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■オープニング本文 イオアンはちらりと大人たちの顔を見上げ、そして再びしょんぼりと頭を垂れた。今にも泣き出しそうだ。しかし、イオアンが泣き出すよりも早く、わっと声をあげてひとりの女性が泣き出した。 「ラリサ‥‥! どうすればいいの‥‥!」 「ここから開拓者ギルドまでどのくらいだ」 ひとりの男が言う。 「前に行ったとき、レフは半日程度で着いたと言っていた。助け手が得られれば、彼らはレフより早くこっちに来てくれるだろう」 誰かが答える。 「子供なのよ‥‥! 早くしないと死んでしまうわ!」 女性の声。 「落ち着け! カリーナがきっと子供たちと合流してる。あの子は頭がいい。きっと寒い夜も越す知恵も、食べて生き長らえる知恵も出す!」 とうとうイオアンが泣き出した。近くにいた老婆が抱き寄せて慰める。 「イオアン、大丈夫。子供たちはきっと無事だから。それよりも、開拓者の人たちが来たら、おまえはちゃんと説明をしなきゃならないんだよ。だからしっかりおし」 イオアンはしゃくりあげながら頷いた。 ことの発端は、何を思ったか、子供たちが急にキノコ狩りに行きたいと大騒ぎをしはじめたことだった。 「どうしてそんなこと急に言い出すの?」 母親のひとりは困惑気味にそう尋ねた。 「どうしても」 子供は答える。 「みんな冬支度で忙しいのよ」 「イオアンとカリーナが連れてってくれるから。ねえ、いいでしょう?」 イオアンとカリーナはいつも小さい子たちの面倒をよく見てくれる。イオアンはちょっと頼りないところがあるが、カリーナはしっかりした少女だ。あの2人が連れて行くなら大丈夫かもしれない。アヤカシが出るような場所には決して近づかないだろう。 かくして、上は10歳、下は5歳の10人の子供たちを連れて、13歳のイオアンと16歳のカリーナが子供たちをお弁当持ちのほんの少し遠い散歩に連れて行くことになった。 「山の東側のほうには絶対行くなよ。あっちはキノコも多いがアヤカシも多い」 「分かってるわ、父さん。しょっちゅう行ってるもの」 利発そうな目で父親を見つめながらカリーナはにっこり笑って答えた。 「まあ、キノコの収穫なんざたいしたことはなくてもいいだろう。弁当を食ったらさっさと帰って来い。子供らもそれで気が済むだろう」 そして万が一のためにとカリーナは薬と包帯を持たされ、イオアンは毛布を丸めて背中に背負って送り出されたのだった。 天気も良く、風もない穏やかな日だった。 子供の手のことだ。そんなに多くのキノコはとれやしないだろうが、せっかく持って帰るのだから今夜は温かいスープを作ってみんなで食べようかね、といった話をしていた矢先だった。 「どうしたの」 村に着くなり大声で泣き出した数人の子供たちを見て、村人が駆け寄ってきた。 「カリーナは? 他の子はどうした」 一緒に戻ってきたイオアンに尋ねる。そしてイオアンは青い顔をして話したのだった。 お弁当を食べようとしたとき、何人かの子供たちがいないことに気づいたこと、動かずにそこで待っていて、とカリーナが探しに行ったこと、そして戻ってこなかったこと。 「どのくらい待った?」 イオアンに誰かが尋ねる。 「2時間くらい‥‥」 イオアンは消え入りそうな声で答えた。 「ダルコとボリス‥‥ダニーラ、ラリサ、マイア‥‥か‥‥」 子供たちの顔を巡り見て言う声に、イオアンは視線をあげてちらりと大人たちの顔を見たあと、悲しそうに頭を垂れたのだった。 かくして、開拓者ギルドに行ったことのあるレフという男が再びそこに向かうことになる。 依頼:いなくなった子供たちを捜し、救出してください。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
フォルカ(ib4243)
26歳・男・吟
洸 桃蓮(ib5176)
18歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「お着きだぞー!」 開拓者達が村に到着するなり声が響く。村人達と共に父親に引きずられるようにして走り寄ってきたイオアンは、開拓者の顔を見て目にじわりと涙を浮かべた。 いくつかの山の情報を聞き込んで早速捜索に向かおうとする開拓者達を見てもイオアンは動かない。 「どうした」 フォルカ(ib4243)が振り返る。 「一緒に来ないのか? お前に案内してもらえると助かるんだがな」 それを聞いてイオアンは泣き出してしまった。フォルカは彼に近づき、顔を覗き込む。 「泣いてちゃ助けられるものも助けられないぞ。お前が頼りなんだ」 秋霜夜(ia0979)も声をかける。 「山麓までで良いのですよ。それで、彼の帰りのためにどなたか大人の方もお願いします」 顔をあげた秋霜夜に、隣にいた彼の父が「俺が一緒に」と頷く。 「カリーナ嬢の父君は?」 顔を巡らせたフォルカの声に前に進み出た男がいた。 「娘さんに遭難時の教えなどがあるか?」 フォルカの問いにカリーナの父親は視線を微かに泳がせて答える。 「特別に教えた、というものはないですが、カリーナならむやみに動き回って体力を消耗させるようなことはせんでしょう」 と、いうことはそう遠くで身動きがとれなくなっているわけではないかもしれない。 幸いにもここ数日天候は良い。それでも夜になれば気温はぐっと下がる。できれば日が暮れる前に救出したいところだ。村人達の心配そうな顔に勇気づけるような笑みを返し、イオアンと父親を伴って開拓者達は出発した。 「食べられるキノコ、見分けるのは難しいんでしょう?」 秋霜夜はイオアンの気持ちをほぐすように話しかける。イオアンは微かに顔を赤らめて秋霜夜に目を向けた。 「時々間違えるけど‥そういうのは父さん達が選ってくれるから‥」 そう答えてすぐに目を伏せた。 「ねーね、アタシ、肉は食べられないけどキノコは食べられるのよねっ!」 鴇ノ宮風葉(ia0799)が屈託のない調子で言う。 「お礼にキノコは貰えるのよね? 勿論」 イオアンは慌てて開拓者達をきょときょとと見回した。足りるかどうか思わず考えてしまったのだろう。 「風葉」 ブラッディ・D(ia6200)がたしなめるように言う。 「あによ? 月緋」 風葉は口を尖らせる。ブラッディと風葉は番いの仲だ。風葉はブラッディを本名の「月緋」の名で呼ぶ。ブラッディは笑みを浮かべた。そしてイオアンに目配せする。 「ま、働いたあとのキノコは美味しいだろうしね」 イオアンにもやっと分かりかけてくる。みんなが自分を安心させようとしてくれていることに。 「いつもどのあたりでキノコを取るの?」 木立の中に入りかけようとした頃にかけたモユラ(ib1999)の問いに、イオアンはさっきよりもだいぶん落ち着いた様子で奥を指差す。 「もう少し登ると少し拓けてて‥日当たりのいい場所もあるんだ‥」 彼の言う場所に行くと、確かにそこは斜面もなだらかで、小さな子の膝下くらいまでの下草が生えている以外は多少でこぼことした木の根が突出している程度で格好の遊び場所と思えた。 忠義(ia5430)が周囲を見回す。何か気配があれば逃すまい、といったふうだ。禾室(ib3232)も神経を巡らせているような表情だ。 「ここだけで?」 秋霜夜が尋ねる。ぐるりと見渡せるほどの広さで10人そこそこの子供の姿を見失うことは少し考えにくい。同じことを感じたモユラと洸桃蓮(ib5176)もイオアンの顔を見つめる。イオアンはちらりと父親を見上げ、どぎまぎしたように目を伏せた。 「ち、ちょっと先にいったところは‥割とキノコ多いし‥でも、それより上は危ないから行っちゃだめって‥」 「東のほうは行ってないんだろう?」 父親が眉を潜めてイオアンに詰め寄る。 「う、うん、行ってないと‥思う‥‥」 「行ってないと思うって‥」 父親の顔が険しくなり、イオアンはさらにしどろもどろになった。 「上にあがると山の東側に行く道があって‥そっちはだめだよってカリーナがだいぶん言ってたし、でも、ダニーラとボリスはあんまり言うこと聞かないんだ‥」 桃蓮はイオアンに一歩近づいて、彼の顔を覗き込んだ。 「イオアン君、落ち着いて。私達、今はイオアン君のお力が必要なのです」 イオアンは桃蓮の顔を見て不安そうに頷く。桃蓮はにこりと笑みを浮かべた。 「大丈夫、ひとつずつ思い出していきましょう。最初はここにみんなで来たのですよね?」 そうだ、とイオアンは頷いた。 最初はここに来た。天気も良かった。しかし、キノコは日当たりの良い場所にはあまり生えない。子供達は周囲の木立の中に入っていく。時々カリーナが声をあげて子供達の名を呼ぶ。呼ばれた子は必ず返事をする。必ず2人か3人で行動すること、声が聞こえない場所まで行かないこと、という約束があった。たまに夢中になって返事を忘れた子はイオアンが居場所を確かめた。その状態で、確実に子供達の居場所は確認できていたのだ。 「それで‥子供達がいなくなったのに気づいたのはお弁当の前?」 モユラの問いかけにイオアンはためらいがちに頷いて目を伏せた。風葉とブラッディが無言で顔を見合わせる。フォルカと忠義もちらりと視線を交わしあい、禾室は少し口を引き結んで小さく小首をかしげる。秋霜夜はじっとイオアンの顔を見つめた。 何か隠しているな、と誰もが感じ取る。しかしそれを問いただすべきなのかどうか‥。 「少し先に行けば東側に向かう山道があるのじゃな? 他に子供らが気をつけたほうがいいような場所はないのか?」 禾室がイオアンに言う。 「道を大きく外れなけりゃ‥大丈夫」 イオアンの答えに禾室は頷いた。 「んじゃ、ま、行くとしましょうや」 忠義が伊達眼鏡をついと中指で押さえ、ブロークンバロウの柄をコンッと足元の木の根に立てる。 「子供達に出会えた時に怪しまれぬよう身分証明が欲しいんじゃが、おぬしが普段身につけてるものを借りることができるか」 禾室の言葉に、イオアンはじゃあ、と服の下に入れていた首飾りらしきものを外して禾室に渡した。木の実の類と共に可愛らしい木組みの人形が革紐の先についている。 「カリーナが考えたお守りなんだ‥。よく効くんだ。あと、この毛布も持っていって‥」 禾室は頷いて首飾りを受け取る。イオアンが背から下ろした毛布はフォルカが受け取った。 帰途につくイオアンとその父親を見送り、開拓者達は捜索を始める。 まずは山の東側のほうだろう。可能性が低いとはいえ、万が一アヤカシの脅威にさらされているとしたら猶予はならない。分散して探したいところだが、6人全員が何らかの傷を負っていたとしたら全員の力が必要だ。 忠義とブラッディが先に立ち、風葉と山歩きに長けたモユラはその後ろに。秋霜夜は忍犬「朧」を放ち、フォルカ、桃蓮、禾室が続く。 山は静かで、時折冷たさを感じる風が吹いた。言われた通り、山道は左手に向かう道とそのまままっすぐに進む道とに分かれた。方角からして左手の道が東側に回るほうだろう。忠義とブラッディに続きながら風葉は瘴策結界を張る。禾室はわずかな音も逃すまいと超越聴覚を発動した。 カサリカサリと皆が落ち葉を踏みしめる音だけが周囲に響く。モユラはぐるりと辺りを見回した。 「おーい! 誰かいるーっ!?」 声を張り上げてみたが、あたりは静まり返っている。 2時間ほど歩いただろうか。風葉が「疲れた!」とブラッディにしがみついた。 「子供の足でこれ以上遠くまでは歩いていないんじゃないか」 フォルカが言った。 「カリーナ嬢のおやじさんも、むやみに動き回ることはないと言っていた」 「人が通ったらしい痕跡が見当たらない。戻ったほうがいいかもね。‥ほら、風葉、頑張ってー」 腰にしがみついた風葉をずるずる引きずりながらブラッディも言った。 その時だ。 禾室は小さな鳥の声を聞き逃さなかった。夜雀だ。頭上を通り過ぎていくその声に忠義が構えの姿勢をみせる。 しかし、ここで大きく時間をとるわけにはいかない。全員が近づく声とは反対の、山の西側へ戻る道に向かい走り出した。とはいえ、飛んでくる夜雀にはあっという間に近づく。 忠義は足を止めると、最初の一体をゴツリと払い抜けで落とす。続き二体目も。 次々にやってくる夜雀にモユラが斬撃符を打ち、禾室が殺手裏剣で落とす。そこを突破したものはブラッディが引き受けた。前衛を狙ってくる夜雀には桃蓮が瞬速の矢を放ち、その彼女を狙おうとするものは秋霜夜が気功掌で払う。 それでも、うっとうしいほど夜雀はやってくる。 「ええい面倒臭い‥‥とっとこ行かなきゃいけない時に限って‥」 忠義が思わず呟く。そろそろカタをつけねばなるまい。フォルカがサンクトペトロで武勇の曲を奏で、皆の後押しをした。 数十分後、最後の一体を忠義が落としてようやくあたりは静かになった。 幸いにも怪我をした者はいなかったが、早く西側に戻らねばならない。歩を早め、道を戻る。 西側の道に入ったときには山に夕闇の気配が忍び寄っていた。木立の中はすぐに暗くなる。アヤカシの危険性はなくなったが、逆に今度は夜の闇が子供達の姿を見つけにくくしてしまう。 風葉が夜光虫を飛ばし、先に立って歩く忠義は松明を点けた。あっという間に気温が下がる。 しばらくしてブラッディがふと立ち止まる。何か気配を感じた。 「ねえ‥‥」 彼女がそう口を開きかけたとき、秋霜夜は朧の咆え声を聞いた。 注意深く歩を進めていた忠義は、一瞬感じた足元の違和感に慌てて後ずさる。 「灯り! 照らして!」 秋霜夜の声と同時に全員が駆け寄った。 「なんだ、こりゃあ‥‥」 松明で足元を照らした忠義はそこにぽっかりと広がる穴を見て呟いた。深く大きな穴だ。桃蓮も松明を点して照らす。 「誰かいるーっ?」 まさかと思いつつモユラが声を張り上げる。そのまさかだった。 「‥‥たすけて‥‥」 小さな声が聞こえた。 「カリーナさんね! 今助けます!」 秋霜夜が暗い穴に向かって叫んだ。 「お願い‥‥早く‥」 再び小さな声が聞こえた。 「これを!」 桃蓮が荒縄を取り出す。近くを見回し、忠義の荒縄と共に幹の太い木に皆で結わえつける。夜光虫が使える風葉が縄を伝い穴の中へ。続いてモユラが降りる。夜光虫で穴の中の状況が見えた地上の者は息を詰めて見守った。深さは5m以上はあるだろうか。泥だらけになりながら子供達が寄り添い、その子供らを少女が中央で守るように抱きかかえている。 「ダルコがぐったりして動かないの‥‥」 2人が穴底に着くなり少女は訴えた。モユラが男の子の額に手を当てる。熱が出ているようだ。他の子供達の顔にも生気がない。もう体力も限界なのだろう。 「大丈夫」 「とりあえずこれを分けて飲んで。上にあがればみんなが持ってきてるから」 風葉が皆に声を掛け、モユラは岩清水を取り出してカリーナに渡す。 「月緋―! 引き上げ作業だよー!」 風葉の声にブラッディは忠義を見てにっと笑う。 「行くよ。あんた体力あるだろ?」 「ああ‥泥汚れってなぁ、返り血と同じくらい綺麗にするの大変なのに‥‥」 忠義は穴を覗き込んでがっくりしたように呟いた。 子供達は忠義、ブラッディ、秋霜夜が交互に穴に入って背負い、縄を伝って引き上げた。上にあがった子供達にはまずは渇きを癒すために岩清水を渡してやった。むさぼるように水を飲み干す彼らを毛布や持って来た外套でくるみ、松明を近づけてやる。 「もう大丈夫。あたいらが来たからにゃ、絶対無事に家に送り届けるからさ」 引き上げ時に擦り剥いたり切ったりした傷を癒してやりながらモユラが言った。風葉も閃癒を発動する。ぐったりしていた子供達の顔に生気がさした。 「まずは腹ごしらえですよね」 秋霜夜の声と共に広げられた甘酒、干飯に皆がわっと飛びつく。ダルコは泣き虫らしくずっと泣いていたが、禾室がヴァンパイヤキャンディーを口に放り込むと泣き止んだ。それを見た他の子が騒いだので 「分かっておる」 と、甘刀「正飴」を渡す。 「‥カリーナから離れるなと言われてただろ」 フォルカが子供らを叱咤する。 「怒らないで‥」 カリーナが申し訳なさそうに言った。 「悪いのは私なの‥」 「これか?」 禾室がイオアンから預かった首飾りを取り出した。カリーナはそれを見てこくんと頷く。 「お姉ちゃんは悪くないよ。頼んだのはあたしだもん」 横から女の子が声をあげる。その横の女の子も声をあげた。 「だって、ラリサのお母さん、赤ちゃんできたんだよ。そのお守りよく効くんだよ。イオ兄ちゃんが怪我したときも大丈夫だったんだよ」 「みんなでお守りをお母さんにあげようって言ったんだよ」 そういうことか、と開拓者達は顔を見合わせた。 「その、お人形についている木の実が少し奥に行かないとないものだったの。私が行くからって言ってたんだけど‥こんなことになっちゃって‥。あんなところに穴があるなんて知らなかったの‥」 カリーナは顔を覆った。彼女が泣き出したので他の子たちもそれを見てしゅんとなる。 「お守りは作れたの?」 モユラが尋ねる。 「ひとつだけ‥」 カリーナはポケットから首飾りを取り出した。しばし皆でそれを見つめる。 しばらくしてブラッディが風葉の脇を突いた。 「あによ?」 そう答えながらも彼女も分かっている。 「仕事‥増えそうッスかね」 忠義が伊達眼鏡をついと指で押さえ呟く。 「キノコのお土産も持って帰らなくては。お料理手伝います」 桃蓮がにっこり笑った。 「帰って来た‥!」 ぽつりと見えた松明の灯りに村中が一気に活気づく。 長い緊張と不安で憔悴しきっていた子供達とカリーナは開拓者達が背負い、手早く集めた一杯のキノコと内緒の木の実を携え全員が無事に戻った。 一番年下のダルコはとにかく甘えん坊の泣き虫で、ずっと寒い怖いと泣き続けるので、禾室が尻尾をもふらせながら背負った。 駆け寄ってきたイオアンは、渡されたキノコを見て目を丸くした。そして笑みを浮かべる開拓者達の顔を見て、彼らが一番欲しかったものも持って帰って来てくれたのだと悟った。 「寒くなるから、あとの作業は村の中でね」 秋霜夜がイオアンの耳元で笑って言った。イオアンはぺこんと開拓者達に頭を下げた。 「お疲れでしょう、温かいものを召し上がってください」 カリーナの父親が無事に戻った娘を抱きしめて言った。 「待ってました、キノコ汁」 フォルカが答えた。村人達の嬉しそうな顔を見て開拓者達もようやくほっとしたのだった。 村をあとにするとき、開拓者達はラリサの母親の首元にあの首飾りがあるのを見た。 同じ首飾りが母親達の首元を飾る頃には、このあたりも真っ白な雪景色になっているだろう。 しかし、村人の心の中はきっと冬の寒さに負けないくらいずっとずっと暖かいのだ。 |