女の‥‥敵?
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/09 22:00



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「一葉さん一葉さん、聞きました? 例のナンパさんのこと」
「一応はね。今は石鏡にいるんだっけ?」
 ある日の開拓者ギルド。
 職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉のコンビは、今日も今日とて仕事に勤しんでいた。
 そんな中、ふっと亜理紗が呟いた言葉。
 例のナンパさん。最近有名になってきた旅の武芸者であるという。
 その男は『女性はみな美しい』をモットーにしており、老若麗毒問わず女性に声をかけ、ナンパをしながら天儀のあちこちを旅しているらしい。
 ただ、彼が普通のナンパと違うのは『下心がない』ということだろうか。
 嘘か真か、今まで数多の女性に声をかけナンパを成功させているものの、手を出したことは一度もないという。
「なんのために声かけてるのかしらねぇ‥‥」
「お茶飲んで世間話したい‥‥っていうのじゃ理由にならないんですか?」
「お子様」
「し、失礼なっ! 私だってもう18歳ですよ、多分!」
「自称でしょ。じゃあお茶飲んで世間話して‥‥の先には何があるか知ってる?」
「そ、それは‥‥その‥‥ち、ちゅー、です。きゃっ、恥ずかしいっ」
「‥‥お子様」
「言わせといてー!?」
「いいのいいの、それも個性よ」
 なかなかのイケメンであるというそのナンパ師は、現在石鏡のとある町に滞在中。
 勿論声をかけまくっているようで、町の男連中にしてみれば面白いわけがない。
 そこで、そのナンパ師を早急に追い出してくれという依頼が舞い込んできたのである。
 ナンパは罪ではないし、悪いことをしているわけではないのだが‥‥男の嫉妬も怖いものだ。
 女性には人気があるというナンパ武芸者。
 出来れば穏便に、町から出ていっていただくようにして欲しい―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
アリステル・シュルツ(ib0053
17歳・女・騎
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
亜弥丸(ib3313
18歳・男・陰
針野(ib3728
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●被害者‥‥?
 件の町に到着した開拓者たちは、事前の打ち合わせ通りに男女に分かれて別行動を取り始めた。
 理由は様々あるが、主に女性陣がミイラ取りがミイラにならないようにするためと、男性陣がナンパ師に当たったほうが本音を聞き出せるかもという期待があってのことである。
 老若麗毒構わず女性をナンパするという話から、女性五人(?)は手当たりしだいに町の女性に話を聞いていくことにする。
 すると出るわ出るわ、聞き込みを開始してナンパされていないという人物を見つける方が難しいという有様だったという。

「あぁ、そこのお嬢さん。そう、貴女ですよ、貴女。ちょっと、僕にお話をお聞かせ願えませんか?」
 男装の麗人といった風貌のアリステル・シュルツ(ib0053)は、無自覚だが半ばナンパのような口調で一人の町娘に声をかけた。
 そんなアリステルに声をかけられただけで町娘はドキッとしたようだが、アリステルの方には自覚はない。素である。
「えっと‥‥あの武芸者さんのことですか?」
「そう、その彼です。お話をお聞かせ願いたくて。貴女ほどの可愛らしいお嬢さんを虜にしてしまうほど魅力的な男性が、一体どのような方か‥‥興味がありまして」
 仕事であるので、アリステルは率直にナンパ師のことを聞いてみる。
 町娘は少し恥ずかしそうに笑いながら、『楽しくて良い人です』と答えたという。
「しかしわからないね‥‥何故貴女だけでなく他に人にも声を掛けるのだろう。貴女だけがいてくれればそれで十分だろうにね?」
「えっ!? い、いえ、そんな、私なんて‥‥」
 すると、女性は過信でない程度の自信を持つべきであり、僕はそれのお手伝いがしたいと言っていた‥‥という証言を得たという。
 気持ちは分からなくもないが‥‥と、アリステルは空を見上げた。

「最近ええ男の人がいてるらしいね〜、どんな人やの〜?」
「えらくカッコイイ人だよ。都会にはああいう人がいっぱいいるだかなぁ。ドキドキしただよ」
「え〜、なんて言われたん? ちょっとでええから聞かしてもらえん?」
 亜弥丸(ib3313)が聞き込みをしたのは、数人固まって洗濯をしていた15歳くらいの女の子たち。
 家の手伝いをしながら例のナンパ師の話をしていたところに、亜弥丸が入っていった感じだ。
「んっとね‥‥『後三年もすれば、君はもっと美しくなるだろうね。その時に僕はもういないのが残念だよ』って。嘘でも嬉しいべなぁ」
「あたしは、『家の手伝いとは感心だね。親と子はいつまでも一緒には居られないもの‥‥。そして、働いている君はとても魅力的だ』って! 手伝いしてて褒められたんは初めてだったから嬉しかったぁ」
「でも、いきなり声かけて来はったんやろ? 恐くなかったん?」
「まぁ最初は。でも話してみるとすっごい良い人よ。なぁ?」
 うんうんと頷く女の子たち。亜弥丸にしてみれば、説得な材料となりそうな情報がなかったことは痛い。
 とりあえず噂通りイケメンであることと、実際に手を出さないことは確認できたが。

「ちょい聞きたいさー。旅の武芸者に対して何を感じたか、興味深い話題や『あれ?』と思うこととか、なかったですかね?」
 針野(ib3728)が質問した相手は、三十歳を越えたであろうおば‥‥もとい、お姉さんである。
 独身であり、大分危機感を持っているというのは蛇足だろうか。
「んー、やっぱり若い娘以外にも声をかけてることかしらねぇ。私くらいの年齢や、隣のうちのおばあちゃんにも声をかけてたみたいだし」
「おー、噂通りさー。どんな会話したんですか?」
「『君の魅力がわからないとは、この村には見る目のない男が多いものだね』とか。でも、『もしかしたら、君が魅力的すぎて自分とは釣り合わないと消極的になっているのかも知れない。君の方から声をかけてあげるのもいいかも知れないよ』とも言ってたわね。他の男のフォローもするから、ただのナンパ男って邪険にできないのよねぇ」
「はぇー。できたというか奇特な人なんよ‥‥」
 どうやら表向きは性格も良さそうである。
 聞けば聞くほど、そう思う針野であった。

「おばーちゃんもナンパされたんだ? すごいね、その人‥‥」
「ほっほっほ‥‥なに、年寄りへの心遣いじゃろうて。本気じゃありゃせんよ」
 石動 神音(ib2662)は、最年少メンバーである。
 その彼女が話を聞いたのは、齢80を越えた老婆であった。
 普通のナンパなら、失礼だがまず声をかけられない人物だろうが、件のナンパ師はそうではない。
「手を握ってなぁ、『お子さんやお孫さんを育てられてきた良い手です。尊敬に値しますよ。こういう美しさを分かる人間がもっと増えると良いのですが』と。ほっほ、年甲斐もなく胸が高鳴ったわい」
「よくわかんないけど、女性を大事にしてるってことかなぁ。何か理由とかがあるんじゃないのかな?」
「さぁなぁ。しかしの、わしのような婆ならともかく、若い娘に声をかけて我慢できる男はそうおらんよ。ひっひっひ、男はオオカミじゃからな」
「ち、違うもん! 少なくとも神音のセンセーはオオカミじゃないもん!」
「ほっほっほ。なら、あの武芸者もそうかもしれんの。ほっほっほ‥‥」
 煙に巻かれた感じがしたが、この老婆の意見としては『理由などない』ということらしい。
 人物像が理想的な方向にブレないのが逆に気持ち悪い。そう思われても仕方がなかった。

「面白い男性が今この町に逗留していると聞きまして、吟遊の種になるのではと思い‥‥」
 赤ん坊を背負った女性に声をかけたのは、シャンテ・ラインハルト(ib0069)。
 吟遊詩人である彼女は、聞き込みの理由も、相手が話す理由も一番理に適っていた。
 彼女が気にしたのは、『共通の話題が出ていないか』ということである。
 ナンパは口実で、会話をすること自体に理由があるのではと考えた。
 何かを探っている? だが、それなら男性にも声をかけてもいいじゃないかということになる。
「どなたかと仲良くされることが、他の方にとって不愉快の種になる‥‥というのは、歯がゆいですね」
「男どもに自信がないだけでしょ。うちの亭主みたいにどーんと構えてればいいのよ」
「これは‥‥ごちそうさまです」
 からからと笑う女性に、シャンテの口元も自然と緩んだという―――

●説得フェイズ
「よかったなぁ、宮本! 開拓者さんたちが来てくれればもう安心だ!」
「ギッタンギッタンにのして追い出してやってくださいね!」
「いや、そんな要望はなかっただろ」
 依頼主である町の男達を冷たく追い返し、鷲尾天斗(ia0371)たち男性陣は宿屋にてナンパ師と対面していた。
 気取った風のないざんばら髪や服装。その辺りもウケがいい理由かもしれない。
 とにかく、鷲尾の『お前、とりあえず此処に居てくれ。これ以上俺らの仕事を増やさない為に』という要請を受け、ナンパ師は宿屋でのんびりしているわけだ。
「こう言うと責めるようで申し訳ないです。でも、ご自分の行為について、こんな依頼が出るまでになっちゃったんですが、自覚ありませんか?」
 ただぼーっとしているのも芸がないので、真亡・雫(ia0432)は早速話を聞いてみることにした。
 するとナンパ師は、
「と、言われましても‥‥。女性に声を掛けるのは悪いことですか? そりゃあ、手当たりしだいに手を出しているなら問題ですが、僕はそうじゃありません。不満なら自分たちも女性に声をかければいいんです」
「うっ、正論‥‥」
「って言うか、なんで其処までナンパして手を出さないのかが不思議だ。マッタク不思議だ」
「新雪に足跡をつければ景観が崩れます。透き通った湖面に石を投げ入れれば波紋で乱れます。世の中には、実際に触れないことで美しさを保てるものが多いのですよ」
「バーロー。何のためにナンパしてんだ、お前は」
「女性の美しさを感じ、また本人にも感じてほしいからです」
「‥‥お前とはナンパについて一晩中でも語り合う必要がありそうだな」
「構いませんよ。平行線だとは思いますがね」
 割って入った鷲尾だが、彼でなくともナンパ師の意見はちょっとずれていると思うことだろう。
「そういうご意見なら、遠目から見守る、というのもありますよ。手を取らずとも、のほほんと花を愛でる事も出来ます。その人本来の自然体だからこそ良い、そういう美徳ってあるのではないかな、と」
 そう言ったのは、雪切・透夜(ib0135)。
 滞在理由は知らないが、どうもナンパの理由はやはりナンパ目的で間違いはないようだ。
 しかし、ナンパ師は首を横に振る。
「それでは女性自身に良さが伝えられません。それに、遠目から愛でるというのは一歩間違えれば変質者扱いになりますからね。そういう『暖かく見守る』という姿勢も、時に女性を勘違いさせ傷つけますよ」
「うぅっ!? そういえば最近、僕もシャンテさんに気をつけろと忠告されましたっけ‥‥。理由はわかりませんが」
「やだねー、自覚のないナンパが一番恐い」
「女性とは美学を持って接するべきです。その美学が相入れるかどうかは別にして」
「なー?」
「ねー?」
「お二人、本当は友達か何かじゃないんですか‥‥?」
『全くの初対面です』
 頭を抱えてしまった雪切に代わり真亡がツッコミを入れるが、何故か鷲尾まで一緒になってボケるから対応に困る。
 神経が削られる人物というわけではないが、やはり彼に口だけの説得は無理そうと感じた。
 そんな時、女性陣が聞き込みを終え宿屋に戻って来る。
「まぁ、旅のナンパ武芸者だから放っておいても街からは出るだろうがなぁ‥‥別な街で同じ問題起こされても困るしなぁ。なんで女性全部にナンパなんかしてる? モットーだとしても数的に異常だぞ」
(急に真面目に仕事しだしたね‥‥)
(神音さんがいるから元気になったんじゃありませんか‥‥?)
 小声で話す雪切と真亡はきっぱり無視し、鷲尾はナンパ師に質問をぶつける。
「確かにそろそろお暇しようと思っていました。しかし、僕はこの世に女性が居る限り声をかけ続けますよ。あなたは美しいものがお嫌いなんですか?」
「むしろ大好きだ!」
『駄目じゃん!』
 思わず即答してしまった鷲尾に、仲間から総ツッコミが入る。
 お手上げ状態で首を振る雪切と真亡の様子を見て、今度は女性陣が説得に当たることになったらしいが‥‥。
「貴方が例の色男さんかい? そもそも何故旅をするのか知りたいな」
「様々な美にめぐり合いたいから‥‥でしょうか。君のような美しさにも初めてお目にかかる。これこそが旅の醍醐味というもの。幸運だね」
「あ、ありのまま、今起こったことを話すよ‥‥『僕は説得していたと思ったらナンパされかけていた』。でも釣られないもん。僕には心に決めた人がいるんだからねっ」
「それは素敵なことです。恋する女性は更に美しい。応援しますよ」
「うぅっ‥‥話が堂々巡りだね‥‥」
「‥‥アリス、顔赤い」
「そ、そそそそんなことないよ! シャンテ、からかわないでよ!」
 アリステル相手にも一歩も退かず、さらりと恥ずかしいことを言ってのけるナンパ師。
 理由、女性は美しいから。
 目的、女性の美しさを感じ、それを本人に伝えたいから。
 一連のナンパもそうだが、これを否定する言葉はこの場に居る開拓者には出せない。
 町の男性たちの嫉妬もある意味個人的な逆恨み。悪事でない行為を止めるには少々理由として弱いのは最初から分かっていたことではあるが‥‥。
「せやったら、ナンパをする必要をなくせばえぇんちゃう? ええ男やし、誰かと本気になってもらえば万事解決やろ」
「神音は駄目だよ!? いつかセンセーのおヨメさんになるんだから!」
「わ、わしはその、まだ『おしとやかで凛としたお姉さん』への修行中の身なんよ‥‥」
「おや‥‥無理をすることはないのに。ありのままの素朴な君も素敵ですよ?」
「うおっ!? や、やめて欲しいさー! わし、そういうの慣れてないんよー!」
「ええ男やし、なんなら自分がお持ち帰り‥‥」
「申し訳ないのですが、男性とは友情以上の感情は持てませんよ」
「えっ、嘘っ!? 亜弥丸おねーさんっておにーさんだったの!? それじゃあ、おねに―――」
「そのネタは使い古されてるからやめような、神音ちゃん。なんだ、お前ら気づかなかったのか。俺は体の匂いで初めから気づいてたぜ?」
「それはそれで何や不愉快やね‥‥。ちゅーか、名前で気付いて」
「すいません、その法則で行くと僕が女の子ということになってしまうんですけど」
「えっ」←亜弥丸
「えっ」←鷲尾
「えっ」←ナンパ師
「ちょっとぉぉぉ!?」
 最早何が何やら。
 三人の『違うの?』という表情に真亡の非難の声が上がるも、結局一行は最後までナンパ師の矯正はできずじまいであった。
 その二日後くらいにナンパ師は町を出て行ったが、それは元から出て行く予定だっただけ。それを自分たちの功績扱いにされてしまったのが逆に悔しいと思う者もいたことだろう。
 とりあえず‥‥
「雪切様。あの方に最後、なんと仰っていたのですか?」
「あぁ‥‥あれですか。『過度のナンパで町の空気が悪くなり、間接的に女性にも多少の迷惑をかけるのは不本意ではないかな?』と。少し控えてみては、と進言したまでですよ」
 男になら迷惑をかけてもいいと思っているわけではなかったらしいので、そこに女性にも迷惑が‥‥とすることで自重を促したのだ。
 実際、雪切のおかげで『多少の』自重はするようになったらしいのだが‥‥それはまた別の話である。
「‥‥では今度は、雪切様が自重する番ですね」
「いや、ですから僕は女性に優しくあれという家訓を守っているだけで‥‥」
「‥‥訂正します。『自覚』してください」
「‥‥あれれぇ‥‥?」
 男女の感情の機微は、今日も世界中でアップダウンを繰り返していることだろう―――