撃滅か取り込みか
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/21 17:38



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――


 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 黄金に輝く88のメダルうち、3分の2を越えたところで、物語は最終局面へ―――?
「8人目のセブンアームズ(以下SA)、重盾(ちょうじゅん)のクリム……か。盾座としては順当なアヤカシなのかもね」
「でも……なんだか異質な感じですよね。色々と」
 ある日の開拓者ギルド。
 今日も今日とて星座アヤカシの依頼を扱う西沢 一葉と鷲尾 亜理紗は、新たに現れた星座アヤカシに頭を悩ませていた。
 ペガサス座や天秤座同様、開拓者たちとでくわして生き延びたやり手。手持ちの盾及びシールドビットによる専守防衛で敵味方問わず守る、少女の姿をした奇妙なアヤカシである。
 前回の捜索により、星見の間及び導星の社が集星のド真ん中、その地下深くにあることが判明。そしてそこに音もなく星座アヤカシを出現させることも可能である。
 敵の拠点のおおよその場所は絞れたが、厄介なことに変わりはない。
「でもあれ、どうやって負の感情を集めるつもりなんですかね? 人間を守っちゃうんじゃ、アヤカシ側の方が負の感情発しちゃいそうですけど」
「いえ、多分負の感情はもう収集してるんじゃないかしら。本人は無自覚でしょうけど」
「どうやってですか!?」
「ほら、守ってくれるけどこっちの攻撃も止められちゃうからイラッとするって場面があったじゃない? イラッとするっていうのも負の感情の一部だし、前回の後も集星のあちこちに現れては開拓者と星座アヤカシの戦いに介入してるの。勿論、どっちも守るっていう体でね」
 そのおかげで、星座アヤカシからの評判も非常に悪い。いいところを邪魔しやがってと盾座を目の敵にする星座アヤカシもいる模様。
「で、今回の依頼は……盾座を取り込むか撃滅するか選べ……?」
 依頼書を読み進めていた亜理紗が、読み上げながら眉を寄せる。
 内容は『盾座を上手く利用するために言葉巧みに騙して取り込むか、それが不可能なら排除するか選べ』とのことである。選択権は参加者に委ねられるようだ。
 盾座は人を襲わないどころか勝手に守ってくれるので、直接的な被害はない。こちらからアヤカシに手を出さなければヘイトが溜まり負の感情を還元されることもないのだ。
 普通ならアヤカシを味方に引きこもうなどという話は論外だが、盾座の防衛力は惜しい。実害も軽微ということで、星座アヤカシの件が終わるまで精々利用させてもらおうという魂胆のようだ。
「……散々利用して、ダメになったらボロ雑巾のように捨てる、と?」
「人聞きの悪い。そもそもアヤカシと仲良くしようなんて無理だってことは数々の失敗例で立証済みでしょ? それに『アヤカシなんて信用出来ない! 今すぐにでも撃滅すべし!』って声もやっぱり多いのよね。ずっと安全とは限らないわけだし、そもそもSAは石鏡で何十人もの人間を殺してる。盾座自身が人を殺してなくても、8人目のSAなんて名乗ってる時点でいい顔をされないことも多いでしょ」
 現在、盾座は集星の東にある林にいるという。そこには大犬座カニス・マヨルと琴座リラもおり、特に大犬座は盾座のことを蛇蝎の如く嫌っているらしい。
 利用するにしても撃滅するにしても、盾座の無差別防御を掻い潜り大犬座と琴座を撃破する必要がある。
 大きな選択とアヤカシの撃破。その両方ができる意志と力が鍵になるだろう。
 盾座の協力があれば星見の間での戦いも楽になるかもしれないし、導星の社に到達することもできるかもしれない。逆に、彼女がそれらの場所に居たら厄介になる可能性もある。
 吉と出るか凶と出るか。それはやってみないとわからない―――


 カウント・ザ・メダルズ! 現在、開拓者が使えるメダルは!
馭者座、山猫座、テーブル山座、三角座、南の三角座、海豚座、アンドロメダ座、ポンプ座、
望遠鏡座、魚座、鳳凰座、矢座、時計座、彫刻具座、彫刻室座、蛇座、
水蛇座、海蛇座、画架座、牡牛座、エリダヌス座、小犬座、小狐座、小獅子座
小馬座、蠍座、蝿座、六分儀座、八分儀座、大熊座、小熊座、孔雀座
竜座、顕微鏡座、カメレオン座、水瓶座、カシオペア座、ヘラクレス座、狼座、乙女座、
巨嘴鳥座、コップ座、鶴座、飛魚座、炉座、祭壇座、麒麟座、一角獣座
鷲座、風鳥座、烏座、白鳥座、双子座×2、冠座、南の冠座、インディアン座、
旗魚座、蜥蜴座、帆座、ペルセウス座、定規座、ケンタウルス座、コンパス座


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●すれ違い
「どうしてボクを攻撃するの……!?」
『どうしてじゃねぇだろ! 散々邪魔しやがって、てめぇのせいでまた人間食い損ねただろうがよ!』
 現地に到着した開拓者たちは、全く苦労なくアヤカシたちを発見した。
 元々視界の悪いほど木のある林ではないので、全長7mもある大犬座はかなり目立つ。その上大声で叫んだり盾と牙がぶつかる金属音を響かせているのでここにいますよと宣伝しているようなものだった。
 琴座は盾座と大犬座のやりとりを切り株に座って眺めながら竪琴を爪弾いているだけである。
『おや。どうやらお客さんのようですよ、カニス・マヨル』
『あァ!? ……確かに臭う……人間の臭いだ。クソが、今度はこいつを殺す前に邪魔が入んのかよ!』
 琴座の言葉に大犬座が開拓者たちの方に向き直る。距離はまだ300m以上あるはずだが、琴座はそんなにも索敵能力が高いのか?
『全員纏めてブチ殺してやる! スクトゥム、てめぇはその後だ!』
 直情型の大犬座は琴座の静止も聞かずまっすぐに開拓者たちへと疾駆する。
 そのスピード、生半可な木はへし折りながら進むパワーは尋常ではない……!
「やはり向かってきましたか。大犬座はこれでいいとして、後は盾座と琴座を引き離さなければ……」
「敵が速すぎるのです。もう来たのです」
 三笠 三四郎(ia0163)は山猫座のメダルの効果で、何者かが突撃してくることを予見していた。それが大犬座であることも大方予想通りだが、レネネト(ib0260)が冷静に指摘したとおりここまで速いとは思っていなかった。
 作戦通りにやろうにも、盾座と琴座は300mほど先。盾座の隔離のためには、大犬座を仲間に任せ進むしか無い。
「べ、別に相手が大犬座だからこっちは小犬座だ、とか考えてないんだからね!」
「でかいせいか気持ち悪いな。いいからここは任せて先にいけ」
『ハラワタを食いちぎってやるぜぇぇぇッ!』
 相川・勝一(ia0675)、何 静花(ib9584)が先頭に立ち大犬座と交戦を開始する。
 襲いかかる鋭い牙を紙一重で躱し相川が反撃しようとするも、大犬座はそのままの勢いで駆け抜け距離を取ってから反転して突っ込んでくる。
「野蛮な狂犬か。それだけに質が悪い……!」
「仕方ありません……出し惜しみ無しでペルセウス座も使いましょうか」
 盾の騎士たる雪切・透夜(ib0135)は、苛烈な攻撃を仕掛けてくる大犬座に対する防御の要。
 星の一欠片について思うことがあるらしい三笠も戦列に加わる。戦力になるならなんでも使っていきたい現状、出自の怪しいメダルも使わざるを得ない。
 雪切のカメレオン座=手にした盾が透明になる。本人にはきちんと形状も知覚できている。
 三笠のペルセウス座=手にした武器に石化の追加効果を与える。ただし完全に石化させるには7箇所攻撃する必要がある
「すまねェ、頼むぜ! そこのワンコ、俺はクリムに用があるからお前は向こうで兎でも追いかけてろ」
『ンだと人間風情が! まずはてめぇから喰い殺してやろうか!?』
「そうは―――」
「させん!」
『チッ!』
 鷲尾天斗(ia0371)の挑発に乗りかけたところで、雪切と相川の不意打ち。しかし獣の直感でなんとか回避、距離を取って思考を切り替える。どうやらオツムの方も決して悪くはないらしい。
 その隙に、鷲尾を先頭にして残りの四人が盾座と琴座に向かって走りだすのであった―――

●調べの中で
「お願い、助けて! 体が自由に動かないの!」
『おっと余計なことは言わないように。キミは我輩を奏でていればいいんだ』
 盾座と琴座の元まで辿り着いた開拓者たちは、女性が手にした琴に眼と口が付いていることを確認。やはりこれがアヤカシの本体であり、女性は取り憑かれている……というよりは体を勝手に動かされている感じか。
「あら、いいじゃありませんの。あれなら救えそうですわ」
「確かに。取り憑かれていた場合、その時点でその人の精神は死んでいることが多いですからね……」
 各務 英流(ib6372)と真亡・雫(ia0432)は、涙ながらに救出を訴える女性を見てとりあえず安堵する。
 琴座は自身が琴であるため、曲や弾き方などを全く知らない。だから琴を弾ける人物を見繕い体を操り、自らを弾かせるのだ。
 盾座は所在なさげにきょろきょろしている。大犬座と、それと戦う開拓者たちの援護に向かったほうがいいのだろうかと悩んでいるのだろう。
 つまり、少なくとも300m離れているとシールドビットは届かない。届いたら化物だが。
『ククッ。スクトゥム、精々我輩を守ってくれたまえ』
 言うが早いか琴座は自らを奏でさせる。
 響き渡る甘いメロディ。まずい、と思った時にはもう遅かった。
「ぐァ!?」
「がっ……!?」
 その場にいた開拓者四人が、相次いで耳に衝撃を受けハンマーで殴られたかのように吹き飛ぶ。
 盾座のシールドビットが動かない。盾座本人も驚き狼狽している様子。
『ククッ。音を盾でガードなどできるものか。ましてやこの『甘美なるワイン』という曲は耳元で炸裂するタイプの技なのだから』
「……左耳がキンキンするのです。なるほど、重力の爆音とはまた違った意味での盾座対策なのです」
「こ、これは闘いながら隔離どころの騒ぎではありませんわ……! 真亡さん、御休憩所に無理矢理引きずり込んでさくっとしけこんでしまうのですわ!」
「人聞きが悪すぎません!? でも、確かにここで盾座さんに邪魔をされるわけには……!」
「援護は任せろォ! シャァァァ!」
 ウィマラサースを発動した鷲尾が、空中を漂うシールドビットに次々と攻撃を加えていく。
 続けてレネネトが魂よ原初に還れを使用。どうやら衝撃波などが無いためこれにも盾座のシールドビットは反応しない様子だが、何故か琴座には通用していない!?
『おやおやいいのかね? この女はまだ生きているというのに』
 見ると、琴座に体を操られている女性にだけダメージが入っている。どうやら琴座のせいで彼女も敵として認識されているらしい。
「む……厄介なのです。ではコンパス座はどうなのです?」
 レネネトのコンパス座=本人を中心に半径10mの円を描く。その円の中では魔術が無効化される
『ククッ、愚かな。キミも吟遊詩人なら分かるだろう? 我輩たちが奏でるのは魔術ではなく『曲』だ。そんなもので封印などできはせんよ』
「でしょうね。でも隙は作ったのです」
『なに……?』
「抱きしめたいな! 盾座!」
 レネネトが使ったコンパス座は、オーラで円陣が描かれるので見た目が派手。琴座がそれに気を取られている隙に各務が盾座に突撃、言葉通り抱きしめつつ地面を転がる。
 盾座もガードしようか躊躇はあったようだが、攻撃ではなくハグなので結局受け入れることにしたらしい。そして二人が転がった先には、真亡が彫刻室座のメダルを手に待ち構えている……!
『何をする気かは知らんが、やらせはせんぞ!』
「そりゃこっちの台詞だァ!」
『ふん、キミの武器では女も殺してしまうがいいのかね?』
「俺のなら、なァ」
『!?』
 琴座の目前に迫っていた鷲尾の姿が一瞬消え、代わりに各務が同じ場所に現れる……!
 各務の烏座=視界内にいる対象と自分の場所を入れ替える。同じ対象は一日一回までしか選べない
 それとほぼ同時に真亡が彫刻室座を使用、オーラで壁や天井を作り20平方メートルほどの閉鎖空間を作り出す。
 つまり、真亡、鷲尾、盾座は完全に隔離された状態になったのである。
『これが……星の一欠片……!』
「オーッホッホッホ! これでお終いですわーッ!」
 巨嘴鳥座で装備した鎖付き嘴分銅で琴だけを砕く各務。流石の琴座も不意に本体を打たれてはどうしようもなかったか。
 各務とレネネトは、女性が無事であることを確認し一旦退避するのであった―――

●白い部屋と君と
「そんな……こんなところじゃ守れない! ねぇ、出して! 出してよ!」
 ドンドンと壁を叩く盾座だったが、攻撃能力に乏しい彼女では脱出は不可能。開拓者側も真亡が力を使い果たしへたり込んでしまってはいるが、鷲尾も一緒なので万が一のこともあるまい。
 オロオロする盾座を前に、真亡は弱々しく声をかけてみた。
「ねぇ……君は、何を想ってそこまで守ることに、拘ってるの……?」
「え……?」
「守ることは手段であって、目的ではない……と思います」
「え……え……?」
 その反応ですでに回答は出た。
 盾座にはすべてを守るという気持ちはあっても、その理由や信念といったものがない。
 本能で守るだけであって、どうして守るのか考えたこともないのだろう。
 そうあるのがあたりまえだから。そうあるべくして生まれたから。
 真亡の優しい視線にすら耐えかね、盾座は目を逸らし真っ白な壁を見つめる。
 そんな時、鷲尾は彼女の前に立ち真っ直ぐ目を見据えて言葉を紡いだ。
「お前、セブンアームズ達の無念から生まれたって言ってたなァ」
「そ、そうだけど……」
「でも、半分違うと思うぜェ。多分、その無念には俺達の分も混じってると思う」

 ……あれ?

 盾座は驚いたような顔をした後、鷲尾からも視線を逸らした。しかし鷲尾は無理に視線を戻させたりはせず、そのまま続ける。
「戦うしか無かった。護れなかった。相容れなかった。解り合えた。色んな想いが盾と言う属性に結び付いたと思う。それが俺たちとあいつらとの関係だったんだ……なァ、雫」
「……そうですね。彼らはアヤカシで、戦うべき相手で……でも、どこか絆のようなものも感じていました。星座アヤカシの中にもそういう相手、いましたけどね」

 ……あれ……?

「アヤカシはブッ潰す。それは変わらねェ。でもよォ、今はそれよりもヤらなきゃならねェ事が有る。俺の感情は抜きで、その為にはお前が必要だ。だから力を貸してくれ。勝手な言い草だけどよォ」
「そ、それでもボクはみんなを守るの! 盾の届く範囲を、全部、全部! アヤカシも人間も関係なく、みんなを守るの……! だからあなたたちの味方につくとか、そういうことはできない!」
 半ば泣き出しそうな声で慟哭する盾座。彼女自身、自分がどうしたらいいのかよくわからないのだろう。
 そんな盾座の姿を見上げていた真亡は、求めるように彼女に手を伸ばしながら聞いた。
「……あなたを動かしている想いは何でしょう。他のSA達と関係が?」
「……関……係……?」

 ……あれあれ……?

「そこに意志が無ければ、僕は守っているというより……その盾を置いているだけに観えます」

 ……あれ……!?

「ち、違……え……ボク……守って、ないの……? 置いてるだけ……? そんな……違う……違うよね……ボク……みんなを、守って……うぁ、守ってる……はずだよ……!?」
 アイデンティティを失ったかのように、ガタガタ震え足元が覚束なくなる盾座。もしかしたら今攻撃すればすぐにでも倒せてしまうのではないかというくらい隙だらけだ。
 しかし鷲尾も真亡もそんなことはしない。今はただ言葉を尽くすのみ。
「全てが終わったらカタを付ける。開拓者としてではなくセブンアームズに関わった者としてなァ」
「まずはやってみませんか? あなた自身が、どうして守るのか……その理由を見つけるためにも」
 差し出された手。静かな微笑み。それは、いつの日か……遠い何処かで見たような―――

●牙を打ち砕け
『ハッハァ! どうしたどうした、そんなもんかァ!?』
 大犬座と激闘を繰り広げている四人の開拓者。しかし戦況は芳しくない。
 その圧倒的なパワーと見た目によらないスピード、そしてテクニックは歴戦の開拓者四人をもってしても押され気味。能力が単純な分、黄道十二星座にも匹敵するかもしれない。
「盾の守りがなくなった今がチャンス! 全力全壊、この隙に叩き潰させて貰う!」
「やれやれ、子供は元気なもんだ。老けこむほど歳離れてないがな!」
「いえ、でも正しいですよ。説得の可否にかかわらず、盾座に戦線復帰されると非常に困ったことになります。ここで盾のプロが冷静に一言」
「敵の質量が圧倒的なので、こちらへの攻撃だけシールドビットごと押し切られる可能性があります」
 息巻く相川、疲弊気味の何、焦り気味の三笠、そして冷静な解説をする雪切。
 何か一発逆転できないかとメダルも試したが、いまいち戦況を覆せそうなものではない。パッと見の効果が不明な相川の龍座の他は、
 雪切の小熊座=盾の先端に、オーラの三本爪を付与。攻撃+200
 何のポンプ座=手の平から、対象物のみを引き寄せる風を発生させる。対象物以外は吸わない
 くらいのものである。
 残る希望は何のエリダヌス座くらいのものだが……?
『クソがっ! その見えねぇ盾、うざってぇ!』
「僕は倒れる訳にはいかない。盾座に確実に守れるものを示すためにも」
 雪切が前に出て時間を稼いでくれているが、人間の体力には限界がある。そう長くは保たないだろう。
「ペルセウス座での石化は後4箇所も攻撃しないと……これでは悠長すぎますね」
「毎度のことのような気もするが、ここは賭けてみるか」
 何は意を決してエリダヌス座のメダルを手にする。
 鬼が出るか蛇が出るか、星の一欠片はいつもスリルと隣合わせである。
 何のエリダヌス座=対象の人物が星の一欠片を持っている場合、発動する効果内容を知ることができる
「なんでやねん!」
 べしっ! とメダルを地面に叩きつける何。こうなれば極神点穴あるのみと構えたが、ふと思い直して相川に効果を使用してみた。
 パッと見で効果がわからなかった相川の龍座。その効果を、何のエリダヌス座なら知れるわけだ。
「……なるほど。しかしこりゃあ相川じゃなくて私向けの効果だったんじゃないか?」
 脳内に浮かんだその効果を、相川に耳打ちして伝える。相川は眉をひそめ、
「無茶を言うな。だいたい、信用できるのかその効果は」
「それは信用していいと思うがな。あとはお前の肝っ玉次第だろ」
「言ってくれる。では窮鼠猫を噛むならぬ子犬大犬を噛んでみせようか……!」
 そのやりとりを不安気に見ていた三笠だったが、何に耳打ちされ作戦を理解する。
「雪切さん、次の攻撃が来たら一旦退いてください!」
「……了解!」
 方針が決まったこともあるが、そろそろ限界だ。大犬座が一旦距離を取ったところで雪切も後退。すると好機と見たのか大犬座が全力で突撃してくる。
 前に踊りでたのは……相川!
 相川に飛びかかる大犬座。しかし何がポンプ座を発動、空中で引き寄せられ着地点がずれる。
 同時に相川が槍を捨て、右拳を握りこむのが見える……!
「天に登る龍の一撃! 昇ー竜ーけぇぇぇん!」
 相川の龍座=生命力5分の1以下の時、素手のジャンピングアッパーの時のみ攻撃+1500
 腹に強烈な一撃を受け、悶絶する間もなく意識を刈り取られ……大犬座はそのまま消滅したのであった―――