【獣骨髑髏】飛来
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/27 09:40



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「うーん‥‥うーん‥‥」
「どうしたの? お腹でも壊した?」
「私、ちょっとくらい古くなった物食べてもお腹壊した事ないです。えっへん!」
「古くなるほど食材が保たないくせに‥‥。でもそれだけ食べてて太らないのが納得行かないわ」
「全部プロポーションに回っちゃうので♪」
「‥‥亜理紗ちゃぁん? ギルドの裏までちょっとおいでなさい」
「うそですじょうだんですごめんなさいゆるしてください」
 アホなやりとりをしているのは、ギルド職員の先輩後輩である二人の女性。
 うんうん唸っていた方が後輩の十七夜 亜理紗。指をポキポキ鳴らして凄んだのが先輩の西沢 一葉である。
 様々な依頼を担当してきた十七夜 亜理紗は、一葉だけでなく他の職員からも認められてきている。記憶喪失ではあるが、すっかり職員の一員として定着したようだ。
「冗談はともかく、何唸ってたの?」
「この依頼書を見ててですね、なーんか引っかかるなぁーって。一葉さん、何か覚えあります?」
「どれどれ‥‥?」
 亜理紗が差し出した紙を目だけで読み進めた一葉もまた、眉間にしわを寄せてしまう。
 その内容とは‥‥

 先日小規模な地滑りが起き、村の裏山に古くからあった社が滑り落ちてしまった。
 幸い社自体の損壊具合は大したことが無かったので、村人総出で引っ張り上げ再び祀ろうと考えた。
 しかしいざ作業を始めようと集まった時、事件は起こった。ふと空を見上げた村人の一人が、空に浮かぶ巨大な骸骨のようなアヤカシと目が合ってしまったのである。
 戦々恐々となる村人たち。しかしそのアヤカシはこちらを襲うでもなく、上空でゆらゆらと浮遊しているだけだったという。
 先祖代々大事にしてきた社は回収したい。しかし、正体不明のアヤカシがいきなり襲いかかってこないとも限らない。結局村の中では結論が出ず、開拓者ギルドに依頼をしようということに落ち着いたという。

「‥‥ヤバいんじゃないの、これ」
「そうなんですよ。それに、こんな話を前に聞いたことがあるような気がして‥‥」
「そうじゃなくて、これ獣骨髑髏でしょ!? あれってそんな低空を飛ぶこともあるの‥‥!?
「あ‥‥!」
 獣骨髑髏。それは天儀の遥か上空を漂い、時折自由落下して人を喰らうこともあるという特異なアヤカシ。
 かつて二度ほど討伐依頼が出されたが、案外知恵が回るらしく雲海に身を隠し逃れてきた。
 獣骨髑髏は朋友の龍たちの限界高度ギリギリを飛んでいるので、素人が地上から視認できるほどの低空で発見されたのは前代未聞である。
 そして獣骨髑髏には、最近になって判明したもうひとつの情報がある。
「これも、謎の陰陽師の作品‥‥なんですよね?」
「そうね。回収された資料はまだ解読中だけど、『アヤカシ兵器』『試作品』『暴走』『破棄』なんて言葉が書いてあったみたい」
「どれもヤクイ単語ばっかりじゃないですか!?」
 かつて、大空で取り逃がした巨大な骨のアヤカシ。
 その存在が、謎の陰陽師の存在と共に再び姿を現した―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
シュヴァリエ(ia9958
30歳・男・騎
龍馬・ロスチャイルド(ib0039
28歳・男・騎
メイユ(ib0232
26歳・女・魔
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
桂杏(ib4111
21歳・女・シ
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰


■リプレイ本文

●沈黙
 石鏡北部にある、何の変哲もない村。目立った特産物があるわけでもなく、観光名所があるわけでもないこの村の裏山に、招かざる客が今日も居座っていた。
 いや、居座るという表現には語弊があるか。それは、空中を不気味に漂っているのだから。
「あれが獣骨髑髏‥‥。報告より大きく見えるのは気のせいでしょうか?」
「いえ、気のせいではないと思います。上半身だけでも5mはありますよ、あれは‥‥」
「確か自由落下して人を喰らうんだったか? 大きくなっていくアヤカシなど聞いたことが無いがな‥‥」
 獣骨髑髏の注意をそらす陽動班として行動する三名、志藤 久遠(ia0597)桂杏(ib4111)蓮 蒼馬(ib5707)。それぞれ朋友である篝、三春、レーヴァティンを駆り空をゆく。
 相手は地上戦とはほぼ無縁の相手。朋友の助けなくして今回の依頼は成立しないだろう。
 志藤が聞いた話では、小さく見積もって3m。恐らく4mちょっと位の全長だということだったが、いざ目の当たりにするとずいぶん大きく見える。
 それが相手のプレッシャーや秘められた実力によるものなのかは不明だが。
「あれが獣骨髑髏か。ふむ、何とも禍々しい外見だな。あいつが目視できる低空を飛んでるのは、そんなに珍しい事なのか?」
「報告書を読んだ限りでは、いつもは朋友の限界飛行高度ギリギリを飛んでるらしいですからねぇ」
「そのいつもの行動を止めてまで降りてくるだけの理由がある‥‥そう考えるのが妥当でしょうか」
 攻撃班所属、シュヴァリエ(ia9958)、井伊 貴政(ia0213)、朽葉・生(ib2229)。この三名もそれぞれドミニオン、帝釈、ボレアという朋友に騎乗中。
 空中から滑落した社があると思わしき方向をじっと見つめ、動かない獣骨髑髏。こちらからも視認できる範囲にまで接近しているのに、動きはない。
「どうも腑に落ちません。話を丸呑みにするならば、獣骨髑髏が造られたのは十年ちょっと前のはず。それが何故古くからあるというこの社に執着するのか‥‥」
「別に別に精霊力が強いとか、瘴気が漂っているということもないんですよね?」
 社を守るために地上を移動し、現場に到着したメイユ(ib0232)と龍馬・ロスチャイルド(ib0039)。
 一応念のため朋友の炎龍(未命名)と紅龍を連れては居るが、山の斜面なので足場が悪く、朋友に乗るには木が多く邪魔なのが問題である。
 社は情報通りほとんど壊れていないが、三分の一ほどが地滑りの土に埋まっているので引っこ抜くのも手間取りそうな気配がする。
 獣骨髑髏と社の関連性が見いだせないのは何とも歯がゆい。一応伝承なども調べてみたが、十一年前に何かあったという話もなかった。
 メイユはストーンウォールを四枚ほど用意し、社をピラミッドのような形に囲んで保護した。
 これなら一瞬で掻っ攫うという真似もできないだろうし、破壊が目的だとしてもある程度耐えられる。もっとも、それが目的ならとうの昔にやっているとは思うが。
「陽動班が動きますね。さぁて、対象が社だとしても‥‥護りきりますよ!」
 龍馬が見上げた上空では、三体の龍が獣骨髑髏に接近しているところだった。
 その距離が縮まり、獣骨髑髏の目に紅い光が灯ることで、戦闘は開始された―――

●空に吠える
 獣骨髑髏は、討ち損じたとはいえ先の討伐依頼で左腕を失っている。
 つまり、こちらから見て右方向からの攻撃には対処が遅れるはず。そう考えた開拓者一行は、班を三つに分け行動しているのだ。
 まずは桂杏と蓮が接近し、志藤は念のため社とヤツとの間に移動。
 それに対し、獣骨髑髏は真紅の光で蓮を追い、向きすら変えずに横滑りで移動する!
「これが例の法則無視移動か! どうやって飛んでいるんだかな‥‥!」
 レーヴァティンに指示を出し、距離を取ろうとする蓮。しかし彼の朋友はこれが初陣であり、戦闘経験がなさすぎる。
 蓮の指示への反応が鈍い。そうやって少しでももたつくと、目の前に獣骨髑髏の姿が‥‥!
「ちっ、でかい割に素早い!」
 目を狙って弓を放つ蓮。それは確かに当たったが、目玉があるわけではないので特別な弱点とは成り得ない。
 しかし下から志藤が桔梗で援護、顎部分に攻撃を貰った獣骨髑髏は流石に蓮を追うのは止めた。
「やはり、三春のような駿龍でないと振り切るのは難しいですか‥‥」
 左腕側から水流刃を放つ桂杏。獣骨髑髏は全く反応できなかったが、ダメージはあまりない。
 しかし注意をひくことには成功し、今度は狙いを桂杏に変更してきたようだ。
 三春もこれが初陣なので戦闘経験が心もとないが、速度で勝るなら多少の無理は効く。背後へ背後へと回りこむ桂杏と三春だったが‥‥!
「っ!?」
 突然の衝撃を受け、三春が大きくぐらつく。
 獣骨髑髏はその場でバク転をするように回転し、背後にいた三春に無刃と呼ばれる衝撃波を吐き出したのだ。
 これは知覚攻撃なのでまだマシな方。もし剛腕で物理攻撃を受けたなら、一撃で戦闘不能も十分あった。
 それでもダメージは大きい。傷で速度が落ちれば危険度は大きく増す。
「‥‥篝、落ち着きなさい、今日の私達の役目は攻撃ではありません!」
 大きな敵と戦いたいのか、はたまた仲間がやられて怒っているのか。志藤が駆る篝は今にも突っ込んでいきそうに猛るが、志藤は強く手綱を引いてそれを制する。
 まだ撃墜されたわけではない。今後のためにも迂闊な手助けはしないほうがいい。
「こいつ、戦い慣れている。想像以上に厄介だ‥‥!」
「やっぱり全員でかからないと無理ですかねー」
「傷が深いようでしたら回復いたします。余裕があれば、ですが」
 蓮が呟いていると、距離を保っていた井伊や朽葉が戦闘に加わるために接近していた。
 できればヤツの注意が完全にそれてから参戦したかったが、そんなことも言っていられない。
 結局やることは変わらないのだからと、帝釈とボレアを羽ばたかせた。
「疼いてきたな。お前もか、ドミノ?」
「ドミノ、ね。バタバタと倒されなきゃいいが」
「ふっ、逆だ。バタバタと倒してやるのさ」
 シュヴァリエは不敵な笑みを浮かべると、フェイスガードを下ろして朋友を前進させた。
 蓮は一瞬肩をすくめると、同じようにレーヴァティンを飛翔させる。
 にわかに敵が増え、流石の獣骨髑髏も警戒を強めているようだ。獣がするように辺りを見まわし、敵の動向を探る。
 一方、開拓者たちのやることはさして変わらない。陽動班が左側に注意を逸らし、攻撃班が右側から攻撃。
 再び桂杏と三春を追う獣骨髑髏。そこを、朽葉がアークブラストで撃ち抜く!
 物理防御はたいした物らしいが、術への防御はそこまででもない。大きなリアクションを取った獣骨髑髏は、危険と判断したのか朽葉へと狙いを変更し突っ込む!
「おおっと、甘いですね!」
 井伊と帝釈が横から体当りし、軌道を逸らす。
「こいつはオマケだ。とっておけ!」
 そしてシュヴァリエとドミニオンがオーラショットと火炎で追撃をかける。
 並のアヤカシならもうヘロヘロなのかも知れないが、生憎獣骨髑髏はそうではない。
 二度にわたり歴戦の開拓者から逃げ切ったのは伊達ではないのだ。シュヴァリエたちの攻撃を受けながらもすぐさま反転し、井伊と帝釈に牙を剥く!
「ぐっ!?」
 龍は後や横移動では速度が出ない。井伊は刀で上の牙を受け止めたが、帝釈はそうも行かなかった。
 下顎の牙が帝釈の身体に喰い込み、そこから急速に血を抜かれていく‥‥!
「いけない! 桂杏様、シュヴァリエ様、援護を!」
「遠距離攻撃は止めろ! アイツのことだ、貴政たちを盾に使いかねん! 俺と蒼馬で行く!」
「俺も弓なんだがな」
 ぼやきつつ蓮もシュヴァリエに続く。
 下方面から弓を連射するが、井伊たちを離す気配はない。吸血攻撃に回復機能はないはずだが。
 その間にシュヴァリエとドミニオンは上昇、ハルベルトを構え一気に降下する!
「終わりだ、髑髏野郎」
 高速飛行で速度をつけた、すれ違い様の流し斬り。
 太いとはいえ、シュヴァリエのパワーを以てすれば首の骨程度を両断できないはずがない。
 誰もがそう思っていた、次の瞬間。
 獣骨髑髏は自らの右手で自らの頭を掴むと、井伊たちに噛み付いたままのそれを分離させて放り投げた!
「何っ!?」
 首を狙っていたシュヴァリエの一撃は虚しく空を切った。しかし獣骨髑髏の頭は未だ力を失わず、井伊にも噛み付こうと顎を閉めにかかっている!
「そ、そんな‥‥分離、できるとでも‥‥!」
 刀で必死に堪える井伊。一方、帝釈は徐々に力を失い羽ばたきも鈍くなっている。
 真紅の光を灯したままの頭は、自律浮遊して悠々と首に合体し元に戻った‥‥!
「そんな馬鹿な‥‥! 左腕を落とされたときはこんなことはなかったと聞いています!」
「信じたくはないですが、自ら分離する分には支障がないのでしょう。以前のは斬り落とされたから再合体できなかったというだけで‥‥!」
 桂杏と志藤は苦虫を噛み潰したような表情で呻く。
 そもそも以前斬り落とされた獣骨髑髏の左腕は見つかっていない。確保したと思った開拓者曰く、ふっと消えてしまったとのことである。
 それが瘴気となって消滅したのか、はたまた別の要因であるのかは確定していなかった。
「帝釈! 帝釈っ!」
 血の気が引き、ぐったりとなった帝釈。獣骨髑髏は吐き捨てるように井伊と帝釈を空中に放り出し、発声器官もないのに吠えるような仕草をした。
「ば、化物め‥‥!」
 シュヴァリエが呟く間にも墜落していく井伊たち。
 しかし地上から二匹の龍が飛び立ち、山肌への激突前になんとか受け止めることに成功する。
「た、助かりました‥‥」
「いつでも飛び立てるようにしておいて正解でしたね」
「守護騎士の面目躍如といった所です。朽葉さん、回復して差し上げてください!」
 メイユと龍馬の機転のおかげで井伊たちは助かった。そして朽葉とボレアが要請に応え、すぐに空中から降りてくる。
 流石に抜かれた血までは回復しないだろうが、傷だけでも治しておけば違うはずだ。
 その間にも、空中では無刃を吐き出したり腕を振り上げる獣骨髑髏の姿。
「‥‥どうやら、私のお仕事は攻撃だけでは済みそうにありませんね」
 朋友の防御力や回避能力は、開拓者のそれと比べるとどうしても見劣りする。
 しかし大空を自由に飛び回るには朋友の助けは必須。悩ましいところである。
 その時、上空にはある変化が起こっていた。
「何だ? 奴め、今更下を気にしているな」
 蓮の言うとおり、獣骨髑髏はちらちらと社の方に視線をやることが多くなってきた。
 最初は井伊たちに追撃をかけたいのかと思われたが、どうもそうではないらしい。それでも明確な隙を見せない辺りがもどかしいわけだが。
 こちらも明確な突破口を見いだせないでいた、その時である。
 獣骨髑髏は突如自由落下し、地面へと向かう!
「し、しまった! 追ってください、篝!」
 意図にいち早く気づいた志藤は、すぐさま朋友に指示を出し降下する。
 獣骨髑髏は地面激突前に右腕を突き出し着地、そのまま木々に身体をぶつけなぎ倒しながら社へ!
「そうはさせません」
「紅龍、何としても止めてください!」
 メイユが放ったブリザーストームにも止まること無く突っ込む獣骨髑髏。
 仕方なく龍馬は紅龍を駆り、その防御力を頼りにぶつけさせる!
 正面から激突した両者だが、ヤツのほうがパワーがある。徐々に押され、ストーンウォールに覆われた社に近づいてしまう‥‥!
 追いついた志藤と篝が桔梗や火炎で攻撃するも、ダメージを受けているにも関わらずひたすら前へ前へと突き進む獣骨髑髏。先程のブリザーストームもそうだが、ダメージを受けてまで前進したいということか。
 もはやそこに何かがあるのは明白なのだが、事前に中を調べた時も古びた御神体の像があるだけだったはず。
 これも特別な代物ではなく、ただの木彫りの像のように見えたが‥‥?
 そして‥‥!
「こ、のぉっ!」
 シールドノックで盾をヤツの鼻先に叩きつけた龍馬。思わず力の方向先がずれ、獣骨髑髏は木に激突した。
 しかし次の瞬間、右腕だけが分離し社へと向かった!
 流石に間に合わないが、ストーンウォールに囲まれている以上は。そう思ってしまうことに罪はないとはいえ、ヤツは必ずその少し斜め上をいく!
 獣骨髑髏の右腕がストーンウォールの壁に触れるよりも先に、突然社の中から紫色の瘴気が大量に吹き出した。
 それはストーンウォールの隙間をすり抜け、獣骨髑髏を丸ごと包みこみ‥‥!
「妙な真似はさせません!」
 間髪入れずに桔梗を放つ志藤。しかしそれは瘴気に飲み込まれてしまう!
 すると瘴気の塊の中から、白く長いものが突き出てきた。
 やがて瘴気は内部に向かって収束し、完全に獣骨髑髏に取り込まれた。そこには‥‥!
「そんな‥‥腰と、尻尾!?」
「まさかこいつ、瘴気を吸って身体のパーツを作った‥‥!?」
「いいえ。どちらかというと、パーツがここに封印されていたと見るのが妥当かと‥‥」
 獣骨髑髏は上半身だけの姿をしていた。しかし今は背骨から下、つまり腰と尻尾が存在している。
 分離する首や腕を考えるに、ヤツはいくつかのパーツの集合体と考えるのが妥当だろうか。
 歓喜に震えるかのように吠える仕草をする獣骨髑髏。すると、凄まじいスピードで上昇していく!
 それは自由落下にも劣らない速度であり、もうここには用はないと言わんばかりであった。
「なんて上昇速度‥‥流石に追いつけませんね」
「獣骨髑髏が高空を漂っているのは、分かたれた我が身を探すため‥‥? しかし、何故この社に‥‥」
 一切止まる気配がなかった以上、またはるか高空へ戻り次のパーツを探すつもりなのかも知れない。
 獣骨髑髏は逃がしてしまったが、メイユの事前策のおかげで社は傷つけられずに済んでいる。
 開拓者たちはそれぞれ深い息を吐き、社の引き上げ作業に移ったという―――

●空に有りて
「オーライ! オーライ! あ、もうちょっとゆっくり!」
 龍馬の誘導の下、朋友たちに引っ張り上げられた社が地面に降ろされていく。
 また地滑りに巻き込まれても困るので、今度は斜面から離れた開けた場所に設置された。
 一応中を開けて見てみると、像が置いてあった床がめくれ、二重底の様になっていたのが目に止まる。そこには白く濁った握り拳大の宝珠が転がっていたという。
 これが噴きだした瘴気の元だろうか。すでに空になってしまったのか、嫌な感じはしない。
「造られたアヤカシ兵器‥‥獣骨髑髏か。あのような化物を造れるとは、どんな輩だ」
「一言で言うなら最低野郎ですよ。人の命を研究材料にしか見ていないような、ね」
 シュヴァリエと井伊は空を見上げ、苦い顔をする。
 村からの依頼はあくまで社の保護。依頼としては成功だが、前途は多難そうだ。
 できればヤツが完全体になる前に決着をつけてしまいたいところである―――