双子座撃破作戦 乙
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/22 20:52



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――



 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 複数の星座アヤカシが同時出現することが多くなり、メダルの数も50を越えた。そろそろ3分の2になりそうである。
 そんな折、判明した事実。現在、星座アヤカシたちを統括しているのは黄道十二星座の中でも最強の実力を持つとされる星座らしい。また、星座アヤカシが使い捨てのようにされても問題がないメカニズムも判明した。
 最強の十二星座ですら望む最強の星座の復活。そして星座アヤカシが平坂空羅を引き込みたい理由。
 新たな謎が浮上する中、物語はまた一歩進む―――
「今回は緊急依頼よ。黄道十二星座の一つ、双子座が現れて石鏡軍と交戦中。開拓者は大至急この応援に向かってもらいたいの」
「双子座は二体で一つの星座みたいで、外見は双子の美少女って感じです。青いドレスで青い冠を頭に乗っけている方を『甲』とし、赤いドレスで赤い冠を乗っけてる方を『乙』と呼称。こちらの依頼では『乙』の撃破を担当していただきます」
 ある日の開拓者ギルド。
 石鏡から緊急の協力要請を受けた開拓者ギルドは、職員の西沢 一葉と鷲尾 亜理紗に指示、迅速に依頼書を作成、募集にかかった。
 問題は『双子座が一定距離近くにいると倒しても即復活してしまう』という点。大規模な部隊を編成し双子座の討伐にあたった石鏡軍だったが、やっとの思いで倒した双子座が全快状態で復活してしまったことで士気が低下してしまったのだ。
 これは同時に倒しても同じ。二体が近くにいたなら同時撃破でも復活してしまうのはすでに立証済みであり、引き離して戦う他はないのだ。
「とは言ってもそこは黄道十二星座、一体一体でも一般兵では相手になりません。『乙』の特徴は火炎系の攻撃防御を得意としていること、頭に乗っている冠が南の冠座コロナ・アウストリウスであることですね。うーん……とにかく人出がほしいんですけど、どうなりますかねぇ……」
 ちなみに引き離して片方を撃破した後でも、もう片方の双子座が撃破ポイントに一定距離近づくと撃破された方は復活してしまう。できるだけ離れた距離で、同時刻に撃破することが望ましい。
 石鏡軍が何とか戦線を繋いでいるが、他の星座アヤカシが援軍に来る前に始末してしまいたい。
「作戦としましては、皆さんの到着後に石鏡軍が二体の間に割って入るような形で突撃、その後、瞬龍を駆る航空部隊が二体を別方向に連れ去ります。距離を取ったところで航空部隊は双子座を投げ捨てるようにして撤退して、皆さんと双子座との決戦という流れです。ちなみに二体は冠座と南の冠座の力で離れてても口に出さなくても会話ができます。それで何ができるのかは分かりませんが、御注意を」
 今回も星の一欠片は勿論持っていけるが、『甲』撃破組が持っていくメダルは使用できない。
 人間側も意思の疎通を測り、無事に双子座と冠座、南の冠座を撃破していただきたいものである―――


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ


■リプレイ本文

●紅き双子座
「痛っ! こらー! なんも投げ捨てることないやろー! 撃ち落とすでー!?」
 上空から地面に叩きつけられた少女は、赤いドレスを振り乱すようにして飛び去る瞬龍に対し雑言を繰り返す。
 平原に似合わぬ綺羅びやかな格好。見た目はお姫様チックだが、口を開くとどこの方言なのか訛りが酷い。
 しかし開拓者たちのことはすでに察知している。瞬龍の姿が見えなくなると、ふんと鼻を鳴らして開拓者たちに向き直り言葉を紡いだ。
「はん、小賢しい手やな。……せやな、カストルの言うとおりや。すぐにギッタンギッタンにして負の感情いただくで! ……わかってるわ! ったく、カストルは心配性やなぁ」
「これが噂の南の冠座の力……。確かに近くにいて連携されたら厄介だったでしょうね」
「関係ありませんわ。甲より早く倒し、私の方が優秀であるとお姉様に証明して寝取ってやるのですわーッ!」
「相変わらずですね……。でもまぁ、士気が高いのは良いことでしょう。……多分」
「空回りしないといいけど、ね……」
 冷静に相手を見極めようとする三笠 三四郎(ia0163)に対し、とにかくぶちのめそう理論の各務 英流(ib6372)。
 流石にもう慣れたのか、相川・勝一(ia0675)も真亡・雫(ia0432)も苦笑いしつつ構えを取る。
 相手は強い。戦わなくても分かるほどに。ならば先手必勝も悪くはない!
「やる事は一つ! フクロ叩きにしてメダルに還す! 決闘開始を宣言しろ磯野!」
「誰が磯野ですか。甲組も気付いてくれるといいんですが……いざ、決闘開始ィーーーッ!」
 各務と同じく殺る気満々の叢雲・暁(ia5363)に焚き付けられ、三笠が空に向かって狼煙銃を打ち上げる。
 遠くからでもよく見える白の狼煙は交戦開始の合図。後はお互い、撃破に尽力するのみ―――

●紅蓮舞
 乙組はまさに歴戦の勇士の集まり。実力も経験も備えた面子である。
 しかしその面子が全く歯が立たないのはどういうことなのか。
 ……答えは単純。双子座乙がそれだけ強いのだ。ひらひらしていると思われたドレスはその実かなりの硬度を誇り、動きにくそうな格好でありながら真亡の斬撃を躱し、相川の南の冠座狙いの投擲を弾き、叢雲、各務の不意打ちを打ち払い、狙いすました三笠の三叉戟を片手で受け止めた。
 そうでなくとも攻撃を繰り出すたびに火炎の追加効果があるので厄介極まりない。
「うーん、こんなもんなんかぁ。カストル、余裕あるから援護するわ」
 双子座乙は空いた左手を明後日の方向にかざすと、巨大な火球を撃ち放った。
 開拓者たちを狙ったわけではない……まさか、言葉通り双子座甲への援護射撃……!?
「届くわけがありませんよ!」
「普通ならなぁ。でも南の冠座と冠座の能力を使えば、相手のところまで届かせるのは簡単や!」
 真亡が斬りかかっていたのを華麗なステップで回避し、手甲で顔面を強打。真亡は額から血を流すが、心は全く折れていない。
「……黄道十二星座にしても強すぎます。恐らく南の冠座が身体能力を強化しているのでしょう」
「ぴんぽーん。……ふふーん、おおきに。だからカストル好きや〜」
『!?』
 にやりと笑った双子座乙。その直後、巨大な冷気の塊が開拓者たちを襲う。
 双子座甲からの援護射撃。ただでさえ手強い相手なのに、この場にいない敵からの援護射撃など洒落にならない!
「おのれ双子座! 貴方がボスの座を虎視眈々と狙っている事、この私はまるっとお見通しですわ!」
「そないなことするかい。ウチらはこうやって綺麗な服着て楽しくやれてればえぇねん」
 各務の挑発にもさらっと答える。その瞳に嘘は見られない。
 開拓者たちの不利は火を見るより明らか。とはいえここで諦める開拓者たちではない……!
「意味ある効果が出てくれるといいのだが……頼むぞ、顕微鏡!」
 できればもっと早期に発動したかったようだが、相川はここでようやく顕微鏡座のメダルを発動することができた。
 相川の顕微鏡座=対象の攻撃・防御・回避・抵抗を数値化して見ることができる。
「攻撃700、防御650、回避500、抵抗400!? ……って、自分たちと比べてどうなのかよくわからないが……」
「勝一くん、僕に使ってみて!」
「む……攻撃500、防御300、回避300、抵抗350だな」
「抵抗以外大きく上回られてる……ちょっとショックかな……!」
 数値化して何か意味があるのかと聞かれると困るが、大まかにでも相手の実力を知れるのはありがたい。
 真亡は少し困ったような表情をしたものの、すぐに気持ちを切り替えてエリダヌス座を発動。水の刃を放つが、双子座乙は手甲でガッチリとガードする。
「出番だ処女厨! お前好みの獲物だ! 多分!」
 手段を選んでいられない開拓者たち。叢雲は双子座乙に急接近し一角獣座のメダルを起動。
 叢雲の一角獣座=手に自動回転するオーラのドリルを付与する
 悪くない効果だが、双子座乙なら割と簡単にどうにかしてしまうだろう。開拓者たちはそう考えたが、何かに気を取られたのか避け損ねて右脇腹を軽く抉った。
「……カストル!? どしたんカストル!? 大丈夫なんか!? ……そうか、ならえぇけど……」
 どうやら甲組の方で動きがあったらしい。双子座乙が動揺するということは、あちらは押しているのか……?
「くぅぅ、遅れを取るわけには行きませんわ! 鷲座、力をお貸しなさい! って、なんとなく気の進まない星座名であることに今気づきましたわ……」
「いや、星座に罪はありませんし……気にしすぎですよ。僕も白鳥座で続きます!」
 大熊座のメダルで巨大な爪手甲を装備して戦っていた各務だったが、埒を明けるために未使用の鷲座に切り替える。
 真亡もそれに続き、白鳥座のメダルを発動させた。
 各務の鷲座=足に旋風を纏い、次の蹴り攻撃の際に攻撃力+300
 真亡の白鳥座=氷結リングを発生、相手の両腕を胴に拘束する。気温では溶けない
「また小細工をっ! ……って、ちょおちょお、カストル! そんなん喋ったらあかんやん! ……えぇー……せやかて……」
「余裕をかましている暇がありますこと!?」
「あだっ!?」
 各務の旋風脚が両手を封じられた双子座乙にヒット、初めて地面を舐めさせることに成功する。
 しかし双子座乙は足腰のバネだけで飛び起き、全身から赤いオーラと炎を吹き出した!
「なんや胸騒ぎがする……カストルが心配なんで本気でやらせてもらうで。インフェルノプリズン!」
 周囲の空間が赤熱し、気温が急上昇する。同時に氷結リングを力で引き千切り双子座乙は構えをとった。
 立っているだけでも肌を焼かれるような空間。流れる汗さえ地面に落ちること無く蒸発する。こんなところに何分もいたら間違いなくミイラにされてしまう……!
「俺は正面から行かせて貰うか。なるべく惹きつけて他の方面から狙う皆をサポート出来るといいがっ」
 相川を筆頭に、開拓者たちは最後の反撃のため構えを取る。この攻防に敗北すれば反撃の芽ごと焼きつくされるのは誰の目にも明らか。ならばこの交差に全てを賭ける!
「ふん、その闘志は認めたる。……カストル? どないしたん!?」
「隙あり! 君の弱点は……」
「いちいち相方に気を取られることですわーーーッ!」
 エリダヌス座で水の刃を放つ真亡と旋風脚で蹴りつける各務。
 しかし双子座乙はきっちり対応しガード。続けて叢雲が走りこみ……
「僕のターン! 手札から祭壇座のメダル発動! ターゲットはポニテのお前だ!」
「っ! …………え、何なん?」
 咄嗟にガードの姿勢をとった双子座乙だったが、体に特に影響がないことで拍子抜けする。
 言葉とは恐ろしいもので、拍子抜けすることで本当にリズムを狂わされたのだろう。相川の接近に気づくのに一瞬遅れた。
「魚座……何か雫が使った時はアレな効果だったが、今回はきっとちゃんとした効果が出ると期待する!」
 しかし、『あの』魚座である。
 相川の魚座=美少女化し、対象を球体状の水の中に閉じ込める
「結局美少女化かー! は、恥ずかしい……!」
「ごぼっ……! こんな水くらい……ウチの火で……火で……!?」
「祭壇座のメダルの効果! 対象とした相手を20秒間スキル使用不能状態にする。ただし同じ対象は5分経たないと再選択できない!」
 自分が火を出せなくなっていることに動揺する双子座乙に、叢雲がドヤ顔で説明する。
 しかし20秒。それならもうすぐ効果は切れ、5分は同じことをされなくなる!
「それはどうかな」
 水の玉の中に閉じ止められた双子座乙の前に、いつの間にか三笠が立っていた。その手に輝くのは水瓶座のメダル!
「凍りつきなさい!」
 三笠の水瓶座=手を触れた水を瞬時に凍結させる。範囲は10平方メートル。ただし自分で水を出せるわけではない。
 瞬間冷凍された水の……いや、氷の球体。周囲の灼熱も解除され、辺りは通常の気温に戻っていく。
「ふぅ……ようやく涼しくなりそうですわね。最後はまさに『やったか!?』という感じでしたけれども」
「あ!」←真亡
「え!」←三笠
「げ!」←叢雲
「う!」←相川
 戦場で言ってはいけない台詞ランキングがあったとしたら、まず間違いなく上位に食い込むであろう台詞。
 冥土の土産に教えてやろう、女の名前を呼ぶ、そして『やったか!?』。各務は何の気なしに言ったのだろうが、その言葉の呪縛は深く、重い。
「チェリオーーー!」
「チェスト、ですね」
 各務自身もまずったと思ったのだろう。早駆け+鷲座のメダルによる旋風脚で氷の玉を砕き、中身の双子座乙もろとも八つ裂きにする。三笠の冷静なツッコミも今は聞いていられなかった。
 恐る恐る見下ろすと、そこにはバラバラに砕けた双子座乙の身体が瘴気に還っている光景が。
「ふぅ……脅かしっこなしですわ」
「か、各務さん……後ろ……」
 真亡の青ざめた表情だけで振り返らずとも分かる。バラバラになったはずの双子座乙の身体が動き出し、各務の首に手を伸ばしていた。
 詐欺だ、等と言うなかれ。瘴気に還っているところ(動かないとは言ってない)。
「カストルが……生き返らせな……行かな……!」
「こ、こいつ! 長斧でぶっ叩いても全然堪えませんわ……!」
 先ほどの灼熱世界とは打って変わり、開拓者は背中に氷柱を差し込まれたような薄ら寒い感覚に陥っていた。
 継ぎ接ぎだらけの死体のようになってもなお双子座甲のところへ向かおうとする双子座乙。斬っても叩いても全く動じず、各務の体を首のところで持ち上げながら足を止めない。
「往生際が悪いぞ!」
「浄化してみせます!」
 相川と真亡が双子座乙の両腕を切断し各務を救出しようとするが、斬られたはずの腕は各務の首を締めたまますぐに元の場所に戻ってしまう。
 こんな超回復があるわけがない。相方への想いが瘴気を繋ぎ止めているとでも言うのか……!?
 ついには自らの身体から吹き出す炎が自分に引火し、可愛らしかったサイドポニーの髪を焼き、全身が火達磨になってもなお歩みを止めない。
 速度は極めてゆっくりだが、このまま進めば甲組が戦場を変えていない限りいつか辿り着く。そうなれば向こうの苦労も、こちらの苦労も勿論水の泡である。
「魚座だ!」
「水瓶座で続きます!」
 先ほどもやった水の球体に閉じ込めてからの凍結コンボ。しかし今度は数秒も待たず内部が赤熱化し氷を中から砕いてしまう。
 斬っても叩いても即再生、炎を上げながら平原を進むリビングデッド。どういう体の構造をしているのか……!
「カストル……ウチノ……ハンシン……カタワレ……タス……ケル……」
「こうなったら……君の紅蓮の炎と僕の浄化の蒼白き炎、どちらが上回るか……勝負!」
「ふっ……雫、及ばずながら俺も手を貸そう」
「……勝一くん。僕が言うのも難なんだけど、可愛い女の子になってると締まらないね」
「ほっとけ! あぁもう、時間経過で元に戻るタイプか……早く効果切れてくれ……!」
 生暖かい目で見られ相川は悶絶する。しかし次の瞬間には二人共決死の形相になり双子座乙に突撃する。
 真正面から白蓮華抄で大上段に斬りかかる真亡。そして相川は槍を投擲し、南の冠座もろとも双子座乙の頭部を砕いた。
 どちらが止めになったのかは分からないが、双子座乙はついに浄化され双子座と南の冠座のメダルを落とし消滅したのだった。
「ふぅ……最後の最後まで手強い相手でしたわね。最後はまさに―――」
「あの言葉は禁止! ここら復活はないと思うけど、気分的に嫌!」
 叢雲の上げた制止の声に全員が賛同し……開拓者たちは、受けた火傷をどう治すか頭を悩ませる事になったのだった―――





 やったか!? ←やってた。