しんえいたいにあいたいの
マスター名:西尾厚哉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/21 21:18



■オープニング本文

 カンカン、コンコン、いい音がしそうなバケツ。
 これはかっこいい、かぶとになります。

 被るっ!

 肩まで入った。
 前、見えない。
 ちぇ、とか思う。
 とりあえず動いてみたら思い切り柱にぶつかって目が回った。

「ハナーっ! 何してるのっ! この、おバカっ!」
 母親が悲鳴をあげた。

 次。

 とりあえず、黒い服が欲しい。
 炭を水につけていつもの服を入れてみた。
 灰色になった。

「ハナ―っ! 洗濯したばかりの服をどうして汚すのっ!」
 母親が悲鳴をあげた。

 前髪をぱっつんまっすぐにしたい。
 はさみで切った。
 左が短くなったので、右をそろえようと思った。
 右を切ったら今度は左が長くなった。
 それをそろえたら、ちんちくりんになった。

「ハナ―っ! あんた、どうしたの、その髪っ!」
 母親が悲鳴をあげた。

「ハナ…いい子だから、それ、そうっと地面に置こうね…いい子だね…」

 村の人達は、ハナがちょいと熊撃ち用の猟銃を構えてみたのを見て、やさし〜〜くやさし〜〜く声をかけた。

――― カチ。

「ひええええっ!」
 必死に地面に身を伏せたけれど、弾はこめてませんでした。
 ああ、よかった。


「ハナのあれはどうにかしないと危ないぞ」
「すみませんすみません申し訳ありません」
 母親平身低頭。
「それにしても、どこで見たのかねえ」
「こないだ、ほれ、みんなでジェレゾに行ったじゃねえか。ちょうど皇女様がお出掛けだっただろう。あんときじゃないか?」
「いた? 親衛隊って」
「いたよ、皇女様のほうが超目立つから影薄くなっちまうけど」
「親衛隊が皇女様より目立ったらまずいだろよ」
「子供ってよく見てるねえ」
「とにかくぽーっとしちまったんだとよ。ああいうのになりたくてしようがねえんだと」
「そりゃ無理だろうよ」
「来年になりゃ忘れてるんじゃねえの?」
「来年まで銃向けられるの我慢するのかよ」
「手に届かないところに置いときゃいいじゃないさ」
「どこに置いても探しあてちまうんだからもー」
「誰も分からないところに置いとけ」
「そしたら熊来た時、どうすんだよ!」
「うーん」
「うーん」
「すみませんすみません申し訳ありません」
 母親平身低頭。


 その頃、当のハナがギルドにひとりで行っていることにだーれも気づいていない。
「んしょ…」
 書類が下のほうからそろーっと上がって来るのを見て、ギルドの受付係はきょとんとする。
 立ち上がって机の向こうを覗き込むと、依頼主がいた。
「お嬢さん、どうなさったのですか?」
「あのね、しんえいたいのおねえさんにあわせてください」
「…はい?」
「しんえいたいのおねえさんにあわせてください」
「……は?」
「しんえいたいのおねえさんにあわせろっていってんの!」
 くしゃくしゃになった紙が何枚も下から差し出された。
 白い花が押し花になって、横に「いっせんもん」と書かれていた。
「それで足りる?」
 ハナの全財産だった。


■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
イルファーン・ラナウト(ic0742
32歳・男・砲
リト・フェイユ(ic1121
17歳・女・魔


■リプレイ本文

 ギルドで借りた馬に乗ってハナの村に。
 少女ハナ、4歳。通りかかった荷馬車でギルドに
 受付係が差し出した地図と『押し花いっせんもん』を受け取って話を聞いた途端、「これは一度帰るべき」と思った。
 もちろんハナには説明した。
 イルファーン・ラナウト(ic0742)が虎の面を頭に押し上げ
「偉い人はな、誰でもすぐ会えるわけじゃねえ。相手にも都合ってもんがある。わかるか? まずは家に帰って、おねーさん達の都合がついたら…」
 ハナはそろーっと手を伸ばして彼の左目を隠す眼帯を外してみようと試みた
「こらこらっ」
 そりゃ、怒られます。彼女の脳内は今、自分に不都合なことは一切受け付けない。
 だから
「あいにいくの?」
 無邪気に手綱を握るフェンリエッタ(ib0018)の顔を見上げる
「ハナちゃん、どうして親衛隊に会いたいの?」
 フェンが尋ねると、ハナは
「んーとね、んーとね、すてきだから」
 頭を左右に揺らしながら歌うように答える
「すごくよく分かるのだぜ!」
 叢雲 怜(ib5488)が力強く頷いた
「ハナね、しんえったいになるの」
 フェンはふふっと笑う
「私も憧れてたわ。棒を剣や槍に見立てて遊んで。ハナちゃんも?」
「銃のお姉さんがいいの!」
 魔弾に手を伸ばしてきたので、怜は馬を離した
「これは触っちゃだめなんだぜよ」
 ハナはぶうと頬を膨らませる
「ハナちゃん、武器はね、ちゃんと訓練して使うものなの」
 フェンが言うとハナはえー? という顔をした
「あたし使えるよ? カチッてするの」
 違う、と思いつつ『押し花いっせんもん』を見てイルファーンは嘆息交じりの笑みを漏らす
「一生懸命作ったのでしょうね」
 リト・フェイユ(ic1121)が声をかけた。雪切・透夜(ib0135)も馬を近づける
「クロウさんからの朗報とフェンリエッタさんのお手紙のお返事を待ちましょう」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)はリナト・チカロフの元に向かっている。リナト経由でレナ皇女と接触できる方法を模索するためだ。フェンも皇女に手紙を出していた。
 後ろで「しんえったいの〜おねーさん〜」とハナが滅茶苦茶な節で歌っているのが聞こえてきた。怜も一緒に声を張り上げている。
「そうだな」とイルファーンは笑った。

 ハナの村が見えてきた。事態を悟ったハナが馬の上から逃亡に転じる。
 が、イルファーンが腕を伸ばし、ひょいとハナを捕まえた。
「はなせ! くそおやじ!」
 暴れるハナ。
「どこでそんな言葉を」
 イルファーンが呆れる。
「ハナーっ!」
 騒ぎを聞きつけて女性がひとり駆け寄って来た。きっと母親だ。
 イルファーンの腕からハナを受け取り、母親はハナをかき抱く
「もう、このおバカ! ギルドに行くところだったのよ!」
 やっぱり。
「本当にすみません」
 母親は頭を下げた。
 聞けば、ハナの親衛隊崇拝はジェレゾで龍に乗った親衛隊に「こっちみてにっこりしてもらった」が始まりだったらしい。あくまでハナいわく、だが。
「嬢ちゃん、ママとここで待ってろ。俺達はし…」
 イルファーンが言いかけると、ハナは「いやー!」と叫んだ
 母親の手を振り払い、透夜の足にしがみつく。
「いいこにしますう、ちちしぼりもしますう、だからいくう…うああん!」
 透夜は試しに足を踏み出してみる。ハナが足についたままずりずりと動く。
 母親が引き剥がそうとすると透夜がひっくり返りそうになった。もはや執念。
「うぎゃー!」
 ハナの絶叫が響き、後ろではらはらしながら見守る村人達。
「わかりました」
 透夜はハナを抱き上げた
「でも、僕達の言うことをちゃんと聞くんですよ?」
 ハナは透夜にぎゅうとしがみつく
「俺達が預かるんだぜよ」
 怜は言った。
「お母さん、それまでお休みしてて?」
 母親の顔に刻まれた深い疲労の色
「いいよね?」という怜の表情に皆は頷いた。


 再びジェレゾ。
 大泣きしたハナは馬に揺られて透夜に抱かれてこくりこくり。
「あ」
 フェンが声をあげた。聴覚が音を拾ったのだ。彼女が指差す先に目を向けて皆も「あ」と口を開く。龍だ。親衛隊の。でも、すぐに城に消える。
「惜しいっ…」
 そんな言葉が誰からともなく口をついて出る。
 ハナが目をこすって起きた。こちらも惜しい。起きていたら見られたのに。
「あ、着いた!」
 ストンと透夜の腕から滑り降りて駆け出そうとするハナの手をリトが急いで掴む
「ハナちゃん、お姉さん達に会うためにはとびきり良い子にしてなくちゃ。親衛隊のお姉さん達はお強いだけじゃなくて立ち居振る舞いも立派なレディなの。ハナちゃんもレディのようにご挨拶できるようにしましょうね。できるかな?」
「うん、できる!」
 ハナは再び駆けだそうとする。予想していたリトの手が掴んでいたので今度は大丈夫。
 でも、目は離せないなと思う。
 ギルドに馬を返しに行くとクロウが待っていた。
「会えなかった」
 少し疲れた様子でクロウは言う。
「リナトさんはあちこち飛び回ってるらしい。姫さんが一歩違いでヴォルフ。で、ヴォルフに寄ったら今度はお里。さすがに無理で戻って来た。そっち、返事は?」
 フェンも残念そうに首を振る。
「しんえったいの〜おねーさん〜」
 またもやハナは歌っている。
「ハナちゃん、黒いお洋服探しましょ?」
 フェンが言うとハナは目を輝かせた。
「じゃあ、俺達はそこで待つよ。外が見えるし」
 洋服店前の茶店をクロウは指差した。
 ハナは飛び跳ねながら店の中に。
「ハナちゃん、お着替えしながらご挨拶の練習しましょうね」
 リトが言う
「親衛隊のお姉さん、こんにちは」
「しんえったいのおねえさん、こんちちは」
「こんにちは、よ」
「こんちちは」
 それを聞きながらフェンが服を選んでいると、不意に背後で声がした
「お嬢様」
 え? と振り返ると手をとって甲にキスされた。美しい貴族の男性だ。誰だろう?
 暫くしてフェンは笑った。
「スェーミ」
「お久しぶりです。フェンリエッタ殿」
 スェーミは微笑んだ。
「手紙の差出人が貴方でしたので、我らですぐ姫様に届けに。先程返事が」
 スェーミは小さな声で伝える
「失礼ながら手紙の真偽を確かめに。外でヴォ―スィが聴覚を。城には入っていただけませんが、お嬢さんをお連れいたします。ジェレゾの東にアジンナの別荘が。皆様もそちらにどうぞ」
 スェーミは地図を書いた紙をフェンに渡す
「ありがとう、スェーミ」
 フェンの声に彼女はにこりと笑う
「お礼は姫様に。間に合えば向かうと仰せに。貴方の顔が見たいと」
 では、と彼女は離れて行った。
「ハナちゃん、行きましょうか」
 黒い服を包んでもらい、フェンは声をかけた。
 何も知らないハナは大事そうに包みを抱えて店の外に出る。そして目を丸くした
「こんにちは、お嬢さん」
 黒い馬が2頭。そして憧れてやまない親衛隊のお姉さん2人。
「ヴォ―スィと申します。こちらはトゥルナ。お迎えに参りました」
 ぽとん、と抱えていた包みがハナの手から落ちた。
「ハナちゃん、ご挨拶ですよ」
 リトがハナに小さな声で囁く。
「しんえったいのおねえさんこちち…」
 リトにしがみつく。
 ヴォ―スィが近づいてハナの顔を覗き込んだ。
「お嬢さん、お名前は?」
「ハナ…」
「ハナさん、姫様よりご案内の命を受けました。馬にどうぞ」
「行ってらっしゃい。私達も後で行くわ」
 フェンが促してやるがハナは更にリトにしがみつく。すぐ近くで見る親衛隊はあまりにも迫力があり過ぎた。
 そろそろ周囲が騒がしくなる。
「皇女様の親衛隊だろ?」
「えっ、皇女様の隠し子っ?」
「しっ、違うわよっ」
「どなたか一緒に参りましょうか」
 さすがにヴォ―スィも苦笑いをしながら言うと
「はいっ!」
 怜がぴしりと手をあげた。


「…アジンナさんて、貴族?」
 教えられた場所には大きな邸宅が建っていた。
 出迎えた侍女に伝えると暫くして女性が姿を現した。
 薄青のドレス、赤い唇、美しく光るイアリング。
「アストリッド様、お飲物は?」
 侍女に声をかけられ
「殿方にお酒を」
 誰だろうと見つめていると
「ようこそ皆様。アジンナです。外出しておりましてこんな姿で申し訳なく」
 ひえー。違い過ぎる。凄すぎる。
 居間に通されると怜がぐったりとへたばっていた。
「着くなり手合わせって…」
「おお、来たか。こっち来い、砲術士と砂迅騎」
 庭にいたヴォ―スィがイルファーンとクロウを見て声をあげた
 ハナはテラスの隅に腰かけてお菓子をほおばっている
「ハナちゃん、良かったわね」
 リトとフェンが近づくと、ハナは嬉しそうにうんと頷いた。落ち着いたようだ。
「リト様、フェンリエッタ様、先程は」
 横にいたトゥルナが2人に礼をした。
「姫様は皆様のお蔭で変わりました。数年前ならこのような場は理解をお示しにならなかったでしょう。私達の実名まで覚えようと」
「別名は…規則で?」
 ためらいがちにフェンが尋ねるとトゥルナは首を振った。
「いいえ。私達で。私がいなくなれば次のトゥルナが来るのです」
 フェンとリトは顔を見合わせる。
「アジンナさんはアストリッドがお名前なのですね…」
 リトが言うとトゥルナは頷いた。
「アストリッドのアジンナ。マルティナのトゥルナ。これは生涯お仕えせねば」
 トゥルナは小さく笑った。
「おなまえがふたつあるの?」
 ハナがトゥルナを見上げた。
「そうですよ。姫様の親衛隊はそうです」
「あたし、アジンがいいな」
「そうですね」
 トゥルナは微笑んだ。ハナには別名の意味はまだ分からない。
「おねえさん、前髪短くないの」
 ハナはリトに言う。
「かぶとのせいだって」
「じゃ、もう切らなくていいわね」
 リトは答えてハナの髪を撫でてやる。
「できましたよ」
 透夜が近づいて紙を差し出した。皆で覗き込むとトゥルナとハナの姿が描かれていた
「うわ、すごい、そっくり」
 フェンが感嘆の声をあげる。
「全員描き…」
 言いかけた彼の背にどかっと誰かがぶつかる。
「あ、いた。クロウー!」
「ドゥヴェ、開拓者の首を絞めてるよ」
 トゥルナの声にドゥヴェは掴んでいた透夜の首元を慌てて放した。
 ごほごほと透夜はむせこむ。
「皆様、お食事をどうぞ」
 アジンナが親衛隊の姿で声をかけた。スェーミも親衛隊の姿になって部屋に来る。
「よっ、ドゥヴェさん、元気?」
 クロウが声をかけた
「会いたくて来ちゃったぜ」
「んもう! 可愛い!」
 ドゥヴェにがしりと羽交い絞めにされるクロウ。彼女にとっては抱擁のつもり。
 「うぐぐ」と言いつつそれがいつもの彼女でクロウはちょっと安心する。
 皆でテーブルにつき、ハナはアジンナが膝に抱いた。
「ハナは銃を持ってる親衛隊に笑ってもらったらしいが誰か分かるか?」
 イルファーンの問いにヴォ―スィが顔を向ける。
「いつのことだ?」
 話を聞いて
「それはたぶんトゥリーだな」
「隊長にそんな愛想の良さが。興味深い」
 スェーミが呟く。
 ハナはアジンナの膝の上でくるりと身を返し、ぽんぽん、と彼女の胸元を叩いた。
「どうした?」
 アジンナが問うと手をアジンナの両胸に置く。
「おっぱい、おっきい」
 むにむに。
 ひえっ、と全員で凍り付く。
 ハナはその手を自分の胸に当てる。
「おっぱいおおきくないとしんえったいになれないの?」
「心配しなくても大きくなるよ」
 アジンナは笑った。
「親衛隊になりたいのか?」
「うん。どうやったらなれるの?」
「そうだな…村の長に頼んで領主殿に願い、まずは騎士団などで鍛えてもらうのが良いかな」
 首を傾げつつハナは聞く
「ママも一緒に?」
 アジンナは首を振った
「ひとりで」
 ハナは悲しそうな顔をして、ぽふんとアジンナの胸に顔を埋めた
「ハナちゃん」
 透夜が近づいて来て紙を差し出した。アジンナに抱かれるハナの絵。
「自分の気持ちに約束しよう?」
「やくそく?」
「そう、約束。僕はお伽噺のような騎士になる約束をしてるんだ」
 透夜はにこりと笑う
「諦めて膝をつき、剣を手放す。…そんな生き方に僕は意味を感じない。だからハナちゃんも親衛隊になるために頑張ろうって約束」
「…うん」
 ハナは頷いて絵を見た。
「これもちょうだい?」
「いいよ。一杯描くからね」
 透夜は答えた。

 食事をし、ハナは全員の親衛隊に抱っこしてもらい、ワイワイと騒ぐ。
 任務にない親衛隊は普通に一人の女性だった。
 アジンナは子供好き。お酒が入ったドゥヴェはクロウの肩を抱いて更に大声で笑う。
 ヴォ―スィはフェンと靴の話題で盛り上り、スェーミが読書家だということをリトは知った。トゥルナは怜と笑みを交わしては静かに透夜が絵を描くのを横で見つめている。
 イルファーンは酒をちびちびやりながら時折扉のほうに目を向ける。
 …レナは間に合わないのかもしれない。
 やがて夜も更け、騒ぎ過ぎて眠りが訪れる。
「フェン…」
 フェンはそっと肩を揺さぶられ目を開く。はっとして身を起こすとアジンナがハナに毛布をかけてやるのが見えた。横に別の親衛隊が声をかけている。
「明日、スェーミにこの子を送らせろ。黒服で構わぬ。母君を安心させてやるが良い」
「了解しました」
 アジンナの反応を見て、それが隊長のトゥリーだと知る。
「フェン」
 再び声がしてフェンは顔を巡らせた。
「レナ!」
 しっと皇女は指を立てる。
「起こしてすまない。会えて良かった」
「私もよ」
 答えるとレナは腕を伸ばしてフェンを抱きしめた。そしてテーブルの上の絵に気づく。
「…誰が描いたの?」
「透夜よ。雪切・透夜さん」
 フェンは反対側で眠っている黒髪の青年を指差した。
「一枚もらっていい?…」
「姫様も今描きますよ」
 小さな声に目を向けると透夜が早速紙とペンをとりあげていた。
 自分と紙を交互に見る透夜の視線にレナは少し恥ずかしそうな表情を見せる。
 できあがった絵をレナは暫く見つめ、顔をほころばせた。
「ありがとう、透夜。嬉しいわ」
 透夜はにこりと笑った。その頃にはハナ以外の全員が目を覚ましている。
 レナはハナの傍に行き、そっと頭にキスを落とした。
「ごめんなさい…城に帰らないといけないの。またね…」
 レナはそう言うと名残惜しそうに踵を返す。イルファーンの傍を通り過ぎる時、彼が持ち上げた手に束の間指を絡ませた。
「ハナ、姫様にキスしていただいたことを明日、話してあげようね…」
 スェーミがくうくうと寝息を立てるハナの髪を撫でて呟いたのだった。
 

 翌日、スェーミに村まで送ってもらったハナは一生懸命手紙を書いた。
 ギルドに届いたそれを受付係はひとりずつに転送した。

『かいたくしやさんへ
 ありかとうござい ました
 ハナは いいこになって おおきなおっぱいのしんえったいになります
 ハナより』

「そこ?!」
 と、突っ込んだのは誰だったか。
 でも、十数年後にもしかしたら立派な胸の親衛隊が生まれているかもしれない

 なお、報酬は開拓者の労をねぎらい、親衛隊から皆に贈られたそうだ