【踏破】鍛えて備えろ
マスター名:野田銀次
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/11 20:29



■オープニング本文

●男の見るもの
「開拓時代か‥‥ふふふ、素晴らしい時代に生まれたものだ」
 豪奢な屋敷の縁側に腰掛け、雨宮一成(アマミヤイッセイ)は感慨深そうに天を仰ぎながら呟いた。
 謎の遺跡群の発見と、そこから見えてくる親天地への可能性。それらを耳にしたとき、彼は年甲斐も無く無邪気にはしゃぎ、自らの持つ富と権力を最大限利用し、この開拓に参加しようと瞬時に決断した。
 武天の地に古くから続く富豪の家の現党首である彼は、まだ三十代半ばに届かぬという若さにして前代をも凌ぐ商業的成功を見せ、そこから得た経済力を武器にありとあらゆる物事に挑戦を続ける毎日を送っていた。
 学問、武芸、知識の探求など、彼の世界に対する視野は広く、様々な物事に挑戦することで、彼はより一層見聞を広め、そしてまた新たな刺激を求め続けている。
 そんな彼の目の前に、親天地の開拓というこれまでに無い新たな可能性が舞い降りた。次に手を出すものを決めかね悩んでいた彼にとって、これ以上無いほどの喜びだった。
「黒井殿への経済的支援も行った、調査人員の補助も送った、遺跡も外部からだがじっくり眺めさせて貰った、調査船団への参加表明も済ませた、残るは‥‥」
 これまでの自身の行いを呟きながら確認し、雨宮は徐に立ち上がると、先程からずっと彼の後ろに控えていた長身の男の方へ振り返り、どこか怪しげな笑顔を浮かべて問いかけた。
「ウチの私設兵団、未踏の地に送り込むには些か不安が残るんだが‥‥朝霧、君はどう思う?」
 朝霧と呼ばれた男はただでさえ細く鋭い目をよりきつく尖らせ、小さく、それでいてはっきりとした声で、目の前に立つ主君に言葉を返した。
「同意いたします。あの程度の実力では、他の兵力に遅れを取るばかりではなく、開拓の先陣を切るであろう開拓者達の足手まといになるのは目に見えております」
 部下のあまりにも遠慮の無い言葉を受けて苦笑いを浮かべる雨宮は、まったくもってその通りだと朝霧の意見を肯定し、意を決したように誰にでもなく頷くと、再び朝霧の方へ向き直って、今度は先程とは違う、力の篭った顔つきと声色で言い放った。
「我が私設兵団に強化特訓を行う。開拓の道を先導するのが開拓者ならば、その開拓者に教えを請うのが良かろう。至急ギルドへ赴き、力を貸してくれる開拓者を募るのだ」
 命令を受けた朝霧は表情を崩さぬまま頭を垂れ、命を確かに受け取った事を告げると、命じられたばかりの仕事をこなすべく、足早にその場を後にした。
 しゃんと伸びた大きな背を見送りながら、雨宮は再び不敵な笑顔を張り付かせた表情に戻り、雲一つ無い快晴の空を見上げ、誰にでもなく呟いた。
「楽しくなってきたねぇ」
 黒井奈那介によって発見された未開の遺跡。そして、嵐の壁の向こう側にあるという新たなる大地。
 雨宮一成という一人の男が、それら未知の世界に何を求め、何を見ているのか。今はまだ誰にも判らない。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
桐(ia1102
14歳・男・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
 鈴 (ia2835
13歳・男・志
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
夏 麗華(ia9430
27歳・女・泰


■リプレイ本文

●始まりは‥‥
 雨宮家が所有する広大な訓練場。
 その中心に集められた大勢の兵士達は皆、屈強な体躯と高価な武装に身を包み、今にも戦場へ赴く事が出来そうな出で立ちである。
 つい今しがた到着したばかりの開拓者達は、そんな見た目ばかりの兵士達を前にして、自己紹介を行っている真っ最中である。
「えー、あたしは泰拳士の真珠朗(ia3553)と申します。で、其処のデカいサムライ、ギルド登録のある中でも高位のサムライです。それ以上に酒飲みのえろオヤジです。女性の方は気をつけて。んで、美少女風味の巫女は見た目可憐ですが、巷で『萌える鬼ぃさん』と評判の鬼っ子です。二人揃って『ぢごくから来た兄弟』と呼ばれてま‥‥」
 開拓者の一人、真珠朗の言葉が終わるより先に、彼の体は勢い良く前につんのめり、うつ伏せの状態で地面に倒れ伏すと、彼の背後から姿を現した桐(ia1102)がにこやかな笑顔を浮かべて、真珠朗の頭を踏みつけながらにこやかな笑顔と共に言った。
「鬼と紹介されましたとおり、手加減はしませんので。よろしくお願いします」
 それまで堂々とした態度でいた兵士達は表情こそ崩さなかったものの顔色を一斉に青ざめさせ、心なしか後方に身を引いたように見える。
「ま、この通りの鬼ぃちゃんや。見た目にだまされ‥‥」
 酒飲みのえろオヤジと紹介された斉藤晃(ia3071)が更に煽るような言葉を続けたかと思うと、桐の素早い足払いが斉藤の足元を襲い、真珠朗とは逆に仰向けに倒れ、訓練場を震わせた。
 また一歩、兵士達が後ろに下がったように見えた。
「ま、まぁとりあえず落ち着いて」
「早速訓練始めようぜ! な!?」
 見かねた鈴(ia2835)とルオウ(ia2445)が笑顔を張り付かせたまま拳を震わせている桐を必死になだめ、その間に羅喉丸(ia0347)が呆れ顔で倒れている二人を助け起こした。
 何とかその場はそのまま収まり、一行は訓練の用意に取り掛かった。
「はぁ、いきなりこんなでは先が不安だけど‥‥」
 歩き去っていく兵士達のどこか不安げな表情を見ながら、志藤久遠(ia0597)は小さく溜息を吐いて独り言を零した。
 集まった開拓者達の実力は確かだし、きっと良い結果になると信じてはいるものの、どうにも締まらない始まりに気が気でない様子だ。
「大丈夫ですよ、皆さんやるときはしっかりやってくれます」
 志藤の独り言を耳にした夏麗華(ia9430)は彼女の隣に並び立ち、優しげな笑顔を浮かべながらそう言った。
 その何気ない一言を受けて、志藤はちょっとだけ表情を緩めると小さく頷き、自身も用意のために仲間達の下へ駆けて行った。

●訓練開始
「考えるな、感じるんだ。とっさの事に自然と体が動かないようでは間に合わない」
 訓練対象である兵士の人数が多いため、訓練は兵士達を二班に別け、順番に訓練をつけていく事になっている。
 第一班と呼称されているこの班では、羅喉丸による基礎体力と動作を鍛える内容に重点を置いた訓練が行われていた。
 羅喉丸自身がかつて教えられた訓練内容を兵士達に教え、即座の判断と素早い身のこなしを習得させようという内容である。
 当然ながら泰拳士である羅喉丸の動きを真似るのは容易ではないが、兵士達は皆雨宮が直々に選考した真面目で優秀な者達であるが故か、体中に汗を滲ませ、表情を歪めながらも、指導された内容を必死に理解し、仲間との組み手や、羅喉丸の攻撃を回避する訓練などを次々とこなした。
 そして一通りの訓練内容を終えて休憩を挟んだ後、流石に体力の消耗が激しくぐったりし始めた兵士達へ、羅喉丸は最初とまったく変わらぬ様子で兵士達に次なる訓練内容を告げた。
「よし、次は装備を身に纏った状態での走り込みだ」
 兵士達は一瞬言葉に詰まったが、やる気まんまんの羅喉丸の表情を見て諦めた様に空元気の返事をし、重たい空気を纏いつつ、各々の装備を身に纏い始めた。
「うんうん、皆真面目でよろしい」
 その様子を、訓練場を一望できる物見台から見物していた雨宮は、楽しげに、それでいてどこか含みのある笑みを浮かべながら、傍らに用意された茶を一口啜り、また別の方へと視線を向け直した。
「違う違う! それでは簡単に突破されてしまうでしょう」
 羅喉丸達の居る一角とは反対側の一角では、志藤による拠点防衛を想定した戦闘訓練が行われていた。
 斉藤とルオウを仮想敵として設定し、拠点防衛以外にも、遺跡内での戦闘や進攻など、今後彼らが実際に直面するであろう状況を想定した訓練内容が行われている。
 羅喉丸と志藤の訓練を眺めながら、雨宮はやはり自分の抱えているこの私設兵団には決定的に実戦の経験が足りていない事を痛感し、自分の判断が間違っていなかった事を確信すると、再び不敵な笑みを浮かべた。
「ただ闇雲に剣を振るってきただけの我が兵団‥‥どう変わってくれるものか」

●一時の休息、そして
 昼の訓練が終わると、午後からは比較的穏やかな内容の訓練が設けられた。
 穏やかといっても、その内容は兵士達にとって非常に貴重なものに違いは無い。
「遺跡のアヤカシはその強さに比例して良質な宝珠を落として行きますが、その分癖の強いものばかりですので仲間との連携は第一に考えてください‥‥」
 鈴による遺跡内に現れる特殊なアヤカシについての説明や対策の教示は、当然ながらそういった話をまともに聞いた事の無い兵士達にとって、命を繋ぐための重要な知識である。
 体を動かすばかりが訓練ではない、こうして知識を得る事も訓練の一つであると、兵士達はそれらしい考えを胸に抱いて真面目に鈴の話を聞いていたが、内心では昼の訓練で疲れた体を休める事が出来て安心している者も少なからず居るようだった。
 そういった者達は決して不真面目だという訳ではなかったが、彼らはこの後、日がすっかり落ちてから再び肉体を駆使しなければいけなくなると知った時、覚悟していた者達よりも数倍ショックを受ける事になるのであった。
「今から夜間の罠回避訓練を行います。皆さん、覚悟はよろしいですか?」
 雨宮の屋敷から程近い森に集められた兵士達を前にし、笑顔でそう告げたのは、日中は救護班を専任して訓練をつけていた桐だった。
 訓練内容は、森の中に仕掛けられた罠の数々を突破し、桐の待つ地点まで辿り着くというもの。罠は日中の間に手隙だった斉藤とルオウが仕掛けていたようだ。
 兵士達は疲労感の抜け切らぬ様子ながらも、互いに気合を入れながら果敢に罠だらけの森の中に突撃し、悲痛な悲鳴を夜の森に響かせた。
「今日の反省点を改善し、明日の夜もう一度挑戦して貰います。では、明日に備えてしっかり体を休めて下さいね」
 結局誰一人桐のもとへ辿り着く事は叶わず、問題点、改善点等の指導を受けると、兵士達はぐったりした様子でとぼとぼと屋敷へ戻っていった。
 その背中はただ疲れたというだけではなく、訓練についていけない自分達の不甲斐無さを嘆いているような、そんな寂しさを感じさせた。

●少しずつ確実に
 二日目。どこか憂鬱な気持ちを抱えながら朝を迎えた兵士達は、驚きのあまり言葉を失った。
 いつも彼らが朝食を取る食堂に、見慣れない料理の数々が並び、更には開拓者達が先に席について兵士達を待っていたのだ。
「何をするにもまずは食事をしっかり取らなければいけませんからね」
 厨房から姿を見せた麗華に促され、兵士達は戸惑いながらも席に着いた。
 雨宮家のお抱え兵士である彼らの食事は決して質素ではないが、今彼らの目の前に用意されている料理とはまったく違う。
 全て麗華を筆頭とした開拓者達が用意したのだと聞かされ、兵士達は考えても見なかった現状に、どうしたらいいのか分からずにいた。
「遠慮せず食えばええんや。たらふく食って、また一日訓練がんばりゃええんや」
 斉藤の言葉に背中を押され、兵士達は開拓者達に感謝の意を示しつつ、いつも口にしている味とは違う新鮮な味わいを、開拓者達と同じ食卓で楽しんだ。
「食べ終わったらあたしの訓練に付き合って貰うから、ちゃちゃっと準備して集合しておくんなさいね」
 真珠朗が何気なくそう言うと、兵士達は食事中にも関わらず大声で返事をし、彼らの士気が高まっている事が分かると、開拓者達は口元に微かな笑みを浮かべ、互いに顔を見合わせながら頷きあった。
 やがて食事が終わり、皆で後片付けを済ませると、兵士達は言われていた通り素早く準備を整え、真珠朗の待つ訓練場へと向かった。
 真珠朗の訓練は敵からの的確な逃走術の教示だった。
 この訓練にはルオウも参加し、かつて自分自身が遭遇したアヤカシの話などを交えつつ、様々なアヤカシに対する逃走の術を指導した。
 実際に真珠朗やルオウがアヤカシの役となって兵士達を追いたて、時には挟撃したりなどしながら、その都度の的確な行動を教え込んでいく。
「この訓練は仲間を統率できる人間を見極める意味も含まれていますからね、頑張って下さい」
 依頼毎に集まる開拓者には出来ない、統率者を立てた作戦行動。それは彼ら兵士の持つ特性であり、無くてはならないものでもある。
 まだまだ始まったばかりの訓練期間であるが、この期間が終わるまでの間に一人でも統率者として働ける者が現れればと思いながら、この日はまだ、真珠朗は誰にもその任を与える事はしなかった。
「焦っても仕方ないしな、やることやってりゃいずれ分かってくるはずだぜ」
 能天気なように見えて間違った事は言っていないルオウの言葉をもって訓練は終わり、昼食を挟んでまた午後から別の訓練が開始される。
 こうして訓練は軌道に乗り始め、兵士達も徐々にその生活に慣れていった。
「うん、人が成長していく様は面白くてしょうがない」
 そんな経過を見守る雨宮は、相変わらず訓練に口出しをするでもなくただただ静かにその様子を見守り、不敵に笑い続けていた。
 いつもの物見台から見下ろす訓練場内では、麗華が専任している弓兵部隊も訓練を行っている。
 午前は基礎、午後は応用と、しっかり別けられた訓練内容を順繰りに繰り返す事で、最初は的の中に矢を納めるだけで精一杯だった弓兵達は、的の中心を射抜く回数を着々と増やしている。
 彼らが成長していく姿をじっと見守ってきた雨宮は、微細な変化から大きな変化まで、その全てを存分に楽しんでいるようだ。
「しかし、桐さんの共同戦線のお誘い断ったのは勿体無かったかな?」
 ふと、雨宮は傍らに立つ朝霧の方へ視線を流し、問いかけた。そして、
「‥‥雨宮様が判断された事に間違いはありません」
「ふふふ」
 その答えを聞いた雨宮は、ただ笑うだけだった。

●最終訓練
 訓練漬けの日々と一日の休日を含んだ一週間の訓練期間、その最終日。
 一行は雨宮の屋敷を出て、近くの山岳地帯へやって来ていた。
 ここで行われる一日行軍をもって、開拓者による訓練の全てが終了となる。
 兵士達も、そして開拓者達も全員、雨宮に頼んで用意をして貰った山岳装備を身につけ、準備は万端だ。
「よっしゃ、出発や!」
 斉藤の掛け声と共に、深い山奥を目指して歩き始める雨宮兵団。二つの班に別れていた兵士達と弓兵部隊も全員が一同に会し、総勢百名の大人数による丸一日をかけた行軍が幕を開けた。
 隊列の各所に開拓者達が散らばって各々の気付いた点を指導し、先導する斉藤が全体の指揮を執り、不安定な山岳地帯での連携行動をみっちりと叩き込んでいる。
 だが、これだけの大人数を斉藤一人で教えきる事は出来ない。しかし、確実に斉藤の言葉は隊列の一番最後に居る兵士にまで届いていた。
 それは、兵士同士が密に連絡を取り合い、伝えるべき事をしっかりと伝えているからである。
 この一週間で、兵士達の連帯感もより一層磨きがかかり、開拓者達からの指示が無くとも、自然とこういった行動を起こせるようになっていた。
 桐の罠回避訓練も大多数の兵士が看破に成功し、羅喉丸の体力特訓も以前に比べればずっと動きが軽やかになっていた。
 決して長いとは言えない期間であったが、兵士達は確かな吸収力で開拓者達の特訓から様々なものを得ているのだ。
「洞窟に入るで、灯り絶やすなよ! 光源を失えば洞窟なんかでは死ぬことにも等しいで!」
 洞窟内は薄暗く不気味だったが、兵士達の足取りは軽い。それは開拓者達が共に居るという安心感から来るものなのか、自分達に自信がもてているという証拠なのか。恐らく後者の理由であろうと、開拓者達は理解していた。最初はどこか頼りなさが漂っていた兵士達の顔が、今ではすっかり頼もしさを増していたからだ。
 洞窟の奥は終わりも見えない程真っ暗だったが、彼らの進む先はきっと明るいと、開拓者達は皆、心のどこかで感じていた。

●いずれ並び立つ日まで
「いやぁ〜行軍の様子の一部は遠巻きに見学させていただいていましたが、いやはやあれが私の私兵とは思えない。すっかり逞しくしていただいて、ありがとうございます」
 行軍から帰還した一行を迎え入れた雨宮は満面の笑顔を浮かべて開拓者達に礼を言い、非常に上機嫌の様子だった。
 が、傍らに立つ朝霧は、対照的にまったく表情を変えずに立ち尽くしている。何とも奇妙な光景だった。
「やれるだけの事はやりました。後は皆さんの持続力次第です」
 そう言いながらも、訓練の内容を纏めた書物を手渡す羅喉丸の表情は安心感が強く表れていた。
 他の面々も、不安げな様子を見せている者はいない。
 当然ながら諸手を上げて開拓に送り出せるかと言えばそうではないが、兵士達の勤勉さを一番良く理解しているのは、最早雨宮ではなく彼ら開拓者達である。
 良い面も悪い面も含めて知っているからこそ、開拓者達は彼らを送り出す事が出来るのだ。
「共に開拓に赴き、新天地へ足を踏み入れる日を楽しみにしております、ありがとうございました」
 代表の兵士が開拓者達の前に一歩進み出て、力強い言葉と共に頭を下げると、他の兵士達もそれに続いて一斉に頭を垂れた。
 開拓者達もそれに呼応し、開拓の地で待っていると告げると、その言葉を持って訓練の一切が終了となった。
 その後は斉藤の提案で徹夜の飲み会が提案され、雨宮も交えて屋敷の宴会場を使って大宴会が設けられた。
 それまで真面目に訓練に勤しんでいた兵士達も今ばかりは羽目を外し、志藤などはいまいち乗り切れないところもあったようだが、開拓者達と共に盛大に盛り上がり、いずれ戦いの場で並び立つ日を互いに楽しみにしつつ、今この時を目一杯楽しんだ。
「さてさて、これからが本番だ。開拓、楽しみだねぇ」
 雨宮の零した呟きは皆の声に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。