アンドロメダの鎖
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/20 16:21



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――

 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。
 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。
「星の一欠片を手に入れるために活動する人たちに、何かカッコイイ呼び方あげたいですねぇ」
「何よ突然」
 職員の鷲尾 亜理紗はお昼休み前最後の書類を片付けながら、先輩職員の西沢 一葉に妙なことを言い出した。
 まぁ星の一欠片が大分認知されてきたのは確かであるし、いつまでも『星の一欠片を探す人』というのも味気ないが。
「えへへー、実は考えてあるんですよ。スターダスト・クルセイ―――」
「やめなさいよ! わかって言ってるでしょ!?」
「なんのことやら」
 すっとぼける亜理紗に一葉は思わず拳を握る。素直に開拓者の一人から提案のあったスターダスト・ハンターにすればいいのにと思う。
「そんなこと言ってられるのも今のうちよ。今回の星座は悲惨だから」
「悲惨……?」


 その日は別に特別なことなどなかった。いつものように穏やかに、静かに一日が終わるものと村の誰もが疑わなかった。
 彼女もその一人。いつものように家族に声をかけ、山菜採りに出かける……あまりにも自然な日常だった。
 少女はまだ13歳。幼ささえ残るその瞳は、山中で見慣れないものを発見する。
「なんだろう? 鎖……?」
 通い慣れた山道に一本の長い鎖。打ち捨てられたように転がっていた。
 真新しいが、昨日ここを通った時はこんなものはなかったはず。村で鎖は貴重なものであり、村人が捨てていくとは考えにくい。
 噂に聞く開拓者という人たちがアヤカシ退治に来て忘れていったのだろうか? しかし、この辺りでアヤカシが出たという話など聞かなかったが……。
「うーん……村の誰かの物なら返せばいいし、違うなら貰っちゃってもいいよね。ここに置きっぱなしにしても錆びちゃうだけだし……」
 自分に言い聞かせるようにして少女は呟き、うんと頷いて鎖に手を伸ばす。
 それが悲劇の引き金になるとも知らずに。
 数十分後。ふらふらと覚束ない足取りで娘が帰ってきたのを少女の両親が見つける。
 持っていったはずの籠がない。目は虚ろで焦点が合っていない気がする。何かあったのだろうかと慌てて駆け寄る両親。
 しかしそれは悲劇の幕開けにしかならなかった。両親はすでに『それ』の射程内に入っていたのだ。
 少女が突然右腕を突き出したかと思うと、その手の平から突如鎖が出現、父親の顔を鋭利な尖角で刺し貫いた。
 母親は何が起こっているのか理解できず、震える足で立ちすくむのみ。
 すると少女の左手からもう一本の鎖が伸び、母親の首に巻き付く……!
 次の瞬間にはボキリと鈍い音を立て、母親の首の骨がへし折れた。
 だらんと腕が下がり、泡を吹く暇すらなく母親は絶命する。
 しかし少女は泣き崩れることもない。鎖型のアヤカシに憑依された時点で少女は死亡しており、涙一滴すら落とさない。
 パッと見では彼女が不思議な鎖で両親を殺したようにしか見えない。偶然現場を目撃していた村人たちは、蜘蛛の子を散らすようにその場を逃げ出す。
 そして少女の足は……新たな犠牲者を求めて無慈悲に歩き出した。大好きだった両親の遺体を、わざと踏みつけながら。
 犠牲者ではなく加害者となることを強いる悪魔の鎖。それが、アンドロメダ座のメダルを持つアヤカシだった―――


「……後味悪っ! よくもこんな陰惨なアヤカシが出てきたもんですね!?」
「まだ終わってないから胸クソ悪いって言う方が正解ね。ちなみに鎖に知能はないみたい。本能に従って人間の体を乗っ取り、操って人殺しをさせて被害者たちから負の感情を得る。駆け引きが通用しないのは困るわね……」
 唯一の救いは、少女が自分の両親を殺したと知らずに逝けたこと。加えるなら、村人たちが少女が犯人だとは思わなかったこと。
 仲の良かった家族。鎖の件もあり、少女が親殺しをしたとは誰も考えなかったのである。
「これ以上女の子の身体で殺人を重ねさせたら可哀想だわ。早めになんとかしてあげて欲しいわね」
「星の一欠片でこんな悲惨な話が出てくるなんて……。星座の神話にも悲惨なのがあったりしますけど……」
 88もあれば色んなタイプのアヤカシが出てくるのは当然だが……あまり出てきてほしくないタイプである。
 対する開拓者はどのような選択をするのか。星の歴史がまた1ページ―――


■参加者一覧
南風原 薫(ia0258
17歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
オリヴィエ・フェイユ(ib9978
14歳・男・魔
エメラダ・エーティア(ic0162
16歳・女・魔


■リプレイ本文

●鎖の舞
「くっそ! こいつ、なんて野郎だ! アンドロメダってなぜか愉快なイメージがあったんだけどな!」
「シリアス……だと……」
 ざざざ、と地面を滑りながら体勢を整え、何 静花(ib9584)が悪態をつく。
 各務 英流(ib6372)は真面目な顔でよくわからないことを言っているが、余裕はなさそうだ。
 開けた野原で開拓者と対峙するのは、まだ幼さの残る一人の少女。否、それに憑依し命を奪い、身体を意のままに操る鎖型のアヤカシである。
 少女の目は光を失い、表情は無い。いっそ不適に笑って挑発でもしてきてくれたほうが幾分か気が楽なのに。
「不謹慎だがぁ……もう死んでんならぁやり易い、ねぇ。……やりやすいがぁ、仏さん壊すってのは後味良く無ぇ、な」
「ん、少女の……体……乗っ取って……暴れる……許せない、です……。早く……少女を……休ませて……上げたい……です……」
「それはみんな同じ気持ちだと思うけど……でも……!」
 見通しのよい野原を、まるで大蛇の様に縦横無尽に奔る鎖。
 ジャラジャラと音を立て、少女の両手から伸びる鎖が開拓者たちを苦しめる。
 南風原 薫(ia0258)にしろエメラダ・エーティア(ic0162)にしろ、助けられないのならばせめて遺体を両親と同じ墓に入れてやりたいと思っている。
 しかしリィムナ・ピサレット(ib5201)が歯噛みしていることからもわかるように、状況はよろしくない。
 鎖を見失わないよう、雑草などが生えていない場所に相手をおびき寄せたはいいが、鎖の攻撃は鋭く思いの他パワーもある。しかも一方の攻撃でできた隙をもう一方が補助すると言う形で克服、接近戦も中距離戦もこなすというでたらめっぷりである。
「……当たり前の日常程、大切な物はないんです。その幸せを壊したアヤカシをボクは絶対に許しません」
「アヤカシはどれも悲劇を生むと理解しているけれど、分かっていても気分が悪くなる相手ね……。確実に、ここで倒してしまいましょう」
「みんな、頑張って! あたしの術が成功すれば、なんとかできるから……!」
 エメラダと共にアイヴィーバインドを放ち、少女の動きを拘束しようとするオリヴィエ・フェイユ(ib9978)。しかし拘束できても一瞬で、空いた方の鎖がそれを断ち切ってしまう。もしくは縛られる前に迎撃されてしまい、上手くいかない。
 長引くことで生傷を増やす前衛を癒すのは熾弦(ib7860)。とはいえ彼女の練力も無限ではない。
 そして一行の切札的存在であり、アヤカシを人間の身体から引き離す術を使えるのが戸隠 菫(ib9794)。彼女がいなければ少女にわずかな救いを与えてやる可能性すらなかったのだ。
 とはいえ戸隠が狙っている心悸喝破という術の射程はわずか5メートルまでであり、それはアヤカシの鎖の射程のド真ん中である。とてもではないが使っている余裕は無い。
「嫌な鎖だなおい!?」
「なんだかなぁ……切っても再生するとは、ねぇ」
 骨法起承拳の要領で刀を振るい、右手の鎖を切断した南風原だったが、敵がすぐに再生してしまうことに気づいてため息を吐いた。
 どうも伸ばしている鎖部分はトカゲの尻尾のように切り離して問題ない部分らしい。まぁよくよく考えれば斬られて困るよ自分自身で攻撃したりはしないだろう。
 それはまるで鎖を手に舞い踊るよう。ただし、ふわりふわりと言う感じではなく、かくんかくんという感じのおぞましい死体のダンスだが。
「あたしの曲なら外傷はできないし防げないよ! アンドロメダよ。我がフルートの音色はお前の魂に直接響くのだ! ……ジェノサイドシンフォニー!」
 魂よ原初に還れを使用し遠距離から鎖を攻撃するリィムナ。この攻撃は自動命中であり、音波攻撃であるためトカゲの尻尾切りでも防げない。つまりリィムナが一行の最大火力でありダメージエースである。
 当然、鎖も黙って撃たせ続けるわけにはいかない。左手の鎖を纏うように回転させ、ディフェンスしながらリィムナへ突っ込む!
「えーうっそー、鎖ー?」
「鎖が許されるのは稚児までですわよねー」
「ん、頑張って……なの……」
 何と各務がエメラダのホーリースペルの援護を受け、身体ごとぶつかっていく勢いでリィムナをガードする。
「なんだ、今日は流石に真面目にやるのか?」
「乗せておいてどの口が言いますの。偶には真面目にお仕事しますわよ。さぁアヤカシさん、私と戦えばただでは済みませんよ! 主に私が!」
「ダメじゃねーか! 緊張感の続かねーやつだな!?」
「いやぁ……おたくもだが、ねぇ」
 迫りくる鎖を南風原が刀で弾き、何と各務を支援。二人も拳と手裏剣をぶつけなんとか相手を踏みとどまらせる。
 しかし少女はバックジャンプしつつ右手を振るい、真っ直ぐリィムナを狙う!
「そんな!? 届かないはずよ!?」
 熾弦が叫んだのも無理は無い。リィムナが居る場所は明らかに鎖の射程距離を越えており、届くはずが無いのだ。もっとも、現在確認されている射程が10メートルほどなだけであってそれを越えてこない保証は無い。
「えっ……」
 だがそこで目を疑う事態が起こる。リィムナを狙っていたはずの鎖が物理法則を無視して軌道を変え、ブーメランのように旋回し戸隠を襲う!
 完全に不意を突かれた戸隠は避けることもできずに―――!
「ファイヤーボール!」
 爆音と共に火の玉が炸裂し戸隠に迫っていた鎖を迎撃する。
 振り向くとオリヴィエが冷や汗をかきながら構えているところだった。
「なんとか間に合いましたね」
「あ、ありがとう。ヒヤッとしちゃった」
「ボクもです。あのアヤカシ、戸隠さんを狙ったのは偶然でしょうか……それとも……」
 戸隠をかばうように立ちはだかるオリヴィエ。しかしその心中は穏やかではない。
 確かにリィムナは脅威だが、鎖型アヤカシにとって本当に脅威なのは少女の身体と分離させられてしまう戸隠なのだ。彼女はそんな素振りはおろか攻撃する姿勢を一度も見せていないが、それ故に警戒されたのかもしれない。
 理屈ではなく本能で動く鎖型アヤカシ。勘も鋭いのかも知れなかった。
「チッ、長引くと何するかわかったもんじゃないな。ダメージ覚悟で一気に勝負付けにいくか?」
「賛成よ。回復は任せて、安心して怪我してきて頂戴」
「あぁ、これがお姉さまに言われたのなら喜んでこの身を捧げますのにっ」
「こういう時、切ったはった以外に、便利な技が使えりゃ良いとつくづく思うねぇ……」
 熾弦の声援に後押しされた何、各務、南風原が接近戦を挑むのに合わせ、エメラダとオリヴィエが同時にアイヴィーバインドを使用、それぞれ右と左の鎖を絡めとる。
 それはほんの数秒時間を稼ぐことしかできず断ち切られたが、それでいい。すでにリィムナが準備完了している!
「アンドロメダよ、我が魔曲の真の恐怖、とくと味わうがいい! ジェノサイド・クライマックス!」
 本当は鎖と少女を切り離してからやりたかった最大火力を今解き放つ。
 泥まみれの聖人達で強化した魂よ原初に還れに、気力を消費しての一撃。
 ただでさえ回避する手段の無いこの曲にこの火力。しかもアイヴィーバインドを振り払った直後でどうにもできない!
 見えない衝撃を受け鎖の動きが大きく歪む。しかしなんとか踏みとどまり、光のない少女の瞳が接近してくる前衛3人を捉えた。
「こいつ、まだ……!」
「しつっこいですわね!」
 稲妻のような軌道で迫り来る鎖を躍り出た南風原が鉄傘を広げガード!
 続けて何が攻撃してきた鎖を掴み、各務が長斧の先に付いた刃で地面に縫い止めた!
 ダメージを与えるだけでは駄目。今回はただ倒すだけでは駄目なのだ。だから……!
「道が開いた! 戸隠さん!」
「任せて! 心悸―――」
 その時、まだ空いていた左の鎖をアヤカシが放つ。
 戸隠に嫌な気配を感じたのだろう。必死に迎撃に回るが……。
「させませんよ!」
「ん、駄目……です……」
 オリヴィエとエメラダがファイヤーボールとホーリーアローを使用、それをさらに迎撃。今度こそ……!
「喝破ぁぁぁっ!!」
 戸隠から放たれた精霊力が少女を直撃し、激しくスパークする。
 そして彼女の背中から、まるで背骨が飛び出したかのような格好で鎖が分離される!
 地に落ちた鎖はジャラジャラと地面をのたうつ。リィムナの攻撃が相当効いていたようで、少女の身体無しではもはや動くこともままならないらしい。
 戸隠はすぐさま少女の遺体を抱きかかえ、その場を離れる。
「死者に鞭打つようで……いや、鞭打ってたのはあんたか。だから別に気は咎めない」
 南風原はニヒルに笑い、導火線に火をつけた焙烙玉を鎖の中心に放り投げた。
「細かろうがぁ、爆風は避けられまい。ねぇ?」
 それをどうにかする力はもう鎖に残っていない。
 やがて爆音が響き渡り、土煙が収まった後には……悲劇の星座のメダルが静かに輝いていたのだった―――

●悲劇、終わって
 鎖型のアヤカシを倒し、少女の遺体を取り戻した一行は、少女の村に戻ることにした。
 少女の死に顔は安らかとは言い難かったが、開いたままの目を閉じてやることで幾分かはマシにみえる。
「知らぬが仏、ってのが唯一救い、か……」
「……はい。家族と一緒なら寂しくは無いでしょう」
 南風原の言葉に各務が頷く。少女とその両親の墓の前では誰もが殊勝になる。
 死した後にたった一つ与えられた救い。それは少女を両親と同じ墓に弔ってやることだけ。
「ん、どうか……安らかに……お休み……下さ、い……」
「……苦しかったですよね。ただ貴方は穏やかな日常を過ごしていただけなのに、自分の意思に反して、人殺しをさせられていたなんて……。……天国で大好きなご家族と穏やかに過ごせますように」
 エメラダとオリヴィエも墓に手を合わせる。
 彼らの心意気がなければ、少女は両親と共に眠ることも許されなかっただろう。
「アヤカシはどれも悲劇を生むと理解しているけれど……そうね、この世界は……残酷なのよ」
「それでも、そんな世界の中でも……あたしたちは強くありたい。だから開拓者になったんだよ」
「……確かにな。……なぁ。このメダル、ちょっと爆砕拳で叩いていいか?」
「だーめ。この悲劇を無駄にせず、語り継ぐためにも……アンドロメダ座のメダルは必要よ」
「言ってみただけさ。……悲劇を生む呪われたメダル、なんてことにならないことを祈るぜ……」
 熾弦と戸隠の苦笑いに、何は見たことが無いような切ない表情で星の一欠片を握り締めたと言う。
 静かに響くのは、リィムナが奏でる鎮魂と葬送の笛の音。
 等しく願われるのは、ささやかな幸せたちの安らかなる眠りであった―――