行き過ぎLOVE?
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/19 20:36



■オープニング本文

 男と女がある限り、世に恋路の絶えたためしは無し。
 とはいえ、それは千差万別の万華鏡。どれ一つとして同じものは存在しないことだろう。
 だが、それが必ずしも幸せなものとは限らない。最初は幸せでも‥‥というパターンもままあるのだ。
「ぽけ〜‥‥」
 神楽の都に存在する開拓者ギルド。
 天儀のあちこちから依頼が舞い込み、言うまでもないが非常に忙しい。
 その中にあって、新人職員の十七夜 亜理紗は、たまにこうやって中空をみつめてぼけっとしていることがある。
 ちょっと時間が空いた時にこうなることが多いのだが、そういう時は決まって先輩職員のチョップが飛ぶ。
「とうっ!」
「あいたっ!? あ‥‥す、すいません、またぼーっとしてました」
「見れば分かるわよ。また例の人の事考えてたの?」
「えへへぇ。だってだって、『結婚しよう』って言ってくれたんですよ? 女の子としてはもうドキドキです♪」
「あたしだったらろくろく知らない女の子に『結婚しよう』なんて言う人はごめん被りたいけどねぇ‥‥」
「夢がないですよ先輩! 童話だって基本的にろくろく知らない状態から恋人になってるらしいじゃないですか!」
「童話だからね。現実は甘くないわよ、オンナノコ」
「うぅっ。大して年齢違わないのに、先輩は冷めすぎです‥‥」
「若い内から現実を見据えておくのも大事なの!」
 亜理紗を指導している先輩職員、西沢 一葉(にしざわ かずは)は、まだ二十代になりたてながらしっかり者と評判の女性職員である。まぁ、記憶喪失である亜理紗が浮世離れしすぎているのも確かだが。
 まだまだ手のかかる亜理紗に溜息を吐きながら、一葉は一枚の依頼書を差し出した。
「はい、これ。暇なようだからこの事件を担当して」
「りょーかいでーす。えっと‥‥『僕の彼女をなんとかしてください』ってなんですかこれ」
「きちんと最後まで読みなさい。わりとシャレにならないわよ」
「‥‥‥‥‥‥え、これ現実の問題なんですか? 妄想じゃなく?」
「妄想でギルドに依頼なんて出さないでしょ。依頼料だってバカにならないんだから」
 依頼書に書いてあったことを要約すると、付き合っている彼女が最近怖くなってしまっているということだ。
 順調な交際を続けていたカップルだったが、だんだん彼女の愛情と行為が妙な方向にエスカレートしていくので何とかして欲しいとのことである。
 男の方に非はない。浮気もしていなければ彼女に冷たく当たったこともないらしい。
 しかし女の方は必要以上に男と他の女の接点を断ちたがり、自分以外の女とは話さないでとまで言う始末。
 刃物などを持ち出したりしないのが逆に厄介で、身の危険を口実に別れるわけにもいかないのだ。
「まぁ、気持ちは分からなくもないですけど‥‥行き過ぎですよねぇ」
「まぁね。ここも読んでみて? お吸い物に自分の血を数滴混ぜて出してくるなんて、怖すぎ」
「うわっ、怖っ! こ、ここは酸いも甘いも経験したであろう開拓者さんたちに何とかしていただきましょう!」
 当事者にしてみれば非常に厄介な問題である。今回の場合、悪い人ではないのが余計にたちが悪い。
 ちょっと病んでいる感じの彼女を矯正し、普通のカップルに戻してあげていただきたい―――


■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
ロイエンブラウ・M(ia9063
22歳・女・志
おさと(ia9473
10歳・女・泰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
ヴェニー・ブリッド(ib0077
25歳・女・魔
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎


■リプレイ本文

●変わらぬ想い
「彼女の方は、仲間がうまく説得してくれてる筈だよ。改めて、きちんと彼女と話をしてみないかい?」
「は、はい、それは勿論。少し行き過ぎなところもありますけど、好きになった人ですから」
 3月某日、晴れ。
 件の村へと到着した開拓者たちは、依頼人の男に会う班と、その彼女に会う班とに分かれた。
 これは女性側を刺激しないようにするための配慮であり、基本だがとても大事なことである。
 弖志峰 直羽(ia1884)たちは依頼人に会いに来たわけだが、こういうと失礼だがあまりに普通の男性なので拍子抜けしたくらいである。
 だが、彼の彼女に対する気持ちは本物だ。今の彼女の行動に戸惑いはあるが、きちんと彼女のことを好きでどうすればいいか真剣に悩んでいるのが会話から感じ取れる。
「解答、君の中で答えはもう出ているのではないか? 何を戸惑うことがある」
「いや、その‥‥人と人の関係って、一言で取り返しがつかなくなることってあるじゃないですか。ですから、今一歩勇気が持てないと言うか何と言うか‥‥」
 一通り話を聞いたハイネル(ia9965)は、自分たちに助けを求めないまでも男が思うままに行動すればいいのではないかと考えた。
 が、どうせ解決するにしても彼女の行き過ぎを更に加速させるリスクはなるべく少ない方がいい。それに、流石の彼氏の方も微妙に自信が揺らいでいるのかも知れない。
 話を聞けば聞くほど、男に非はない。むしろよく受け止め状況が悪くならないように務めていると褒めてやりたいくらいだ。
 彼は商店で働いているのだが、彼女は仕事中も彼を見ていられる位置におり、女性客が来たときは自分がしゃしゃり出て会話をさせないようにするという。
 無論、彼女はこの商店の従業員ではない。男が女性客と会話しなくても済むように、見よう見まねとはいえ接客をマスターしたのである。
 商店の主人は、いっそうちで働けばいいのにと彼女に言ったことがあるそうだが、別の仕事を任されて彼と常時一緒にいられなくなるだろうから嫌だと突っぱねたようだ。
「しかし‥‥羨ましい限りかな。騎士としては、剣を預けたいと思わせる人と巡り合いたいものですが、こればかりは縁ですからね」
「でも、その縁が今、こじれようとしているんです。好きでいてくれるのはとても嬉しいんですけど、どうしてもっと普通でいられないんでしょうか。ささやかな幸せでいいのに‥‥」
 雪切・透夜(ib0135)が言うように、これは運命と言うか縁なのだろう。
 好き合った者同士であり、今でも好きなはずの二人。
 どこで歯車が狂ってしまったのか、話を聞く限りでは分からない。
 だからこそ昔に戻りたいのだろうか。縁を、運命を、思い出を無駄にしたくないから。
「了解、では私たちは女性のほうに向かおう。後の手配は頼むぞ、弖志峰」
 ハイネルと雪切は移動し、問題の女性のほうに向かった班と合流しに向かう。
 やはり解決するには彼女の方にアプローチするしかない。そういう結論に達したのだ。
 残された依頼人と弖志峰。沈黙が続いていた中、やがて男がぽつりと言った。
「‥‥僕‥‥間違ってませんよね。今の彼女を受け入れきれないから昔に戻りたいなんて、傲慢じゃないですよね? 今の彼女を受け入れなきゃ駄目じゃ‥‥ありませんよね‥‥?」
 うつむき、弱気な台詞を吐く依頼人に、弖志峰は明るく返した。
 心を込めて、背中を押すように。
「ずっと色褪せない想いや、彼女の表現は極端かもしれないけど、同じくらい強い気持ちで愛してること、やっぱ口に出して好きだって言ってもらえるの、嬉しいと思うんだよね。信じてても、わかってても、無性に確かめたくて余裕無くす時だってあるさ。だから君からも伝えてあげて欲しいんだ。恋愛は二人でしていくものなんだよ、ってね」
 すれ違えど、お互いが好き合っていることに変わりはないのだ。
 すれ違っているなら、交わるように方向を変えればいい。それをできるのが、本当の恋人なのだろうから―――

●好きだからこそ
「ねぇ、彼氏って、どんな人なの?」
「勿論、世界で一番素敵な人よ。他の人には普通の人でも、私にはかけがえのない大事な人なの」
「いいなぁ、私もかっこいい彼氏がほしいなぁ」
「うーん、お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないかしら?」
「私、子供じゃないもん! 開拓者だもん!」
 女性のほうに向かった面々は、全員女性である。
 これは彼氏の方に女性陣が接触しているのを見られたらまずいのではとの配慮からだが、これは大当たりと言ってよいだろう。
 おさと(ia9473)を筆頭に恋バナを展開し、その中から問題点を探ろうとしていたのだが、一見すると普通に見えて言葉の端々におかしな部分が混じっているのが気に掛かる。
「幸せそうねぇ。二人は付き合い長いんでしょ? やっぱり思い出の場所とか品とかあるのかしら」
「そりゃあるわよ。やっぱり、丘の上の一本杉は大事な場所ね。なんて言っても、告白されて、その後‥‥うふふ、お子様もいるからこの先はナイショ」
「お子様じゃないってばー!」
「思い出の品となると、やっぱりこの簪かなぁ。彼が初めて贈ってくれたものなの」
「いいわねぇ。もっと綺麗になってほしいって言う彼の気持ちが伝わってくるわ。妬けちゃうわね」
「‥‥彼は私の全てよ。あげないからね?」
「大丈夫、私にも全てと言える弟がいるから。その他には今のところ興味はないわ」
「よかった、あなたも情熱の分かる人なのね! そうよね、全てと言えるくらい愛してないと駄目よね! うふふ、ちょっと嬉しい」
 井伊 沙貴恵(ia8425)は初心に返れるような情報を聞きたかっただけなのだが、彼女は何気ない一言でふっと不快な表情に切り替わった。
 幸いにも井伊の誤魔化しは淀みも間もない本心だったので、変な勘ぐりはされなかったようだ。もっとも、ちょっとした誤解は生まれたようだが。
「それじゃあこっちのインタビュゥもお願いね。ジルベリアでは恋占いや恋のおまじないが流行ってるんだけれども、あなたもそういうのやってたりするのかしら?」
「うーん‥‥おまじないっていうか、願掛けみたいなのはやってるけれど‥‥」
「ふんふん、差し障りがなかったら教えて? 天儀にはどんなおまじないがあるのかしら」
「彼の料理に自分の血を混ぜれば、絆がより深まるんじゃないかなと思って毎日やってるわ」
「ま、毎日?」
「えぇ、毎日。他にも、彼が一日他の女と会話しなかったら次の日はいいことがあるとか、彼の首筋に唇で痕を付けて、それを一週間消さないようにすれば一ヶ月は安心だとか」
「何が安心か分からないけど‥‥それって全部あなたの思いつき?」
「ええ。願掛けだもの」
「駄目だこの娘‥‥早く何とかしないと‥‥」
「何か?」
「いいえー、なんでも」
 ヴェニー・ブリッド(ib0077)は、彼女が変な呪術や恋の魔法に嵌っているのではないかと考えたが、どうも天然で病んでいるらしい。
 気恥しそうな笑顔で語ることでは断じてない。開拓者の心中は一緒だろう。
「でも、どうしてあなたたちは私にこんなことを聞くの? 開拓者が何人も揃って」
 今さらながらの質問に、一行はギクリとする。
 まさか開拓者が何人も揃って恋愛話を聞いて回っているわけでもあるまいし、おさとの言葉で自分たちが開拓者でないと言い張るのも不可能になっている。
 少しばかりの沈黙をやぶり、ロイエンブラウ・M(ia9063)が恭しく呟いた。
「君の恋人から、『恋人が何か悩んでいるようなので力になってやって欲しい』と頼まれてね。それに、美しい娘が困っているようならその力になりたいと思うのは自然な事だ。私が女性だという点も、その気持ちの前では些細な事‥‥」
「まぁ、彼がそんなことを!? 嬉しい‥‥そんなに私のことを思ってくれてるのね!」
「スベッてるよ、ロッちゃん」
「ロッちゃん? フロイライン(お嬢さん)、妙なあだ名を付けるのは止めていただきたい」
「えー、いいじゃん、そのほうが可愛いよぉ♪」
 後半の台詞にまるで聞く耳を持っていない彼女さん。
 それを見ていたおさとの言葉に思わず振り返るが、あくまで紳士的に対応するロイエンブラウ。
 女性に紳士的と言うのも失礼だろうが、静かにしてしっかりした存在感は、そこら辺の男よりよほど男らしく頼りになりそうである。
 まぁ、彼女のような女性は往々にして年下の女の子にお姉さまと慕われることが多いのだが。
「‥‥こほん、話が逸れたな。彼に離れて欲しくない、という気持ちは分からなくもないが、心配しすぎだろう。彼はそんな簡単に他の女に心変わりしてしまう程軽い男ではないのだろう?」
「勿論よ! 彼はずーっとずーっと、私だけを好きでいてくれるの。彼が死んだら私も死ぬわ」
「彼を信じているのなら、彼をもっと自由にさせてやっても良いんじゃないだろうか」
「ダメよ。言ったでしょ、彼は世界一素敵なの。泥棒猫がよりついたら困るもの。‥‥うふふ‥‥そんなことになったら私、冷静でいる自信ないわ‥‥」
「ふぅ‥‥。では聞くが、自分の行動について彼がどう思っているのかちゃんと聞き、話し合ったことはあるか?」
「え‥‥な、無いけれど、そんなこと聞かなくても‥‥」
『否定、それは間違いだ』
 ロイエンブラウの言葉に少したじろいだ彼女さん。
 反論しようとしたその時、ハイネルと雪切が合流する。
 不意に現れた男二人に警戒心を募らせた彼女さんだが、おさとたちの説明で納得したようだ。
「男と言うのはね、言われないと分からない生物なんですよ。まぁ言っても分からないのもいますが」
「面倒、そして意外とロマンチストが多く、言い出せない者も多い。待受、言ってきて欲しいと甘えている軟弱者が多いということを知った方がいい」
「で、でも、彼の気持ちは私が一番―――」
「えー、ダメだよ。彼氏は自分の魅力でつなぎ留めないと。そうしないと、自分も綺麗になろうとしないし、将来捨てられちゃうって聞いたよ!」
「インタビュゥがなんであるか知ってる? 憶測でその人の気持ちを図るんじゃなく、その人の口から直接考えを聞くためにあるのよ。人の気持は、分かっているようでいて分からないものだから」
「ここだけの話、私は全てと言える存在との酸いも甘いも経験してるのよね。だから、経験者としてのアドバイス。きちんと話し合いはした方がいいわ。自分の考えだけで相手の気持を断言しちゃ駄目。これからもいい関係でいたいなら、ね」
 分かっていた。開拓者たちに言われたことは、彼女も理解はしていたのだ。
 それでもどうしようもなかったのだろう。幸せすぎて恐い、かと言って何もしなくてもこのまま幸せが続くのか分からなくて恐い。
 だから、妙な願掛けでそれを誤魔化していた‥‥。
「でも‥‥でも私、恐くて‥‥!」
「大丈夫ですよ。変に想い詰めなくても、ちゃんと貴方の事を想ってくれてます。優しい人ですからね。ですから、無理はなさらず。自然のままでいいんですよ」
「回帰、始まりの場所に戻れ。そこに答えがある」
 雪切とハイネルの言葉に、彼女は涙をぬぐって走り出した。
 思い出の地‥‥丘の上の一本杉へと。
 その背中を見送っていた雪切の脳裏に何かがちらつく。
 自分でも理解できない漠然とした感情を誤魔化すように、彼は誰にも聞こえないように呟いた。
「‥‥こういう心の病は、その人自体にもよくないですしね。焼いて焦がして、どうしようなくとも縋る様に求めて‥‥そんな人が、遠いどこかにいた気もしますよ‥‥」
 俯きがちな顔。たなびく髪。それらが、雪切の心に妙に引っかかったのだ。
 悲劇なんて無いに越したことはないからだろう。そう結論付けて、雪切は今はそれ以上考えないことにする。
 今は祈ろう。想う故に病んだ彼女に、救いが訪れることを―――

●想いと言葉と行動と
「‥‥とまぁ、そんなところだ。お前も知っての通り、彼女には両親がいない。そして気軽に話せる友人もいない。だから溜め込むことが多いし、お前にも言えなかったんだろう」
「なるほどね。しっかし、調べてくれたのはいいんだけどさ‥‥」
「何か?」
「何かじゃないでしょ! なんで真昼間から飲んだくれてんのさ!?」
 丘の上の一本杉に向かう途中、弖志峰と依頼人は酒場で紅 舞華(ia9612)と合流した。
 彼女はどちらの班にも属さず二人の周辺の調査を行い、報告する役目を担っていたのである。
 しかし、聞き込み調査は酒場でというのはよくある話だが、まさかつまみだの旬の味覚だのの空いた皿が散乱しているとは思わなかった。
「私だって遊んでいたわけじゃない。近所や近くの酒場で彼女の家や評判や噂話を聞いて回っていたんだぞ。あー忙しい忙しい」
「ほーう。じゃあここでの調査内容は?」
「何か美味しいお酒はあるかなとか、酒の肴で美味しい物は何かとか、季節の味覚物があれば最高だな、とか」
「全部趣味じゃないっすかねぇ!?」
「‥‥ち、調査だこれも」
 紅は酒臭い息を吐きながら弖志峰にひらひら手をふり、依頼人に説教をするため向き直る。
「優しく包み込むだけが男の魅力だと思うなよ。男と女も結局は酒さ。酒を呑んで腹の中を語り合わなければ本当の理解は得られん」
「なんという暴論ッ! しかしその暴論‥‥心地よしッ!」
「弖志峰さんまで乗らないでくださいよ!?」
「あぁごめん、つい。舞華ちゃん、いいこと言ってるけど呑みたいだけでしょ?」
「半々というところだな。要は本音できちんと話あえということだ。根っからの思込みを覆すのは容易じゃない。後はお前の想い次第だろう」
「あはは‥‥弖志峰さんにも同じ事を言われましたよ。僕も、独りよがりだったってことですよね‥‥」
 苦笑いを浮かべる依頼人。皿に残っていた焼き鳥を一気に口に放り込んだ紅は、立ち上がって彼の背中をバンと叩いた。
「彼女との思い出の場所に行ってみな。私たちの仲間が上手くやってる頃さ」
「‥‥はい! ありがとうございました、みなさん!」
 駆け出していく依頼人。その背中を見送った後、紅と弖志峰は椅子に座り直した。
 男女の仲は難しい。分かってはいたはずだが、いざ直面すると苦笑いしか出てこなかった。
 だが、彼らはもう大丈夫なはずだ。依頼人たちの前途を祝福して呑むのも悪くはない。
 季節は三月。早春の町に、暖かい風が吹き抜けていったのであった―――