【幽志】再戦、そして
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/31 20:26



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 ある日の開拓者ギルド。
 職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉は、一枚の依頼書を前にして微妙な顔のまま沈黙していた。
 微妙な空気の原因となっているのは、『幽志』と呼ばれるアヤカシと戦う依頼である。
 最終決戦となるはずだったラスボス格、阿修羅との戦い。しかしそれは準備不足というかうっかりで失敗になってしまった‥‥というのが主にまずかったことなのだが。
「えー‥‥で、でも今回はほぼ確実に外に連れ出せる位置まで誘導したみたいですし、阿修羅についていくつか分かったこともあるじゃないですか! 全く無駄だったわけじゃありませんよ!」
「そ、そうね。切り替えていきましょう、切り替えて」
 阿修羅。それは三人の開拓者の魂を合成して作られた、一つの頭に三つの顔、六本の腕に六本の刀剣類を装備したアヤカシである。
 今までの幽志と違い、術に対する抵抗力が妙に高い。剣術の腕前はかなりのもの。そして最低三回は連続攻撃をしてくることは判明している。前回はやられなかったが、スキルも使うかも知れない。
 ただ知能の方は他の幽志とさして変わらず、本能ありきで動いていて賢いとは言い難い。
 どちらにせよ狭いところで戦うには難儀な相手であったのは確かである。
「ところで、前回の報告書を見せてもらって気付いたんだけれど‥‥幽志は音もなく行動するはずなのに、モノリスを攻撃してる時はガキンガキンって音がしてたっていうのは変じゃない?」
「変なのは確かですが、誤記じゃありません。実際に開拓者さんたちが聞いていますから。ストーンウォールは物理的な石ですから音もなく破壊しましたが、モノリスは瘴気的なものなのでアヤカシである彼らと干渉したのではと考えられます。まぁ、だからどうというものでもないんですけどね‥‥」
 それが弱点に繋がるならいいが、どうもそうは思えない。
 同じ瘴気から生まれたものだから干渉して音がする‥‥と言われても何が何やら。
「ふーん‥‥私は専門じゃないからさっぱりだわ。とにかく、今度こそ阿修羅を撃破してくれっていう依頼書よ。年末に景気のいい話じゃないけど、この問題を残したまま年越しも嫌だろうから是非頑張って欲しいわね」
「た、確かに。でも皆さん、気をつけてください。広いところに誘き出したとしても、阿修羅の強さに変わりはありませんから。どうか、ご無事で‥‥!」
 今回はやろうとすれば洞窟の外に連れ出せることは確実だろう。しかし誘き出すのも全力でなければ難しく、連れ出せてもそこで負けてしまいましたでは話にならない。
 外で戦うための作戦、準備。それが肝要となるだろう。
 突き詰めれば阿修羅も被害者。どうか、解放してやっていただきたい―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
明夜珠 更紗(ia9606
23歳・女・弓
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
琉宇(ib1119
12歳・男・吟


■リプレイ本文

●クライマックスタイム!
「‥‥同じ過ちは二度と繰り返すまい。今度こそケリをつけてやる!」
「来た! やっぱり怪の遠吠えは有効だね!」
「まずは誘き出しですね。ここをしっかりこなしませんと」
 件の洞窟にたどり着いた開拓者たちは、すでに作戦を固めていたこともあり余計なことは一切なしで対阿修羅へと動き出した。
 琉宇(ib1119)が入口付近で洞窟の中に向かって怪の遠吠えを奏で、自分たちの存在を相手に悟らせる。
 そして明夜珠 更紗(ia9606)とコルリス・フェネストラ(ia9657)、二人の弓術師が牽制のために後衛として洞窟に潜る。
 もちろん、後衛がいるからには前衛もいる。都合五名が暗闇の中に身を投じ、琉宇が手にしている松明だけが内部を照らしていた。
 勿論、前回のような失敗はもうない。今回は予備の松明も充分で、誘き出す距離も段違いに短い。
 洞窟に入って十分ほど進んだところで、半透明の六本腕が姿を現した。
 以前より出口に近い。怪の遠吠えを聞きつけ、何事かと進んできたのだろう。
 それぞれの腕に握られた六本の刀剣類。刀であったり西洋剣であったり種類は様々だが、それらすべてが開拓者たちの命を刈り取るべく閃く。
 音もなく猛進してくる阿修羅の前に、二人の剣士が立ちはだかる‥‥!
「今度こそ決着つけたいですからねぇ!」
「さすがにこれ以上醜態をさらすわけにはまいりません、今度こそ決着をつけましょう!」
 井伊 貴政(ia0213)は刀で、志藤 久遠(ia0597)は薙刀で阿修羅の剣閃を受け流し、徐々に後退する。
 阿修羅の攻撃は相変わらず鋭い。気を抜けばあっさり刺し貫かれるであろうことは容易に想像できる。
 しかも打ち合った重い感触とは裏腹に、静かな洞窟内には剣戟の音は全くしない。声を上げない阿修羅の特徴もあって、まさに幽霊を相手にしていると実感させられた。
「ちっ、どういう認識力なんだ。よくも腕六本を自在に使える‥‥」
「やはり普通に射っては駄目のようですね。技を織り込みましょう」
「その方が良さそうだな」
 きちんと受け防御用に腕を残しておく阿修羅。狭い洞窟内でありながら二人の弓術師はよく狙っているが、後衛を見ていないように見えて放たれた矢は全てたたき落としている。
 幽士の攻撃はかすっただけでも精神力をかなり持っていかれるため、前衛二人はどうしても防御に偏った戦い方になってしまう。誘き出しが目的とは言え、ジリ貧にしかならない。
 と、そこに。
「ごめんね、松明を少しだけ置くよ!」
 火が消えないよう注意しつつ、琉宇は松明を壁に立てかけ三味線を構える。
 じゃらん、と独特の音色が響いたかと思うと、突然阿修羅がつんのめって態勢を崩した!
「いい仕事だ。今こそ射ろう‥‥全力で!」
「穿て。『白鷲』」
 琉宇の重力の爆音によって作り出された隙を見逃さず、明夜珠とコルリスが動きを見せる。
 会+発+月影に気力を大量投入。そして鷲の目+会+狩射。相手の能力を最大限評価し、妥協のない命中を目指した組み合わせだ。
 暗闇を切り裂く二本の矢。それぞれ胸と腹に突き刺さり、阿修羅は無音の絶叫を上げる‥‥!
「今です、走りましょう! ここで畳み掛けようとして失敗しましたじゃ笑えませんからね〜」
「功名への焦りは禁物、ですか。基本ですね」
 井伊の号令の下、五人は洞窟を走って戻る。
 怯んだだけで油断はできない。外ではかねてよりの作戦が進行中である以上、無理をする必要はないのだ。
 一頻りもがいた阿修羅は、生者の気配を頼りに開拓者たちを猛追する。
 距離は大分稼げた。その証拠に、五人の視線の先には地上の光が輝いていた。
 出口まであと20m。
 15m。
 10m。
 5m‥‥!
 やっとのことで脱出した洞窟の出入口には、入るときには無かったはずの鉄の通路が構築されていた。
 これは開拓者たちの最大の策。オラース・カノーヴァ(ib0141)による黄泉路への一本道である。
「待ってたぜ。準備は万端、後は仕掛けを御覧じろ‥‥ってな」
「おーけー。作戦の第二段階、開始よ!」
 息をついている暇など無い。阿修羅はすぐそこまで来ているのだ。
 鴇ノ宮 風葉(ia0799)の号令の下、開拓者たちは配置に動く。
 鉄の通路は全長10mあり、二枚重ねで補強されている。
 井伊、明矢珠、琉宇は通路の一番向こうまで走り、志藤、コルリスは洞窟の入口と通路との僅かな隙間から脱出、阿修羅が通路内に侵入するのを待つ。
 阿修羅は本能で動いているため、細かいことを気にしない。目の前に井伊たちがいると分かっていれば、やりすごしてから再び通路内に入り挟撃に持ち込むことも可能だろう。
 そして準備完了からいくらもしないうちに、半透明の体に二本の矢を刺したままの人造神が姿を現す。
 初めて見るであろう太陽の光にも興味を示さない戦いの化身は、予想通り通路を爆進し志藤たちを通り過ぎる。
 そして‥‥ギシッ、という音が響き、阿修羅が思わず二本の腕を地面について転倒した!?
「おー、ホントに転んだ。やってみるもんだ」
 オラースは通路5m地点にわずかな間隙を作っておき、荒縄を横切らせて罠を張っていた。
 荒縄の片端は結びつけるものを見繕い、もう片方は阿修羅が通る直前に自ら引っ張ったのである。
 幽士はあくまで人間の時の概念で活動しており、葉や草など通行するのに支障のないものは音もなく通り抜けるが、木や崩れた土砂や行く手を塞ぐ壁などは通過できない。
 それは無意識下であっても同じこと。『縄に足が引っかかったら転ぶ』という概念を身体が覚えてしまっているために、知恵が回らないことも相まってこんな初歩的な罠にも容易に引っかかってしまうのだ。
 オラースの発想の勝利というべきか。通路の中心あたりで態勢を崩した阿修羅に対し、待ってやるほど開拓者たちに余裕はない。
「反撃開始ですよ〜!」
「いざ、旅立ちの案内を仕らん!」
 明夜珠の援護を受け、いの一番に接近した井伊。その攻撃は弾かれてしまったが、阿修羅の背後から志藤が迫る!
 しかし阿修羅は一つの頭部に笑い・冷血・怒りの三つの顔を持つ。背後からであろうと横からであろうと360°の視界があり、志藤の攻撃をも弾く‥‥が!?
「織り込み済みです!」
 志藤は五月雨を発動し、連続攻撃を仕掛ける。
 二撃目が弾かれてもなお二度目の五月雨を発動、三撃目、四撃目と手数を増やす!
 片方の腕は三本。四撃目の攻撃を体を捻り、反対側の腕の一本で弾く!
「いけ、井伊! 今までの鬱憤を晴らしてやれ!」
「お心遣い、感謝ですよー!」
 明夜珠が援護として放った顔面への矢を、思わず打ち払ってしまった阿修羅。
 これで計六回、僅かな間に腕の全てを使わされてしまった。いくらなんでもこの状態ではもう武器受けは不可能だ。
 そしてやはり鉄の壁による通路‥‥これが地味ながら大きく効いた。横に逃げることも、5mという高さから上に逃げることもできない。
 今まで常に損な役回りとなってきた井伊。それを払拭するかのように、蹴りから続く新陰流+タイ捨剣の轟剣が阿修羅を袈裟懸けに斬り裂いた。
 血は出ない。しかし、半透明の体ながら大きく開いた傷口はダメージが決して軽くないことを示している。
 それでも‥‥哀れな人造阿修羅は戦うことを止めない。植えつけられた『この場所を守れ』『侵入者を殺せ』という命令を実行しようと震える手で剣を構える。
「小雪を名乗るんだし‥‥これ以上の醜態を見せたら、大先輩に笑われちゃうわね、っと」
「あの人‥‥ううん、あの人達も被害者だもんね。終わりにしてあげようよ」
「任せときなさい。‥‥アンタの為に極上の装備と極上の術を用意してあげたわ‥‥安心して極楽に逝きなさい?」
 そう言って、鴇ノ宮はアラハバキという陰陽符に装備を切り替える。
 強力な陰陽道の符だ。これを触媒に繰り出される陰陽術が恐ろしい威力を秘めることは想像に難くない。
 阿修羅の術に対する抵抗力が尋常でないのは経験済みだ。しかし、これなら‥‥!?
「白狐‥‥風っていう字で繋がった大先輩との絆、守って見せなさい!」
 明夜珠の隣で術を発動した鴇ノ宮。大型の九尾の狐がその姿を表し、弧を描き矢のように阿修羅へと向かっていく。
 六本の剣を集中させてガードし、白狐に耐えようとする阿修羅。
 しかし‥‥!
「私のことをお忘れですか?」
 コルリスに背後から矢を射掛けられ、思わず膝をつく。
 本能で行動するからこそわかるのだろう。目の前の術の直撃をもらったらヤバイ、と。
「二匹目! 行けぇぇぇっ!」
 その声と共に、もう一体九尾の狐が出現する。
 こちらも弧を描いて阿修羅に肉薄し、激突する!
 その瞬間、六本の刀剣が同時に粉砕され‥‥白き獣が阿修羅を飲み込んだのであった―――

●悪行の記録
 無事に阿修羅を撃破した開拓者たちは、この場所での全てが終わったことを悟った。
 最奥の研究所を調べる前に遺体安置場所に寄った一行は、その報告を済ませ黙祷を捧げるのだった。
「これはもふらのぬいぐるみだ。聞いた話だが、もふらは死者を迷わずあの世に連れて行ってくれるらしい。いまさら遅いのかも知れないけれど‥‥せめて今からでも、安らかに‥‥」
 要請すれば石鏡の役人が丁重に弔ってくれるだろう。ならばせめて、今はこのもふらのぬいぐるみに死者を慰めてやって欲しい。それが明夜珠の願いだった。
「‥‥確か、彼岸花の花言葉は『また会う日を楽しみに』だったか。彼らの魂が正しく巡り、また人としてこの世界で会えたなら‥‥そうなればいいな」
 手にした華妖弓に描かれた彼岸花に目が止まり、そう呟いた明夜珠。
 そんなセンチメンタリズムを笑う者など、この場には居なかった。

 さて、散々苦労をかけられてようやくたどり着いた研究所。
 照明のようなものは一切無いので松明頼りであるが、今回は予備がたくさんあるので問題ない。
 床には赤黒く変色した血の跡がそこかしこにあり、凄惨な研究が行われていたであろうことは一目瞭然であったという。
 木箱なども多数あるのだが、開けてみても杭やら鋸やらの物騒なものと、薬でも入れたのかと思うような器ばかり。
 以前手に入れた紙の研究記録のようなものがあれば助かるのだが、ひっくり返してみても見当たらないのだ。
「うーん‥‥研究所を移動したときに持って行っちゃったのかな」
「それか、主要なモンは頭の中にだけ‥‥ってタイプだったのかもな」
 琉宇とオラースは埃だらけの朽ちた研究所に辟易しているようだ。
 とりあえず陰陽師が使う符のようなものがちょこちょこ見かけられるので、犯人が陰陽師かそれに類する存在であろうということは想像に難くないが‥‥。
「‥‥おや? 井伊殿、この岩を退かせますか?」
「はいはいっと。何かお気付きになったんですか?」
「はい。この岩は、上のあの部分から落ちてきたものではないかと」
 上を見ると、松明の火に照らされて、壁部分に大きく窪んだ箇所があるのが見て取れた。
 高さは4〜5m。よく割れなかったものである。
 井伊が強力を使用し、岩を退かしてみると‥‥そこには、変色しきった紙が四枚ほど下敷きにされていた。
「いいですね、貴重な手がかりになります‥‥よ‥‥?」
 それを拾い集めていたコルリスの手が、ピタリと止まる。
 真っ茶色に黒い墨汁で書かれているので分かりづらいが、コルリスにはそこに描かれていた物に見覚えがあったのだ。いや‥‥一度見たら忘れようがないと言ったほうがいいか。
「これは―――」
 兎にも角にも、幽士に纏わる物語はこれにて幕を閉じる。
 発見された研究記録に描かれていた物については‥‥また別の物語である―――
「これは‥‥獣骨髑髏―――!?」