女子会やろうず
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/06 14:03



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「本っ当に嫌な人ですねあなたは!?」
「そういうあなたも底意地が悪いのではなくて?」
 ある日の開拓者ギルド。
 営業中であるにもかかわらず職員の十七夜 亜理紗と口論をしているのはカミーユ・ギンサという開拓者。
 この二人は仲が悪いことで有名であり、顔を合わせれば口喧嘩をしている。周りの職員も客の開拓者たちも慣れたものだ。
 二人共悪い人間ではない。むしろ良い人の分類に入るだろう。それでも何故かお互い嫌いで嫌いでしょうがないようだ。
「こーらー! 何度言ったら分かるの! ギルド内で喧嘩しない!」
 先輩職員の西沢 一葉に一喝されて、お互いしゅんとなる。
 別に相手の何が嫌いという明確な理由はない。なんとなく生理的に受け付けないので本人たちにもどうしようもない。
「まったくもう、どうしてあなたたちはそうなのかしら。お互い悪い人間じゃないってわかってるのにどうして仲良くできないの?」
「魂が嫌いだと言ってます」
「好きになる理由がありませんもの」
「どういうことなの……」
 一葉にとって亜理紗は妹のような存在であるし、カミーユも客の枠を超えて仲の良い友達といった感じになってきた。その二人がいつもいがみ合っているのは正直悲しいものがある。
 とはいえ本人たちにもお互いを嫌う理由がよくわかっていないので手の施しようがなかった。なかったのだが、今日の一葉は一味違った。
「わかった、わかりました。あなたたちがお互いを毛嫌いするのは、きっときちんと話をしたことがないからよ。腹を割って話せばきっと仲良くなれるわ。私が保証する」
「無理です」
「無駄ですわ」
「黙って聞きなさい! 勿論二人きりでなんて言わない。女性の開拓者の人たちを集めて女子会を開きましょう。皆でわいわいやれれば話もしやすくなると思うから」
「はーい先生ぇー! きっとグループに分かれて終了だと思いまーす」
「私も参加するからそんなことさせないわよ」
「一葉さん、友人というのは無理に作るものではありませんわよ? 友達の友達も友達などというのは幻想です」
「最初っから諦めるなぁっ! 女の子みんなで楽しくお喋りじゃ駄目なの!?」
「駄目ではありませんが……」
「わざわざお金出してご飯を不味くする必要ないじゃないですか。ねー?」
「ねー?」
「そんなとこだけ息を合わせるなぁっ! いいから参加する! 逃げたらただじゃおかないから!」
「……そんな依頼、流れてしまえばいいのに……」
 半ばキレ気味の一葉に押され、亜理紗とカミーユは女子会への参加を承諾した。人数不足で流れろと呪いながら。
 女子会といえば、女性が集まってお菓子やら料理などを食べつつ話に花を咲かせるという平和なものだ。食べ物系は一葉が用意してくれるようだし、会場も一葉の家でということになっている。
 一応、これは亜理紗とカミーユを少しでも仲良くさせたいという趣旨の依頼であることは覚えておいて欲しい。
 果たして、ガールズトークの果てに二人は仲良くなることができるのであろうか―――?


■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
ミリート・ティナーファ(ib3308
15歳・女・砲
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ


■リプレイ本文

●女子会ですよ
「うーん……途中まで参加者は二名しかいらっしゃらなかったのに……」
「あのまま行けば、勝ったッ! 女子会完ッ! だったのに……」
「馬鹿なこと言ってないで料理運んで。もう皆来てるんだから」
『はーい』
 石鏡の国にある西沢 一葉の実家。
 そこそこ広い屋敷の敷地内にはキョンシーを安置している廟もあるが、今回は関係ない。
 居間には大きな卓袱台が設置され、料理にお菓子が所狭しと並んでいた。
 それらは一葉と亜理紗が拵えたものであり、女子会を開催した者の義務である。
 まぁ、中には参加者が持ち込みで用意してくれたものもかなりあるのだが。
 最後の一皿を設置し終えた一葉は、エプロンを外しつつ座布団の上に座った。
「こほん。えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。流れるかと思っちゃったけど、無事に開催できて安心しました。依頼という形ではありますが、皆さんと楽しくお喋りしたいのも本当です。楽しい一時にしましょうね」
 一葉のスピーチにパチパチと拍手が起こる。
 亜理紗もカミーユも嫌いなのはお互いだけであり、一葉の心遣いは素直に嬉しい。また、こんな依頼のためにわざわざ来てくれた参加者にも感謝感激だ。
「じゃあまずは自己紹介からしましょうか。私は西沢 一葉。開拓者ギルドの職員で、道士もやってるわ。はい、次亜理紗」
「私達もですかぁ!?」
「当たり前でしょ。初見の方もいらっしゃるんだから」
「えっと……十七夜 亜理紗、同じくギルド職員で陰陽師でもあります。失敗多いです」
「わたくしはカミーユ・ギンサ。駆け出しの騎士ですわ。得意なものはパズルです」
「やっほーカミーユ! 久しぶり〜♪ 元気してた? あ、私はアムルタート(ib6632)っていうんだよ。えへ、女子会だよ女子会! 楽しもうね話そうね♪」
「お久しぶりです。楽しくなりそうですわ♪」
 アムルタートがカミーユに抱きつき、人懐っこい笑みを浮かべる。
 カミーユの方もアムルタートの頭を撫でつつ、仲の良い友達が来てくれたことを素直に喜ぶ。
「女子会、というのはよく分かりませんし、自分を果たして女子と言っていい歳かどうか……。兎に角、志藤 久遠(ia0597)です。よろしくお願いいたします」
「女子会に年齢は関係ないよ〜♪ 皆で楽しくこれ大事〜♪ ボクの名前は門・銀姫(ib0465)〜、よろしくだね〜♪」
 真面目にペコリと頭を下げた志藤に対し、琵琶を弾きつつ歌い調子の門。
 リアクションは対照的だが、その表情はお互い笑顔。たまにはこういう穏やかな依頼も悪くはあるまい。
「がお〜☆ ミリート・ティナーファ(ib3308)だよ。よろしくね。ある人から話は聞いてるよ。色々とお世話になってるみたいだね」
 ある人の名前を確認した亜理紗は口元を抑えた。
「まぁ、あの方のお知り合いですか。ご健勝でいらっしゃいます?」
「うん、元気だよ。でも最近、たまーにちょっと難しい顔してることがあるかな?」
「う。ちょっと責任感じます……」
 ミリートの言葉に亜理紗がギクリとする。何やら色々思い当たるフシがあるらしい。
 場の空気が沈まないようにと、一葉はポンと手を叩いた。
「それじゃ、自己紹介も終わったことだし食べましょうか。私も女子会っていうのを開くのは初めてだから無作法かもしれないけど許してね」
 そう言いつつ皆に皿を配る一葉。一同はそれを受け取り、思い思いのメニューを皿に取った。
「それじゃ、話題ね。日常のお休みの過ごし方とか、どんな事やってるのかな?」
 ミリートが振ってくれたお題を、全員ゆるゆると食べながら考える。
 お手製と考えると味はかなり良い。派手な美味しさではないが、安心できる家庭の味といったところか。
「私は食べ歩きですねぇ」
「ん……お菓子作りとか、買い物かしらね」
「わたくし、普段が休みのようなものですからなんとも……」
『オィィィッ!?』
 まるで開拓者が暇人かのような台詞である。しかしツッコまれた本人はよくわかっていないようだ。
 これだからいいとこのお嬢様はと思わなくもない。
「こ、こほん。私なんかだと、歌と演奏、後は自然や生き物観察とか色々。自然は季節ごとに違うから、そういうのを見たりするのは楽しいんだ♪」
「まぁ、風流ですわね。……次に貴女は『美味しいものも季節ごとに違いますから』と言う」
「美味しいものも季節ごとに違いますからね……ハッ!?」
「単純ですこと」
「むっきー!」
 ころころと優雅に笑うカミーユ。煽られた亜理紗は真っ赤にして怒るだけ。
 その時、軽やかな琵琶が響き、場の空気を優しく塗り替えた。
「ほらほら、二人共仲良く仲良く〜♪ 今のはカミーユが悪いぞぉ〜♪」
「……ごめんなさい、つい。確かに余計な言葉でしたわね」
「そうそう〜♪ 開拓者としては〜♪ 亜理紗さんのが先輩なのだから〜♪ 敬うことも必要なのだね〜♪」
「へっ? あ、あぁ、そうか。私のほうが先輩でしたっけ」
「フォローが台無しじゃないのよ!」
「いやぁ、未だに失敗が多いんで、誰かの先輩って言われるのに違和感しかなくて……」
 折角の門のフォローにもボケで返す亜理紗。一葉にツッコまれつつ苦笑いである。
 お陰で場の空気も和んだようだ。
「まったくもう。どうしてカミーユ殿は亜理紗殿にだけそう辛辣なのですか? 友人として、あまり人に辛く当たる貴女は見たくないものですが……」
「あ……ご、ごめんなさい。特に明確な理由があるわけではないですし、わたくしもよろしくはないと分かっているのですが……!」
「慌てなくても大丈夫ですよ、責めているわけではありません。ほら、女子会というのは笑顔でやるものなのでしょう? 食べて、ゆっくりじっくりやりましょう」
 苦笑いをする志藤にオロオロするカミーユ。どうやらカミーユにとって志藤も大切な友人に位置するらしく、軽く嗜められただけで狼狽する。
 こういうところは可愛いのになと亜理紗も苦笑いである。
「あ、そうだ。これ絶対言おうと思ってたんだ! 亜理紗〜! 兄ロリと婚約おめでと〜! こっちに来て初の義姉が出来て超嬉しいよ♪ 末永く兄ロリをよろしくね亜理紗……いや、姉ロリ! よろしくね姉ロリ〜♪」
「ま、まだ問題が山積みなので、喜んでばかりは……って何ですか姉ロリって!?」
「兄ロリの嫁だから姉ロリ。ロリ姉さんかロリ姉でも可」
「私、もうロリなんて年齢じゃないですよぅ!?」
「いーのいーの! 絶対幸せになってね♪」
「亜理紗の婚約はめでたいからね〜♪ 祝福するんだよ〜♪」
「亜理紗お姉さん、おめでとさんだよ。はやぁ〜、結婚かぁ。ちょっと聞きたいなぁ。好きな人とか、恋ってどんな感じなのかな、って」
「うん? あなたはそういうの無いの?」
「だう? 私? 私は、その、まだ初恋も無くて……それで、かな。やっぱり憧れるの……」
 アムルタートから始まった祝福ラッシュ。耳をふにゃりと垂れさせ、照れながら言うミリートの姿はとても可愛い。
 その姿に感じ入るものがあった亜理紗は、ふと遠い目で天井を見上げた。
「そうですね……私、記憶を失くしてさまよっていた時、アヤカシに襲われたんです。その時はまだ開拓者ですら無くて……あぁ、死んじゃうんだなって思いました。あわやって言う時、依頼を受けた開拓者の人たちが助けに来てくれて……あの人が私に駆け寄って、守ってくれたんです。自分が何者かも分からない私を、守るために手を取ってくれたあの人の優しさが嬉しくて……暖かくて……。王子様みたいに輝いてたんです」
「ふぇー、あの兄ロリがねぇ。こう言うと何だけど、結構アレだと思うよ、兄ロリ」
「あは、そりゃあ人間ですもん。時には嫌な部分もありますよ。でも、好きな部分がそれを上回ってるなら恋するには充分です」
「……あの方はわたくしに開拓者としての覚悟を説いてくれた方でもあります。ちゃらんぽらんなようでいて、芯の通った方です」
「はい。強くて……でも、脆い人でもあります。だから、私が少しでも支えになりたいって思います」
「はやぁ〜……凄いね、誰かをそんな風に想えるって。カミーユお姉さんは恋とかしたことないの?」
「そうですわね……初恋は志藤さんですけど」
「ぶっ!? ごほっ、ごほっ!? な、何の冗談ですか、カミーユ殿!?」
 興味津々といった顔のミリートの問いに、カミーユは頬を染めつつ真面目に言った。
 飲んでいたお茶を吹き出しむせる志藤。しかしカミーユはなおも続ける。
「冗談などではありませんわ。強く、優しく、気高く。わたくしの無理な依頼を受けていただき、その美しいお姿を戦場で見た時……わたくしの胸は高鳴りました」
「い、いやあの、そう言っていただけるのは光栄なのですが……」
「大丈夫です。わたくしは男性でも女性でもいけますっ」
「いえ、そういう問題でもなくっ!?」
「あぁ、でもわたくしって浮気性なのでしょうか……あの方にも心ときめきましたの」
「ふぇっ!?」
 あの方が先ほども名の出た自分の知人だと知り、ミリートは狼狽する。
「はい。あの素敵な言葉をさり気なく言えてしまうところなどが特に。商売人の娘をやっておりますと、『言わなくてもわかるだろう?』というようなやりとりを数多見てきました。しかし、大切なことなら口できちんと伝えて欲しいものです。罪作りではありますが、あの方の優しさは貴重だと思いますわ」
「分かります。女って、きちんと好きだよとか愛してるよって言って欲しい生き物ですもんね♪」
「ですわ。……そういえば、ミリートさんは彼とはどういう御関係で……?」
「だう? うーん……なんだろ。友達……かなぁ? あは、カミーユお姉さんみたいに心ときめく感じではまだないかなぁ」
「むむ。ライバル出現でしょうか」
「えー!? だ、だからよくわかんないよぅ!」
 あはは、と沸く一同。一葉の家に笑顔が溢れていた。
 やる前はこいつと食事? というような雰囲気だった亜理紗とカミーユも、歳相応の女性として普通に話していた。
 特にカミーユは、力を抜き、お菓子や料理に舌鼓を打ち、歳相応の会話をすることが楽しいと初めて知ったレベルだ。確実に亜理紗とカミーユの距離は縮まったといえる。
 急に完全に仲良くは無理だろうが、お互いがどんな人物か、どんな思いを抱いて生きているのかは分かったはずである。
「そういえば姉ロリ、かぐラジやんないの? 楽しみなのに〜。カミーユも依頼でないの? 一緒に希儀とか行かない〜?」
「あー、かぐらじ。やりたいんですけど、上層部でお便りが集まるか不安だみたいな話になっちゃったんですよねぇ」
「わたくしはいつでも依頼は参加したいですわ。まだまだ駆け出しですし、一人前になりたいですから」
 きっかけは共通の友人たち。一葉だけでは足りなくとも、二人三人と知り合いが集えば大きな力になる。
「ご苦労様。話の内容にあわせてさり気なく曲を変えるの、大変だったでしょ?」
「あれま、気付かれてた〜♪ 一葉さん鋭いね〜♪」
「主催者は参加者の動向に気を配っておかないと、ね。よかったら飲んで」
「ありがと〜♪ とりあえず皆、仲良く行くのが良いと思うね〜♪」
「ふふ、私も。ほら、門さんも食べて、話しましょ」
 心穏やかにするBGMに彩られていた女子会は、音を無くしても続く。
 穏やかな昼下がりのこの平和がいつまでも続けばいいのにと、誰もが思っていたのだった―――