メタルだー
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/19 22:06



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 今更ではあるが、アヤカシと一口に言っても多種多様なものが存在する。
 人語を解し人間と変わらない外見の者、動物のような者、虫のような物。果てには物体や人間に取り付く幽霊のような存在も確認されているのだ。
 今回のアヤカシは、その中でも最も面倒な部類―――
「うーん‥‥どうしようかしら。うーん‥‥」
 ある日の開拓者ギルド。
 職員の西沢 一葉は、メガネの位置をついっと直しながら何度目かのため息を吐いた。
 普通に依頼として出していいものか。出すにしてもどう注意書きをするべきか。職員経験が長い彼女でも少々悩んでいるようだ。
「どうかしたんですか、一葉さん?」
 そこに、後輩の十七夜 亜理紗がやってくる。まだ職員になって一年程度の彼女はまだまだ呑気なものである。
「ん‥‥アヤカシ退治の依頼なんだけどね、ちょっと面倒な仕様なの。どうしようかと思って」
「いつもみたいに『どーん!』『バキッ!』『ズバーッ!』じゃ駄目ってことですよね?」
「駄目。というか論外」
「ありゃりゃ。一体どんなアヤカシなんですか?」
 そのアヤカシとは、鎧に取り付いた幽霊のようなアヤカシとのこと。
 それだけでも面倒なのだが、取り付いた鎧というのがさるやんごとなきお方が着ていたという文化財的な物品らしいのだ。
 持ち主は当然、石鏡のお役人様もそれを傷つけられるのは大層面白くないようだ。なんとか鎧を傷つけないようにアヤカシだけを倒せという内容で依頼を出してきたのだった。
「お断りしましょう」
「そういうわけにもいかないわよ。文化財っていうのは石鏡とか五行とか関係なく、国を超えて保護すべきものなの。ギルド上層部がとっくに引き受ける旨を先方に伝えてるわ」
「えー!? まったく、どこもかしこも上層部っていうのは勝手なんですから! 現場のことも考えてくださいよう」
「同感だけど上司の前では黙ってること。‥‥でも、本当にどうしようかしら。憑依してるタイプだから中身がないわけで、鎧の隙間から攻撃っていうのも無理があるし‥‥」
「術攻撃もまずいですよね。氷漬けにしようにも鎧にダメージが行きますし‥‥」
「白梅香も結局は武器が鎧に当たるから危険。しかもアヤカシは鎧とセットだった刀も装備してるから、遠慮なしに攻撃してくるわね」
「‥‥やっぱり事故ってことで鎧ごといっちゃいません?」
「だーめ。色んな人が『怒る!』状態になっちゃうから」
「完全に丸投げじゃないですかー!?」
 鎧を傷つけずに、それに憑依したアヤカシを倒せという今回の依頼。戦闘力もさることながら、如何にして目標達成するかという知恵やアイデアが重要となるだろう。
 目標は、メタルな鎧である―――


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
りこった(ib6212
14歳・女・魔
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰


■リプレイ本文

●文化財
「傷つきやすい壊れやすいって‥‥ホントにやんごとなき人が着てたってだけで大した性能でもない鎧なんだね」
「違うな。鎧としての防御能力は普通にあるが、文化財として傷つけたくない壊したくないということだ」
「風よ! 雲よ! 太陽よ! 心あらば教えてくれ。何故こんな面倒な事になったのだ
‥‥って言うべきよね、今回は」
 とある夏の日。じりじりと照りつける太陽光を受けながら、開拓者たちは現場へ向かっていた。
 上昇する不快指数にクラリッサ・ヴェルト(ib7001)がぼやくと、竜哉(ia8037)が的確なフォローを入れる。
 どんなに凄い鎧であろうと傷がつかないものなどない。戦場で使う換えの効く防具としてではなく、唯一無二の文化財。それはもう鎧であって鎧ではない存在なのだ。
 何にせよ、任された方は大変である。葛切 カズラ(ia0725)が言う不条理への文句は誰もが胸中にあるだろう。
「ん? どうかしたのかー?」
 ふと、羽喰 琥珀(ib3263)がおろおろしながら周りを見回す水月(ia2566)に気づいた。
 水月はかえるのぬいぐるみを抱いたまま、困ったようにふりふりと首を左右に振る。
「あ、わかるわかるー! ぬいぐるみのせいで暑いんだよね?」
 りこった(ib6212)の言葉に、今度はこくこくと頷いて見せる水月。
 この炎天下だ、ぬいぐるみを抱き抱えていては暑いに決まっている。しかしこれも作戦上必要な物資らしいので、処遇に困っているのだろう。
「そういう時は道具袋に入れるのですよ。私のように」
 やたらでかいバックパックを背負った朽葉・生(ib2229)は、さも当然と言わんばかりにそう呟いた。
 彼女は布団(!)を持ってきており、流石に手には持っていられないので背負う形になっている。もっとも、りこったもりこったでまるごともふらを所持しているため大荷物に見えるが。
「‥‥暑いことには、違いないのでは‥‥?」
「‥‥心頭滅却すればと申します」
「そこまでしないと暑いってことじゃん! いや、しても暑いって、絶対! とりあえず、水月も暑けりゃ道具袋に入れちゃえよ」
「うん‥‥」
 シャンテ・ラインハルト(ib0069)の的確なツッコミに、思わず目を逸らす朽葉。
 羽喰に言われ水月はぬいぐるみをしまうが、少し寂しそうな表情であったという。
「ま、どっちにしろ真夏に持ち出す代物じゃないわよね。さっさと終わらせて冷たいものでも飲みに行きましょ」
「お冷じゃ駄目?」
「‥‥緊張感のないモノ。と言ったところか」
 おー、と盛り上がるクラリッサたちを尻目に、一人溜息をつく竜哉であった―――

●戦う文化財
 事前の情報通り、アヤカシ自体はすぐに発見することができた。
 ひらけた山野を、このクソ暑い中、フル装備の甲冑なんぞが闊歩していれば嫌でも目立つ。
 抜身の刀を手に目的もなくふらふらしているようにしか見えないが。
 一行は、事前に調べておいたことを確認する。
 鎧は、分解状態で箱に収められていた。飾られていたわけではないので骨組みなどは内部に無い。
 幽霊状態のアヤカシが憑依することで動かしているわけで、関節部はゆるゆる。最悪の場合多少ならパーツの連結を伸ばすことが可能。
 そして、パーツをもぎ取ろうとするには結構な力が必要‥‥とのことである。
「大事なもんならアヤカシに憑かれねーよーに、ちゃーんとお払いしてもらってればよかったのになー」
「も、持ってた人も、まさかって思ってたんだと思うよー。アヤカシはどこにだって発生するんだし‥‥って、近くで見るとやっぱり怖いー!?」
 神楽に都内部にすら突如発生するのがアヤカシである。お祓いをしていたとしてもはたしてどれだけ効果があったことやら。
 今更言っても始まらない。すでに敵はこちらを標的として捉えている。
 ガチャンガチャンと具足を鳴らし、文化財が襲いかかってくる!
「行くぞ。迂闊に手を出すなよ」
「わかってらい!」
 竜哉と羽喰が駆け出し、戦う文化財と交戦状態に入る。
 遠慮なしに振り下ろされる刀。しかし竜哉はそれを篭手であっさりガードした。
 普段ならここからの反撃や、羽喰の奇襲と繋げたいところなのだが‥‥生憎そうもいかない。
 木の棒に布を何重にも巻いた、通称布棒。一応それを関節部に差し込んでみる竜哉だったが、考えたように関節を封じることができず、布棒はあっさり地面に落ちてしまう。
「関節封じも駄目か。意外とパーツとパーツが離れることが多いな‥‥!」
「これでいて引っこ抜くのは無理なんだもんなー。アヤカシってずっこいぜ!」
 風を裂く剣閃を回避する羽喰。やはり二人は鎧を抑えることに専念してもらったほうがよさそうか。
 その間に、他のメンバーは準備を完了する。
 適当な場所に布団を敷き、かえるのぬいぐるみを設置。後は後方からの攻撃に移るまで。
「ではまず、動きを制限してください。準備はよろしいですか?」
「はいなの」
「が、がんばるよっ!」
「三人がかりならば。いざ」
 シャンテの指示の下、水月が呪縛符、りこったと朽葉がアイヴィーバインドを鎧に仕掛ける。
 水月の式は白い子猫のようなものであり、それを数珠つなぎのようにして拘束するようだ。これらなら、多少汚れはついても傷つきまではしない布陣である。
「ひっさつ、ねこねこちぇーんろっくなの」
 鎧の動きを制限すれば前衛も楽になる。水月は満足気な表情を浮かべ、アヤカシのみを攻撃すべく浄炎を発動する。
 言うまでもなくアヤカシのみに影響を与える術である。鎧には一切被害が行かないので、この依頼にはまさに適任な術といえよう。
 アイヴィーバインドなどで拘束された鎧が炎に包まれる。悶え苦しんでいるところを見ると、やはり効果は抜群のようである。
 しかし‥‥
「みー!?」
 自ら創りだした子猫型の式たちもまた、とばっちりを受けて鳴きながら消滅していく。
 拘束するために引っ付いていたのが仇になった。陰陽師の式は、アヤカシとほぼ同じモノであるため浄炎の影響を受けてしまったようである。
「ねこちゃん‥‥あぅあぅ、可哀想なの‥‥」
 泣きべそをかきながらおろおろする水月。可愛らしいが今は慰めてやれない。
「な、ならホーリーアローだよっ!」
 りこったが続くが、これはまるで効果がない様子。確かにこれもアヤカシにしか効果が無い術だが、『憑依しているアヤカシ』には効果がない。この場合、無機物の鎧を攻撃しているのと同じだからである。
「めんどくさいなぁ‥‥鎧ごとやっちゃいたい‥‥」
「同感。文化財じゃなければ斬撃符と混沌の〜で凹るのに」
 クラリッサと葛切は苛立ちを抑えながら、砕魂符を放つ。
 これもまたアヤカシ‥‥というか魂に直接ダメージを与える術。良いメンバーが集まったものである。
 鎧でダメージの軽減はあるが、確実に効いている。前衛二人の押し込みもあり、徐々に布団の方へと誘導されていく。
「とりあえずその刀、危ないんで壊さしてもらうぜっ!」
 何かの拍子に自分で自分を傷つけられても困る。羽喰は武器破壊を狙い、カウンター気味で相手の刀を地面に叩きつけた。
 しかし相手もただでやられるわけには行かないと意気込んだのか、思いも寄らないパワーで羽喰を振りほどき、刀を振るう!
 ヤバい! そう思ったときにはすでに羽喰の眼前に刃が迫っていた。しかしそれは、羽喰に届くこと無く静止している‥‥!?
「アーマーもそうだがね、借り物の身体ってのは異常に気付き難いんだよ、だからこうなる」
 見ると、右腕の関節に複数の布棒。どうやら竜哉が攻撃の一瞬に差し込んだらしい。
「さんきゅっ! ちょい焦ったぜ!」
 流石に攻撃するときまでパーツの連結を伸ばしたりはしないようだ。羽喰は改めて刀をたたき落とし、へし折った。
「子守唄は効果なし‥‥。では、スプラッタノイズは?」
 布団の付近まで追い詰めたところで、刀を失ったことを好奇と見たシャンテが音楽を切り替える。
 それまでの優しい旋律から一転、強烈な雑音が鎧を襲う。これには流石に参ったのか、頭部を押さえふらふらしている!
「よっしゃあ! そのまま!」
「寝ていろ」
 その隙に前衛二人が接近し、羽喰が足払いをかけ、竜哉が面頬を引っ掴んで布団に押し倒した。
 地面には石ころや砂利が多い。もし布団を持ってきていなかったら無数の傷が入ったことだろう。
「拘束、第二陣! ‥‥あぁ、水月様はかまいませんよ」
 また式を焼いてしまうことになると思ったのか、ふりふりと首を振る水月。
 朽葉がそれに苦笑いで答えている間にも、アイヴィーバインドや呪縛符での拘束が完了する。
 続けて例によってのアヤカシにのみ効果のある術の連打。これはたまらんと思ったらしく、紫色の炎のようなものが鎧から抜け出て、付近にあったかえるのぬいぐるみに入り込む!
 維持するものを失った鎧はパーツ毎に分かれ、静かに布団の上に転がった。
 代わりに動き出すかえるのぬいぐるみ。愛らしい表情がどこかミスマッチのそれは、ほっと胸をなで下ろすような仕草をして見せる。
 しかし、その背後に。
「よし、成功っ♪ よくもこんな厄介な物に乗り移ってくれたね!」
 斧を手にした謎の熊の人形が、静かに‥‥幽鬼のように立っていた。
 その妙な気配にかえるのぬいぐるみが気づいたときには、すでに斧が振りかぶられている‥‥!
「い、いいの? 水月ちゃん、かえるのぬいぐるみ、ボロボロになっちゃうよ?」
 ふりふり‥‥と首をふりかけて、こくこくと頷いて見せる水月。しかし目には涙が溜まっていた。
 まぁ今から更に憑依先を変えるのもしんどい。水月には新しいかえるのぬいぐるみを進呈することにしよう。一行はそう心に誓い‥‥
「やっちゃえ、きりんぐ★べあー」
 こうして、防御力もへったくれもないかえるのぬいぐるみごとアヤカシは倒された。
 切り裂かれ綿を露出させたぬいぐるみを抱き、水月は呟く。
「ごめんなさいなの‥‥」
 無事に鎧を傷一つなく奪還し、返却した一同。その際にかえるのぬいぐるみの代金をせしめたのは言うまでもない。
 尊い犠牲を払いつつ、メタルな鎧は夜の闇に包まれることもなく、クールに取り戻されたのだった―――