【三魔星】万華鏡
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/20 17:20



■オープニング本文

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 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 石鏡の発掘現場から現れた三体のアヤカシ。死鬼と名付けられた鬼の髑髏たちは、驚異的な力を以って現代を闊歩していた。
 二度三度と矛を交える開拓者と死鬼たち。しかし、その度に再生能力に頭を悩ませられることとなった。
 そんな時、開拓者の一人があることに気づいた。戦闘中に確認された『名前の変化』によって―――
「つまりですね、死鬼は倒す度に別の死鬼の名前を変化させるんです。しかもそれは、季節ごとの大三角という法則を以て」
 開拓者ギルド職員、十七夜 亜理紗。その開拓者の理論を聞かされ、おおまかにまとめてみたらしい。
 死鬼たちの名前が判明した時点で、星の名を冠しているということはすでに周知の事実となっていたが、それは法則性にまではたどり着けない段階であった。
 しかし前回の交戦で、剣使いの死鬼の名前が発見された資料と異なることが判明、さらに戦闘中にもう一度変化した。それは斧持ちの死鬼が撃破された事による変化と見ていいだろうとの結論を得ている。
「なるほど‥‥斧持ちが二回倒されたことで、冬の大三角の星、春の大三角の星と変わったって言うことね。でも、杖の方は変化してないわね?」
「多分、剣を倒せば変わるのではないかと。で、杖を倒せば斧の名前が変わる。こういう予測が出ています」
「なるほどね‥‥って、秋の大三角なんてあったかしら。秋の四角形とかなら聞いたことがあるんだけど‥‥」
「まぁ勝手に大三角に見立てたのかも知れませんし。重要なのは、どうしてこういう現象が起きるのか。名前の変更の意味はなんなのかです」
「式の専門家としてのご意見は?」
「多分、大三角を揃えることで何かが起きるのでは、と。それぞれ絶えず信号を出しあっていて、誰かが倒されたときにその信号を頼りに瘴気を集中させ復活するのであれば、信号が三体全く同じ場合、ある意味凪の状態になって復活できないのではないかと思います」
「‥‥え、つまり‥‥今スピカ、アルフェラッツ、デネボラでしょ? これを春なり夏なりの大三角状態まで死鬼を倒して揃えろって言うの?」
「そういうことになりますね。この場合、杖を二回倒せば春の大三角が揃いますが」
「そんな簡単に言うけど、難しいでしょ! あいつら、危ないと感じたら仲間を倒してでも名前変更してくるわよ!?」
「他に方法がありませんもん。しかも、揃えても一体倒すだけでは、時間はかかるでしょうがきっと復活します。揃えて、三体を一定時間内に全滅させる必要があるかと」
「どんだけよ‥‥」
 頭を抱える一葉。無理もない話である。一体一体が強力な死鬼を何度も倒して名前を揃え、そこから更に三体を全滅させろというのだから。無限の復活を止められるであろう可能性が見えてきたのは幸いではあるが‥‥。
 敵の自傷行為や同士討ちを警戒しつつの戦闘。戦いは更に激化しそうである―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
守紗 刄久郎(ia9521
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●慣れと奇策と執念と
 延々と復活を続ける式たる死鬼。開拓者の中にも嫌気が差している者は多いだろう。
 しかし、これまでの戦いは決して無駄ではない。難易度は高いが、復活させずに撃破する可能性が示唆された。
 名を季節の大三角に揃え、一定時間内に全て撃破する。死鬼の戦闘力を考えると非常に頭が痛く、しかも同士討ちで復活=回復させることもあるのがいやらしい。
「無限復活が不完全だから失敗作とされたのかねぇ‥‥? それにしては今のままでも十分な戦力になり得ると思うけど、例の研究者は完ぺき主義者だったのかなぁ」
 だが、未だに分からないこともある。その筆頭が井伊 貴政(ia0213)が苦笑い混じりに呟いたことだ。
 戦闘用として作られたであろう三魔星は、現状で充分脅威である。しかし製作者にしてみれば失敗作であったらしく、封印されていたという現実。
 何はともあれ、野放しに出来る代物ではない。光明も見えてきた所で、確実に撃破したいものである。
 踏み入った森。あいも変わらず死鬼たちはここをうろついており、その行動範囲の狭さを伺わせた。
 今回の作戦は、少なくとも二回杖を倒し、名前を揃えたい。そして、ダメージが大きい剣の撃破を『阻止』しなければならない。
 さもないと杖と斧をもう一度ずつ倒し、夏の大三角に名前を揃え更に三体を撃破するという、都合五体分の撃破が必要になってしまう。それだけは断じて避けたい。
 遠目から見ても剣と杖のダメージは深刻だ。特に杖は今にも倒れそうなくらいふらふらしているのが見て取れた。
「‥‥妙ですね。あれほどのダメージを負っているのであれば、さっさと仲間内で攻撃して復活させたほうがいいと思うのですが」
「もしかして、戦闘中でないと同士討ちはやらないのかなー?」
「仮にそうだった場合、僕が矢を放った時点で同士討ちを始める可能性があるわけですね。やはり前衛の方々が近づくまで待つことに致します」
 レネネト(ib0260)の至極真っ当な呟きに、神座亜紀(ib6736)が藪からぴょこんと顔を出して言う。
 子供ながらに知恵の回る神座。鹿角 結(ib3119)はその言葉を受け、慎重を期することに決めたようだ。
「この世に都合のイイ不死なぞ存在しねェよ。森羅万象、具現化した物は全て滅ぼせるッつーのよォ。まァ、ヤル事は変らねェ。アレをブッ潰すだけだ」
「乱暴な物言いですが‥‥全て正しいと思います。誰かに涙を流させるかも知れない敵を、放っては置けません」
「そういうことだね。さて‥‥よく当たるっていう僕の勘が、今回も当たるといいんだけど」
 ぞっとするような凶笑を浮かべる鷲尾天斗(ia0371)。その正反対に凛とした表情をなお引き締める真亡・雫(ia0432)。考え方は違うが、目的は同じだ。
 雪切・透夜(ib0135)は同意しつつ、自らの刀に目を向けた。
 何か奇策を思いついたらしく、すでに仲間にも伝わっている。
 いざ、激突‥‥と思われた時。
「今度は杖を二回も‥‥あ、すいませんお腹が痛くなったんで家に帰―――」
「あァン!? どぉこの口が言うのかなァ!?」
「痛たたたっ!? じょ、冗談ですってば師匠! きちんとやりますです、ハイ!」
 さり気なく帰ろうとした守紗 刄久郎(ia9521)を鷲尾が捕まえウメボシを決める。
 こめかみを拳でえぐられ、じたばたする守紗‥‥まぁ、和みはしたが。
「それじゃ、行きましょうか。まぁ、一応は最後までお付き合いさせて貰いますよ。
ヤな相手ですけどねぇ」
 皮肉交じりで笑顔を見せる井伊の言葉に全員が頷き、突破口への戦いが始まる―――

●戦術、陣形、地力
 今更ではあるが、死鬼は索敵範囲が狭い上に目視で敵を認識している。
 よって、戦術のために少々バラけた開拓者たちにも気づかず呑気にしている姿は想定通りである。
 各々配置につき、タイミングを合わせる。そして、レネネトの三味線による演奏開始を合図に戦闘開始。
 音の出所に気づいた死鬼たちはレネネトに向かって駆け出そうとするが、側面から前衛組が接近していることに気づきその足を止めた。
 迎撃に回る剣と斧。杖は少し下がり、状況を確認している。
 各個撃破か? 範囲魔法で一気に行くか? 一瞬迷い、杖はアークブラストを真亡に向けるが‥‥!
「甘いっ!」
 絶対命中でない以上、木を盾にすれば防げないことはない。
 杖を援護しようと動く斧。しかしその前に、鷲尾と井伊が立ちふさがる。
 それを見た剣が代わりに向かおうとするが‥‥
「こっちだぁっ! 相手してやるぜ!」
 守紗の咆哮に釣られ、そちらに回ってしまう。
 これで困ったのは杖だ。巧みに木を盾にしつつ近づいてくる二人の開拓者は脅威であると感じたのか、自ら剣たちに近づこうとするも神座のホーリーアローによる威嚇射撃で思ったようには行動できない。
 レネネトの演奏も終わり、ファナティックファンファーレの効果で真亡と雪切は更に進撃速度を上げる!
 完全に近づかれる前に! そう考えたのか、トルネード・キリクを放つべく杖を振りかざす。
 その瞬間‥‥杖の頭部を、一陣の疾風が貫いた。
 鹿角の放った矢は正確に杖持ちの式を撃ちぬき、かねてより瀕死だったその身に止めを刺す。
 完全に索敵範囲外であり、完全に射程外。完全なる意識の外からの攻撃を受け、杖持ちは横倒しに倒れ伏し‥‥瘴気となって霧散した。
「おっけー! ストーンウォール、行っちゃうよ!」
 それを確認した神座は、激戦の間をくぐり抜け剣と斧の間にストーンウォールを出現させる。
 剣と斧がお互いを攻撃しあうのを防ぐための予備工作であり、更に移動し剣と杖の予想復活地点の間にも壁を設置。これだけやれば心配は大きく減ると言っていいだろう。
「でぃぃぃやっ! ‥‥名前確認、しりうす‥‥で合ってます!?」
「OKです。計画通りですね」
 タイ捨剣を斧に叩き込んだ井伊。すかさず武器に刻まれた名前を確認し、レネネトに確認を取った。
 杖が倒れたことによる斧の名前の変更。予想の通りであるが、まだあと一回杖を倒さなければならない。
 そして、霧散したはずの瘴気が集中しはじめ杖の式を形作ろうとする‥‥!
「雫くん!」
「わかってる!」
 左右から挟みこむように瘴気に接近し、刀を突き入れる二人。
 まだ姿形を成していないせいか手応えはほとんどない。それにも構わず、雪切は更に焙烙玉を瘴気の中心に配置する。
 その直後に杖持ちが実体化する。二振りの刀に貫かれたまま、体内に焙烙玉を取り込んだままで。
 何が起こったのか理解できていない様子の杖持ち。だが、理解した時にはもう遅い!
「聖堂騎士剣!」
「白梅香!」
 突き入れた刀を媒介に、アヤカシを浄化する技を同時に発動する雪切と真亡。
 復活した直後だというのに腹と胸辺りを大きく抉られ、もんどり打つ杖持ち。
 いくら頑丈な体をしていても、強固な鎧に身を包んでいても、内部から浄化されるような攻撃をされては式としてはひとたまりもない。
 杖を構えながら傷口を押さえ、後ずさる杖。それを援護しようとする剣と斧だが‥‥
「ジンクロー、キバって行くぞォ!」
「師匠こそ、やりすぎて倒しちゃわないでくださいよぉ!?」
「言ってろ! 魔槍砲の槍攻撃は砲の半分ッつーのはこう言う時助かるわなァ!」
「それ、魔槍砲じゃなかったら倒してたってことなのでは‥‥」
 鷲尾が守紗に声をかけ、それぞれ斧と剣を通さない。
 共に斧を攻撃する井伊も、苦笑いしつつやり過ぎ注意を肝に銘じる。
 もっとも、手加減して戦うにはキツイ相手であることに違いはない。
 後ずさりを続ける杖。しかし、雪切と真亡はあえてそれを追おうとはしない。魔術で狙い撃ちされるかも知れないということは百も承知のはずなのだが‥‥。
 追撃をかけてこない二人を、杖も訝しんでいる。とはいえ甚大なダメージを受けている以上、このまま攻撃しないわけにもいかない。
 トルネード・キリクを使うべく、再び杖を振り上げるが‥‥
「舞え‥‥桜吹雪。紅き流星となれ‥‥!」
 その呟きは誰にも聞こえなかったが、それは確かに杖を貫いていた。
 正確には、『それら』。桜色に輝く光の矢は、燐光をまき散らしながら次々と飛来し杖を直撃する。
 一人、はるか遠方からガドリングボウ+紅焔桜+六節で杖を狙撃する鹿角。
 二桁にもなる矢の連続攻撃を受け、杖は再び崩れ落ちる。
 強大な魔術も懐に入られては意味がなく、射程の外から狙われてはこの有様。
 問題は、普通に倒すだけでは何度でも復活するという事実である。首尾よく予定通り二度撃破できたが、此処から先は『手を出してはいけない』段階になるのだからややこしい。
「あ‥‥しまった、焙烙玉が! 折角取り込ませたのに落ちちゃったかぁ」
「倒しちゃったからね‥‥異物は撃破時に排出されちゃうっと‥‥」
「みなさん、撤退しましょう。杖が復活する前に離れるのが無難です」
「そうさなァ。今日のところは見逃してやろうじゃねェか。アークトゥルスさんよォ」
「寛容な精神で‥‥ですね。いやぁ、負け惜しみじゃない状態で言うと気持ちいいですねぇ」
 二人がかりで斧の膝を蹴り飛ばし、大地とキスをさせる鷲尾と井伊。
 しょんぼりしていた雪切だったが、真亡とレネネトに促され素早く撤退する。
 が、守紗一人だけが遅れている‥‥!
「おい、何やってんだ!」
「はぁっ、はぁっ、こ、こちとら、一人でして、ねぇ‥‥!」
 攻撃できず受けばかり、しかも一人きりとあっては体力も保たない。
 剣は最早瀕死の状態であると見た目で判断できるくらい傷ついている。これ以上この場に留まると、戦闘続行中とみなされ斧や復活した杖が剣を攻撃してしまうかも知れない。そうすれば全てが水の泡だ。
 神座が設置したストーンウォールもそう長くは保たない。かと言って守紗が逃げ切れそうにない‥‥!
「‥‥神座さん、絶対に当てないように、でもなるべく足止めになるようホーリーアローを」
「へ!? む、難しいよー!?!?」
「難しくてもお願いします。鹿角さん、聞こえますか!? 絶対当てないように剣に威嚇射撃を!」
 神座に指示を出した後、レネネトは持ち前のよく透る声を張り上げて鹿角にも支援を願う。
 威嚇射撃は元々当てないようにする攻撃だが、今回の場合は万が一にもヒットが許されない。かと言って前衛組が援護に回る時間もタイミングもない。
 剣の後方では、杖の瘴気が再集中しているのが見える。復活までどれほどの余裕があるだろうか‥‥!?
「当てないように‥‥当てないように‥‥!
 基本的に絶対命中のホーリーアローだけに、剣の近場にあるものを狙えば威嚇射撃は容易だ。しかし剣が何かしらのアクションを起こしたり、自分からぶつかって行ったりした場合は話が別。
 そうならないよう、それでいて剣が躊躇するような位置。難しいが、急に言われたにしては神座はよくやってくれたいる。
「く‥‥無茶ですが‥‥無理とは言いたくないところ‥‥!」
 問題なのは鹿角だ。遠く離れているのがこの場合は足かせにしかならない。
 剣の移動速度、ルートなどを読み、矢の滞空時間、着弾時間、木々との位置関係などを瞬時に予測し放たなければならない。
 勿論、狙撃ではないので相手にも狙われていると悟らせなければならないわけであり、驚異的な集中力と命中力がなければできるものではない。
 だが、それをやっている。やってのけている鹿角はやはり大したものである。
 いくらやられること上等の三魔星でも、目の前を矢が通り過ぎ木に突き刺されば何事かと思う。そして狙われていると分かればその相手を探ろうとしてしまうのだ。
「っと、こなくそっ!」
 そこに神座のホーリーアローが更に意識を散らせる。その間に守紗は距離を離していく。
 神座とレネネトが撤退したのを確認した鹿角は、そこでようやく射ることを止め自身も撤退する。
 なんとか全員無事に撤退した開拓者たち。
 予定通り杖を二回撃破し、スピカ、アークトゥルス、デネボラの春の大三角の名前で統一させることができたのだから大戦果であろう。
 あとは、一定時間内に三体全てを撃破するだけ。
 剣が瀕死であるので立ち回りも難しいが‥‥魔星が墜ちるのは、もうすぐかも知れない―――