|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 新たな遺跡を求め進んでいた発掘作業。しかし、掘り出したのは鬼の骸骨のような三体のアヤカシたちだった。 脅威を感じ取った石鏡は一先ずアヤカシたちの力を測るため開拓者に依頼を出す。 集まった歴戦の開拓者たち。しかし、敵は思った以上に強力な存在であることが判明する。 巨体のわりに速さと技に優れる剣装備。圧倒的なパワーとソードシールドが厄介な斧装備。そして、強力な魔術を行使する杖装備。これらが連携して襲ってくるのだから撃破は容易ではない。 一旦退いた開拓者たち。だが、先の交戦で判明したことも多く、決して無駄な戦いではなかっただろう。 「それ、例の死鬼の資料?」 「はい。今度は本格的な撃破依頼をとのことで、まとめられた資料も送られてきました」 開拓者ギルドで本とにらめっこしているのは、職員の十七夜 亜理紗。それを後ろから覗き込んだのが先輩職員の西沢 一葉である。 遺跡(?)を守護しているのかと思われた死鬼たちは、開拓者を追ってあっさり発掘現場を離れてしまった。戻った形跡もない。 現在は発掘現場近くの森をうろついている死鬼たち。常に三体が近場におり、バラバラに移動することはないようだ。 特筆すべきは、前回のダメージがさして癒えていない点。どうやら再生能力はないようだ。 「で、どう? 陰陽師の観点から見てこの死鬼たちは」 「とりあえず自然発生のアヤカシでないのは間違い無いと思います。ただ、あんな強力な式を作るのは普通無理です。もしできるとしたら‥‥」 「幽志や獣骨髑髏を作った謎の陰陽師‥‥?」 「はい。参加者の幾人かも気にしてらっしゃいましたけど、洞窟から出てきたとかジルベリア風の装備をしていたりと、関連付けられないこともないですし。一応、今回の依頼は足止めも兼ねていまして、開拓者の皆さんに死鬼と戦っていただいている間に遺跡(?)の内部を石鏡が調べることになってます」 「‥‥更に増えたりしないでしょうね」 「そ、それは保証しかねますが‥‥多分大丈夫だと思います」 「根拠は?」 「三体が離れず行動しているからです。他にもまだいるなら、それとも離れようとはしないはずです。確実じゃありませんが、中に同じような死鬼が居る可能性は低いかと」 「なるほどね‥‥ヘッポコだけど考えることは考えてるんだ」 「一言余計ですよぅ!」 特に危険視されているのは魔術を使う杖死鬼。挟み撃ちにしようにもトルネード・キリクがあり、遠くからはメテオストライクやアークブラストが飛んでくる。まだ他にも使える術がある可能性も否定はできない。 身を守りながら剣と斧のサポートをするのだから悪質極まりない。 「力と、技と、魔法‥‥か」 「何ですかそれ?」 「ん、ジルベリアのとある昔話らしいわよ。昔、そういう役割分担で活躍した騎士団がいたんだって。もっとも、昔話の騎士団には三人をまとめる団長がいたっていうけど」 なるほど、確かに死鬼の役割と合致しなくもない。これ以上増えられるのは勘弁だが。 「とりあえず、剣と斧も技を使用してくるであろうことが資料にも示唆されています。杖の魔術に気をつけるのは勿論ですが、戦う場所を考慮するのも必要でしょう。森の中は戦いやすいかどうか‥‥作戦次第でしょうか」 再び戦うことになる開拓者と死鬼たち。仲間の怪我の代償を今度こそ支払わせてやりたいところである。 判明したことを元に作戦を立て、一日も早く撃破してものである――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●三位一体 鬱蒼と茂る森の中を、我が物顔でうろつく三体の死鬼。 相変わらず離れようとはせず、かと言ってどこに行くわけでもない様子の彼らは、森の中にあっても非常に目立つ。探し当てることには苦労はなかった。 しかし、問題はここから。遠目から死鬼を観察していた開拓者たちは、茂みに身を戻しつつ作戦会議を続行する。 「‥‥こちらに気づいた様子はありませんね。やはり幽志のような気配察知能力は無いか、あっても範囲がごく狭いものと思われます」 「ですねぇ。もし幽志と同じなら、とっくに気付かれてますもんね」 レネネト(ib0260)と井伊 貴政(ia0213)の会話からも読み取れるように、死鬼は開拓者たちに気づいていない。控えめに見ても、目で見て相手の存在をキャッチしているのはほぼ間違い無いだろう。 奇襲を仕掛けたり先手を取れる可能性が高いというのは喜ばしいことである。 「うー、こないだはやられちゃって悔しいよ! 今度はやっつけてやるんだから!」 「俺も散々な目にあったからなぁ。前回の戦いでちょっと魔術に苦手意識が‥‥」 「しっかし、ジルベリアのとある昔話で似たよォな奴等が居るそうだが‥‥ソイツは人間だろォに。こいつ等の体格や特徴から見ても鬼か修羅だろォがよ」 出発直前で前回の傷が癒えた神座亜紀(ib6736)。杖をフリフリお冠だ。 守紗 刄久郎(ia9521)のように愚痴の一つも言いたくなるのは仕方がない。単純にアヤカシと言っても杖ほど魔術を自在に扱う存在は珍しかろう。 珍しいのは何も杖だけではない。剣も斧も今まで報告がないようなアヤカシだ。 そこで鷲尾天斗(ia0371)は考える。今までの経験をフル動員して。 「人間をベースにした何らかの合成‥‥それとも別な意図で作ったナニかなのか‥‥」 「やはり、奴らは造られし者であるとお考えですか。人が造った物なら、人が破壊できると思いたいですね」 鷲尾の言を聞き、鹿角 結(ib3119)は視線鋭く死鬼を睨んだ。 様子見はもう済ませた。後は撃破あるのみ。 鹿角の主張は正しいが、難しい。だがそれをやるのが開拓者たちに課せられた使命‥‥。 「まァ、どっちにしてもまともなヤツが仕組んだんじゃねェ事は間違いない。とすればこれからもっと楽しめる事は間違いねェ」 「ふふ‥‥それはどうでしょうか。もっと楽しむ前に倒してしまうかも知れませんよ?」 「珍しく強気だね。対抗策でも思いついた?」 「ううん。でも、彼らに意思がないというのがやりやすいと思って。僕には、特に」 鷲尾の言葉に、柔らかく‥‥それでいて凛とした口調で真亡・雫(ia0432)が呟いた。 別に油断しているわけでも不遜なわけでもない。真亡をよく知る雪切・透夜(ib0135)にはそれがよくわかっている。わかっているからこそ心配でもあるのだが。 真亡は優しすぎる。その優しさがいつか彼の足元を掬わないかと危惧しているのだ。 と、その時である。死鬼たちがこちらの方へ近づいてきていることをレネネトが気づいた。 「こっちに来ます。しかし見つかったわけではないようですね。直撃コースではありません」 「それは好都合ですねぇ。奇襲をかけるには好都合‥‥と」 井伊のウインクに皆が頷き、すぐさま配置につく。 研究はした。作戦もしっかり組み立てた。あとは実行に移すだけだ。 遠目から見ても死鬼たちの傷は明らかに癒えていない。骨も装備もあちこちひび割れや欠損が起きており、ダメージが回復していないことを伺わせた。 並みのアヤカシでももう少し自然回復していそうなものだが、強さの代償とでも言うのだろうか? やがて、開拓者たちの居る茂みのすぐ横を死鬼たちがのしのしと通り過ぎる。 そして‥‥! 「借りを返しにきたぜ!」 「さァ、楽しいパーリー第二幕だ!」 ついに始める第二戦。事態はどう動くのだろうか――― ●本当の能力 アンブッシュを移動していた守紗と鷲尾がそれぞれ遠くで姿を現し、木を盾にしつつ斧と杖を狙って突撃する。 特に鷲尾は神座にアクセラレートとホーリースペルをかけてもらっているため、フットワーク軽く木から木へと身を隠しながら前進している。 そこに雪切も茂みから飛び出し、守紗が斧、鷲尾が杖、雪切が剣へと向かう。 前回は接近しようとする段階で杖からアークブラストが飛んできたが、流石に障害物が多いこの森の中ではそれはないようだ。 前回の戦いで魔術の連打を受け、ダメージの多い杖。剣が前に出て、斧が直衛をするように杖のそばに立つ。 いきなりトルネード・キリクに巻き込まれても困るので、本隊は最後尾の杖からもかなり遠い。これでは背後からの奇襲は難しいか。 「生憎と、僕は無理はしないんですよね。故に、これも無理じゃないッ!」 雪切は木を有効活用し、ヒットアンドアウェイを繰り返す。 死鬼はどれも巨体だ。木ごと斬り倒してくるならともかく、少なくとも剣にはそこまでの力はない。 そして戦い慣れしているが故に、妙な振り方をして剣が木に突き刺さり抜けなくなるのを敬遠する。そうなると雪切が選んだ戦法は非常に刺さるわけだ。 「オラオラァ! 狂眼死神の足音を聞いてビビッてェんのか!」 「魔法など撃たせません!」 鷲尾は魔槍砲を構え杖に向かっていた。前述のようにアークブラストが飛んでくることはないが、杖は明確に鷲尾の動きを警戒している。 鹿角も弓矢で援護しているが、杖は木に巨体を隠し障害物を利用する。この援護がある故に、おいそれと魔術が放てないのも事実だ。 鷲尾と杖の距離が大分詰まった所で、杖に動きあり。杖の宝玉が輝き、とある魔術が放たれた。 矢を受けることを覚悟しての攻撃。これ以上接近されるよりはと判断したのだろう。 それを見て鷲尾はしまったと思う。基本的に自動命中の魔術‥‥ララド=メ・デリタ! 「じょっ!? 冗談じゃねぇぞ、畜生! やっぱりこいつの魔法は厄介すぎるってかァ!?」 魔槍砲でガードするか? 駄目だ、万が一壊れたら攻撃手段を失う。 すいすいと木を避けながら鷲尾に向かう灰色の光球。それが直撃するまでに大して時間はかからなかった。 抵抗力が低くはない鷲尾。しかし、術の威力と杖の知覚力の高さはそれを遙かに凌駕する。 ダメージは大きく、回復役がいない現状ではとても危険だ。 その時、鷲尾とは別方向の茂みから真亡が飛び出し杖に向かう。 彼の存在を察知できていなかった杖は無表情な頭蓋骨と瞳に動揺の色を見せた。 しかし、その時真亡は迷っていた。このまま杖に肉薄し戦うか、それとも当初の予定通り杖に向かうと見せかけて斧と戦うか。 斧に向かうのは杖を鷲尾が抑えてくれていることが前提の作戦である。真亡は杖からの範囲魔法による援護を何よりも警戒しており、このまま斧に向かえば鷲尾が殺されるか杖から援護が飛んでくるのは自明の理だ。 「‥‥仕方ない!」 方向転換を諦め、一気に杖の懐に入る真亡。白梅香を纏ったその剣閃をどうにかできるほど、杖は格闘戦能力に優れていない‥‥! もう一撃! そう思った直後、真亡の背に薄ら寒いものが走った。 直感に任せて身を捻る。彼が見たものは、先ほどまでいた場所を西洋剣がなぎ払っているところであった。 「ごめん、雫くん! 一目散にそっちに行かれて抑えきれなかった!」 「大丈夫、なんともないよ。聞きしに勝る厄介さだね、これは」 「本当に。スケッチする気がなかなか起きないや」 背中合わせのようになりながら杖と剣を睨む真亡と雪切。この場合は剣の咄嗟の判断を褒めるべきだろう。 背中に傷を受けることを承知で杖の救出にかかったのだから大したものである。 「悪いな、世話かけた。なんとか動けるぜ」 「鷲尾さん? 傷は‥‥」 「ロリっ子に符水分けてもらってなァ。流石に口移しは断られっちまったが」 「冗談が言えるなら大丈夫ですね。続けていきますよ!」 「援護は任せてー! 今回はやられたりしないんだから!」 距離を取りすぎればトルネード・キリクで一網打尽にされる。いくら剣が護衛に付いているとは言え、接近し続ければそれはない。 遥か後方から神座がホーリーアローで杖を狙い撃ち、すぐさま退避というやりかたで距離を外しながら援護してくれるのも悪くない。杖の行動をある程度阻害してくれる。 こうなれば四人で剣と杖を抑えるしかあるまい。当初の予定とは多少異なるが現場でいつも作戦通りとはいかないだろう。 そして、本命であるところの斧は‥‥? 「はぁっ!」 「でぃぃぃやっ!」 井伊と守紗が、レネネトのファナティックファンファーレを受けて怒涛の攻撃を繰り出していく。 斧も杖の援護に回ろうとしていたのだが、鹿角の月影絡みの矢を受け思うように移動が出来なかったのだ。 それでなくとも豪傑二人に囲まれているのだから突破は容易ではない。完全に孤立していると言っていいだろう。 それでも、転んでも只では起きない。二人の攻撃を斧で受けつつ、その馬鹿力と一番の防御力で戦況をひっくり返そうと奮闘する。 一瞬、だん、と踏み込んだ斧。何か来る! 守紗は咄嗟にそう感じ‥‥! 「ざけんなっ!」 二本の刀を交差させ、ハーフムーンスマッシュと思われる技の出がしらを受け止める! 守紗の身体から剣気が発せられ、斧を威圧する。 このタイミングで止められるとは思っていなかったのか、斧には少なからず動揺があった。そこに剣気が浴びせられ、思わず怯んでしまう! 「腕の一本もいただきましょうかっ!」 その隙を見逃す井伊ではない。タイ捨剣で斧の左腕に刀を叩きつける! 怯んでいてソードシールドに防御が間に合わない。切断こそ出来なかったものの、鎧の中の骨が砕けたのか斧の左手はだらんと垂れ下がったままになった。 「これでぇ!! どうだぁッ!!」 鬼腕からの弐連撃。手数で勝負を試みた守紗の考えは正しかったといえる。 死鬼は一撃目を斧でガードしたものの、二撃目を盾でガードしようとしたのだ。 しかし、左腕は先程の井伊の攻撃でイカれている。防御しようと腕を動かしたつもりが、思うように腕が動かない。結果として二撃目を直撃で受けることになる。 「これでぇぇぇ‥‥っと!?」 「まだそんな余力があんのかよ!?」 追撃をかけようとした井伊と守紗だったが、斧が再びハーフムーンスマッシュを繰り出した。 武器でガードしたものの、大きく弾き飛ばされる。そして、斧はそのまま意外な行動を取る。 いきなりくるりと回れ右をしたかと思うと、手にしていた斧を雪切たちめがけて投げつけた! 「そちらの皆さん、危険です!」 よく通るレネネトの声。気づくのが早かったのでなんとか回避し、斧は細めの木に深々と突き刺さり結果的にへし折った。 その隙に剣と杖は雪切たちと距離を取る。そして‥‥ 「だからぁ! 魔術はぁ!! ヤバいんっ!? だっ! って!!」 トルネード・キリクで、斧もろとも神座とレネネト、鹿角以外のメンバーを呑み込む。 その風が収まった後には、ダメージが甚大な開拓者たちと、素手になりふらついている斧の姿‥‥! 「この隙、逃しません!」 「絶対、一体くらい倒しちゃうんだから!」 ここまでの被害が出ているのに戦果なしというわけにはいくまい。また、この流れは斧を倒す絶好の機会でもある。すぐさま行動に移り、鹿角の矢と神座のホーリーアローが斧に直撃していく。 トルネード・キリクも堪えたのだろう。回復能力の乏しい斧は、鹿角の矢により頭蓋骨を撃ち抜かれ、やがて膝から大地に崩れ落ち‥‥瘴気となって消えた。 それを見ていた剣と杖。逃げるかと思ったが、攻撃もせず逃げもせず開拓者の動きを探っている‥‥? 「‥‥なんでしょう。嫌な感じですね」 「こちらも被害は大きいです。まずは一体倒せたということで退いたほうがよろしいかと」 レネネト、鹿角、神座は無傷だが、前衛組は魔術をもらい消耗している。 向こうが積極的に出ないならそれもいい。一行は範囲魔法を貰わないよう、バラバラになりつつ徐々に撤退していた。 そして‥‥その時、悪夢は起こった。 「なっ‥‥馬鹿な‥‥!?」 先ほど斧が消滅した辺りに瘴気が急速に集中し、形をなしていく。 それは先程倒したはずの斧を持つ死鬼。完全回復した状態で、共に消滅した斧も再びその手に握っている。 『ゴォォアァァァァァッ!』 声帯もない白骨の身体。地獄の底から響くような咆哮を上げ、再び斧を構える‥‥! 「じょ、冗談じゃねぇ、なんだよアイツ!? 回復能力はないんじゃないのかよ!?」 「今は走って! 剣と杖も来ます!」 守紗を促した雪切に向かって斧が投擲される。痛む身体でそれをなんとかたたき落としたが、斧持ちの死鬼はソードシールドを構え突進してきている! 「透夜くんも早く! ‥‥透夜くん!?」 「‥‥え、あ、うん。今行くよ!」 今回は死鬼たちも深追いをして来なかったので、開拓者は無事に撤退することに成功した。 雪切が最後に目にし、引っかかっていたもの。それは、斧に刻まれたALPHERATZの文字。 これが何を意味するのか‥‥それは、石鏡の調査団の報告も絡めて判明することである――― |