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■オープニング本文 ●夢にいずる者 その日、少年は夢を見た。 目覚めるや否や微かな笑みを零し、静かな寝室に小さな笑い声がそっと響いている。 朱藩の工場町に住んでいる、往太(いくた)という名の少年。 ここしばらく、彼は同じ夢を何度も繰り返し見ていた。 禍々しく恐ろしいアヤカシ達が町を襲撃する夢だったが、ただただ恐ろしいだけの夢ではなかった。 アヤカシに追い詰められ絶体絶命の彼に迫るアヤカシが、突如何者かによって斬り捨てられる。そこから幕を開ける、黒衣に身を包んだ者達によるアヤカシ討伐の大活劇。 それこそが、彼の見た夢の真骨頂。それまでの恐怖を打ち破る、まさに痛快かつ爽快な夢だった。 初めてその夢を見た時、彼は目覚めと共に言い得ぬ高揚感に満たされ、その日一日中そのことばかりを口にしながら過ごしていた。 夢の中に登場する黒衣の者達。彼らが何者なのかを明確にするものは、夢の中には登場しないが、窮地の自分達を救うかのように現れた彼らが悪い者ではないと、往太は感じていた。 この夢を繰り返し見る理由は分からないが、黒衣の者達の格好の良さにすっかり魅了されてしまっていた往太は、この夢は自分を助けてくれる誰かとの出会いを告げているのだと信じていた。 ●夢からいずる者 その数日後、ようやくあの夢を見なくなっていた往太を、もっとも恐れていた事態が襲った。 ごくありふれた日常を揺るがす荒波は、突然彼と彼の住む町を襲った。 異形の姿を持つ無数のアヤカシによる突然の襲撃。人々はそれを予期することも、防ぐこともできなかった。 ただ一人、この光景を幾度も繰り返し見てきた彼だけは、この事態に対して周囲の誰とも違う恐怖を感じていた。 アヤカシが町を襲い、人々の悲鳴が木霊する。まさに往太が夢で見てきた光景そのものだった。 家族と共に避難しながら、往太は体中から血の気が引いていくのを感じていた。 遠くのほうで聞こえる悲鳴に背中を引っ掻き回されるようにさえ思えるその感覚は、あまりにもあの夢と同じだった。 ある日を境に見なくなった恐ろしい夢が、今こうして現実のものになっている。 助けてくれる者がいないという、ただ一点を除いて。 往太とその家族は何とか町の外へ逃げ切り、他の人々共に隣町へ避難した。 アヤカシ達は町をすっかり占拠して居座っているようで、必要以上に追ってくることはなかった。 何とか命を繋いだ安堵感にほっとする人々の中、往太はすっかり口数が減ってしまい、あてがわれた部屋の隅でうずくまっていることが多くなった。 両親は彼の傷心の原因が、アヤカシに襲われたことによる恐怖だけではないことを薄々ながら感じていた。 往太が楽しそうに語っていた夢に登場する黒衣の者達が現れなかったという事実は、まだ幼い往太にショックを与えるには十分な事柄だったのだ。 そんな中、アヤカシに占拠された町を取り戻すべく、開拓者ギルドへ依頼が出されたという話を、往太の両親は耳にした。 両親は往太の夢の話を思い出し、ある事を思いついて急ぎ開拓者ギルドへ文を送ったのだった‥‥。 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
空(ia1704)
33歳・男・砂
四方山 連徳(ia1719)
17歳・女・陰
周十(ia8748)
25歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●深く静かに‥‥ 日没後。ギルドから貸し出された漆黒の装束に身を包み、町の入り口付近に集結した開拓者達は、町を占拠している鬼達の様子を伺っていた。 「では、まずは私が下調べを‥‥」 そう言って一歩前に進み出た檄征令琳(ia0043)は、コンドルの姿を持つ人魂を放って町の様子を探り始め、人魂を通じて確認した入り口近辺の鬼達の配置を、町の人から借り受けた地図に記した。 「なるほど、ここからなら気付かれずに進入できそうね。じゃ、予定通りの班分けで行きますか」 鴇ノ宮風葉(ia0799)がそう言って立ち上がると、他の仲間達も頷きながら後に続いて立ち上がり、物音を立てぬよう忍び足で門の方へと向かっていった。 開拓者達は二班に分かれて行動することとなっていたが、まったくの別行動というわけではなく、ある程度の距離を置いた状態でしかない。 やがて、檄征の人魂で調べが付いていた通りに近づくと、一匹の赤鬼を筆頭とした小鬼の小隊が、家々から奪ってきたのであろう様々な物品を漁り、興味の無いものは投げ捨てたりなどしながら、勝手気ままに寛いでいるのが見えた。 「居やがったな。好き放題やりやがって‥‥」 「心眼で見る限り、数は小鬼が十五、赤鬼が一匹か。そんじゃ、いっちょ揉んでやりますか」 気合十分の周十(ia8748)と風雅哲心(ia0135)は各々の武器に手をかけ、同じ班の四方山連徳(ia1719)と朝比奈空(ia0086)を見やり、言葉にこそ出さなかったが、互いに頷き合って行動を確認すると、建物の陰に隠れながら鬼達の近くへと接近していった。 もう一斑の開拓者達はそれに少し遅れて移動し、先方の班が鬼達の死角から奇襲をかけたのを確認すると、鬼達がそちらに気を取られて背を向けたところを見計らって物陰から飛び出した。 「さァ、狩りの時間ダ」 突如後方に現れた空(ia1704)の白梅香による横薙ぎの一撃は、不意を突かれた小鬼を一瞬にして切り裂き、小鬼を形作っている瘴気は夜の空気に溶けるように消えていった。 それに続いて攻撃を仕掛けた檄征の斬撃符によって、慌てふためいている小鬼が立て続けに切り裂かれ、それらを目にした鬼達は半ば自棄になって開拓者達に襲い掛かった。 「ほらほらどうした! 足が震えてんぞ!」 だがしかし、完全に先手を取られてしまっている現状では、もはや小鬼達に開拓者を相手にするだけの余裕も力も無く、無月幻十郎(ia0102)の振るう刀の鋭い太刀筋の前に、また一匹の小鬼が成す術も無く斬り捨てられた。 「これで‥‥」 「終いだ!」 鴇ノ宮の浄炎が最後の小鬼を焼き尽くし、取り残された赤鬼を風雅が一閃のもとに斬り伏せ、最初の交戦は幕を閉じた。 「皆さん、お怪我はありませんか?」 朝比奈は周囲の仲間達へ視線を走らせ、誰も負傷していない事を確認すると、そのまま視線を半壊した家屋に向けた。 無惨に破壊され散乱する木材が、時折吹き抜ける風に揺れてカタカタと音を立てている。 「酷いものでござるねぇ。鬼さん達にはきつ〜いオシオキが必要でござるね」 いつの間にやら朝比奈の隣に立っていた四方山も、同じように視線を向け、腕を組んで深く頷いた。 詳細な気持ちこそ違えど、この町に巣食うアヤカシを一刻も早く成敗しなければという気持ちは、皆一様に同じだった。 一行は黒装束をはためかせながら、町の奥へと静かに駆けていった。 ●闇に溶ける‥‥ 町の空気がどこかおかしいことに感づいた別部隊の小鬼達は、辺りを見回しながら、違和感の原因を探すかのように通りを移動し始めた。 その様子を建物の陰からじっと観察し、空の心眼で敵の詳細な数と配置を確認すると、先ほどと同じように、今度は空、檄征、鴇ノ宮、無月らが先手で奇襲を仕掛けた。 警戒をしていたとはいえ、小鬼達は開拓者達の襲撃に気付く事は出来ず、慌てて戦闘態勢を取ると、三、四匹の小鬼を倒した途端に突然路地へ引き返していった開拓者達を何の迷いも無く追いかけていった。 指揮をしている臆病な赤鬼以外の小鬼達は皆殺気を身に纏い、目の前の襲撃者を殺す事だけしか考えが及んでいないようだった。 「おいでなすったな」 それが、小鬼達の最大の敗因であった。 全ての小鬼達が空らを追って細い路地に入るのを確認すると、路地を挟んでいる建物の屋根に待機していたもう一斑の開拓者達が小鬼達の後方に降り立ち、先陣を切った周十は目の前で背を向けている小鬼を容赦なく斬り捨てた。 「悪い鬼達は許さんでござる! 成敗!」 それに続いて、妙に仰々しいポーズを決めながら、四方山は魂喰の式を放ち、驚いて振り返ることしか出来なかった小鬼を葬り去った。 先行していた班の者達も踵を返し、前後から挟み込む形になると、怒涛の勢いで小鬼達を殲滅していった。 空の平突で貫かれ消滅する小鬼を見て慌てる赤鬼を、無月の放った示現が容赦無く切り伏せ、早々に指揮官を失った小鬼達は自棄になって開拓者達へ襲い掛かったが、もはやそれは遅すぎる反撃でしかなかった。 風雅の刀が月明かりに光りながら小鬼を切り裂き、朝比奈の浄炎が最後の小鬼を燃やし尽くすと、薄暗い路地は静けさを取り戻した。 路地に追い込んだことにより、先の戦闘よりも短い時間で片がついたものの、僅かながら開拓者達の気配に気付き、警戒をしていた小鬼達の行動を見た一行は、未だ町のどこかに潜伏している他の鬼達は、開拓者達の侵入に感づき、より一層警戒を強めてくるのではないかと推測していた。 「ここまでは小鬼と赤鬼だけだったから手早く片付きましたが、親玉が出てくると一筋縄ではいかないかもしれませんね」 黒衣についた塵を払いながら、檄征は今のところ怪我の一つも無い仲間達を見回した。 情報によれば、残る鬼の数は親玉も含めて十から二十といったところ。 数だけで言えば総数の半分は倒した事になるが、ここからの終盤戦が勝負どころだと、皆一様に表情を引き締め、月明かりが差し込む路地を後にした。 が、彼らの足は路地を出て少し進んだ先ですぐに止められた。 すぐさま近くの物陰に隠れる一行の研ぎ澄まされた神経は、通りを堂々とした足並みで歩いてくる鬼の集団を捕らえていた。 今回は小鬼と赤鬼に加え、この一団を纏め上げている総大将、二匹の豚鬼の姿もあった。 「あちらさんから出向いてくるとはね‥‥気付かれちゃったかな?」 建物の陰から僅かに顔を覗かせて様子を伺いながら、鴇ノ宮は悔しげに呟いたが、その表情はどこか自信にも満ちていた。 豚鬼は配下の小鬼達がどの程度やられたのかを知らないのか、余裕に溢れた表情でいる。 倒すならば今が好機と踏んだ一行はそのまま物陰に身を隠し、空の心眼で数と位置を確認しながら、豚鬼らが近づくのを待った。 少しずつ少しずつ、彼らの目の前に近づく鬼の一団。 やがて隊列の最前が一行の隠れている建物の前を通りかかった瞬間、周十と風雅が真っ先に飛び出し、手前にいた小鬼を一匹ずつ切り捨てた。 最初の一手は成功したが、そこから先は先ほどと同じようにはいかなかった。 開拓者達の隠れている場所に気付いた赤鬼のとっさの指示で、先ほどまでの倍近い数の小鬼が一斉に武器を構えて襲い掛かってきた。 「気付くのが早かったな‥‥やはり感づいた上での行動だったか、ちくしょうめ」 隠れて機会を伺っていた無月らも外へ姿を晒し、小鬼達との交戦を開始した。 無数の小鬼が豚鬼と赤鬼を取り囲むように陣形をとっており、それを更に取り囲むように、開拓者達は散開して攻撃した。 先ほどまでよりも積極的に攻め込んでくる小鬼達だったが、開拓者達は囲まれないように注意を向けながら、建物などを利用して追い込みつつ、確実にその数を減らしていった。 「おらおら雑魚共! てめぇらの相手はこっちだ!」 無月の咆哮に何匹かの小鬼が引き付けられていくと、その陰からびくびくと怯えながら指揮をしていた赤鬼が姿を現した。 それを見逃さなかった朝比奈は赤鬼をしっかりと見据えながら、傍らに立っていた四方山に声をかけた。 「赤鬼が見えました、四方山さん!」 「ばっちこいでござる!」 朝比奈の神楽舞「心」を受けた四方山の魂喰は威力を増して赤鬼を喰らい、指揮官を失った小鬼達は足並みを崩し始めた。 ここぞとばかりに開拓者達は攻撃の勢いを強め、次々と小鬼の壁を蹴散らしていき、やがて豚鬼の巨体が一行の目の前に近づいた。 鴇ノ宮の浄炎が小鬼を数匹焼き尽くし、その炎の陰から雄叫びを上げて飛び出してきた豚鬼を、空が迎え撃った。 鈍重な体の豚鬼は決して素早くは無いが、手にした岩の棍棒で空の一撃を受け止めるだけの強靭さは持っていた。 だが、空の一撃は致命傷にこそ至らなかったものの、豚鬼の表情は重く歪んでいた。 「あんたが親玉ね! 燃えちゃいなさい!」 飛び退いた空と入れ替わり、今度は鴇ノ宮の浄炎が豚鬼の周囲を囲むように燃え上がり、体を焦がされて怒り狂った豚鬼はその足に出来る限りの速度で鴇ノ宮へ突進した。 「団長に手出しはさせません!」 その間に割り込むようにして現れた檄征の放った斬撃符によって足を切り裂かれ、豚鬼は呻き声を上げながらその場に崩れた。 まだしぶとく残っていた息を、周十の放った一撃が掻き消し、豚鬼の体を形作っていた瘴気は、まるではじめから存在しなかったかのようにすっかり消え去った。 豚鬼を倒した一同はホっと息を吐く間も無く、もう一匹いたはずの豚鬼を探して視線を動かしたが、彼らがそれを目にする頃には、既にもう一匹の豚鬼は追い詰められているところだった。 「町の人達の受けた悲しみの分、しっかりとお返しさせてもらうぜ!」 無月の刀で腕を斬りつけられたもう一匹の豚鬼は苦痛に顔を歪ませ、そこに生まれた隙を逃さず、四方山が放った魂喰の式は豚鬼の大柄な体を貪る様に襲った。 「手前ぇにも刻み込んでやる、星竜の爪牙をな!」 雄叫びを上げながら風雅が放った白梅香の一撃がトドメとなり、もう一匹の豚鬼もまた、先ほどのものと同じように跡形も無く消滅した。 小鬼の生き残りもおらず、すっかり静かになった通りには、塵に汚れてた黒装束に身を包んだ八人の開拓者の姿だけが残った。 先ほどまで雲間から覗いていた月が、今ではすっかり顔を出し、開拓者達の勝利を祝福するかのように、美しく光っていた。 ●小さく光る‥‥ 翌朝、鬼の討伐が完了したとの知らせを受けた住民達は、一時の寝床を貸し与えてくれた隣町の人々に礼と別れを告げ、嬉しさと安堵感で思わず表情を緩ませながら、その日の内に町へと帰ってきた。 鬼達によってもたらされた被害は決して小さなものではなかったが、住民達の結束と再興の意思は強く、互いに協力し合いながらすぐに復旧作業へと取り掛かった。 労働をしながらでもどこか嬉しそうな顔をしている住民達の中、往太だけは、未だどこか晴れぬ気持ちを抱え、しょぼくれたまま両親に手を引かれていた。 だが往太は半壊した自宅に戻ってから真っ先にあるものを目にし、表情を一転させた。 見たことの無い模様や文字が描かれた一枚の紙切れが、鴉の羽で家の柱に固定されていたのだ。 それは四方山がアヤカシ討伐の印として置いていった符であったが、往太はその紙の正体など知る由も無い。 しかし、それがただの紙切れではなく、何か意味のあるものだと往太は感じ、そして、この紙と鴉の羽が、かつて夢で見た黒装束達と同じ雰囲気を連想させる事に気付いたのだった。 「往太、お前に会わせたい人達がいる」 呆然としている往太に声をかけた往太の父は、状況が理解できずにいる往太の手を引きながら、家の裏手にある小さな路地へと回っていった。 そしてそこで待ち構えていた者達の姿を見た往太は、驚きのあまり空いた口が塞がらず、微かに腕を震わせながら立ち尽くした。 符を残す事だけに拘った四方山を除く開拓者達が、黒装束を身に纏ったまま並び立っていた。 「総てが救える程我が両手は広くない。時には届かぬ、零れるものがあるのも、また事実」 何も言えずに立ち尽くしている往太に、まず最初に声をかけたのは空だった。 「今回は私達の手で助ける事が出来ましたが、いつでもそうとは限りません。何も戦う事だけが全てではありませんから、ただ待ち望むだけではなく、自分に何が出来るのかを考えてみて下さい」 「一度は助かった命だ。好きに生きればいいが、野暮な生き方はするもんじゃあない」 空の言葉に繋げるように、朝比奈と無月はゆっくりとと、かつ力の篭った口調で、往太の目をしっかりと見据えながら話した。 呆然としていた往太の目は、いつの間にやら真面目に話しを聞く子供の目に戻っていた。 「男なら自分で村を守れるくらいになんなさいよ! 英雄を待つんじゃなく、アンタが英雄になるの! いい?」 鴇ノ宮はどこか投げやりにだったが朝比奈の言葉に続けて強く言い放ち、隣に控えていた檄征は往太に一歩歩み寄り、その手を握って微笑みかけた。 「これからは貴方が強くなって、この町を、家族と仲間を守ってください。そして、どうしても敵わないと思った時。その時は私達を呼んで下さい」 その言葉を受け、強く頷く往太を見届けると、一行は踵を返し、どこかへと去っていった。 「お前があきらめないで希望を捨てずにいれば、いずれまた会う事が出来るさ」 「またな、坊主」 一行が去ろうとした瞬間にはどこか寂しげな表情を見せた往太だったが、去り際に風雅と周十が残した言葉は、往太の決意を強くする最後の後押しとなった。 往太と、彼を後ろから見守っていた両親を残し、しばらくの間、その場を静寂が支配した。 男達の掛け声や、木材を切る軽快なリズムだけが、微かに耳に届く。 やがて往太は元気良く両親を振り返るや否や駆け出し、二人の手を引いて家の表へ駆けていった。 誰も居なくなった路地に、細く儚げな日の光が、影を切り裂く刃のように、美しく差し込んでいた。 ●黒衣は風にはためいて‥‥ 「‥‥ククク、あのガキマジで信じてやがるぜ‥‥」 往太の家から少し離れたところで、空は思わず肩を揺らしながら笑っていた。 まだどこで往太が見ているか分からないので仲間達は驚き慌てたが、彼の口を塞いだのはどこからともなく現れた四方山だった。 「そこまででござるー! 黒衣もギルドに返すまで着ておくでござるー!」 どうやら姿を見せていないだけで、先ほどのやりとりも近くで見ていたらしい。 妙に黒衣の英雄という演出が気に入ってしまっていた様子の四方山に引き連れられるようにして、黒衣の一団は騒がしい風のように、町を去っていった。 |