実枝の旅〜お祝い〜
マスター名:野田銀次
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/28 19:16



■オープニング本文

●企む妹
 静かな路地の片隅に設置されているベンチに腰掛け、流果恵(ナガレカエ)は小さく溜息を吐いた。
 ぼ〜っと青空を眺め、時たま吹き抜けるそよ風に揺れる立ち木の緑色に染まった葉を目線で追っている。
 流果恵は今、悩んでいた。
 彼女の姉であり、流浪の旅人である流実枝(ナガレミエ)が、実家のあるこの町へと久しぶりに帰宅している今、彼女にはどうしても成したい事があるのだった。
 それは、実枝が旅人として家を出てから二年が経過したのを記念して、盛大な祝賀会を開きたいという事だった。
 もう数日すれば、実枝は再び旅に出てしまう。その前に何としても、実枝に悟られずに用意をし、サプライズとして祝賀会を開き、実枝を盛大に新たな旅路へと送り出したいと、そう考えていた。
 しかし、まだまだ子供の果恵一人の力ではやれることに限りがある。
 両親の力を借りたとしても、一般家庭のお誕生日会程度にしかならないだろう。
 それ以上のことを、果恵はやりたかった。
 幸いにも、この町を上げての盛大な夏祭りが開かれる。それにかこつけて、サプライズ的に用意が出来れば、というのが今のところの最有力案である。
 祭の運営をしている人々も、割かし協力的な態度を見せてくれてはいる。
 だがまだ何かが足りない。そう果恵は考え、悩んでいる。
「‥‥やっぱり、あの手しか‥‥でもお金かかるしなぁ。お父さん達、許してくれるかなぁ」
 果恵が最後の手段として考えた案は、姉の実枝がよく起こす行動とまったく同じだった。
 しかし、果恵は『それ』をした経験が過去に一度も無く、実枝のようにあっさりと決めることは出来ずにいた。
 丸二日、そのことで悩み続けた果恵は、実枝が出発の支度を少しずつ進めるのを見て焦り、一層悩んで、悩んで、悩みを重ねた。
 そしてついに、実枝が旅立つ二日前に、果恵はいつものベンチから立ち上がり、意を決して小走りに駆け出した。
 実枝が外出している隙に家に駆け込み、必死に頭を下げて、突然の事に驚く両親を説得した。
 予想通り、両親はすぐに首を縦に振る事は無かったが、同時に否定的という訳でもなかった。
 金銭面という現実的な部分がどうしても目の前にちらつく様であったが、今まで果恵がここまで必死に何かを強請る姿を見た事が無かった両親は、やがてどこか嬉しそうな微笑を浮かべつつ、果恵の提案に了承の二文字を返した。
 祭の運営も、この提案に好意的であり、むしろ祭を盛り上げるいい活性剤になるだろうということで、両親と同じくこの案に同意した。
 果恵は喜びのあまり、踊るかのようにステップを踏みながら家を飛び出し、急いで開拓者ギルドへと向かった。
 大好きな姉の新たな旅立ちを祝うための、強力な助っ人達を呼び集めるために。


■参加者一覧
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
湖村・三休(ia2052
26歳・男・巫
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志


■リプレイ本文

●巡り回る
 まるで宝石のようだ。
 通り雨が過ぎ去った翌日。日の光に反射して煌びやかに輝く水溜りに彩られた路地を歩きながら、鬼島貫徹(ia0694)はふとそんなことを思った。
 彼の手には、その体躯に似つかわしくない、小さな巾着が握られている。
 その中にしまわれた一枚の手拭。それが、彼が明日に迫った祭の準備に沸く町を巡り歩く理由である。
 鬼島も良く知る流浪の旅人、流実枝。彼女の妹である果恵から依頼を受けた七人の開拓者達は、流姉妹の故郷であるこの町のあちこちで動き回っている。
 実枝を良く知る人々のもとへ赴き、彼女の新たな旅立ちを祝う言葉を、手拭に書き記してもらうこと。それが鬼島の目的である。
 そんな道中、ふと鬼島の目に一つの看板が目に留まった。
 無骨な板に、同じく無骨に書きなぐられた『玉屋』の文字。
 鬼島はこの家にいるであろう、ある人物達のことを思い出し、不適な笑みを浮かべると、そのまま看板の前を通り過ぎて行った。

●花火職人
「せやから、出来る限りでええんや。頼む!」
 玉屋、花月。
 埃っぽい仕事場で黙々と火薬の量を測っている無愛想な男の背に向けて、斉藤晃(ia3071)はもう幾度か繰り返した言葉を再び投げかけた。
 隣に立つ琥龍蒼羅(ib0214)と羽喰琥珀(ib3263)、そして胡蝶(ia1199)も、言葉に続いて頭を下げる斉藤に習って、ひたすらに頭を下げて頼み込んでいる。
 琥龍と羽喰は大人しく頭を下げていたが、胡蝶だけはどこかすっきりしない様子だった。
「‥‥俺だって人間だぞ。無理なものは無理だ」
 斉藤らがそうであるように、花火職人花月の返答も、変わらず同じであった。
 明日の祭で花火を打ち上げる事は、最初から決まっていた。
 しかし、彼らは果恵からの依頼を受け、予定されていた打ち上げ場所、及び打ち上げる花火の種類、個数などの変更を求めにやって来たのだ。
 花月の返答は至極当然のものである。あまりにも急な要望に、簡単に応えろというのは無理がある。
 それを承知で、彼らはずっと、こうして頼み込むことを続けている。
 果恵からの依頼内容や事情などを説明したが、それでも動く様子は見せない。
 中々に手強い相手だった。
「大変な作業であるということだけは理解しています。無理を言っているという事も、全て承知の上です。どうか、お願いします」
 琥龍の言葉を聞いた花月は、ついに何も返答を返さなくなった。
 しばらくの間沈黙が続き、やがて花月は作業の手を止め、ゆっくりと口を開いた。
「俺はこれでも職人だ。急な要望に応えて、中途半端なことはしたくない」
 溜息交じりに紡がれた言葉。
 それを聞いた羽喰は眉を顰め、首をかしげながら問いかけた。
「職人なら、急な要望でも中途半端な仕事なんかしないんじゃないか?」
 純粋な疑問を、何の悪意もなく口に出した羽喰。
 琥龍と胡蝶は落ち着きを払いつつも内心で驚き、斉藤はにやりと口元に微笑を浮かべた。
 花月は再開していた作業の手を再び止め、しばらくの間、静寂が場を支配した。
「‥‥我侭な要望を紙に書き出しておけ」
 一瞬、花月が何を言っているのか羽喰には理解できなかった。
 その隣で斉藤は笑みを更に強め、琥龍は何も言わずに書き物の用意を始めた。
「その代わり、しっかり手伝えよ。俺は職人だが、人間には違いない」
 斉藤らは当然だと返したが、流石にここにいる四人全員で花月の手伝いをするわけにはいかない。
 一人いれば大丈夫だという花月の言葉に甘え、四人の開拓者はじゃんけんという実に単純な方法で手伝いを選出した。
「じゃ、お願いね」
 そう短く言い残して去っていく胡蝶と、それに続いて店を後にする琥龍と羽喰。
 一人残された斉藤は少しだけ寂しくもあったが、すぐに気持ちを切り替え、花月と共に追加の花火の製作に取り掛かった。
 町で唯一人の花火職人、花月。
 この日の彼の仕事は、斉藤を巻き込んで翌朝まで続いた。

●お祭
 前日から続く晴天。通り雨の可能性もまったく無い素晴らしい日和の中、この町の恒例行事である夏祭りは無事開催を迎えた。
 通りは朝から大勢の人々で賑わい、そこらかしこに立ち並ぶ出店の主達が快活な声を上げて道行く人々を呼び止めている。
 実枝と果恵の二人も朝早くから通りに繰り出し、町中を練り歩いている。
 当ても無くあちらこちらと歩き回っていると、二人の目にふと一つの屋台が目に留まった。
 それはカキ氷の屋台だったが、どうにも様子がおかしい。
 明らかに屋台の大きさに合わぬ巨躯の男が、屋台に詰め込まれるようにして収まっているからだ。
「おう実枝。よう来たな」
 実枝はその男の事を知っていた。
 以前依頼で助けて貰ったことのある開拓者、斉藤がそこにいると気付いた実枝は大喜びで駆け寄っていき、あの時のことを思い出して礼を言った。
 斉藤はそんなことは気にするなと大声で笑い飛ばし、実枝と果恵にカキ氷を一つずつ選ばせた。
「サービスちゅうやつや。好きなのを一個もってけや」
 二人は喜んでカキ氷を受け取り、暑さを忘れさせる冷たさを楽しみながら、斉藤に何度も礼を言いつつ、屋台を後にした。
「ふはははは! 流姉妹よ、楽しんでいるか?」
 次は何処の屋台へ行こうかと話し合っている二人の背に突然かけられた大きな声。
 驚いて振り返る二人の視界を覆うほどの体躯の男が、そこにいた。
「鬼島さん、来てたんですね!」
 先日の依頼でも会ったばかりだというのに、実枝はまるで久しぶりに会うかのようにはしゃいでいた。
 偶然を装って会話を進めてる鬼島だったが、これも後々のサプライズへ誘導するための鬼島の作戦である。
「お、いたいた! おっす、実枝!」
「こんにちは〜。いいお天気ですね〜」
 そこへ更に、実枝が予想していなかった者の軽快な声と姿が飛び込んできた。
 小さな開拓者、琉宇(ib1119)と羽喰の二人が、遠くから実枝達を見つけて駆け寄ってきた。
 琉宇は初顔合わせであったが、羽喰は鬼島同様。つい先日の依頼で会ったばかりだった。
 頼もしい開拓者の少年は甚平に身を包み、すっかりお祭り気分のようだ。
 羽喰は琉宇が開拓者だとバレないように友人だと誤魔化して紹介すると、ふと思い出したように(装って)一枚の紙を取り出した。
 紙に描かれた絵から連想される屋台に行き、そこで判子を押してもらうという形式の遊びらしい。
 これは羽喰が考えた祭を盛り上げるための案で、気がつけば通り過ぎる子供たちの手には同じような紙が握られていた。
「さっそく行こうよ、お姉ちゃん」
「うん、出発だね!」
 姉妹は盛り上がるお祭りの空気に気持ちが高ぶるのを感じ、仲良く手を繋いで意気揚々と歩きだした。
 鬼島と羽喰、そして琉宇はその後ろ姿を見守りながらついて歩き、この後に控えているサプライズに遭遇した時の実枝の反応を想像して、不適に、そして優しい微笑を浮かべていた。
 祭はまだ、始まったばかりである。

●備えて
 祭の中心となる広場。その一角に聳える大きな櫓の上に、胡蝶(ia1199)の姿はあった。
 彼女の手元には、丁寧に丸められた巨大な紙がある。
 それを櫓の手すりに紐でくくりつけていく作業を、胡蝶は先ほどから黙々と続けていた。
 先ほどまで作業を手伝っていた琥龍は、つい今しがた力仕事の手伝いに引っ張られていってしまったので、今は胡蝶の傍らに人影はなく、櫓の下から聞こえてくる人々の声だけが、彼女の耳に届いていた。
「ヘイ胡蝶ガール! 俺の手が必要じゃないかい!?」
 そこへ突如舞い込んだ騒がしい声。
 この声の主に心当たりのある胡蝶は小さくため息をつくと、手すりから身を乗り出し、声の聞こえてきた櫓の足下へと視線を向けた。
 口一杯に串焼きを頬張った湖村・三休(ia2052)の姿が、そこにあった。
「結構よ! もうすぐ終わるから!」
「おおそうか! そんじゃあここは任せたぜ、サンキュ!」
 湖村はそう言い残すと颯爽と踵を返してどこかへと去っていった。
 盆踊りでの演奏楽曲を確認したいだのと言っていたのを胡蝶は思い出し、恐らくそのために祭囃子の奏者達のもとへ向かっていったのだろうと勝手に結論付けると、再び手元の作業に意識を戻した。
 実枝には過去に参加した依頼での貸しがあると言って今回の依頼に参加した胡蝶だったが、その本心は、依頼主である果恵の姉重いな気持ちに心を揺さぶられたからだそうだが、それを決して表に出そうとはしないのが、胡蝶の天邪鬼なところ。
 今彼女が一人で黙々と作業を続けているのは、それを隠したいが為かもしれない。

●祝い
 羽喰から受け取った紙をすっかり判子で一杯にし、景品のもふらぬいぐるみを大事そうに抱えた流姉妹は、鬼島、羽喰と共に広場へとやって来た。
 時は既に夕刻に差し掛かっており、広場は大勢の人々でごった返し、一人一人が発する熱気と活気に溢れていた。
「それでは、今夜限りのスペシャルコンサート、どうぞお楽しみ下さい」
 実枝達が祭の中心となっている舞台の方へ向かうと、舞台上では先んじて広場に来ていた琉宇が、自前の楽器を多数用意しての演奏を始めていた。
 それまでの一般的な祭囃子から打って変わり、町の人々が知らないような独特の楽曲を次々に奏で、広場に美しい音色が響き渡っている。
 プリペアド奏法によるリュートの演奏から始まり、取り出しただけで会場が沸いたブブゼラによる演奏。
 この広場に集まった誰も聞いた事の無い楽器による、聞いた事の無い楽曲の数々に、観客達は感嘆の混じった歓声を上げ、盛大な拍手を送った。
 実枝も果恵も、未知の旋律にすっかり魅入られ、先ほどまでの騒がしい雰囲気から一変して、じっと動きを止めて耳を澄まし、音楽に浸っていた。
「ありがとうございました。では、続いて胡蝶さんの笛の演奏です」
 琉宇の演奏が一通り終わると、続いて胡蝶が横笛を手にして舞台上に姿を見せた。
 表情は変えずに淡々と礼をすると、そのまますぐに演奏を始めた。
 ゆったりとした曲調の楽曲が広場に響き、自然と辺りを心地よい静けさが支配する。
 曲と曲の合間に夜光虫の式を召還し、徐々に暗がりに向かっていく空が、眩い光をより映えさせた。
 幻想的な雰囲気に包まれた広場に満ちる優しい音色に実枝はすっかり浸ってしまい、全ての演奏が終わり拍手が沸き起こっても、しばらくの間呆然と舞台を見つめ続けていた。
「頃合か‥‥そろそろ盆踊りが始まるようだ。どうだ、行ってみんか」
 鬼島に促され、実枝と果恵は広場の一角に設けられた櫓へと向かった。
 盆踊りの会場である櫓の周囲には、既に多くの人々が集まっており、始まりを今か今かと待っているようだった。
「よし‥‥お姉ちゃん、ちょっとここで待ってて」
 櫓の近くに辿り着くと、果恵はそれまで必死に隠してきた『ある事』を行うべく、実枝にそう言い残して駆け出した。
 何も知らない実枝は言われたとおりその場で鬼島、羽喰と共に待っていると、周囲の雑踏を割るように、櫓の根元から果恵が呼ぶ声が聞こえた。
 妹の張り上げた声を聞き、何事かと視線をそちらへ向ける実枝。
 それを確認した果恵は、櫓の頂上から垂れている紐を力一杯引っ張った。
 
 一瞬だった。
 櫓の頂上から静かに垂れ下がった、巨大な垂れ幕。
 そこに大きく書かれた、『流実枝の良き旅を願って』の文字。
 実枝は状況を理解するまでに少しだけ時間を有した。
 唖然とし、目を見開き、ぽかんと口を開けたまま。
 そして、何も言わずに涙を流した。
 櫓の向こう側では、斉藤らが交渉の末に勝ち取った花火が一斉に打ち上がり、垂れ幕と並んで満面の笑みを浮かべている果恵の顔を照らしている。
 実枝は涙混じりの笑顔を浮かべながら妹のもとへ駆け寄り、手を取って跳ね回った。
 周囲の人々も最初は驚いていたが、次第に状況を理解し、皆拍手で実枝を祝福した。
「さぁ皆! イカした姉妹の素晴らしい未来を祈って、ボン・ダンスと洒落込もうぜ!」
 そして突如会場に姿を現した湖村の仕切りで、祭を締めくくる盆踊りの開始が宣言された。
 それをきっかけにして、櫓の周囲に待機していた奏者達が祭囃子を奏で始める。
 櫓を囲むように輪になり、お馴染みの振り付けで踊る人々。
 実枝と果恵も輪に加わり、耐える事の無い笑顔を浮かべながら、盆踊りを楽しんだ。
 皆が一律に同じ動きで踊る中、何故か湖村は徐々に動きを変えていき、最終的に到底盆踊りとは思えぬ派手で軽快な踊りへと変貌していった。
「大丈夫なのかあれは‥‥まぁ、皆楽しんでいるようだし大丈夫、なのか‥‥?」
 多種多様な楽器の演奏技術を生かして祭囃子に加わっていた琥龍は、湖村の奇想天外な踊りを見て若干不安に駆られたようだったが、周囲の人々も湖村の踊りに触発されて徐々に盛り上がっていっているように見えたので、一先ずは触れないでおくことにした。

 実枝は昔から、この決して大きくは無い町に住む大勢の人々と仲が良かった。
 そんな実枝だからこそ、彼女の新たな旅立ちを祝おうという皆の気持ちが一つになり、この盛り上がりを作っているのだろう。
 それを更に持ち上げていくのが、湖村の踊りであり、盛大に打ち上げられている花火であり、祝福の言葉を綴った垂れ幕であり、心に響く演奏の数々である。
 果恵は踊りながら、開拓者達を呼べた事を心の底から嬉しく思っていた。
 目の前で踊っている姉の背中と、時折振り返って見せる笑顔が、そう強く思わせてた。
 果恵の後ろでは鬼島と羽喰、そして舞台から戻ってきた胡蝶と琉宇が盆踊りに加わっており、果恵は自分の後ろにいる頼もしい者達の優しさを背に感じながら、少しだけ、涙を滲ませていた。
 
 やがて、盆踊りも佳境に入ろうかという頃になると、屋台から抜け出てきた斉藤が広場に姿を現し、盆踊りを終えた一行のもとへ徳利と杯を片手にやって来た。
「景気付けに一杯いったれや!」
 酒を注いだ杯を差し出しながら豪快に言う斉藤に、負けじと大きな声で返事をし、実枝は酒を受け取ると一息に飲み干した。
 思わず周囲の開拓者達が歓声を上げるが、慣れない事をした実枝は思わず咽てしまい、周囲は一転して笑いに包まれた。
 咽ていた実枝も、そんな姉を心配する果恵も、釣られて笑いを浮かべる。
 一旦休みを置いていた花火が再び打ちあがり始め、夜空に大きく輝く美しい花火に見惚れながら、実枝は今日の出来事を一生忘れる事は無いだろうと、胸の奥で強く思っていた。
 その手には、鬼島が町中を練り歩いて様々な人々に寄せ書きをしてもらった手拭が、しっかりと握られている。
 これからも自分は旅を続ける。
 今の自分のような幸せな気持ちを、まだ見ぬ誰かと共に分かち合うために。
 この広い大地の何処かにある幸せを知るために。
 流実枝の旅は、続いていく。