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■オープニング本文 ●憧れの・・・・ 武天のとある農村。その一角に門を構える農家の広間には、その日大勢の人々が集まっていた。 「え〜、では次の議題。毎年恒例の収穫祭についてですが、今年は例年よりも大々的に、かつ目新しい事をやりたいという要望が多数寄せられています。この件について、お集まりの皆様のご意見をお伺いしたく思います。どなたか、妙案はございませんか?」 初老の男性が、輪になって座っている他の人々に向けて読み上げるように言った。 この村で定期的に行われている寄り合いの、本日もっとも重要な議題が出たことで、眠たそうにしていた者達もそうでない者達も皆、一斉に考えを巡らせ始めた。 議題に出ている収穫祭とは、この農村を代表する一大行事であり、他の町村との交流も兼ねているとても重要なお祭りである。 とは言っても、村民やその他の参加者がここ数年の祭りの内容にマンネリさを感じていたことも事実であった。故に今回は例年よりも少し早く話し合いの場が設けられ、集まった人々も皆いつもよりも真剣な目つきで、あーでもないこーでもないと頭を捻っているのだった。 「有名な花火師に頼んで、特注品をこしらえて貰うってのは・・・・」 「子供達が遊べる遊具を作りましょう」 「俺の知り合いにジルベリアとの貿易をやってる奴がいるんだが、そいつに頼んでジルベリアの物産店とか出来ないかなぁ、なんて」 「それは流石にうちの村の収穫祭に合わないんじゃないか」 没になったもの、採用されたもの、保留になったものなど様々な意見が広間を飛び交い、少しずつ話し合いは進展していった。 そうして案も出尽くし、話し合いも収束へと向かっていたまさにその時、騒々しい足音がもの凄い勢いで広間に迫り、襖を思い切り開け放って、その足音の主は集まっていた大人達の前に颯爽と躍り出た。 「開拓者に会いたい!」 まだ年端もいかない少年が発した突然の言葉に、一同は驚いてすぐに言葉を返せなかった。 「こら冬助! 寄り合いの最中だぞ、静かにしなさい」 冬助と呼ばれた少年は、大人達の輪の中にいた父親の叱りを受けても、まったく反省する素振りも見せずに言葉を続けた。 「開拓者に会いたいんだよ! 収穫祭に呼んでくれよ!」 広間の中央まで進み出て、先ほどよりも必死に頼み込む冬助を、大人達は流石に無視は出来なかった。 「一体どうしてそんなに会いたいんだい」 大人達の内の誰かがそう問うと、冬助は迷い無くはっきりと言い切った。 「かっこいいだろ!」 そのあまりの潔さに、大人達はまたしばらく言葉を失った。 やがて冬助の父は呆れと恥ずかしさの混じった表情を浮かべながら立ち上がり、冬助を一先ずその場に座らせ、真正面に腰を下ろした。 「いい加減にしなさい、お前一人のそんな理由で、開拓者なんて呼べるわけ無いだろう」 真っ向から叱られていても、冬助は自分を叱り付ける父親の目をしっかりと力の篭った目で見据え、再び声を張り上げた。 「俺だけじゃないんだよ! 菊ちゃんも三吉も、皆会いたいって言ってるんだ!」 冬助の言葉は、周囲の大人たちを妙に納得させてしまった。 最近、村の子供達が方々から届く開拓者達の活躍を聞いては、一日中その事ばかりを話していたり、ごっこ遊びをしていたりといった様子を、大人たちもよく見ていたからだ。 このご時世において、珍しくアヤカシの襲撃などに縁が無い生活を送っていたこの村の子供達にとって、開拓者は未知の存在であり、非常に魅力的な憧れの対象となっていたのだ。 「うぅむ、しかしなぁ‥‥」 それでも催し物として開拓者を呼ぶということに抵抗感のある大人達は、中々首を縦に振れずにいた。 子供達の気持ちは分からなくは無いのだが、それだけでは決められないのが大人というものだった。 「いいじゃないか、やってやろうぜ」 場を支配していた沈黙を破ったのは、今まで輪の外に居て一言も発さずにいた大男、幸太郎だった。 ゆっくりと立ち上がり、周囲の人間をぐるりと見回しながら、企みの篭った笑顔を口元に浮かべている。 「開拓者ってよ、案外小さな事や些細な問題でも快く引き受けてくれるって話だぜ。まぁそれも人によるかもしれんが、とりあえず頼んでみるだけ頼んでみればいいんじゃないか? 冬助の坊主がこんなに頼んでんだしよ。たまには子供達の我侭に答えてやるのもいいんじゃないか?」 幸太郎は村でも有名な自信家で、過去に村が問題に直面した際にも、彼の決断と行動力によって解決まで運んだ事が多々あった。 そんな心強い助っ人の登場に、冬助の硬く結んでいた表情が僅かに綻んだ。 「幸太郎おじちゃんの言う通りだよ! 何事も挑戦だよ! なっ!」 冬助もここぞとばかりに言葉を続け、黙りこくっている大人達に訴えかけた。 そうしてしばらくの間、冬助と幸太郎による説得が続き、やがて大人達の中にも幸太郎と同じように賛同するものが現れ始め、徐々に皆の意思が一つに纏まっていった。 「‥‥よし、分かった。その案に乗ろう」 最後に冬助の父が首を縦に振り、話し合いはようやく終結した。 冬助は飛び上がって喜び、反対の末に承諾してくれた父と、それを後押ししてくれた幸太郎に目一杯の笑顔で礼を言うと、友達に教えに行くと言い残して、駆け込んできたときのような勢いで広間を飛び出していった。 そんな我が子の姿を溜息混じりに見送りつつも、冬助の父は決して悪い気はしていなかった。 その隣に腰を下ろし、これもまた子供のような笑顔を浮かべた幸太郎が、ゴツゴツした大きな手を冬助の父に向けて差し出した。 「いい祭りになるよう、頑張りましょうや。坊主達のためにもね」 一瞬ためらいつつも、冬助の父はその手を握り返し、不器用な笑顔を浮かべた。 自分もいつか、目の前の大男や、我侭で騒々しい我が子のような、素直な笑顔を表に出せるようになりたいと、そう思いながら。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
千王寺 焔(ia1839)
17歳・男・志
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
羽貫・周(ia5320)
37歳・女・弓
名も無き通りすがり(ia5402)
28歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●祭りの始まり その日は雲一つ無い晴天で、まさに祭り日和の陽気だった。 村の中心にある広場には、今日この場で開かれている収穫祭に参加する大勢の人々が集まっている。 そんな広場の中心部に作られた舞台の上に、本日もっとも人々が注目している者達が姿を現した。 誰かがその登場に気付いて周囲に知らせると、大勢の人が舞台の回りに押し寄せた。 「えー、皆様もうご存知かと思いますが、本日はこの収穫祭に特別なお客様がいらっしゃっております。子供達の強い要望に答え、遥々やって来てくださいました、開拓者の皆さんです。では、自己紹介など、お願いできますでしょうか」 代表者の紹介を受け、まずは千王寺焔(ia1839)が自己紹介を始めた。 「千王寺焔という。得物は主に刀を使っているが、弓や槍なども状況に合わせて使用している。えっと、あまり人前で話すのは得意ではないのだが‥‥今日は楽しい一日を皆と一緒に過ごせればと思う」 ぎこちない笑顔を浮かべながら締めると、続いて水鏡絵梨乃(ia0191)、犬神・彼方(ia0218)、出水真由良(ia0990)、水津(ia2177)、星風珠光(ia2391)、羽貫・周(ia5320)、名も無き通りすがり(ia5402)(ソロコルッカ)の自己紹介が行われ、いよいよ開拓者達はそれぞれが企画していた催し物の準備に取りかかった。 「すげぇなぁ、本物だぁ・・・・」 彼らが姿を現してから、ずっとその姿を見つめ続けていた冬助は、今日はとても楽しい一日になるだろうと予感して、期待と憧れの籠もった瞳を眩しいほどに輝かせていた。 ●奇妙な弓術師 まず最初に執り行われたのは、周とソロコルッカによる流鏑馬だった。 大人も子供も、幅広い年齢層の見物客が固唾を飲んで見守る中、二人の弓術師は村から借りた馬に騎乗し、準備を整えていた。 「では、私からいかせてもらおう」 先発を名乗り出た周は馬を配置につけ、合図に合わせて颯爽と馬を走らせた。 徐々に近くなる的をしっかりと見据え、弓から解き放たれた矢はまっすぐ的へ向けて飛び、鷲の目と騎射の力によってその中心を鮮やかに射抜いた。 周囲に歓声が沸き起こり、周はそれに応えながら元居た場所へ戻った。 「参りましょう」 続いて後発のソコロルッカが、ジルベリア風の喪服という大凡弓術師らしからぬ出で立ちで馬に跨り、その奇妙な光景にざわめく観客を後目に馬を走らせた。 周の時と同じ位置に設置し直された的へ向けて狙いを定め、引き絞った弓を解き放った。周と同じく鷲の目の力を持って放たれた矢はしっかりと的の中心を射抜いており、再び沸き上がった歓声を背に受けながら、ソロコルッカは周の元まで戻ってきた。 「なかなかのお手前、流石ですね」 周は一仕事終えて帰ってきたソロコルッカを拍手で迎え入れ、それを見たソロコルッカは微かな笑みを浮かべながら、周の馬の隣で馬を降りた。 「いえいえ、周さんの技量にはかないません」 表情の読めないソロコルッカの謙遜なのかそうでないのかよく分からない言葉に周が肩をすくめていると、先ほどの流鏑馬を見て興味を持った子供達が二人の元へ寄ってきた。 ソロコルッカは自分の弓を集まってきた子供達に触らせ、使い方や注意点などを細かく丁寧に説明し始めた。 「怪我をさせる為の道具だということを忘れないでください。これを人に向けるようなことだけは、絶対に起きてはいけません」 その様子を見て、この場はソロコルッカに任せて大丈夫だと思った周は、ソロコルッカの微かな笑い声をその背に受けながら、次なる催しの手伝いへと向かった。 ●知恵と勇気の開拓者 流鏑馬が行われている間に、広場の一角では別の会場の準備が整えられていた。焔と珠光、彼方と絵梨乃による、二対二の模擬戦が行われるのだ。 大勢の人々が、対峙する四人の開拓者を見守っている。 「では、これより開拓者同士による、二対二の模擬戦を始めます。お互いに、礼」 流鏑馬を終えて合流した周が審判役となり、彼女の進行で試合前の礼が終わると、両組共、各々の構えをとって試合開始の合図に備えた。 「‥‥始め!」 静寂を切り裂く鋭い号令を受け、四人の開拓者は一斉に動き出した。 まず先手を打ったのは絵梨乃と彼方だった。絵梨乃は泰拳士らしい素早い動きで相手の前衛である焔に接近し、彼方は六尺棍でそれを援護する。対する焔も炎魂縛武を使用して刀に炎を纏わせて迎え撃った。 炎魂縛武の派手さと絵梨乃らの異常な速さに、観客は一斉に沸いた。 焔が二人の攻撃を刀で払いのけながら後方に下がり距離を取ると、タイミングを見計らっていた珠光が式を放った。 「我が式よ‥‥焔を纏いし岩となりて敵を撃ちなさい」 嘲笑したような表情をした顔面岩が炎を纏って落下し、標的となった二人は左右に跳んでそれを寸でのところで回避し、振動に足を取られつつも再び焔に迫った。 「く、力押しか‥‥珠光のところへは行かせない!」 対する焔は式を使用した隙をつかれて珠光が攻撃を受けぬようにと防戦の構えを見せ、酔拳による不規則な絵梨乃の連続攻撃を受け流し続けていた。 だが焔が絵梨乃の攻撃を回避し、雁金による反撃を命中させた瞬間、彼方の呪縛符が焔の動きを封じ、武器を霊青打で叩き落とした。 続けざまに突き出された六尺棍の攻撃を間一髪のところで回避することに成功した焔だったが、そのせいで落としてしまった刀との距離が開いてしまった。 「いったた‥‥でも作戦通り、後はお任せ!」 ダメージに怯んでいた絵梨乃だったが、すぐさま体勢を立て直すと、焔の相手を彼方に任せて珠光の方へ急接近を仕掛けた。 「焔君!」 焔の援護に回ろうとしていた珠光は、急接近してきた絵梨乃に慌てて風魔手裏剣で反撃したが、絵梨乃の酔拳による不規則な動きに惑わされ命中せず、珠光の懐に飛び込んだ絵梨乃は泰練気法・壱を使用して正確に狙いを定め、珠光の足元を払った。 「っ! 珠光!」 それに気を取られたのが、焔の決定的な敗因となってしまった。 彼方の六尺棍が焔の喉元を捕らえ、珠光もまた仰向けに倒されたまま、絵梨乃に牽制されて動けずにいる。 「勝負あり! 犬神、水鏡組の勝利!」 周の判定により、模擬戦は彼方と絵梨乃の勝利で幕を閉じた。 観客は今までで一番大きな歓声を上げ、四人の開拓者に盛大な拍手を送った。 「星風さん、水鏡さん、大丈夫ですか‥‥? 念のため診させてください」 緊急時の治療係として待機していた水津が、負傷している可能性のある二人に駆け寄って心配そうに声をかけた。 二人とも怪我を負っているわけではなかったが、痛みが無いというわけでも無いので、好意に甘えて手当てを受けた。 「よし、じゃあ次は各々の出し物、お遊びの時間だぁな」 水津の手当てが終わると、彼方の言葉をきっかけに、開拓者達は集まっていた観客を誘って、それぞれが思案してきた催しを行った。 彼方と珠光は術の披露を行う事になっており、彼方はソロコルッカに協力して貰い、呪縛符の実演を。珠光は危険性を考慮して模擬戦では使用しなかった火炎獣の式を披露した。 「召還! 紅き焔を纏いし九尾よ‥‥我が前に姿を現しなさい」 九尾の狐の如き火炎獣の派手さ、呪縛符の生々しさ、どちらも観客には大変好評で、模擬戦終了直後で若干の疲労を感じていた二人だったが、そんなものはどこへやら、楽しげな笑みを浮べながら人々と言葉を交えていた。 焔は持参した竹刀を子供達に配り、チャンバラ遊びをしながら剣技の基本を指導した。これには模擬戦を見て興奮した冬助がそのままの調子で参加し、暴れすぎて怪我をしてしまい、水津の手当てを受けていた。 「よしッ! ボクを一番最初に捕まえた子には、この鉄甲をプレゼントするぞ」 広場を出たところでは、絵梨乃と子供達の鬼ごっこが行われていた。鬼役となった絵梨乃は当然手加減をして走っていたのだが、それでも子供達にとってはとても速く、競争心を焚き付けられた子供達は必死になって追いかけ、最後は絵梨乃がわざと転んで隙を作り、村で一番足が速いと有名な少年に捕まった。 少年は絵梨乃から賞品にと渡された手甲を、周囲の子供や大人にまで自慢して回っていた。 絵梨乃がその様子を満足げに見届けていると、突然自分が背にしていた家屋から悲鳴が聞こえてきた。驚いて振り返ると、そこには真由良の用意したお化け屋敷が佇んでいた。 ●式屋敷? 真由良のお化け屋敷は、誰も住んでいない古屋を借りて使用しており、その演出の全てを式で行っている。 可愛らしい動物型の式を人魂で登場させて案内役とし、怯えるお客を薄暗い屋敷の奥へ奥へと連れて行く。そして突然障子の向こうで雷閃を使用し驚かせると、案内役の式は姿を消し、お客をより怯えさせたところで大龍符によるトドメ。最後にもう一度案内役の式を出し、真由良本人と一緒に出口へご案内、といったものだった。 錬力の都合上、一度しか行う事が出来なかったが、それでもお客の反応は上々で、皆ガタガタと体を震わせながら屋敷を出てきた。 恐怖のあまり泣き出してしまう子供も当然いたが、そういった子達は小さな可愛らしい式を用いて慰めてあげていた。 「さてと、お片づけが済んだら‥‥お食事の用意でもお手伝いしに行きましょうか」 演出を終え、真由良がお化け屋敷を後にすると、広場から出てきた珠光と合流してた。珠光の目的もまた、真由良と同じだった。 「楽しみですか? 焔様の感想」 道中、真由良にそんな事を言われ、珠光は顔を真っ赤にして俯いてしまった。 真由良はそんな珠光を見て笑みをこぼしながら、食事の用意をしている人々の元へと向かった。 ●静かなひと時 再び広場にて。一頻り遊び終えた開拓者と子供達は、広場の思い思いの場所に腰を下ろし、それぞれ色々な話に興じていた。 「‥‥おばあさんは言いました、それは山に住む精霊の仕業です、絶対に手を出してはいけません、と」 水津は持参した本を子供達に読み聞かせていた。内容は天儀に伝わる昔話で、時折火種や力の歪みなどを用いた演出を織り交ぜて、子供達を楽しませた。 小さな火の玉と捻じ曲げられた空間による一風変わった演出に、気がつけば大人達も見入っていた。 「私は恐れているわけにはいかなかった。目の前に迫るアヤカシに向けて弓を構え‥‥」 一方、水津らから少し離れた場所では、周が自身の体験談を語って聞かせていた。 水津の読み聞かせと違い、こちらは非常に緊迫感溢れる雰囲気となっており、子供達も緊張に体を強張らせながらじっと話を聞いていた。 チャンバラ遊びを終えた焔もまた、冬助を含む子供達に囲まれながら、体験談や思い出話などを聞かせていた。 そんなこんなで時間が過ぎ、日もほとんど落ちた頃。夕食の準備をしていた村の人々と、それを手伝っていた珠光、真由良が、食欲をそそる匂いを伴って広場にやってきた。 待ちに待った晩餐会の時間が来たと、子供達は大はしゃぎで旬の食材を用いた料理に群がっていった。開拓者達もそれに続いて集まり始め、焔もまた子供達と共にそちらへ向かった。 「ねぇ、焔兄ちゃんの話しに出てきた恋人ってもしかして・・・・」 焔の隣を歩いていた冬助が、集まった人々に料理を配っている珠光を見ながら何気なく聞くと、焔はぎくっと肩を竦め、恥ずかしそうに首を縦に振った。 紅潮した焔を見た冬助は、ほんとに炎みたい、と言いながら声を上げて笑い、その笑い声は夕日で赤く染まった広場に響き渡り、それを聞いた大勢の人々の表情もまた、笑顔に染まっていった。 ●星空を見上げながら 晩餐会は祭りの最後を飾るふさわしいと言えるほどの盛り上がりを見せた。 村中の人々が一堂に会し、大人も子供も老人も、そして開拓者も皆一緒になって食べ、食べさせ(主に焔と珠光が)、飲み、話した。 今日一日のあらゆる出来事を振り返り、そしてこれからの事を考えながら、満天の星空を眺める。 用意して貰った宿で一晩を過ごし、新たな日の光が村を照らす頃には、この村を離れなければならない。それがとても寂しい気がして、だからこそ、開拓者達は今の時間を一秒も無駄にしないようにと、時間の許す限り楽しんだ。 「ただいま〜、いい湯だったよ〜」 一足先に入浴を済ませてきた絵梨乃と子供達は湯冷めも恐れず再び広場に戻ってきて、ご満悦の様子で仲間達の輪に加わったが、 「そろそろ子供達は眠らなければいけない時間ですね・・・・晩餐会もお祭りもそろそろ終わりのようですし、私たちも戻りましょうか」 戻ってきたばかりの絵梨乃以外、水津の考えに反対する者はおらず、皆ゆっくりと腰を上げると、まだ遊んでいたいと騒ぐ子供達を宥めながら、親達と一緒に家まで送って回った。 最後に冬助の家に寄り、開拓者達も宿に向かおうとしたが、冬助の父が彼らを呼び止めると、突然深々と頭を下げた。 「近頃何かと不満げな顔をしていた息子が、こんなにも楽しそうにしていたのは久しぶりです。私は、年頃の息子が色々な物に興味を持つ事を、心のどこかで否定していました。いつか、何かとんでもないことをしてしまうのではないかと‥‥そう思って、望みを聞いてやることをほとんどしてこなかった。今日の息子の笑顔を見て分かりました、子供は縛り付けるものではない、開放して、色々なものを見せてやらねばなりません。それに気付くきっかけを作ってくださって、本当にありがとうございました」 言葉を締めた後も頭を下げたままの父親に、開拓者達を代表して周が静かに声をかけた。 「頭を上げてください。私達も、今日は羽目をはずして楽しく過ごす事が出来ました。お父さんにも、村の皆さんにも、冬助君達にも、とても感謝しています。こちらこそ、ありがとうございました」 父親はゆっくりと頭を上げ、後ろでじっと見守っていた息子の方へ振り返った。冬助は何を言うでもなく、笑顔を浮かべて頷いた。そして父親の手を取って隣に立ち、今度は開拓者達に満面の笑顔を向けた。 「明日の朝、見送りに行くから。今日は遊んでくれてありがとう!」 その言葉に、同じく笑顔を浮かべて答えると、開拓者達は宿へと向かった。 翌朝、水津による無病息災の祈りを終えると、開拓者達は村を離れた。大勢の人々に見送られ、礼を言われ、後ろ髪を引かれる思いだったが、彼らは行かねばならなかった。彼らの力を求めている場所どこかにある限り、彼らは歩み、戦い続ける。 いつか戦い疲れた時、安息を求めてまたこの村にやってくることもあるかも知れない。その時まで、否、これから先もずっと、この村が平和であるようにと願いながら、彼らはまた、歩いていく。 |