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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 特別な出自を持つと思われる盾座を言葉巧みに誘導し、奇妙な協力関係を取り付けた開拓者たち。 星見の間を突破し敵の本拠地導星の社へ到着した一行は、楔を打ち込み橋頭堡を確保。 地下深くに眠るその場所には、ジルベリアで見られるような巨大な神殿がそびえ立っていたのだった。 山羊座との戦いを経て、最強の星座が蘇るための条件が『天秤座が瘴気を還元するのみ』となったことを知った開拓者たち。もし何も知らず神殿に突入していたら最悪の事態になっていたかもしれない。 強力な獅子座と射手座のコンビを、盾座を失いながらもなんとか撃破し……物語は更に動く――― 「…………」 「…………」 ある日の開拓者ギルド。 訳あり依頼者を通す座敷に向い合って座るのは、職員の鷲尾 亜理紗と西沢 一葉。 激闘の最中なので前回は触れられなかったが、獅子座たちとの戦いでは数々の衝撃的な事実が次々と発覚したのだ。 まず、星座アヤカシが躍起になって復活させようとする最強の星座とは、失われた最大の星座……『アルゴ座』であるということ。 アルゴ座とは、帆座、竜骨座、艫座、羅針盤座に分割された巨大な船の星座のこと。これが復活すればどんな破滅的なことになるのか、想像するのも恐ろしい。 そしてもうひとつは、盾座スクトゥムが最後に言い残した言葉。 『頑張って……一葉。そして、ありがとう……みんな……』 それは天秤座にも向けて贈られた言葉。そう、天秤座=一葉という事実が濃厚となったのである。 盾座は嘘をつけるようなタイプではなかったし、あの場でそんな嘘をつく利点がない。 開拓者たちが選んだ大きな選択……盾座を引き入れたことも、一葉と予め会わせておいたこともここに繋がったといえる。 だからこうして、亜理紗は一葉と腹を割って話そうとしているのだった。 「……いつ頃気づいていた?」 「大分前から。確信はありませんでしたけどね。あと、本当の一葉さんが死んでいないということも」 「……やれやれ。ペガサスにまた叱られてしまうか」 亜理紗はできれば否定して欲しかったが、一葉の方からいつから気づいていたなどと言われてはどうしようもない。 確実に言えるのは、一葉にはアリバイがあるということ。開拓者が天秤座と会っていた時も、一葉はギルドで仕事をしていたという証言は多数ある。ならばどういう理屈で一葉=天秤座説が成り立つのか? 「答えは簡単……今、ここにいる我は西沢 一葉の身体を遠隔操作で操っているに過ぎん。何の殺傷力もない、この身体と本体を繋ぐ連絡塔でしかない」 「どうして一葉さんなんですか!? いつ取り付いたんです!?」 「我は最初、十七夜 木乃華という老婆に取り付いていた」 「!?」 「だが、彼女は自我が強すぎて操るのに適していなかった。能力はあったが破壊に特化しすぎているのも難点でな。我は彼女に取り付きつつより良い依代を探していたのだ。そんな時、あの老婆がこのギルドに来ることがあった」 「私を煽りに来た時……!?」 「そこでこの一葉に出会ったのだ。我は震えた……ここまで条件に合う者がいようとは、とな。こやつが使役するキョンシーを操るには『生と死の均衡』を弄る必要がある。天儀には道士は殆どいない。かと言って我が泰国に渡るのも無理な話。この女以外に選択肢はなかったというわけだな」 「ぐ……! 私の一族のせいで、一葉さんまで巻き込まれて……!」 「別に擁護する気はないが、今回ばかりはおまえの祖母は我に利用されたに過ぎないがな。西沢 一葉に取り付き、天秤座としての本体の姿を確定させ、星座アヤカシを率い行動を開始した。もっとも、切り離された一部である我の役目はそこまで……本体と情報を共有できるわけでなし、時々西沢 一葉と入れ替わり余生を謳歌していたに過ぎん」 「だから天秤座が常連さんたちの情報に疎かったり、私が転移術を使えることを知らなかったりしたわけですか……」 「……我は天秤座。均衡を司る星座だ。今の世は人間側に傾きすぎている……それをアヤカシ側にバランスを戻し、均衡を保とうとしているのみ。別に人間を滅ぼしてやろうとしているわけではないぞ?」 「だからと言ってはいそうですかとあなた達の行動を認めるわけには行きません!」 「……そうだろうな。そして我は天秤座であるが故に、お前たちのことを愛おしくなってしまった……これは完全な誤算だった」 「……え……?」 「アヤカシとしての我と、人間としての一葉。その均衡を取ってしまった結果、両者は混ざり合い、影響を与え始めた。西沢 一葉は星座を愛するようになり、我は人間の世界を愛し始めたのだ。思念の一部とはいえ、敵の首魁がおかしいと思わんかね?」 「それが本体の天秤座にも影響しているんですか……?」 「お前たちが星見の間に突入し、我の本体と遭遇した後、本体からチャンネルが開かれてな。その時様々なことが本体にも伝わった。そういうことだ」 「じゃあ、天秤座は人間のことを好きになっていてなお、計画は止められないと……?」 「当然だろう。そうしなければ世の均衡は戻らない。アヤカシとしての使命が優先されるだけの話。我から言えるのは『頑張れ』しかない。天秤座本体が敗れれば我もじきに消え、いつもの一葉に戻り二度と我が出てくることはないだろう。人の世を乱したくなくば、我の本体を討ち、止めるしか無いのだ。……我らも半分、それを望んでいる」 「……最後に一つ、聞かせてください。アルゴ座とはいったい……?」 「天に舵を取り、天を照らす星々の船。それ以上でもそれ以下でもない―――」 カウント・ザ・メダルズ! 現在、開拓者が使えるメダルは! 馭者座、山猫座、テーブル山座、三角座、南の三角座、海豚座、アンドロメダ座、ポンプ座 望遠鏡座、魚座、鳳凰座、矢座、時計座、彫刻具座、彫刻室座、蛇座 水蛇座、海蛇座、画架座、牡牛座、エリダヌス座、小犬座、小狐座、小獅子座 小馬座、蠍座、蝿座、六分儀座、八分儀座、大熊座、小熊座、孔雀座 竜座、顕微鏡座、カメレオン座、水瓶座、カシオペア座、ヘラクレス座、狼座、乙女座 巨嘴鳥座、コップ座、鶴座、飛魚座、炉座、祭壇座、麒麟座、一角獣座 鷲座、風鳥座、烏座、白鳥座、双子座×2、冠座、南の冠座、インディアン座 旗魚座、蜥蜴座、帆座、ペルセウス座、定規座、ケンタウルス座、コンパス座 、琴座 大犬座、髪の毛座、オリオン座、猟犬座、レチクル座、牡羊座、南の魚座、鳩座 南十字座、蛇遣い座、山羊座、鯨座、ケフェウス座、獅子座、射手座、盾座 牛飼い座 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●傾く天秤 ガシャァァァンッ! 地下深くに眠る巨大な神殿。その内部にあった巨大な鏡は、獅子座と射手座のメダルを触れさせることにより完全に砕け散った。その奥には先へと続く通路が隠されており、開拓者たちは緊張した面持ちで進む。 やがて神殿を抜けた先には、古びた社殿が姿を現す。洞窟もそこで終点らしく、岩肌に埋まるような形の社となっている。 篝火が焚かれた社殿の奥には88星座が描かれた綺羅びやかな屏風、そして祭壇。その前に鎮座するのは星座アヤカシの首魁、天秤座ライブラ……! 「……ついにここまで来たか。様々な戦いを経てもなお、我らはお前たちを止められなんだな」 銀髪に赤い瞳、セミロングを揺らすメガネの女性。西沢 一葉そっくりのアヤカシ。 屏風の影からちょこんと姿を現した兎座レプスと共に開拓者たちの前へと歩み出た。 「最早語るまい、なのです。空羅さんのこともありますし、とにかくやってやるしかないのです」 「アヤカシの時代は終わったのですから、アストレアの天秤……いや、この後に出てくる英傑たちの船のアルゴ座共々あるべき場所に還って貰おうと思います」 レネネト(ib0260)と三笠 三四郎(ia0163)の言葉に、フッと笑って構える天秤座。その瞳には若干の憂いが見て取れたが、すぐさま迷いを押し殺し戦士の顔へと変貌を遂げる。 「均衡を操る暇なぞ与えるかァ!」 「ダメです、ペガサス座が来ます!」 「援護します!」 鷲尾天斗(ia0371)が天秤座に砲撃を仕掛けようとした時、三笠が山猫座のメダルの力で危険を察知、警戒を促す。 雪切・透夜(ib0135)がレチクル座のメダルで空中に防護ネットを展開、空襲に備える。その間に鷲尾の砲撃が天秤座に炸裂―――しなかった。 キュゥゥゥン、と妙な音がして鷲尾の魔槍砲が不調を訴え砲撃が不発に終わる。 「何だァ!?」 「フッ……『健康と不健康の均衡』」 まるでこの事態を知っていたかのように天秤座は笑い悠々と能力を起動、自分以外の敵味方の体力を半分の位置まで減らしてしまう。 その直後、ペガサス座が現れ雪切の張ったネットに蹴りを入れ、反動を利用し天秤座の側に着地する。 「くそっ……! 警戒はしていたのにこうも容易く先手を打たれるとは!」 「ワザマエ! あれならペガサス座は均衡の影響を受けずに参戦できるというわけか」 「いいえ……どうやら兎座も影響を受けていないようですわよ」 相川・勝一(ia0675)が歯噛みする。何 静花(ib9584)が感心する。そして各務 英流(ib6372)は兎座を指して注意を促す。 均衡の発動時近くにいなかったペガサス座はともかく、兎座はきっちり巻き込まれたはずなのに平然としている。 「しれぇ! レプス、また生還しましたっ!」 「誰が司令か。まったく、相変わらずぶっとんだ強運の持ち主だな」 天秤座の言葉から察するに、兎座は『運良く』均衡の能力ダウンを受けずに済んだということらしい。 「ライブラ様。本当によろしいのですね?」 「くどい。貴様も本気を出さねば彼らに殺されるぞ」 「は!」 天秤座の喝を受け、ペガサス座は亜理紗に向かって飛び蹴りを放つ。 亜理紗を倒せば開拓者たちはこの場から消える。狙い自体は良いが、レネネトがすでに想定済みであり定規座の能力で5m以内に近寄れなくしていた。 見えない壁のようなものに阻まれたペガサス座はそれを足場に再び跳躍、一気にジャンプし逆さ吊りのような形で天井に着地した。 「『豪腕と細腕の均衡』。『俊足と鈍足の均衡』。『技巧と稚拙の均衡』」 ちょろちょろ動きまわり開拓者の接近を阻む兎座に守られ、天秤座は次々と能力を発動し開拓者の能力を削っていく。 パワー、スピード、テクニック。それらを半分の数値まで削られ、兎座は強運でそれを受け付けずペガサス座は発動前に範囲外に逃げる。アンバランスなようでいて実に厄介な組み合わせである。 「だからっつってここで退けるかァ! 斬撃と砲撃、どっちが好みだァ!」 「相変わらず猛々しいな。しかしここまで均衡が発動した以上、お前たちに勝ち目は―――」 天秤座が目を伏せ、鷲尾の叫びを受け流した時だった。 「はぁぁぁぁっ!」 「わっ!? レプスはやられませんっ!」 「!?」 兎座はその能力のほぼすべてを運に回しているため、戦闘能力はそれなりでしかない。それを天秤座の均衡で補助する形なのだが、開拓者の中でただ一人、兎座を圧倒する者がいた。 「……彼女が繋いでくれた道、此処で立ち止まるわけには行きません……!」 真亡・雫(ia0432)。彼が使う場合のヘラクレス座は、常に全力で行動できるようになるというもの。 つまり、天秤座がどれだけ均衡能力を使おうがヘラクレス座を使う限り彼に影響は無いのである。 兎座をあしらい、まっすぐに天秤座に向かう真亡。天秤座さえ何とかできれば後はどうとでも――― 「真亡さん、ペガサス座が!」 「くっ!」 三笠の察知で足を止める真亡。すると彼の進行方向にペガサス座が飛び蹴りで降り立ち、小さなクレーターを形成する。細身の彼だが、蹴りのパワーだけは本当に侮れない。 「ペガサス……流星脚」 続けざまに真亡の排除に当たるペガサス座。音速を超える一撃を防御するのは、いくら真亡と言えど……! 「クリム、力を貸せ!」 「僕らしい射手座です」 鷲尾の盾座=完全オートのシールドビットを一つ生成する。戦場で一番危ない人間を庇う 雪切の射手座=手の平からオーラの盾を射出する。空中の任意の場所で静止させることができる 「二枚重ね……!?」 さしものペガサス座も2つの星座相手では分が悪い。その間に真亡はペガサス座の横を走り抜ける! 「待―――!」 「とにかく天秤座を先に倒さないとな。一気に行かせて貰う!」 続けて相川もペガサス座の横を走り抜け、天秤座へ向かう。追おうとするペガサス座だったが、 「労働は過酷だ」 「よくも盾座を……彼女は私の母になってくれる女性でしたのに!」 何が髪の毛座のメダルで髪を刃と化し襲いかかり、各務も山羊座のメダルを持ちだした。 各務の山羊座=手刀を振り下ろすと、生物及びアヤカシのみを切断できるオーラの刃を放つ。射程2 次々と繰り出される刃を前に、天秤座の援護に向かうことができない! 「むー! しれぇはやらせませんっ!」 「申し訳ないけど……!」 「相手をしている暇は無い!」 必死に食い止めようとする兎座ではあったが、能力の低下している相川はともかくヘラクレス座で均衡を無効にしている真亡には歯が立たない。 が、流石は強運。相川は兎座のすぐ手前で足を滑らせすっ転び、兎座とぶつかりつつ地面を転がった。 ついに一対一となった真亡と天秤座。ここでなんとしても倒してしまいたい……! 「星々の物語に終止符を!」 「甘い」 ギィンッ! と甲高い音がして、真亡の刀を剣で受け止める天秤座。 真亡は能力低下を起こしていない。なのにどうして受け止められる!? 「星座アヤカシの中で最強なのはアルゴ座だ。しかし黄道十二星座最強は我である。能力低下を防いだくらいで圧倒できると思うたか」 火の付いたように反撃を開始する天秤座。その鋭さは真亡であっても捌き切れない。 と、そこに。 「乙女の正義の祈りよ……届け」 三叉戟を手に躍り出たのは三笠。彼もまたここが攻め時と判断し攻撃に転じたのだ。 激しく打ち合う刀、三叉戟と剣。三笠の能力低下を含めると、二人がかりでも互角とは言いがたい。 しかし。 「この感じ……乙女座のメダルを持っているな」 「そうです。最後まで人間の正義を信じたというアストレアという女神を知っていればこの様な事になるとは……予想できたのかもしれません」 「天秤座……あなたはある意味最も元の由来に正しいアヤカシですね。アヤカシの意志も人の心も半々に影響を受けるというのですから……!」 「知ったようなことを! 我は……我らはアヤカシだ! 世の天秤を、均衡を保つ義務がある!」 三笠と真亡の言葉を受け、珍しく言葉を荒らげる天秤座。 その剣が大きく振りかぶられたその時……時が、止まる。 真亡の時計座の効果で3秒だけ時間が静止し、その中を真亡は自由に動ける。 奥義のために溜めていた練力を解放し、閃波「白亡龍」が唸りをあげ天秤座を飲み込――― 「『天と地の均衡』」 「!?」 静止した時間の中で天秤座は能力を発動。緊急大ジャンプで天井と地面のちょうど半分のところまで飛び上がる。 天秤座は均衡を操る存在。それは時間であっても例外ではないというのか。 「今のは危なかった……しかし、お前たちの星の一欠片の効果は我も熟知していることを忘れるな!」 空中から巨大な瘴気の波を放った天秤座。これを喰らえば開拓者たちは一気に不利になるだろう。 しかしその時、三笠が手にする乙女座のメダルが輝き出す……! 三笠の乙女座=空間内の瘴気を根こそぎ浄化する。野外では使用できず、アヤカシを浄化することはできない。 瘴気の奔流は優しい光に照らされ雲散霧消する。そして信じられないといった表情をする天秤座の真上に、影……! 「ニンジャスピリットは勇気を与える。切り札はボランス=メダル!」 何が使う飛魚座の効果は、相手の真上に出現するというもの。それは天秤座も承知しているが、全力の技をあっさり消されたことで動揺があったのだろう。反応が一瞬遅れ、打ち下ろす形での絶破昇竜脚を叩きこまれ地面に激突する。 「ライブラ様! ちぃっ!」 主の危機に火事場力を発揮するペガサス座。なりふり構わず大地を蹴り、再び亜理紗に飛び蹴りを放つ。 当然レネネトの定規座で阻まれるが、今度は飛び退かずその場で多数の手裏剣を亜理紗に放つ……! しかし鷲尾が放っていたシールドビットが急行、手裏剣全てを叩き落とし事なきを得る。 「テメェ! 人の嫁に手ェ出してんじゃネェぞ! その不敬、万死に値する! 首を置いてけェ!!」 練力を解放し、奥義を放つ鷲尾。その動きはまさに電光石火であり、ペガサス座の脚力とも遜色ない。 魔槍砲がペガサス座の身体に穿たれ、雷神の咆哮が追撃を加える……! 「がっ……! ぼ、僕の首程度で、ライブラ様が……助かるなら……!」 あれだけの技を受けてなお大地を蹴り、壁を蹴って三度亜理紗へ。今度は手にした短刀を投げつけるつもりか。 しかしペガサス座は空中で突然体勢を崩し、地面に激突して十数メートル滑っていった。見れば礫のようなものがペガサス座の身体に大量に突き刺さっているではないか。 ちゃりちゃりと残りの礫を弄びながら声をかけたのは、雪切である。 「超近接弾幕など珍しいでしょう? これも盾の形ですよ」 要はペガサス座の進行方向に礫をばら撒いただけのこと。凄まじい速度で移動するペガサス座には文字通り刺さる。 ペガサス座は亜理紗を狙うと読めたのでコース上にばら撒くのも比較的容易だったといえる。 「……ライブラ、様……どうか、御自分を許して……差し上げ……て―――」 鷲尾の奥義ですでに致命傷だったペガサス座。最後の攻撃も雪切の機転で防がれた。 彼は無念の内に瘴気へと返り、メダルだけを残したのだった。 「ペガサスさんっ! ど、どうしよう……運だけじゃ……!」 「そうだな。運だけではどうしようもない時もある」 慌てる兎座の前に立ちはだかったのは相川。その手に握られているのはチェーンブレードと竜座のメダル。 「運も実力の内、それは認めよう。だが、自らの実力を高めない奴に本当の運は巡ってこない!」 「そ、そんなの、やってみないとわかりませんっ!」 「わかるさ。こんな風にな!」 チェーンブレードを分割し攻撃を仕掛けた相川。しかし分割途中でワイヤーに不具合が発生し上手く攻撃ができない状態に。 その隙に兎座は身を躱し、手にした剣で反撃に出る。 「ワイヤーが壊れてラッキー!」 「今の技は囮だ! 必殺の一撃を食らうがいい!」 「えぇっ!?」 最初からチェーンブレードで決まるなどとは相川は思っていない。その後のうかつな反撃を待ち構えていたのだ。 武器を手放した相川の拳。オーラを纏い唸りを上げた拳が兎座の腹部に直撃し、息の根を止めた。 「し、しれぇ……ごめん、なさい……!」 兎座もメダルを残して消滅し、残るは天秤座のみ。 地面に叩きつけられた後、各務が斬りこんできて交戦中だ。 「貴方が盾座を戦いに巻き込んだ! 彼女は戦う人では無かったのに!」 「守ることも戦いの一部であろうが」 「均衡だと言って人とアヤカシの命を弄ぶなんて、それは傲慢ですわ! その考えが戦いを広げてるんだって、何故判らないんですの!」 「戦いを広げなければアルゴ座の復活はありえん。貴様こそわからん奴め」 各務のコンパス座=自分の利き手がコンパスの針のような形に変形する。解除すると元に戻る 連続で突きを放つが均衡で低下させられた能力では天秤座に及ばない。しかし取り巻き二匹が消えた今、数の上では圧倒的に開拓者有利である。 「さァ目覚めろエアよ! お前に相応しき舞台が整った!」 勝利をたぐり寄せるべく鷲尾は獅子座のメダルを発動させる。 刀身がスパークし武器が雷を帯びるが……黄道十二星座にしては効果が地味か。 とはいえ鷲尾も能力ダウンをしている身。みすみす天秤座が喰らってくれるとは思えないが……? 「愚かな。当たらなければどうということは―――」 「当たりゃしんどいってこったろォ」 「!?」 鷲尾の獅子座=武器が雷を帯び、攻撃が全て3m前進する突撃属性になる。 本来当たりっこない位置から鷲尾の姿が掻き消え、魔刃が天秤座の身体を捉えていた。 鷲尾がボーク・フォルサーを使えることは知っている。だがそれを発動させた気配もないのに! 「天秤を破壊してやろうかねェ!」 そのままボーク・フォルサーを発動され貫かれたまま壁に叩きつけられた天秤座。こうなるともう能力低下がどうとかいう次元ではない。 もし天秤座の均衡能力が自身にも影響があったなら、無理にでも50%まで回復することは可能だっただろうが……。 「……結局、こうなったか。やれやれ……さほど悔しくないのが我ながら度し難い」 壁に串刺しにされたまま、天秤座は自嘲気味に笑う。 人間の世界を半分愛した天秤座。見上げた天井には星は見えない。 「ありがとね……みんな。亜理紗……キャンサー……ごめんね―――」 最後は亜理紗が……開拓者たちがよく知る、一葉と同じ柔らかな笑顔で天秤座は消滅した。 天秤座が瘴気を還元した形跡はない。これでアルゴ座の復活も阻止できたということだろうか。 地に落ちたメダルを拾い、亜理紗はただ黙るしか無かった。 「帰りましょう、亜理紗さん。一葉さんが待っているのです」 「……はい」 懸案事項はまだある。しかし今は無性に一葉の顔が見たい一同であった――― |