【魔法】南瓜の時計塔
マスター名:西尾厚哉
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/26 01:39



■オープニング本文

 ※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
  WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


「起きて! 起きてよ、レナったら!」
 耳元で囁かれ、頬をピタピタと叩かれてレナ・マゼーパ(iz0102)は眉をしかめた。
「なによ…朝なの…?」
 うるさそうに呟いて目を開く。目の前に12歳くらいの少女の顔があった。
「朝よ、ウトウトしてたら明るくなっちゃった。夜更かしはだめね」
 彼女は答えた。
 目をしばたたせて身を起こす。
 ここ、どこなの。
 薄暗い部屋の中は中身の分からない木箱が山積みになり、はるか頭上にある小さな窓から空が見えた。
 倉庫の中のようだ。
 少女が木箱をよじ登り、高窓から外を伺い見る。
「誰もいないみたい。今なら出れそう。逃げよう」
「逃げる?」
 何のこと?
「早くっ!」
 木箱から飛び降りて少女はレナの手を引いた。
 そっと扉を開け、外の様子を確かめる。
「こっち!」
 言われるままに身を屈めて素早く倉庫を走り出る。
「しっ!」
 少女がレナの手を引いて壁の陰に隠れた。
「逃げるって…」
「しーっ」
 言いかけたらまたたしなめられた。
 壁の端から向こうを覗く。
「いたか」
 低い声がする。どこかで聞いたような気がするが覚えていない。
 暫くして大柄の男の姿が見えた。
「んー。中の下」
 少女が呟いた。
「何?」
 レナが小さな声で囁く。
「あたしがキスをするに値しないランクってこと」
 少女は答えた。
「見当たりません。でも町中に配置していますから見つけるのも時間の問題かと」
 男よりもずっと線の細い黒髪の男が視界に入る。
「どうせならこっちね」
 少女の言葉に思わず「マジ?」という目で彼女を見てしまった。
「トウ、分かってるな。あの女に渡したら時計塔を破壊してしまう。必ず見つけ出せ」
「了解しました、バレク様」
 男が立ち去った。
「レナ、行こう」
 少女は言った。

 倉庫の敷地を出て、レナは足を竦ませた。
 見知らぬ街、見知らぬ人、見たこともない建物、うるさい音を立てて走る鉄の乗り物。
「レナ、こっちよ! こっち!」
 少女が手招きする。
「ニーナ、待って、ここは…」
 口にして、ようやく思い出した。
 私は気がついたらここにいた。
 ここはいったいどこ。私はどうしてこんなところにいるの。
 そう思って途方に暮れていたところにあの少女に会った。
 そのうち、見知らぬ黒装束の男達に「いたぞ!」と指差され、本能的に逃げた。
「こっち!」
 そしてさっきと同じようにあの少女に手招きされ、路地裏に隠れて男達をやりすごした。
 そのあと少女は自分を見て目を輝かせた。
「すごい、すごいわ、ピンク・ファイヤーの言った通り。これで帰れるのね」
 少女はそう言って、レナの首に手を回して抱き着いた。
「あたし、ニーナよ。あなたはレナよね?」
「どこかで…会った?」
「会ってるんだと思う。きっとどこかで」
「何のこと? どうしてあいつらは私を追う?」
「分かるわ。私も同じだったもの。でも、ピンク・ファイヤーは言ったの。同じ人がいっぱいいるって。その人達は味方だから、みんなで時計塔に行きなさいって」
 ニーナはそう言ってワンピースのポケットから橙色の小さな紙包みを取り出した。
「これを持ってみんなで時計塔に行くのよ」
 レナは訳がわからないというように、彼女の手の平の上の紙包みを見つめた。
「貴方も持ってるでしょ?」
「私も?」
 レナは嘘でしょ? という表情をし、そのあと自分の着ているもののあちこちを探る。そして同じ紙包みを見つけた。
 紙包みと一緒にばらばらと宝石がポケットから零れ出て「わ」と小さく声を漏らす。
 いったい何なの、これは…。

 恐る恐る石畳の上に足を踏み出し、周囲を見回しながら歩き出す。
 口をもごもごさせている大男が興味深そうに自分を見下ろすのを避けて通り、ふと、自分の横にある大きなガラスの板に目を向けた。
 そこに映った自分はやっぱり自分で、でも自分じゃない。
 短いスカート、長いブーツ。胸元が窮屈だわ。
「レナ、行くよ。時間がない」
 立ち止まってしまったレナの手をニーナが引く。
 時間がない。
「3日後の午後11時59分59秒…」
 レナは呟いた。ニーナは頷く。
「そうよ。それまでに味方と一緒に時計塔に行くの」
 橙色の紙包みを見る。
「南瓜のタネが入ってる…」
「そうよ。味方はみんな持ってる。これを時計塔に持って行くの」
「300?」
「そう、300」
 思い出したのは記憶のほんのひとかけら。
 まだ何も思い出せていない。
「いたぞ!」
 声がした。
「レナ!」
 ニーナが叫ぶ。
 逃げなきゃ。でも、どこへ。
 ふと、道の脇で音がした。
 太い車輪のついた乗り物。あれはきっと速度が出そう。
 そう思った瞬間、レナは胸元から銃を出して乗り物に跨っていた見知らぬ青年につきつけていた。
「降りて。早く」
 両手をあげて離れていく青年からハンドルを奪い取る。
「ひゃっほー!」
 ニーナが叫んであっという間に飛び乗る。
 それでどうするの?
 運転できるの?
 考えている間にバイクは走り出していた。
「ねえ、私は何者なの?!」
 バイクを走らせながら叫ぶ。
「トレジャーハンターだって言ってたよ!」
 後ろでニーナが叫び返した。
 トレジャーハンター? 宝探し? 私が?
 だから宝石を持っていたの?
 笑えるわ!
 何にも思い出せていない。
 ただひとつ分かっているのは3日後に時計塔に行かなければならないということ。
 でないと私は戻れない。


■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
エレイン・F・クランツ(ib3909
13歳・男・騎
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
イルファーン・ラナウト(ic0742
32歳・男・砲


■リプレイ本文

――バウウッ… ドドドッドッドッ…

 黒いサイドカーが街角に停まる。
「エレインさーん、着きましたよー」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)がヘルメットをとり、横で寝息をたてているエレイン・F・クランツ(ib3909)に声をかける。
 うーんと背伸びをして、エレインはサングラスを外した。
「ほんとにどこでも寝れますね」
 クロウは苦笑する。
「ん、今日も冴え冴え」
 エレインは側車から降り、皮の手袋をきゅっとつける。
「さて、クロウ君。君の情報によるとマリーちゃんの好物はプチプチ歯触り新鮮コーン。このモールでコーンがあるお店は?」
 クロウは学ランのポケットから手帳を取り出す。
「5軒ですね。野菜を売る店が2軒、コーンキッシュを売る店が1軒、サラダ専門店2軒」
「お腹空いてきちゃったな…」
 エレインは呟く。
「俺、バイクを停めて来ます」
「キッシュ食べようよ、キッシュ」
「じゃ、そっちにどうぞ。俺は他を探しながら行きます」
 エレインはにこりと笑うと、人々の行きかうモールに消えていった。
 バイクを出そうとしたクロウは目の前を横切る2人連れに気づいて手を止める。
 少女が小さく笑ったので、クロウは笑みを返す。
 エレインと同じくらいの年齢かな。
 そう思ったクロウだったが、彼女と一緒に歩いていた女性にはちょっと違和感。
 姉妹? に、してもこの雰囲気。
 ま、いいかそんなこと。
 クロウはハンドルに再び手をかける。
「お腹空いたわ、レナ」
 少女の声が聞こえた。
「私に言わないでよ」
 レナと言われた女性が答える。
「このモールにあるキッシュのお店、旨いですよ! コーンがお薦め!」
 クロウはそう叫んでバイクを発進させた。
「ありがとう!」
 少女の声が背後から聞こえた。

「キッシュのお店ですって。行こうよ、レナ」
 ニーナはレナ・マゼーパ(iz0102)の手を引っ張る。
「1日過ぎたわ」
 レナは答える。
「ずっと何も食べずにいるつもり?」
 冗談でしょという表情のニーナにレナは渋々引かれて行く。
「ベーコンとコーン、チョコベリー、ハーフで。それと…レナ、飲み物は何がいい?」
「何でもいいわ」
 うわの空で答えるレナに、ニーナは「じゃ、オレンジジュース2つ」と注文した。
 満員の店内から出て外のテーブルに。
 レナは落ち着かない様子で周囲を見回す。
 早速フォークでキッシュをつつき、もう片方の手で金属の板を取り出すニーナ。
「なに、それ」
「ピンク・ファイヤーにメールしてみる。3回までヒアリングオッケーって言われたから」
 ニーナは慣れた様子で指を動かしている。何のことかわからないレナは再び周囲に目を配る。
 店の前は道路だ。四角い乗り物はニーナが「車よ」と教えてくれた。
 歩道の脇に駐車している車に男がひとり座っている。
 小麦色の肌に真っ黒な瞳。精悍な顔つきのその男はただ車の中にいたのだが、レナは『あの男は銃を持ってる』と本能的に思う。
 何となく目を離すことができない。
 案の定、余りにも見つめすぎて相手がレナの視線に気がついた。
 つい、と向けられた彼の視線にドキリとして慌てて目を逸らせる。
「返事が来たわ。すぐに会えるって」
 ニーナが言う。
 見せられた金属の板をレナは覗き込む。
――マリーちゃんを探す名探偵
「誰、マリーって」
 レナは言うが、ニーナは「さあ?」と肩をすくめてキッシュのコーンをフォークで掬う。
 それを口に運ぼうとした途端に
「にゃあ」
 テーブルに素早く飛び乗った白猫にぱくりとやられた。
「あっ!」
 ニーナが叫ぶ。びっくりした猫はレナの腕に逃げ込んだ。
「あんたと一緒でお腹が空いているのよ」
 レナは苦笑して自分のキッシュのベリーを掬うが猫はそっぽを向いてしまう。
「コーンが好きなの?」
「あげないもん!」
 ニーナがむくれる。
 猫が身を乗り出してニーナの皿に。
 ニーナが皿を持ち上げた時、テーブルの下から少年が顔を出した。
「マリーちゃーん。見つけたよ〜」
 マリーと呼ばれて猫がにゃあ、と反応する。
 ニーナとレナは顔を見合わせた。
「この猫、マリー?」
 ニーナが尋ねる。
「そうだよ。探してたんだよね」
 レナはがしっと少年の手を掴んだ。
「会いたかったわ、名探偵」
 エレインはきょとんとレナの顔を見た。


 変な女だ。
 イルファーン・ラナウト(ic0742)は自分をじっと見つめていた女性を見て思った。
 懐に銃を隠してやがる。何者だ。どこかで会ったか?
「まさか」
 イルファーンは小さく笑った。
「ご機嫌だな、イルファーン」
 車の窓をコツコツと叩かれ、彼はそちらに目を向けた。
「上物でも手に入ったか?」
 酒々井 統真(ia0893)がにっと笑って顔を覗かせる。
 こいつとはどうも切っても切れない縁があるな、とイルファーンは息を吐いた。
「もうすぐボスが出て来るぞ」
「ここは俺達のシマだぜ」
 統真は笑顔を崩さない。
「んで、今日は?」
 答えるまでこいつは離れるまい。
 イルファーンは周囲を確認して窓に顔を近づける。
「上白糖、500だ」
 ぴゅう、と統真は口を鳴らす。
「三温糖じゃなく?」
「ああ、真っ白だな。あさってにはグラニュー糖も手に入る」
「本当に混ざりっけなしだろうな。甘味料入りなんて洒落にならねえ」
「虫歯保証だ」
「感謝するぜ」
 統真はイルファーンの肩をぽんと叩き、離れて行った。その直後にボスが出て来る。
 イルファーンは最後にちらりと女に目を向け、車のエンジンをかけた。
 どうしてあの妙な女に何度も目を向けてしまうのか彼自身もまだ分からなかった。

「急に言われてもねー」
 エレインは片手に白猫を抱き、もう片方の手をキッシュに伸ばす。
「あたしのキッシュなんだけど」
 ニーナがむくれる。
「持ってるわよね、包み」
 レナが尋ねると、エレインはポケットから橙色の包みを二本の指で挟んで見せる。
「お守りみたいなものだと思ってたよ」
「いつから?」
「昔からね」
 エレインは答える。
「でも、助手のクロウにもちゃんと話さないと。キッシュも食べなきゃ」
 レナがニーナを見る。
 ニーナはぷうと膨れて追加注文をしに立った。
「クロウという人がイエスと言えば一緒に行ってくれるの?」
「ノーと言う可能性もあるよ」
 エレインは笑ってレナを見た。レナは彼に顔を寄せる。
「その懐のナイフは使ったことがある? 名探偵」
「えっ」
「貴方と組んでいたら地の果てに眠る財宝も見つけ出せたかも。私はそれが残念」
「でも、今探しているのは財宝じゃないよね」
「そう、南瓜の種。その後どうなるか、貴方は知りたくない?」
「はい、キッシュお待ち!」
 ニーナが戻って来て、どんとエレインの前にキッシュを置いた。
「クロウを探してきてよ。学ラン着てるからすぐわかる。それと猫ちゃんはちゃんと飼い主に渡すよ。仕事は最後までやらないとね」
 目を煌めかせてエレインは言い、レナは立ち上がった。

「マリーちゃん、マリーちゃん、っと」
 猫の姿を探し求めてクロウは野菜市場を歩き回る。
 しかし妙に背後が気になる。少し前から誰かがずっとついてくる。
 さてどうしようか。ここはやっぱり確かめるしかないだろうな。
 クロウはさっきと変わらない足取りで市場を出た。
 が、気配が急激に近い。
 ばっと振り向く。
「学ランの下に銃とはね、クロウ?」
 至近距離の女性の顔を見てクロウは呻く。誰…? …て、この人さっき…。
「私は銃を抜いてない。しまってくれない?」
 彼女の胸の谷間にぐにっと突き付けていたスーパーブラックホークにクロウは「うわわ」と慌てる。
「お、俺に何か用?」
「と、いうか」
 彼女はクロウのポケットにするりと手を差し込む。
「貴方も持っていたとはね」
 手には橙色の包み。
「最高。この先も貴方とずっと一緒にいられる」
 うっわー! 遂に俺の時代が来たっ! …じゃなくて!
「い、いきなり何」
「エレインは貴方がオーケーと言えばと。だからオーケーして?」
「何を?」
「一緒に時計塔に行くの」
「急に言われても」
「貴方も条件があるの?」
「んー」
 クロウは考える。
「後で俺とデートして」
 そう言った直後、彼女が腕の中に飛び込んで来たのでクロウは仰天する。
「お願い。私を抱きしめて恋人のふりをして。銃は隠して!」
 ただならぬ気配に言葉通りぎゅーっと彼女を抱き締める。背後をバタバタと黒いスーツ姿の集団が通り過ぎた。
 なんか、いい匂い。女の人って砂糖菓子みたい。
 そんなことを考えてクロウが顔を近づけた時
「ガッ…」
「行ったわ」
 顔をあげた彼女の脳天で鼻を強打した。
「大丈夫?」
 女性が慌てて言う。
「はひじょうふ…」
 クロウは答えた。この涙はきっと鼻を打ったからだよね、と考えながら。


――バウッ… ドッドッドッ…

 クロウの運転するサイドカーが大きな建物の前に停まる。
 その後ろにレナのバイクがニーナを乗せて停まる。
 建物の前は異様に黒スーツまみれだ。レナとニーナは体を強張らせるが、どうも追っ手とは違う。
「さ、マリーちゃん行くよ」
 エレインが白猫を抱いたまま降りた。クロウもそれに続く。
「依頼主は誰なの?」
 レナが尋ねる。
「マフィアのボスだよ」
 エレインはこともなげに答えた。
「依頼にマフィアも庶民も関係ないからね」
 クロウがぴしりと襟元を正して言い、2人は建物に入っていった。
 舐めるようにこちらを眺める黒スーツの視線が気になる。
「ニーナ、移動しよう」
 レナがエンジンをかけようとした時、背後で車が停まる音がした。振り返り「あ」と2人で小さく声をあげる。
 出て来たのは倉庫で追って来ていた若い男だった。
 彼は車の後ろのドアを開け、顔を出したのはあの図体のデカい男。
 レナは慌ててバイクのエンジンをかけようとするがかからない。
 なんで? 今までかかってたのにどうして!
 男がこちらを見た。
「ニーナ、逃げるよ!」
 レナがバイクから飛び降りる。
「エレインとクロウは?!」
 考えている余裕ながい。駆け出した。
「追え!」
 あの男の声がする。
 どこに逃げ込んでも絶対捕まる気がする。
 レナは公園を見つけてそちらに向かって走り出した。木登りは得意。(…のはず)
 ひときわ高い木にするすると登る。
「ひー」
 ニーナは悲鳴をあげた。案の定、あっという間に若い男に捕まってしまう。
「ニーナ!」
「レナぁ!」
 続き、大柄男の登場。男は木の上のレナを見て笑った。
「俺は木登り大得意」
 男の足が木にかかった。

 イルファーンは車を停め、いつものようにオフィスに戻る。
 テイクアウトのコーヒーを買い、公園を突っ切って行くのが日課。
 今日ももちろんそうで、一口飲んで苦味を堪能している時声が聞こえた。
「助けて!」
 自分に言われているなど全く思わない。
「こっち見てよ!」
 今日は妙な日だ。
「イ…イルファーン!」
「ぶっ」
 吹き出しかけてかろうじて我慢する。
 顔を巡らせ、見上げて声の主と目がぴたりと合う。
 キッシュカフェにいた女じゃねえか。
 そして木を登って彼女に近づこうとする男に目を向ける。
 やれやれ。
 イルファーンは紙カップの端を咥える。そしてコートを払い、銃を取り出した。

――ズガアアァァン…

 すさまじい音と共に最大級口径が火を噴き、木の根元で炸裂する。
 メキメキという音と共に木が傾き、登りかけていた男が「うあ」と声をあげる。
 しかしそれよりも。
「いや、冗談じゃねえ…」
 さっさと立ち去る予定だったのに。
 彼は自分の腕に飛び込んできた彼女と共に地面に倒れた。

「離してよ!」
 部下と話していた統真は甲高い声に顔を巡らせた。
「じゃ、頼んだぜ」
 統真は男と別れ、足を踏み出す。
 誰だ、俺のシマで。
 そして見つけた。
 若い男が少女を引き摺るようにして歩いている。
「キャンディがあるよ」
 男が少女に言った。
「砂糖たっぷり。どう?」
 目の前に突き出された棒つきキャンディに少女は一瞬叫ぶのをやめるが
「馬鹿にしないでよ! やだー! 助けてー!」
「あんのやろぅ…」
 統真は呟いた。
 子供に砂糖なんてふてぇ野郎だ。
 軽やかな身のこなしで素早く近づき、相手が気配を感じる前に後頭部に一撃を与えた。
 男がどっと倒れた途端、妙なデジャヴに陥る。
 何か前にもこういうこと…
「サンキューサンキュー超サンキュー!」
 少女が叫ぶ。
「ついでにレナも助けて!」
「は?」
 次の瞬間には手を掴まれて一緒に走っていた。

 コーヒー。
 イルファーンは咄嗟に確かめる。零れていない。良かった。
「うう…」
 身じろぎして女が身を起こす。
「なんで、俺の名前を知ってた?」
「何のこと?」
 彼女は答え、そしてふと目を見張る。
「あ、おいっ」
 素早く彼女はイルファーンの胸元から橙色の包みを取り出していた。
「私と一緒に来てくれるわよね?」
「頭打ったか?」
 そう答えた後に別の声がした。
「ほう、こりゃ」
 統真だ。
「昼間からお熱いことで」
「あれ見てなんでそう思えるんだっ」
 イルファーンは倒れた木を指差して憤慨し、身を起こして女から包みをひったくった。
 そしてのそりと立ち上がって木のほうに向かう。
「目が合った時に気づくべきだった」
 後を追いながら女は言う。
 木の下敷きになったかと思われた男がゆらりと立ち上がった。
 少女が統真の後ろに隠れる。
「…いて…」
 男は腰を押さえて身を歪めた。
「医者に行けよ」
 イルファーンはコーヒーを飲んで言う。
「おまえ…ドン・ガラドルフのところの運転手だな…その女を渡せ。でないとグラニュー糖の取引はなしだ」
 統真が怪訝な顔でイルファーンを見る。
「分かった」
 イルファーンは女の腕を掴んだが、彼女はイルファーンにしがみつく。
「離せ」
「いやよ。貴方に一緒にいて欲しいのよ!」
 なんだかそれが男の逆鱗に触れたらしい。
「うがあ!」と声をあげて飛びかかろうとする。…が、すぐに目の前でどさり。
「あれ、意外とジャストミート」
 本を構えたエレインと、クロウが背後に立っていた。
「レナから離れろ」
 クロウはイルファーンに銃を向ける。
「違う、クロウ、彼も持ってるの!」
 と、レナ。
「放せ」
 やってられねえ、とばかりにイルファーンはレナの手を振りほどくと歩き出した。
「待って!」
 レナが言うがイルファーンは振り向かない。
 どうしよう、どうしよう。レナは視線を泳がせる。そしてふいに声を張り上げた。
「漢は黙って…!」
 イルファーンの足がぴたりと止まった。
 おや? と皆で様子を見守る。
 イルファーンはゆっくりと振り向き、最後のコーヒーを飲みほして口を開く。
「…褌だ」
 クロウとエレインが「何のこと? 何のことー?」と顔を見合わせ、自分を見上げるニーナに統真は「なんか、面白れぇ」と笑った。


「さっきの男はマフィアと通じてるヴォルフ・コーポレーションの幹部だよ」
 クロウが手帳をめくって言った。
「バレク・アレンスキー27歳。俺達はややこしい奴にチョッカイかけちゃったわけだ」
「よく知ってるな」
 行きがかり上、やむなく皆を自分のアジトに迎え入れた統真はどっかりと椅子に座って言った。
「伊達に探偵業やってないよ」
 エレインが答える。
 彼は途中で小さな植木鉢をひとつ買い、南瓜の種を一つ植えた。
「300ってのは300cmかもしれないし」
 エレインは嬉しそうに言ったが、本当に数日で300cmになったらどうやって持ち運ぶのかはつつくまいと皆は心の中で思う。
「で、あさっての夜に時計塔」
 統真は言う。
「ええ」
 レナが答えた。
「橙色の包みを持って?」
 そうよ、と言いかけてレナは統真の顔を見る。
「…持ってるの?」
 統真は懐から包みを取り出し、机の上に置いた。
「切っても切れねえ気がするわけだ…」
 と、イルファーン。
「いるんだろ? 持っとけよ」
 そう言って笑う統真の顔をレナは見つめる。
「貴方は? 帰らないの? 元の世界に」
「あんたはなんで帰りたい?」
「なんでって…」
 レナはためらう。
「帰りたいからよ。それじゃいけない?」
 統真は、ふ、と笑った。
「誰かが私の帰りを待っているのかも。父や母や兄弟がいたら? 友人は? みんな私が死んだと思って…」
 レナは視線を泳がせ暫く黙り込む。
「そうよね…そのうち忘れるわ…考えてみれば何の問題もない」
 自嘲気味に笑ってレナは俯いた。
「ただな、あんたの話でちょいと気になったことがある」
 統真は言った。
「俺は長くこの街にいて時計塔なんて見たことねえ。探す分にはやぶさかじゃねえよ」
 彼は橙色の包みをレナの手に握らせた。


「なんだあ、ありゃああ!」
 ベビーカーから銃を取り出して撃って来る女から逃げながらイルファーンが叫ぶ。
「こっち!」
 怪我人を増やすことは良策じゃない、と追手が来るたび統真が先導して逃げ道を確保するが、いかんせんニーナが遅れる。最後はイルファーンが背負うことに。
 統真のアジトで夜を明かし、翌日探し回っても結局時計塔らしきものは見つからなかった。今夜は林の中にぽつりと建っている統真の隠れ家に。
 イルファーンはどーん、と床に寝転がる。
「もう、いやだ」
「エレインとクロウは?」
 レナが言う。
「場所は教えた。もうすぐ来るだろ」
 と統真。
「ピンクに時計塔の場所、聞いてみたわ」
 ニーナが携帯片手に言う。
「ヒアリングは3回までじゃなかったの」
 レナが眉を潜めるが、ニーナはメールを読み上げる。
「てっぺん」
「…それだけ?」
 統真が言い、ニーナはこくこくと頷く。レナは溜息をついた。
 エレインとクロウは少し疲れた様子で隠れ家に到着し、箱をどさりと置いた。
「ドーナツ。人工甘味で悪いけど」
 と、クロウ。皆で有難くいただく。
「それとね、魔法の植物成長剤〜」
 エレインは小さなアンプルを取り出し掲げてみせる。
「これ差すと植物が速く大きくなるって」
 ぷすりと鉢に差そうとするのを皆で慌てて止める。
「後にしよう、後に。今大きくなると困る」
「ちぇ」
 エレインはちょっとむくれる。
「で、どこ行ってたんだ?」
 イルファーンが尋ねる。
「図書館。時計塔あった、って言ったおばあちゃんがいたから裏付け取りに」
 クロウが答える。
「本当にあった。80年前までは。でも、都市開発でビルが建った。時計塔の上半分はそのビルの屋上に設置されているらしい」
「どこ?」
 と、統真。ためらいがちにエレインが口を開く。
「ヴォルフ・コーポレーション」
 全員で「あー…」と失望の声を漏らす。まるきり敵地。
「いや、待てよ」
 イルファーンがドーナツを持った手を止めた。
「明日は…」
「グラニュー糖取引」
 統真が引き継ぐ。
「21時に港に貨物船が着く。それを運び出すために都合2時間くらいはビル内手薄になる」
「甘味は重要なのだな…」
 レナが言った。
「甘い物は好きだわ」
「やめとけ。虫歯になる」
 イルファーンが言葉と裏腹にドーナツをもう一つ取り上げる。
「人はリスクを求めるのね」
「誘惑は甘いから」
 クロウが笑った。


 3日目、夕方近くなって隠れ家を出る。
 ビルの見えるカフェで隅の席を陣取った。
「ヴォルフのビルには数回ボスを連れて来たことがある」
 イルファーンが言った。
「一階は言わずもがな各階もセキュリティ万全だ。手薄とはいえ無人じゃないからな。何か方法を考えないと屋上までは辿りつけん」
「ピンクに聞くわ」
 ニーナが携帯を取り出した。
「そのピンク・ファイヤーってのは一体何者だ?」
 統真が尋ねる。
「有名人よ。ピンク・ファイヤーのサイトはっと…あった、ここよ」
 携帯を皆に見せる。

――占いの館 ピンク・ファイヤーへようこそ
 
 イルファーンがいきなり立ち上がった。
「俺がバカだった」
「どこに行くの」
 レナが慌てて彼の腕を掴む。
「占いだと? ふざけやがって…」
「じゃあ、あの言葉は? 貴方は答えたわ」
 イルファーンは口を噤む。

(漢は黙って褌だ)

「レナとイルファーンは元の世界でどういう関係なんだろ」
 と、クロウ。
「イルファーンの褌姿を見てる間柄だろ」
「違う!」
 エレインの言葉にイルファーンが顔を赤くして怒鳴った。
「ねえ、ピンクから返事が来たわよ」
 ニーナが言ったので、皆で彼女の顔を見る。
「金の瞳は真を見つめ。地下に潜れ」
 皆で統真の顔を見る。
「俺?」
 統真が目をぱちくりさせる。
「下水道? そういえばビルの下に通じて…」
「行こう」
 クロウがカフェオレを飲み干した。
 レナはイルファーンを見上げる。
「イルファーン。貴方が必要なの。褌の真偽も確かめなきゃ」
「今確かめろ!」
 カチャカチャとベルトを外そうとするイルファーンをもちろん全員で取り押さえた。


 日没まで2時間。取引の時間まで4時間。
 立って歩くのがやっとの暗い空間を皆で進んで行く。
 なんだかんだで結局イルファーンも統真も同行。レナがイルファーンの手を握り締め、統真はニーナが。
「いい加減放せ。銃使う時、困るだろうが!」
 イルファーンは言うがレナは無視だ。
「あった、ここだ」
 1時間程歩いて頭上を見上げた統真が言った。途中で手に入れた懐中電灯を照らすと、梯子が伸びている。
「出ても赤外線セキュリティまみれだぜ。大人じゃくぐるのは無理だ」
「ボクの身長ならくぐれるかも。赤外線の場所指示して」
 と、エレイン。
「やってみる」
 統真は答えた。

 統真が先に梯子を登り、そっと蓋を開けてエレインを呼ぶ。
「いいか、最初は身を低くして進め。1m進んだところで、頭からそっと立ち上がって次は30cm足を持ち上げろ」
 統真は言い、エレインは穴から這い出した。
 それを下から心配そうに見上げていたクロウがふと口を開く。
「あのさ、今更な感じだけど…種300って…俺達全員で300になってるの?」
 う、とレナが呻く。全員で慌てて懐から包みを取り出した。
 レナ20、イルファーン50、ニーナ50、レナの持つ統真の分は80、クロウ30。合計230。
「エレインはいくつだろ」
 クロウは呟いた。
「あるわよ。絶対」
 確証のないままレナは言う。
「エレインが突破した。セキュリティの電源ってあそこにあるスイッチかな?」
 上から統真の声が聞こえた。
「ピンクに聞くわ」
 ニーナが携帯を取り出す。
「もう3回聞いたわ」
 と、レナ。
「大丈夫よ。オプションで電話する」
 音声を外部にしてニーナは電話をかける。数回コール音がした後声が聞こえた。

――もしもし? あたし桃ちゃん、お電話ありがとう。今日はお友達のホワイトと外出なの。またにしてね。

「うう…」
 イルファーンのぶるぶる震える手をレナは慌てて強く握る。
「大丈夫よ」
 ニーナは言った。
「だって、お父様のビルなんだし、ちゃんと…」
「え?」
「あ」
 全員の視線を受けてニーナはじりじりと後ずさりした。
「大丈夫。ちゃんと屋上まで行けるわ」
 彼女はそう言うと身を翻して駆け出した。
「ニーナ!」
 レナが慌てて後を追う。彼女は種を持ったままだ。
「レナ!」
 クロウの声に振り向いた。
 背後からすさまじい勢いで白い煙が噴き出していた。

 統真はふと目を開いた。
 下から白い煙があがってきた、と思った途端、意識を失った。よく梯子から落ちなかったものだ。
 顔を巡らせるととあれだけついていた赤外線が全て切れていた。
「エレイン!」
 穴を飛び出して倒れているエレインに走り寄り、頬を軽く叩く。
「あれ? ボク…」
「下を見て来る。待ってろ」
 統真はそう言って梯子に戻った。
 彼が下に着いた時、皆も目を覚ましかけていた。
「時間…げっ、10時だ!」
 クロウが腕時計を見て声をあげた。
「大丈夫か。セキュリティ切れたぞ」
 統真が言う。
「ニーナがいない!」
 レナが悲痛な声をあげた。
「ニーナが…ここは父親のビルだと言ったのよ!」
 彼女は今にも泣き出しそうだ。
「ごめんなさい…私がみんなの生活を滅茶苦茶にした。操られてたのよ。もうやめよう」
「ねえ」
 上からエレインの声がした。
「こんな大掛かりなお芝居、みんなでエンドロールを見たくない?」
 統真はレナの顔を見た。
「時計塔はまだ見つかってねえ。中途半端は俺も気持ちわりぃな」
 イルファーンが無言でレナの手を掴んだ。


 ビルの中は気持ちが悪いほど静まり返っていた。全く人の気配が感じられない。
 屋上に向かうエレベーターに乗り込む。そしてあっという間に着いた。
 開いたドアの外を警戒しながら覗き込む。誰もいないし何もない。
 床に大きく引かれた白い線は恐らくヘリの着陸マーク。
「あった…時計塔…」
 エレインが指差した。
 それは遙か向こうに建っていた。誰もが知る四角柱。その四面にある文字盤。
 一斉に駆け出した。
 遠くで見るのと近くで見るのは全く違う。
 文字盤はずっと頭上にあった。でも、変だ。
「針が…ない…」
 クロウが呟き、自分の腕時計を確認する。午後10時35分。
「誰か時計持ってないか? 俺の時計合ってるのかな」
「と、いうか、どの時計で11時59分59秒なのかってことじゃない?」
 エレインが上を見上げたまま言う。
「もうだめよ。種も300ないわ。ニーナがいないのよ…」
 レナが呟いた。
 エレインは包みを開ける。
「49と植木鉢プラス1」
 最初から種は足らなかった…。
「そうだよ。残りは俺が持ってる」
 不意に声がして皆で振り向いた。バレク・アレンスキーがトウと部下を何人も連れて歩いて来る。
「おっと、銃は抜くな。命かけるようなもんでもないだろ?」
 イルファーンとクロウを見てバレクは言う。
「レナ、事故で記憶を失ったのは残念だが、お前はこの時計塔を壊すってことだけはずっと覚えていた」
 バレクは腕を組んで左右に歩きながら言った。
「ニーナに突かせたら案の定だ。だがうまく種は集めてくれた。しかし最後の種は俺の手中にある!」.
 バレクはぴしりと懐から橙色の包みを取り出す。
「俺がこれで300揃えればハッピーエンド、君が300ならバッドエンドだ」
「バッドエンド…? 元の世界に戻れるんじゃないの?」
 レナは掠れた声で言った。
「そう、呪文はハッピーパンプキン。種を入れればそこから時計は午後11時59分ジャストを刻み出す。59秒以内に俺と君がキスをすれば晴れて君は俺の花嫁、時計は次の時間を刻むだろう。だが!」
 バレクは人差し指を立てる。
「君が種を入れれば…ボゥン! 時計塔は壊れ、時間は続かない」
「分かった、壊そう」
 クロウが言った、レナは思わず彼の顔を見る。
「なんかこの男むかつく」
 クロウは一粒種が入っている植木鉢を置いた。
「魔法の植物成長剤〜!」
 エレインが叫び、ぷす、と鉢に差す。
 そして静寂が訪れた。

 何も起こらない。

「全員を捕えろ」
 バレクが嬉しそうに言った。
 その時「あ」とエレインが声を出す。
 鉢から芽が出た。
「うそっ」
 それはみるみる大きくなり、鉢を壊して伸びていく。
 伸びた茎が足元を這い、それがバレク達の方にもおよぶ。
 まるで植物の成長を早回しで見ているような感じだ。それが普通のサイズなら。
「うっわー! 300cmってマジだったんだー!」
 エレインが葉に乗せられて空中に昇りながら叫ぶ。
「300cmどころじゃねえだろ、これはっ!」
 と、イルファーン。
「やめて!」
 レナが叫ぶ。
「バッドエンドなんかだめ! みんなが…!」
 その彼女の目の前を胡坐を組んだ統真が昇っていく。
「いや、もういいって」
 南瓜の花が咲いた。ヘリの着陸マークを覆い隠すほどの大きさで。
 花は口をすぼませるようにきゅっと閉じた後、むうと膨らんでそれを噴き出した。
 ばらばらと空中に散る無数の南瓜の種。それはあっという間に足元を埋めていく。
「レナー! 呪文ー!」
 クロウが頭上で言う。
「やめろ! 俺が…!」
 バレクが叫ぶ。
「レナー!」
 どうすればいいの。レナは立ち尽くす。
「ハッピー…」
 バレクが突進してきた。それを見て心が決まった。
「ハッピーパンプキン!」
 彼女は叫んだ。

 時計塔が唸り、柱の四面が箱のように開く。
 そして中から大きな文字盤がせり上がる。針のある文字盤だ。
 吐き出される種が箱の中に入っていく。
 時計は動き始めた。午後11時59分。
 それでも種が入っていく。
「あああ…」
 バレクの悲痛な声。
 許容量を超えた四角柱から種が溢れ出る。屋上から溢れ出た種が地上に落ちる。
 地鳴りがした。
「来い」
 イルファーンの手がレナの腕を掴んだ。そのままふわりと空中に。
「生きてたら褌見に来いや」
「イルファーン…」
「俺、世話んなったおやっさんに別れが言えなかったのが心残りだけどな」
 近くを通り過ぎた統真が言った。
「統真! 本当にごめんなさい!」
 手を振って再び統真は遠ざかっていく。
 ビルが崩れ始めた。
「レナー! バイバーイ!」
 エレインが手を振った。
「レナ! 楽しかった! じゃあな!」
 クロウが叫ぶ。
 レナは泣き出した。
「ガキか、てめえは。ほら、しっかり捕まってろ!」
 崩れゆくビルと共に全員が宙に投げ出された。


「そろそろ出発するぞ」
 イルファーンの声にレナは目を覚ます。数回瞬きしてばっと身を起こした。
 統真とクロウ、エレインも気遣わしげに自分を見ている。
 周囲を見回す。私は夢を見ていたの? 
 ほっとしたと同時に笑みが零れた。
「良かった…みんな一緒だ」
「ずっと一緒じゃねえか」
 イルファーンがやれやれというふうに立ち上がる。
「パンプキンパイでも食べる?」
 エレインが包みを出した。思わずレナは身を震わせる。
「バレクさんが持たせてくれたパイだよ? キャンディがいい?」
 エレインは目をぱちくりさせる。
「あ、あとで。有難う」
 レナはそう言うと立ち上がった。
「んじゃ、出発すっか。今回のアヤカシは手強いぜ」
 統真が言う。
 レナは頷いた。
 大丈夫。もういつも通り。
 皆で足を踏み出す。

 包みをバックに入れていたエレインはレナのいた場所に南瓜の種を一つ見つけた。
 それを拾い。指で地面を掘って入れる。
「ハッピーパンプキン」
 彼は小さく囁いて皆の後を追った。