【AH】ごろごろごろ
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/25 06:03



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「はい、今日はアヤカシハンターの依頼をご紹介しますっ!」
「あら、随分ストレートに来たわね」
「暑いと言うと余計に暑く感じるので、余計な話題を無しにしてみようかと‥‥」
「‥‥涙ぐましいわね‥‥」
 ある日の開拓者ギルド。
 まだまだ暑い日が続く天儀。神楽の都も例外ではない。
 風を通してあるとは言えギルド内も暑い。かといって外は日差しでもっと暑い。
 職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉は、当たり前の話だがそれでも仕事に従事している。
「ちなみに今回のアヤカシは、丸‥‥です」
「丸?」
「はい。真ん丸なアヤカシだそうです」
 そう言われた一葉の脳内に、真円のイメージが浮かんだ。
「で、目が二つあって‥‥」
 そこに小さい黒丸の目が二つ付け加えられ‥‥
「三角っぽい形の口があるらしいんです」
 更に真三角の口が描き加えられ、黄色に塗りつぶされて、ついでに『ノ』の字のような手が勝手に追加された。
「‥‥どこかにいなかった? こんなキャラクター」
「はい、多分先輩の想像は大いに間違ってると思います」
 そのアヤカシは石鏡の山に発生したアヤカシで、真ん丸な岩のようなアヤカシだという。
 山の斜面を猛スピードで転がり、旅人や付近の住民が近づくと轢き殺しつつ捕食するという、質の悪いものである。
 灰色で頑強そうな外見通り非常に硬く、継ぎ目などない真ん丸の岩なので継ぎ目を狙うのも不可能。
 そして自らを質量弾とした体当たり。坂で加速が付いていたら開拓者でも無事では済まない。
「‥‥ん? でもそれって、一度転がったらもう登れないんじゃ‥‥」
「相手はアヤカシですよ? 自分から転がって平地でも人を襲いますし、山を登るのも朝飯前だそうです」
「流石新種ってわけね‥‥」
「ちなみに名前は、岩々と書いてがんがんと読むらしいです。是非たたき割っちゃって欲しいものですね♪」
 大の大人の1.5倍ほどの大きさがあるという巨大な岩。それがいきなり転がって襲ってくるとなれば相当恐い。
 随分地味なアヤカシであるが、なるべく速やかに排除していただきたい―――


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
フレイア(ib0257
28歳・女・魔


■リプレイ本文

●穴掘り
 件の山に到着した開拓者たちは、早速現地の探索を行った。
 事前の作戦を実行するにはどうしてもある程度開けた場所が欲しい。欲を言えば平地、最悪でも山の中で最も広い空き地がないと作戦に支障が出る。
 その作戦内容とは‥‥
「掘って、掘って、また掘って〜っと。うーん、土が硬くて手間取りますね〜」
「ここ最近雨が降っていないらしいからな、乾ききっているんだろう。山の中は場所が無いのだから仕方が無い」
「どこにいるか知らないが、山の中からここまで誘導してくるのは骨が折れそうだけどな」
 井伊 貴政(ia0213)を筆頭に、開拓者の中でも体力のある者が揃って道具を手にし、地面に穴を掘っているのである。
 真ん丸な岩のようなアヤカシが相手とあり、落とし穴を掘ってその中にアヤカシを落とし、じっくりと料理する‥‥つまりはそういうことだ。
 作戦自体はシンプルで良いが、言うは易し行うは難し。羅喉丸(ia0347)がツッコんだように日照りのせいか地面が掘り辛く、罠を張る場所も山から少々遠い。
 汗を拭いながら山を見た巴 渓(ia1334)の呟きは、開拓者全員の代弁をしている。
「疲れたときは甘いものがいいアルよ。饅頭喰うカ?」
「‥‥喉に詰まりそうなんで遠慮するわ。あーあ、これでも効率は悪くないはずなんだけどなぁ」
「最近暑いから水分補給は忘れないように‥‥ってか、飲まないとヤベェから飲むんだぞ。一応水は余分に持ってきてるからよ」
 交代して穴掘りに従事する梢・飛鈴(ia0034)たち。
 今日も今日とてギラつく日光は、開拓者たちの体力を容赦なく奪っていく。
 梢がいつも持ち歩いているという饅頭を弖志峰 直羽(ia1884)に勧めたが、栄養云々はともかくこのクソ暑い中に饅頭はちょっと遠慮したかったのだろう。
 それを聞いていた北條 黯羽(ia0072)は、水がたっぷり入った竹筒を弖志峰に渡して饅頭ももらっておけと促した。
 熱中症は屋内でも起こると言うが、屋外の方がより危険なのは言うまでもない。
 直射日光の下で長時間作業する時は必要以上に水分を取ること。僕と君との約束だ!(何)
「ふぅ‥‥みなさんよく頑張られますこと。あなたも、この炎天下によく演奏なんて続きますわね」
「私は、これくらいしかお手伝いできませんから‥‥。そちらの魔法設置はどうですか?」
「あまり早くやっても消滅してしまいますもの。もう少し後から始めますわ」
 フレイア(ib0257)とシャンテ・ラインハルト(ib0069)は穴掘りに参加していないメンバーであるが、それぞれ魔法での地雷原構築や武勇の曲で穴掘りの効率補助とやるべき事がある。
 直径2.5メートルもの岩を丸ごと嵌めるには、まだ穴は浅く狭い。
 作戦の根幹を担う作業は、まだまだ続きそうである―――

●誘き出し
 穴が深さ2メートルを越えるか越えないか辺りになった時、作業は一旦中止され、開拓者たちは二班に別れた。
 即ち、穴付近で待機しながら落とし穴を完成させる班と、アヤカシ‥‥岩々を誘き寄せてくる班である。
 穴の完成までもう少しなので、体力的に劣るメンバーが残って完成させるのにも問題はあるまい。むしろ、囮を担うメンバーが上手くやれるかが問題だった。
 先にも話が出たが、穴を掘っている場所は山自体から少し離れ気味で、闘いながら誘導するのは少々骨が折れることだろう。
 山にも問題があり、岩場が多く木がまばらで身を隠す場所が少ない。
 逆に相手を見つけやすいという利点にもなり得るが‥‥。
「いた、あれだな。本当に真ん丸だな‥‥」
「結構な急斜面アルな。どうやって登ったカ」
 事前情報通り、羅喉丸が山の斜面に不自然なくらい真ん丸な岩を発見する。
 顔は反対側にあるのか確認できなかったが、あれを人工的に作るのも無理そうだ。
 岩々は人が近づくと転がり落ちてきて捕食を開始するという。
 ならば‥‥
「ストーンウォールを作成しておきます。とは言っても過信はなさらないでください」
「りょーかいですー。それじゃ、もうちょっと近づきますよ〜」
 フレイアのストーンウォールを背にし、慎重に近づいていく井伊。
 噂に聞く体当たりがどれほどのものか確かめるには、SWは良い材料ではある。
 井伊が岩々から三十メートルほどまでに近づいた辺りで、斜面から小石が転がり落ちる。
 見上げると丸い岩がぐらぐら動き、ゆっくりとこちらへ身を乗り出しているところだった‥‥!
「やばっ!」
 井伊が横に退避するのと岩々が転がり落ちてくるのはほぼ同時だった。
 急激に加速を付け、井伊の横を猛スピードで駆け抜けてく。
 そしてSWにぶつかった岩々は、それを一瞬でなぎ倒して‥‥跳んでいった。
 どうやら倒れたSWがジャンプ台のような役割を果たしてしまったらしく、杉の林の方へぴゅーんと放り出されていったのである。
 それを見送るしか無かった囮組の四人は、しばし呆然とした後‥‥
「‥‥お、追いましょう」
「あは〜。あれで岩にぶつかって割れてくれたら楽なんですけどね〜」
 思わぬ事故で見失ってしまった岩々を探すため、四人は杉の林を目指したのだった―――

●爆走の後先
 囮組が出発してはや4時間が過ぎた。
 一向に連絡がないのが気になるところだ。見つけられないということはないだろうから、まさかの事態に陥ったのだろうか。
 穴はすでに完成し、弖志峰の提案でカモフラージュも施されている徹底ぶりだ。
 そういう意味では、作業中を狙われたりしなかっただけ遠いのも悪いことではない。
「遅いね‥‥何やってんだい、あいつらは」
「最悪の事態を想定すべきかねぇ? あの四人に限ってやられたということもないと思うんだけどさー」
 北條と弖志峰は山のほうを見ながら呟くが、まだもう一班の姿は見えない。
 日も傾き始め、そろそろ夕日が照らす時間帯に差し掛かっている。夜になってしまうと岩々の退治どころか四人の遭難を心配しなければならなくなる。
 と、そんな時だ。
「っ! 今の声は‥‥井伊の咆哮か!?」
「‥‥来ます」
 巴の声に続き、シャンテがポツリと呟く。
 すると、遠くの山道の入り口から、囮組四人が転がりでてくるのが見て取れた。
 そして、それを轢き殺すべく爆走する巨大な丸い岩も‥‥!
「はっ、ありゃすごいねぇ。狭い通路に出てきたら一発お陀仏じゃないか」
「感心してる場合か。こっちからも迎えに行くぜ。上手くすれば狙いを分散できる」

「はぁっ、はぁっ、いい加減、しつこい、ですわ‥‥!」
「フレイアさん、もう少しですよ〜。頑張って〜」
「よ、余裕だな、井伊殿は‥‥!」
「これくらい饅頭があれば楽勝アル」
「おまえさんはなんか間違ってるがな!」
 自分より体力のある井伊が余裕があるのはまだ分かるが、体力が劣るはずの梢が余裕綽々なのは何故なのだろう。
 というより、長時間逃げ回りながら水も無しに饅頭を喰い続けられるのも意味不明だ。
 追い詰められている焦燥感もあって、羅喉丸はかなりイライラしていた。
 岩々の自力走行はかなり速く、一行を追い越すことも朝飯前。故に、逃げながら避けながらで戻るしかなく、山という場所的なものもあり体力的にかなりしんどい。
「このっ、紅砲!」
 要所要所で紅砲を叩き込んでみるが、効いているのかいないのかよく分からない。
 岩々は痛がる様子もなく転がり続けるが、あちこちに破片をまき散らしているのも事実。
 とにかく、下敷きにされて捕食されるのだけは絶対に避けなければならない以上、フレイアを守りながらの逃走劇はそろそろ限界かもしれない。
「こっちですよー! さぁさぁ、ここまでおいでっ!」
 井伊の咆哮に釣られ、落とし穴のある方へ誘導されていく岩々。
 後方から梢の気功掌も飛ぶが、足を止めさせるには繋がらない。
「硬ってーアルな。ちゅーか、破片が飛んできて危ないアル」
「もう少し‥‥あと少しで、きっとー!」
 必死に逃げ回りながら落とし穴を目指す井伊。
 その視界に残りの仲間の姿が入ったのは、そろそろ足が笑い始めたころであった。
「後は任せな。そら、目的地はもうちょっと左さね」
 飛び退いた井伊を無視し、岩々は進路上に現れた北條に向かって直進する。
 しかし北條は結界呪符「黒」を斜めに向けて発動し、岩々を受け止めるのではなく『進路を変更』させた。
 入射角がもっと深かったら壁ごと轢かれていたかも知れないが、そこは北條の腕前か。
「お? なんか思ってたより形が歪だな。まぁいいや‥‥こっちだぜ、来な!」
 それを巴が引き継ぎ、穴へ誘導する。
 そういえば真ん丸だったはずの岩々の身体は、度重なる羅喉丸や梢の攻撃で微妙に凸凹にされている。
 あまり攻撃をしすぎると穴に落とす前に逃げてしまうかも知れない。単純な追いかけっこでは開拓者に分が悪いので、それは避けたかった。
 巴はあえて攻撃せずに逃げまわり、ようやく落とし穴を岩々との間に来るよう位置取れた。
「来い来い来い来い、ぁ来た来た来た来たぁぁぁっ!」
 猛スピードで突っ込んでくる岩々。しかし、巴の手前数メートルのところで地面が崩れる。それは開拓者たちが掘った落し穴にほかならない。
 やった! そう、誰もが思ったが‥‥!
 がつん、きゅるきゅるきゅる‥‥!
 勢い余って穴の縁にぶつかり、巨体が回転したまま宙に浮かぶ‥‥!
 ヤバイ。あのままでは穴のギリギリ外に着地する。そうなったらもうあいつは落とし穴に引っかからないかも知れない。
 岩々が着地するまでのほんの一瞬の出来事だが、開拓者たちにはスローモーションのように感じられ、悪い予感しかしなかった。
 炎天下に散々苦労して落とし穴を掘ったのだ。無駄にするわけには‥‥
「いかねぇよなぁ!?」
 術の準備をしていた弖志峰 直羽は素晴らしい反応速度で術を発動し‥‥岩々ではなく、着地するであろう穴の縁辺りに力の歪みを使った。
 上手く転がるかは運次第だが、少なくとも平地に落とすわけには行かない! その思いが通じたのか、ずしんと着地した岩々がぐらりと穴の方へ傾き‥‥
 ずぅぅぅぅぅん‥‥!
 軽い地響きを伴い、見事すっぽりと落とし穴へと転落した。
 その場でギュルギュル回転しているが、登れるわけがない。飛行でも出来れば話は別だが。
「ふっふっふ‥‥ざっつびぎんざきりんぐたーいむアルぜー」
「はぁっ、はぁっ、や、やはり、フロストマインは、消えてしまいましたか‥‥」
「まー時間が経ちすぎてますからねー。でもまぁ、結果オーライでしょー」
「こうなってはまな板の上の鯉か。よく見るとそこそこ砕けているようだし、地道に紅砲で削るか」
 囮組も合流し、穴の中を覗いてみる。
 散々苦労させられた球体だったが、手足がないのが哀れに思えるほどだった。
 逆回転も試みる岩々だが、砂を巻き上げることすら許されない。煮るも焼くも自由、完全に詰みだ。
 後はもう語るに及ばない。北條を先頭に、術使い組が円形を留めないほどボロボロにした。
 次にシャンテの武勇の曲で強化された梢の極神点穴を叩き込まれ、岩々のあちこちにヒビが入る。
 もう回転する元気もないのか、穴の中でかすかに動くだけとなっていた。
「トドメを刺すまでが狩りです‥‥ってか。『Exceed Carge』‥‥なんてな!」
 破軍という技を連続発動し、一回、二回、三回と重ねがけする巴。
 その攻撃力の高まりは、周りで見ていた仲間たちでさえおいおいと思うほどだった。
 そして、輝かんばかりの拳が岩々に叩き込まれ‥‥相当弱っていたとは言え、あの硬い身体を文字通り粉々に砕いたのであった。
 かくして、ちょっとしたアクシデントはあったが無事作戦通りに岩々は撃破された。
 続々と発生する新型アヤカシ。アヤカシ驚異のメカニズム。
 次に現れるのは、どのようなアヤカシなのであろうか―――