Snipe!
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/12 18:30



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「はい、今回は岩で出来たゴーレムのようなアヤカシが相手です。戦闘場所は岩山ですね」
 ある日野開拓者ギルド。
 職員の十七夜 亜理紗が本日紹介する依頼は、アヤカシの退治というシンプルなものであった。
 しかし、形式はシンプルでもそう簡単には事は運ばない。
「実はこのアヤカシ、最近報告が出始めた『人に対して耐性を持つアヤカシ』らしいんですね。前にこの能力を持つアヤカシが出たときは朋友をメイン戦力にすることで撃破されました」
 人から発生するダメージを大幅にカットし、転倒や凍結といった副次効果も受け付けないアヤカシ。だが人間以外の存在であったりアーマーに搭乗していればダメージが普通に通るため、面倒ではあるが絶対に勝てない相手ではない。
 だが、今回は朋友を連れて行ってはいけないらしい。それではどうしろというのだろうか?
「ご心配なく。朋友がいなくても、このアヤカシには弱点があるようなんです。右の首筋辺りに小さな黒い石が露出してまして、そこを攻撃すれば普通にダメージが入るそうなんですよ」
 以前のゴリラのようなアヤカシは弱点などなかったが、耐性持ちにも様々いるのだろう。もしかしたら上半身だけとか、腕だけ耐性があるというようなのも居るかもしれない。
 問題は、このゴーレムのようなアヤカシの身長が5メートル近くあること。普通に剣を振ったのでは場所的にも届かない。
 故に、この依頼では『狙撃』ができる人間を強く募集している。
「狙撃の手段は問いません。弓でも銃でも魔術でも、その黒い石一点を狙い撃てるならOKです。ちなみに場所となる岩山は見通しがよく、障害物や木などが殆ど無いので、山を登りゴーレムもどきより上を取ると狙い易いかと思いますよ。釈迦に説法かも知れませんが」
 動きまわる標的の、小さな一点を狙い撃たなければダメージが入らないという過酷な状況。これを克服するにはやはり熟練の開拓者の力を借りるしか無い。
 もちろん、どうにかしてゴーレムを引きずり倒し近接武器で首筋の弱点を狙う手が無いわけでもない。
 開拓者の腕と知恵が物を言う戦いが、再び始まる―――


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
アル・アレティーノ(ib5404
25歳・女・砲
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
計都・デルタエッジ(ib5504
25歳・女・砲


■リプレイ本文

●巨大なるもの
 件の岩山に到着した開拓者たちは、予想以上にごつごつした岩が転がり足場の悪い山を登っていく。
 一応登山道のようなものはあるのだが、周囲に木などはない。見通しは良すぎるくらいに良い。
 故に、登っていくばくもしない内に見えてきた。目標となるアヤカシの姿だ。
「あら〜、本当に大きいですね〜」
「せめて管狐を連れてこれたら、また違ったんだろうけどな。とにかく、俺らで何とかするしかあるまい」
「にゃははっ! かっこいーなりねっ♪」
 全長5メートルはある岩の巨体。ゆったりと岩山を徘徊しているのが見て取れた。
 計都・デルタエッジ(ib5504)が手のひらをかざしながら見上げて呟いた言葉は、シンプルながらそれ以上無いくらいアヤカシの特徴を捉えている。
 朋友がいれば楽であったと言ったのは風雅 哲心(ia0135)。彼は前に現れた耐性持ちのアヤカシと戦ったことがあるのでその思いは一入なのだろう。
 平野 譲治(ia5226)は何やら作戦があるとかで、わくわくした面持ちでアヤカシに皮肉交じりの台詞を言ってみせた。
 相手がどれだけの索敵範囲を持っているかは知らないが、兎に角近づいてみないことには始まらない。いざ歩を進めようとした時である。
 山の上から拳大の石が転がり落ちてきて、風雅の目の前を凄まじいスピードで通り過ぎた。
 更に下へと不規則に落ちていった石。当たりどころが良くても大怪我、悪ければ死もある。理屈でなく直感でそう感じた一行。
 一刻も早く撃破しなければなるまいと、上に注意しつつ進軍を再開したのであった―――

●十字砲火
「……しくじんなよ、おめえら! アイツを倒すまで死ぬ気で行け!」
「見せて貰おうか、ジルべリア本国のカラクリの性能とやらをっ」
「いや、あれはアヤカシであってカラクリでもゴーレムでもないからな?」
「緊張感ねぇなお前ら!?」
「肩肘張ってもしょーがないなりっ♪」
 前衛というか、アヤカシの注意を引き付ける役を担う四名。
 巴 渓(ia1334)は唯一と言っていい純粋な前衛であるが、足場の悪さに苦戦しそうである。
 一方、陰陽師であるカンタータ(ia0489)を始めとする術使いの風雅や平野もここに属しているが、意外と気楽なものである。
 勿論仕事や相手を舐めているわけではなく、気負い過ぎて身体が縮こまらないようにとの考えもあってのことだ。特に本来後衛である彼女らが前線で身を晒すのだから自らを鼓舞することは必要である。
 アヤカシはすでにこちらに気付いており、無表情の岩の顔で開拓者を打ち殺すべく手を伸ばしてきていた。
「ちっ、こいつ!」
 ゴーレムもどきの攻撃を回避する巴であったが、向こうのバランス感覚が思ったよりいいのと攻撃が正確であることに舌打ちをする。
 巨体であれば山の斜面での戦いには向かないと思われたが、逆に岩場をさして気にせず移動できるメリットになっているようだった。
 人間には一抱え程もある岩でも、奴にしてみれば小石も同然なのだろうから。
「さて、まずはこれをやっておく。……迅竜の息吹よ、我らに疾風の加護を与えよ。―――アクセラレート」
 風雅が前衛の面々にアクセラレートをかけ、俊敏さを増幅させる。
 まずは避けること。これが大事な相手だけにこの支援は嬉しい。そして、例え避けられずとも―――
「結界呪符! 白!」
「黒ぜよ!」
 カンタータと平野の言葉に応え、白と黒の壁が地面から飛び出しゴーレムもどきの拳を受け止める。
 が、貫通こそしないもののそれらを一撃で粉砕するアヤカシの一撃は、やはり直撃する訳にはいかない。
「こっちだぜ、ウスノロが!」
 挑発しながら巧みに岩場を移動する巴。攻撃も試みるのだが、やはりまるで手応えがない。
 避ける、防ぐばかりでは勝てるものも勝てない。そろそろメインの攻撃がほしいと思っていたその時である。
「よっし、配置完了! 遠距離から小さな的を穿ち貫くのなら、俺達砲術士の出番だな!」
「ふ、ここは我ら砲術師としての力の見せ所じゃの。丁度いいことに小隊メンバーも集まっておるしのぉ」
「まっ、きっちり狙い撃ってやろうじゃありませんか。けーちゃんとれーちんもいることだしなんとかなるでしょ。二人とも信頼してるよー」
「うふふ〜、砲術士小隊の隊長としては〜、ちょ〜っと頑張らないといけませんね〜」
 今回の依頼の中核をなす砲術士たち。それぞれアヤカシから見て上、左、右に分散して待機する。
 内約は上側に叢雲 怜(ib5488)とアル・アレティーノ(ib5404)。左側に計都、右側に高崎・朱音(ib5430)となっており、岩山の下では引き付け役の四人が戦うのでこれが最も無難な配置となる。
 配置に付いた四名は弱点部位である黒い石をすぐさま確認する。が、それは直径十五センチほどの大きさしか無く、目立ちはするが動いている目標の一部としては難易度が高い。
「よーし、いい子じゃ。射程内に入ってくれたの。一撃を外すわけにはいかぬな……そこじゃ!」
 ガウン、とマスケット銃から火線が放たれる。口火を切った高崎の銃弾は、石のわずか数センチずれたところに着弾した。当然ダメージは大幅カットである。
「うぬ! これはなかなか難しいのう」
 まるで小石が当たったかのように高崎を無視するアヤカシ。それはそれでありがたいが屈辱的でもある。
 撹乱するべく動きまわる引き付け役四人。そうしなければ、他の場所にいる狙撃役が狙えない。
「こっちは無理なの! 牽制で撃ち込むのだぜ!」
「お任せよ、れーちん」
 同じ上側にいても狙える場所は異なる。叢雲は牽制に徹し、アルがターゲットスコープを用いて射撃する。
 バチュンと弾けるような音がして、銃弾は弱点部分にヒット。すると、今までは叩かれようが撃たれようが平然としていたゴーレムもどきが目に見えて苦しみ、怯んだ!
「おー。ホントに効果あるのねぇ」
「これは狙い撃ち甲斐があるのですよ〜!」
 俄然ヤル気を出す狙撃班。引き付け班も効果を確認し気持ちを引き締める。
 作戦通りに行けば狙撃班が倒してくれる。そういう確信を持てたのは気持ち的に大きい。
「なな、ちょっと試したいのだっ! いいなりかっ!?」
「例の油かぁ? 俺たちが滑らないようにしてくれるんなら構いやしないがね!」
「ど、努力するなり」
 ゴーレムもどきは主に巴に気をやっている。その隙を突き、平野はこっそりその足元に近づき、持参した油をぶちまけていく。
 アヤカシが滑って転べば、引き付け役的にも狙撃役的にも利があるのは確かであろう。
 が、アヤカシは油まみれの足になっても転ぶ様子がない。先ほどとほぼ変わらず元気に岩山を闊歩する。
「……もしかして人間が撒いたから耐性発揮で滑らないなりか……?」
「あぁ、可能性は高いな。相談卓でも言ったが、フロストマインの凍結効果も受け付けなかったくらいだ」
「術の付随効果はおろか、自然物でも駄目というのはどういう理屈なんでしょうねー」
 顔を引き攣らせる平野に対し、風雅とカンタータが冷静にコメントする。
 油でこれなのだから、火をつけても効果はなかろうと平野は次の行動を断念した。
 そうこうしているうちに三人に殴りかかるアヤカシだが、またしても結界呪符によって阻まれる。練力が有限なのでいつまでもこの手法は使えないが、やはり防御も大事である。
「当た〜り〜。クイックカーブは便利ですね〜」
 計都が放った銃弾は、宙空で突如向きを変えアヤカシの弱点に直撃した。
 流石に見えていない場所を狙うのには適さないが、相手の不意の動きに対応させる分には問題ない。
 アヤカシが結界呪符を叩き割った瞬間や、巴に攻撃を仕掛けた瞬間を狙う狙撃班だが、命中率は全体で50%というところだろうか?
 派手に撃ち過ぎると注意が自分たちに向く可能性があるので、他の場所にいる面子との兼ね合いを伺いつつ撃っている。
「ち、こちらに気がついたかの。まともに殴られてはかなわぬし、場所を移動させてもらうのじゃ」
「やべっ、あいつ、石を!」
「遠距離攻撃ができるのはあいつらだけじゃないぞ。……轟け、迅竜の咆哮。砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」
 アヤカシがとうとう狙撃班の一人……高崎に狙いを定めた。
 それを阻止すべく風雅が術を解き放つが、風雅の位置からでは弱点は狙えない。
 絶対命中の術とはいえ、一点に当てるにはしっかし狙わないといけないのだが……?
「貴様には効かなくとも石はそうはいくまいよ」
 アヤカシが手にした石を内部から破壊する風雅の術。おかげで高崎も移動せずに済んだようだ。
 しかし、その巨体や外見に見合い耐久力も防御力もかなりのもの。弱点に攻撃をヒットさせて通常通りのダメージを与えていてなおまだ倒れない。
 慣れない岩山の悪い足場は体力をどんどん奪う。動きっぱなしの巴は勿論、後衛で体力不足の面子もそろそろ危険だ。
 一応、カンタータが回復の術を使えるようだが彼女自身が殴り飛ばされると困る。
「ええい、我だけでももう6発目ぞ! いつ倒れるのじゃ、こやつは!」
「うーん……弱ってるような気はするんだけどねぇ」
「あーもう、しぶといのだぜ! こうなったらでかいのを一発叩きこんでやるの!」
「おやおや〜? 怜くんが何かするようですね〜」
 各々ばらけた位置にいながらも、お互いの動向に気を配っている四人。その中の一人、叢雲が構えを変え、反動に備えるような体勢を取ったことを察知する。
 計都を筆頭に、アル、高崎は一旦弱点を忘れ牽制射撃に移行する。
「正悪混沌区別なく、俺の魔弾は穿ち貫くのだぜ……!」
 ターゲットスコープ起動。参式強弾撃・又鬼を装填。目標、敵アヤカシの弱点!
 狙撃班が叢雲の真正面に弱点が来るように撃っていると気づいた引き付け班もそれに倣う。
「……響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け―――アークブラスト!」
「こうなったら効かなくても構わないなりっ! 行くぜよ、雷閃っ!」
 風雅と平野が術を放ち、その隙に巴が高崎の方へ走る。こうすることによりアヤカシの右の首筋にある弱点が上側に晒される!
「うー! にゃー!」
 ドヴァ、と今までにない重苦しい音が響く。銃口から衝撃波と共に弾丸が撃ちだされ、重装甲をブチ抜くために編み出された技が一直線に進む。
 一瞬の閃きとともにアヤカシに吸い込まれた流星。それはゴーレムもどきの動きを止め、辺りに静寂をもたらした。
 ……やがて、弱点の黒い石にヒビが入り……それはあっという間にアヤカシの体中に伝播する。
 やがて自重を支えられなくなったアヤカシは、バアバラになって崩壊した。
「や……やったぁ! 勝ったのー! って、わわっ!?」
「まったく、普段使わぬ集中力を使ったの。怜から気力を吸い取らねばならぬわ」
「うふふ〜、怜くん頑張りましたね〜。撫で撫でしてあげますよ〜♪」
「朱音姉に計都姉!? うぅ〜、子供扱いは辞めて欲しいのだぜ! アル姉、助けて欲しいの〜!」
「まぁまぁ、みんな無事の喜びを表現してるんでしょ。大人しく餌食になりなさいな」
「ひーん!?」
「……ったく、終わった途端にいちゃつくんだからいい気なもんだぜ。こっちはヘトヘトだ」
「ふ……狙撃班がいなかったらどうにもならなかったんだ。あれくらい許せよ」
「じゃあおいらも混ざってくるなり♪」
「それではボクも。お祝いは大勢でやったほうがいいですしね?」
 平野とカンタータが山の上の方で合流した狙撃班たちのところへ向かう。
 巴と風雅は一息つくため、その辺の石に腰を下ろし……瘴気となって地面に溶けゆくアヤカシを眺めていた。
 今回のアヤカシに弱点がなく、人里に降りてきたらと思うと流石にぞっとするものがある。
 こうやって喜び合う事ができるのはいいことだが……できれば、耐性持ちアヤカシが今後現れないことを祈りたいところである―――