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■オープニング本文 ●てんやわんやで朝日が昇る 「賊だー! 宝珠を盗られたぞー!」 朱藩のとある飛空船工場に突然の喧騒が響き渡ったのは、まだ日も昇らない丑三つ時だった。 新品の飛空船が静かに佇んでいる倉庫の中には、工場に住み込みで働いている男達が眠気も吹き飛んだ慌て顔で集まっていた。 「宝珠を盗られたってのはどの船だ!?」 「明後日納品予定だった奴だ。警備はしっかりしていたはずだったんだが・・・・」 他の船の無事を確かめる者、盗人を探して飛び出していく者、ひたすら困惑している者。 皆、深夜という時間帯を忘れて奔走している。 「駄目だ・・・・逃げられた」 盗人を追っていた男達が頭を項垂れて戻ってきたのは、最初に盗みの知らせがあってから三十分後のことだった。 盗まれた宝珠は浮遊宝珠七つと、風の宝珠四つ。 一つ一つが大変高価なものである飛空船用の宝珠は早々簡単に換えの利くものではない。ましてや宝珠が足りない状態の飛空船を売ることなど出来るはずも無い。彼ら工場の人間にとっては非常に手痛い打撃である。 「犯人は多分、最近近くの村で大量に強盗して回ったっていう盗賊集団だ。この町にも来るんじゃないかって噂になってたが・・・・くそ、まさか本当にやられるとは・・・・」 再び倉庫に集った男達は悔しさを隠せずにいた。 いくら賊に宝珠を盗まれたという理由があるとはいえ、約束通りに納品が出来ないのでは工場の信頼を酷く揺るがしてしまうだろう。 「取り返すんだ、なんとしても。納期が少し遅れちまう分には仕方ない、上手いこと誤魔化そう。だがこのままいいようにやられっぱなしなんてのは許せん!」 俯いていた男達の内の一人がゆっくり顔を上げ、覚悟を決めた表情で言うと、他の者たちも釣られるように顔を上げ、互いの顔を見合わせた。 朱藩の中でも有数の実績を持つこの飛空船工場で働いているという自尊心を傷つけられたままでは、彼の腹の虫は収まらないといった様子だった。 「んなこと言っても、俺たちで相手になるか?」 「馬鹿、俺たちがやるんじゃねぇよ。開拓者ギルドに頼むんだ。絶対に取り返してきて貰おうぜ」 一人の男の決心に感化されるように、他の男達も徐々に諦め顔を決意の籠もった顔に変えていった。 彼らはすぐその場に腰を下ろし、輪になって依頼にかかる費用やら何やらの話し合いや取り決めを始めた。 技術者であり、商売人でもある彼ららしい行動だった。 「依頼料っていくらくらいなんだ?」 「そもそも盗賊どもはどこに行きやがったんだい」 「町外れの山奥に入っていくのを見たぞ、多分奥の洞窟を根城にしているんだ」 「でもあそこはアヤカシが出るって噂が・・・・」 やがて上下左右様々に振っていた首を全員が縦に振り、長い話し合いは終わりを告げた。 彼らが話し合いを終えるまでは大分長い時間がかかったが、工場の予算から何とか依頼料をやりくり出来るように用意を整え、開拓者達に頼む依頼の内容も纏まった。後はギルドにこの依頼を届けるだけだ。 「よっしゃ、じゃあ朝一で俺がギルドに行ってくらぁ。それまで一眠りだけ・・・・」 ギルドへの使いを名乗り出た男は他の男達に背を向けてそそくさと倉庫を去ろうとした。 今の今まで強盗騒ぎで頭が一杯になっていたため忘れていたが、彼らはまだ眠り足りない真夜中に叩き起こされていたのだ。 話し合いが終わり、緊張感が解けた途端に彼らは酷い眠気に襲われ始め、使いを名乗り出た男もまた例外ではなかった。 だが彼は倉庫の扉を開けた先に見えた、燦燦と輝く朝日を前にしてしばらく立ち尽くし、やがてゆっくりと倉庫の中を振り返った。 「・・・・誰か代わる?」 彼の提案に対して、首を縦に振るものは誰も居なかった。 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
貉(ia0585)
15歳・男・陰
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
真田空也(ia0777)
18歳・男・泰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
蛇丸(ia2533)
16歳・男・泰
佳乃(ia3103)
22歳・女・巫
時雨 風夢(ia4989)
17歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●潜む者達 「なぁるほど、あれが盗賊さんらの隠れ家かぁ。ドンピシャだぁね」 聳える木の陰からひょっこり顔を覗かせ、犬神・彼方(ia0218)は小声で呟いた。後ろに控えている仲間達も、それに同調するように犬神と同じ方向へ視線を送っている。 工場の男達から依頼を受けた開拓者一行は、茂みと岩場が点在する山奥にぽっかりと空いた洞窟の入り口に辿り着いていた。 道中に遭遇したアヤカシは回り道をすることで回避し、ここまでは特に消耗することなく事を運んでいる。 「蛇丸さんの偵察のお陰ですね、流石です」 佳乃(ia3103)が笑顔を浮かべて言うと、その笑顔の先にある蛇丸(ia2533)の頬が軽く紅潮した。 それを見逃さなかったのは真田空也(ia0777)だ。 「おい蛇丸、顔赤くなってんぞ」 「な、何言って‥‥」 盗賊に悟られない程度の小声で、ちょっかいを出したり出されたりしている二人を、事の要因となった佳乃はただニコニコと眺めているだけだった。 二人のやり取りに混ざろうかと企んでいた犬神だったが、隣に並び立った鬼啼里鎮璃(ia0871)の真剣な表情に押し止められ、気を取り直して再度本題に頭を切り替えた。 「見張りは二人ですね。予定通り、奇襲して捕らえましょう」 じっと洞窟の入り口に構えている見張りを見据えながら言う鬼啼里に頷き、一同は既に計画してある作戦の第一段階を実行した。 ●作戦開始 一行はしばらくその場で様子を伺いながら、見張りが交代するタイミングを待っていた。交代直後の隙を突いて奇襲し、捕縛するという算段だ。 やがて洞窟の中から別の盗賊達が姿を現し、見張りをしていた仲間と軽く言葉を交わすと、一行の狙い通りに配置を交代した。 「行くで」 配置から離れた盗賊達が洞窟の奥へ姿を消したのを確認すると、見張りへの奇襲を担当する事になっていた時雨風夢(ia4989)と蛇丸の泰拳士二人組は誰に言われるでも無く行動を開始した。 「頼むぜ、泰拳士さん達よ」 花脊義忠(ia0776)の言葉を背に、二人は素早く、かつ静かに見張り達の方へ接近して行った。 「俺の事もお忘れなく」 そう言って身を乗り出した貉(ia0585)は二人に一歩遅れたタイミングで隠れていた茂みを飛び出し、見張りに接近して呪縛符を使用した。 見張り達は狢の動きに気付いたものの、すぐに呪縛符で動きを封じられ、状況が掴めないでいる内に、懐へ飛び込んできた泰拳士二人に拳を叩き込まれ、仲間を呼ぶ隙も与えられずに連れ去られた。 二人が見張りを抱えて戻ってくると、待機していた者達が手早く荒縄で縛り上げて拘束した。 捕らえられた盗賊は自分を取り囲んでいる開拓者達の言い得ぬ威圧感に圧倒され、声を上げる事も出来なかった。 「さぁて、あんたらぁの事、色々教えて貰おうかなぁ」 仲間を代表して犬神が問うと、最初のうちは渋っていたものの、やがて大人しく情報を開示した。 盗賊の総数は、捕らえた見張り二人を含めて十三人の大所帯。宝珠は洞窟の一番奥で丁重に保管されている。現在位置から西に真っ直ぐ進んだ先にあるというもう一つの出入り口と、洞窟の内部構造。以上の情報を聞き出すと、見張りは二人とも気絶させ、荒縄を噛ませて猿轡もしっかりと施した。 蛇丸と時雨、狢の三人は、聞き出した情報にあったもう一つの出入り口に向かったが、そこは茂みに覆われた小さな抜け穴で、見張りは一人しか居なかったが、それも呪縛符で動きを封じ、徹底した捕縛を行った。 その後、最初に襲撃した出入り口に再集結した一行は、鬼啼里の心眼と狢の人魂を使用して内部の調査を行った。 「極力見つからねえように、と、頼むぜ兎ちゃん」 「洞窟の中は‥‥心眼で調査可能な範囲に僕ら以外の生物の反応はありませんね」 小さな茶色い兎の姿をした狢の人魂が洞窟内へ侵入し、式の行動範囲限界まで内部を調べて回った。 「いたいた。奴さんら、洞窟の奥のほうで屯してるぜ。数は‥‥ちゃんと十人残ってるな」 心眼よりも若干効果範囲の広い人魂は、ぎりぎり洞窟の奥に潜んでいる盗賊達の姿を捉えた。 人魂の視覚から情報を得ると、狢は式を消し、仲間達が潜んでいる入り口横の大きな岩陰に戻ってきた。 真田らがもう一つの出入り口の調査に向かっている間に残りの面子で探し出したこの場所は、出入り口からの距離、位置共に待ち伏せるにはもってこいの場所だった。 「なるほど・・・・宝珠が確認できなかったってことは、洞窟はもう少し奥の方まで続いてるってことやね」 狢の話を聞いた時雨はうんうんと頷きながら、その情報を丁寧に分析している。 「でも見張りの言っていただけの頭数がそこにいたのなら、最深部はそう遠くないんじゃないですかい? 見張りの言葉を信じれば、ですがね」 その横に腰を下ろしていた蛇丸も、それに続くように考えを口にした。 二人の言葉を受け、一行は少しだけ悩みつつも、当初予定した通りの計画を実行に移した。 「よっしゃ、準備はいいか、真田殿」 ゆっくりと腰を上げ、隣に腰を下ろしていた真田を見下ろしつつ、花脊はにやりと口元を吊り上げて不敵な笑みを浮かべた。 それに応じるように真田も立ち上がり、花脊と同じように笑って見せた。 「任せとけって、ばっちり掻き乱してやろうぜ」 花脊と真田は最初に襲撃した出入り口から内部に進入し、悟られないように静かに奥へと進んで行った。 「お、いたいた」 狢の言っていた通り、盗賊達は屯して世間話に花を咲かせていた。 「どうだ、義忠。奴らを引きつけられそうか?」 盗賊達に聞こえないよう小声で問う真田に、花脊は得意げな笑みと真っ直ぐ天に向けて立てた親指で答え、盗賊達の前に飛び出していった。 「おらおら肝っ玉と(ぴー)の小せぇ野郎ども、そうじゃないってんなら俺の真ん前に来てみやがれ!」 花脊が咆哮を洞窟内に轟かせると、盗賊達は驚いた様子で身構え、侵入者を捕らえようと迫って来た。 「はっはっは!そう来なくっちゃな! 俺の名は花脊義忠! 武勇伝の隅っこに挙げてもらえると感謝するんだな!」 「うお、いきなりだな・・・・義忠に問題がなければすぐ戻る予定だったが、まぁこの際だ!」 仁王立ちで相手を待ちかまえる花脊の隣に躍り出た真田は、花脊に負けず劣らず大きな声を張り上げた。 「やいこら、テメーら! 相手は一人じゃねーぞ! こてんぱんにしてやるから覚悟しやがれっ!」 真田の芝居がかった挑発は花脊の咆哮に発破をかけ、真田のノリから、この二人は一般人だと勘違いした盗賊達は餌に釣られる獣の形相で二人の方へ向かって迫ってきた。 「へへ、俺って案外演技派かも?」 「はっはっは! まったくだ!」 二人は大方の盗賊が食いついてきたことを確認すると、相手の攻撃を上手くかわしつつ、勘ぐられない程度に軽く反撃をしながら元来た道を引き返した。 そのまま二人が盗賊を引きつけつつ外へ出ると、狢と鬼啼里は入れ替わるように洞窟内へ駆け込み、花脊らが通ってきた道を辿るように奥へ進んだ。 「待って下さい、一度確認を・・・・」 ある程度進むと、鬼啼里は隣を歩く狢を制し、心眼を使用して洞窟の奥を調べた。 結果、二人がいる地点から数十メートル先の箇所に、宝珠を守っている盗賊らしき反応を、鬼啼里は感知した。 「相手も二人か。中々の手錬だって聞くが・・・・」 「所詮は一般人。格の違いを見せてあげましょう」 鬼啼里の言葉を聞いた狢は仮面の内側で不敵に笑い、盗賊達への接近を開始した。 二人は洞窟の曲がりくねった構造を利用して上手く隠れながら進み、もう一歩踏み出せば相手の視線の真ん前に出るというぎりぎりの所までやって来た。 「そらよ!」 狢は勢いよく一歩を踏みだし、目の前の盗賊らに向けて毒蟲の式を放った。 盗賊らは突然の襲撃に驚きつつも、自身に迫る毒蟲の驚異を何とかやり過ごそうと動き回った。 「甘い!」 毒蟲を避けて横に踏み出した盗賊に急接近した鬼啼里は、盗賊がそれに気づくよりも早く顔面に峰打ちを食らわせた。 強烈な一撃を食らって倒れこんだ盗賊はそのまま毒蟲の餌食となり、神経毒によって体の動きを封じられた。 それに気を取られていたもう一人の盗賊も、背後に接近していた狢の仕込み杖での一撃を受けて転倒し、毒蟲に食いつかれた。 「まぁ、毒虫の初撃を避けたのは流石だったが」 身動き一つ取れずにいる盗賊を荒縄で執拗に縛り上げながら呟く狢に、鬼啼里が続けた。 「こんなものでしょうね」 盗賊を拘束し終えると、二人は盗賊達が背にして守っていた盗品の山を漁り、依頼の目的である宝珠を無事に見つけだした。 流石に高級品だということもあってか、盗賊達も丁重に扱っていたようで、盗まれた十一個の宝珠は全て綺麗な布に包まれ、頑丈な作りの木箱に納められていた。 宝珠の箱を鬼啼里に任せ、狢は盗賊を引きずりながら元来た道を引き返し始めた。 「外の方は大丈夫でしょうか」 狢に続きながら鬼啼里が問うと、狢は仮面の下で小さく笑った。 「愚問なんじゃないか?」 それを聞いた鬼啼里もまた、小さく笑いながら呟くように言った。 「そうですね。まったくその通り」 ●こんな時代だから 「そらぁ! ひっ捕らえろ!」 狢と鬼啼里が洞窟内に入ったのを確認すると、花脊と真田は足を止めて振り返り、近くの岩陰に潜んでいた仲間達に向けて大声で合図を出した。 潜んでいた仲間達は一斉にその姿を現し、慌てて身構える盗賊達に次々に襲い掛かった。 「まずは、あんただ!」 最初に動いた蛇丸は泰練気胞壱と空気撃の合わせ技で盗賊の足下を正確に狙い、見事に転倒させてみせた。 そこへ犬神が用意していた網を投擲し、転んだ盗賊を三人、纏めて捕らえた。 「ギルドかぁらの借り物の網だからぁさ。あんまり暴れないでもらえるかぁ」 網をふりほどこうと暴れる盗賊に犬神が威圧感を込めてそう言い放つと、盗賊達は身の危険を感じたのか、抵抗を止めて網の中で縮こまった。 「次々いくで!」 それに続いた時雨は疾風脚で別の盗賊へ急接近し、骨法起承拳の一撃を叩き込んだ。 急所を突かれた盗賊は悶えながらその場に倒れ伏したが、時雨が一息つく間も無く、常人の二倍はあろうかという巨大な盗賊が、時雨に背後から迫った。 急ぎ振り返った時雨は盗賊の攻撃を回避しつつ腹に拳を思い切り叩き込んだが、盗賊は巨大な体一杯に力を入れ、必死の形相で激痛に耐えていた。 あまりの我慢強さに時雨が少なからず驚いていると、横合いから飛び込んできた花脊が強烈なスマッシュを叩き込み、堪えきれなくなった盗賊は無惨にも倒れ伏した。 「中々タフな奴だったな」 「せ、せやねぇ・・・・」 その後ろでは、真田が空気撃でまた一人盗賊を転倒させていた。盗賊は派手にもんどり打って倒れ、頭をぶつけて気を失った。 「よし、いい調子・・・・」 そう言って真田が次の標的に向けて動き出すのと、背後から迫る気配に気付くのとは同時だった。 背拳の力で奇襲に気づいた真田は前に踏みだそうとしていた足を急速に転換させて振り返り、眼前に迫っていた盗賊が横凪ぎに振り回した刀の一撃を素早く回避した。 「真田さ!」 そこへ駆け込んできた蛇丸が盗賊の足元を払い、うつ伏せに転んだところへもう一発、真田の空気撃がアッパーカットの要領で決まり、盗賊は大きく宙返りした後、地に落下した。 「あらあら、わたくしの加護法は必要ありませんでしたね」 真田の後方で控えていた佳乃は真田が攻撃を受けそうになった瞬間に加護法を施していたが、それが効果を発揮する事は無かった。 「いや、お心遣い感謝だ! 蛇丸もありがとな!」 「なんてこたぁないさ、気になさんな」 仲間達に礼を言い、余裕綽々な真田の姿を遠目に見た盗賊が一人、恐怖に足を震わせながら背を向けて一目散に逃げ出した。 が、彼の足は三歩ほど進んだだけで止まってしまい、それより先に踏み出すことはなかった。 「逃がしはしなぁいよ」 犬神の呪縛符によって動きを封じられた盗賊は恐怖に顔を歪ませると、何故か体を異様な方向に捻りつつ弾け跳ぶようにして転んだ。 何事かとその場にいた全員が目を見張ったが、その理由はすぐに分かった。 穏やかな笑みを浮かべつつ、盗賊に向けて手をかざしている佳乃の姿を見たからだ。 全身を痙攣させながら泡を吹いている盗賊の姿を見た開拓者達は、少しだけその盗賊を哀れに思ってしまった。 「成敗!」 そうこうしている内に花脊が最後の一人を打ち負かし、一行は盗賊達を一カ所に集め、全員を固く荒縄で縛り上げた。 盗賊全員を拘束し終えると、丁度良く狢と鬼啼里が洞窟内から宝珠を携えて戻って来た。 宝珠の無事を全員で確認すると、一行は長居は無用とばかりにすぐさま山を降り始めた。 意識のある盗賊はしっかりと手綱をとりつつ歩かせ、意識のない盗賊は肩に担いだり、引きずったりしながら連れ帰った。 途中、アヤカシに遭遇しそうになることもあったが、それも来たときと同じように上手く回避し、無事に依頼主である工場の男達の元へと戻ることが出来た。 盗賊達は工場の男達が呼んだ警備団の人間にその場で引き渡し、洞窟に残っている盗品のことも伝え、後ほど回収してもらう運びとなった。 「俺達の宝珠だ!」 「これで飛空船が完成するぞ!」 「ありがとうございました!」 感動のあまり涙を流す男達に何度も何度も礼を言われ、一行は依頼達成の実感を肌身で感じていた。 「へっ、アヤカシだらけのこの世の中で、良い事も悪い事もあるもんか。理穴は魔の森に飲み込まれつつあるって聞くぜ。この国だっていつかそうなるだろ? だったらよ、今を好き勝手生きた方が得じゃねぇか! どうせみーんな無くなるんだ!」 そんな開拓者達の姿を見て、連行されていく途中だった盗賊の一人が吐き捨てるようにそう言った。 それを毅然とした目つきで見据え、迷いの無いはっきりとした口調で返したのは、花脊だった。 「そういうヤケクソな考えするよりも、現状変えようっていう努力する方がよっぽど立派だぜ。それに、何勘違いしてるんだか知らねぇが、アヤカシが沸こうが沸くまいが、やっちゃいけねぇことはやっちゃいけねぇことだ。そればっかりは変わんねぇよ」 言葉を発したのは花脊だったが、その言葉はその場に居る開拓者の総意だった。 自分達を捕らえた開拓者達の強い意志を前に、盗賊はそれ以上何も言えずに大人しく連行されていった。 「こんな時代だから、頑張らなきゃ駄目なんだぁね。俺達がさぁ」 呟く様な犬神の言葉に、一行は声にこそ出さなかったものの、皆それぞれ心の中で決意を新たにし、強く頷いていた。 人々がアヤカシに怯えることなく、また新たなる地へと飛び立って行くための翼を創るために。 今はまだ飛び立てずとも、開拓者達はまた一歩、確かに歩いていく。 |