【SA】排除への序曲
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/18 00:24



■オープニング本文

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 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「大変よ。石鏡の上層部に動きがあるみたい。セブンアームズ(以下SA)の件、荒れるわよ」
 依頼書らしき紙をひらひらさせながらやってきたのは、ギルド職員の西沢 一葉。
 語りかけられたのは、ギルド職員で一葉の後輩、十七夜 亜理紗である。
「何が大変なんですか? いいことじゃないですか、国が対応してくれるんですから」
「忘れたの? この件は出来うる限り内密に動いてるのよ。石鏡の軍を動かしてSAを殲滅‥‥っていうわけにもいかないでしょ」
「あ、そうですよね‥‥。じゃあ、どういう流れになるんですか?」
 この件はまだ世間一般に実情を深く知られていない。
 しかし時間が経ちいつまでも公式見解を出さないと、『石鏡の町の一つがアヤカシに支配されている』と思う者が出てきても不思議ではない。
 そんな不名誉なことは国としてのプライドが許さない。だから、とりあえず秘密裏に動き出すことにしたのだろう。
「方針は、SAの排除。人はアヤカシと共存など出来ないっていうのが見解らしいからね。ただ、前の依頼でも話が出てたけど、SAはあの町では悪いことをしていない。今まで犠牲になった人たちの無念を晴らすって言う理由もつけられるけど、それは最終手段にしたいみたい」
「でも、町の人達から批判が出るのは間違いないですよ? SAさんたちに自発的に出ていってもらうようにしろとでもいうんですか?」
「出来るならそれがベストでしょうね。現実的には、SAに何か失態を演じさせるか、SA不要論に持っていけそうな状況を作るか。それが出来ないようなら、最後は力づくで‥‥っていうところかしら」
「‥‥なんて言うか‥‥なんて言いますか‥‥」
「‥‥言わないで。言いたいことは分かるわ」
 やはり人とアヤカシの共存は無理なのか。
 いきなり力づくではないものの、最終的にそうなる公算は高い。
 開拓者の動きで、事の顛末はどう変化していくのだろうか?
 いや、それ以前に‥‥変化させる必要性があるのかさえ、誰にも正解は導けない。
 居ることを望まれたアヤカシに、開拓者たちはどういう答えを出すのであろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
斎 朧(ia3446
18歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
狐火(ib0233
22歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ


■リプレイ本文

●不安
「あれが噂のセブンアームズ(以下SA)ですか? 何か、窮屈だとか言っていましたけど‥‥」
 旅の行商人といった風体に変装した狐火(ib0233)は、道行く人にそう尋ねてみた。
 超越聴覚でSAの呟きを聞きつけ、それを噂になるように街の人間に教えて回っているのだ。
 この時、嘘を言ってはいけない。SAたちが本当に口にした言葉の中で、不安を煽るような単語だけを選ばなくては駄目なのだ。
 後で噂は間違いだったなどとなっては意味が無いからである。
「そろそろ潮時かなんて言葉が聞こえて来ましたけど、大丈夫なんですかね‥‥?」
「えっ‥‥いや、まさか。聞き間違いだよ。ははは‥‥」
 狐火に声をかけられた人々は、自分に言い聞かせるように呟いて、そそくさとその場を離れる。
 普段の行動から信用しているようだが、不安感を煽るのには充分だったらしい。
 地味で時間のかかる作戦だが、SAを追い出すのに下準備は必要だ。そういう意味で、彼の行動には非常に意味がある。
「それでも『そんなはずはない』と思い込もうとしているのは重症ですね‥‥」
 そう呟くと、狐火は踵を返して仲間の元へ向かうのだった。

●選択
「今度の依頼主は国なんです」
 鈴木 透子(ia5664)は町長を目の前にして、毅然と‥‥キッパリとそう伝えた。
 町の人が、アヤカシが自分の思い通りでいてくれるというように考えてしまっている。そう感じてしまうのも無理からぬことであるし、それは事実でもあるだろう。
 ここは町にあるとある料亭。
 町長の屋敷では込み入った話は無理だろうということになり、前回連絡手段を確保していた緋神 那蝣竪(ib0462)の手引きで無事に相談ができるというわけだ。
「この街には、他所者や犯罪者の狼藉に対して、確固たる治安維持の組織や法律は無いのかしら? アヤカシに頼らなくてはならない、今の街の治安対策や法にも、問題があるのでは? まずは、そうした基盤から整えていかなくては、SAが例え素直に退去しても同じ事が起こると思うの。それを是非、町の人々と話し合って下さいませ」
 その緋神は、町の治安維持について改めて意見を述べてみる。
 町というからには勿論規律はあったのだが、豊かな石鏡にあっても地方の情勢は年々厳しくなっていっているという。
 国も手の行き届かない町は、ならず者には格好の標的。そしてそれを防ぐための力は、小さな村や町には無くなっていっている‥‥という悪循環。
「しかし、このままではこの町が破綻するのは目に見えております。国がSAの排除に取り掛かり始めたということは、国としても治安維持を約束していただけるということかと思いますが」
 ジークリンデ(ib0258)の言は憶測ではあったが、石鏡が地方の情勢を重く見始めたのは間違いないだろう。
 仮にとは言え町の治安を維持してきたSAたちを追い出しておいて、『後は自分たちで何とかしろ』とは言うまい。そんなことがあれば逆に国の威信に傷が付こうというものだ。
「しかし‥‥うむむ‥‥」
 肝心の町長の腰は重い。何とかしようとは思うが、いざとなると命は惜しいし、楽な方向に流れたくなるのが人間の心理だ。
 矢面に立つのは自分。いや、原因としてそれは当然なのだが、戦う力のない人間には勇気を出せない。
 それを責めるのは少々お門違いとも言えたが‥‥。
「アヤカシが自分の思い通りになってくれるなんて思うな」
 煮え切らない町長の様子を見て、鈴木はピシャリと言い放った。
「アヤカシが食べる側で、あたし達が食べられる側。これだって共存関係。‥‥人とアヤカシは違いすぎるから、近付き過ぎないのがお互いのため。これはお師匠様の言葉です」
 人と熊の関係に少し似ているだろうか。
 熊は率先して人を襲うわけではないが、お互い近づかないに越したことはない。
 意図せずとは言え近づいてしまった以上、早く離れるのが得策だと、鈴木はそう言っているのだ。
「たぶん、町長さんは町の皆から非難されてしまうと思います。だけど、SAに疑問を持っている人も少なくないと思います。それでも関係を断つ覚悟を持ってもらいたいのですが」
「わしは‥‥恐い。彼らの力をまざまざと見せつけられた身としては、自分が捻り殺される姿を想像してしまって恐ろしくてたまらない‥‥!」
 食いしばるように言う町長。
 その様子を見て、今まで黙っていた真亡・雫(ia0432)が初めて口を開いた。
「‥‥僕のこの怪我は、アヤカシにやられたものです。お恥ずかしい限りですが」
 別の依頼で負傷してしまったらしく、身体のあちこちに包帯などが巻かれている。
 彼ほどの手練をこうまで追い込むアヤカシも居る‥‥ということだ。
「今回素直に条件を守ってるSAだからこそ罪人以外の被害は出てないですが‥‥もし悪賢いアヤカシが来たら、此処の町は上手いこと乗っ取られてしまうんではないでしょうか。あなたはこれと同じような怪我を、この町の人々が負ってもいいと思われますか?」
 町を歩いていた時も、どうしたんですかと声をかけられたのは一度や二度ではなかった。そしてその度、真亡はアヤカシにやられたのだと真実を話していた。
 アヤカシと下手に関わることへの危機感。狐火が流した噂と相俟って、少なからず浸透しただろう。まさに怪我の功名である。
「‥‥わかりました。ですが、少しだけ時間をください。必ず、私から彼らに話しますので‥‥」
 町長はそう言うと、静かに席を立って屋敷に帰っていった。
 残された開拓者たちは手応えを感じつつ、来るSAとの対面に気を引き締めたという。
「SAに同情的な人は、彼らがどのような行いをしてきたかお忘れなのでは? 彼らが人の世で人と共存するというならば、人の法に従い罪を裁かれてからですもの」
 ジークリンデの言葉はまさに正論である。
 人は人。アヤカシはアヤカシ。種の存亡を賭けた競争であると認識しなければ、危うい―――

●説得‥‥?
「左側のSAは語尾に〜ッスと言っていたのでリュミエールというので間違いないでしょう。右側は〜じゃと言っていたのでキュリテでしょうか」
 仲間のところに戻った狐火は、口調を頼りにSAの中身を判別し伝えていた。
 実際問題、フードを取らないSAたちを見分けるにはこれしか手はない。独り言さえ聞き分ける超越聴覚様々である。
 噂を広めるのにSAに姿を見られるわけには行かない。狐火は必要なことだけ伝えると、再び下準備へと赴くのだった。
「おう、さんきゅ。野郎を引いたりしたら最悪だからな、助かった」
「おいらもだよ。話は早いほうがいいもんね!」
「町の人々まで相手取るのは面倒です。そちらの方はお願いししますね」
 鷲尾天斗(ia0371)、小伝良 虎太郎(ia0375)、斎 朧(ia3446)の三人は、実際にSAに会って説得‥‥というか町を出ていくよう促す役となった。
 斎だけは若干思考の毛色が違うのだが、今は置いておくとしよう。
 鷲尾たちはたまたま合流していた二人のSAに声をかけ、人目につかないところへと移動した。
「あ、この間はどうもッス! お元気でしたか?」
「なんじゃ、またおぬしか。よくわらわだと分かったのう」
 剛爪のリュミエール。操球のキュリテ。狐火のリサーチは正しかったようである。
 フードを取ると、ツインテールと長めのショートボブの美少女が顔を出した。
 余計なお喋りは必要あるまい。三人はすぐに本題を切り出した。
「できりゃこんなことは言いたくなかったんだが‥‥お前さん達の自警団もそろそろ潮時だと思うがな」
「君らも薄々感じてるとは思うんだけどさ、こんなのはいつまでも続かないと思うんだ。この町の人達は君らを受け入れてるけど、他所の人間はそうじゃなくて‥‥」
 きょとんとするだけのリュミエールに対し、キュリテはマントの裾で口を隠しながら、
「‥‥やはり開拓者に依頼が出されておったか。まぁ、いきなり襲いかかって来ぬだけ理性的か。で? 今日は説得にでも来たと、そういう訳かえ?」
「あらあら、すっかりバレているみたいですね」
「ありゃま。本当に恐い奴らだよ、お前らは」
 ころころ笑う斎に対し、鷲尾は飄々と諸手を上げておどけてみせた。
 鷲尾や小伝良は、SAの中でも数人は開拓者及び町長の動きに感づいているのではないかと踏んでいた。
 それは漠然とした予感めいたものでしか無かったが、少なくともキュリテは察知していたらしい。今日のことで確信を持ったということなのだろうが‥‥。
「知った顔が何度も近場をちょろちょろすれば嫌でも気づくわ。天儀は狭いようで広い。たまたまがそう何度も起きるものか」
「す、すいません、自分、気付かなかったッス‥‥」
「おぬしは三番目くらいにアホじゃからの。仕方ないわ」
「うぅっ。酷いッス‥‥」
 リュミエールより更に下位のメンバーが気になったが、とりあえず置いておく。
「何にせよ、このまま長居していればいずれ石鏡に討伐されるぞ。アヤカシに町を仕切られちゃ上のつまらん面子が丸つぶれだからな。俺としては、ツマラン戦いでお前達を失いたくは無い」
「‥‥今のままだといずれ君らを本気で排除しようって動きが絶対出てくると思うし、もしそういう依頼が出たなら、おいらは多分それを受ける。君らの邪魔をしにいくよ」
 鷲尾と小伝良の態度は対象的だ。
 片やナンパのように飄々と。
 片や決意を秘めた熱い眼差しと。
 しかし、意見は同じだ。さっさと町を出て行け。乱暴に言えばそうなる。
 キュリテは目を細めて、
「別にわらわは構わぬぞえ。ここの暮らしは性に合わんでな。ただ、団体行動故にそのルールや決定は守らねばなるまいよ。話は通してやるが時間を貰うぞ」
「どうぞ御自由に。一秒でも早く消えてくださることを祈っていますわ」
「あ、あの‥‥自分たち、あなたに恨みを買うようなことしたッスか? さ、さっきから恐いッス‥‥」
 笑顔でバッサリ言う斎に、リュミエールがおずおずと声をかける。
 斎はいつものスマイルを向けた後、
「さぁ? 私も覚えはありませんね」
 と、明らかにはぐらかしたいい草で会話を打ち切った。
 恨みを買う覚えがない。そう言ってしまえる時点でリュミエールも確かにアヤカシだ。
「まぁ迷惑だろうが、俺はお前達に奇妙な親しみを感じてる。美少女(一部除く)だし、何度か命削って戦ってるしな。だから今みたいに敵意を向けないときは戦わない。戦う時は全てがどうでもよく、ただ生き残る為だけのギリギリの戦いがしたい。ただそれだけだ」
「‥‥戦士がどうこうなどと言い出すでないぞ? わらわたちはアヤカシという一つの種として生きておるだけじゃ。そのようなロマンチシズム、虫酸が走るわ」
「けど、出来る事なら‥‥本当に、今のうちに君ら自らこの町を出て行って欲しい。その上で、余計なイザコザの無い状況で君らとちゃんとケリをつけたい。君らも『ゲーム』にいちいち横槍入るの面倒じゃない?」
「えっ、そうッスか? そう言うのも含めてゲームッスよ。せ、成功すると分かってるゲームなんて面白くもなんともないッス」
「そ、そりゃそうなんだけど‥‥決闘、少しは考えてくれると嬉しいな」
「どちらにせよ、仲間に相談してからじゃな。そちらも相応の義理は果たしてもらえるのじゃろうな?」
「はい。人の町は人の手で守るもの‥‥それが当たり前とお気づきになられたようですし」
 焦る必要はないし、仲間と相談させろというSAの主張ももっともだ。今回はこれで引き下がるのが妥当だろうか。
 空気が少し緩んだとき、鷲尾が声を上げる。
「そうだ、リュミエール。おまえさんに土産があったんだ。こっちのはシエルに渡してやってくれ」
「じ、自分にッスか!? わぁ、もふらのぬいぐるみッス! あ、ありがとうございますッス! ほらほらキュリテさん、ふかふかッスよ!」
「‥‥そんなものが嬉しいのかえ? おぬしもようわからん精神構造しておるのう」
 無邪気に喜ぶリュミエール。SAも個人で大分趣味が違うらしい。
「じゃあついでにおいらも。仲間から聞いておいてって言われたことがあったんだ」
「おぬしは質問が好きじゃのう‥‥。申してみよ」
「おいらのじゃないってば。えっとね‥‥『貴方たちも、自分以外のものが自分と同じくらい大切だって感じること、ありますか?』だって」
「ど、どういう意味ッスかねぇ‥‥? SAの仲間は大切ッスけど」
「さてな‥‥。まぁ大切とは違うが、おぬしたち開拓者のことは面白いと思うておるぞ。喰ってしまうには惜しいくらいにはな」
「あ、自分、二丁目のおばあちゃん好きッスよ? 美味しいおはぎくれるッス!」
「結局食欲かよ!」
 鷲尾のツッコミなどでしばらく議論を続けていたが、SAたちはやがて帰ると言い出した。
 フードを被って去っていく二人を見送り、その姿が完全に見えなくなった後‥‥小伝良が呟く。
「‥‥あんなのあげてよかったの? やりにくくならない?」
「なーに、俺は美少女には優しいんだ。だが戦うとなったら容赦はしない。その辺りは割り切ってるさ、少年」
「すごいね‥‥おいらなんて、なんだか人間の方が勝手なように思えちゃってるのに‥‥」
 複雑な心境の小伝良。表立ってはスケベ心で動いている鷲尾。
 しかし、斎だけはいつもの笑顔で、ぽつりと呟いていた。
「‥‥次に見える時は、しっかりと準備をしなければいけませんわね。この町から出れば‥‥攻撃に遠慮はいりませから」
 人は人、アヤカシはアヤカシ。仲良く出来ていたのがそもそも不自然だったのだ。
 SAたちがどういう決定をするにしろ‥‥次は穏便には済まないだろう―――