【初夢】皇女の宴・壊Ver
マスター名:西尾厚哉
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/12 03:13



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。



「姫様、今度は本当の宴ですからね」
 カピトリーナがテーブルの上に書面を置き、急いで衣裳部屋に入って行く。
「ニーナから手紙があったから知ってる」
 レナ・マゼーパ(iz0102)はブリャニキをぽりぽりしながらそれを取り上げた。
「お行儀が悪いですよ。座ってお召し上がりなさいませ」
 カピトリーナの声が聞こえたが気にしない。
 書面の下に綴られたニーナ・ヴォルフとバレク・アレンスキーの身覚えのある筆跡を見て顔をほころばせた。

 母が12の月に私を生んでくれたのは
 終わる一年を守ってくれた人々と、これから始まる一年を一緒に歩いてくれる人
 皆に感謝をしなさいと、そう願ったせいだろう。

「ママの席も用意するわ。パパは私がお行儀良くしているかどうかを確かめに来るだけだと思うけど、会いたいでしょ?」
 彼女は幼少時と同じ言葉で小さく脳裏に浮かぶ母に呟いた。
「何か仰いました? 姫様」
 カピトリーナが顔を出した。
「ブリャニキが喋ったのよ」
「お戯れを」
 レナの返事にカピトリーナは可笑しそうに笑った。
「姫様、あまりお酒に強くないんですから、祝い席といっても自重なさいませよ。去年もお父様の御前で眠りこけてしまわれましたでしょ」
「うっ…」
 宴のためのドレスを抱えて戻ったカピトリーナの言葉に思わずブリャニキが喉に詰まりそうになる。
 去年はつつましく父と叔父とヴォルフ伯爵と共に夕食を共にしたのだが、皆がよく飲むのでつられて葡萄酒をあけたら気づいた時には父の部屋だった。
 あれは恥ずかしかった。
「小さい頃のように少し添い寝をしてやっただけだ」
 などと父は言ったが、父が添い寝をしたことなんかあるはずがない。
 ヴォルフ伯爵と叔父には後に「他言無用」の念押しの文までしたためた。
 もっとも、2人共単なる微笑ましい父と娘の出来事としてしかとらえていなかったのだが。
「飲まない。今年はグラスに3杯まで」
 ブリャニキをもぐもぐしながらそう呟いたレナだったが、大好きな幼馴染や開拓者が集う席でそんな戒めなどコロッと忘れてしまう可能性大。
 案の定、彼女は日付が変わったあたりから夢の中に落ちるのである。




●開拓者の皆様へ
 レナ皇女 誕生日パーティ&New Yearパーティ概略

 ・レナ皇女より、開拓者の皆様をご招待いたします。
  誕生日パーティと年越しパーティ、ダブルで行います。
  描写は12月31日〜1月1日の間のこととなります。

 ・場所はスィーラ城の皇女の間がある一角です。
  屋外は広いテラスとその下の中庭一部が開放されています。
  他のパーティが並行して行われる可能性があるため、そちらの方々と顔を合わせることがないよう配慮されます。

 ・宴の主な進行役を皇女の幼馴染であるニーナ・ヴォルフ伯爵令嬢とバレク・アレンスキー伯爵が担います。

 ・お食事、舞踏会、余興など多々ご用意。
  年越し時間にはカウントダウン花火打ち上げ予定。

 ・特に改まった服装でご出席になる必要はありません。普段通りでOKです。武装姿でも大丈夫。

  また、ご参加いただくだけで充分ですので、皇女へのプレゼントなども気になさいませんように。
  みんなで楽しくワイワイしてくれるほうが皇女も嬉しいでしょう。
  せっかくだから恋人同士で豪華な美味しいものでも食べて、パーッと盛大な花火見て新年迎えようぜ、な方も大歓迎です。
  今まで皇女と面識のない方ももちろんOKです。

 ・NPC参加は皇女の身内だけに限られます。

   主賓のレナ皇女
   カピトリーナ夫妻
   皇女の親衛隊(既出4人組含む)
   皇女の幼馴染であるニーナ・ヴォルフとバレク・アレンスキー伯爵
   ヴォルフ伯爵夫妻(お2人は途中で大帝へのご挨拶で退席します)
   神西三兄弟(橙火、桃火、白火)&迅鷹の蒼
   レナ皇女母方の叔父
   もしかしたらガラドルフ大帝の「いい子にしてるか」のチェック参加
  (開拓者の皆さんと接触のないNPCの描写はされない場合があります。各NPCについてご存じでなくても全く問題ありません)



※このシナリオはIFです。
 宴は実際に執り行われていますが、リプレイ描写されるのはレナ皇女の夢の中で世界観とは関係のないものとなります。
 必ず解説をご確認ください。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / アルクトゥルス(ib0016) / フェンリエッタ(ib0018) / フレイア(ib0257) / ハッド(ib0295) / 无(ib1198) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / 叢雲 怜(ib5488) / クロウ・カルガギラ(ib6817) / リドワーン(ic0545) / イルファーン・ラナウト(ic0742) / リト・フェイユ(ic1121) / 厳島 三鬼坊(ic1431


■リプレイ本文

 ドーン…

 響いた音に目を向けた。花火が光の粒を散らしている。
「綺麗ですー…」
 礼野 真夢紀(ia1144)の声に「そうね」と言いかけてレナ・マゼーパ(iz0102)はあれ? と視界の隅に入った頭のリボンに気づく。
「私、髪を結ってもらった?」
 手で触るとふわふわしてる。何だか気持ちいい…
「御髪はあたしがさせていただきました」
 真夢紀はにこりと笑う。
「ほんと? 嬉しいわ。確か、フレイアも…コーディネートのアドバイスを…」
「いたしましたわよ? また機会があれば練習を。お裁縫とお料理は特訓ですわね」
 おほほ、とフレイア(ib0257)。
 その隣でリト・フェイユ(ic1121)が兎を積んでいる。
 …いや、正しくはうさぎ饅頭を三角錐に。
「てっぺんよ、てっぺん。行くわよ」
 フェンリエッタ(ib0018)が最後の1つを上に乗せ、わーっと拍手が沸き起こる。
「食べたい…」
 思わず呟くと、
「もちろんです。はい」
 リトが更にお重の中から一匹をつまみあげる。
 うわ、ぎっしり。まだ、あるんだ。
「さ、どうぞ? あーん」
 言われて口を開け、はふんとリトの手からうさぎを齧る。
『餡がアズキじゃない?…』
 もぐもぐして思う。
「ひとは、おうれるはいはくてさひひぃな」
「大丈夫です」
 もごもごしながらでもリトは『ローレルがいなくて寂しいな?』と言おうとしたことを分かってくれたらしい。
 見れば神西橙火(トウ)がしっかりとリトと手を繋いでいた。
「彼女の騎士には及びませんが、少しなりともお力になればと」
 へ―…と思ったその反対側の手は柚乃(ia0638)。彼女は繋いでいないほうの手で迅鷹の蒼をひたすらもふもふ。
「モテ期です」
 トウは澄ました顔で言う。
「お饅頭、私も!」
 ニーナがリトにせがんだ。
 ニーナ、バレクはどうしたの。そう思ってレナは顔を巡らせてみる。
 いた、バレク。クロウ・カルガギラ(ib6817)と一緒に叔父と飲んでいる。
「クロウはバクラヴァとロクムを持ってきてくれましたよ」
 真夢紀が、ほら、と見せてくれる。
「あ、ナッツの入ったお菓子、大好き」
 これも早速つまむ。今日は甘いもの一杯。何て素敵なの。
 そしてまた顔を巡らせる。
 親衛隊5人と飲んでいるのはアルクトゥルス(ib0016)。話しかけているのはアジンナ…?
 親衛隊は12人いるが、みんな揃いも揃って美人だし背が高いし胸が大きいし足が長いし…レナも時々見分けがつかない。親衛隊長のトゥリーだけは何とか見分ける。
「お前は胸の大きさといい、足の長さといい、我らの仲間に申し分ない。どうだ、考えてみてはくれまいか」
「面白いことを言うお人だ!」
 アルクトゥルスが異様にウケている。
 親衛隊って選ぶのそこなのか? とレナは思いながら、少し離れた場所で残りの親衛隊に囲まれている无(ib1198)を見る。
「可愛い御仁…ふふ」
 そう言って彼の顎を指で突いているのは…シャスチか? 无は冷静を装っているが、顔がちょっと赤い。
「ええと」
 レナは額に指を当てる。
「今日は何の宴だっけ?」
「いやね、レナ。貴方のお誕生パーティに決まってるわ」
 フェンがそう言い、レナをきゅっと抱きしめる。
「お誕生日おめでとう、レナ。ほら、ブリャニキよ」
「あっ! 星型! 新種!」
 これはもうたまらない。
「お月様もありますね!」
 柚乃がキラキラ目を輝かせた。
「あら、柚乃さん、よくお似合い」
 ニーナが彼女の白い狐耳と尻尾を見て言う。
「私もつけてみたーい」
「つけてみます? ちょっと暴れるかもですけれど」
「ええっ」
 その隙に蒼が、カカカカ…とブリャニキの籠を突き回したものだから、あっちこっちにブリャニキが飛び散った。
「大事なブリャニキがっ!」
 レナは落ちたブリャニキを拾い集めようとする。
「レナ! お姫様がそんなこと…」
 フェンが言うが気にしない。
 ハートのブリャニキをはっしと押さえたところで、重ねられた手にレナは顔をあげた。
「…?」
 酒々井 統真(ia0893)の笑顔が見えた。
「ブリャニキ好きだな」
 彼はそう言い、レナを立たせるとその前に片膝をつく。
「どうしたの? 改まって…」
「レナ、俺はこれから雇われの身ではなくお前の騎士として戦う。今宵はその誓いを」
「え…」
 びっくりしていると統真がそっと自分の手に唇を押しつけるのを感じた。
「フ…フェーン!!」
 思わず叫んだ。
「はい、なあに?」
 フェンが答える。
「統真が…統真が、キスしてくれたっ」
 レナはココ、ココ、と自分の手の甲を指差す。
「私、もう、この手、一生洗わないっ!」
「皇女たるものが手を洗わぬとは何事か!」
 いきなりぬっと突き出された顔に「ひい」と叫びそうになった。
「あっ、陛下っ、だめじゃないですかっ、怒らないって約束でしょ!」
 无が慌てて走り寄って言う。
「せっかく天儀の名前までつけたのに!」
「天儀の名前?」
 レナは无を見る。
「人呼んで『我羅』さん」
「我羅だ」
 もう、遅いです、大帝。无さんの努力をなんとする。
「父上、頭が迷彩色。それ、アーマー用では」
 无の助けで髪を染め、伊達眼鏡と法衣を来た父を見てレナは言う。
「大丈夫。どうせならいろんな色にしたかった。それよりレナ、毎日ごはんの前には手を洗うのだ」
「貴方、レナはもう大人ですわ」
 つい、と細く長い指が伸びる。振り向いた大帝が伊達眼鏡を外した。
「おお…ミレーナ…」
「ママ! 来てくれたのね!」
 抱きつこうとすると、父に押しやられてレナは転がった。
「…!」
「ミレーナ…其方は変わらず何と美しい…」
「貴方は老けましたわね。さあ、うききのケーキをどうぞ」
「じゃあ、お前はうききっききのパイを」
「あーん」
「パパのばかー! ママとハグしたいのにー!」
「姫が子供みたいに騒ぐものではない」
 抱き起されて目を向けると竜哉(ia8037)に頭をぽんぽんされた。
「ん」
 レナは父と母を指差す。
「なんだ、うききのケーキが食べたいのか。ほら」
 差し出されるとぱくんとしてしまう甘味好きの自分が悲しい。
「ひがぅの、ふぁふぁとむぁむぁが…」
「ごっくんしてからだ」
 竜哉にダメ出しされる。
 むぅ〜…
 ごっくんして口を開こうとすると、不意に周囲が暗くなった。
 ぱっとスポットライトが点き、ステージが浮かび上がる。
「レディースアンドジェントルメン!」
 ニーナの声が響く。
「今年もやってまいりました、褌ボディビル大会! 今年の栄えある褌漢は誰でしょうかっ! 実況はわたくしニーナ・ヴォルフ、解説はミレーナ・マゼーパ様、リドワーン(ic0545)でお送りいたしますっ」
 褌ボディビル? 去年やった? レナは思いながらも「褌」に惹かれて目を向ける。
 音楽が鳴り響き、ライトに照らされた花道が見える。
「さて! 最初はこの人! 我が領地の守り主! ゲルマン騎士団長! 老齢ながらなかなかの筋肉! 褌の前には『打倒』の文字! モストマスキュラーで来ました! 続き、神西橙火です! 細マッチョです! 褌には『薔薇』の文字が! どうして薔薇なのでしょう! 刺繍した職人にも拍手です! ちょっと恥ずかしそうにフロントリラックス!」
「トウさーん!」
「にーぃ!」
 柚乃とリト、いつの間にやら現れた妹の桃火の声にトウははにかみながら手を振った。
「続きまして、ハッド(ib0295)の登場です! 出ました! フロントダブルバイセップス! 彼のつける鬼の褌にはやはりこれですね! リドワーンさん!」
「…」
「お前はこっちであろうっ!」
 ハッドが言うがリドワーンは不動のスタンス。
「さて! 次はやはりこの人! ガラドルフ大帝!」
「きゃあ! あなた〜!」
「ミレーナ様、解説です、解説」
 ニーナの声が小さく響く。
「あ、私があげた褌」
 父の褌を見てレナは呟く。いつの間にか猫を抱いているが、それが叢雲 怜(ib5488)であることに気づかない。
 いい手触りだからキスしかけて、
「怜に似てる…」
 だって、怜だもの。
「出ました! 大帝お得意のサイドチェスト! おお! 続いてバックダブルバイセップス! どうですか、ミレーナ様!」
「…ああ…素敵…」
「えー、コホン、続いては厳島 三鬼坊(ic1431)の登場です。あっ、彼はメンズビキニです! ちょっと直視できない! あっ、後ろに引きずられて行く!……再びの登場! 褌をつけての登場です! 可愛いクラゲの刺繍入り褌です! フロントリラックス! クラゲちゃん最高!」
「なぜクラゲなのだろう…」
 リドワーンが呟く。
「さて次は竜哉です。筋肉質は楽しみですよね、ミレーナ様」
「夫が出たからもういいです…」
「…」
 ニーナ気を取り直す。
「あ! 出ました! 荒波の褌です! モデル歩き! モデル歩きです! そしてアブドミナルアンドサイ! 男気ある褌になびく黒髪の色気!」
「竜ちゃーん!」
「おお、いつの間にやら皇女の親衛隊が竜哉の親衛隊に!」
 誰よ、それ、とレナは目を凝らすが良く見えない。
「さて、いよいよラストに近づきました! 无さんは…あ、親衛隊が離さないようです。統真が出ました! 泰拳士の鍛え抜かれた体です! 決まりました! モストマスキュラー!」
「統真! 統真! 手、洗わないからね!」
 レナは思わず手を振り上げて叫ぶ。
「手は洗うのだ!」
 ステージ上のパパに怒られる。
「え? なに? あ、バレクは腹が出てるから嫌だって? あ、そう。クロウは? え? 今着替えてる?」
 ニーナがごにょごにょ言っている。
「準備ができたそうです! クロウはレナ皇女の叔父様と登場!」
「うそっ…」
 レナ仰天。
「天晴です! 天晴褌で登場っ! クロウはサイドチェスト! 叔父様サイドトライセップス! 決まりました!」
 叔父様…。ちょっと眩暈がする。
「さて! ラストはイルファーン・ラナウト(ic0742)、年長組上から数えて6人目です! 因みに最年長はゲルマン騎士団長!」
「ぎゃうー」
 レナの腕の中で怜にゃんこが締め付けられて声をあげた。
「お姉ちゃ…ぐ、ぐるしぃ…」
「大変」
 親衛隊のトゥリーが慌てて救い出す。
「ごろにゃーご、ごろにゃーご」
 怜はこちらでも大歓迎。トウがちょっと羨ましそうな目を向けたのは見なかったことに。
「おっと、決まりました! フロントとバックダブルバイセップス! お尻がセクシーです!」
 レナは前に出ようとするのだが、人が多くて前に出られない。
「ちょっ…!」
 変だ。女性陣で背が高いのはフレイアかアルクトゥルスくらいのはずなのに。あ、親衛隊か! でも、親衛隊こんなにたくさんいないはずっ!
「さあ! これで全て出そろいました! では、最終審査の前にスィーラ・皇女親衛隊、STN12の歌と踊りをお楽しみください!」
「なに?? STN12ってなに??」
 レナは思わず言う。
「だからスィーラ・皇女親衛隊ですってば」
 ニーナが答える。そうなのか??
 首を傾げる間にハイレグ姿の12人がずらりとステージに並ぶ。
 足長い。長いのになんであんなにヒールの高い靴を履く?
 大音響と共にドスの効いた声で歌い、一糸乱れぬ動きで踊り出す。
「あれ? アルクトゥルス?」
 数を数えてレナは確信する。やっぱり13人。右から5人目はアルクトゥルスだ。
「トゥリーちゃーん!」
「ドゥヴェナー!」
「アルク〜!」
 なんでこんな大人気?
 再びステージが静かになる。
 ドドドドドド…と太鼓の音がする。
「さて皆様! いよいよ最終審査です! レナ皇女に今年の優勝者を決めていただきましょう!」
「えっ、私が決めるの?」
 いきなりスポットライトを浴びてレナは戸惑う。
「レナ、分かっているな! 父を選ばねば開拓者との結婚など許さぬ!」
 パパの声がする。
「大帝、そういうのはズルですぞ」
 叔父が言う。
「…イルファーンの姿見てない…」
 レナは言う。
「早く選べ!」
「あっ! 大変です! 大帝が暴れ始めました! 近くの統真に掴みかかっています! でも俊敏さでは統真に勝てない! あっ! 厳島が頭突き! 修羅の頭突きはフェアじゃないと怒られています! 大変です! 大乱闘!」
 その時、片隅で声がした。
「とあ! ちっ、負けたか。腕相撲に負けるなんて不覚。仕方ない、脱ぐか」
 アルクトゥルスの声だ。
「あっ! 男性陣の動きが止まりました!」
「あなたっ! どこ見てるのっ!」
 母が叫ぶ。
「お前に決まっているだろう、ミレーナ」
「まあ…。あなた、さあ、うききのケーキを…」
 もう、何が何やら…私はどうすれば。
 混乱していると
「レナ!」
 クロウの声がして、ステージからマイクがレナの手元に投げ込まれた。
「えっ、なに?」
 マイクを手にした途端に身につけたドレスが見る間にぴったりした黒革のジャンプスーツに変わる。
「御髪変更〜!」
 真夢紀がものすごい勢いでセットする。

 ビィィィン!

「さあ! レナ殿! 次はロックじゃ!」
 ハッドが叫び
「さあ! クロウ殿! 我らは外で騎射撃戦だ!」
 叔父が叫び、ゲルマンと親衛隊の一部がそれを追いかける。
 どうしてロックと騎射撃戦が同時進行なの。
「み、皆さんは行かなくても?」
 残った親衛隊に无が尋ねると
「私達は近接部隊です。き・ん・せ・つ」
 などと答えられている。
 褌番付はどうなったの? イルファーンいたの?!
「いたよ、たぶん」
 竜哉が黒髪をさらりと払ってドラムのスティックをくるりと回した。
 レナはおずおずとステージにあがる。
 上がった途端にニーナのギターが唸る。ニーナ! 貴方もなのっ?!
 コーラスでフレイアとフェンが立っている。フレイアの深いスリットから覗く足は悩殺の網タイツ。
「きゃー! 竜ちゃーん!」
「レナー! ニーナー!」
「ハッド! ハッド!」
「フェン〜! 愛してるー!」
「フレイアー! ダーイナマーイッ!」
 なに、この盛り上がりよう。
 そう思いつつ、口を開いた途端に、悪だの精霊の罠だの殴り飛ばせだの蹴り飛ばすだのてめえら地に堕ちろだの…すごい言葉がほとばしり出た。
 迅鷹の蒼が柚乃の傍で『ギャーッ! ギャーッ!』と合いの手を入れ、真夢紀が巫女姿で踊る。
「ヘビィね」
 そう呟いた言葉すら既に歌。
 熱気に当たってふうっと倒れたリトをトウが慌てて助け起こした。
「さあ! 次の曲に行くのじゃ!」
「ちょっと待って!」
 ハッドの声に息を切らし叫んだ途端にがちゃんと暗転した。
 しん…と静まり返る。
「え、何? やだ…誰かいる? …誰か来て…」
「呼ばれた呼ばれた…」
 どこからともなく、小さなランプの上に尻の先だけ乗せて胡坐を組んだリドワーンが光に包まれ宙に浮いて現れた。
「リドワーン……魔術師だったの…?」
「粗瓶土瓶禿茶瓶。ちょっと違うが、お褒めに預かり光栄」
 褒めたっけ、私、とレナ思うがそういうのはどうでもいいらしい。
「願い事を三つ叶えに参上」
 あのランプを蹴ったら彼は下に落ちるのかな、と考えつつ、レナは言ってみる。
「じゃあ、イルファーンと話したい」
「よかろうよかろう」
 またもや暗転、バルコニーが現れる。そこに立つ「あの人」。
 が、後ろが騒がしい。
「そこ! もう少し右だ! そこは前! R13指定だ! 未成年者は向こうへ!」
 竜哉が仕切っている。
「え〜! 見たいんだぜよーっ」
「酒だ! 酒持って来い! あっはっはっは」
「い、痛い、叩くでない!」
「フレイアさんの胸が大きくて見えませーん」
「親衛隊の胸も大きすぎて見えませーん」
「…なんでこんなにギャラリーがいるっ! リドワーンっ!」
 レナは小さく叫ぶ。彼は真横に浮いていた。
「邪魔なら見えないようにしてやろう。これが二つ目」
 ギャラリー側が暗くなる。
「ちょっ…」
 こっちから見えないだけじゃないかっ。そう思うけれど、何かを言えば三つ目になってしまう。おのれ。
「何してる、そんなところで」
 聞こえた声にドキリと心臓が跳ね上がる。そうだ、やっと会えたんだ。
「イルファーン、どこにいたの」
 近づいて、やっぱりこの人でかい、と思う。抱きついたらすっぽり隠されてしまいそう。
「熊のぬいぐるみ…」
 何を言っている私。
 黒曜の目をずっと見つめ続けられなくて顔を俯ける。
 途端に褌が目に入った。うわ。
「見てしまった…」
「見せると約束したじゃねえか」
「寒くないのか?」
 ぺちぺちとあちこち叩いてみた。
 …本物…だよね? んー…
「イルファーン…」
 すごく話をしたかったのに、前にすると何をどう言えばいいのか分からない。
 イルファーン。私はみんなが大好きよ。
 みんなの言葉に助けられた。
 ずっとずっと傍にいたい。
 でも、開拓者には目的がある。
 私は世間知らずのただの姫。
 だから、私が束縛しちゃいけない。
 それでも束の間、私だけを愛してもらえたなら…
 そんな風に夢見たの。
 ……それが言葉にできないの。
 拒絶されたらどうしよう。
 その怖さの方が大きくて。

 じわっと視界が涙で潤む。泣くな、私。
 ニーナはいつもこんな思いをしてるのかしら。
 エドの時もバレクへの気持ちも、私のことを考えてずっと我慢して。
 そんなことも分からないでいて。

 ふいに、後ろからふわりと抱きしめられた。
 はっとすると、実はリドワーン。
「このっ…」
「こうして欲しいなら3つ目を」
「そんな魔法はずるいっ」
「意地っ張り」
「彼が自分で何か言わなきゃ…!」
 言ってしまってから「あ」と思う。
「よしよし」
 リドワーンは口元に耳を寄せるようにちょいちょいとイルファーンを手招きする。
「待てっ! リドワー…」
 イルファーンは眉を吊り上げる。
「何?」
「以上だ」
 途端にレナはランプを蹴り飛ばした。
「ああっ」
 リドワーンが落ちる。
「リドワーンのばかー!」
「何をしている! ぬいぐるみを持って行かれるぞ」
 えっ、と振り向いた途端、しゅんっ! と縄が頭上を掠める。
 それはひょいとイルファーンを絡め取り、彼の体が宙を舞う。
「おーっほっほっほ! お宝は頂きましたわ! 皆様、アデュー」
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)が身に纏うは真紅のグラスビッツ。手には既にスィーラの宝石をちりばめたネックレスが握られている。
 イルファーンのぶら下がった縄に捕まり、その縄は上空の飛空船に。
「おのれ、姿が見えないと思ったら最後の最後に出てきたかっ」
 レナは欄干に飛び乗ってカービン銃を抜く。
 あれ、私どうして銃を持っていた? せめて剣が良くないか? でも届かないし。
「熊は落として行け!」

 ガアン、ガアァアン!

 …当たらない。

「ええい、皆の者、であえ! であえ!」
 私の口調、どこか変。
「あの船はコマメの船だよー。コマメはおネェだよー」
 桃火の声がした。
「何、おネエ? 褌組、前へ!」
 竜哉が合図する。みんなまだ褌姿だったのか。
「ポージングだ!」
 一列に並んで一斉にポーズ。
「大帝がいるんだけど…」
 誰かが呟いたがそんなことはもうお構いなしだ。
 決まったっ
 
 ――どうーーん!

 飛空船が爆発した。
「落ちる! 落ちるぞ、飛空船!」
 それは中庭で騎射撃戦をしていた叔父とクロウとゲルマン、親衛隊の出番だ。
「御用だ! 御用だ!」
 アルカがお縄になる。
「クークー…」
 えへ、と彼女は笑う。
 レナもひょいとテラスの欄干を飛び越えた。
「熊!」
 ああ、もう、本当にぬいぐるみになってしまって…。
 落ちたイルファーンベアを抱きしめて、必死にずるずると引き摺る。
 やっぱり離したくない。

 これは

 私の大事な…


「熊なの!」
 大きな声に宴の席が一瞬静まり返る。
「レナ?」
 統真が彼女の顔を覗き込む。
「あっはっはっは! 熊と! レナ様、実に面白い!」
 横でアルクトゥルスが笑い、「ぐぅ」と突っ伏す。
「ふぅむ、酔っておいでだの」
 ハッドがレナの前でふるふると手を振り呟いた。
 …アルクトゥルスも酔ってますけど。
「熊…」
「おとと」
 後ろに倒れそうになったレナをクロウが慌てて受け止める。
「統真っ」
「な、なんだ」
 ぐわっと睨みつけるレナの視線に統真が慌てて答えた。
「其方は私のために戦うと申したな。戦いではないが熊、持って来い!」
 そう言って指差された先のイルファーンを見て、統真は目をしばたたせた。
「イルファーン、連れて来ればいいのか?」
「レナ? 大丈夫?」
 ニーナとバレクが慌てて駆け寄り、イルファーンと一緒にヴォルフ伯爵も来る。
「ははは…やはり酔われましたか」
 ヴォルフ伯爵が笑った。
「潰れたならばお部屋にと。皆様にもお部屋を用意しておられるそうです」
「運べ、熊」
 竜哉がイルファーンに言う。
「お前、龍撃震使ってるだろうっ」
 イルファーンが言った。
「当りだ。女性陣、送り狼の見張りに。男性諸氏護衛。6名越えたがまあいいか」
 この言葉で全員が集まった。
 竜哉はアルクトゥルスをひょいと抱き上げる。
「あっ、自分だけ1人送り狼」
 クロウが言った。
「大丈夫。我らも参りますゆえ」
 親衛隊の1人がにこりと笑って言った。
「もう1人連れてゆきます。子猫ちゃんと」
 彼女はしっかりと无の腕を掴んでいる。どうも相当気に入ったらしい。
「子猫って誰?」
 柚乃が首を傾げる。
「怜じゃないかしら」
 と、フェン。
「イルファーンに運ばせていいのか?」
 統真がバレクにそっと囁く。
「俺、もう飲み過ぎて抱き上げられない」
「こういうところがだめなのよねっ!」
 ニーナが怒る。
「レナはああ見えて重いんだ。ニーナは軽いぞ」
 ひょいと持ち上げられて、ニーナの顔が真っ赤になった。
「ちょっ…やめてよ。恥ずかしいでしょっ」
「こっちはほっといても良さそうだな」
 統真は笑って言った。

 とりあえず皆でぞろぞろとレナの部屋に。
 皇女様のベッドは広くて大きい。イルファーンは「ぐぐ…」と声を漏らしながら腕を伸ばし、ぱふんと彼女を下ろして体勢を元に戻そうとし、掴まれた袖口に顔を向けた。
「…熊…」
 焦点の定まらないレナの目がこちらを見ていた。
「リドワーンのばかー!」
 皆の視線を受けて、リドワーンが「む?」と硬直する。
「姫様の毎度の寝言です」
 レナの靴を脱がせ、毛布を引き揚げてカピトリーナは手慣れた様子で言う。
「明日になればケロッとしておいでですから。さ、では皆さまはこちらに」
「いや、ちょっと待て、これどうする」
 がっしり掴まれたままのイルファーンが慌てる。
「いっそ添い寝をなさったらいかがです」
 ほほほとカピトリーナは笑った。
「冗談じゃねえ…」
 焦るイルファーンを無視して皆が次々に眠るレナにそっと声をかける。
「レナん、また会うのじゃぞ〜」
「姫様、ゆっくりお休みを」
 ハッドとフレイアが出て行く。
「レナ、一緒の時間を有難う。大好きよ」
「姫さん、良い一年を」
「じゃあ、レナ、またな」
 フェンがレナの額にキスをし、クロウは手の甲にキスを落とす。統真はレナの頬に少し手を当てた。
「レナ様、お休みなさい」
 柚乃とリト、真夢紀、アルカが軽く手に触れて出て行く。
 リドワーンと厳島が無言でそれに続いて部屋を出る。
「さて」
 カピトリーナはそう言ってイルファーンを見た。
「5分たったらまたお迎えに」
 ぽんぽんと彼の背を叩き、部屋を出ていった。イルファーンはそれを見送ってふうと息を吐き、レナの指を苦労して袖口から引き離す。銃を持つ彼女の指は強い。
 そして寝息をたてているレナの顔に目をやった。
 大きな手が彼女の額を暫く撫でる。
「デカいなりして、寝顔はまだガキだな」
 呟いて立ち上がり、部屋を出て行きかけたところで
「イルファーン…褌…」
 呼ばれて振り向いた。寝言だ。
「おう、またどっかでな。今年も楽しくやろうぜ」
 笑ってそう答えて背を向けた。



 翌日、レナは目を覚ます。

 あれ?

 あれ??

「どうしてまた父上の部屋??!!!」
 ええと、ええと、私はどうしたっけ? 
 酔い潰れて部屋に送ってもらったんじゃなかったっけ? 
 どうして、父上の寝室なの??
 大きな手の感触が額にあるような、ないような?? パパの手かっ?
「姫様、お目覚めでございますか」
 侍女の声がした。
「みんなはっ?」
「皆様、別室でゆっくりお休みになってお昼前にお戻りに。姫様にくれぐれもよろしくと」
 侍女はレナの剣幕にびっくりしながら答える。
「私はどうしてここにっ?」
「姫様は花火があがったあと眠ってしまわれましたので、ガラドルフ様がお運びに…」
「自分の部屋には行ってない…?」
「はい」
 レナは呆然として宙を仰ぎ見た。
 なんだかすごい夢を見た気がする…
 なんだかすごく大騒ぎした気がする…
 それも夢?
 どれが夢っ??
「ねえ」
 レナは宙を見たまま侍女に言った。
「ジェレゾに小豆銀介の船が来ているかしら。来ていたら呼んで」
「…何かご入り用ですか?」
「褌とかショーツとかいろいろ」
 侍女に答え、レナは「小豆の船、爆破したし」と呟いた。

 後日開拓者達は届いたものを見て首を傾げる。
 それが姫のおぼろげな夢の記憶によるものだとは知る由もないからだ。