絶対霧敵
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/22 14:42



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 その日、開拓者ギルドに緊急の依頼が持ち込まれた。
 取るものもとりあえず駆け込んできたとある村人。泥や埃に混じり、着物には血糊もそこかしこにこびり付いていた。
「お、お願げぇです! 村を助けてくんろ!」
「わかりました、とりあえず落ち着いてください。お話はきちんと伺いますから」
 ギルド職員の西沢 一葉が慌てふためく男をなだめ始める。どんな理由があるにせよ、ギルド内で騒がれては困るしこのままではまともな話ができないと思ったからである。
 水をもらい、腰を下ろしてしばらくして、男はやっとのことで深く息を吐いた。
「申し訳ねぇです」
「いいえ、これもお仕事ですから。村を助けてと仰ってましたが、どういうことなんですか?」
「はい……実はある日突然、村が霧に覆われたんです。真昼間だってのに、いきなりさーっと霧が広がってきて、村がまるまる囲まれちまったんです。全然前が見えないくらいで、そりゃあみんな困っちまって」
「……自然現象じゃなさそうですね」
「アヤカシです! 霧ん中にでっけぇ見たこともねぇ生物がいたの、オラ見ただ! そいつは蟹みてぇなでっけぇ鋏持っててよ、そいつで人間とっ捕まえて……うぅぅ……!」
 なんでも、この男性は数人のグループで村を抜け出し、助けを呼びにいくことを計画したらしい。
 件のアヤカシは建物の中にいれば、こちらから手を出さない限り攻撃してこないという。しかし籠城を決め込むにも物資に限りはあろうし、このアヤカシがいつ出ていくのか分からない。
 ならばと開拓者ギルドに依頼を持ち込もうと決死隊を出したわけだが、生き残ったのは彼だけだったようだ。他の者達は霧の中でアヤカシに喰われ、命を落としたと思われる。
「霧が一向に晴れないということは、やっぱりそのアヤカシが発生源なんでしょうね……。敵は一匹だけなんですか?」
「さ、さぁ……少なくともオラたちは一匹しか見てねぇけんども。小せぇとはいえ村丸ごと霧ン中に閉じ込めてるっちゅーことは、まだいるかも知んねぇべよ」
「大きなアヤカシ以外はいそうですか? 別の小型種とか」
「いや、そういうのはいねぇ。そのでっけぇ奴にさえ注意すれば、一応家から家へ移動すっこともできるべ。もっとも、捕まったらお終いだからなぁ……集会所に逃げ込んだ連中は大丈夫だべか……」
 自ら霧を発生させ、その中に潜んで獲物を喰らう巨大なアヤカシ。あまり聞いたことがないタイプだ。
 食料が尽きて一か八かで脱出を試み、犠牲者が増えた……などという事態はなるべく避けたい。撃破には迅速さが求められる。しかし、良い対策は文字通り霧中だ。探り探りやることになるだろう。
 霧に閉じ込められた村人たちを救出するため、新種のアヤカシとの戦いが始まる―――


■参加者一覧
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
奈々生(ib9660
13歳・女・サ
フィー (ib9771
13歳・女・シ


■リプレイ本文

●響鈴
 石鏡北部存在する小さな村。特産品もなく見るべき観光地でもない至って普通の村である。
 だからといってアヤカシがお目こぼししてくれるかと言えば決してそんなことはなく、むしろ連絡手段が限られる分事態が深刻になりやすい。
 今回はまさにそれを体現した事件といえる。決死隊を出して開拓者ギルドに助けを求めなければ、ゆるゆると村は全滅していたかもしれない。
「問答無用で暴れまわるのでなくとも逃げられず、徐々に限界が迫ってくる恐怖……一方的な暴力の恐怖と比べて劣るものではない、でしょうね。だからこそ、犠牲者を出してでも助けを呼びに走ったのでしょうし。これにこたえられないなら、開拓者の名折れ、です。いきましょう」
 御調 昴(ib5479)をはじめ、開拓者たちは霧に覆われた村を前にして決意を新たにする。
 遠目から見ても明らかに不審な霧は、ゆらゆらと揺らめきこそすれ晴れる気配はない。というより、ピーカンとも言える快晴の太陽の下で一部の地域だけが霧に包まれているのだ。明らかに自然現象ではない。
 村人を助けたいという開拓者たちの想いは皆同じ。人数が少ないのが少々不安だが、やるしかないのだ。
「カニか〜。アヤカシじゃなかったら食べたかったな♪ でも人間を殺すなんてゆるせない、絶対やっつけるんだから!」
「右も左もわからないままだとよくありません! フィー、かにさん退治に参戦します!」
「いやいや、意気込みはいいけど蟹とは限らないからね? 蟹に似た何かと考えた方がいいわよ」
 十三歳コンビ、奈々生(ib9660)とフィー(ib9771)は敵を蟹だと思っているようだったので、年長者(と言っても十七歳だが)の熾弦(ib7860)がたしなめる。
 確かに鋏があったり甲殻に覆われた足という情報から蟹を想像しやすいが、正確な姿は誰も見ていない。蟹を想定し、横にしか歩けないだろうなどという憶測は即自らの死につながるのだ。
 その姿を見て、メンバー中最も腕が立つと思われる杉野 九寿重(ib3226)は軽い溜息を吐いた。
「そろそろ参りましょうか。正体不明の敵、視覚を遮る霧。油断はできません。準備はよろしいですか?」
 そう言って、杉野はちんちりんと腰辺りにつけた鈴を鳴らす。
 すると他の開拓者たちもそれにならい、身につけた鈴を鳴らしてみせた。
 これは霧の中で仲間の所在を確かめるための事前策。かなり有効な手段といえるだろう。
 ……が。
「……フィー君、それは?」
「風鈴です! 万商店で売っていなかったので、風鈴で我慢です。早駆で動けば、きっと音が鳴ります!」
 熾弦は恐る恐る聞いたが、フィーはにこやかに言い切った。
 確かに音は鳴るが、一人だけ随分と清涼感のある音を発している。
 まぁ、問題はないといえば無い。無邪気なフィーの笑顔を見ていると、ツッコむのも可哀想な気がした。
「……こほん。では、改めまして参りましょう。決して離れないように」
 杉野の音頭で、一行は一丸となって霧の中へ突入していく。
 一行を飲み込んだ深い霧。視界は白く染め上げられ、数メートル先が見えない。
 この中に潜むアヤカシを倒し、村を開放する。難しい戦いが、始まろうとしていた―――

●霧中で夢中
 熾弦は、村の中を進みつつ耳を澄ませていた。
 近くに聞こえるのは仲間の鈴の音及び風鈴の音のみ。しかし、超越聴覚を発動した今の彼女には遠くの音も感知することができる。
 村の中を徘徊していると思われるのは5メートルほどもある巨体のアヤカシ。足音を消すのはまず不可能。
「……聞こえたわ。ここからだと右斜め前の方向ね。心眼に引っかかる?」
「いえ、まだです。距離があるようですね」
「……大きい。ずぅん、ずぅんって凄く重厚な足音よ。動きは素早くなさそう」
 熾弦は超越聴覚で、杉野は心眼で、霧の中でもアヤカシの存在を察知できる。
 二人がいなければ家の影をアヤカシと勘違いすることも多々在っただろう。また、敵が一匹だけであろうこともおおよそ確信となった。あとはその一匹を撃滅するのみである。
 慎重に近づく開拓者たち。しかし、ある程度距離が縮まった段階で、アヤカシが移動を始めた。
 ……こちらへ向かって、だ。
「気付かれた!? 索敵範囲が広いわね……!」
「こちらでも捉えました。しかし、やはり足は遅いですね」
 鈍重とさえ言える速度だが、距離は確実に近づいている。やがて超越聴覚なしでも聞こえるくらい、ずぅんずぅんと地響きが届き始める。
「そろそろ接敵するはず。先手を取ります!」
 泰練気法・壱を発動した御調は、両手に魔槍砲を構え発射体勢を取る。
 敵の姿はまだ見えないが、これ以上近づかれると危険と判断したのだろう。また、この速度なら避けられる心配はないと見切ったこともある。
 二丁乱舞による砲撃。霧の中で火線が走り、爆音を立てて何かに直撃した!
「もう一度!」
 再び発射された砲撃はまたしても何かに直撃する。索敵をしていた二人は、アヤカシが後ずさったことで命中を確信する。
「よぉーし! フィー、走り回って撹乱します!」
「おー! 上に登っちゃえばきっと何もできないよ!」
 ここで十三歳コンビ、奈々生とフィーがアヤカシが居る方向へ突っ込んでいく。
 正確にはその周辺を走り回り、杉野や熾弦たちの援護をしたいということなのだろう。
 気持ちは非常にありがたいが……
「まったく!」
 猛烈な嫌な予感に襲われた杉野は、当初の予定通り先んじて懐に飛び込んでいく。
 正直、奈々生とフィーの実力では危険すぎる。敵の索敵範囲が想像以上に広く、奇襲や不意打ちが不可能だった時点で自重すべきだった。
「わきゃっ!?」
 フィーは早駆を使用できるため、まだなんとか回避は可能だが長くは保たない。
 霧の中、正確に振り下ろされた鋏。気付くのがもう少し遅ければ捕まっていただろう。
 だが、奈々生の方はそうはいかない。それがわかっていたから……
「こ……のっ!」
 走りこんだ杉野は、野太刀でアヤカシの足の一本を叩いた。
 その一撃は足の三分の一ほどまでめり込んだが切断には至らない。
 思ったより甲殻が硬いが、怯ませることはできたようだ。二歩三歩と後退するアヤカシから、杉野は奈々生を抱えすぐさま離脱していた。
 ちりんちりんと周囲で鈴の音がする。風を切り、風鈴の音も辺りに響く。
 全員健在。そして味方が射線上にいないと位置判断をした御調の砲撃が再び轟く!
「奈々生君、フィー君、無茶は駄目よ!」
 その隙を突いて熾弦も走り込み、アヤカシと対峙する。
 タカアシガニのような長い足。ザリガニのような細長い鋏。しかし胴体は蟹というよりヤドカリのような形状で、ヤドは無いが甲殻に覆われている。
 こいつがどんな属種であろうと構わない。今は村のため、仲間のために戦うしか無い。
 熾弦の接近を悟ったアヤカシは、鋏を振り回して応戦する。どういう理屈で人間を感知しているのか知らないが、霧の中だというのにその攻撃は正確無比だ。
 しかし、攻撃が来ると分かっているなら回避は不可能ではない。ノウェーアで回避を上昇させた熾弦は、ギリギリのところで攻撃を回避。反撃でとして、近距離での重力の爆音を発動する。
 轟く重低音と、相手を押さえつけるような圧迫。キシャアァァ、と妙な悲鳴を上げてアヤカシは苦しんでいた。
「術攻撃が通りやすい! 奈々生君、アヤカシの股下を潜るように突破できる!?」
「フィーがフェイントになりますです!」
「りょーかい! いっくぞぉ!」
 熾弦の要請を受け、奈々生とフィーがアヤカシに向かう。
 鈴の音でお互いの位置は分かっている。ぶつかることなどあり得ない。
 先んじていたフィーに向かって鋏が突き出されるが、フィーは早駆で急激に方向転換、攻撃を回避する。
 その隙を突いて奈々生が突破を図り、それを御調の砲撃が支援する。
 高さがある形状が首を絞めている。股下を通ろうとする奈々生の数メートル上を狙って砲撃すれば嫌でも当たるし、砲撃の衝撃はさらっと無視できるほど精神衛生によろしくない。
 正直、甲殻に覆われているだけあって防御力はある。思ったよりダメージは稼げないが、気を十分引ける。
 そうこうしているうちに奈々生はアヤカシの股下を駆け抜けた。それが屈辱的だったわけではないだろうが、アヤカシは方向転換して熾弦に背後を晒してしまう。
「避ける必要がないから術に専念できるわね」
 再び重力の爆音を使用する熾弦。高いところにあった本体が、術の影響で下がってくる。
 危機感を覚えたのか……それとも自棄っぱちか。アヤカシは大きく両手の鋏を振り回し始める!
「あぐっ!?」
「あっ……!」
 ずん、という重い音と、ボキッ……という鈍い音。
 奈々生とフィーは直撃をもらい、大きくふっ飛ばされた。鈴の音が激しく鳴り、そしてすぐ聞こえなくなる。
「間に合わなかった!? この……!」
 背中の甲殻に当たるとわかっていてなお、御調は魔槍砲を連射する。倒れた二人に向かわせるわけにはいかないのだ。
 回復役がいないのは痛い。後はもう被害が拡大する前に倒しきるしかない!
「これで、最後の一発! 後はもう練力が保たないわ!」
「充分です!」
 奈々生の方に向かおうとしたアヤカシに重力の爆音が叩き込まれる。
 そして、鈴の音が途絶えた位置から奈々生とアヤカシの距離を判断した杉野が走り込み、重力の爆音で下げられたアヤカシの頭と御対面する。
「振り下ろして、振り上げですね!」
 紅焔桜を発動した野太刀は、美しい燐光を撒き散らしながらアヤカシの顔を斜めに斬り裂いた。
 充分に苦しむ暇も与えず、杉野は下から振り上げる二撃目を放つ。
 顔も硬くはあったが、術攻撃で弱らされていたところに顔面に二条の切り傷。さしもの甲殻類もこれは堪えたらしい。ガクガクと震える両手の鋏を、天を仰ぐように持ち上げ……やがて力尽きた。
 どずぅん、と身体から地面に激突するアヤカシ。まだピクピク動いてはいるが、瘴気に還るのも時間の問題だろう。
「物理攻撃は効果が薄いのではと思ってはいました。では、空いた穴から砲撃をすると……?」
 にっこりと笑い、御調はアヤカシの顔面に魔槍砲を押し付ける。
 そこには杉野がつけた大きな刀傷。そこからゼロ距離で砲撃を叩きこむ。
 一瞬大きく跳ねた後、その巨体は瘴気となって消えていった。
 すると、村を覆っていた霧が急速に晴れていき……五人の周りにはのどかな村の風景が姿を現す。
 霧が晴れたことを知り、次々と建物から出てくる村人たち。平和が戻ったと涙ぐむ者も少なくない。
「あ痛た……フィー、やられちゃいました……気持ち悪いです……」
「腕の骨がやられちゃってると思うから無理しない方がいいわね。ギルドに戻って治してもらいましょう。……でも、その前に」
 熾弦は村人数人を呼び集め、決死隊として命を落とした人々の弔いをお願いした。
 犠牲者は四人。異変を知らせ、開拓者を呼び、村が救われたのも彼らの犠牲があったからこそ。
 アヤカシに喰われてしまった彼らに遺体はない。だから、遺族も友人も開拓者たちも、等しく祈りを捧げるくらいしかできないが……それで少しでも故人の御霊が安らぐと信じて。
「……私たちは神ではありません。事態を事前に察知するなんて不可能だとわかっていますが……歯がゆいですね」
「だからこそ、起こってしまったことを全力で解決するしかないのです。全うできて何よりですね」
 杉野と御調は、祈りを捧げる熾弦や村人たちを見てそんな会話をしていたという。
 世にアヤカシのある限り、悲劇は絶えない。その悲劇の拡大を防ぐために、開拓者たちは今日も天儀の何処かで戦い続けるのだった―――