獣骨髑髏、再び
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/18 20:51



■オープニング本文

 獣骨髑髏。それは、天儀の遙か高空を浮遊している巨大なアヤカシである。
 がしゃどくろの亜種であると言われ、獲物を獲る時だけ自由落下で落ちて来てまた上空に戻る大迷惑な存在なのだ。
 朋友の龍たちの限界高度に常時いるため、発見は困難。過去に一度討伐依頼が出された際は、開拓者の善戦むなしく雲の中へと消えて行ってしまい、しばらく行方不明になっていた。
 しかしつい最近、獣骨髑髏と思わしき巨大なアヤカシが落ちてきたことが目撃されたことを受け、石鏡の手の者がその行方を追跡。空に漂うその姿を再び捕捉し、監視しているのだと言う。
 遙か高空とはいえ、自分の頭上にアヤカシがいるかも知れないというのは気持ちのいいものではないし、それがいきなり降ってこようものなら何を況やである。
 開拓者ギルドに再び出された討伐依頼。現状分かっている獣骨髑髏の情報は以下のとおりである。


一つ、上半身だけの巨大な獣の骨の姿をしている。
二つ、噛み付かれると吸血攻撃をされる。
三つ、馬鹿力。
四つ、首が180°回転し、口から無刃と呼ばれる衝撃波のようなものを吐く。
五つ、翼で飛んでいるわけではないので、上下左右斜めと予備動作無しの飛行をする。


 これらだけでも充分に感じ取れるかなりの強敵である。重要になってくるのは、開拓者と龍の絆。そしてチームワークである。
 朋友必須の超高空の戦い。空を我が物顔で漂うアヤカシを撃破するためにも、是非力を貸していただきたい―――


■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
喪越(ia1670
33歳・男・陰
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
風和 律(ib0749
21歳・女・騎


■リプレイ本文

●空の音
 ひゅうひゅうと風の音。ごうごうと風の音。
 雲海を眼下に見ながら、開拓者たちは天儀の遥か上空に位置していた。
 そして、その視線の先。
 満天の星空の下、月明かりに照らされた雲海の向こうで、アヤカシが瞬いて―――
「NO! 実際に夜だったら洒落にならねぇからその前振りはナシだってばYO!」
 ‥‥もとい、太陽が輝き青く澄み渡る空の向こうで、アヤカシは静かに浮遊していた。
 下の雲は黒く淀んだ巨大な雷雲のようだ。ごろごろという雷の音が先程から辺りに響いているが、雲の上なので晴天というミスマッチな状況となっている。
 まぁ、それがヤツの不気味さを引き立たせていると言えなくも無いが。
 獣骨髑髏と呼ばれる巨大ながしゃどくろというアヤカシの亜種を撃破するため、開拓者たちは朋友である龍たちの限界高度ギリギリまで昇りその姿を捉える。
 監視していた石鏡の連絡員は下がらせ、一定の距離を保って遠巻きにしていた。
 限界高度ギリギリまでの上昇は朋友に多大な負担を与えるし、龍たちも開拓者もしばらく体を慣らさないと高山病のようなものになってしまうかも知れない。
 作戦タイムも欲しいところなので、獣骨髑髏との戦いの前のこの時間は不可避と言っていい。
「さっきは誰に言ってたんだ? お前の術は重要どころなんだからしっかりしてくれや」
「気にすんなよアミーゴ。ちょいとフィーリングがバッドだったってだけSA!」
「チャラいのう‥‥。まぁよい、御託より実績じゃ」
 鬼灯 仄(ia1257)は、シロという龍に乗り煙管を咥えたまま喪越(ia1670)にツッコミを入れた。
 流石に遥か上空で煙草も無かったのだろう。煙管の中は空であり、気分を出すだけのアイテムとなっているのが寂しい。
 チャラいと言われてしまった喪越であったが、こう見えて歴戦の実力派陰陽師である。相棒である鎧阿との付き合いも長く、静かに期待を持たれていた。
 最初はふざけて夜に戦おうと言っていたが、当たり障りなく昼間の戦いを実行する。
 そして輝夜(ia1150)は、軽くツッコミを入れただけですぐに獣骨髑髏に視線を戻した。
 彼女と相棒の輝龍夜桜は以前にも獣骨髑髏と戦ったことがあり、悔しい思いをした経緯がある。
 その雪辱を晴らせるか。進化し続ける輝夜と輝桜の力を見せつけて欲しいものである。
「しかし、本当に動きませんね。あのまま動かないならどれだけ浮かんでいても構わないんですけれども‥‥」
「遥か高みを舞うアヤカシ。常日頃から被害をまき散らすわけではないにしても、いつどこへ下りるか、どこで襲われるかわからない、というのは恐ろしい負担だ。なにせ、逃げることも出来ないからな‥‥ならばこそ、ここで落とす」
「はい‥‥そのような不条理で命を落す方をこれ以上増やしたくありませんものね」
 山紫という龍を駆るコルリス・フェネストラ(ia9657)の台詞は、獣骨髑髏を初めて見た者が大概抱く感慨だ。
 良すぎる視界にさして遠くない距離。それでも動きを見せないのを見せられていると、このまま何もしないのではないかとさえ思えてしまう。
 しかし違う。風和 律(ib0749)が言うように、頻度は低いとはいえ被害者が出ているのだ。
 行動を起こせば必ず被害が出ているという現状を聞き、風和は相棒である砦鹿の手綱を握りしめる。
 沢渡さやか(ia0078)は、常日頃から人を助けるためならば自らの危険も省みず飛び込み、大怪我を負うことも多いという。
 そんな彼女だけに、天災とも言えない不条理を撒き散らす獣骨髑髏を許せないのだろうか。そんな沢渡の心に共鳴するかのように、彼女の相棒であるカブトが低く唸りを上げていた。
 と、そんな時である。
「動く‥‥!? まさか、獲物を‥‥!」
「いや‥‥違うな。何かに気づいたような感じだが‥‥」
 慌てて弓を構えかけた茜ヶ原 ほとり(ia9204)を制しながら、神鷹 弦一郎(ia5349)は獣骨髑髏の様子をそう判断した。
 辺りをキョロキョロ見回すような仕草は、以前ヤツが撤退するときに見せたものと思われる。こちらに気づいたというわけではないらしい。
 茜ヶ原がクロエを、神鷹が八尋を巧みに操り、戦闘の準備をする。
 こちらに来るならまだいいが、例のごとく雲海に身を沈められると非常に困る。
 必然的に下降することになるので上を取りやすくはなるだろうが、視界が悪くなるしそのまま見失ってしまうのも上手くない。仕掛けるなら今しかないか。
「仕事の時間だ。‥‥行くぞ、八尋」
 神鷹の静かな言葉を合図にして、開拓者たちは獣骨髑髏へと突き進む―――

●戦闘潮流
 開拓者たちが突っ込んできたことに気づいた獣骨髑髏は、飛び去ろうとするのを止めくるりと振り返った。
 それは明らかな迎撃の意思。以前のように攻撃されるまで無視というわけではないようだ。
 その瞳の部分に灯った真紅の光が開拓者たちを射抜く。
「散開して上下に分かれるぞ! 上が取れんのならヤツと同じ高さでもかまわんのじゃ!」
 輝夜の声に応じ、事前の作戦通り開拓者は分散して獣骨髑髏を取り囲む。
 ヤツが口から吐く無刃を警戒するという面もあるが、何より少しでも高度を下げさせたいというのが主目的である。
 しかし、輝夜の咆哮にも獣骨髑髏は振り向きさえせず‥‥一番手近な目標に肉薄する。
 滑るような予備動作無しの動き。避けきれなくはないが、どうも不意を打たれる!
「ハッ、お目が高いねェ。本当はファーストアタックは他の奴に任せたかったんだがYO!」
 喪越と鎧阿は素早く反応し、後退しつつ、突っ込んでくる獣骨髑髏に向かって大龍符を仕掛け、それに紛れて焙烙玉を投げつけた。
 鼻先で炸裂した焙烙玉。しかし獣骨髑髏は、大龍符も全く意に介さず何事もなかったかのように爆煙をかき分けて突き進む‥‥!
「絶望のカーニボゥ‥‥! 接近戦上等だZE!」
 この程度は想定済みだったらしく、喪越と鎧阿は振り上げられた獣骨髑髏の爪に対しすぐさま防御姿勢を取った。鎧阿のスピードでは避け切れないし、防御に自信のある鎧阿なら‥‥と思ったのだろう。
 その考え方は正しかったが‥‥
 バギャンッ!
「おいおいっ!?」
 ダメージこそ致命傷に至らないが、喪越と鎧阿は数十メートル下へと叩き落とされる。
 体勢を立て直し、まだ飛べることは確認したが、鎧阿の鎧には大きなひび割れが出来ている‥‥!
「お任せください。この程度ならすぐに治りますよ」
 沢渡とカブトが急行し、その傷は癒してもらえたが‥‥あまり乱発できないことは覚えておこう。
「噂以上だな‥‥。ほとりさん、連携でいこう」
「分かりました。弦一郎さんとならやれると思う‥‥!」
 神鷹と茜ヶ原はいい雰囲気になることもある仲であるらしい。
 その絆を武器として、弓兵二人による高空コンビネーションを見せるつもりのようだ。
 二人とも朋友と自分とをしっかりと荒縄で結んでおり、弓を使う故の落下確率上昇を軽減している。挙句の果てにカザークショットまで発動しているので、マイナスは無いに等しい。
「風が強いが‥‥一本も外さぬ気概で行く」
「この連射なら‥‥!」
 神鷹が右回り、茜ヶ原が左回りで獣骨髑髏の周りを円を描いて回り、即射で次々矢を射掛けて行く。
 茜ヶ原の狙いも正確だが、特筆すべきは神鷹の腕前。即射、強風、駿龍に騎乗し移動中という状況の中、その矢は言葉通り一本も外れることなく獣骨髑髏に突き刺さっている。
 巨大とはいえ骨なので隙間が多いにもかかわらず、この命中率には舌を巻く他無い。
 しかし、火力というにはいささか力不足か。矢は刺さるが、獣骨髑髏はちっとも堪えた気配がない。
 遠くでうろちょろする相手を追うのが面倒だったのか、不意に口を開き‥‥
「っ!? ほとりさん!」
 神鷹の叫びも虚しく、茜ヶ原が獣骨髑髏の真正面に来た瞬間、彼女とクロエは不意の衝撃で吹き飛ばされてしまう!
 発射の動作も軌跡も見えなかった。突然の衝撃‥‥無刃。
 これが知覚攻撃であったのはむしろ救いか。カザークショットで防御が低下したところにヤツの馬鹿力で物理攻撃を貰ったらそれこそ即死しかねない。
 無論、茜ヶ原のダメージが軽かったわけではない。荒縄でクロエと結んであるので振り落とされこそしなかったが、クロエもバランスを失い墜落して行く!
「気を失っているのか‥‥!? くそっ、八尋!」
 朋友に指示を出し、茜ヶ原を助けに行く神鷹。
 その背後に、大口を開けた獣骨髑髏の姿が‥‥!
「巫山戯るな!」
 そこにヴォストークという大剣を盾のように構えた風和が割り込み、無刃の衝撃を受け止める!
「盾を務めると決めたんだ。易々とやらせはしない」
 間髪入れず獣骨髑髏に突っ込む風和と砦鹿。攻撃の体勢ではない。大剣を盾にし、とにかく近づいて隙を作るつもりか。
 獣骨髑髏は、下から向かってくる風和にその爪を振り下ろすが‥‥!
 ぎぃんっ!
「ぐぅっ‥‥! 馬鹿力め‥‥!」
 その驚異的な受け防御能力で、獣骨髑髏からの物理ダメージをほぼゼロにしてしまう!
 これは大剣だからこそ出来る芸当だろう。普通の刀などで同じ事をしたら武器の方が危ない。
 流石に衝撃までは吸収しきれず多少後退させられたが、恐ろしい防御性能と言える。
 長い黒髪にメッシュのように混じった銀髪が、陽の光を浴びて彼女を輝かせていた。
 茜ヶ原とクロエは神鷹と八尋支えることで救助し、例によって沢渡に回復させてもらったようだ。
「仄!」
「あいよ、おまち!」
 鬼灯の声はなんと獣骨髑髏の上から響き渡った。
 彼とシロは、時間をかけてなんとか獣骨髑髏の上まで上昇し、機会を伺っていたのである。
 甲龍だけに苦労はしたが、風和のおかげでいいタイミングを見繕えたのは大きい。
 下に陽動しようとして着いて来ないなら、無理にでも引きずり下ろすしか無い。
 だから‥‥
「思いっきりいけや!」
 シロは上から強烈なキックを放ち、獣骨髑髏を下へと蹴り落とした。
 不意を突かれたからか十数メートルは落ち、やがて体勢を立て直す獣骨髑髏。
 そして、鬼灯の攻撃はまだ終わっていない!
「お嫌いな非物理攻撃だ‥‥ぜっ!」
 わざと下降しすれ違いざまに精霊剣で斬りつける鬼灯。
 右目辺りにばっくりと大きな傷が刻まれ、獣骨髑髏が声無き叫びを上げる‥‥!
「へっ、どんなもんだ。で、次はまた無刃ってか? ワンパターンなんだよ!」
 鬼灯の方を向いて大口を開けている獣骨髑髏。それを予測していた鬼灯は、すぐさま鉄傘を開いて防御姿勢を取る。
 ‥‥が、衝撃がこない。すぐさま撃ってくると思ったのだがどうしたのだろうか。
 そう、思っていたとき。
「逃げい! 下じゃ!」
「駄目です、止められません!」
 輝夜とコルリスの声が響きわたり、鬼灯はぎくりとした。
 鉄傘を構えていたので前が見えなかったが、要は獣骨髑髏は釣り針のような軌跡を描いて下から突撃してくるのだろう。
 こいつ、何気に色々考えてやがる! そう思った瞬間には、下から突き上げるような衝撃が走りシロの体に牙が食い込んでいた。
 コルリスが必至に朧月で迎撃しようと試みたが、外れたり当たっても威力が足りなかったりで止めるには至らなかったのだ。
 胴体に深く食い込んだ獣骨髑髏の牙は、そこからシロの血を急速に吸い上げて行く‥‥!
「やべぇ!?」
「任せるのじゃ。動きを止めたのは失敗じゃのう。征くぞ輝桜、人龍一体・騎龍タイ捨剣!」
 シロに噛み付いたままの獣骨髑髏の首を狙い、輝夜と輝桜が疾駆する。
 古流示現剣術の奥義。これが決まればさしもの獣骨髑髏も無事ではいられないだろう。
「覚悟は既に完了した。その首を叩き落とされてもなお浮かんでいられるか試してくれよう」
 剛の剣と知られた示現流。防御もできない状態で、直撃―――
「何っ!?」
 危険を感じたのか、獣骨髑髏はその場でぐるりと縦軸に四分の一回転した。
 つまり、鬼灯とシロを盾にしている‥‥!
「流石にそうは問屋が卸してはくれぬか、じゃが腕の1本くらいは貰って行くぞ」
 攻撃を止められない輝夜は、輝桜に指示して微妙に軌道修正し、獣骨髑髏の左腕を目標とした。
「チェリオォォォ!」
 ボギン、と鈍い音が響き、巨大な骨がくるくると宙を舞う‥‥!
「ふっ‥‥我らに‥‥断てぬ物なしじゃ」
 重力に引かれ、真っ逆さまに落ちて行く獣骨髑髏の左腕。
 下に何も無いか、途中で瘴気になって消えてくれればいいが‥‥。
「すいません、行きます」
 言葉少なに、左腕を追って急降下して行くコルリスと山紫。
 流石にこの高高度からの落下物はまずい。そう判断したのだろう。
『倒せればいいんですが撃退した時の対策も考えておきます』という事前発言もあったため、気を回すのが得意なのかも知れない。
「鬼灯さん、シロさん、こちらへ。すぐに癒して差し上げます」
「悪ぃな。助かるぜ」
「本当は先程の攻撃も助けて差し上げたかったのですが‥‥不規則な軌道で間に合いませんでした。申し訳ありません」
「気にすんなって。あいつは本気でバケモンだ。翼じゃどうしても間に合わないこともあらぁ」
 カブトの傍に移動した鬼灯とシロ。沢渡の術により、シロの傷もすぐに癒える。
 正直、沢渡がいてくれてかなり助かっている。彼女がいなければすぐに戦線はがたがたになっていたかも知れない。
 その慈愛に満ちた微笑が自分たちを守っていてくれることがどれだけ心強いか。
 一方、左腕を叩き斬られた獣骨髑髏はというと‥‥
「こ、こいつっ! 何をするつもりだ!?」
 吠えるような動作の後、近くにいた風和と砦鹿めがけて突撃。
 例によってダメージはないが、右の爪で押さえつけ風和を下へ下へと押しやってゆく。
 これはどちらかというと開拓者たちがやろうとしていたことだ。自分から下に行ってくれるならそれはそれで助かるのだが‥‥?
「アミーゴ! そいつは自分ごと下の雷雲に突っ込むつもりDA!」
「そんな知恵まで!?」
 喪越が斬撃符を放って援護したが、射程が足りず風和と砦鹿は黒雲に突入してしまう!
 そこは気流と電撃の地獄。地上に落ちず内部でスパークする雷が、風和たちを貫いていく。
 これでは受けがどうこうという問題ではない。身を捻るような風圧で、姿勢を維持するのも難しい。
「く‥‥そ‥‥! 骨だけのやつはいいな‥‥!」
 風和は砦鹿に指示し、無理に飛ぶことを止めさせた。
 自由落下で雷雲を抜けたあと姿勢制御すればいい。こういう時は重力も悪くない。
 獣骨髑髏はそれを見送り、雷雲の中に身を潜めて再び行方知れずとなってしまった。
 左腕を失いながらも、再び歴戦の開拓者から逃れた巨大なアヤカシ。
 果たして、奴はどこへ行き何をしたいのだろうか―――

●戦い終わって
「ん‥‥。ここ、は‥‥」
「気づいたかい? まったく、心臓に悪い戦場だな此処は」
 獣骨髑髏の気配が完全になくなってからしばらくして、茜ヶ原は意識を回復した。
 傷自体は沢渡に癒してもらっているので全快状態だが、なかなか目を覚まさなかったのである。
 ここは未だ雲を眼下にする高高度。茜ヶ原はクロエに乗ったまま。
 ただ違うのは、神鷹がクロエに乗り移り、茜ヶ原の傍にいた事だろうか。
「弦一郎さん‥‥。ごめんなさい、迷惑をかけて‥‥」
「構わないさ。ほとりさんが無事でよかった」
 頼りになる人が一緒だから。そう言い残してこの危険な依頼に挑んだ茜ヶ原は、自分の言葉に間違いが無かったと誇りたい気分で一杯になる。
 獣骨髑髏には逃げられてしまったと聞き、悔しくもあったが‥‥この際置いておこうと思う。
 二人は穏やかに笑いあい、お互いの無事に安堵した。
「戦場でラブロマンスたぁ、結構な御身分だねぇ」
「ふ‥‥若いんじゃよ。これも粋じゃろう」
「違ぇねぇ。‥‥って待て。お前は一等若いんだろーが」
「おや、そうじゃったかのう」
 鬼灯や輝夜たちが気をきかせ、少し遠くから二人を見守っていた。
 やれやれと首を振る鬼灯であったが、ふと気づいたことがあった。
「ところでだ‥‥何でチェリオなんだ?」
「む?」
「ヤツの腕ぶった斬った時だよ。挨拶してどうすんだ」
「お前は何を言っているんじゃ」
「チェリオじゃなくてチェストの間違いじゃねぇの?」
 沈黙。
「‥‥当たり前じゃろう。我はチェストと言ったぞ。耳が悪いのではないか?」
「目ぇ逸らしながら言う台詞か! 素直に認めろコラ!」
「知らぬ存ぜぬ関知せぬ。戦況は常に変わっているものじゃぞ」
「意味わかんねぇよ!」
 神鷹たちとは全く違う方向性で盛り上がる鬼灯と輝夜。
 しばらくしたら二組に声をかけて帰ろう。その他のメンバーがそう話していた時である。
 雷雲を避けてコルリスと山紫が戻ってきたが、その表情は決して明るいとは言えず、何かを訝しんでいるかのようだった。
「どうかなさったのですか?」
「追ってったハンドとはシェイクできたKAI?」
「それが‥‥何とか地面に激突する前に回収はできたのですが、その腕が不意に消えてしまって‥‥」
「瘴気に戻ったんだろ?」
「分かりません。こう、突然フッと軽くなったかと思ったらもう無くなっていて‥‥」
「‥‥分からない事だらけだな。そもそもヤツがただ浮かんでいる目的も分かっていない。それに何故、上半身だけなんだ。そういう風に出来ていると言われたらそれまでだが」
 風和の言葉は誰もが感じていた疑問だ。がしゃどくろの亜種と目されているが、獣骨髑髏には不明な点が多すぎる。
 消えた左腕もヤツの隠された能力なのか。それともただ瘴気に戻っただけなのか。
 未だ謎を残しつつ、開拓者は地上へと戻っていった。
 左腕を破壊すると言う、明確な成果を残して―――