【AH】雷神谷の大怪鳥
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/22 19:13



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「アヤカシハンターチャンス!」
 ぐっと拳を握り、一呼吸置いてからちょいっと動かしたのは、ギルド職員の十七夜 亜理紗という少女。
 職員として依頼の紹介などを行う傍ら、陰陽師としても修行を積んでいる身である。
 もっとも、術の方は相変わらず失敗ばかりだそうだが。
「と、特に意味はありません! 今回の討伐目標は、大怪鳥と呼ばれるアヤカシの変種です」
 恥ずかしがるくらいならやらなきゃいいのに、とは分かっていても言わないのが優しさである。
 それはさておき、石鏡の北部の山間に、付近の住民が『雷神谷』と呼ぶ渓谷があるという。
 ただでさえ山の天気は変わりやすいが、その谷の付近は特に雨や雷が多く、通りがかった旅人や商隊が雷の被害に会うことが少なくないと言う。
 それはあくまで自然災害であり、アヤカシの存在は長らく確認されていなかった。しかし、最近になってその谷に大怪鳥が住み着き、我が物顔で闊歩しているらしい。
 その大怪鳥は雷の直撃を受けてもまるで無傷で、むしろその電力を吸収し自力で放電能力などを獲得したと思われている。
「でもいいことばっかりじゃないみたいなんですよね。普通、大怪鳥っていうのは空戦を好み、空を飛ぶことが多いアヤカシらしいんですが、その変種は地上数メートルのところをホバリングするくらいしかできないみたいなんです。全力で翼をばたつかせれば空も飛べるらしいんですが、頻度はかなり低いとか」
 立派な翼があるにも関わらず、本来の飛行能力が退化し電撃を操る能力を得たアヤカシ。雷神谷に出没するというのが皮肉というべきなのか何なのか。
「あ、今回のアヤカシは臆病で逃げやすいらしいので注意してくださいね。巣に帰られると回復されちゃうかもしれません。それでは、皆さんの御健闘に期待します♪」
 何の因果か、雷神谷に現れた電撃を操る大怪鳥。数メートルだけとはいえ、高いところにいる相手にどう立ち向かうか。
 新種・亜種のアヤカシには、まだまだ事欠かないようである―――


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
支岐(ia7112
19歳・女・シ
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
此花 咲(ia9853
16歳・女・志
アリステル・シュルツ(ib0053
17歳・女・騎


■リプレイ本文

●A班
「や、見てごらんよ。こんなところに」
「熊ですか‥‥。肉が硬くて美味しくないと聞きますけれどね‥‥」
「実際、手の込んだ調理をしないと美味くないぞ。肉なら牛が‥‥あぁいや、やっぱり食うな」
「どっちなんだい。とにかく進むよ」
 石鏡北部の件の山において、開拓者たちは班を二つに分けて行動していた。
 事前に地図を貸してもらい大まかな地理を理解した一同は山の麓で分かれ、A班の四人は山を右回りに、B班の四人は左回りで巡り、大怪鳥を捜索する。
 一応今は晴れているが、雲の流れが速い。いつ天気が変わるか分かったものではないが、とりあえずA班では、アリステル・シュルツ(ib0053)が大怪鳥がやったと思われる熊の死体を発見したところである。
 ぐちゃぐちゃに食い荒らされ、腐乱した熊の成れの果てを見て、エグム・マキナ(ia9693)は眉をひそめながら呟く。
 人だけでなく動物も捕食の対象となるのは普通といえば普通だが、どうもお行儀がよろしくない。
 その呟きに答えた王禄丸(ia1236)は、何故か牛の顔を象った面を被っており、パッと見では人の体に牛の頭のアヤカシのように見えなくもない。
 その牛好きというか傾倒ぶりには、ゼタル・マグスレード(ia9253)も呆れるばかりだ。
 山はごつごつした岩場が多く、道と定められた場所を外れると途端に移動が難しくなる。
 平和そのものといった静かな風景を楽しむわけでもなく、A班は更に進んだ―――

●B班
「巣はどこら辺にあるんでしょうねぇ。やっぱり山頂なのでしょうか?」
「どうかねぇ。普通の鳥で考えるなら、高いところより外敵に襲われない所を選ぶもんだが」
 少し高い岩場の上から辺りを見回しているのは此花 咲(ia9853)。その下で煙管をふかしているのは北條 黯羽(ia0072)である。
 B班は大怪鳥の食事跡すら見つけることなく、まったりとも言える状況になっていた。
 本人たちは勿論真剣なのだが、大怪鳥のだの字も発見出来ないことにいら立ちが募る。
「アヤカシなれば子を守るとこともありますまい。詮無いことに御座います」
「獲物を見つけたら襲いかかってくるんだろ? いっそのこと向こうから来てくれた方が楽なんだが」
 支岐(ia7112)の言を有力視するなら、案外目立つ場所に巣があるのかも知れない。 逆に考えるならば、岩に囲まれた巣穴のようなわかりにくい場所かも知れない。
 アルティア・L・ナイン(ia1273)の言う事は他人任せではあるが、そう思ってしまうことを誰も責められないだろう。実際問題、一口に山と言っても広いのだ。
 それに、いざ探そうとするとなかなか見つからないというのはよくあることである。
「なぁ支岐君、何か聞こえてこないのか?」
「今のところは皆無にて‥‥面目ないことに御座います」
 A班にはないアドバンテージ、超越聴覚で周囲の音に耳を澄ます支岐だが、遠くにあるであろう滝の音しか拾えない。
 ホバリングが主な移動手段なら、近くにいれば羽ばたきの音が聞こえてきそうなものだが‥‥?
「‥‥これは‥‥」
「当たりかい?」
「お出ましなのです!?」
「‥‥いえ、遠雷に御座います。一雨くることは確実であると存じまする」
 見ると、遙か遠方から黒い雲が迫ってきていた。
 こんな時にと呪わずにはいられない。流石雷神谷ということなのか―――

●風雨の中で
 稲光が閃き風雨が舞い踊る。
 先程までは晴れていたのに、一行は合流地点を前にして雨宿りを余儀なくされていた。
 雷が多いとは聞いていたが、いざ遭遇してみると外を歩くのも危険な気がする。今日は酷い方なのだろうか?
 しかし、この雷雨は大怪鳥にとっては絶好の電力補給となるだろう。今頃はどこかで電撃のシャワーを浴びてご満悦なのかも知れない。
「困りましたね‥‥ある意味遭遇のチャンスでもあるのですが」
「仕方ないさ。慣れぬ土地で、視界も悪く、大怪鳥に有利な条件で戦う事は流石に分が悪過ぎるからな」
 エグムやゼタルたちは突き出た岩の下に逃げ込み、難を逃れている。
 大分広いその場所は道から近く焚き火の跡なども見受けられ、旅人たちの休息所として使われていたであろうことは想像に難くない。
 山の天気は変わりやすい。ならば、この雨が通りすぎるのもまた早いはず。
 そう信じて待っている四人の中に‥‥
「上手に焼けました〜♪」
 猪を狩り、何故か肉を焼くアリステルの姿があった。
「呑気なもんだな。流石の俺も調理道具は持ってこなかったぞ」
「や、これはやっとかないと。それに体力をつけておかないとね」
 王禄丸たちにも肉を振舞うアリステル。
 まぁ他にやることがないわけだし、腹ごしらえも充分な意義はあろう。
 御相伴に預かることにした三人は、シンプルな味付けで焼かれた肉を平らげ、一息ついた。
 その時である。
「光った!?」
「どうかしましたか、王禄丸君」
「いや、今、地上から空に向かって光が伸びた。間違いない!」
「どうでもいいけどその牛のお面、こういう場面になっても冗談やってるようにしか見えないな」
「これは俺の矜持なんだよ! また光った! 今度は水平方向にだ!」
「この雨風のせいか呼子笛の音が聞こえないけど‥‥仲間が襲われてるかも知れないんだね。みんな、覚悟は出来てるかな? 僕は出来ている」
 確認されるまでもない。このまま見過ごすわけには行かないのだ。
 例え仲間が襲われているのでなくとも、合流地点まで確認に行くのは義務だろう。
 それで大怪鳥と出くわすのならそれもまた運命。
 焚き火を消し、四人は風雨の中に身を投じたのである。

「ちっ、随分はしゃいでるじゃないか。台風が来た時の子供かってんだ」
「うぅっ、照準がぶれるっ! A班の人たちは笛に気付いてくれたかな!?」
「厳しいかと思いまする。後は、大怪鳥の放つ光に気付いていただけることを祈るしか御座いません」
「瞬脚を使えば避けられないことはないけどさ! こっちだ、アヤカシ!」
 雨が降り始めても移動を続けていたB班は、その途中で運悪く大怪鳥と出くわしてしまった。
 正確には支岐が羽ばたきの音が近づいてくるのを聞きつけたのだが、森に戻るにも遠いし身を隠す場所もないということで、仕方なく戦闘を開始したのである。
 雷雨でテンションが上がっているのか、執拗な攻撃を加えてくる大怪鳥に対し、此花の弓では命中も威力も減退してあまり有効とは言えなかった。
 北條も斬撃符で狙い打ちたいのは山々だが、大怪鳥が吐き出す電撃を警戒して思うように行かない上、下手にダメージを与えて逃がすと折角の邂逅が無駄になりかねない。
 ダメージの通りもイマイチなので、どうせなら確実に葬れる状況で連打したいところなのだが‥‥。
 後衛がデカイのを喰らうのはまずい。そう判断したアルティアは、自慢のスピードを活かして囮を買って出て合流地点へと急ぐ。
 後ろから狙い撃たれてはかなわないので、物陰に隠れながらということになる。当然、進み具合は遅い。
「お手伝いします!」
「翼を真っ二つにしてやるぜ!」
 注意を逸らしてもらえたおかげで、此花と北條の援護が可能となる。
 支岐の裏術・鉄血針は相手が浮いているため届かない。
 大怪鳥の右の翼が切り裂かれボロボロになるが、まだ飛べるらしい!
『グギャァァァァァッ!』
『ッ!?』
 けたたましい雄叫びを上げる大怪鳥。そのあまりの音量に、四人は思わず耳を塞いでしまった。
「くっそ‥‥! ッ!?」
 轟音に気を取られている間に、大怪鳥が大口を開けて北條を狙っていた。
 北條では避けられない。このままでは電撃の犠牲者第一号になってしまう!
 アルティアの背筋に冷たいものが走った、次の瞬間‥‥!
「させるかよ!」
「お待たせしました!」
 二つの声とともに、二本の矢が大怪鳥の首に命中し‥‥電撃はあさっての方向に吐き出された。
 見ればそこには、A班所属の王禄丸とエグムの弓を構えた姿が!
「くそっ、この雨風はどうにかならんもんかね!」
「大怪鳥の少し右を狙ってください。風の流れから察するにそうすれば幾分マシになるでしょう」
「流石、伊達に先生やってないってか!」
「何事もお勉強ですよ」
 エグムと王禄丸の射撃による援護を貰い、アルティアは少し後退して胸をなで下ろす。
 そしてA班から代わりの前衛が出撃する。
「行動パターンを見てる余裕はないよね。グレートだよこいつぁ!」
 長い銀髪を雨でビチャビチャにしながらも、アリステルは大怪鳥に向かっていく。
 しかしこのままでは届かない。大怪鳥のホバリングは地上数メートルのところで行われている。
 だから‥‥
「左も破ればどうなるかな?」
 ゼタルが発した斬撃符で左翼を切り裂かれた大怪鳥は、一度ガクンと体勢を崩し地上スレスレまで降下する。
「アリーヴェ・デルチってことにしたいね!」
 故に、届く。剣を背にした状態から抜刀と同時に斬りつけ、その胴体に切り傷を残す!
 ‥‥が!?
「浅いか! アリスくん!」
「おっ任せ! ボラーレヴィア!(飛んでいきな)」
 アルティアがアリステルの剣の腹に乗り、アリステルはそれを上空へ放り投げようと力を込める。
 それに合わせてアルティアも飛び、驚異的な跳躍で大怪鳥の鼻先へ現れる‥‥!
「これで終りだぁぁぁッ!」
 百虎箭疾歩。
 相手の防御が間に合わないうちに炸裂するこの技で、翼をたたき斬る‥‥はずだったが‥‥!
「うおぁぁぁぁぁっ!?」
 バルカンソードが当たる寸前、大怪鳥の身体がスパークし辺りに電撃をまき散らす。
 放電によって迎撃されてしまったアルティアが地面に叩きつけられるのとほぼ同時に、大怪鳥は羽ばたきを強め上空へと登っていく。
 逃げる!? そう直感したゼタルと北條が呪縛符を仕掛け、此花たちが弓で狙い撃つが、撃墜するには至らず大怪鳥は山頂の方へ飛び去ってしまった。
 逃げる際にも例の大音響の叫びを上げられたのが痛かったか。
「そんなぁ!? 逃げられちゃったのです!」
「うぅ‥‥今なら、まだ間に合うはずで御座います‥‥。大怪鳥の傷が、癒える前に‥‥!」
「治癒符で回復しよう。ダメージがない者はなるべく見失わないように奴を追ってくれ」
「わかった。咲、アリステル、行くぞ。体力がある俺たちが適任だ」
「了解なのです! ‥‥っていうか、このアヤカシさんは誰なのですか?」
「アヤカシじゃねぇよ! 分かれる前にも着けてただろ!? 王禄丸だ!」
「じょ、冗談なのですよぅ」
「やれやれだね」
 三人が走り出し、大怪鳥を追って行く。
 視界は悪いが、方向は分かっているし時折閃く稲光で姿が確認できる。
 完璧にとまでは行かなくとも、大分絞り込めるはずである―――

●巣
 傷つき、ふらふらしながら巣へと飛んでいく大怪鳥。
 元々飛行能力が退化しているとのことだったので余計になのだろうが、それが開拓者の追跡を容易にしたのは確かである。
 山頂近くの岩場に消えた大怪鳥を追跡していた三人は、回復されるのを嫌い正確な巣の場所を発見すべく探索することにし、一旦散った。
 すると、アリステルが岩場の裂け目からしか入れない空洞のようなものを発見した。
 単独行動は避けたいが、意を決して奥に進むと、空洞の中央で地面に身体を投げ出して爆睡する大怪鳥の姿を発見する。
 しかも、傷がじわじわと回復しているのが見て取れる。瘴気が特別濃い場所とでもいうのか。
「このままじゃ皆の苦労が水の泡になる、か‥‥。よし‥‥!」
 フランベルジュを構え、忍び足でゆっくり近づいていくアリステル。
 大怪鳥は気付かない。鳥とは思えないだらしなさで地面に寝そべったままだ。
「そぉー‥‥れぃっ!」
 剣を大きく振りかぶり、力を溜めに溜めてから一気に開放し叩きつけるソードクラッシュの一撃!
 顔面に叩きつけられたその衝撃に思わず跳ね起きた大怪鳥であったが、アリステルの剣は顔面の半分以上を斬り裂く重たい一撃であった。
 最早それは条件反射に近い。足で立ったまま苦しそうな断末魔の叫びを上げると、再び地面に倒れ伏し今度はピクリとも動かなくなった。
 あとはその他のアヤカシと同じ、そのまま瘴気となって拡散し消えてしまったのである。
 仲間に知らせに行ったり到着を待つより妥当な判断であったと言えよう。
「クエストクリアー! なんてね」
 雷神谷を騒がせた電撃を操る大怪鳥は、こうして狩猟されたのである。
 ゼタルの進言により、仲間が合流してから巣を調べてみたが卵などは勿論無く、一代限りの突然発生であることが確定した。
 後は、この雷神谷に他のアヤカシが住み着かないことを祈るのみである―――