【木乃華】落ちた星
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/08 06:14



■オープニング本文

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 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 十七夜 亜理紗。開拓者ギルド職員であり、陰陽師でもある女の子である。
 その人生は決して平坦なものではなく、記憶喪失で放浪しているところを開拓者ギルドに保護され現在に至り、現在の人格も他人に意図的に『書き換えられた』代物であることが判明した。
 だが、亜理紗は亜理紗である。今の亜理紗のことを案じ、慕い、友と呼んでくれる人々がいる。それを心の支えに、彼女は今日も生きていた。
 そこに現れたのは、同じように人格を書き換えられたという陰陽師の少女。強大な力を持ち、亜理紗を実験材料として手に入れるため天儀のあちこちで騒動を起こすと宣言したのだった。
「亜理紗、例の……えっと、なんて呼べばいいのかしら。どっちも木乃華だものね……」
「老と若で区別して、若木乃華とかでいいのでは」
「じゃあそれで。例の若木乃華が石鏡の某所に現れたの。場所は……三魔星がいた森の辺りよ」
「げ」
 三魔星。開拓者に撃破された、謎の陰陽師が残した研究結果の一つ。
 無限復活とも思える再生機能を持ち、高い戦闘力を誇ったアヤカシ兵器である。
 とはいえもうこの世にはない。なのに何故三魔星がいた場所の近くに若木乃華が現れたのか?
「……もしかして、幽志や獣骨髑髏と同じように、撃破されたことを知らないのかしら」
「その可能性が高いと思います。流石にあのレベルの研究成果を復活させるにはかなり時間がかかるはずですし。若木乃華の方には、研究した記憶はないでしょうしね」
 人格の書き換えは、記憶の移植ではない。老木乃華の研究記憶は若木乃華には無い。
 もっとも、記憶の移行も時間さえあればやれてしまいそうな気もするが。
「とはいえ、あの人はなんだかんだと規格外です。一人で居るなら好都合、さっさと殺してしまったほうが無難でしょうね」
「は? 亜理紗、自分が何言ってるかわかってる……?」
「らしくないのはわかってますよ。でも、若木乃華は決して説得になんか応じません。捕まえるだけでは二次三次と被害が拡大する可能性もありますし、人に怪我をさせたわけでもない以上捕まえる理由も乏しいです」
「で、でも、実質木乃華が謎の陰陽師だと判明したようなものじゃない。その件で―――」
「無理ですよ。限りなく黒に近いですが黒ではありません。それに、老木乃華が謎の陰陽師でも、若木乃華はそれに問えないでしょう」
 どちらも本人と豪語する以上、ちょっと学べば若木乃華も老木乃華と同じことができるようになる可能性は高い。
 幸いというか何と言うか、若木乃華は過去に行方不明になった出自の分からない少女の身体だ。殺害しても文字通り闇に葬れる。
 一葉も、勿論亜理紗もそんなことはしたくない。したくはないが……
「……世の中、どうしても理解し合えない人間っているんですよ。被害が拡大する前にと思うのは、いけないことですか……?」
「……そうじゃない、けど……」
 分かっている。一葉に良い代案は浮かばない以上、亜理紗の言っていることは正論だ。
 正論だが、正論を振りかざすのは亜理紗らしくない。そんな違和が拭えない。
「……わかりました。とりあえず不審者の拿捕という名目で依頼を出しておきます。三魔星はもういないけど、他の場所で他の研究成果を掘り出されたらたまらないしね。デッド・オア・アライブでいいわね?」
「はい。そうでないと、怪我をするのは参加者の皆さんですから」
 他人を思いやれる気持ちがあるなら大丈夫と、一葉は一先ず胸を撫で下ろす。
 強大な力とオリジナルの術を持つ十七夜 木乃華。彼女たちとの本格的な戦いが、今始まる―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
无(ib1198
18歳・男・陰
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●願い
「亜理紗、お前との約束を果たしたい」
 目的地までの道すがら、鷲尾天斗(ia0371)は突然そう切り出した。
 開拓者に同行していた十七夜亜理紗の表情が冴えなかったことによるのだろうう。亜理紗も何事かと鷲尾を見る。
「前に言ったよなァ。『お前の願いを何でも一つ聞いてやる』って。だから本心で話してくれ、お前は若木乃華をどうしたい? たとえ理解し合えなくても手を差し伸べる事はできる。憎くても助けようと思う事は出来る。俺はSA達とやり合ってそれが分った。アイツ等に言った言葉は俺自身に言った言葉でもあったワケだ」
 鷲尾に限ったことではないが、亜理紗が若木乃華をさっさと殺してしまおうと言い出したと聞き、らしくないと不安を覚えたのである。
 食べることが好きで、笑って、怒って、悲しんで。そんな表情豊かな少女が、突然人一人を殺してしまえなどと言い出せば、友人知人としては心配にもなるというものだ。
 周りで聞いていた開拓者たちも複雑な表情を浮かべる。それを見回し、亜理紗は彼らの意思を察した。
「お前の願いはなんだ。俺はその願いを全力で叶えたい」
「……ありがとうございます。心配していただいて。なら、お願いします。若木乃華を……殺してください」
「えぇー!? ちょ、それでいいの、亜理紗さん!?」
 神座亜紀(ib6736)は驚きを隠せなかったが、亜理紗の表情から真剣なのだと理解する。
「……私も老木乃華の人格改竄を受けた……言わば木乃華ですからわかるんです。人格改竄を受けたら最後、元の人格には戻れません。例えば、粘土で作った正方形を球形に作り変えたら、それはもう正方形ではないでしょう?」
 だから、若木乃華はもう木乃華以外の何物でもない。若干ズレはあるかも知れないが、もう元の娘ではない。
 それは亜理紗も同じ事。元の亜理紗という少女の人格は完全に作り変えられてしまっている。
 失敗であり、何も知らない村娘の頃の木乃華の人格になってしまったのは奇跡的な偶然にすぎない。
「説得も救済も無理なんです。むしろ、殺すことでしか彼女は解放できない。それが理屈でなくわかってしまうんです。皆さんが助けることにこだわって傷ついてしまうのは、私には我慢がなりません。ですから……」
 若木乃華を、殺してあげてください。うつむいて、亜理紗はもう一度そう言った。
 その言葉の重みを察し、開拓者たちは何も言えなくなってしまう。
 ややあって、レネネト(ib0260)が小鳥の囀りを歌い出す。それは小鳥を使ってあることを確認しようとする事前策であったが、同時に場の空気を和ませるためでもあった。
「行きましょう、亜理紗さん、鷲尾さん。強敵ですから……僕達のできることをやるだけですよ」
 真亡・雫(ia0432)が微笑みながら二人を促した。
 そう……形は違えど、彼らの優しさに包まれて亜理紗は亜理紗になったのだ。
 今の亜理紗があるのは、優しくも頼もしい彼らがいてくれたからこそ。
「……はい。頑張りましょう!」
 亜理紗は微笑みながら、歩み続けることを決める。
 運命の流れがどうなるか……それは誰にもわからない―――

●木乃華ということ
「あーもー! ここら辺って言ってたんだけどなぁ。入り口どこにあるのかしらん」
 森の中をうろついている真紅の陰陽師服。
 ツインテールを揺らすその姿は、紛うこと無く若木乃華である。
 三魔星というアヤカシ兵器を復活させるために来たと思われるが、再三言われている通り開拓者が完全に撃破している。しかも研究所への入り口は崩されて埋め立てられているので、中に入るのは勿論、入り口を見つけることさえ容易ではない。
「……ふぅん? 来たんだ? 隠れてても無駄だよ」
 どうやって感知したのか知らないが、開拓者の接近に気づいた若木乃華。
 木々の間から開拓者たちが姿を表すと、ニヤリと笑った。
「邪魔するな……なんて言うだけ野暮だよね。来なよ、相手になってあげる」
「その前に一つ聞きたいことがあります」
 无(ib1198)が律儀に挙手して質問する。若木乃華は答えるつもりのようだ。
「若乃華さんでいいですか? 呼び方」
「わのかぁ? じゃあ古い方はろのか? どっちも木乃華なんだってば……って、そんなこと聞きたいの?」
「それはついでです。なぜ十七夜を若い木乃華が狙うのか。本当に聞きたいのはこれです」
「そんなの研究のためでしょ。何度も言ってるじゃん」
「ほんとに興味本位なんですか? あなた自身の。古い木乃華の影響なく? なんで古い方は襲わなかったのです」
「研究物として興味が有るだけ。こっちのワタシは不完全なんだから、あっちを殺すわけにいかないでしょーよ。あ、ちなみに亜理紗を研究して完全な人格改竄が上手く行ったらワタシも古い方のワタシも要らないんで」
「あぁ……なんともまた理解し難い思考ですね……」
「……自分が何人もいればそれだけ研究が捗るのでは? 三人寄れば文殊の知恵とも言います」
「全部同じ人格、同じ思考の木乃華じゃないの。全員同じような意見出して終了。そんなの人数が何人いても一人と一緒。食い扶持が増えるだけ邪魔よ」
 相変わらず常人には理解できない思考だ。ヘラルディア(ia0397)の苦笑いも、長谷部 円秀(ib4529)の疑問も右から左である。
 会話の隙を突き、神座はストーンウォールを三枚ほど拵えた。
 そいてその影から顔を出し、問う。
「わざわざこんな所に何しに来たのさ!」
「んー、この辺りで三魔星っていうアヤカシ兵器を作ったって聞いたのよね。失敗作じゃが役には立つじゃろ、なんて言われたんだけど場所が見つからなくって。不審者扱いされちゃった?」
「あったりまえだよ! 森で真っ赤な陰陽師服の女の子がうろついてたら通報されるに決まってるよ!」
「だよねー。うん、次からは考えるわ」
 苦笑いしながら言いつつ、符を何枚も取り出す若木乃華。
 開拓者たちも戦闘態勢を取り、長谷部が瞬脚で一気に近づいた!
「甘いよ」
 予想していたのか、繰り出された長谷部の拳に符をぶつける若木乃華。すると長谷部の拳が直角に軌道を変え、地面を叩く。同時に周囲に重力場を発生させ、長谷部の身体を押し潰さんとのしかかった!
「これ、貼りさえすれば実は何処に貼ってもいいんだ。ふっふっふー、驚い―――」
 重力場の中、平然と立っている若木乃華。しかし、長谷部が何事もなかったかのようにバックジャンプで後退し、入れ替わるように飛来した矢に思わず言葉を止めた。
 術の範囲の遙か遠方から鹿角 結(ib3119)が狙っている。それ自体は分かっていたが、重力場でどうにでもなると高をくくってたのは確かであった。
 ギリギリのところで何かの符を盾にして矢を防いだが、珍しく焦りが見て取れた。
「重力場が相殺されてる!? ……亜理紗、あなた!?」
「失敗作の私にだって……皆さんのお手伝いはできます……!」
「違いますよ亜理紗さん。あなただから僕達を助けられるんです。助けてくれるんです」
「はい……!」
 鹿角の言葉に励まされ、術の相殺を続ける亜理紗。長谷部が拳についた符を破ることで、重力場は消滅した。
 しかし、亜理紗は相殺に必死だ。明らかに相手のほうが実力が上ということである。
「なるほどね。ちょっと驚いたけど理屈的に無理じゃあ無い。でも、ワタシだったらそんなこと考えないんだよね……ますます興味深い」
 続けざまに飛んでくる鹿角の矢を、木の陰に隠れてやり過ごそうとする若木乃華。しかし月涙を使用しているため矢は木をすり抜ける。
 それを確認した木乃華は、先ほどのように符を盾にして矢を直撃前に破壊していた。
 が、その間に鷲尾や真亡、長谷部といった前衛が接近する!
「これでどうだぁ!」
 亜理紗の傍……即ちストーンウォールの陰からアイシスケイラルを放つ神座。
 自動命中の謳い文句は伊達ではなく、木々を縫って若木乃華に向かっていく。
「ざーんねん。こっちは直前で木を盾にすれば問題ないわよ」
「その間に近づかれたら意味は無いですけどね」
「メンドクセェ事になる前に……ぶっ潰す! 覚悟しろやこのちゃん!」
「願わくば、私の拳が道を切り開けるように」
 前衛三人が目の前まで近づいてきている。また重力場を形成しても亜理紗がすぐさま相殺の用意をしているし、それを分からない木乃華ではあるまい。
 なのに余裕綽々なのは何故なのか。いつものことと言われればそれまでだが。
「ほいっと」
 何を思ったか、木乃華は符を自分の体に貼り付けた。すると急に木乃華の身体が宙に浮く!
 いや、木乃華だけではない。鷲尾や真亡、長谷部の体も不意に浮き上がり、じたばたともがくことになる。
「えっ、あっ!?」
「手伝いありがと♪」
 空中で器用に身を翻し、術を発動する木乃華。
 アークブラストのような電撃を放つ術のようだ。雷光に打たれ、前衛三人が空中で悶絶する。
 木乃華が術を解除すると、浮いていた三人は自由落下で地面へ叩きつけられた。
「お三方、一度お戻りを。治癒致します」
 ヘラルディアに声をかけられ、大人しく一旦下がる三人。
 本家アークブラストより威力は格段に劣るが、無視できるダメージではない。折角神座が作ったバリケードがあり、回復してくれるヘラルディアがいるのだ。無理をする意味は無い。
「す、すいません。まさか向こうも浮かせる術を使ってくるなんて……」
「仕方ねェよ。あいつは色んな修羅場潜ってんだ。実戦経験が違うのさ」
「それにしても、森に何かを仕掛けている気配はありませんね。素で迷っていたということでしょうか」
 亜理紗が謝る横でレネネトが辺りを見回すが、森に変わった様子はない。てっきり自分に近づけないよう迷いの術でも使っているのではと思ったのだが、そういうわけでもないらしい。
 回復の間も鹿角が移動しつつ矢を放っている。その狙いは正確無比だが、如何せん森の中では遮蔽物が多すぎる。そういった意味でも、若木乃華の立ち回りは上手いと言えた。
「あーもー、遠いところからちまちまと。こうなったらアレ使ってみるかな」
 一枚の符を取り出す木乃華。そうはさせじと魂喰を発動する无に、瞬脚で移動する長谷部。
 何事かとストーンウォールの背後から覗き見る面々。要は全員の注目が木乃華に集まっている。
「視線殺符!」
 ニヤリと笑った木乃華が術を解き放つ。すると、『木乃華を見ていた全員が頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた』。
 勿論、それでは魂喰は止まらない。防御姿勢を取ったものの、木乃華にも強かにダメージがあった。
「あいたたた……! 治癒符治癒符……!」
「あぐ……い、今のは……! こんな、距離から……!?」
 鹿角してみれば、射程ギリギリから攻撃していたのに反撃を食らったことが驚きである。
 いや、警戒自体はしていた。『指定した相手を狙い撃つ長距離攻撃術』くらいは持っていそうだと思っていたが、鹿角を狙う素振りもなく、何が飛んできたわけでもなく衝撃を受けたのが異常なのだ。
 もっとも、ダメージ自体は大したことはないのだが。
「うーん、やっぱ威力がイマイチ。術の設定に無理があるもんねー」
「い、今のは……まさか、自分を見ていた人間にダメージを与える術……!?」
「せいかーい。どれだけ遠くてもワタシを見ていたら有効範囲。逆に、すぐ隣にいてもワタシを見ていなかったり、目をつぶったりしてたら効かないんだけどね」
 ストーンウォールの背後にいてもダメージを受けるというのは洒落にならない。
 まぁ、問題なのはダメージよりも目眩の方か。派手に脳が揺らされたせいか立ち上がるのも一苦労だ。
「どお? これでしばらく矢は―――」
 笑った木乃華の耳のすぐ横を矢が通り過ぎる。
 表情を引き攣らせた木乃華だったが、二の矢三の矢と正確に彼女を狙って矢が飛来する!
「えっ、ちょっ、嘘っ!? なんでよ!?」
「こう見えても修練しています。目眩がする中での射撃も経験がありますから」
 流石に正確無比に直撃とはいかないが、狙いはかなり正確だ。というより、射てること自体がすでに称賛に値するのだが。
「やれやれ、いいお友達に恵まれたわね。じゃあ次の術行きましょうか」
 ため息を吐きつつ、新たな符を取り出す。
「わーん! 一体いくつの術活性化させてるのさー!? ずるいよ!」
「言っとくけど、古い方のワタシはもっとえげつないわよ? 流石に身体能力はワタシが上だけどさ」
 神座の抗議も笑い飛ばされるだけ。符を構えた木乃華が、術を解き放った。
 が、特に何も起こらない。符が光っただけで木乃華もその場に立ったまま、誰に何か被害が出たわけでもない。
「……あり? 失敗しちゃったかな?」
 符をひらひらさせてみる木乃華だったが、特に変化はない。開拓者側としては拍子抜けだが……。
「白々しいですね。そこです!」
 真亡があらぬ方向に瞬風波を放つ。木乃華からかなり離れたところであり、一同はその真意を図りかねた。
 しかし、生み出された風の刃は虚空で何かを切り裂き、血を迸らせた!
「ぐ……! 心眼ってわけね! 失敗だったわ!」
 虚空から若木乃華が姿を現した直後、元いた若木乃華が瘴気となって掻き消える。
 どうやら瘴気でダミーを作り、本人は透明になって移動する術のようだった。
「調整前だったらここでブチ切れてるわけなんだけど、生憎少しはマシになってるんだ」
「……本当に前と違うんだな。あの狂った笑いが出ねェとはな……」
 むしろ逆上してくれたほうがやりやすくなる気もするが、あくまで木乃華は冷静だった。じりじりと後退し、撤退の素振りを見せる。
「警戒されちゃったみたいだから三魔星は諦めるわ。また別のを探しに行くわよ」
「どれだけあるんですか……。少なくともその三魔星というの以外にも二つほど破壊されているのでしょう?」
「さぁ。詳しいことは古い方のワタシに聞けば? じゃあね〜」
 无の疑問にぶっきらぼうに答えつつ符を地面に叩きつけると、そこを中心に目も開けていられないほどの閃光が迸る。
 ようやく視力が戻った時には、すでに若木乃華の姿は無かった。
「逃げ足が早いというか、機を見るに敏と言うか……。次は発見すること自体が困難になりそうですね」
 ヘラルディアの呟きはおそらく的を射ているだろう。次は何処に何を探しに行くかしらないが、目立たないように行動するであろうことは想像に難くない。
 最初から殺す気でかからなければ、自分たちの身を守ることも難しい。そう感じた一戦であった―――