落っこちた!
マスター名:野田銀次
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/11 00:54



■オープニング本文

●落し物
 朱藩の飛空船発着場を飛び立った一隻の大型飛空船。
 その巨大な船体は風を切り、首都安州の上空を威風堂々と飛行していた。
 船内には食料品や工芸品など、様々な物資が積み込まれている。
 中には家畜などの動物も僅かながら含まれており、慣れない飛空船での移動に興奮しているのか、船内には動物達の鳴き声が響き続けていた。
「むぅ‥‥流石にこうやかましいと敵わんな。操舵を誤りそうだ」
 操舵室にまで届く鳴き声に顔を顰めながら、飛空船の舵をとっている中年の操舵師が独り言のように呟くと、傍らで耳を押さえながら外の様子を見ていた坊主頭の船員が操舵師の方を向き直って言った。
「しっかりしてくれよ。牛の鳴き声が理由で墜落なんて真っ平ごめんだぜ」
 そう言うのと入れ替わるように、一際大きな鳴き声が彼らの耳に届き、坊主頭は子供が苦手な食べ物を口元に突き出されたときのような小さい悲鳴を上げ、耳を塞いだままがっくりと項垂れた。
「お前は耳を塞げる分マシだろうが。こちとら両手が塞がって‥‥」
 言い返すように操舵師が口を開くと、彼の言葉を遮るように、彼らが今まで耳にしていた鳴き声とは違う大きな声が、船体を揺らすかのごとく轟いた。
 それが明らかに人間の悲鳴であったため、二人は目を見開いて何事かと驚き、坊主頭が様子を見に行くと言って操舵室を出ようとしたが、それよりも早く操舵室に別の船員が駆け込んできた。
「‥‥大変なことになった」
 駆け込んできた船員が顔面を真っ青にして言い放った最初の言葉。
 それを聞いた二人はしばらくの間言葉を返すことが出来ず、操舵師の男が舵取りだけは何とか乱さないよう気を配りながら、ようやく聞くべき事を口にした。
「な、何があったんだ‥‥?」
 当然坊主頭も同じ事を聞きたかったために、何度も首を縦に振っている。
 顔を真っ青にしていた船員が深呼吸をして呼吸整えると、二人は唾を飲んで彼が言い放つ言葉を受け止めるための心の準備を整えた。
「‥‥もふらさまが、落ちた・・・・」
 二人は何も言葉を返さず、動物達の鳴き声が、空虚に響くだけだった。

●降ってきたのは‥‥
 その様子を見ていた人々は、皆しばらくの間唖然として言葉も出せずにいた。
 最初は鳥か何かが急降下してくるものだと思っていた。
 だが、それは鳥でもなければ急降下してくるわけでもなかった。
 真っ白い玉のようなそれは、丁度そこにあった馬小屋の天井を突き破り、中に積まれていた飼い葉の山に落下したのだった。
「今のってさ‥‥」
「もふらさま‥‥だよね?」
 落下現場である馬小屋に集まってきた人々は、飼い葉の中に埋もれてしまった落下物の状態を確かめようと、飼い葉の山の一角に手をふれた。
 が、その手で飼い葉がどけられるよりも早く、埋もれていた飼い葉から飛び出して来た落下物は、丁度目の前にいた男を弾き飛ばし、あたかも何もなかったかのような堂々とした態度で着地すると、馬小屋の外へ歩きだしたのだった。
「やっぱりもふらさまだ・・・・」
 誰かが呟いた通り、その落下物とは比較的小柄なもふらさまで、やや歩きづらそうにはしているが、怪我の一つすら見受けられない。
 どの程度の高さから振ってきたのかは彼らには解らなかったが、異常に頑丈なもふらさまであることは確かだった。
「なんか‥‥偉そうなもふらさまだなぁ」
「皆あんなもんじゃない?」
「そもそも何で落ちてきたんだ?」
 皆があれやこれやと話している間も、もふらさまは落ちてきた事などまるで気にしていない様子で、馬小屋の外の日当に腰を落ち着けてのんびりとしていた。
 そして、とにかく役所にでも届けようかと誰かが言い出し、もふらさまの方へ一歩を踏み出した瞬間、それは起こった。
 突如人々を掻き分けて現れた一人の男が、大欠伸をしているもふらさまを掻っ攫い、抱きかかえたまま何処かへと走り去ってしまったのだ。
 人々は誰一人状況を理解できず、走り去っていく男と、無抵抗のまま相変わらず欠伸をしているもふらさまを、ただ見送ることしか出来なかった。
 あのもふらさまが、あるもふらさま好きの富豪に届けられるはずだった非常に大事なもふらさまで、走り去った男はそのもふらさまを誘拐し、身代金を要求しようとしていたのだということを、その場に居合わせた人々が知るのは丸一日後のことだった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
レフィ・サージェス(ia2142
21歳・女・サ
藤(ia5336
15歳・女・弓
スワンレイク(ia5416
24歳・女・弓
詐欺マン(ia6851
23歳・男・シ


■リプレイ本文

●敵地視察
 作戦当日の早朝。誘拐犯が指定した取引場所周辺では、仄かに差し込む朝日を浴びながら、数人の人影が動き回っていた。
 指定場所はもふらさまが落下した町から少し離れたところにある丘の頂上。周囲には雑木林が生い茂っており、地面から突き出すように鎮座している岩も所々に見受けられる。
 足場や物陰など、隠れるのに丁度いい場所や、戦闘に向く場所、向かない場所などを細かく調べながら、サムライの三笠三四郎(ia0163)は周囲の様子を紙に書き、作戦のための情報を組み上げていた。
「ふむ、とりあえずはこんなものか」
 彼が視線を手元から上げると、その先には、丘の近くにある雑木林から戻ってきた仲間の姿があった。
 巴渓(ia1334)、スワンレイク(ia5416)の二人は、雑木林の中にあると予想されている誘拐犯の隠れ家を探りに出ていたのだったが、二人の優れない表情から察するに、目的のものを見つけることは出来なかったようだと、三笠は察した。
「お疲れ様です。駄目、でしたか?」
 二人の方に歩み寄り予想を口にする三笠に、二人は頷いて答えた。
「仕方ありません。取引場所周りの調査だけでも、しっかりやっておきましょう」
 スワンレイクの提案に依存のある者は居らず、二人とも三笠の作業に加わり、なるだけ気配を潜めるよう気をつけながら、取引場所周辺の調査や仲間達の配置などを入念に調査していった。
 朝日は徐々にその全景を現し始め、辺りを照らす光も強さを増していく。もうすっかり朝と呼べる時間になりつつあった。
「いい天気になりそうだ。景気が良いぜ」
 暖かな朝日を背に浴びながら、巴は口元をにやりと歪ませ、拳を強く握り締めて小さく呟いた。

●救出作戦
 日がもっとも高く昇った時刻。
 丘の頂上には、誘拐犯との交渉役になった詐欺マン(ia6851)とレフィ・サージェス(ia2142)、雲母坂芽依華(ia0879)が、富豪の代理としてやって来たという体で待機していた。
 傍らには巴の用意した金を小石などで水増しした偽物の身代金が詰まった袋が置かれている。
「どうやら皆、準備万端のようどすなぁ」
 ぐるりと周囲を見回しながら雲母坂が呟くと、隣に凛とした姿勢で立っていたレフィも同じように視線を走らせて頷いた。
「そうでございますね。皆様しっかりと気配を殺しておいでです」
 二人が視線を向けた先々は、事前に調べておいた仲間達の潜伏場所であり、既に二人を除く全員がそれぞれの潜伏場所で気配まで殺して身を潜めている。
 誘拐犯達に感づかれている様子もなく、ここまでは順調に事を運んでいる。
 そして、彼らの企みに気づくことなく、もふらさまを誘拐し、身代金を要求した誘拐犯達が、詐欺マンらよりも若干遅れて丘の上に姿を現した。
「・・・・来たな」
 誘拐犯達の接近に真っ先に気付いた藤(ia5336)は、すぐに犯人達の数ともふらさまの位置を鷹の目で確認した。
 犯人の数は十人。全員屈強な顔つき、体つきをしており、刀剣類の武器もしっかり装備している。故に、その中の一人がもふらさまを抱えている様子が何とも滑稽に見えた。
 他の開拓者達も、皆それぞれの潜伏場所からひっそりと成り行きを見守っており、いつでも行動を開始できるように神経を研ぎ澄ませている。
「まぁ大丈夫だとは思うが‥‥上手くやってくれよ」
 樹邑鴻(ia0483)が岩陰でそっと呟くのとほぼ同時に、誘拐犯達は詐欺マンらと対峙した。
「代理の奴が金を持ってくるってぇのは聞いてたが、随分とまぁ妙な取り合わせの連中だな。お前ら本当に野郎の代理か?」
 頭領と思しき一際大柄な男が詐欺マンの目の前に進み出て皮肉のように言うと、詐欺マンは一瞬だけおどけた表情を見せると、平然と話を進めた。
「勿論でおじゃる。まろ達は正統な『代理人』でおじゃるよ」
 その後も詐欺マンと頭領は問答を繰り返し、やがて頭領は身代金の話を切り出した。
「言われたとおり、持ってきたでおじゃる‥‥この通り、たんまりと」
 ぎっしりと中身の詰まった袋を指し示して言う詐欺マンは服の袖で隠した口元を怪しく吊り上げていたが、そんなことに気付く様子もない犯人達は顔を見合わせながらいやらしい笑みを浮かべている。
「中身を見せてもらおうか」
 一人まだ表情を崩さない頭領は、詐欺マンに顎で指示を出して袋を空けさせた。
 詐欺マンは迷い無く袋を頭領の目の前に置き、袋の口を縛っていた紐を解き、両手で広げてみせた。
 袋の下のほうに詰まっているのは小石だが、頭領の目に入る部分は全て巴の用意した金が覆っているので、傍目には分からない。
 一番上に乗っていた金を一枚手に取り、じっくりそれを観察すると、頭領は満足したように金を袋に戻した。
 疑われてはいないと分かった詐欺マンはさっと袋の口を閉じた。その際一瞬だけ中の小石が顔を覗かせたが、詐欺マンが素早く袋を閉じたため気付いていないようだ。
 詐欺マンが袋の口を閉じ終えると、頭領が早速袋へ手を伸ばしたが、レフィが袋に手をかざしてそれを遮った。
「メイドのレフィ・サージェスと申します。お金の方は主より預かっておりますが‥‥もふらさまと直接の交換で御座ませんと、引き渡すなと厳命されております」
 その言葉を聞いた頭領は不満気な表情を浮かべたが、やがてわざとらしく舌打ちをすると、後ろに控えていた部下に指示をして、もふらさまを前に運んでこさせた。
 もふらさまは自分の置かれている状況をまったく理解していないのか、呑気に転寝をしている。
 抱えている誘拐犯の男も半ば呆れ顔だが、乱暴に扱おうという気はないようだった。
「では、もふらさまはまろが受け取るでおじゃる。金はメイドから受け取ってたもれ」
 レフィは偽の身代金が詰まった袋を手に取り、わざと重そうな演技をしてみせた上で、頭領へ差し出した。
 同時にもふらさまを抱えていた男も、鬱陶しいものを押し付けるように詐欺マンの方へもふらさまを突き出した。
 互いが互いの要求するものを受け取るタイミングはほぼ同じ。しかし、互いが見せる反応は、それぞれ違うものだった。
 もふらさまを受け取った詐欺マンはわざとらしく嬉しそうな表情を浮かべたが、身代金を受け取った頭領は訝しげな表情を浮かべ、瞬時に自分の感じた違和感の原因に気付いた。
 が、頭領が動くより早く動いた者達がいた。
 丘の頂上を左右から挟みこむように陣取っていた藤とスワンレイクは、咄嗟に隠れていた岩陰から飛び出し、詐欺マンらと誘拐犯らの間に矢を打ち込んだ。
 誘拐犯達は驚き慌てふためいたが、この手はずを知っていた詐欺マンは素早く後方へ飛び退き、詐欺マンと誘拐犯の間を遮るようにレフィが立ち塞がった。
 間髪入れずに即射で打ち込まれる矢とレフィが盾になっている間に、詐欺マンと、それを庇うように追従する雲母坂は急いでもふらさまを退避させるために丘を駆け下り始めた。
 追いかけようとする者もいたが、突如姿を現した三笠の咆哮に気を取られ、結局追って来るものはいなかった。
「逃がしはせんぞぉ! 予想をしていないと思ったか!」
 だがその行く手を阻むように、木の陰に隠れていた誘拐犯の一人が飛び出してきたが、それを更に阻むように飛び出してきた別の人影があった。
 詐欺マンごともふらさまを捕らえようと飛び掛ってきた誘拐犯を、樹邑の放った空気撃が弾き飛ばし、誘拐犯は毬のように転がっていった。
「いよっし! 早く行きな!」
 詐欺マンは無言で頷くと、威勢良く構えを取る樹邑に背中を任せ、早駆で一気に現場から距離を取った。
「ちょっ、速すぎや‥‥」
 雲母坂も急いで後を追ったが、丘を下っているという地の利もあってか、詐欺マンは凄まじい速度で遠ざかってしまい、雲母坂は諦めて丘の頂上へ引き返した。
「開拓者か‥‥くそっ! 怪しいとは思ったんだ‥‥小癪な真似しやがって、ただで済むと‥‥」
 頂上では寸でのところで一歩出遅れた頭領が怒り狂い、部下達に雄叫びのような命令を下していたが、その言葉を言い終えるより先に、頭領の後ろに立っていた部下が悲鳴を上げて倒れた。
「よぉし、後はこいつらぶちのめすだけだ」
「さっさと片付けましょう」
 疾風脚で誘拐犯を一人吹き飛ばしながら現れた巴と、その隣に並び立った三笠に向けて、誘拐犯達は怒りを露にして腰に下げていた刀を抜き、襲い掛かってきた。
 一斉に向かってくる相手を払い抜けでいなしながら、三笠は誘拐犯の頭領を目指して移動し、頭領が射程内に入ると、足元の地面に地断撃を叩き込んだ。
 激しい地鳴りと共に地面が捲り上がり、三笠と頭領の間に立っていた誘拐犯が二人ほど弾き飛ばされたが、狙われていた頭領自身は素早く横に飛び退いてそれを回避した。
「なるほど、やはり志体持ちがいましたか」
 したり顔で刀を構える頭領に、続いて向かっていったのは巴だった。
 疾風脚で間合いを詰め、その勢いに乗せて放った蹴りは的確に頭領の胴を捉えていたが、頭領はその太い足に目一杯力を込めて踏ん張り、苦痛に顔を歪ませながらも巴を押し返した。
 三笠と巴はすぐに再攻撃に出ようとしたが、再び開いた両者の間合いに他の誘拐犯達が割って入り、雄叫びを上げながら刀を振り上げて間髪入れずに詰め寄って来た。
「そうは‥‥」
「させません!」 
 しかし、彼らの矛先が二人に届く前に、岩陰から接近していたスワンレイクと藤の放った矢が誘拐犯達の足元を射抜いて牽制し、接近を妨げた。
 そこへ三笠と巴が逆に飛び込み、勢いを失った誘拐犯達を蹴散らしながら、再度頭領を目指した。
「く‥‥流石にまずいか」
 形勢不利と感じたのか、頭領は額に冷や汗を滲ませながら後ずさり、逃げ出すタイミングを計っていたが、それを許さない者が、頭領の背後に迫った。
 布に包み隠し持っていた長柄斧を振り上げたレフィの接近に咄嗟のところで気付き、頭領は慌てて回避行動を取り、寸でのところでレフィの両断剣をかわした。
「見た目によらず素早いのですね」
 地面にめり込んだ長柄斧を横目に見て戦慄する頭領に向けて、レフィは冷静さを崩さずにそう言い、頭領は顔を真っ赤にして雄叫びを上げながら刀を振り上げた。
 が、その刀身がレフィに届くより先に、死角から藤が放った強射「朔月」の一撃が、高々と振り上げられた頭領の腕を射抜いた。
 腕に走る激痛に苦悶表情を浮かべ、動きを止める頭領。それが、彼の敗北を生み出す決定的瞬間となった。
 レフィを飛び越えるようにして現れた樹邑の気功波が、頭領の胴に容赦なく叩き込まれた。
 慌てつつも頭領は両手をかざして何とか防御をしたが、真っ向からの直撃を受け止めきれず、後方に勢いよく吹き飛んでいった。
 頭領の吹き飛んだ先。それはレフィの接近に気付いて振り返るまでは、頭領の正面だった場所である。
 そこには、既に他の誘拐犯達を蹴散らし、万全の態勢で待ち構えていた三笠と巴の姿があった。
 それに加え、正面にはレフィと樹邑、樹邑が吹き飛ばした男を連れて戻ってきた雲母坂。両脇には気を失って倒れている部下達と、その更に外周から狙いを澄ませているスワンレイクと藤。
 絶望的な状況に、頭領は苦渋の表情を浮かべながら低い唸り声を上げ、やがて吐き捨てるように言い放った。
「負けだ! どこへでも連れてけ!」
 
●もふらは行くよどこまでも
 誘拐犯達を役人に引渡し、開拓者達は無事に救出したもふらさまを連れて、依頼主の元へと戻っていった。
 道中、樹邑が依頼主から預かってきた干し芋を差し出すと、もふらさまは目の色を変えて飛びつき、凄まじい勢いで食べつくしてしまうと、呑気な鼾を立てながらまた居眠りを始めた。
「随分とふてぶてしい奴‥‥いや、もふらさまは皆こんな感じか」
 率直に感想を述べる藤の言葉が聞こえていたのか、もふらさまはわざとらしく大きな鼾を上げた。
 自分で歩く気の無いもふらさまを必然的に抱きっぱなしの詐欺マンは、もふらさまを運んできた誘拐犯のうんざりした表情を思い返し、丁寧に抱いてこそいるものの、心の片隅で少しだけ同情していた。
「やっぱりもふらさまは可愛いどすなぁ」
「そうですわよね〜。でも、この様子だと誘拐されていた間は毛の手入れをしてもらえなかったみたいですわね。なんだかぼさぼさしていて‥‥せっかくのもふもふ感がこれでは台無しですわ!」
 そんな詐欺マンの心情など知らぬもふらさま好きのスワンレイクと雲母坂は、詐欺マンを挟み込むように並んで歩き、両脇からもふらさまを眺め、勝手にブラッシングなどをし始める始末であるが、それでもやはりもふらさまは周りの事など知らないといった様子である。
 やがて、一行はもふらさまの自由気ままな行動に足を引っ張られながらも、依頼主が待っている豪勢な宿へと辿り着き、喜びに表情を緩ませる依頼主にもふらさまを引き渡した。
「ま、用意した身代金モドキも無事手元に戻ってきたし、めでたしめでたしか」
 依頼主に抱かれて去っていくもふらさまを見送りながら、巴は傍らの仲間達を見回しながら呟いた。
 皆一様に満足げに頷いていたが、その空気を壊すような大欠伸が彼らの耳に届き、達成感の余韻は失われた。
 しかし、もう大分遠くまで行ってしまったというのに、彼らの視線の先で、もふらさまは以外にも依頼主の肩越しに右前足を挙げてゆっくりと振ってみせたのだった。
 目はまだ眠たげではあったが、もふらさまなりのお礼の気持ちなのかもしれない。
 そう思い、開拓者達もそれぞれ手を振り返し、ふてぶてしくも憎めない、奇妙なもふらさまに別れを告げ、踵を返してその場を後にした。
 その後ももふらさまは表情を変えず、開拓者達の背が見えなくなるまでずっと、手を振り続けていた。