アンチヒューマン
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/28 21:22



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 その日、一つの依頼が失敗した。
 全長3メートル近い、巨大なゴリラのようなアヤカシを倒すという、とりたてて難しくはなさそうな依頼であった。
 参加したのは開拓者ギルドに正式に認められている猛者たちで、経験もそれなり。編成や作戦にも問題はなかったと見られる。それでも失敗してしまったことを、彼らはこう話す。
『攻撃が全然効かなかった。どういう理屈か分からない』
 そのゴリラのようなアヤカシには、剣も、槍も、矢も銃弾も魔術ですらも通用しなかった。
 正確に言えばダメージが全くのゼロというわけではないのだが、普通にアヤカシを攻撃した時の十分の一程度まで威力が減退しているというのが体感での意見らしい。
 特別な術式を施された人工的なアヤカシかとの疑いも上がったが、どうもそうではないらしい。天然で発生した新たなアヤカシであることを発見者たちが証言する。
 その発見者たちはゴリラもどきが川辺で発生する瞬間を目撃しているので、疑う余地はない。
「川に遊びに来た一家とその友人たちは、一目散に逃げたので難を逃れたらしいです」
「不幸中の幸いね。で、陰陽師としての御意見は?」
 開拓者ギルド職員、十七夜 亜理紗と西沢 一葉。この件を上から任された女性二人組である。
 亜理紗は陰陽師でもあるので、アヤカシについて多少以上の知識がある。
「うーん……なんとも。そんなアヤカシ聞いたことありませんし。敢えて言うなら、人間という存在に抵抗力というか反発力があるアヤカシなんじゃないのかな、と」
「おまえは何を言っているんだ」
「一葉さんキャラ違いますよ!? 格闘家みたいな口調止めてください!」
「こほん、失礼。根拠は?」
「失敗した依頼、そしてその後になされた調査において、攻撃が殆ど通用しないって書いてあったじゃないですか?」
「そうね。聖堂騎士剣や白梅香、魂喰なんかですら真価を発揮しなかったってあるわね」
「でも、アーマーが投げつけた石や、炎龍が吐いた火には怯んだとも書いてありました。つまり、『人間以外からの攻撃は普通に通用する』ということなのではないかと」
 ということは、朋友を連れていき朋友に攻撃してもらえば効率良く倒せるということだろうか。
 一応人間の力だけでも倒せることは倒せるのだろうが、被害や消耗が洒落にならないだろう。過去に失敗例があって、それでもなお人間の力を見せつけてやるぜというのであれば敢えて止めはしないが。
「じゃあ、朋友を強く推奨するって書き添えて依頼を出しましょうか。それにしても、こんなのがゾロゾロ出てきたら洒落にならないわね……」
「まぁ突然変異でしょう。滅多には出ませんよ。……多分」
 人の進化に合わせ、多種多様な新種が現れるアヤカシ。
 今度の敵は……人という存在そのものに耐性を持つ個体―――


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓
守紗 刄久郎(ia9521
25歳・男・サ
クラウス・サヴィオラ(ib0261
21歳・男・騎
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文

●抵抗力
 古今東西現在過去、アヤカシには多種多様な存在が確認されている。
 その中においても異彩を放つであろう個体が今回のアヤカシだ。
 ゴリラのような姿をしたその個体は、人間からのダメージを大幅にカットしてしまうという特性を持ち、開拓者たちを退けたという。
 言い換えれば『人間以外の存在からは普通にダメージを受ける』ということであろうということで、今回の参加者たちは朋友を連れての参戦となっている。
 そして、件のアヤカシが潜むのは―――
「人間に対して抵抗性をもったアヤカシ、ですかぁ……朋友活躍ですね」
「『有り得ないなんてことは有り得ない』という。このようなアヤカシが出る事もあるのだよ」
 密度の薄い、林と森の中間のような場所。その木々に身を隠しながら、礼野 真夢紀(ia1144)やからす(ia6525)たちは目標となるアヤカシを目視する。
 話に聞いていたとおり大きい。黒い体色の、がっしりとした体格のゴリラである。
 何をするでもなく、うろうろと林をうろついているようだ。
「本当、次から次に変わった奴が出てくるよなぁ……」
「人間に耐性を持つアヤカシ……ですか」
「あると様との初めての対アヤカシ戦……」
 ふっと遠い目をする守紗 刄久郎(ia9521)。まぁ最近は人工のアヤカシにも妙なものが多いので気持ちは分かる。というか、亜理紗たちが担当している依頼は特に顕著な気がするのだがきっと気のせいだろう。
 一方、開拓者としての経歴はあるがアヤカシと戦うのは初めてという愛染 有人(ib8593)。思ったより緊張していないようで、朋友の羽妖精、颯と手はずを確認しあっていた。
 この四人が誘導班ということで、森からアヤカシを誘き出し、開けた場所にいる仲間と合流して撃破……というのが作戦の流れである。
 密度が薄いとはいえ、大型の朋友が暴れるには手狭には違いない。更に言うならゴリラの姿を取るアヤカシにとっては森のほうが得意フィールドであろう。そういう意味でも釣りだしは大きな意味がある。
「ゴリラの好物を使って……って案もありますけど、ケモノならともかく、アヤカシでそれは難しいと思いますの」
「だな。ここはやっぱり俺の出番か」
 礼野の視線を受け、守紗が頷く。
 できるだけ離れろと他の三人に指示を出し、守紗はおもむろに木の陰から姿を現した。
 大きく息を吸い込み、咆哮を使用する!
「こっちだ、ゴリラ野郎! うほ、うほほ〜っと、こっちこ〜い」
 小馬鹿にしたような守紗の言葉に対し、アヤカシは……
「……ウホ?」
 全く動じていないようだった。
「なんでだよ! どうしてくれるんだよこの空気!」
「ふむ。探知する必要もなく見つけてしまったから試せなかったが、どうやら抵抗力があるのはダメージだけではないようだね」
「痛々しい……じゃなくて、憎々しいですね」
「むしろツッコんでくれよ! 変に温情かけられると余計惨めだよ!」
 からすや礼野のリアクションにわりと涙目な守紗であった。
 しかし、四人は半ば忘れている。ゴリラのように見えるが、相手はアヤカシである。
 アヤカシといえば、人間の負の感情を糧とする存在。勿論、それを手っ取り早く得るためにどんな形状をしていようが『肉食』なのだ。
「ウッホウッホ!」
 ドンドンドンと自らの胸板を叩き、胸ドラムを奏でるアヤカシ。その目はありありと『餌だ! 喰うぞ!』と心情を物語っていた。
「作戦通りにいきますよっ!」
 愛染の言葉を受け、一斉に逆進する四人。相手が獣並の知能しか無かったのが楽といえば楽である。
 とはいえ誘き出し組が追いつかれては意味が無い。四人はここから全力で逃げる必要がある。
 そして、ゴリラは巨体故に一歩が大きく、距離がどんどん縮まっていく!
「っ! 小雪!」
 危険と判断した礼野が朋友の猫又、小雪に指示を出す。
 すると小雪は閃光という技を使い目眩ましを敢行する。突然閃いた光に目をやられ、アヤカシは悶え苦しむ。
 このまま逃げ切れれば楽なのだが、生憎アヤカシがこちらを見失っても困る。ある程度の距離を取り、相手の目が回復するのを待って再び誘導が始まる。
「やっぱり朋友の技は有効なんですね」
「じゃあ、無理しない程度に戦ってもらおうかな。当てにしてるんだから」
「颯におまかせですの!」
 礼野が呟いたのを知ってか知らずか、颯に逃げながらの戦いをお願いする愛染。
 獣程度の知能とはいえ、何度も目眩ましは通用しないだろう。木を巧みに利用し近づいてくる動きを鑑みるに、誰かしらが闘いながらのほうがいい。
 それなら守紗が適任だろうという話もあるが、彼にはこのあともやることがある上、ダメージが通りにくいと分かっている以上、上手い手とは言えないだろう。
 人間に比べれば驚くほどか弱く小型な羽妖精。しかし、その手にした剣はゴリラの肌を容易に傷つけた。
 ヒットアンドアウェイを繰り返し逃げ続ける颯たち。もう少しで森を抜けるであろうその時……!
「あッ……!!」
 バシン、と嫌な音が響き颯が地面に叩きつけられた。どうやらアヤカシの攻撃を避けきれず平手打ちをもらったらしい。
 朋友は開拓者よりも脆いことが多く、しかも颯は羽妖精。その小柄に十倍近い体躯の攻撃がヒットすればただでは済まない。
「颯っ! このぉっ!」
 愛染はすぐさまロングマスケットで反撃し、それ以上の相棒への接近を阻止しようとする。
 が、胸板に直撃したはずなのにアヤカシは全く動じない。まるで虫がぶつかったのかくらいにしか感じていない様に見える。
「やる気は十分のようだね。魂流、『手並みを拝見する』気張り給えよ?」
「ミュ」
 からすが手にした何かの容器をトントンと叩き、ミヅチの魂流を戦闘に参加させる。
 練水弾を発射し、アヤカシの顔面に叩きつける魂流。今までに無かった攻撃で敵が怯んだ隙に愛染が颯を救出、礼野に回復術をかけてもらい事なきを得た。
 ミヅチは陸上戦闘には向かない。いざというときのために待たせていたということか。
「そろそろ森を抜けるぞ! あとは任せる!」
 守紗は真っ先に森を抜け、待機させてある自分のアーマー……戦鬼に搭乗しに向かう。
 他の三人も朋友とともに森を抜け、平地へと到着。そこには待ちかねたとばかりに待ち伏せ班が待機していた。
 そこに細めの木を叩き折り、アヤカシが森から姿を現す。牙をむき出しよだれを垂らし、人間を喰いたい恐怖が喰いたいと主張してはばからない。
 逃げまわるのはここまで。後は全力を以って殲滅あるのみである―――

●新種の力
「誘い出されてきたか。よし、まずは全力で突っ込む!」
「さあ、いきますわよ、黒姫!」
 クラウス・サヴィオラ(ib0261)とマルカ・アルフォレスタ(ib4596)はアーマー乗りである。
 それぞれオブシディアン、黒姫という名であり、共に黒の塗装がされている奇遇っぷりだ。
 二体のアーマーが起動するのを確認したアヤカシは、思いもよらない跳躍力で二人に襲いかかる。森で動きが制限されていたのはこちらも同じということか!?
「さて、効くかどうか」
 それを離れたところから眺めていたのは風雅 哲心(ia0135)。彼はアーマー乗り二人の前にフロストマインを設置しておいたのである。
 アヤカシは目立つアーマーに向かうだろうと予想していたし、それは実際に当たっていた。ジャンプしたアヤカシがフロストマインの地雷原に着地した後の結果に興味は尽きない。
 ズゥン、と大きな着地音と振動。続いてフロストマインが一斉に発動し、アヤカシを猛吹雪が襲う。
 しかしゴリラはまるで涼風を受けているかのように平然としており、凍結するかと思われた脚部も全く影響がなくアーマーへの対決に向かった。
「ちっ、駄目か。……さて、いよいよ実戦だ。無理はするなよ」
「アヤカシはもともと何でもアリだと思っちゃいたが……いよいよ人間の天敵って感じだな。大アヤカシにでも喰われたら問題だ、ここできっちりカタつけとこう」
 本当に人間からのダメージやら効果やらに抵抗力を持っていると目の当たりにした酒々井 統真(ia0893)は、風雅とともに戦線に加わる。勿論、その相棒たちとともに。
「やれやれ、朋友の力が必要とはいえ、あんな大物相手に人妖であるボクを連れてくるなんて。とはいえ、妹分や弟分達でなくボクを頼ったのは、まあ及第点かな♪」
「にゅ、いよいよなのですねー。おーぶねに乗ったつもりでいるのですよ」
 酒々井の相棒、人妖の雪白。風雅の相棒、羽妖精の美水姫。メインとしての切った張ったは難しいだろうが、開拓者がダメージを与えにくいなら彼女らも重要な戦力である。
 十分の一とは言葉にすれば簡単だが、その実情はかなり厳しい。肉を切り裂き骨を断つはずの攻撃が、『あ、ちょっと引っ掛けた』くらいの傷になってしまうのでは戦闘にならない。
「人間だけじゃ物足りないんだろ? 今度は相棒を含めた俺達が相手してやる!」
 迫激突で相手の防御姿勢を崩そうとするクラウス。しかしアヤカシは向かってきたアーマーを二本の太い腕で受け止め、力比べ状態となる。
 パワーはアヤカシの方が上か。掴まれた左腕と左肩のパーツがミシミシと軋む。
「サヴィオラ様、お助けいたします!」
 動きが止まっているアヤカシに対し、森への退路を断つように回り込んでいたマルカが攻撃を加えようとする。が、アーマーからの攻撃は普通にダメージが通ると自覚しているのか、アヤカシはクラウスの乗るオブシディアンとの力比べを止め再び跳躍した。
 理性ではなく野性で行動している分、直感力などは侮れない。それは、次の瞬間にも証明された。
『GURUAAAAA!!!』
 獣のような叫びを上げ、守紗の乗る戦鬼がアヤカシにラリアットを仕掛ける。
 どうやらアーマーに乗ると性格が変わるタチらしい。だがより本物の獣に近しいアヤカシは、敵意を察知し真っ向から体当りして守紗をアーマーもろとも弾き飛ばした!
『BURUAAAAA!!!』
「どこのバーサーカーだあいつは!?」
「味方に攻撃してこないだけ理性的だな。猛ろ、冥竜の咆哮。食らい尽くせ―――ララド=メ・デリタ!」
「これでどうだー!」
 触れたものを灰と変える魔術も、抵抗力を持つこのアヤカシには大したダメージにならない。
 一方、羽妖精の美水姫が振るう獣剣はすぐさま血が出るくらい効くのだからわからないものである。
「そう……らッ!」
「せいやぁぁぁっ!」
 スピードを生かし、酒々井と雪白はコンビネーションで拳を突き立て攻め続ける。
 が、ここでも開拓者の酒々井より雪白の攻撃のほうが効いているという現象が起こる。鬼腕を使ってまでこの結果なので、酒々井にしてみればやはり納得がいかないだろう。
「力は強いみだいだが……それだけ、だ!」
「皆様、援護をお願い致します!」
「分かっているよ。魂流、行くぞ」
「ミュー」
「小雪、こちらも鎌鼬です!」
「みー」
 クラウスとマルカがアヤカシに向い、からすと礼野が朋友に指示を出し援護する。
 開拓者とその朋友の一番の強みはこれだ。連携、協力、それを可能にする絆。
 一対一では敵わなくとも、豪腕に勝るとも劣らない力が得られる!
「この隙、逃さん!」
「我がアルフォレスタ家の紋章の下に、その首、獲らせていただきますわ!」
 他の朋友に気を取られている隙を狙い、クラウスがアヤカシに一撃を加える。
 クラッシュブレードの重い一撃は黒い体毛に覆われた身体をいとも簡単に傷つけ、大きなダメージを与えた。
 続けてマルカが鉄鎖腕砲を発射し、鎖で絡め取ろうとする。
 しかしアヤカシも危機に対し敏感になっており、逆に鎖を掴んでマルカとクラウスのアーマーを衝突させる!
「後は手筈通りに、分かってる?」
「勿論ですの、あると様には指一本触れさせません!」
 これまでの流れで、愛染には自分の放つ銃弾が豆粒てくらいにしか効いていないのは分かっている。
 空砲撃の転倒効果も試してみたが結果は失敗。だからといって相棒の颯が頑張っている時に突立っている道理はない。
 更に言うなら、愛染も颯も本命ではない……!
『AUOOOOOOッ!』
 絶叫しながら突っ込んでくるバーサークモードの守紗。待ってましたとばかりに颯が退き、その直後迫激突の突進を喰らったアヤカシがもんどり打って吹き飛んだ。
「やるじゃないか! 一気に畳み掛けろ!」
 酒々井が守紗に声をかけるが、返事がない。見ると守紗が乗る戦鬼が細かく震えていた。
「おい、どうした? 何か不具合か?」
『…………WRYYYYYッ!』
「面倒臭ぇな!? 人間辞めるつもりかおい!」
「放っておけばいい。味方を巻き込まないなら好きに暴れさせても問題ない」
 風雅はそう言うが、相棒が被害を受けないか気が気でない酒々井であった。
「逃がしません! サポートをしていただいた皆様のためにも!」
「この一撃に全てをかける!」
 不利と見たのか、逃走を試みるアヤカシ。しかし最初の段階でアーマー三体に囲まれている上、隙間を美水姫、魂流、小雪、颯、雪白たち各朋友が埋めている。今更抜け出すのは困難である。
「おっと、そうは行かんよ。考えが甘いな」
 ならばとジャンプしようとしたところに魂流が練水弾を顔面に叩きつける。からすもよく相手の動作を観察しており、兆候を見逃さない。
 それで勝負は決した。怯んでいるところにアーマー三体の攻撃が次々と決まり、肉を切り裂き骨を断つ。
 人に抵抗力を持つ特殊なアヤカシも、異種族と力を合わせた開拓者の前に敗れ去ったのである―――

●絆
「はい小雪、ご褒美。柔らかいの探したんですよ。……え、これもおいしいけど卵の方が良い? うん、帰ったら作ってあげますね」
「はい、報酬」
『ミュー♪』
「やれやれ、相棒がいなかったらどうなってたことやら。ともかく、帰ったらコイツを綺麗にしてやらないと。これからも一緒だからな」
 無事に撃破を終えた一行は、回復と休憩を兼ねて朋友たちとくつろいでいた。
 活躍を称え、イカ焼きやら酒やらご褒美をあげる者もいれば、自らが乗るアーマーの汚れを洗い流してやろうと計画する者もいる。
 更には……
「…………」
「騎士の礼……ですか? アヤカシ相手なのに」
「相手がなんであれ、その強さには敬意を表するべきですから」
 剣を掲げ祈ってみせたマルカを見て、愛染は少し考えさせられる。
 強さとは何か。相手が虐殺を繰り返すだけのアヤカシという存在であれ、戦いを終え雌雄を決したのであればそこでノーサイドとするべきなのだろうか?
 まぁ、あのゴリラもどきも好きでアヤカシとして生まれたわけではあるまい。本物のゴリラであったならもっとのんびりと静かに暮らせたはず。そういう意味では哀れではある。
「大丈夫ですの。あると様には颯がいますの」
「うん……そうだね。心配してくれてありがとう」
 穏やかな時間を過ごす者が多い中、一人苦しむ者もいる。
「げほげほ。の、喉が……」
「そりゃあれだけ叫んでりゃな……。ほれ、水だ……って雪白!」
「ふふん、活躍したボクに振る舞ってくれてもいいんじゃないかな?」
「まったく……。へいへい、今日は本当に助かりました。感謝してるって」
 咳き込む守紗に水分を提供しようと竹筒を差し出した酒々井だったが、彼の朋友である雪白が横からそれをかっさらい飲み干してしまう。
 しかたのない奴だと思いつつも、酒々井は笑顔になってしまうのだった。
「俺の水〜……」
「みずきにおまかせなのですよ! よっ……はっ……お、おまたせ、なのですよー!」
「げほっ、あ、ありがとう」
「うむ、良い心配りだ。頭の上に乗ることを許可しよう」
「わーい! うにゅ、やっぱりここが一番落ち着くのですよ〜♪」
 身体に似合わぬ人間用の竹筒を必死になって守紗に届けた美水姫。それを生暖かく見守っていた風雅は、クールに頭の上に招待する。
 朋友と仲睦まじい様子の面々を見てから、守紗は自分のアーマーを見上げる。
「……俺も可愛い系の朋友と契約しちゃおうかしらん」
 戦鬼に不満があるわけではないが、アーマーとコミュニケーションは流石に無理だ。
 これは春風が吹く石鏡の片隅であった、開拓者たちと朋友たちの物語の一つ―――