忠霊もふ公
マスター名:野田銀次
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/18 00:33



■オープニング本文

●待ちぼうけ
 理穴の首都、奏生に程近い商業街。
 そこには大きくも小さくも無い、ごくありふれた規模の飛空船発着場があった。
 毎日決まった時間に、様々な大きさや装いの飛空船が、あちらこちらへと飛んでいく。それはこの町では極々ありふれた風景だ。
 そんな見慣れた町の様子に、この日は一つだけ違和感を感じるところがあった。
 発着場の正門前にある小さな広場。そこに佇む小さな影が、違和感の原因だった。
 影の主は、これまたごくごくありふれた見た目のもふらさま。
 このもふらさまがそこに佇んでいる事自体は、なんらおかしいことではなかった。
 もふらさまはこの発着場で働く飛空船乗りを飼い主としており、毎日決まった時間に此処にやって来ては、飼い主の仕事が終わるのを待ち、そして一緒に帰る事が日課だった。
 では何故、今日に限ってもふらさまがそこに居る事に違和感を感じるのだろうか。
 答えは簡単だった。もふらさまがいつもなら居ない時間からずっとそこに居続けているからだ。どうやら昨日の夕暮れからずっと動かずに居るらしい。
 もふらさまが飼い主と共に家に帰らず、その場に留まり続けている。それはつまり、飼い主である飛空船の乗組員が、昨日は帰ってこなかったということ。
 それでも尚、もふらさまは健気に広場で待ち続けているのだ。
 もふらさまは、飼い主が乗った飛空船が魔の森の付近に墜落したという事実を、この時はまだ、知る由も無かった。

●人でなくとも
「おい、飛空船落ちたって本当か?」
「多分な。どうやら魔の森の近くに落ちたらしいぞ」
「こないだも朱藩でデカイのが落ちたばかりだってのに、怖いねぇ」
 情報はまず噂話として人々の間に広まった。
 関係者の間では秘密裏に扱われていた情報も、どこからか漏れ出せばすぐに広がる。
 気がつけば町中は飛空船墜落の話題で持ちきりだった。
 他人事のように話している者もいれば、乗組員の身を案じている者もいる。
 話を聞いた人々の反応は様々だったが、話を耳にするや否や真っ先に飛空船発着場へ向けて駆け出したのは、一人の少女だけだった。
 彼女は知っていた。毎日発着場の前で飼い主の帰りを待っているもふらさまの事を。
 そして、飼い主である乗組員の青年の事を。
「あ‥‥」
 彼女の予想通り、発着場の正門前広場には一匹のもふらさまが佇んでおり、じっと正門の方へ視線を向けていた。
 駆け寄って声を掛けても、少しこちらを見るだけですぐに視線を戻してしまう。
 もふらさまなりに事態のおかしさに感づいているのだろう。その瞳はもふらさまとは思えぬ程真剣だった。
「もふちゃん‥‥」
 少女は事実を話せず、しばらくの間その場に立ち尽くしていた。
 いずれはもふらさまの耳にも届く事だろうが、それでも、彼女は自分の口から事実を伝えることが怖かったのだ。
 もしかすると、もうもふらさまは話を聞いてしまっているのかもしれない。
(‥‥桂さん)
 少女は乗組員の青年の名前を頭の中で繰り返し呼びながら考えに考え、やがて意を決した顔で立ち上がり、もふらさまには何も言い残さずその場を離れた。
 彼女の向かった先。それは、つい先ほど届いた飛空船乗組員の救助依頼の対応に追われて騒がしい、開拓者ギルドだった。


■参加者一覧
天寿院 源三(ia0866
17歳・女・志
九鬼 羅門(ia1240
29歳・男・泰
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
スワンレイク(ia5416
24歳・女・弓
支岐(ia7112
19歳・女・シ
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
ニノン(ia9578
16歳・女・巫
シア(ib1085
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●急行
 発着場を飛び立った一隻の中型飛空船。
 乗組員はいつもとは違う。操舵師以外は全て、墜落した飛空船の乗組員を救助するべく集った開拓者達。
 緊迫した空気に、皆の表情は強く引き締まっている。
 艦橋の窓から見える魔の森の禍々しい姿が徐々に近づくにつれ、一行の表情はより険しいものになっていった。
 魔の森とそうでない場所との狭間。まさに紙一重の場所に、不自然に木々が倒れている箇所を発見した一行は、逸る気持ちを抑えながら用意を整え、船が墜落箇所付近の開けた場所に着陸するや否や、すぐさま外に飛び出した。
 目の前に広がる森の中に開拓者達が入ってくのを確認すると、一行を運んできた飛空船は再び上昇し、墜落現場付近の上空を旋回しながら待機する手はずとなっている。
 飛空船が飛び立った音を背に受けながら、昼間だというのに妙に薄暗い森の中で助けを待つ人々のもとへ、開拓者達は急ぎ、向かっていった。

●命辛々
 森に入った開拓者一行は、魔の森との接点となっている方角へと急ぎ足で向かった。
 飛空船から確認した凡その位置を地図に書き込み、そこへ向けて一歩一歩歩みを進める。
 草を踏む音だけが辺りに響き、それに反応して驚いたように飛び立つ鳥達の鳴き声が時たま聞こえるだけの、静かな森だった。
「‥‥あ、東の方、何かあります!」
 心眼で辺りの生命反応を調べつつ進んでいた天寿院源三(ia0866)は、心眼で捉えられない別の影を遠目に見つけ、踏み出しかけていた足を止めて周囲の仲間達に知らせた。
「あの大きさ‥‥きっとあれですわ! 急ぎましょう!」
 希望に目を輝かせるスワンレイク(ia5416)をはじめ、他の方向へ視線を向けていた仲間達も一斉にそちらへ注意を向け、天寿院が指し示す巨大な影へと視線を移した。
 それが件の飛空船であるという確信を持った一行は進路を修正しつつそちらへ向かい、飛空船が墜落した際に倒れたであろう木々を掻い潜りながら、半壊した飛空船の下へと辿り着いた。
「中々の壊れっぷりじゃのう。これは中の様子も期待は出来んな」
 ニノン・サジュマン(ia9578)が呟くように言った言葉に反論するものは当然ながら誰一人居らず、見たままの惨状を素直に受け入れ、一行は一層気を引き締めて飛空船に近づいていった。
 船の外郭をなぞる様に歩き、壊れて半開きになった扉を見つけると、隣接している魔の森からの歓迎されざる来訪者を警戒しながら、静かに船内へと入っていった。
「うむ、予想通りというか‥‥酷い有様だ」
 皆が予期していた通りの船内の様子に、神鷹弦一郎(ia5349)は思わず目にしたままの感想を口にした。
 船体に衝撃を与えぬようそっと、それでいて急ぎつつ、一行はどこかにいるはずの乗組員達を探して、船内を奥へ奥へと進んで行った。
 船内は至って静かで、アヤカシやケモノなどが侵入した様子も無い。墜落の際にうまく衝撃を避けてさえいれば、乗組員達は無事でいるはずだと信じながら、船室一部屋一部屋を慎重に調べていく。
「‥‥ん? 今物音が‥‥」
 その静けさ故に、些細な物音もしっかりと開拓者達の耳には届く。
 微かに耳に届いた物の転がる音を聞き逃さなかった支岐(ia7112)が示す船室へ少しだけ急ぎ足で向かうと、そこでは怪我を負った乗組員数名が身を寄せ合うようにして蹲っていた。
「皆さん無事ですか‥‥っ!?」
 思わず叫び声を上げながら船室に飛び込んだ郁磨(ia9365)は、乗組員達の怪我の状態を確認し、すぐに持ち物から薬草と包帯を取り出し、応急処置に取り掛かった。
 他の開拓者達も船室内に入り、治療の用意をしていた開拓者達は郁磨に続いて応急処置に取り掛かり、神鷹は鏡弦を用いて、支岐は自らの目と感覚で周囲の警戒を行った。
「こちらの方は骨折ですか‥‥添え木になりそうなものは‥‥」
 足の骨が折れてしまっている乗組員のための添え木を探して船室の奥へ向かったシア(ib1085)と入れ替わるように乗組員達に近寄っていった九鬼羅門(ia1240)は、骨折している乗組員の他の箇所の怪我を診ていた。
 腕などにも切り傷や打撲などを負っており、彼が現状で一番の重傷者だ。足元に散らばっているガラス片が怪我の原因だと、九鬼は判断した。
「酷いもんだが、とりあえず生きちゃいるんだ。ちゃんと家に帰してやるから、安心しな」
 痛みに息も絶え絶えだった乗組員はその言葉を聞いて、微かながら安心したような表情を浮かべた。
「‥‥八人しかいらっしゃいませんね。私どもが聞いておりました情報では十人いらっしゃるとのことでしたが、これで全員でございますか?」
 支岐の問いに、乗組員達は思い出したように慌てた表情で身を起こし、開拓者達が懸念していたもっとも恐ろしい事実を口にした。
「二人、外に出ていったんだ‥‥アヤカシが寄ってきたから、動ける俺達が注意を逸らすって言って‥‥」
 その可能性もあり得なくはないと予想していた者もいたが、それでも開拓者達は乗組員の言葉を聞いて驚愕した。
 襲ってきたアヤカシがなんなのかにもよるが、一般人が相対してまともに戦えるはずがない。
 そんなものの注意を自分達に引きつけるという行動は、よほどの実力者でなければ捨て身にしかならないだろう。
「そいつらの名前と特徴を教えてくれ。まさかとは思うが‥‥」
 そう言いながら感じていた、九鬼の予感。それは開拓者達全員の感じていた嫌な予感と同じであった。
「一人は大柄で髭面の男で、大倉篤彦っていう名だ。もう一人は細身で中背の真面目そうな顔した男だ。名前は、桂清次郎」
 的中してほしくなかった予感の真ん中を射られ、思わず息を呑んだ開拓者達は、何も言わずにそれぞれの成すべき行動に移った。
 あらかじめ救助班として編成されていたシア、ニノン、九鬼、郁磨をその場に残し、神鷹、天寿院、スワンレイク、支岐の四人は、外に出たという二人を助けるべく船室を飛び出していった。
「すまねぇ、自分達が助かるってことで頭が一杯になって、言い出すのが遅くなっちまった‥‥」
 未だ痛みが残る傷口を押さえながら俯く乗組員に神風恩寵を使用しながら、ニノンは落ち着いた様子で首を横に振って返した。
「こんな状況ならば仕方のないことじゃ。二人が無事に戻ったら、ちゃんと礼を言うのじゃぞ?」
 傷が癒えていくのと同時に、乗組員は思わず涙を零していた。
 もはや助からないと皆が覚悟を決めていたそうだが、こうして辛くも命をつなぎ止めることができた。
 しかし、未だ恐怖と戦い、助けを求めている者達がどこかにいる。
 その二つの命もしっかりとつなぎ止めるため、捜索班の四人は強い使命感のもと森へ向かい、救出班の四人は皆が戻ってくるこの場を任された使命感のもと、捜索班の背を見送った。

●静かなる戦い
 飛空船の外に飛び出した四人の開拓者は、船の周囲を再度見回し、アヤカシや人の通った痕跡を探した。
 先ほどは気がつかなかったが、確かに森の中へと人が入っていったような形跡が残されている場所が一カ所だけあり、そこから捜索対象である二人が森の中へ入っていったことは間違いなかった。
「あまり遠くに行っていなければいいのですが‥‥」
 踏み倒された草や足跡を頼りに森の奥へと進んでいく開拓者達。
 一行の気持ちを代弁するように、天寿院は小さく呟いた。
 進んでいる方角は、魔の森に近からず遠からずといったところで、下手をすればより多くのアヤカシに存在を感じ取られかねない。
「一般人ならば早々に体力も尽きるはずだ。どこかに身を隠しているといいんだが」
「後はアヤカシが知能の低い下級であることを願うばかりですわね」
 神鷹の意見にスワンレイクがもっともな言葉を繋げ、皆がそれに無言で頷いた。
 僅かな可能性に一縷の望みを託し、開拓者達は立ち止まることなく森の奥深くへと進んでいくと、支岐が突然何者かの足音を耳にした。
「‥‥! 今の音、聞こえましたか?」
 それは皆が耳にしており、一様に頷いて答えた。
 すぐさまスワンレイクは鏡弦を使用して細かな場所を探り、悟られぬようにそっと音のした方角へ歩みを進めた。
 音のした場所に近づくにつれ、スワンレイク以外の面々も何者かの気配に気付きはじめた。
「なるほど、こいつらですね」
 進んだ先で彼らが目にしたのは、何かを探して右往左往している小鬼の群だった。
 重武装したものもいれば、群を指揮をしている赤鬼もいる。そこそこに纏まりのある部隊のようだ。
 この様子を見た四人は早く二人を見つけなければいけないという緊張感と同時に、僅かな安心感も感じていた。
 小鬼達が件の二人を探していることはほぼ間違いなく、それはつまり二人が存命であるということを意味している。
 四人はひとまずこの場の小鬼には手を出さず、気づかれぬように静かに離れていった。
 小鬼達と開拓者達。どちらが先に二人の元へ辿り着くか。
 静かなる戦いの始まりだった。

●待ち人達
「あいつら、大丈夫ですかね‥‥」
 救出班の治療がほぼ終わり、船室内は落ち着いた空気になりつつあった。
 そんな中で、一人の乗組員が誰にでもなく小さな声で呟くと、船の備蓄から軽い食料品などを探して戻ってきたシアが、手にしていた乾物の詰め合わせを差しだしながら答えた。
「探しに出た人達は皆腕利きです。安心して待っていてください」
 シアの言葉に対してか、差し出された食べ物に対してか、乗組員は礼を言いながら乾物を受け取ると、その包みに描かれていたもふらさまの柄を見て、もの悲しい表情を浮かべた。
「外に出てった二人の片っぽ‥‥桂清次郎の方ですが、あいつもふらさまを飼ってるんですよ。こいつがまたもふらさまの癖に珍しく生真面目な性格で、毎日あいつの仕事上がりの時間を見計らって仕事場まで迎えに来るんですよ」
「お聞きしています。そのもふらさま、まだ発着場の門前で待ってるそうです」
「知り合いだっていう嬢ちゃんがギルドに知らせに来たんだが‥‥」
 郁磨と九鬼の言葉を聞いた乗組員は、『やっぱりな』と言いながら深い溜息を吐き、続けた。
「その女の子、あいつの幼なじみだそうで、あの歳になってもずっと一緒にいるんですよ。あの子の方が年下だそうですが、事あるごとに仕事場に顔を出してはあいつにちょっかい出してました」
 桂清次郎と少女の関係を知り、この場にいる乗組員達にとっても、少女やもふらさまはまた会いたいと思える存在なのだと、開拓者達はうっすらとだがそう感じていた。
「大丈夫じゃ、森へ入った二人も必ず一緒に帰れる」
 ニノンの言葉はその場に居た開拓者だけではなく、捜索に出ている四人も含めた全員の創意であった。
 全員を無事に連れて帰る。
 二手に別れた開拓者達の意志は、言葉にせずとも一つになり、繋がっていた。

●勇敢なる意志
「間に合え!」
 岩場の陰で身を隠していた二人の乗組員を開拓者達が発見したのと、小鬼の一団が二人に凶刃を振り上げたのとは、ほぼ同時だった。
 神鷹がとっさに鷹の目と即射で小鬼の眉間を射抜き何とかしのいだが、小鬼は次々と現れ二人を狙う。
 早駆で瞬時に距離を積めた支岐の鎌鼬が小鬼達を退けている間に他三人も距離を積め、天寿院は支岐と共に前に出て刀を振るい、スワンレイクと神鷹は傷だらけの乗組員達を庇うように立って弓を構えた。
「やらせはしません!」
 小鬼の大振りな攻撃を横踏で回避し、平正眼の構えから繰り出す突きで撃退する天寿院。
 止まらずに動き続ける彼女に気を取られている小鬼は、支岐の振るう鎌鼬が逃さず仕留め、頭数で劣る二人の死角に迫る小鬼はスワンレイクと神鷹の放つ矢が射抜く。
 乗組員達を狙っていた小鬼を倒しきるのに、然したる時間はかからなかった。
「ふぅ、ご無事でなによりですわ。あなたが大倉篤彦さん、あなたが桂清次郎さんですわね」
 全ての小鬼を倒し終えると、まずスワンレイクが二人を振り返り、様子を確認しながら問いかけた。
「はい、そうです‥‥あなた達は開拓者さんですね。船の方は‥‥」
 答えたのは桂清次郎だった。
 自身も傷だらけだというのに仲間達の心配をする様に、スワンレイクは話に聞いていたもふらさまの健気さに通ずるものを感じ、思わず涙が滲むのをぐっと堪えた。
「船は仲間が守っています。皆さん無事ですから、安心してください」
 言葉に詰まってしまったスワンレイクに代わって答えた天寿院の言葉を聞いて、二人はようやく安心した表情を浮かべ、肩の力を抜いて深呼吸をすると、ゆっくりと立ち上がった。
 清次郎の右腕が力なく垂れているのを見て、神鷹は悔しさに顔を顰めた。
「駆けつけるのが遅くなって申し訳ない。桂さんに伝言がある‥‥」
 神鷹から聞かされた伝言に、清次郎は申し訳なさそうな、それでいてどこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべながら、やりようの無い気持ちの篭った拳を堅く握っていた。
「まだ小鬼はそこら中にいます。急いで戻るのがよろしいでしょう」
 支岐に促され、一行は二人の足取りを気遣いながらゆっくりと飛空船への帰路を辿っていった。
 
●再会
 捜索班が二人を連れて戻ると、一行はすぐさまギルド支給の狼煙を上げ、上空で待機していた飛空船に合図を送った。
 怪我をしている清次郎らに負担をかけぬよう気遣いながら飛空船に乗せ、飛空船が飛び立つと同時に郁磨の心眼で察知していた小鬼達が木々の隙間から顔を見せ、それを尻目に一行は悠然と魔の森を後にした。
 飛空船は無事に町の発着場へ帰りつき、生還した乗組員達は大勢の関係者に歓迎されながら、慣れ親しんだ地に再び足を着き、思わず涙を流す者もいた。
 開拓者達は人々の中に少女ともふらさまの姿を探したが、どうにも見つからないでいた。
 が、当の清次郎は至って落ち着いた様子で、痛みの残る足を引き摺り、折れて力の入らない腕を押さえながら、ある場所へと向かっていった。
 迷い無く進んでいく彼の目線の先にあるものに気付いた開拓者達は、何も言わずに後に続いた。
「あ‥‥」
 そして、清次郎が向かった発着場の門の向こうにある小さな広場に、彼をひたすらに待ち続けていた二つの影があった。
「‥‥ただいま」
 ただ一言、清次郎が小さく発したその言葉を聴いた途端、それまで唖然とした表情で見つめていることした出来なかった少女は途端に大粒の涙を流しながら駆け出し、その足元でじっと腰を落ち着けていたもふらさまも、堅く引き締められていた表情を綻ばせながら続いた。
 固く抱擁し合う二人と一匹を見守る開拓者達は何も口にせず、ただ静かに見守っていた。
 それまで一言も話さず、鳴き声も発さなかったもふらさまの、とても嬉しそうな鳴き声が、発着場前広場を包み込むようにそっと響き渡っていった。