【AH】狼王の系譜
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/13 20:02



■オープニング本文

「はーい、こんにちは! 『京都』という長屋に住んでいます、十七夜亜理紗です♪ ‥‥‥‥‥‥く、苦しいですか?」
 勝手にボケて勝手に沈むギルド職員、十七夜亜理紗。
 今日も今日とて人手ごった返している神楽の都の開拓者ギルドの一角では、亜理紗を生暖かい目で見つめる者が多い。
 突如現れた記憶喪失の美少女という肩書きは、天儀を股にかける開拓者の中にもあっという間に広がったらしい。彼女を一目見にためにやって来る者も少なくないというが?
「気を取り直しまして‥‥今日ご紹介するのは、またしても突然変異のアヤカシ討伐依頼です。どうも前回のカニのアヤカシを討伐したという話が結構広まって、あちこちから『うちの近くにもこんなのがいるから討伐して!』という話が舞い込んでいるんです。開拓者さんのお力の賜物ですね♪」
 新種、亜種、希少種。アヤカシに常識は通用しないとは言え、最近妙に種類が多様化してきているらしい。
 空にもとんでもないアヤカシが居るのであれば、地上にもそのうちとんでもないのが現れるのだろうか?
「それで、今回の目標は『剣狼』です。私も怖い思い出があるアヤカシですが、勿論ただの剣狼じゃありません。一対の夫婦と思われる剣狼の亜種で、常に二匹で行動しています。しかも、片方が攻撃、片方が防御に特化していて、防御特化の方は刃のうち二本が盾のように変化しているとか」
 五行の国の山岳地帯に出没するというその剣狼たちは、山道をゆく旅人や商隊を襲い、被害を出しているという。
 一般的な剣狼よりも遥かに強力で、元々の剣狼が達者である回避に加えそれぞれ攻撃と防御が大幅に強化されている。
 抜群のコンビネーションで戦うため、こちらもしっかり作戦を立てないと厳しくなるだろう。
 ちなみに、攻撃特化が『剣雷牙』防御特化が『盾雷牙』と呼称されているらしい。
「カニのように硬かったり力自慢だったりはしないでしょうけど、今度は『速さ』が肝になると思います。みなさん、頑張ってくださいね!」
 よく見かける剣狼でも、亜種だか希少種だかとなると途端に手強くなるのがアヤカシだ。
 自らの力を示し、更に磨くためにも是非二匹の剣狼を撃破していただきたい。
「ど、どうですか先輩っ! 普通に紹介出来ましたっ!」
 いや、ここでそれ言っちゃ台無しじゃん。
 まだまだ緊張が解けない亜理紗を見て、開拓者たちは苦笑いを浮かべるのであった―――


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
周太郎(ia2935
23歳・男・陰
乃々華(ia3009
15歳・女・サ
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ
ベルンスト(ib0001
36歳・男・魔


■リプレイ本文

●剣と盾と
 五行の国の山岳地帯。そう言うと漠然としているが、今回開拓者が向かったのは『西部の』山岳地帯である。
 地図を広げてみれば、神楽の都にも近しい場所であることが一目瞭然。
 そんな場所に特殊なアヤカシが出没するとあっては放置しておけない。まかり間違って都の方まで迷い出てきては事だからだ。
 開拓者は付近の村からの期待と、神楽の都の安泰を背負い山へと踏み入った。
 木枯らし吹き荒れる冬の山。風の音以外は生物の鳴き声も聞こえない。
 いつ襲ってくるか分からない二匹の剣狼亜種を警戒しつつ、一行は山のあちこちを回って少しでも戦い易い場所を探していく。
「どういう場所で動くのが良いんだか‥‥こりゃ難しいもんだわ」
「間違ってもだだっ広い場所での交戦はしないようにしたいところだがな」
「例えば崖、谷がある様な場所。もしくは敵の機動力を削ぐような障害物、大木や大岩なんかがあると理想的なんだが、まぁ世の中ままならんことが多いもんさ」
 周太郎(ia2935)にしろ風雅 哲心(ia0135)にしろ、一行の中で共通の意識としてあるのは『アヤカシの行動を阻害出来そうな場所で戦いたい』ということである。
 具体例は巴 渓(ia1334)が挙げたが、獣型のアヤカシだけに山や森にも慣れていそうで怖い。
 沼地のような場所なら得意の回避を大きく鈍らせることができるかも知れないが、開拓者たちにとっても致命傷になりかねない条件だけにできれば避けたい。
「どこだろうと、最後には結局たたっ斬るのに違いはないんですけどねぇ」
「返り討ちに遭う可能性もあるんだよ。できる事なら確実な方を選びたいだろ?」
「その通りです。わざわざ亜種と特記されるほどのアヤカシ‥‥甘く見ては怪我をすると思います」
 にこやかに物騒な独り言を言う神無月 渚(ia3020)だったが、真理といえば真理だ。
 が、それが出来るか出来ないかは別問題。返り討ちに遭うのを避けたい北條 黯羽(ia0072)と玲璃(ia1114)は、軽く笑いながらも神無月に声を掛ける。
 これだけ生物の気配がない場所でこれだけの人数が動いていれば、向こうからやってきてもおかしくないような気がするが、今のところ気配はない。
 細い山道を発見し、ここならどうだろうと議論にもなったが、武器を構えて二人並んだらもうスペースがいっぱいとなってしまったので最終的に却下された。
 後衛の援護も難しく、敵が山の斜面を使って機動戦を仕掛けてきたらこちらが混乱するからという理由である。やはりどこも一長一短なのだ。
「攻めと受け、役割がはっきりしていると想像する楽しみは減りますね」
「何の話だ」
「そ、そんな恥ずかしいこと、私の口からはとても‥‥ぽっ」
「‥‥ツッコまんぞ。それにしても‥‥つがいの、アヤカシか‥‥。子をなす必要のある存在でもあるまいに。それを含めて変異体とでもいうことか」
「分かっていても冗談にはきちんとツッコミを入れるのが優しさというものですよ」
 緊張感のない乃々華(ia3009)の冗談を、ベルンスト(ib0001)は適当にあしらって空を見上げた。
 まるで正反対な雰囲気の二人だが、アヤカシが二匹揃って行動していることに着目しているのは同じだ。
 突如発生し、喰らうだけの存在。そこには成長も生殖も本来は必要ない。
 なのに剣雷牙、盾雷牙と呼ばれる今回の目標たちは、常につがいで行動しているという。
 巴も危惧しているが、最近アヤカシの進化と言うか変容が著しいような気がする。
 見たこともないようなアヤカシ、似て非なるアヤカシ、強大なアヤカシ。まるで人の進化と並行し、血で血を洗う戦いの連鎖を強制しているようにさえ思えてくる。
 そして、それを証明するかのように―――
「ちっ‥‥やっぱり上手くは行かないな」
「吉と出るか凶と出るかは未知数か。後は私たちの実力次第ってやつさ」
 風雅と北條の言葉を聞くまでもなく、一行はアヤカシの気配を敏感に感じ取っていた。
 木のまばらな林と言うか木立を進んでいた時、二つの影がこちらを伺っているのに気がついたのだ。
 迂闊に戻ろうとすれば背後から攻撃される。しかも近場にここ以上に相手の動きを阻害出来そうな場所はなかったため、選択肢はほぼない。
「はっ、上等! 不意打ちが無けりゃガチの殴り合いだろ? 場所も上々、後はぶっ壊すだけさ!」
「とにかく作戦通りに行くぞ。二手に別れる準備だ!」
「それでは舞いましょう。皆様を勝利へ導く神楽舞を―――」
 ふわりと舞う玲璃の白羽扇に導かれ‥‥開拓者たちは、剣と盾に挑み往く―――!

●斬刃乱舞
 一行は相手の姿を確認すると、予め決めておいた剣担当・盾担当にすぐさま分かれた。
 前情報通り、片方の剣狼は五本ある刃のうち左右二番目の刃が楕円形の盾のような形に変貌していたのですぐに判別できたのである。
 激しく唸り、今にも飛びかからんとする剣雷牙。それに比べると、盾雷牙はかなり冷静にも見えた。
「じゃあ遊んであげるねぇ。あ、悪いのは私じゃないよぉ? アナタの運の悪さだよぉ」
 神無月の咆哮に引き寄せられるように、剣雷牙は木々の間を疾駆する。
 まっすぐな助走がない分平野部で戦うよりは断然マシだが、それでも速い!
 すれ違いざまに攻撃を繰り出した神無月だったが、こちらの攻撃は当たらず向こうの刃だけが彼女の左手を掠めていった。
「あっははー、ざーんねぇん。防御力上げてもらってるもんねー♪ ‥‥もんねー?」
 掠めただけの上に玲璃の神楽舞で防御力が高まっているので全く問題ない。そう神無月は思っていた。
 しかしよくよく見てみると、左手からは普通に血が滴り落ちているではないか。
「あんにゃろーの刃ってのはそんなに鋭いのかい? ‥‥つーか、これってさぁ」
 巴の言わんとすることは、攻撃を受けた神無月が一番良く分かっていた。
 ぽりぽりと頬をかき、小首をかしげている
「防御が上昇していないのではないか? 舞の種類を間違えたとか言わんだろうな」
「そんなはずはありません。私はきちんと『抗』の舞いを‥‥」
「おいこら。それは術への抵抗力を上げる舞じゃあねぇのか?」
 沈黙。
 それはわずか一瞬のことであったが、剣担当の五人にはかなり長く感じる気まずい雰囲気であった。
 その硬直が解除されたのは、ツッコミを入れた巴に剣雷牙が迫ってきた直後のことである。
 事の真相は、玲璃の呆然とした表情を見れば明らかだった。
「ちっ、なら当てられないよう努力するしかないだろうさ!」
 いち早く我に返った北條は、素早く呪縛符を発動する。
 しかし、式たちが剣雷牙の脚に組みついても速度がさして落ちない。
 北條は剣狼と戦うのは初めてではないが、今まで見てきたどの個体よりも速いと感じる。
「何だこいつは‥‥!」
 ベルンストがフローズを放ち、脚に冷気を送り込んでもなお速い。
 どうやら脚がかじかんで攻撃の精細は欠いているようだが、速度そのものはあまり影響がないようだ。
 目標の横を駆け抜けて疾駆し、すれ違いざまに刃で斬る戦闘スタイルなだけに、同じ場所に数秒と留まってくれないのも痛いところだ。
「うふふ‥‥面白いねぇ。こんなに楽しい相手は久しぶりかも‥‥♪」
 自分の血を眺め、少し危ない目つきになって呟く神無月。
 彼女が『速』の神楽舞で援護を受けた弐連撃を使っても、剣雷牙は巧みに攻撃を躱していく。
 ここは奴らが本領を発揮する場所ではない。それでもこの速さとは。
「申し訳ありません、回復だけは滞りなく行わせていただきますので」
「そう願いたいねぇ。俺にいい考えがあるんだが、それにゃおまえさんの協力が要る。いいかい?」
「はい。名誉挽回のためにもなんなりと」
「よっしゃ! 北條、ベルンスト! 術であいつをこっちに誘導しな!」
「策があるようだが‥‥無茶はするなよ」
「ま、今しなくていつするんだって気はするけどね」
「そういうことぉ!」
 転反攻の構えを取る巴に向かい、術で追い立てられた剣雷牙が白刃を煌めかせて迫り来る―――

●堅弾鋼舞
 時は少し巻き戻り、離れることわずか数メートル。
 三人の開拓者が盾雷牙と対峙し、盾雷牙が剣雷牙の援護に入れないよう牽制する。
 こちらは神楽舞の援護が得られない上人数が少ないのが気に掛かる。
 戦いはほぼ同時に始まったが、盾雷牙は幾度も相方の方を気にしているのに対し、剣雷牙の方はまるで勝手に飛び回っている印象であった。
「まずは抑えるぞ。どれほどの硬さか、お手並み拝見といこうじゃないか」
 風雅は構えらしい構えを取らない無形の戦闘スタイル。
 片手で刀を持ち、自然体に近い体勢で無造作に歩み寄る。
 それをなめられていると感じたのか、盾雷牙は逆に突っ込んで爪を振り上げた。
「いいのか?」
 得物の長さ的に考えても風雅の攻撃のほうが先にヒットするだろう。
 脚を狙ったその一撃は、盾雷牙の回避力では避けられない。それを敏感に感じ取り、盾雷牙は空中で体を回転させ攻撃を『盾』で受け流した。
「器用なやつめ!」
 確かに盾部分はかなり硬い。そしてそれ以上に受け流しが上手い。
 どう受ければ最もダメージが少なくなるかを本能で知っているのだろう。
 剣雷牙のようにあっちゃこっちゃしないが、走り出せば厄介なのに違いはない。そこで‥‥
「オン・シラバッタ・ニリ・ウン・ソワカ!」
 後衛の周太郎が発動した呪縛符により盾雷牙の脚に式が組み付き、その動きを鈍くする。
 不愉快な生物を振りほどこうと盾雷牙がじたばたしているところに迫る影一つ!
「身体の一部であれば、どれだけ強固であってもダメージをゼロにはできません」
 冬でもビキニの乃々華が駆け込み、素手の拳で殴りかかる。
 しかしその拳は虚しく空を切り、豊かな胸が慣性の法則で大きく弾む。
 あの格好とあのスタイルで格闘戦をしてよく零れないなと感心してしまうくらいだ。
「あら?」
 ぶんっ。さっ。
 ぶんっ。さっ。
 ぶんっ、ささっ。
 朝飯前といったレベルで乃々華の攻撃を回避する盾雷牙。式に組み付かれていてなお、乃々華では攻撃を命中させることが出来ない。
 気まずい沈黙が敵味方問わず流れる中、乃々華はこほんと咳払いをしてこう言った。
「‥‥盾のようなとは言っても、それが身体の一部である以上、それは所詮『盾のように見える』と言うだけの物です」
「そういう事は一発でも当ててから言え!」
「キリッとして言うな! オン・マリシエイ・ソワカ!」
 乃々華の背後で刃で攻撃すべく身を屈めていた盾雷牙に対し、周太郎は斬撃符でカットする。
 またしても盾部分で防がれたが、実際問題乃々華の言うとおりダメージはゼロにはならないはずなのだ。
 それでも元気に動きまわると言うことは、やはり剣雷牙と違いタフさも相当なものなのだろう。
「こいつ、意外とノリがいいみたいだから嫌いじゃないんだけどな。さっきのボケも待っててくれたみたいだしさ」
「同感だが所詮はアヤカシだ。殺るか殺られるかの関係でしかいられん」
「‥‥わかってるよ。じゃ、片想いの彼女‥‥いや、彼か? どっちでもいいけど教えてやろうぜ。ありがたい教えをってやつを」
 風雅、周太郎、乃々華は一度集合すると、木の陰に隠れながら盾雷牙の動きを牽制する。
 盾雷牙は剣雷牙の方をちらちら気にしつつ、周太郎に狙いを定め突撃した。
「冥土の土産に教えてやる。戦いってのは、守るのだけが上手くたって勝てやしねぇんだッ! オン・スンバ・ニスンバ・ウンバサラ・ウンハッタ!」
 木を避けながら近づいてくる盾雷牙に対し、周太郎は霊魂砲を撃ち込む。
 真正面からの攻撃など直撃するわけがない。盾雷牙はまたしても空中で体勢を変え、盾を―――
「そして攻撃は一度だけとは限らない。星竜の牙、その身に刻め!」
 スキルを組み合わせた我流奥義、星竜光牙斬を放つ風雅。
 やつが盾を使うことは先刻ご承知だ。そして空中で何度も姿勢を変えられるわけがない。
 周太郎の術よりほんの少しだけ遅れて迫り来る非物理攻撃に‥‥無敵の盾は、構えることすら許されずに撃破されたのだった―――

●決着
「おぉぉぉぉっ!」
 転反攻の構えを取っていた巴と、鋭い刃をぎらつかせた剣雷牙が交錯する。
 しかしまともに喰らった巴のダメージは大きく、元々防御に秀でていないこともあって、もう少しで胴体の三分の二をぶった切られるところまで刃が食い込んでいた。
 想像したくはないが、内蔵などはさぞ酷い事になっているだろう。
「ごふっ‥‥! つ、捕まえ、たぜ‥‥! 玲璃‥‥!」
「分かっています。『抗』でなければもう少しマシでしたでしょうに‥‥!」
 巴は気力を振り絞って痛みに耐え、食い込んだ刃を掴んで引っこ抜く。
 続いて玲璃が神風恩寵を連続使用して傷を癒し‥‥その間にも準備は整う。
「撃てぇぇぇっ!」
「きちんと避けなよ。巻き添えを喰らったなんて笑い話にもならないんだからさ!」
「信じるさ。あの覚悟をな‥‥!」
 北條の魂喰、ベルンストのファイヤーボールが放たれ、刃ごと剣雷牙を掴んでいる巴に向かっていく。
 このままでは巴も巻き込まれるが‥‥!?
「緊急回避ってのはこういうのもありさ! 最終攻撃雷動‥‥トトト巴サァン!」
 巴は泰練気法弐を発動し、迫り来る二つの術に向かって剣雷牙を殴り飛ばして衝突させた。
 まだ完全に肉がくっついていないのに無茶をしたので傷口が開いてしまい、玲璃が救護に走る。
 攻撃を喰らえば脆い剣雷牙。それが非物理攻撃なら尚更だ。
 なんとか立ち上がるが、すでに脚が笑っている。戦闘どころか逃走もできはしない。
「‥‥結局お前は一方的に盾に守ってもらっていただけか。感謝も無く、好き放題に殺して回っていただけか。これでは盾の方が報われんな」
 ベルンストは剣雷牙の眼前に立つと、眉をひそめて不愉快な表情を隠さない。
 そして、ふっと手をかざし‥‥
「これは盾雷牙への手向けだ。その業、盾の渇きを癒すことで報いろ」
 ベルンストの手に練力が集中し、火炎弾が放たれようとした‥‥その時。
 ざぐんっ!
 肉と骨を貫く嫌な音が響き、剣雷牙の頭蓋に刀が突き立てられる。
 何事かと見やると、神無月が歪んだ笑顔で胴体の方をも串刺しにしているところだった。
 一行は事態が理解出来ず、ただ見ていることしか出来ない。
「ざーんねぇん、いい遊び相手だったんだけどなぁ。でも壊れちゃったら捨てるしかないよねぇ。知ってるぅ? アヤカシって、虫の息なら消えないの。だから生かさず殺さずで刺したり斬ったりするとまだ血が出るんだよ。肉の感触があるんだよ。でも死ぬとすぅーっと消えちゃうの。最後まで面白い玩具だよねぇ。うふふ‥‥あはは‥‥あはははははははははははッ!」
 狼王の系譜が途絶えた山に、少女の笑いが木霊する。
 からくも掴んだ勝利は、哀しい生まれの少女には快楽の一端にしかならなかったようである―――