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■オープニング本文 ●不敵な仮面 それは突然やって来た。 武天随一と謳われる宝石商、権堂郁哉の所有する大型飛空船が鎮座している広大な飛空船発着場では、荷の積み込み作業に追われる大勢の人々が忙しなく走り回っていた。 積荷のほとんどは、権堂が取引や商売に用いる数々の煌びやかな宝石。どれもこれも早々目にする事など叶わないような高価なものばかりである。 「ふむ、新調した飛空船、中々いいものだな。美しい物を運ぶには、やはり船も美しくなければ」 次々と荷が積み込まれていく様子を、宝石と同じように高級な茶を啜りながら眺めている権堂は、これからこの宝石たちが自分にもたらす富と繁栄を妄想し、自然と口元を緩めていた。 その口から漏れる微かな笑い声は誰の耳にも届かないほど小さなものだった。 しかし、それとは反対に『彼』の笑い声は作業の音を掻き消すほどに高らかと響き渡り、発着場にいる全ての人々の耳を引き付けた。 突然鼓膜を揺らした高笑いに驚きながら、人々は辺りを見回し、やがてある一点に全員の視線が集中した。 「はっはっはっはっはぁー! 聞けぇ! 発着場中の全ての人々よ! 我が名は仮面の紳士、剣奏! 権堂郁哉殿の財宝を頂くべく参上した!」 いつの間にやら飛空船の甲板に仁王立ちしていた仮面の男の叫びに、作業をしていた人々は何事かとざわつきだした。 ただの悪ふざけなのか、それとも本気なのか。それすらよく分からない。 剣奏と名乗った仮面の男は、身に纏った漆黒のマントを風に揺らせながら、自分を見上げている人々をぐるりと見回しながら言葉を続けた。 「だがしかし! 私がここでただ盗むだけでは面白くはない! 五日後、また改めて参上いたす! その時までに何でも対策を講じるがいい!」 権堂は手にしていた茶碗が手元を離れ、足元で砕ける音を聞いて驚くまで、ただ呆然と剣奏の堂々とした姿を見つめていた。 ただの馬鹿馬鹿しい行動とも見えるが、誰にも気付かれずに飛空船に進入し、甲板にまで登っていたという事実は、この怪しげな仮面の男の言動に妙な説得力を持たせた。 「諸君らが宝石を守りきるか、我が宝石を手に入れるか‥‥一世一代の大勝負といこうではないか! 一応言っておくが、我は本気だ。心して準備しておくがいい。ではまた会おう! はっはっはっはっはぁ!」 何も言い返すことが出来ない人々を放置したまま、剣奏はそう言い残すとマントを翻して忽然と姿を消した。 どこに、どうやって消えたのか。突然の消失に皆が慌てふためきだすと、剣奏の消失を合図にしたかのように、飛空船を形作っている部品や外装の一部がけたたましい音を立てて崩れ落ちた。 これが偶然などではなく、剣奏による飛空船出航を早める事に対する妨害であることは明白であり、船体が崩壊するとまではいかなかったものの、その効果は十分だった。 彼が何者なのか、何故突然このような行為に及んだのか。誰にもその真相は分からなかったが、権藤にはただ一つ、分かっている事があった。 剣奏と名乗ったあの仮面の男は再びこの場に現れ、自分の自慢の宝たちを盗み去っていこうとする。 それだけは何としても阻止しなければいけない。 「だ、誰か! すぐに開拓者ギルドへ使いを出すのだ! 急げ!」 慌てふためく作業員たちの声を掻き消すように、権堂は発着場中に響き渡る大声で叫んだ。 その声を、既に発着場からだいぶ離れた場所にいる剣奏は、仮面の裏に怪しげな微笑を浮かべながら聞いていた。 「さぁて、楽しませてくれよ」 |
■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
鬼島貫徹(ia0694)
45歳・男・サ
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
神無月 渚(ia3020)
16歳・女・サ
朱点童子(ia6471)
18歳・男・シ
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
春金(ia8595)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●嵐の前の下準備 剣奏が犯行予告をした飛空船発着場は、一見いつも通りの様子を保っているように見えた。 そのように振舞えと、ここを取り仕切っている権堂郁哉の指示であったが、当の権堂郁哉自身は、目の前に立つ朱麓(ia8390)と小伝良虎太郎(ia0375)の視線を受けて動揺を隠せずにいた。 「さっきから言っている通りだ、人の恨みを買ったりなどしとらん。わしの宝石に欲の目が眩んだだけじゃろうて」 恨みを買うような覚えは無いのかという朱麓の質問に対し、身振り手振りを交えて大仰に語る権堂を見て、朱麓はそれ以上追求せず、権堂の元を後にした。 小伝良も、権堂に何か身に着けている貴重な宝石などは無いかと問いかけ、高価な宝石を埋め込んだ指輪を幾つか着けていると知ると、持参した呼子笛を渡し、何かあれば吹いて知らせるようにと告げて朱麓の後を追った。 「ねぇ、やっぱ何か隠してるんじゃないのかな?」 落ち着かない様子の権堂を振り返りながら、朱麓に追いついた小伝良が呟くように聞いた。 朱麓は小伝良にだけ聞こえる程度の声で呟くように答えたが、権堂を振り返ることはしなかった。 「一応揺さぶってはみたけど、派手に疑いまくる訳にもいかないし‥‥とにかく、宝石を守るっていう仕事だけは、しっかりやろう」 小伝良は「そうだね」と言って力強く頷くと、飛空船の様子を見てくると言い残して朱麓の元を離れて駆け出した。 その後ろ姿を見送る朱麓の視線の端には、発着場の警備員達を捕まえて質疑応答を行っている鬼島貫徹(ia0694)と詐欺マン(ia6851)の姿があった。 鬼島と詐欺マンは警備員や作業員の中に剣奏が潜んでいないかを調べるため、また、潜む事が出来ないようにするために、各人員の身辺調査を行っており、今まさに鬼島に目を付けられた警備員が、その鋭い目でしっかりと見据えられながら調査を受けていたところだった。 「ふむ‥‥よし、行っていいぞ」 人員のリストを手にした鬼島の刺さるような視線を受けていた警備員は、そう言われるや否や小走りで去っていった。 何かを後ろめたい理由がある訳では無く、単に鬼島の視線を怖がっていただけだったのだが、鬼島は去っていく警備員の背を訝しげに追っている。 その横で詐欺マンも別の警備員と言葉を交わしていたが、こちらはいたって砕けた様子で、いつしかただの談笑になってしまっていた。 仲良くなっておけば後で怪しいところを見分けやすいという詐欺マンなりの考えであったが、鬼島はそんな詐欺マンを置いて、一人黙々と次の場所へ向かって行ってしまった。 「おや、詐欺殿。お屋形様‥‥じゃなくて、鬼島殿が行ってしまわれましたぞ」 そこへ通りかかった相馬玄蕃助(ia0925)に言われて気付いた詐欺マンは、話をしていた警備員に別れを告げると、その姿に見合わぬ速さで鬼島を追いかけていった。 相馬は警備員達の配置や人数の確認を行っていたのだが、何故かその手にはヴォトカが握られており、先ほどまで詐欺マンと話をしていた警備員がそれに気づいて驚いていると、相馬は何の臆面もなくヴォトカを勧めだした。 結局警備員には勤務中だからと断られてしまい、相馬は少し残念そうにしながらも、次の確認場所へと向かった。 「うわぁ、これは酷いのぉ。神無月さん、どう思う?」 時を同じくして、犯行予告のあった日に剣奏によって破壊された飛空船の幹部には、飛空船の状況を調べに来た神無月渚(ia3020)、春金(ia8595)、そして小伝良が集まっており、その損傷状況を見て、春金は呆れ顔で呟いた。 「スキルとトラップを併用している・・・・ような気がする。つまり・・・・」 破壊された外壁、動力系の機器をまじまじと見つめながら言う神無月に、意見をする者はいなかった。 他の二人の目から見ても、その壊され方は自分達の行う破壊の痕跡に近しく感じられる。 相手は志体を持つ者であると三人が確信を得ると、飛空船内の倉庫に宝石を移動させる作業を行っていた朱点童子(ia6471)が、三人のところに顔を見せた。 「おう、ブツは全部移動させたぞ、あれなら守り易いだろう。通気孔とかも今塞いでもらってるとこだ」 朱点はそう言うと、飛空船を三人に任せて警備員の身辺調査へ合流にしに向かった。 春金らはその背を見送り、やがて再び破壊された飛空船を見上げた。 謎の仮面男、剣奏。 その襲撃に備えて開拓者達は着々と準備を進め、そしてついに・・・・その日を迎えた。 ●最初の衝突 当日。各々の配置について待ち構えていた開拓者達の前に、それは突然現れた。 飛空船の外部を巡回していた朱麓の心眼が、警備員の網を掻い潜って接近する人影を捕らえ、一緒に行動していた春金が呼子笛を鳴らして周囲に警戒を促したのとほぼ同時に、仮面と黒マントに身を包んだ男が音も無く二人の目の前に姿を現した。 「真正面から来るなんてね! 甘く見られちゃった?」 行く手を阻むように立ち塞がる二人に剣奏は怪しげに笑いながら向かっていき、二人の頭上を飛び越えるように跳躍した。 「させんのじゃ!」 高く飛び上がった剣奏に向けて、春金は大龍符を放って牽制をかけた。 剣奏は迫り来る龍の幻影に一瞬たじろいだものの、構わず二人の頭上を勢いに任せて通り抜けようとした。 「今じゃ姉御!」 が、その一瞬の隙に朱麓は跳躍しながら手にした槍を突き上げ、剣奏の足元を狙って攻撃を仕掛けた。 慌てて身を翻した剣奏は寸でのところで槍の切っ先をかわして着地し、懐から短刀を抜いて構えた。 剣奏が交戦の構えを見せるや否や、朱麓はすぐさま間合いを詰め、槍を連続して突き出し、剣奏はそれを防ぎこそしているものの、押されているのは明らかだった。 槍のリーチを生かして一方的に攻撃を仕掛ける朱麓は、剣奏が自分のペースにハマってしまっているのを確認すると、フェイントを仕掛けてリズムを崩し、ものの見事に隙を作ってしまった剣奏の顔面すれすれのところを狙い、鋭い一突きを放った。 「もらった!」 高々と声を上げ、朱麓は槍の穂先に付いている小さな鎌の切っ先を、剣奏の仮面に引っ掛けながら槍を引き寄せた。 てっきり自分を攻撃することを目的としていると思っていた剣奏は、朱麓が取った行動に驚いていた。 仮面を固定していた紐が解け、槍の切っ先に引かれながら剣奏の顔を離れていく。 そして、気が抜けてしまうほど軽い音を立てながら仮面は地に落ち、露になった剣奏の顔を見て朱麓がにやりと笑ったかと思うと、接近していた春金の呪縛符が剣奏の動きを封じ、その隙に朱麓の槍が剣奏の喉元を捕らえた。 「ナイスだよ春金。しかし、思ってたよりパッとしない顔だねぇ。それに結構あっさり‥‥」 膝をついた剣奏に余裕の表情で語る朱麓だったが、その言葉が終わるより早く、彼女らの耳に甲高い呼子笛の音が届いた。 二人が驚いて視線を向けた先。それは飛空船の甲板上だった。 ●甲板の死闘 予期していないわけではなかった。 だから、飛空船の甲板上で待機していた鬼島は、眼下で朱麓と春金が剣奏との交戦を開始してもその場を動かなかったのだ。 だが、驚いていない訳でもなかった。 勝負がついたとそう思った瞬間、自分の背後にただならぬ気配を感じ、急ぎ振り返った時には既にそこに『もう一人の剣奏』の姿があったのだから。 咆哮の射程範囲内であったことが幸いし、猛々しい雄叫びで剣奏の気を引き付けると、鬼島は剣を抜き、真っ向から向かっていった。 迎え撃つ剣奏も刀を抜き、上段から振り下ろされる鬼島の一撃を受け流しつつ、身を翻して回避し、鬼島は攻撃の勢いのまま剣奏と入れ替わるように移動した。 剣奏が向かっていた船内への入り口を背にし、鬼島は剣を構え直すと、不敵な笑みを浮かべて言った。 「ククク、コソ泥にしては面白い。どちらが本物かは知らぬが、容赦なく引っ捕えてやるわ」 それを受けて、剣奏も同じように不敵な笑みを仮面の隙間から零しながら、刀を突きつけつつ言い放った。 「ふふふ‥‥では、楽しもうではないか!」 その言葉をきっかけに駆け出した両者の刃は真っ向からぶつかり合い、発着場中にけたたましい音を響かせた。 ●影より出でし 「うわっ! すごい音がしたでござるな。やはり外に剣奏が‥‥」 飛空船内を巡回していた相馬は、先ほどから聞こえてくる笛の音や剣撃の音などが気になってしょうがない様子だったが、どこで何が起こるか分からない以上、持ち場を離れるわけにもいかないでいた。 相馬は逸る気持ちを抑えつつ、十手を手に気分を高揚させながら、一歩一歩静かに歩みを進め‥‥出会った。 遠くの方で警備員と思しき者の悲鳴が聞こえたかと思うと、相馬の目の前の壁が凄まじい音を立ててぶち破られた。 舞い散る埃の中を駆け抜けてくる黒い影を見て、相馬は思わず声を上げて驚いたが、すぐさま十手から槍に装備を変え、シノビの早駆の如き速さで迫り来るその者を迎え撃った。 「ここにも剣奏!? 春金殿が調べた進入経路には全て警備員を配置したというのに‥‥」 再度驚きながらも槍を横薙ぎして接近を妨げ、相馬は立ち止まった相手、剣奏と思しき人物と相対した。 二人が対峙している場所は狭い通路。通り抜けようにも、槍を構えて立ち塞がっている相馬がいる限り、それは容易な事ではない。 しばらくの間じっと対峙し続けていた両者だったが、やがて相馬が先手を取って剣奏に接近し、攻撃を仕掛けた。 が、剣奏は攻撃を受けるでもかわすでもなく、自分の右側の壁を思い切り蹴り飛ばしたかと思うと、穴が開いて脆くなった部分目掛けて飛び込んでいったのだ。 剣奏の体重を受けて壁は崩壊し、再び舞い上がった埃を目眩ましにしながら、剣奏はどこかへと姿を消してしまった。 「しまった! 倉庫が危険でござる!」 相馬は急いで踵を返し、剣奏が向かったであろう倉庫を目指し、駆け出した。 ●宝前での激突、そして‥‥ 飛空船を振動させるほどの音が響き渡り、倉庫内に待機していた小伝良、神無月、朱点、詐欺マンの四人は、いよいよ自分達の目の前にも何かが迫っている事を予期し始めていた。 外で何が起こっているかは分からない。だが何かが起きている事は確かだ。 それが複数箇所で起きているのであれば、自分達のいるこの倉庫でも、何かが起きてもおかしくはない。 今回の相手は神出鬼没で不可思議な存在なのだから。 「きた!」 真っ先に声を上げたのは、背拳を発動しながら周囲を警戒していた小伝良だった。 倉庫の左側の外壁を破りながら飛び出してきた人影を指し、皆もそれに向けて視線を走らせ、各々の武器に手をかけた。 「やはり、ここには大勢いらっしゃるな。それでこそだが‥‥」 四人の目の前に姿を現した剣奏は両側の腰に挿していた刀を二本とも抜き、腕を横に広げるようにして構えた。 「すっげぇ派手に出てきたなぁ! 泥棒とは思えないや!」 そう言いながら先陣を切って剣奏に向かって駆け出した小伝良は、剣奏が射程内に入ったのを確認するとすぐに空気撃を放った。 咄嗟に横に跳躍して回避しながら、剣奏は小伝良に続いて接近してくる神無月を避けてやり過ごそうとしたが、神無月の奇声にも似た咆哮を受け、体が勝手に神無月の方を向いてしまっていた。 仕方無しに真っ向から振り下ろされた刃を刀身で受け止めると、剣奏は自分の後ろへと刀身ごと神無月を受け流した。 「こっちもいるぞ!」 間を与えずに、今度は朱点が視線を正面に戻した剣奏の目の前に飛び出し、斬撃符で攻撃を仕掛けた。 迫り来るカマイタチの式を、剣奏は刀で受け流そうとしたが間に合わず、肩口を切り裂かれて鮮血が飛び散った。 剣奏は仮面の内側で表情を歪ませていたが、それを悟らせない勢いで駆け出し、目の前の朱点に向けて刀を突き出して牽制しながら、脇を擦り抜けるようにして朱点の背後へ回り込んだ。 「ビンゴでおじゃる」 しかし、それを待ち構えていた詐欺マンが放った水遁によって発生した水柱に弾き飛ばされて、剣奏は軽々と宙に舞った。 「これは良きタイミング! はぁ!」 水圧によるダメージに耐えながら、何とか態勢を立て直そうとする剣奏に、更に追い討ちをかける者が現れた。 倉庫に駆け込んできた相馬は状況を確認すると咄嗟に飛苦無を取り出し、未だ宙を舞っている剣奏目掛けて投げつけた。 苦無は見事に剣奏の仮面に直撃し、ひび割れた仮面は空中でばらばらに砕け散った。 落下位置には小伝良が牙狼拳の構えで待ち構えており、完全に劣勢に追い込まれた剣奏であったが、最後の悪あがきと言わんばかりに空中で強引に身を捻り、無理やりに態勢を立て直しながら落下位置を調節して、開拓者達の包囲網の外に何とか着地をした。 開拓者達は急いでその背に追撃をしかけたが、剣奏の足の方が僅かに速く、攻撃が剣奏の背を捕らえるより先に、剣奏の足が宝石の入った箱の周囲5m以内にまで近づいた。 それ以上、剣奏の足が前に進む事は無かった。 箱を中心にして春金が仕掛けておいた地縛霊が剣奏の進入に反応して発動し、地面から突如として出現した式の攻撃を真っ向から受け、剣奏は宝石の箱に触れることなく、その場に倒れ伏した。 「ふふふ‥‥多勢に無勢‥‥いや、実力の差か」 剣奏は抵抗する事をやめたが、開拓者一行は気を抜かずに剣奏を包囲し、外の仲間に剣奏捕縛の知らせを送ろうとしたが、その行動を遮るように、高々とした笑い声が飛空船内、及び発着場に響き渡った。 「はぁーっはっはっはっは! 流石だ開拓者諸君! 今回は我の負けだ、大人しく引き下がろう! もうこれ以上『剣奏』は出てこないから安心したまえ。我は約束は守る男だ! だがまたいずれ、ここ以外のどこかで現れるかもしれない。その時は再び、あいまみえようぞ!」 剣奏を荒縄で捕縛し終えたところの鬼島も、飛空船外の朱麓と春金も、倉庫内の五人も、皆どこからとも無く聞こえてくる悠然とした声の出所を探して視線を動かしたが、結局その姿を見つけることは出来なかった。 最後の剣奏が言い残したとおり、それ以降は何者の襲撃も無く、宝石は無事に守り切ることが出来た。 捕らえた三人の剣奏は当然ながら皆違う顔をしており、誰一人として自分達の秘密を話そうとはしないまま、役人に連れられていってしまった。 結局剣奏という男の存在は謎のままであるが、一つだけ分かった事がある。 実は、あの権堂郁哉という宝石商は不正取引などの黒い噂が耐えなかったのだが、あの事件以降めっきりその活動が大人しくなったという。 この事だけは確かな事実として、今回の依頼に参加した開拓者達の耳にしっかりと届いていたのだった。 |