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■オープニング本文 ●とある旅人の行き先 武天の外れ。両脇には田んぼと畑しか無い田舎道を、流浪の旅人、流実枝は軽い足取りで歩いていた。 日の光を遮る雲もほとんど無く、まさに晴天そのものの青空の下を進む彼女の行き先は、この先にあるという農村だった。 毎年この時期にその村で作られているという名物、恵みの味噌汁を食すことが、今の彼女の最大の目的であった。 険しい山道を越えてやって来た彼女の目に疲労感はほとんど無く、むしろこれから対面するであろう絶品料理に対する期待感の方が大きいようだった。 「村でとれた野菜と、村を囲む山で採れた山菜を織り交ぜた味わい・・・・楽しみだなぁ・・・・」 思わずそんなことを呟きながら、実枝は一歩一歩着実に歩みを進め、やがて目的の村の入り口が視線の先に見え始めた。 「あれ? なんだか様子が・・・・うわ、あの建物壊れてない?」 実枝の鋭い視線は、村の一角にある建物が数件、無惨に壊れているのを見つけた。 何か良くないことがあったに違いない。そう察した実枝は一目散に駆け出し、村へ急いだ。 ●許せない! 村に辿り着いた実枝が見たのは、想像通り『何かがあった』村の惨状だった。 倉と思われる建物が幾つも壊され、木片と化した外壁の隙間からは、酷く荒らされた内部が見えた。 実枝は村の中央に集まっている人々を見つけ、寄っていき事情を聞いた。 「山賊だよ。突然現れて、村の蓄えを滅茶苦茶に奪っていったんだ。皆で必死に守ろうとしたが、あいつらケモノを従えてやがったんだ。あんな山賊聞いたことがねぇ・・・・けが人が出なかったのが幸いだったが、あいつら『また来るからなぁ!』って言い残して行きやがった。近いうち、今日運び切れなかった分を取りに来るに違いねぇ・・・・」 実枝は泣き崩れる村人を見て言葉を失い、最初は驚きだった感情が、徐々に怒りへと変わっていった。村に悲劇をもたらした、山賊たちへの怒りに。 「許せない! 食べ物の恨みは大きいのよ!」 突然響いた怒声に、村の人々は驚いて声の主を見た。 つい先ほどやってきたばかりの、どこの誰とも知らぬ旅人が拳を振るわせ、仁王立ちで天を仰いでいる。その姿がどこか可笑しかった。 「皆さん! 何としても山賊を捕まえて食料を取り返しましょう!」 「でも、俺たちは畑耕すくらいしかできねぇ農民だし・・・・」 実枝は必死に訴えかけたが、村人達は自信なさげに俯くだけだった。 「大丈夫です! こういうときの心強い味方がいるじゃないですか!」 胸を張り、自信満々に言う実枝に、村人達はもしかして、と口々にその名を呟いた。 「開拓者、か?」 実枝は力強く頷き、彼女が行く先々で開拓者に助けられてきた体験の一部を語って聞かせた。開拓者に馴染みの薄い村人達は、彼女の話を食い入るように聞き、やがて少しずつ実枝の提案に賛同するものが現れ始めた。 「お金はかかるかもしれませんが、私もお手伝いします。このまま山賊のいいようにされるなんて、絶対に駄目ですよ! それに・・・・こんな状況で言うことじゃないかもしれないですけど・・・・」 実枝はそこで一呼吸置き、自分の中にある素直な気持ちを口にした。彼女の真っ直ぐすぎる性格上、言わずにはいれなかった。 「私、この村のお味噌汁がどうしても食べたいんです!」 言い切った後で恥ずかしいという気持ちがこみ上げ、実枝の顔は真っ赤に染まった。 図々しいと思われただろうか。そんな不安で一杯になり、村人の顔を正視できなかった。 「はははは! 素直でいい子だ! よぉし、こりゃあ頑張らなきゃな!」 「金は皆に協力して貰おう。足りない分は・・・・野菜とかじゃ駄目かな?」 「わざわざこんな僻地にまで若い娘さんが来てくれたんだし、村のいいとこ見せないとね」 村人達は実枝の不安を打ち消す勢いで奮起し、俯いていた実枝は思わず笑顔になって顔を上げた。 その熱気は周囲の山々を振るわせ、実枝は村人達の大逆転劇を予感し、胸を高鳴らせた。 |
■参加者一覧
橘 琉璃(ia0472)
25歳・男・巫
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
こうめ(ia5276)
17歳・女・巫
神鷹 弦一郎(ia5349)
24歳・男・弓
紅蓮丸(ia5392)
16歳・男・シ
楓 絢兎(ia7318)
20歳・男・陰
日向 亮(ia7780)
28歳・男・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●迎撃の構え 「うは〜、これはまた酷いでござるな」 村に辿り着くと、紅蓮丸(ia5392)は開口一番そう呟いた。 壊された蔵や家屋、荒らされた農作物を見ての素直な感想だった。 「その分しっかりお返ししてやんないとな」 竜哉(ia8037)も村の有様を見回しながら言い、仲間達はそれに同調するように力強く頷いた。 開拓者達はいずれまた現れるであろう山賊達を迎え撃つため、思案した作戦を実行に移した。 村人に溶け込み、修繕作業などを行いながら山賊の襲撃に備え、警戒をする。それが作戦の第一段階だった。 「木材はここでいいですか? いいえ、お気になさらず、これくらい平気ですから」 さもその村の者のように振舞いながら、橘琉璃(ia0472)は周囲の様子を仲間たちと密かに連携しつつ確認し、蔵の修繕に取り組んでいた。 「こっちは終わりました、次はどちらに‥‥」 純之江椋菓(ia0823)も同じく、蔵や家屋の修理を手伝っていた。 小柄な体を目一杯動かし、せっせと木材を運んで回っている。 「今のところは静かなものだな‥‥だが、気は抜けないか」 「あんまりピリピリしすぎると、紛れ込んでるのがばれてしまいますよ。せっかく服まで借りたんですから、自然にいきましょう」 「それもそうだ。じゃ、俺は屋根の修理をしつつ、高所からの監視でも‥‥」 神鷹弦一郎(ia5349)と日向亮(ia7780)の弓術師二人は、村人の服装を借り受け、武装や目立つ装備品を隠しながら、村人と交代で見回りや監視を行っていた。 村人たちは山賊の襲撃に怯えてはいるものの、開拓者達の提案には協力的で、率先して見回りのための人員を整えてくれた。 その中には、今回の依頼をした流実枝の姿もあった。 「はい、持ってきました! あ、ちょっと待ってて下さい、今行きます〜」 見回り、家屋の修繕問わず、彼女はあちらこちらへ走り回っては、手の足りないところを手伝っていた。 彼女の働きぶりは開拓者や村人をより奮起させる起因となり、開拓者達が村人にとけ込み易い雰囲気を作る架け橋にもなってくれていた。 「お味噌汁楽しみですね、楓殿。私、作り方を教わってみたいです」 こうめ(ia5276)と楓絢兎(ia7318)に至っては村の雰囲気にとけ込みすぎて、ご近所同士の立ち話のような雰囲気を発してすらいた。 「ふふふ、そうですね。そのためにも、面倒な山賊はとっととふん捕まえてしまいませんと」 「あら、そうでしたね。今はしっかりお仕事をしませんと・・・・」 そう言って二人は立ち話をやめ、それぞれ別の方向へと足を向け、見回りを再開した。 見回りから得られた情報は村人を伝って他の仲間達にもすぐに伝わるように仕組まれており、いつ来るとも知れぬ山賊への警戒は問題なく整いつつあった。 ●開戦! そして、開拓者達が村に入ってから数時間が経過し、昼時も過ぎた頃、その影は姿を現した。 刀や鎧で身を固めた男達が五人と、その後ろで巨大な籠を積んだ荷車を引いている男が三人。 得物が目立つからという理由で、山賊が現れると予想されていた街道に近い家の中で待機していた竜哉は、街道を堂々と進んでくるその仰々しい一団を見つけるとすぐさま村人達に伝達頼んで仲間達に敵襲を知らせた。 竜哉からの報告を受けた開拓者達はすぐには動かず、あくまで村人のふりをしたまま、それぞれの役割を果たし続けた。 山賊達は開拓者が潜んでいるとも知らずに堂々と村に近づいていき、見回りなどをしている村人達を見て滑稽だと笑っていた。 しかし、その笑いは彼らが村の領域に足を踏み入れた途端に消えた。 先ほどまでこちらを警戒してうろうろしていたはずの村人達の姿が消え、代わりに神鷹と日向が放った矢が彼らの足下に降り注いで出迎えたからだ。 「あいつら用心棒を呼びやがったな! 狼共を放て!」 山賊達の頭領と思われる厳つい髭面の男が叫ぶと、荷車を引いていた男達は二台の荷車に積まれた巨大な籠を開け放った。 籠の中から飛び出してきた無数の狼は、距離を置いて弓を構えている二人の方へ一目散に駆けだした。 「おおっと! ここは通さんでござるよ!」 「私達が相手です!」 家屋の影からすかさず狼達の前に飛び出したのは、紅蓮丸と純之江だった。 突如飛び出してきた二人に狼は注意を引かれ、じりじりとその周囲を取り囲むように迫ってきた。 紅蓮丸達は思惑通りといった表情で、そのまま狼達を引き付けつつ移動した。 「さぁて無粋な山賊さん方‥‥」 狼の群が紅蓮丸達に引き付けられ移動を始めると、その後を追おうとする山賊達の前に、今度は楓と竜哉が姿を現した。 両者とも戦闘態勢をとり、山賊達にその矛先を向けている。 「皆様、お気をつけて」 竜哉達と楓の後方に姿を現したこうめの神楽舞・攻を背に受け、仲間達の気合も十分といった様子だった。 「あんたらは俺らが相手してやる。覚悟しな」 挑発的な言葉を投げかけられ、山賊達は怒りを露にして得物を手にし、真っ向から二人に向かってきた。 「他人から奪うのではなく、自分の力で糧を得ることを考えろ!」 矢をつがえて待機していた日向が間髪入れずに矢を放ち、山賊達の足元を射抜いて山賊達の前進を妨げ、入れ替わるように竜哉と楓は斧と符を手に山賊達に向かって駆け出した。 「皆さん、頑張って‥‥」 その様子を小さな小屋の小窓から見守りながら、実枝は一緒に身を隠している村人達と共に、開拓者達の戦いが無事に終わりを迎えられるよう、じっと祈っていた。 ●火にご用心 狼を引き連れた紅蓮丸と純之江は、狼達の後方で山賊と仲間達との戦闘が始まったのを確認すると、狼達がそちらに引き返すより早く攻撃に転じた。 二人の攻撃の意思を察したのか、狼達も一斉に二人へ向けて突進した。 紅蓮丸は怯まずそれに真っ向から向かっていき、狼の攻撃を素早くかわしながら群の中央へ躍り出た。 「こういうのはどうでござるか!? 火遁の術!」 紅蓮丸の周囲を燃え滾る火炎が包み込み、今にも飛び掛ろうとしていた狼達はそれに驚いて飛び退き、怯んだ。 炎は派手に燃え盛ったが、紅蓮丸達の周囲にはこれといって目立つ建物も無く、燃え移る心配は無かった。 皆が修繕作業や見回りを行っている間に、山賊の進入箇所や移動に掛かる時間、誘導のしやすさや地形の問題などを考慮して、紅蓮丸が調べだした場所だった。 「はぁ!」 純之江も狼の群に薙刀を振り回しながら接近し、紅蓮丸と同じように、炎魂縛武を用いて狼を翻弄した。 それでも向かってくる狼を一匹叩き伏せ、目の前の狼達に向けて一喝した。 「何匹で来ようと同じです、怪我をしたい者からかかって来なさいっ!」 「どれ、私も‥‥」 炎が舞い踊る中、合流した橘が力の歪みを用いて狼の撃退に加わった。 出来る限り距離を置いての後方支援だったが、時折接近してくる狼には火種で熾した火の玉で混乱を誘い、やりすごした。 紅蓮丸の火遁、純之江の炎魂縛武、橘の火種も、それぞれ威力の強弱はあれど、一介のケモノにすぎない狼を怯ませるのには十分な効果を発揮していた。 途中、狼達を追ってきた山賊が二人ほど迫ってくる場面があったが、 「邪魔はさせない!」 彼らの接近は後方で待機していた神鷹が鷹の目と即射の合わせ技で放った矢により阻まれた。 二人組の盗賊は慌てて回避し、物陰に身を隠した。狼の群がいるせいもあって、遠く離れた場所にいる神鷹への接近は容易ではなかったからだ。 物陰に隠れたまま身動きがとれず、二人の山賊は炎に怯えて次々に逃げ出していく狼達を見送る事しか出来なかった。 「ふふふ‥‥」 やがて、どうしたものかと蹲り頭を抱えている二人の山賊の下に、二本の影が堕ちた。 「後はあなた達だけです」 それは、不適な笑みを浮かべる紅蓮丸と、キリリとした目つきで見下ろす純之江のものだった。 山賊二人の悲しい叫びは、逃げ出した狼達の背には届かなかった。 ●大捕り物 「そらよっと!」 一方、村の入り口付近で山賊との戦いを繰り広げていた竜哉達の戦いも終わりが見え始めていた。 山賊達の戦闘意欲を削ぐことに重点を置いた竜哉の攻撃は、相手の手にする武器に狙いを定められており、本気で打ち倒しにかかっているわけでは無かったが、それでも山賊達の攻撃に引けを取る事は無かった。 バトルアックスによる強烈な一撃は、山賊達の刀や槍を圧し折り、恐れおののいた山賊達は口元を歪めながら後ずさった。 「おや、どこへ行くのですか?」 戦闘力を奪われた山賊は皆次々に楓の呪縛符で動きを封じられ、その効力が消えぬ内にこうめの手によって拘束されていった。 楓が山賊に呪縛符をかけている隙を突いて、刀を手にした山賊が楓の背後に迫ったが、その刃が彼を襲う寸前のところで、日向の放った矢が山賊の足元を射抜いて防いだ。 「申し訳ありません、お手間をおかけしました」 「いえ、間に合って良かった」 二人が頷き合っている後ろで、先ほどの山賊が竜哉に武器を破壊され、情け無い悲鳴を上げながら逃げ出そうとしていたが、それを見逃さなかった楓は振り向きながら呪縛符を放ち、すかさず動きを封じた。 「大人しくしていて下さい、不要な乱暴はしたくないんです」 体の自由を失って倒れた山賊にこうめは荒縄を手に近づき、その目をしっかり見て抵抗をしないよう訴えた。 山賊は渋い表情を浮かべながらも、大人しく拘束を受けた。 「お前で最後だ。性悪山賊さん」 そして、竜哉のバトルアックスで武器を破壊された者、楓の砕魂符によって精神攻撃を受けた者、日向の矢で手の自由を奪われた者と、誘導されていかなかった数匹の狼を含めた山賊達は開拓者達それぞれの手法によって次々と倒され、最後の一人になった山賊は竜哉に正面からバトルアックスの矛先を突きつけられ、背後に立つ楓と日向に退路も絶たれ、万事休すの状況となっていた。 「く‥‥わかった、降参だ」 最後の山賊は深く頭を垂れ、武器を手放すとその場に膝を折った。 それは、二人の山賊を両肩に担いだ紅蓮丸と純之江達が、意気揚々と戻ってくるのと同じタイミングだった。 「良いタイミングでござるな。これで全員でござるね」 紅蓮丸は担いでいた二人の山賊を下ろし、他の山賊達と同じように縛り上げた。 「狼達はどうなった?」 竜哉が問うと、橘が服についた土埃を払いながら答えた。 「皆逃げていったようですよ。炎を恐れて四方八方へ。脆い繋がりだったようですね」 「そうか。人に慣れた動物が、また野生でやってけるかどうか‥‥」 溜息混じりに言う竜哉に、今度はこうめが間に入って言った。 「この人達に対する依存はまだほとんど無かったみたいですし、大丈夫だと信じたいです」 不安と笑顔の混じった表情だったが、必死に訴えるこうめを見て、竜哉も納得しているのかしていないのかは分からなかったが、肯定して頷いた。 「うわああ! 皆さんすごいです! かっこよかったです!」 突然村中に響き渡った声に、開拓者達は驚いて声のした方を振り返った。 戦闘が終了したのを知った実枝が身を隠していた小屋から飛び出してきたのだ。 それに続き、他の村人達も徐々に外へ姿を現し、開拓者達の周囲を取り囲んだ。 皆口々に礼を言い、涙を流す者すらいた。 「さぁて、では、山賊さん達」 村人達の歓声を背に受けながら、楓は意地悪そうな表情で山賊達に詰め寄った。 「この人達から奪った食料、返してもらいましょうか」 その背後に立つ実枝が続け、周囲の開拓者達、村人達は一様に同調して頷き、厳しい視線を一斉に浴びせた。 山賊達は大人しく隠れ家の場所を告げ、こうめの神風恩寵で出血を伴う怪我をしている者は軽く手当てを受けた上で、薄暗い小屋の中へと放り込まれた。 ●嵐過ぎ去って 日もすっかり落ちた頃、村は昼間よりもずっと盛大に賑わっていた。 村の中央に位置する広場では、村を救った開拓者達との食事会が執り行われている。 大勢の人々が、満天の星空の下で料理の腕を振るい、こうめや橘もそれを手伝っていた。 村で一番巨大な鍋が、これまた大きな焚き火の上に乗せられ、その鍋の中では、村で採れた(山賊から取り返した)野菜を使ったこの村の名物、恵みの味噌汁が、ぐつぐつと音を立てて煮えていた。 「これは美味い。噂に広まるというだけのことはある」 お椀に分けられたそれを一口飲んだ日向はその旨みに思わず声を上げた。 他の開拓者達も皆それぞれの言葉で、味噌汁の味を評した。 「この味を桔梗でもお出しできるようになると良いのですが‥‥」 料理が一段落したこうめも仲間達と一緒に腰を下ろし、味噌汁を味わった。 隣に座る神鷹と共に、自身の経営している宿のことなどを話し、団欒を楽しんでいる。 「おや? 何だかあたたかぁい雰囲気ですねぇ? お味噌汁以外でも温まっているようで」 そこへ音も無く近寄ってきた楓が首を突っ込み、満面の笑顔で二人の間に割って入った。 「な、何を言っているんだ楓さん‥‥どういう意味か分かりかねるが」 神鷹は頬を赤らめて楓に反発し、こうめも何も言わずに恥ずかしげに頬を染めていた。 「いやはや、皆楽しそうで何よりでござるな」 「味噌汁も美味いし、言う事は無いな」 そんな微笑ましい様子を眺めながら、紅蓮丸と竜哉も何杯目かの味噌汁を口に運んでいた。 身も心も温まり、まさにホクホクといった様子だった。 「ほんとですね。この味を守れて良かったです」 純之江もまた、味噌汁を美味しそうに飲み干し、新たにおかわりを貰い受けながら笑顔で言った。 大量に作られた味噌汁はそれでもまだ無くなりそうにはなく、皆の食す勢いは、それだけの量を残さず食べきれると確信できるほどだった。 「皆さんよく食べますねえ‥‥お腹壊さないで下さいよ」 比較的小食の橘は早々にお椀と箸を片付けてしまったが、その後も談笑の輪に入り、今日の出来事や、これまでのことなど、様々な話を村人や他の開拓者達と交えた。 「うぅ〜ん、最高! 遥々歩いてきた甲斐があったというもの! 食べられて本当に良かった〜!」 立ち上がって踊りだす程に喜ぶ実枝の姿に、開拓者達も村人達も、皆つられて笑顔を見せた。 そして、彼女の笑い声が山々に響くように、楽しい一時は静かに終わりを迎える。 開拓者達は村を離れ、山賊達も、役人達によって連れられて行った。 そして実枝もまた、大勢の村人達に見送られらながら、村を後にした。 村が襲われたという事実は悲しい事だったが、無事に山賊達も捕らえられ、皆で味噌汁を味わう事が出来た。それが実枝は嬉しくてしょうがなかった。 「さ、次はどこに行こうかな」 秋晴れの青空を見上げ、実枝はまだ見ぬ新たな世界への期待を膨らませながら、実枝はまた新たな一歩を踏み出していった。 |