実枝の旅〜大工仕事〜
マスター名:野田銀次
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/27 20:44



■オープニング本文

●老朽化ってレベルじゃない
 私の名前は流実枝。
 風の向くまま気の向くまま、天儀のあちこちを旅して回る流浪の旅人。
 と書けば格好も付くけれど、実際のところは、あっちへ行けばてんやわんや、こっちへ行けばしっちゃかめっちゃかなトラブルに巻き込まれ、時には引き起こしながら方々を歩き回っている根無し草。
 そんな生活を続けるには、当然お金が必要。私も、行く先々で何かしら仕事を見つけては必要な分のお金を稼ぎ、何とか今まで生活してきました。
 今も、何の気なしに足を運んだ武天のとある町で、お茶屋さんの手伝いをして旅の資金を稼いでいる真っ最中。今日でお仕事を始めて丁度一週間になりますが、店主のおじさんも常連のお客さん達も皆いい人ばかりで、すごく充実した毎日を送っています。
 しかし、早々気の安らぐ事ばかりではないのが私の旅路。平和で穏やかな一週間が過ぎようとしていたこの日、それは起きました。
「‥‥え?」
 材料の買出しから帰った私は我が目を疑いました。目をカッと見開いて、何度も瞬きをして、二度目をこすってから見直し、その後一分ほど瞼を閉じて目を休めてからもう一度見直しました。それでも、目の前の状況は変わる事はありませんでした。
「え‥‥えぇ〜〜〜!?」
 お店があるはずの場所には、積み重なった瓦礫の山と、それを呆然と見つめている店主のおじさんの姿がありました。
 一体何があったのか、私には想像も出来ませんでした。確かにお店は決して丈夫とは言い難い古びた建物でしたが、こうも突然ぺしゃんこになるなんてことはあり得ないはず。そのあり得ないをあり得る事にしてしまった原因が何なのか、私はおじさんが返事を出来る状態なのか不安になりつつも問いかけました。
「居間で足滑らせて転んだら、こう‥‥グシャ〜っと」
 よくおじさんは無傷で逃げられたもんです。
 私も一週間よく生きてこられたなと心底思います。
 転んだ衝撃で崩れるとか、それってつまりいつ崩れてもおかしくない状態だったってことじゃないですか。今日までの一週間を思い返してぞっとしている私がいます。
「どうしましょう‥‥これじゃあお店開けないですよ」
「どうしようかねぇ‥‥」
 お店はおじさんの自宅でもあるというのに、割と呑気です。いや、持ち出していた饅頭を齧りながら喋っているのは呑気すぎです、おじさん。
 おじさんの雰囲気に呑まれて私まで呑気になりそうなのを何とか振り切り、この状況を変える手っ取り早い手段を考えようと、私は思案を巡らせました。このままではおじさんも生活が出来ないし、私もお仕事が出来ません。少しでも早くお店を復活させなければいけないのですが、この町は決して大きいとは言えず、大工さんの人数も限られています。とても一日二日で建て直しは出来ません。余所から人を呼んだとしても、移動時間がかさむだけで、結局のところ同じでしょう。
 短時間で呼ぶ事が出来て、短時間で仕上げてくれる人が必要。となれば、私が連想するのは唯一つ。その人達に大工さんの手伝いをしてもらえれば‥‥。
「おじさん、お店の予算、幾らまでなら出せますか?」
「イクラよりは筋子の方が好きだねぇ」
 相変わらず呑気というかどこか抜けているおじさんを尻目に、私は一路、開拓者ギルドへと走り出しました。
 いっつもいっつも頼ってばかりでごめんなさいと、心の中で思いながらも、いっつもいっつも頼りがいのある開拓者の皆様に、また力を貸してもらえる事を楽しみにしながら、お給料分しっかりと、全力で走る私でした。


■参加者一覧
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
明王院 浄炎(ib0347
45歳・男・泰
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
白藤(ib2527
22歳・女・弓
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
藤吉 湊(ib4741
16歳・女・弓


■リプレイ本文

●汗水流して
 依頼を引き受けてくれた開拓者の皆さんは、倒壊した茶屋をしばし呆れたように見つめていました。
「これはまた‥‥」
「見事な崩れっぷりだ‥‥」
 明王院浄炎(ib0347)さんと白藤(ib2527)さんが何気なく漏らした言葉が、皆さんの胸中をすっきりと代弁しているようでした。
 地震に襲われたりしたのであればまだしも、周囲の建物は何ら変わった様子は無いのに、一軒だけ見事なまでに潰れてしまっているのであれば、仕方ないでしょう。私だって未だに苦笑が漏れてしまいます。
「まぁ身体さえ無事なら後はどうにでもなる。気を落とさず待っておれ」
 いきなり出鼻を挫かれたような雰囲気でしたが、鬼島貫徹(ia0694)さんの豪快な笑い声をきっかけに、皆さんの体にも火が入ったのか、先ほどまでの空気から一変、それぞれに手順を確認し合いながら、作業に向かっていきました。皆さんの気合十分の表情に、私もついつい釣られて笑みが浮かんでしまいます。
 大工さん達も合流し、まずは皆で瓦礫の撤去から開始です。
「とりあえず、建て直す前に瓦礫の撤去が先ね」
 胡蝶(ia1199)さんと私は、力自慢の方々が廃材を運び出している傍らで、茶屋で使っていた湯飲みやらお皿やらを回収して回ります。
 ほとんど壊れてしまっていましたが、幸いにも洗えば使えそうな物も幾つか残っており、お菓子や茶葉も、無事なものは回収し、運び出しました。
 運び先は、倒壊した店の近くに広げた二、三畳程の茣蓙の上。掘り出した傘も立てて、即席の茶屋として仕立てます。当初は使える物が足りないのではないかと心配でしたが、これなら何とかなりそう。
「ほらほら帽子のお嬢さん、動きが鈍っているようじゃが?」
「アタシはっ、魔法使い‥‥なんだから! 体を動かすのは得意じゃないワケ‥‥!」
 朱鳳院龍影(ib3148)さんは女性でありながら、男性顔負けの腕っ節で瓦礫を運び出し(鬼腕、というスキルなのだそうですが、私にはよく分かりません)、その傍では鴇ノ宮風葉(ia0799)さんがもうすっかり汗だくになりながら、折れた支柱を抱えています。開拓者といえど、得意不得意があるんだなぁと、今更ながら感じる私は、そんな皆さんと一緒に仕事が出来るのが何だか妙に嬉しくて、ついつい笑みを零しながら、皆で飲むためのお茶を、そっと瓦礫の中から取り出したのでした。

●いつでもどこでも
 瓦礫を全て近くの空き地に運び込み、新しく使用する資材を茶屋の隣に建っている工場の裏手に置かせてもらうところまでで、初日の作業は終わりました。
 近くの宿屋で一晩を明かし、翌日から本格的な建設作業の始まりです。
 鴇ノ宮さんの『あまよみ』というスキルで天気を確認してもらいましたが、どうやらお空のご機嫌を心配する必要は無さそうです。
 作業開始の前に、旅商人をしていた頃に建設の知識を学んだというモハメド・アルハムディ(ib1210)さんと大工さん達が頭を寄せ合って設計図を睨みながら相談を始めました。時折、仮設茶屋までやって来ておじさんの希望を聞いたりしながら作業手順や構想を固めていきます。
 なにやら『セメント』というものを使いたいとモハメドさんは提案していたようでしたが、どうにもそれはこの町の大工さん達には用意が難しいようで、モハメドさんは少し残念そうにしていました。
 案が固まれば、ようやく作業の開始です。
「地面はしっかり整地して下さい。土台になるのですから、丁寧にお願い致しますね」
「はいは〜い、任せとき〜」
 今日が開拓者としての初仕事だという藤吉湊(ib4741)さんはとりわけ張り切っているようで、モハメドさんの指示を熱心に聞いてはてきぱきと動いています。
 それに負けじと奮闘している胡蝶さんですが、どうにもこういう事は不慣れなようで、現場の端でひたすら悪戦苦闘している様子を目にします。
「あぁ! また‥‥もう! こんな硬い木を真っ直ぐ切れってのが無理なのよ!」
 文句を言いながらも、任せられた仕事はしっかりとこなす胡蝶さんの姿を遠目に見ていると、どこからか呼ぶ声が聞こえて、私は声のするほうへと振り返りました。
「お〜い! ちょっと手を貸してよ〜!」
 声の主は、おじさんと一緒になって仮設茶屋を仕切っている鴇ノ宮さん。どうやらお客さんが立て続いているようで、人手が欲しい様子。
 あんな即席でもちゃんとお客さんが来てくれるとは、提案に乗っておいてなんですが、少しばかり驚きです。
「は〜い、今行きます〜!」
 返事をしながら小走りで、茣蓙と傘だけの茶屋に戻る私。現場に背を向けた私の背後からは、怒号のように飛び交う大工さん達の指示と、それに応える開拓者さん達の返事、そして作業に伴って響く様々な音が、まるで音楽のように折り重なって聞こえます。
「この木材は何処へ運べばいい?」
 到底常人では運びきれない丸太の山を担ぎ上げている鬼島さんの低く響く声と、木々の揺れる音。
「ふむ、これでいいだろう。頭領! 柱の寸法を確認してくれないか!」
 木材を柱へと作り変えていく明王院さんが鋸を引く音と、大工さんの頭領さんを呼ぶ声。
「朱鳳院さん、その‥‥少し隠しませんか?」
「ん? この方が動き易くていいじゃろ?」
 何故か妙に露出の多い格好で作業に臨んでいる朱鳳院さんと、それがどうも気になる様子の白藤さん。
 朱鳳院さんは鬼島さんと並んで材料運びに精を出し、白藤さんは細かい部品作りに勤しんでいる大工さんの隣でお手伝い。
 アヤカシと戦う時と変わらず、それぞれが得意とする事を見定め、自分に出来る事、やるべき事をしっかりとこなしていく開拓者さん達の姿を振り返り、横目に見ながら仮設茶屋へやって来た私の顔を見て、鴇ノ宮さんは呆れ顔で言いました。
「なぁにニヤけてんの」
 全然気付きませんでしたが、相当怪しかったそうです。

●資材とお茶と、お菓子と工具
「みなさ〜ん! お茶の用意が出来ていますよ〜!」
 日が最も高く昇る時間を過ぎた頃、大工さんの頭領さんが、大きな声で「休憩!!」と一言言い放つと、それまでどこか張り詰めていた現場の空気がコロッと変わり、大工さん達も開拓者さん達も、それまでの作業の成果を確かめながら、その場に腰を下ろしたり、現場を抜け出てきたりするのが見えました。
 私はこの時を待っていたと言わんばかりに立ち上がり、頭領さんにも負けぬ気合いを込めて、大きな声で皆さんを呼びました。
 聞きつけた皆さんが集まってきたのが嬉しくて、私はついついまたニヤけてしまっていたようです。鴇ノ宮さんにまた指摘をされてしまいました。
「おぉ〜、美味そうやなぁ。おじさん、この饅頭何が入ってるん?」
「えーっとねぇ‥‥なんだっけ」
「えぇ〜‥‥」
 藤吉さんに質問されても、おじさんは相変わらず呑気というかマイペースというか、今一何を考えているのか分からない感じです。
 でも、皆さんが作業している様子を遠巻きに見ながら、少しだけ嬉しそうな、楽しそうな表情をしているのを見た時は、おじさんの本心が見れた気がしてとても嬉しかったです。
「おいしいお茶ですね。実枝さんが淹れてくれたんですか?」
「あたしよ! あ・た・し!」
 満足げな笑顔で尋ねてきた白藤さんに、自慢げな笑顔でずいっと近づいていった鴇ノ宮さん。
 もっと褒めて欲しいと言わんばかりの主張にたじたじの白藤さんでしたが、やや後方に引きつつ、何とか笑顔を保って「お上手ですね」と返し、鴇ノ宮さんは至極満足そうに体を引っ込めました。
「いやしかし、ここまで本格的な大工仕事は初めてだが、中々に骨の折れる作業だ。まだまだ始まったばかりだがな」
 お茶を一口啜り、ホッと一息吐くと、明王院さんは確かめるようにそう呟きました。隣に腰を下ろしている鬼島さんも、同調するように頷いています。
 お二人とも屈強な男性ですが、やはり慣れない事には中々手を焼くようです。
「だが、それでこそやりがいがあるというもの。手強い相手に挑んでこその我々だろう?」
 鬼島さんが続けたその言葉に、今度は明王院さんが同意して頷き、そして対面に座っていたモハメドさんが続けます。
「まぁそう張り詰めずに、楽しみながらやりましょう」
 その一言に、皆は湯飲みや茶菓子を手にしながら頷き合い、茣蓙と傘だけの簡素な茶屋に集まった皆さんの意識は一つに纏まり、より士気を高めて、作業に戻っていきました。
 本当に、いつ見ても頼もしい姿だなぁと、私はまたニヤけそうになった口元を何とか維持しつつ、作業に戻る開拓者さん達の背を見送りました。

●少しずつ
 工事は何日にも渡って続きます。
 基礎を補強し、柱を立て、壁や床を組み上げていく。緻密で繊細な作業を何日も続ければ、肉体的にも精神的にも疲労は溜まるもの。
 でも、この工事に着手している人達は、そんじょそこらの人達とは訳が違います。
 朝から晩まで働き積めでも、疲労で効率を落としたりする事無く、正確かつ迅速に作業を進めているのです。
 負けじと奮闘している大工さん達の方が先にバテてしまうのじゃないかとさえ思うほど、開拓者さん達の仕事ぶりは素晴らしいものです。
 モハメドさんと大工さんのアイディアの出し合いも噛み合っているようですし、指示を受けて動く皆さんも、日を増すごとに仕事に慣れていき、疲れるどころかはかどる一方。
 外壁の装飾に着手した白藤さんは、モハメドさん発案の、かまぼこ板の様な長方形の板を並べて貼り付けていくという、神経も使うし時間もかかる作業を一任されているのですが、手先が器用だという白藤さんはまったく苦に感じておらず、むしろ楽しげに笑顔を浮かべながら、少しのズレも無いように一枚一枚丁寧に貼り付けています。
「は〜い、持ってきたで〜」
 そんな白藤さんの隣に立てられた梯子をひょいひょいと身軽に昇る藤吉さんは、片手一杯に工具を持って、骨組みだけの屋根に昇って作業をしている大工さんのところへ向かいます。
 足場は非常に悪いというのに、まったく臆することなく骨組みの上を歩く姿は、見ているこっちが逆にハラハラさせられます。実際には、私なんかが心配するほど危険な場面は無かったのですが。
 大工さんが軽い怪我をしてしまった事はありましたが、白藤さんと藤吉さんが用意してくれていた薬草と包帯で手早く治療してくれたので、何ら問題にはなりませんでした。抜かりないとはこの事です。
「明王院、持って来たぞ。ここに置いておくが、問題ないか?」
「あぁ、構わない。立て続けで申し訳ないが、この梁を奥で作業している大工の所へ持っていってくれないか?」
「あのハチマキの男か?」
「いや、右のヒゲの方だ」
 力仕事に精を出す鬼島さんと、大工さん顔負けの手つきで材料を切り出していく明王院さん。
 すっかり仕事に馴染んでしまった様子のお二人は、息もぴったりなようです。
 当然、それはお二人に留まる事ではありません。この場に集まった開拓者さん、そして大工さんも皆、この数日でより親交を深め、呼吸の合った作業を出来るようになったようです。
 そうした小さな変化の積み重ねも、作業の効率が上がっている要因の一つなのでしょう。
「はいは〜い、お茶の時間よ〜」
 そんな作業現場に乗り込んでいった鴇ノ宮さんの、皆さんが待ち望んでいた時間を告げる声を聞き、作業に勤しんでいた皆さんはホッと肩の力を抜いて、仮設茶屋へと集まってきました。
 作業をし、お茶を楽しみ、また作業へ向かう。この生活もすっかり板についてしまいました。
「良く知らないけど、天儀ではコレを食べないと秋を感じないのでしょ」
 いつの間にか茶屋での仕事に加わっていた胡蝶さんが用意してくれた焼き芋を皆で頬張りながら過ごす、秋の午後。
 なんでもないお茶の時間のはずなのに、なんだかとても素敵な時間に感じます。
「賑やかなのは、ええ事だのぉ」
 おじさんが何の気なしに呟いたその言葉が、今のこの幸せな一時を表現するのにぴったりだと感じ、そして、おじさんが茶屋をやっている理由でもあるのだろうと、勝手に思い込んだ私は、
「皆さん、本当に‥‥集まってくれてありがとうございます!」
 思わずそんな事を口にしてしましました。
「まだ終りじゃないじゃろ。気の早い子よのぉ」
 朱鳳院さんの言葉に続き、笑い始める皆さん。
 私は恥ずかしくもあり、そして同時に、目一杯の楽しさも感じていました。
 隣で一緒に笑っているおじさんもきっとそうだと思いながら、私も、思いっきり笑います。
 少しずつ過ぎていく時間を、少しでも楽しむために。

●素敵な時間
「できた‥‥」
 最初にそれを口にしたのは、大工さん達でも、開拓者さん達でもなく、私でした。
 ずっと仮設茶屋に居ただけで大した事をしていないのに、何故だか妙に達成感を感じている私に続き、他の皆さんも次々に、目の前にどっしりと構えている新しい茶屋を眺めながら、その完成を実感し合っています。
 誰が見ても素晴らしい建物だと感じるであろう、綺麗でお洒落な、それでいて素朴さも感じさせる、素敵なお店です。
 基礎もしっかりしていて、とても簡単に倒れたりはしなさそうです。
「皆の強力のお陰で、こんなに早く完成させる事が出来た。こいつは異例の早さだ、ありがとう」
 大工さんも大変満足のいく仕事が出来たらしく、鼻高々であると同時に、開拓者さん達への感謝の念もしっかりと見せ、一人一人と硬い握手を交わしていました。
「良かったね、おじさん! これでまたいつも通りお茶屋さんが出来るよ!」
 私も思わず嬉しくなって、傍らに立っていたおじさんの方へ向き直って声をかけると、おじさんは無言のまま、小さく頷いただけでした。
 でも、おじさんが喜んでいるのは確かです。
 リアクションが薄いのはいつもの事。目が大きく見開かれて、キラキラ輝いているのは、喜んでいる印。
 おじさんと一緒にいた時間は決して長くは無いけれど、おじさんが喜んでいる事は、確かに分かります。
「ありがとねぇ」
 そして、おじさんが小さく掻き消えそうな声で言った短いお礼の言葉は、それまで周囲に溢れていたどの話し声よりもはっきりと、皆さんの耳に届いたのでした。
 どうしてでしょう?
 それだけ、おじさんの言葉には感謝の心が詰まっていたのではないでしょうか。
 私にはそう思えます。
「では、茶屋の再建を祝して、祝いの席でも設けようではないか」
 鬼島さんの提案に乗らない人は一人もおらず、大工さん達も開拓者さん達も全員、そして町の人々も大勢招いて、祝いのお茶会は盛大に開かれました。
 ピカピカの真新しいお茶屋さんで、キラキラと輝く人達との、ワクワクの時間。
 皆で力を合わせた楽しい時間を締め括る、素敵な一時を、私は力の限り、目一杯楽しむのでした。