。すすめられるまま、モユラがいすに座る。
「はじめまして! 萌楽です! よろしくお願いします!」
 元気よく、モユラがぺこりと頭を下げた。
「ああ、よろしく」
 面接官は震上きよと名乗った。
「さっそくだけど、長所から教えてくれる?」
 面接が始まった。
「はい! 陰陽師モユラ、試験解答します! とりあえず、元気で前向きなところが長所です! どんなに苦しい状況でも目的を果たすために、諦めないで、自分にできることをする。それくらいの気概はあるつもりだよ」
「すばらしい」
 素直に出た言葉だった。震上は続いて、目標を尋ねる。モユラの瞳が熱く燃える。
「父上様は、立派な学者だった。力も知識も徳も、全部持ってた。あの人に追いつきたい。そんで、あの人のように‥‥真に人を助ける力になりたい。それが、あたいの目標です」
「ありがとう」
 そのまま、面接試験は終わり、実技試験に入った。モユラが選んだのは斬撃符と人魂。小さな鎌鼬が風を切り、小さな鳥が部屋を飛んだ。

 ゼタル・マグスレードは静かに控え室の受験者たちを眺めていた。
(個性が強いという事は、それだけ様々な考えや価値観を持つ者が多いという事だ)
 青龍寮は個性が強いものが集まっていると聞く。ならば――。
「次の方、ゼタル・マグスレードさんー!」
 呼ばれて、ゼタルは立ち上がった。
(願わくば無事僚友に加わり、互いに切磋琢磨できる学友とならんことを‥‥)
 面接室に到着した。戸を叩く。
「どうぞ」
 ゼタルは面接室へと入った。
(む‥‥)
 面接官は一人であった。和装の女性。彼女は震上きよと名乗ると、ゼタルにいすをすすめた。
「さっそくだけど」
 と、震上が口火を切る。
「面接を始めるわね」
 ゼタルは簡単に自己紹介したのち、最初の質問である自分の長所について話を始めた。
「そうですね、僕の長所は好奇心に正直であり、探究心・向上心が強い事です。常に最良・最適を模索する姿勢を重んじて考え、行動しています。意見が対立する事を躊躇しませんが、等しく協調するよう努力は怠りません」
 震上は深くうなづくと、次の質問にうつった。目標について。
「世界のアヤカシの全てを図鑑に記す事です。アヤカシの研究は、人々の生活を護る事にも繋がる。未知は恐怖を招くが、既知は力と糧になると考えています」
 ゼタルは文官の道をすすめられていたらしい。その事情を震上は知らないが、どことなくゼタルにはそういった雰囲気を感じていた。続いて、実技試験である。
 ゼタルの選択はとてもストイックだった。斬撃符と人魂である。索敵と対抗という、冒険の基本だとゼタルは語った。

 いよいよ残り二人である。宿奈 芳純(ia9695)は、面をつけたまま面接に臨んだ。
「‥‥ええと」
 震上きよは言葉を選んでいた。本日二人目である。フードの女性に続き、今度は面の男。人には人の事情があり、顔を隠したい気持ちを抱く人がいるのはわかるものの、とはいえ入寮試験で顔を見ずに合格を出せるものではない。
「できればでいいのですが、面を外してもらえませんか?」
「‥‥」
 しばらく芳純は黙っていた。
 はいともいいえとも答えない。どうやら迷っているらしいことは、なんとなく雰囲気で伝わってくる。しばらくして、少しだけ芳純は面を外した。
「ありがとう」
 芳純は面を戻した。面接が始まった。まずは長所について。
「短所とも言えますが、己が『足りぬ不完全な』存在であると自覚している事です」
 芳純の答えは簡潔だった。簡潔だが、その意味するところは極めて深い。
(自分にもこれは言い聞かせなくちゃだめね)
 と、芳純の話を聞きながら、震上は思った。続いて、目標について。
「力を持っているからこそ適切な選択ができる様に、必要なものを学ぶ事です」
 震上にそれ以上の言葉はなかった。芳純の話は実に興味深い。これからどこか、大きな舞台で羽ばたくやも知れない‥‥。
「では、最後に実技試験を行います」
 芳純が選んだのは人魂と瘴気回収だった。小鳥を部屋の中に飛ばし、手元に戻す。
「探索や仲間同士の情報伝達に使用しています」
 震上はうなずいた。続いて、瘴気回収を行う。
「ここには、アヤカシが出るほどの瘴気はないようですね」
 十分な回復が得られなかった様子だが、逆にほっとしているようでもあった。
「ありがとう。今日はこれでおしまいです」
 試験の終了を告げた。芳純が部屋を出て行く。震上はふと思った。攻撃的な術を使わなかったのは、これまで芳純だけではなかったろうか。

 さて、最後の受験者である。いろは順で、『ん』を除く一番最後は『す』である。鈴木 透子(ia5664)が最後の受験者として、面接室に通された。
「よろしくお願いします」
 ぺこり、と透子は頭を下げた。面接官は変わらず、震上きよ一人である。お互いに簡単な自己紹介を済ませたのち、面接が始まる。
「さっそくですが、長所をお聞かせください」
「はい」
 透子はハキハキと答えていく。普段のボーっとした様子はない。
「お師匠様は、様子はともかく素直に学ぶのは良いところだと言ってくれてました。あたしは良いものは嫌な相手のものでも真似しろっていうお師匠様の言を守ってるだけなのですが」
 良いお師匠様なのですね、と震上は思った。続いて目標を尋ねる。
「はい、あたしはアヤカシについて学びたいんです。陰陽を生業にしてるけど、良く分からないんです。これしか出来ないのに」
 透子は一瞬目を伏せた。が、すぐに普段の表情に戻った。
「前の戦乱ではアヤカシにしてやられました。もう、ああいうのは‥‥」
 陰陽師は、きっと陰陽師以外の生き方が見つからない。本当の陰陽師はきっとそうなのだ、と震上は透子の話を聞いて感じていた。自分はどちらかと言うと異端なのかもしれない。ふらふらと旅をしていながら、婚約を機に一つの町に根を下ろすなんて、陰陽師にしては所帯じみてる。
 この子みたいな子が、きっと本当の『陰陽師』なんだろう‥‥。
 透子の実技試験は結界呪符「白」と人魂だった。攻撃的な術を使わなかったのは、今日二人目。
「ありがとう」
 そう言って、面接の終了を透子に告げた。

 これにて、試験の全過程が終了した。


●合格発表
 その数日後、受験者のうち、合格した者には手紙が届けられた。その内容はこのようになっている。

「おめでとうございます。貴方は青龍寮の寮生としてふさわしい考え方、技術、知識を持った人物であると認められました。ぜひ入寮式にお越しください。今後の貴方の人生に、青龍寮が大きく貢献することを、願っています。   青龍寮 寮長 震上 きよ」

 なお、開拓者の中で手紙が届けられたのは、以下に名前を列記するとおりである。

 出水 真由良
 各務原 義視
 葛城 深墨
 カンタータ
 四方山 連徳
 露草
 无
 成田 光紀
 葛葉・アキラ
 フレデリカ
 胡蝶
 秋月 紅夜
 樹咲 未久
 御樹青嵐
 柊 真樹
 玲瓏
 モユラ
 ゼタル・マグスレード
 宿奈 芳純
 鈴木 透子

(以上、いろは順 敬称略)